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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ17877意匠権侵害禁止請求事件 判例 意匠
平成11ワ58意匠権侵害行為差止等請求事件 判例 意匠
平成12ワ17875商標権等移転登録請求事件 判例 意匠
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平成10ワ11674意匠権及び実用新案権侵害差止等請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  先願 /  類似する意匠 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  抵触 /  実用新案権 /  損害額 / 
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事件 平成 7年 (ワ) 2692号 不正競争差止等請求事件
原告 株式会社コジット 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 中嶋邦明右訴訟復代理人弁護士 井上楸子右補佐人弁理士 【B】
被告 株式会社ファイン 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 亀田悦廣
被告補助参加人 株式会社永光 右代表者代表取締役 【D】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/07/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙第二物件目録記載の結露水掻き取り具を販売してはならない。
二 被告は、その占有に係る前項記載の物件を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金三六〇万円及び内金三〇〇万円に対する平成八年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とし、補助参加により生じた費用は補助参加人の負担とする。
五 この判決は、一ないし三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文同旨。
事案の概要
一 基礎となる事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨より明らかに認められる。なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。) 1 当事者 原告及び被告は、いずれも日用雑貨品の販売等を業とする会社である。
2 原告商品の販売 原告は、別紙第一物件目録記載の結露水掻き取り具(以下「原告商品」という。検甲1。)を、「結露すくいタメゴロウ」の商品名で販売した。
3 原告の意匠権 原告は、次の意匠権を有している(甲11、12。以下、これを「本件意匠権」といい、登録に係る意匠を「本件登録意匠」という。)。
意匠に係る物品 結露水掻き取り具 出願日 平成六年四月二八日(意願平六ー一二六七二号) 登録日 平成八年三月二六日 登録番号 第九五五八一七号 意匠の内容 別添意匠公報記載のとおり 4 被告商品の販売 被告は、平成六年一〇月ころから、別紙第二物件目録記載の結露水掻き取り具(以下「被告商品」という。検甲2。)を、補助参加人から仕入れて、「露取りゾウくん」の商品名で販売した(販売の終期については争いがある。)。
二 原告の請求 被告商品の形態は、原告商品の形態を模倣したものであるから、被告商品の販売は、不正競争防止法2条1項3号に定める不正競争行為に該当する。
また、被告商品の意匠は、本件登録意匠に類似するから、被告商品の販売は本件意匠権を侵害する。
よって、原告は、被告に対し、@意匠法37条1項に基づき被告商品の販売の差止め、A同条二項に基づき同商品の廃棄、B不正競争防止法4条に基づき平成六年一二月二日から平成八年三月二〇日までの被告商品の販売に係る損害賠償を請求する。
三 争点 1 不正競争防止法関係 (一) 原告は原告商品の形態保護を主張し得る地位を有するか。
(二) 原告商品の形態に要保護性があるか。
(三) 被告商品の形態は原告商品の形態を「模倣」したものか。
(四) 被告は被告商品を善意無重過失で譲り受けたものか(不正競争防止法11条1項5号の適用の有無) (五) 原告は不正競争防止法上の権利行使をすることが許されるか。
(六) 被告に故意又は過失があるか。
(七) 損害額
2 意匠権侵害関係 (一) 被告商品の意匠は本件登録意匠と類似するか。
(二) 本件意匠権の意匠登録に無効事由があるか。
(三) 原告が本件意匠権を行使することが許されるか。
(四) 被告が被告商品を販売するおそれがあるか。
争点に関する当事者の主張
一 争点1(一)(原告は原告商品の形態保護を主張し得る地位を有するか)について 【原告の主張】 原告は、平成五年末ころから原告商品の企画を開始し、デザイン会社にデザインを作成させた上で、原告の台湾支社であり台湾現地法人である空間創意企業股・有限公司を通じて、台湾の・・實業有限公司に発注して製造させたものである。
したがって、原告商品は、原告が企画し、その負担において商品化した原告の商品であるから、原告は原告商品の形態保護を主張し得る地位にある。
【被告の主張】 原告商品は、台湾の・・實業有限公司が金型代を負担して製造し、同社の商品として販売したものであり、原告も被告もそのような同一の金型に基づく商品を輸入して販売したにすぎない。したがって、原告は原告商品の形態保護を主張し得る地位にない。
二 争点1(二)(原告商品の形態に要保護性があるか)について 【被告の主張】 原告商品と実質的に同一の形態の商品は、平成四年ころには、訴外アズマ工業株式会社(以下「アズマ工業」という。)から販売されていた(乙3、検乙1、
丙1ないし3)。したがって、原告商品の形態には保護されるだけの独自性(要保護性)がない。
【原告の主張】 被告が指摘するアズマ工業の商品が仮に原告商品の販売開始前から販売されていたとしても、原告商品は、@漏斗部の三角形状、A漏斗部の上面壁の中央部に設けた三角形の吊り下げ部、Bタンク部の下端に設けた大径の球状部の点で先行商品の形態とは異なる。したがって、原告商品の形態には保護されるべき独自性がある。
三 争点1(三)(被告商品の形態は原告商品の形態を「模倣」したものか)について 【原告の主張】 原告商品の形態と被告商品の形態とでは、@コジットマークの有無、A円筒形のタンク部の下半部の外周面に形成された筋状の膨出部の本数、B漏斗部に付く成形過程での押し出しピンの跡、C漏斗部下端の円筒部に形成された隔壁の貫通孔の形状、D漏斗部の表面状態、において些細な相違があるだけで、両者の形態は実質的に同一である。
そして、そうである以上、被告商品は、原告商品の形態を模倣して作られたものである。
【被告の主張】 争点1(一)での主張のとおり、原告商品も被告商品も、台湾の・・實業有限公司が同一の金型で製造した同社の商品を輸入したものにすぎないから、被告商品は原告商品を模倣したものではない。
四 争点1(四)(被告は被告商品を善意無重過失で譲り受けたものか)について 【被告の主張】 被告は、平成六年七月二五日ころに補助参加人からサンプルの提示とともに被告商品の商談を受け、その取扱いを決定したが、その時点での説明では、同商品は台湾の・・實業有限公司が販売権を有する同社の商品であるというものであった。そして、同年一〇月ころから販売を開始した。
また、原告から同年一一月三〇日付けの警告書が発せられた際にも、補助参加人に問い合わせたところ、同人は、原告商品も被告商品も台湾において同一金型で製造されたこと、補助参加人が仕入れた被告商品の方が原告商品より先に製造されていたものであること、右金型自体は台湾の製造業者の所有物であり、同一商品であっても問題がないこと、被告商品は原告商品と並行して日本に売り込まれたものであることなどを説明を受けた。
したがって、被告は、被告商品を善意無重過失で譲り受けたものである。
【原告の主張】 被告の主張は争う。
仮に被告の主張のとおりであるとしても、被告は、平成六年一一月三〇日に原告が差し出した警告書(甲10)により、被告商品が原告商品の模倣商品であることについて認識した。
五 争点1(五)(原告は不正競争防止法上の権利行使をすることが許されるか)について 【被告の主張】 原告商品は、アズマ工業が有する実用新案権(第二五一一五六二号。丙6)を侵害するものであるから、そのような商品の形態に基づく保護を求めることはクリーンハンドの原則に反し、許されない。
【原告の主張】 原告商品がアズマ工業が有する実用新案権を侵害するものであるとの点は争う。また、後記争点2(四)についての原告の主張と同様、被告の主張は、主張自体失当である。
六 争点1(六)(被告に故意又は過失があるか。)について 【被告の主張】 争点1(四)についての被告の主張のとおり、被告には故意又は過失もない。
【原告の主張】 争点1(四)についての原告の主張のとおり。
七 争点1(七)(損害額)について 【原告の主張】 1 被告は、平成六年一二月二日から平成八年三月二五日までの間に一六万九一八〇本の被告商品を販売したところ、うち一万九〇八〇本は仕入時に善意無重過失であったとしても、少なくとも残り一五万〇一〇〇本を何らの適用除外事由なく販売し、平均売上単価は三五二・四円であるから、合計五二八九万五二四〇円の売上を得た。
2 被告が被告商品を販売するに当たって要した費用は、平均仕入原価が一本当たり二二〇円、経費が七三円(売上高経費率二〇・八%)である。
3 したがって、被告が被告商品を販売することによって得た利益の額は、八九一万五九四〇円(〔352.4-220-73〕×150,100)であり、これが原告の損害額と推定される。
4 本件での被告の不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用及び弁理士費用は、各三〇万円(計六〇万円)が相当である。
5 以上より、原告は、被告に対し、計九五一万五九四〇円の損害賠償請求権を有するところ、本件では、内金三六〇万円の請求をする。
【被告の主張】 1 原告主張の一本当たり売上額(三五二・四円)、仕入原価(二二〇円)及び経費額(七三円)は認める。
2 被告は、平成六年一〇月二九日から平成八年二月二九日までの間に三万三八四〇本の被告商品を販売したところ、うち八二八〇本は仕入時に善意であったから、残りの二万五五六〇本が基礎となる売上数である。
3 したがって、被告が被告商品の販売によって得た利益は、一五一万八二六四円(〔352.4-220-73〕×25,560)にとどまる。
八 争点2(一)(被告商品の意匠は本件登録意匠と類似するか)について 【原告の主張】 本件登録意匠と被告商品の意匠とは、タンク部の下半部の外周面に形成された筋状の膨出部の本数が異なるにすぎないから、両者は類似する。
【被告の主張】 争う。
九 争点2(二)(本件意匠権の意匠登録に無効事由があるか) 【被告の主張】 本件登録意匠は、出願前に販売されていたアズマ工業の商品の意匠(検乙1、乙3、丙1ないし3)や同社出願の実用新案公報記載の意匠(丙6)と類似し又は創作性を欠く無効事由を有する。
【原告の主張】 本件登録意匠とアズマ工業の商品の意匠とは、争点1(二)についての原告の主張のとおりの相違点があり、両者は類似しないし、本件登録意匠には創作性もある。
一〇 争点2(三)(原告が本件意匠権を行使することが許されるか) 【被告の主張】 本件登録意匠は、アズマ工業が有する実用新案権(第二五一一五六二号。丙6)に抵触するものであるから、そのような意匠権に基づく保護を求めることはクリーンハンドの原則に反し、許されない。
【原告の主張】 原告商品がアズマ工業が有する実用新案権を侵害するものであるとの点は争う。また、そもそも実用新案権と意匠権とは保護の対象を異にする別個の権利であり、実用新案権の技術的範囲に属する意匠権の実施品や、登録意匠に類似する実用新案権の実施品もあり得ることが前提とされている。意匠権が実用新案権抵触している場合でも、その限度で実施ができないというにとどまり、意匠権自体の権利行使には何ら影響を受けない。
一一 争点2(四)(被告が被告商品を販売するおそれがあるか)について 【被告の主張】 被告は、被告商品を平成八年三月二六日以降、販売していない。
【原告の主張】 被告が、仮に被告商品を平成八年三月二六日以降販売していないとしても、
本件での訴訟態度からして、在庫品を廃棄せず、将来的に販売するおそれがある。
争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(二)(原告商品の形態に要保護性があるか)について 1 甲13及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の最初の販売日は、平成六年八月三一日であると認められる。
他方、乙3、丙1ないし3によれば、平成四年一〇月には、アズマ工業から、同種の結露水掻き取り具(検乙1)が販売されていたことが認められる。
2 検乙1の存在を前提とすると、原告商品(検甲1)の形態の基本的部分は、原告商品が販売される以前から市場に存在したものであるといえるが、原告商品は、@漏斗部の大きな三角形状、A漏斗部の上面壁の中央部に設けた三角形の吊り下げ部、Bタンク部の下端に設けた大径の球状部、の点でアズマ工業商品の形態とは異なる独自性を有するから、原告商品の形態には要保護性があるというべきである。
二 争点1(三)(被告商品の形態は原告商品の形態を「模倣」したものか)について(一) 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、
客観的には、他人の商品と作り出された商品とを対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに酷似していることを要し、主観的には、
当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一であるといえる程に酷似したと客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要する。
また、ある商品の形態が、不正競争防止法2条1項3号によって保護を受けるのは、資金、労力を投下して創作・開発した成果である商品を他者に先駆けて市場に提供したことによるものと解されるから、ある商品の形態が、当該商品の販売開始時点において既に市場に存在した形態と独自的形態からなる場合には、二つの商品の形態が実質的に同一か否かを判断するに当たって、独自的要素の部分に重点を置いて判断すべきである。
しかるところ、原告商品と被告商品とは、@漏斗部下表面及び円筒形タンク部の首部のコジットマークの有無、A円筒形タンク部の下半部の外周面に形成された筋状の膨出部の本数、B漏斗部に付く成形過程での押し出しピンの跡、C円筒形タンク部の表面状態(透明度)において些細な相違があるだけで、基本的形態はもとより、先に争点1(二)において述べた原告商品の独自的形態部分も同一であるから、両者の形態は客観的に見て実質的に同一と認められる。
なお、「模倣」の主観的要件の有無については、他の争点と併せて次に検討する。
三 争点1(一)(原告は原告商品の形態保護を主張し得る地位を有するか)、争点1(三)(被告商品の形態は原告商品の形態を「模倣」したものか)(二)について 1 不正競争防止法2条1項3号が、他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争行為とする趣旨は、先行者の商品形態を模倣する後行者は、先行者が商品開発に要した時間、費用や労力を節約でき、しかも商品開発に伴うビジネスリスクを負うことも回避できる一方で、先行者の市場先行のメリットが著しく損なわれることにより、後行者と先行者との間に競業上著しい不公平が生じるが、このような行為は、他人が資金や労力を投下した成果を盗用するものとして競争上不正な行為であるという点に基づくと解される。
このような趣旨からすれば、同号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を、自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
2 そこで、原告が原告商品を自ら開発・商品化して市場に置いたといえるか否かについて検討する。
(一) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の開発経過に関して、次の事実が認められる。
(1) 原告は、平成六年二月ころ、S・Kデザインこと【E】に対し、原告商品のデザインを依頼し、同月一八日、デザインスケッチ三面、試作図面及びモデル作成料として合計二〇万六〇〇〇円を支払った(甲1、2)。
(2) 原告は、同年四月二八日、本件登録意匠について意匠登録出願をした。
(3) 原告は、同年五月六日、同社の台湾支社であり台湾現地法人である空間創意企業股・有限公司を通じて、台湾の・・實業有限公司に商品図面とモカサンプルを渡して原告商品三〇五〇個の製造を発注した(甲3ないし5)。
このうち空間創意企業股・有限公司と・・實業有限公司との契約(甲4)では、三〇五〇個のうち五〇個を同年六月一〇日まで、三〇〇〇個を同年六月三〇日までに納品することされ、「商品は図面指示通りに生産し、大きさ、形状
材質は勝手に変更してはいけない。」、「集水管の厚さは図面通り従うこと(2o)」等の細かな注意書がなされている。
(4) 発注に係る商品のうち、五〇個は同年七月一三日に、三〇〇〇個は同年八月五日に空間創意企業股・有限公司から原告に納品された(甲6、8)。
(二) また、後掲各証拠、証人【D】(補助参加人代表者)の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告が被告商品を取り扱うに至った経緯について、次の事実が認められる。
(1) 補助参加人は、従前から、台湾からの商品輸入業を営んでいたが、平成六年七月又は八月ころ、・・實業有限公司の代表者である【F】から、サンプル(検丁1)を示されて、被告商品の売り込みを受けた。その際の【F】の説明では、同商品は工場で金型を作って自社製品として販売しているので、それを販売しないかとのことであった。
なお検丁1は、原告商品とほぼ同一の形態であるが、@漏斗部分の色彩、A原告商品で二か所のコジットマークがある部分を削り取ったような跡があること、B漏斗部の上面壁の中央部に設けた吊り下げ部が大円状であることの三点が原告商品と異なる。
(2) 補助参加人は、被告商品を扱うこととし、補助参加人の代表者が全額出資している昶林貿易有限公司を通じて、【F】の兄が経営している・鉅企業有限公司から、約三回にわたり被告商品を輸入した(乙1)。
(3) そして補助参加人は、同年七月又は八月ころ、被告に被告商品の販売を売り込み、被告において同年一〇月ころから被告商品の販売を開始した。
(三) 右(一)の認定事実によれば、原告商品は原告が自ら開発・商品化して市場に置いたものと認められ、原告の形態保護を主張し得る地位にあるというべきである。
この点について被告は、原告商品は・・實業有限公司が開発した商品であり、原告も被告も同社から同商品を購入したにすぎず、金型も同社が所有していると主張する。
確かに、原告商品の金型代が・・實業有限公司に支払われたのかについては、甲7が単に手書きの領収証にすぎないことや乙2のような企業番号を記す統一用紙が使用されていないことから疑問もないわけではない。
しかし、先に認定した事実に加え、原告商品には原告固有の商標(甲9)が刻印されており、金型にもそのマークが成形されている(検甲4)ことからすれば、原告商品を開発したのが・・實業有限公司であるとは認められない。補助参加人代表者は、検甲4の撮影場所には金型製造業者は所在していても、・・實業有限公司は所在してはいない(丙7)と証言をするが、いずれにせよ前記認定を左右するものではない。
(四) また、右(一)の認定事実に(二)の認定事実を併せ考えれば、被告商品は、・・實業有限公司又は・鉅企業有限公司が、原告商品の形態を模倣して製造したものと推認するのが合理的である。
したがって、被告は、原告商品を模倣した被告商品を譲り受けて販売したものというべきである。
四 争点1(四)(被告は被告商品を善意無重過失で譲り受けたものか)、争点1(六)(被告に故意又は過失があるか)について 1 先に認定した事実によれば、原告が原告商品の販売を開始したのは平成六年八月三一日であり、その後に原告商品の形態が周知のものとなったことを窺わせることはなく、他方、被告が被告商品の販売を開始したのは同年一〇月ころであるから、被告は、被告商品の販売を開始した時点においては、原告商品の存在及び形態を認識しておらず、そのことについて重過失もなかったと認めるのが合理的である。
2 しかしながら、原告は被告に対して平成六年一二月一日到達の内容証明郵便により(甲10、18)、被告商品が原告商品の形態模倣商品であることを告知し、
被告商品の販売を即時中止するよう警告したことが認められる。右内容証明郵便では、原告商品の形態は示されていないが、右内容証明郵便を受け取った被告としては、原告に連絡を取る等して、原告商品の形態やその製造経緯を調査するのは極めて容易なことであったというべきであり、そのような措置をとれば、前記のとおり原告商品と被告商品とはわずかな点しか相違がない酷似商品であることや、原告がデザインを作成した上で・・實業有限公司に製造を委託したものであることを認識することができたというべきであるが、それにもかかわらず、被告は右のような措置をとらなかったのであるから、被告が補助参加人代表者から被告商品は・・實業有限公司の商品であるとの説明を受けていたことを前提としても、右内容証明郵便の到達以後は、被告商品が原告商品を模倣したものであると認識しないことについて重過失があるというべきである。
したがって、少なくとも右内容証明郵便の到達の翌日(平成六年一二月二日)以後に譲り受けた被告商品については、被告がそれを販売する行為は不正競争行為を構成する。
3 そして、右によれば、右の時点以後は、被告商品の販売につき被告には過失があるというべきである。
五 争点1(五)(原告は不正競争防止法上の権利行使をすることが許されるか)について 1 丙6によれば、アズマ工業は、次の実用新案権を有していることが認められる。
考案の名称 タンク付き水滴ワイパー 出願日 平成四年一一月一九日(実願平四ー八五七八〇号) 公開日 平成六年六月三日(実開平六ー四一八四九号) 登録日 平成八年七月九日 登録番号 第二五一一五六二号 実用新案登録請求の範囲 「水滴を掻き取るためのワイパー本体と、掻き取った水滴を溜めるための貯水タンク兼用の握柄とからなり、上記ワイパー本体は、全体として略ちりとり型をしていて、開口する前端の底面前端縁部に水滴を掻き集めるためのゴムヘラを有すると共に、閉じた後端部に通水用の導水管を有し、該導水管の内部には一つの隔壁が形成されて、該隔壁の導水管内壁から離れた位置に水の流れを規制するための小孔が設けられ、上記握柄は、上記導水管に着脱自在に取り付けられている、
ことを特徴とするタンク付き水滴ワイパー」 2 原告商品である検甲1を検すると、確かに原告商品は、右アズマ工業の考案の実用新案登録請求の範囲に記載された構成のすべてを具備しているものと認められるから、右考案の技術的範囲に属すると考えられる。そして、被告は、本件において原告が不正競争防止法による保護を主張している原告商品がアズマ工業の実用新案権を侵害するものであることを根拠に、クリーンハンドの原則により、原告には当該侵害商品の形態の保護を求める資格はないと主張する。
しかしながら、不正競争行為の被害者に他人の実用新案権を侵害する点があったとしても、それだけでは直ちに当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法上の権利を主張する妨げとはならないものと解すべきである。なぜなら、
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するために、一定の行為類型を不正競争行為とし、それを規制したものであって、この趣旨を実現するためには、右のように解することが必要であり、また、右被害者自身の実用新案権侵害行為は、
不正競争行為とは別個の法律関係であって、実用新案権者と右被害者との間において別途規律されることが可能であり、それで足りるからである。もっとも、不正競争防止法の前記趣旨からすれば、不正競争行為の被害者による実用新案権侵害行為自体が、単に第三者との間での別途の規律に委ねるだけでは足りず、被害にかかる不正競争行為を事実上容認することとなっても、なおかつ規制する必要があると考えられる程度の強い違法性を有する場合には、当該被害者が不正競争防止法上の権利の主張をすることが許されない場合もあるものと解されるが、本件でそのような事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の主張は採用できない。
六 争点1(七)(損害額)について 1 被告の売上数及び売上額の審理経過については、次のようなものであったことが、後掲各証拠及び当裁判所に顕著な事実によって認められる。
(一) 当裁判所は、平成一一年四月一五日、被告に対し、平成六年一二月二日から平成八年三月二五日までの間に被告が販売した被告商品の販売単価、販売個数及び販売額を記載した台帳の提出を命じる文書提出命令を発令した。
(二) これに対し、被告は、平成一一年六月九日、同被告の帳票類の調査結果として乙6(その内容は別紙1のとおりである。)を提出し、同時に仕入れ関係を示す証拠として乙6の欄外に「永光よりの仕入」として記載した二回の仕入れに対応する株式会社永光(補助参加人)発行の被告宛納品書二枚(乙7)を提出した。
(三) 乙6による開示結果の裏付調査のため、原告訴訟復代理人は、同年九月七日、被告の事務所を訪問して、帳票類の調査を行った。この調査は、時間の制約上一部の期間分の帳票しか調査ができなかったが、調査結果は次のとおりのものであった。
(1) 調査時に示された資料は、室内に段ボール箱が山積みにされ、各箱の中に伝票類がばらばらになった状態で入れられていた(甲19、20)。
(2) FAXによる発注書が次のとおり存在した(甲19)。
ア 平成八年一月一八日から同年一月二〇日までの間に合計一三三一本の発注がなされたことを示すもの。
イ 平成八年一月二一日から同月三一日までの間に、合計一三〇八本の発注がなされたことを示すもの。
ウ なお、右以外の期間については、調査が未了である。
(3) 電話注文発注書が次のとおり存在した(甲21)。
平成八年一月五日から同月二〇日までの間に合計一八四本の発注がなされたことを示すもの。なお、平成七年一二月二一日から平成八年一月四日までの電話注文発注書は存しない。
(4) 出荷案内書が次のとおり存在した(甲22)。
平成八年一月五日から同月九日までの間に合計一三六六本の出荷がなされたことを示すもの。なお、これ以外の期間については調査が未了である。
(5) 物品受領書が次のとおり存在した(甲23)。
平成八年一月五日から同八日までの間に合計六三九本の納品がなされたことを示すもの。なお、これ以外の期間については調査が未了である。
(6) なお、(2)ないし(5)の各伝票の取引には、重複しているものはなかった。
(四) そこで、原告は、平成一一年一一月一日付け準備書面にて乙6の信用性を争うとともに、被告の帳票類を調査した結果に基づく損害の主張をした(原告平成一一年一一月一日付け準備書面)。
(五) 他方、被告は、平成一一年一二月五日付けで被告訴訟代理人を選任するとともに、平成一二年二月一八日の弁論準備期日において、新たに乙8の2(その内容は別紙2のとおりである。)を提出した。その内容は、売上状況については従前乙6によって開示していた売上量の約2倍の売上量を開示する内容であり、また仕入状況については乙7とは全く異なる内容であった。その理由として、乙8の1には、「平成六年〜八年の全納品書を抜き出しましたところ、以前提出しました数量の約二倍を販売している事が判りました。別紙(乙8の2)がその月別の販売数量と仕入数量です。前回の時は販売期間等を限定して調べていた為数量が大幅に食い違ってきました。」との記載がある。
(六) 原告は、被告から乙8の2の裏付けとなる納品書の提出を受けてチェックした(その結果が甲29、30)が、種々の点で乙8の信用性に疑問を呈している(平成一二年三月二二日付け原告準備書面)。
(七) 右の原告の疑問に対して、被告は、顧問税理士の証明書を提出した(乙9)。そこでは、「株式会社ファインでは、設立当初より仕入帳の記帳を省略し、請求書より直接買掛集計表を作成して帳簿を整理していることに相違ないことを証明致します。」と記載されている。
2 以上を前提にして検討する。
(一) 前記認定の事実によれば、被告が、当裁判所の文書提出命令に対し、
被告商品の売上量をとりまとめた結果として提出した乙6は、原告による調査結果に照らし、明らかに売上量を過少に報告した虚偽の事実を記載したものであったと認められる。被告は、その後に売上量を修正した報告文書として乙8の2を提出しているが、右のような経緯に照らせば、右修正報告の内容に信用性を認めるためには、被告の内部帳簿や取引経過の全面的な開示に基づく詳細かつ合理的な説明が必要である。
(二) この観点から乙8の2を検討すると、次の点を指摘することができ、
これらによれば、乙8の2は、採用することができない。
(1) まず、乙8の2の内容自体、仕入量が三万三八四〇本であるのに対し、売上量が三万八三七五本とされており、売上量が仕入量を上回る不合理な内容であるが、この点について被告から合理的な説明はない。
(2) 被告は、その裏付けとなる納品書を原告に提示してそのチェックを受けているが、その納品書に示された取引以外に被告商品の取引が存しないことを示す証拠はない。被告は、顧問税理士の証明書である乙9を提出するが、それだけでは説明として不十分というべきである。
(3) 原告代理人による調査結果によれば、平成八年一月(乙6からすれば、被告は毎月二〇日締めで乙8の2を作成していると思われるので、平成七年一二月二一日から平成八年一月二〇日までの期間とし、うち一二月二六日から一月四日までを除いた二一日間で計算する。)の被告商品の売上量は、少なくとも次のとおりであったと推認される。
ア FAXによる発注書から推認される売上量について 平成八年一月一八日から同年一月二〇日までの三日間に合計一三三一本の発注がなされた(一日当たり四四四本)が、単にこれを基礎として二一日分の売上量を算定する場合には、調査日数が少ないことによる偏りがあると考えられる。そこで、平成八年一月二二日から同年三一日までの一〇日間に合計一三〇八本の発注がなされたこと(一日平均一三一本)も併せ考慮すれば、少なくとも一日平均二〇三本の発注があったと推認される。したがって、平成八年一月の二一日間については、FAXによる発注書に基づき少なくとも合計四二六三本の売上があったと推認される。
イ 電話による発注書から推認される売上量について 前記のとおり、平成八年一月五日から同月二〇日までの間に合計一八四本の発注がなされた。
ウ 出荷案内書から推認される売上量について 平成八年一月五日から同月九日までの五日間に合計一三六六本の出荷がなされたことから、これを平成八年一月の二一日間に換算すると、五七三七本となる。もっとも、これでは、調査日数が少ないことによる偏りがあると考えられるが、それでも右の二分の一である二八六九本を下回ることはないと考えられる。
物品受領書から推認される売上量について 平成八年一月五日から同八日までの四日間に合計六三九本の納品がなされたことから、これを平成八年一月の二一日間に換算すると、三三五五本となる。もっとも、これでは、調査日数が少ないことによる偏りがあると考えられるが、それでも右の二分の一である一六七八本を下回ることはないと考えられる。
オ 以上より、原告が調査した結果の限りからしても、被告は、少なくとも平成八年一月に八九九四本を売り上げたと推認されるが、これは乙8の2の記載を大きく上回っている。
(4) 被告が先に開示した乙6では、平成六年一一月から平成七年三月までと、平成七年一一月から平成八年三月までとを比較すると、前者が後者の四・五倍の売上量を示していたが、乙8の2では、逆に後者が前者の一・九倍の売上量となっており、この点について合理的な説明はない。むしろ、原告の売上経過(甲25)では、平成六年一一月から平成七年三月までと、平成七年一一月から平成八年三月までとを比較すると、前者が後者の三・八倍になっている。そして、この種の商品のライフサイクルからすると、発売一年目の方が二年目よりも売上量が多くなるのが自然であると考えられる。
(三) そこで、原告による調査結果から被告の売上量を推認する。
前記のとおり、原告による調査結果は、主として平成八年一月の売上量について実施されたものであるところ、本件商品は主として冬季に使用されるものであるから、原告の売上経過である甲25も斟酌すると、その主たる販売時期は、一〇月ころから二月ころまでの五か月間と推認され、甲25によれば、一月の売上量(平成六年は五九八八本、平成七年は九四八本)は、一〇月から二月までの一か月当たり平均売上量(平成六年は七六九九本、平成七年は三〇二八本)を下回っているから、これからすれば、被告においても、平成七年一〇月から平成八年二月までの売上量は、前記(二)(3)で推認した平成八年一月の売上量(八九九四本)の五倍(四万四九七〇本)を下回ることはないと推認される。
そして、その余の期間を含めて被告が平成六年一二月二日から平成八年三月二〇日までの間に売り上げた全数量は、前記(二)(4)で指摘したことや、甲25によれば本件商品は三月から九月までの間にも若干数販売されていることからすれば、右に推認した平成七年一〇月から平成八年二月までの売上量(四万四九七〇本)の二倍(八万九九四〇本)を下回ることはないと推認される。
なお、原告は、被告が文書提出命令に従わなかったとして、民事訴訟法224条3項により、原告の主張を真実と認めるべきであると主張するが、原告の調査結果から、被告の売上量を右のとおり推認することができるから、右主張は採用できない。
(四) また、乙8の2には仕入時期及び仕入量の記載もあるが、原告も指摘するように、その内容は、出荷量よりも少ないものとなっているなど不合理なものであり、特に裏付けとなる資料も提出されていないこと、当初に仕入関係帳票として提出された乙7は全く虚偽のものであったと認められることに前記のような諸点を併せ考慮すると、乙8の2に開示された仕入時期及び仕入量は信用できず、他に被告が善意無重過失の時期(平成六年一二月一日以前)の仕入量(これは被告が主張立証すべき抗弁事実である)を認め得る証拠はない。
したがって、(三)で認めた売上量から、不正競争防止法11条1項5号が適用されるとして控除すべき部分はない。
(五) そして、被告が被告商品を販売するに当たっての売上単価が三五二・四円、仕入単価が二二〇円、一本当たり経費額が七三円であることは争いがないから、これによれば、被告商品の販売によって被告が受けた利益の額は、一本当たり五九・四円である。
したがって、平成六年一二月二日から平成八年三月二〇日までの被告商品の販売によって被告が得た利益の額は、五三四万二四三六円(89,940×59.4)を下回らないと認められ、これが原告が受けた損害額と推定される。
(六) また、本件の一切の経緯からすると、本件において被告が原告に賠償すべき弁護士費用及び弁理士費用相当額としては、合計六〇万円が相当である。
(七) 以上の損害額の合計は、原告の請求額を上回るから、その余について検討するまでもなく、原告は、被告に対し、三六〇万円及び内金三〇〇万円に対する平成八年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利がある。
七 争点2(一)(被告商品の意匠は本件登録意匠と類似するか)、争点2(二)(本件意匠権の意匠登録に無効事由があるか)について 1 本件登録意匠が出願されるより前の平成四年一〇月の時点で、アズマ工業から検乙1の商品が販売されていたことは先に認定したとおりである。そして、アズマ工業の商品の意匠を本件登録意匠と比較すると、基本的形状は共通するが、@漏斗部の大きな三角形状、A漏斗部の上面壁の中央部に設けた三角形の吊り下げ部、Bタンク部の下端に設けた大径の球状部、の点でアズマ工業商品の形態とは異なる形状を有していると認められる。
結露水掻き取り具は、その大きさ及び使用方法に照らして考えると、その全体形状が需要者を注意を惹く要部と認めるべきところ、特に@及びBの相違は全体のシルエットに影響を及ぼすものであって、これがあることによって、本件登録意匠は、アズマ工業商品と異なる柔らかな印象を看者に与えるに至っていると認められる。
したがって、本件登録意匠は、アズマ工業の商品と類似するとはいえないし、当業者が容易に創作し得たものともいえず、この点は同じく本件意匠権の出願前に公開された丙4に記載された結露水掻き取り具の形状についても同様であるから、本件意匠権には無効事由があるとは認められない。
2 1よりすれば、本件登録意匠の要部は、前記@及びBの具体的形状にあると認められるところ、本件登録意匠と被告商品とは、タンク部の下半部の外周面に形成された筋状の膨出部の本数が異なる点を除いては共通しているから、両意匠は、類似しているといえる。
八 争点2(三)(原告が本件意匠権を行使することが許されるか)について 被告は、本件意匠はアズマ工業の前記実用新案権抵触しているから、クリーン・ハンドの原則により権利行使をすることは許されないと主張する。
確かに、本件登録意匠はアズマ工業の前記実用新案権抵触していると認められる。しかし、意匠法は、意匠権と実用新案権とが内容的に抵触する場合でも、
それぞれ質的に異なるものを権利の客体としていることから、抵触する内容のものそれぞれに権利を付与することとしているので、原告の意匠権がアズマ工業の実用新案権抵触しているからといって、直ちにその権利行使がクリーンハンドの原則に反するとはいえない。
もっとも、意匠権者は、その意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録実用新案と抵触するときには、業としてその登録意匠又はそれに類似する意匠の実施をすることができないとしている(意匠法26条)。しかし、この規定は、後願意匠権者が登録意匠の実施をすることができない旨を定めたにすぎず、第三者が後願意匠権者によって創作された登録意匠又はそれに類似する意匠を実施することまで容認しなければならない趣旨ではないと解するのが相当である。なぜなら、後願意匠権者が創作した登録意匠が、先願実用新案権の明細書に開示された意匠を含む公知意匠には見られない新たな意匠的価値を有するにもかかわらず、単に技術的観点から先願実用新案権抵触するという理由で、第三者がその意匠的価値を業として利用する行為を放置せざるをえないというのでは、後願意匠権者が創作した意匠に対する保護に欠けることになるからである。
また、右後願意匠権者自身の実用新案権侵害行為は、意匠権侵害行為とは別個の法律関係であって、先願実用新案権者と後願意匠権者との間において別途規律されることが可能であり、それで足りるからである。
そして、本件登録意匠は、前記実用新案権の明細書(丙6)に開示された結露水掻き取り具には見られない意匠的要素を具備するというべきであるし、前記のとおり、アズマ工業が当時販売していた結露水掻き取り具の意匠とも丙4の意匠とも類似するとはいえない。
したがって、被告の主張は採用できない。
九 争点2(四)(被告が被告商品を販売するおそれがあるか)について 被告は、平成八年三月二六日以降は被告商品を販売していないと主張する。
確かに、平成八年三月二六日以降に被告が被告商品を販売していることを認めるに足りる証拠はない。しかし、現時点において、被告が被告商品の在庫品を有していないとも認められないし、本件での被告の応訴態度からすれば、被告が被告商品を将来的に販売するおそれは否定できないというべきである。
したがって、被告に対し、意匠権侵害に基づいて被告商品の販売の差止めを求める原告の請求は理由があり、また、被告の占有に係る被告商品の廃棄請求もその必要性を肯定することができる。
結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。
(平成一二年四月二一日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央