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関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  装飾美 /  機能美 /  意匠に係る物品 /  先願 /  新規性 /  先願の意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  物品の同一性 /  ありふれた部分 /  本意匠 /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 62年 (ワ) 8143号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1989/06/19
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙物件目録記載の弁当箱を製造、販売し、販売のために展示してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場において占有する前項記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨
当事者の主張
一 請求原因1 原告の意匠権 原告は、左の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有している。
出願日 昭和六〇年五月二四日(意願昭六〇―二一八一九)登録日 昭和六二年八月三一日登録番号 第七二一五三四号意匠に係る物品 弁当箱登録意匠 別添意匠公報(一)(以下「本件意匠公報」という。)記載のとおり2 被告の製造、販売行為 被告は、遅くとも昭和六一年初め頃から、別紙物件目録記載の弁当箱(商品名「タイトランチボツクス」、以下「被告製品」という。)を業として製造し、販売している。
3 本件意匠と被告製品の意匠の類似性(一) 本件意匠の構成(1) 本件意匠の構成は、次のとおりである。
全体形状を小判形にすると共に、容器体を上容器体と下容器体の二段重ねとし、
さらに上容器体の上に上カバーと中皿からなる蓋体を載置し、下容器体と蓋体を前後面において板片状の引つ掛け具により係止させ、上容器体の外周は上下縁を張り出し、上下縁間の胴部を細く形成しており、下容器体の上縁を張り出し、その下の胴部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至り、かつ、上容器体と上カバーと中皿からなる蓋体の間及び上容器体と下容器体の間には溝が形成されている。
(2) 右の構成要素を分説すると、次のとおりである。
@ 全体形状を小判形にすると共に、容器体を上容器体と下容器体の二段重ねとし、さらに上容器体の上に上カバーと中皿からなる蓋体を載置する。
A 下容器体と蓋体を前後面において板片状の引つ掛け具により係止させる。
B 上容器体の外周は上下縁を張り出し、上下縁間の胴部を細く形成している。
C 下容器体の上縁を張り出し、その下の胴部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至る。
D 上容器体と上カバーと中皿からなる蓋体の間(上容器体の上縁上部)及び上容器体と下容器体の間には溝が形成されている。
(二) 被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)の構成(1) 被告意匠は、別紙物件目録添付図面のとおりのものであり、その構成は、
次のとおりである。
全体形状を小判形にすると共に、容器体を上容器体と下容器体の二段重ねとし、
さらに上容器体の上に蓋体を載置し、下容器体と蓋体を前後面において引つ掛け具により係止させ、上容器体の外周面は上下縁を張り出し、上下縁間を細く形成しており、下容器体の上縁を張り出し、その下部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至り、かつ、上容器体と蓋体の間及び上容器体と下容器体の間には溝が形成されている。
(2) 右の構成要素を分説すると、次のとおりである。
@′ 全体形状を小判形にすると共に、容器体を上容器体と下容器体の二段重ねとし、さらに上容器体の上に蓋体を載置する。
A′ 下容器体と蓋体を前後面において板片状の引つ掛け具により係止させる。
B′ 上容器体の外周は上下縁を張り出し、上下縁間の胴部を細く形成している。
C′ 下容器体の上縁を張り出し、その下の胴部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至る。
D′ 上容器体と蓋体の間(上容器体の上縁上部)及び上容器体と下容器体の間には溝が形成されている。
(三) 本件意匠と被告意匠の対比(1) ある登録意匠とこれと対比される意匠の類否は、元来、まず、右登録意匠の要部を把握し、対比される意匠が右登録意匠の要部とみられるものを備え、外観全体を間接的に対比観察(時と場所を異にして観察)した場合に、みる者に対し、
共通の美感を与えるか否かによつて決せられるべきことである。そして、右要部の把握に際し、公知意匠が参酌されるのは当然であるが、それは、登録意匠の構成部分をバラバラに分解して、その各部分を別個に存在する多くの公知意匠の部分と比較し、公知である各部分の形状を要部から除外するというのではなく、公知意匠にあるありふれた部分は重視せず、公知意匠にない新規な部分を要部とみて、全体的な特徴を把握するという趣旨で参酌されるべきものである。しかるところ、本件において、参酌されるべき公知意匠としては、別紙公知意匠目録(一)記載の意匠(乙第一一号証、登録第六〇五九四七号の意匠。以下「公知意匠(一)」という。)と同(二)記載の意匠(乙第一二号証、登録第六〇五九五二号の意匠。以下「公知意匠(二)」という。)があるだけで、それ以外にはない。また、意匠の類否判断は、あくまでも物品の外観全体をみて総合的に判断されるべきものであるが、その中でも、特にその物品の見易い部分の意匠は、大きなウエイトをもつて観察されなければならない。
これを、本件意匠に係る物品である弁当箱についていえば、元来、弁当箱のようなものの意匠は、正面、背面、左右側面、平面及び底面の六面によつてその意匠が特定されるものであるが、実際の取引において底面の意匠が注目されることは少ないと考えられるので、ここでは、底面を除いたその余の部分の意匠に注目してその美感を観察することが重要である。
(2) そこで、右のような観点から、まず、本件意匠の要部をみるに、前記@ないしDの構成は、いずれも本件意匠の要部をなすものと認められる。すなわち、
(a) 前記@の全体形状を小判形にすると共に、容器体を上容器体と下容器体の二段重ねとし、さらに上容器体の上に蓋体を載置するという構成要素のうち、容器体が上下二段重ねである点と容器体の上に蓋体を有する点は、公知意匠(一)、
(二)の意匠においても同じであるが、全体形状が小判形で、かつ、容器体が二段重ねで容器体の上に蓋体を有する点は、公知意匠にない形状であり、本件意匠の新規な形状である。
(b) 前記Aの下容器体と蓋体を前後面において板片状の引つ掛け具により係止させるという構成要素のうち、下容器体と蓋体を引つ掛け具により係止させた点は、公知意匠(一)、(二)の意匠と共通である。しかし、その引つ掛け具が板片状である点は、公知意匠にはない本件意匠の特徴部分である。本件意匠の引つ掛け具は、板片状で下容器体の上辺と蓋体の間に存在し、中容器体の胴部の中央部を覆う形状を成しており、公知意匠にない特徴を有している。
(c) 前記Bの上容器体の外周は上下縁を張り出し、上下縁間の胴部を細く形成しているという構成要素のうち、上容器体の上縁を張り出した点は、公知意匠(一)、(二)の意匠と共通であるが、上下縁の両方を張り出し、上下縁間の胴部を細く形成した点は、公知意匠にない本件意匠に新規な形状である。
(d) 前記Cの下容器体の上縁を張り出し、その下の胴部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至るという構成要素のうち、下端部がアール形状を成して底面に至る点は、公知意匠(一)、(二)の意匠と共通であるが、上縁を張り出し、その下の胴部を細く形成した点は公知意匠にない本件意匠に新規な形状である。
(e) 前記Dの上容器体と蓋体の間(上容器体の上縁上部)及び上容器体と下容器体の間に溝が形成されているという構成要素のうち、上容器体と蓋体の間(上容器体の上縁上部)に溝が形成されている点は、公知意匠(一)、(二)の意匠と共通であるが、この溝のほかに、上容器体と下容器体の間にも溝を形成している形状は、公知意匠にはない本件意匠に独特のものである。
(f) 以上によれば、本件意匠の前記構成@ないしDは、いずれも本件意匠の要部であると認められる。
(3) しかるところ、前記本件意匠の構成と被告意匠の構成を対比すれば明らかなように、被告意匠は、本件意匠の要部のすべてをそのまま具備している。
(4) そして、被告意匠は、右のように本件意匠と同一の構成をとることにより、みる者に対し、共通の美感を与えるものになつている。すなわち、
(a) まず、平面をみると、本件意匠の場合、小判形の輪郭の前後辺に引つ掛け具部分が少し張り出した形状を有しているが、被告意匠の平面もこれとほとんど同様の美感を有する。
(b) 次に、正面と背面をみると、被告意匠は、引つ掛け具の具体的形状の点において本件意匠との間に微差はあるものの、本件意匠と同様、容器体を上下二段重ねとしその上に蓋体を有しており、さらに容器体の下段と蓋体を板片状の引つ掛け具により係止させ、上容器体の外周は上下縁を張り出しその下の胸部を細く形成して下端部はアール形状を成して底面に至り、かつ、上容器体と蓋体の間及び上容器体と下容器体の間には溝が形成されているという形状を有しており、正面及び背面形状において、本件意匠とほとんど同じ美感を生じる。
(c) さらに、左右側面においても、被告意匠は、右(b)の正面と背面の場合と同じく、本件意匠の形状とほとんど同様の形状を有しており、同じ美感を生じる。
(d) 以上のとおり、本件意匠と被告意匠とは、平面、正面、背面、左右側面のいずれから観察した場合であつても、その美感に差異はない。
(5) そうすると、被告意匠は、本件意匠に類似するものというべきである。
4 本訴請求 よつて、原告は、被告に対し、本件意匠権に基づき、被告製品の製造、販売及び販売のための展示の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1、同2の事実は認める。
2 同3のうち、被告意匠が別紙物件目録添付図面のとおりであることは認めるが、その余は争う。
三 被告の主張1 本件意匠の構成本件意匠は、次の@ないしGの構成から成る弁当箱の意匠である(名称については、別紙対照図(一)参照)@ 全体形状を平面視にて小判形にし、下から上に向けて、下容器体、中容器体(原告のいう上容器体。以下、同じ。)、中皿等複数の容器体と蓋体(原告のいう上カバー。以下、同じ。)を順次積層している。
A 下容器体と蓋体とを長手二辺(原告のいう前後面。以下、同じ)にて引つ掛け具により係止している。
B 中容器体は、上下縁を張り出し、両縁を胴部外周面にアール面にて連続させている。
C 下容器体は、上縁を張り出し、上縁を胴部外周面にアール面にて連続させ、胴部外周面をアール面にて底面に連続させている。
D 中容器体の上縁と中皿との間(中容器体の上縁上部)及び中容器体の下縁と下容器体の上縁との間に細い溝を表わしている。
E 蓋体は、頂面をフラツトな平坦面に表し、頂縁を胴部外周面にアール面にて連続させている。
F 中皿は、蓋体の約半分の肉厚に現れ、外周面を蓋体と面一に連続させている。
G 引つ掛け具は、下容器体の開口縁近傍に枢着された概ねT形状の板片から成る。
さらに、
(イ) 板片は、基部に対して上部より左右両側に突出する一対の耳部を一体に有し、該板片の下縁の両端寄り位置に一対の切欠を形成し、上部に横長の長方形となる窓孔を開設している。
(ロ) 前記切欠は、下容器体の開口縁近傍に突設された一対の軸受片に嵌合され、上下方向に反転自在に枢支されている。したがつて、板片は、自由な状態では下容器体の両側において下向きに垂れ下がり状態となる。
(ハ) 板片に対応して、蓋体の長手二辺における下縁近傍にそれぞれ係止リブが突設されており、この係止リブは、中央に位置する長い係止リブと、この長い係止リブの両端の延長線上に間隔を置いて位置する短い係止リブとから成る。
板片を起立せしめて係止リブに係止したとき、板片の窓孔の上縁が長い係止リブと係合すると共に、板片の耳部の下縁が一対の短い係止リブに係合する。
2 被告意匠の構成 被告意匠は、次の1′ないし8′の構成から成る弁当箱の意匠である(名称については、別紙対照図(二)参照)@′ 全体形状を平面視にて小判形にし、下から上に向けて、下容器体、中容器体等複数の容器体と蓋体を順次積層している。
A′ 下容器体と蓋体とを長手二辺にて引つ掛け具により係止している。
B′ 中容器体は、上下縁を胴部外周面にアール面にて連続させている。
C′ 下容器体は、上縁を張り出し、該上縁を胴部外周面にアール面にて連続させ、胴部外周面をアール面にて底面に連続させている。
D′ 中容器体の上縁と蓋体との間(中容器体の上縁上部)及び中容器体の下縁と下容器体の上縁との間に細い溝を表している。
E′ 蓋体は、頂面を上方に膨出せしめ、
該頂面の周囲にてアール面を介して段落状に落ち込む周縁部を平面視トラツク状に表している。
F′ 本件意匠の構成Fの中皿に相当するものを有しない。
G′ 引つ掛け具は、下容器体の開口縁近傍に枢着された概ね]形状の枠片を構成し、該枠片の左右両辺を板部により一体に連結している。
さらに、
(イ) 板部は、枠片の下片近傍において板部に横一文字状のスリツトを開設し、
板片の上縁を左右両端において下方にアール状に屈曲させることにより切込部を形成している。
(ロ) 枠片は、上部両端を蓋体の突縁部に枢支されており、該突縁部は、蓋体の周縁部より該周縁部の肉厚に対応して突出した一対のブラケツト部と両ブラケツト部の下面を連結する薄板部とを、蓋体と一体に形成している。しかして、枠片は、
蓋体に対して上下反転自在に枢支されており、自由な状態では蓋体の両側において下向きに垂れ下がり状態となる。
(ハ) 枠片に対応して、下容器体の長手二辺にはそれぞれ張出縁が突設されており、この張出縁は、下容器体の上縁に対してわずかに下方に偏位して連設されている。
枠片を垂下せしめて張出縁に係止したとき、スリツトの下縁が張出縁に係合する。
3 本件意匠の要部 公知意匠(一)、(二)(乙第一一、第一二号証)やその他の公知意匠(乙第一ないし第一〇号証)及び本件意匠の類似意匠に照すと、本件意匠の要部は、原告主張の構成@ないしDにあるのではなく、その構成の上に立ちつつも、さらに種々の創作を施した具体的構成、ことに中皿の介在と引つ掛け具の形状の点にあるものと認められる。すなわち、
(一) まず、前記公知意匠と類似意匠を参酌しつつ、本件意匠の要部をみると、
次のとおりである。
(1) 本件意匠の構成@について(イ) 原告は、全体形状を小判形にし、かつ、下から上に向けて下容器体、中容器体、蓋体を順次積層構成にした点が公知意匠にない新規な点であるというが、そうとはいえない。なぜなら、弁当箱の意匠において全体形状を小判形とすることは周知のことであるし(乙第一ないし第五号証、第七号証、第九号証)、公知意匠(一)の意匠にあつても短辺の二辺を円弧状に膨出せしめており、概ね小判形と観念することができるからである。さらに、本件意匠については別添意匠公報(二)に示す類似意匠登録(出願日昭和六〇年五月二四日、登録日昭和六二年一〇月九日、登録番号第七二一五三四の類似一号)がなされているが、右類似意匠は、全体形状を平面視矩形としているにもかかわらず、その他の点が本件意匠と共通であるために類似意匠として登録されたものである。そうすると、この点からみても、全体形状を小判形にしたこと自体が本件意匠を特徴づけるものでないことは明らかである。
(ロ) また、下から上に向けて、下容器体、中容器体、蓋体を順次積層した点は、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、格別新規なものでない。
そのこと自体は、原告も自認するところである。
(2) 同Aについて 右Aの構成のうち、下容器体と蓋体とを長手二辺(前後面)にて引つ掛け具により係止した点は、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、格別新規なものではない。そのこと自体は、原告も自認するところである。そして、引つ掛け具が板片状である点も格別新規なものではない。公知意匠(二)の引つ掛け具も、
平坦な板片状のものからなつているといえる。引つ掛け具についていえば、後期(8)のとおり、その具体的構成にこそ、公知意匠にない新規性と創作性がある。
(3) 同Bについて(イ) 右Bの構成のうち、中容器体の上縁を張り出し形成し、該上縁を胴部外周面に対してアール面にて連続させた点は、公知意匠(二)にもみられるところであり、格別新規なものではない。
(ロ) ただ、中容器体の上縁だけでなく、下縁をも張り出し形成した点は、公知意匠(二)にもみられないところであり、右の点に一応の新規な点を見出すことができる。
(4) 同Cについて(イ) 右Cの構成のうち、下容器体の胴部外周面をアール面にて底面に連続させた点は、公知意匠(二)にもみられるところであり、格別新規なものではない。そのこと自体は原告も自認するところである。
(ロ) そして、下容器体の上縁部に張出縁がある点も公知意匠(二)にみられるところである。もつとも、公知意匠(二)の右張出縁は、下容器体の上部開口を閉塞する中蓋の周縁をはみ出させて形成したものである。これに対し、本件意匠のそれは、下容器体の開口上縁そのものを張り出させたものであり、両者は、張出縁を形成する構造を異にしている。しかし、意匠は物品の外観であつて、構造に関するものではないから、外観上、張出縁が視認できる限り、この点に意匠上の相違を求めることは妥当でない。
(ハ) ただ、本件意匠は、上縁にアール面を形成しているが、公知意匠(二)にはそれがなく、その点では、一応相違するが、右本件意匠のアール面は上縁に沿つてわずかに現れるにすぎず、意匠の全体に比して極めて細部に関することである。
しかも、通常、製品の各部に仕上げとして面取りやアール面を施すことは、設計事項として慣用されていることであり、右の相違点は、意匠上、重要視されるべきことではない。
(5) 同Dについて(イ) 右5の構成のうち中容器体の上縁と中皿との間(中容器体の上縁上部)に細い溝を表わした点は、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、格別新規なものではない。そのこと自体は原告も自認するところである。
(ロ) ただ、本件意匠が中容器体の下縁と下容器体の上縁との間に細い溝を表した点は、公知意匠(一)、(二)にみられない構成であり、一応新規な構成であるということができる。
(6) 同Eについて 本件意匠が蓋体の頂面をフラツトな平坦面に表し、頂縁にアール面を形成した点は、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、この点には、格別新規なところはない。
(7) 同Fについて 右Fの構成は、本件意匠が公知意匠にない中皿を設けたことに由来するものである。したがつて、右Fの構成は、新規な構成であるということができる。
(8) 同Gについて右Gの構成は、公知意匠にみられないものであり、新規な構成である。この点に本件意匠の新規性と創作性があるということができる。
(二) 以上にみてきたところによれば、
(イ)本件意匠の構成のうち、(a)同Bのうちの中容器体の下縁を張り出し形成した点、(b)同Dのうちの中容体の下縁と上容器体の上縁との間に細い溝を表した点及び(c)同F、Gの点には、それぞれ新規な点があるということができる。
しかし、右のうち(a)(b)の点は、いずれもそれだけで、みる者に対し、格別の印象を与えるものではなく、意匠の要部として重視することはできない。すなわち、本件意匠は、下容器体、中容器体、中皿等複数の容器体と蓋体を順次積層し、
下容器体の上縁と中容器体の上、下縁及び各容器体間の細い溝等によつて、弁当箱の外周に周設される凸条と凹条とによる複数条のラインに基づく形状模様をデザインの基調とするものと考えられる。しかるところ、右(a)の中容器体の下縁の張り出しや同(b)の細い溝だけで右のライン形状模様が構成されているものでないことは明らかである。それらは、その他の下容器体の上縁や中容器体の上縁、
各容器体間の細い溝等と共に右のライン形状模様を構成しデザインの基調を成していると理解される。
しかるところ、既にみてきたところから明らかなように、公知意匠(二)にも、
右と同様のライン形状模様をデザインの基調とする意匠が示されている。公知意匠(二)も下容器体、中容器体等複数の容器体と蓋体を積層し、下容器体上縁部の張出縁や中容器体の上縁、各容器体間の細い溝等によつて、弁当箱の外周に周設される凸条と凹条とによる複数条のラインに基づく形状模様をデザインの基調としたものである。
そうすると、本件意匠がライン形状模様をデザインの基調とし、それにより呈する美感は、既に公知になつていた右公知意匠(二)のそれと類似し、前記(a)、(b)の構成によつて多少新規な点が加味されているにしても、それにより、みる者に対し、強烈な印象を与える程の創作性があるとは考えられない。右の点は本件意匠の要部として重視することはできないというべきである。
そうすると、結局、公知意匠になく、本件意匠の要部として重視されるべきものは、前記構成F、Gの中皿点と引つ掛け具の点であると解される。
4 本件意匠と被告意匠との対比そこで、本件意匠と被告意匠を対比してみる。
(一) 共通点 被告意匠の構成@′ないしD′は、これに対応する本件意匠の構成@ないしDと共通する。しかし、この点は本件意匠の要部との共通点ではない。
(二) 相違点 一方、被告意匠の構成E′ないしG′は、本件意匠の構成EないしGと相違する。しかも、そのうち、F、Gの相違点は、本件意匠の要部との相違点である。
(三) 共通点と相違点に基づく類否判断(1) 共通点について 本件意匠と被告意匠は、右のとおり、その構成の一部を共通にし、共にライン形状模様をデザインの基調とし、これにより共通の美感を呈するものといえる。しかし、右の美感は、既に公知意匠(二)により公知とされたものにすぎないから、
みる者が右の共通点により強烈な印象を受ける程の創作性があるものとはいえず、
また、こうした公知のデザイン基調に基づいて、みる者が被告意匠と本件意匠とを混同するものとも考えられない。
(2) 相違点について(a) 構成EとE′の相違点について 右の相違点は、本件意匠が蓋体の頂面4aをフラツトな平坦面とすることにより、美的要素を取り払つた機能的な美感を惹起せしめると共に、中皿との複合層と相まつて分厚い重厚感を基調とするのに対し、被告意匠は、トラツク状の周縁部により蓋体の薄肉感を増す一方、薄肉状態から周縁部に囲まれた頂面だけを緩やかに膨出せしめることによりスマートな装飾的美感を惹起せしめるものであり、相互に美感を顕著に相違させている。
(b) 構成FとF′の相違点について 本件意匠における中皿の存在は、公知意匠には全くない新規なものであるばかりでなく、本件意匠全体に占める地位も大きいから、右の相違点は被告意匠と本件意匠との対比において大きなウエイトを占める。すなわち、複数の容器体を積層した弁当箱において、中皿の有無は、その使い勝手の便・不便の機能美を大きく相違させることになる。このため、需要者及び取引者が本件意匠と被告意匠のいずれかの弁当箱を選択して購入するに際し、右の中皿の有無は、その選択を動機付ける要素として極めて大きく作用し、しかも、その中皿の有無を物品の外観から視認して判別できることに鑑みれば、右相違点は意匠の類否の判断の上で重要な意味をもつてくる。
さらに、右の機能美の点にとどまらず、中皿の有無による物品全体の装飾美の相違を観察すると、本件意匠では、下容器体の高さ、中容器体の高さ、中皿と蓋体の複合層の高さの比が、概ね一対〇・九対〇・五となつているのに対し、被告意匠では、下容器体の高さ、中容器体の高さ、蓋体の高さの比は、概ね一対〇・八対〇・三となつており、下層から上層に至る比率の減少傾向が本件意匠のそれと大きく相違している。このため、本件意匠と被告意匠とでは、相互に美感を異にしている。
(c) 具体的構成GとG′の相違点について(イ) 本件意匠は、引つ掛け具の板片を一対の耳部を備えた概ねT形状とし、板部の上方に窓孔を開設することにより、あたかも神社等の「鳥居」のごとき美感を呈する。また、引つ掛け具を係止するためのリブについては、蓋体の長手二辺に、
中央に位置する長い係止リブと一対の短いリブによる断続形状を表し、やや醜い感じを与える。この点に関し、従来の公知意匠(乙第一ないし第五号証、第八ないし第一二号証)に用いられている引つ掛け具をみると、それらは、いずれも波形枠状片又はU字形枠片から成り、すべて平凡でシンプルな美感を呈している。また、引つ掛け具を係止するためのリブについても、断続形状のリブではなく、一直線状になるシンプルなリブに形成しており、スマートな美感を基調としていることが明らかである。そうすると、本件意匠の右の構成は、公知意匠に全く見られない極めて独特なものであると考えられる。
(ロ) これに対して、被告意匠の引つ掛け具は、U字形の枠片を構成し、該枠片の左右両辺を板部により一体に連結したものであり、本件意匠のような「鳥居」の美感からは程遠く、U字形の枠片であることを美感の基調としている点においては、むしろ公知意匠(乙第四、第一二号証)に近似している。
また、被告意匠は、引つ掛け具を蓋体に枢支するために一対のブラケツト部と、
両ブラケツト部の下面を連結する薄板部とを一体に形成し、これを蓋体の長手二辺より突出したものであり、この点は本件意匠に全く見られないものである。
さらに、被告意匠は、引つ掛け具を係止するための張り出し縁を下容器体の長手二辺に一直線状に表すものであり、本件意匠の係止リブのような断続形状とは顕著に相違し、むしろ公知意匠に採用されている係止リブに近似するものである。
(ハ) そして、積層構造を採用した弁当箱は、その機能上、組立ての作業と分解の作業が頻繁に行われ、その都度、引つ掛け具を操作するものであるから、引つ掛け具の形状及び使い勝手は、需要者及び取引者にとつて極めて大きな関心を引く事柄である。しかも、外観上も、引つ掛け具は、弁当箱の長手二側面に顕在化され、
弁当箱の側部(正面図及び背面図)において、本件意匠では、弁当箱全体の長手方向の約三分の一の割合を占め、被告意匠では、弁当箱全体の長手方向の約二分の一の割合を占めるものである。
そうすると、右の相違点は、みる者に対し、美感の相違を大きく印象づけることは必至であり、被告意匠と本件意匠との対比において大きな意味をもつことになる。
(3) 共通点と相違点との比較衡量 以上のように見ると、本件意匠と被告意匠との間の前記共通点は、公知意匠に比して特別顕著なものではなく、これに対し、前記相違点は、被告意匠を本件意匠から区別すべく視覚に強く訴える大きな地位を占めていることが理解される。換言すれば、本件意匠と被告意匠とでは、相違点が共通点を凌駕していると考えられる。
したがつて、被告意匠は、本件意匠とは非類似であるというべきである。
四 被告の主張に対する原告の反論1 公知意匠と意匠の要部認定方法について(一) 一般的に意匠の要部を認定するに際し、公知意匠を参考にすべきは当然であるが、被告が主張するような、登録意匠の構成部分をばらばらに分解して、その各部分を、別個に存在する多くの公知意匠の部分と対比し、公知である各部分の形状を要部から除外するという考察方法は妥当ではない。
意匠の要部認定は、出願前公知の意匠を参考にはしても、それはありふれた部分のウエイトを低く認識し、新規な部分のウエイトを大きく認識しながら、全体的な特徴を把握して行われるべきである。
(二) 被告は、公知意匠として、公知意匠(一)、(二)のほかにも公知意匠(乙第一ないし第一〇号証)を挙示しているが、右の公知意匠(乙第一ないし第一〇号証)は、本件意匠とは非常に掛け離れたものであるから、本件意匠の要部認定のために引用する意味はなく、これらは公知意匠としては無視すべきである。
2 本件意匠の要部と被告意匠との対比について 本件意匠の要部は請求原因3で述べたとおりであるが、以下、本件意匠の要部及び被告意匠との対比についての被告の主張に対し、必要な範囲で反論する。
(一) 蓋体について 被告は、蓋体の頂面が本件意匠ではフラツトな平坦面であるのに対し、被告意匠では頂面を膨出せしめ、その周囲に段落状に落ち込む周縁部をトラツク状に表した点でも、両者の美感が顕著に相違する旨主張する。
しかし、この蓋体頂面に多少の膨出部があるかないかの違いは、全体形状の中で特徴部分として認識できるようなものではないから、意匠の類否判断上無視すべき程度の微差にすぎない。
(二) 中皿について 被告は、本件意匠に中皿を設けた点が新規な構成であると主張するが、本件意匠の全体形状を外観的に認識した場合、蓋体の上カバーと中皿は、図面上では境界線が現れるが、全体を組み合わせた状態では、両者は一体的に認識され、上カバーと中皿を分離して認識すべき理由はない。ことに、本件意匠の上カバーと中皿は、その外周が面一で全く段差がないから、一体的に視認されるのが当然である。
したがつて、中皿は、上カバーと共に蓋体を構成するものとして認識すべきであり、被告意匠と本件意匠を中皿の有無の違いを根拠に非類似であるとすることはできない。
被告は、中皿は機能上からも無視できない旨主張するが、意匠は、特許・実用新案と異なり、機能についての創作を対象にするものではないから、機能上の相違は意匠の類否の判断の上では無視すべきである。
また、被告は、本件意匠と被告意匠とでは、中皿の有無により装飾美にも差が生じている旨主張するが、中皿の有無による蓋体等の厚みの差はわずかであり、この程度では両者の美感に全く影響を及ぼすことはないというべきである。
(三) 引つ掛け具について 被告は、本件意匠が引つ掛け具を概ねT形状の板片とした点、該板片の具体的な形状の点、該板片の下容器体に対する具体的な枢支態様の点、該板片を係止するためのリブの具体的な構成の点等が本件意匠の要部であり、これらの点で被告意匠と本件意匠とは顕著に異なる旨主張する。
しかし、本件意匠の引つ掛け具は、公知意匠との対比において、板片状であつて中容器体の中央部が隠されるように配されているところに特徴がある。すなわち、
公知意匠(一)の引つ掛け具は、細い線材を曲げ加工した形状であり、公知意匠(二)の引つ掛け具もコ字状に細く形成したものであり、いずれも引つ掛け具の内側に中容器体の胴部の中央部が見える形状を有している。これに対し、本件意匠の引つ掛け具は、板片状として下容器体の上辺と蓋体の間に存在し、中容器体の胴部の中央部を覆う形状を成している点に特徴がある。引つ掛け具が存在すること自体は、弁当箱の意匠の重要な構成要素ではあるが、その具体的形状まで限定して意匠の要部を認定するのは妥当ではない。このことは、弁当箱又は食品用蓋物についての意匠登録出願において、特許庁の審査実務を見ても、略T字状を成す引つ掛け具の具体的形状は意匠の要部と認定されていないことが窺われることからも明らかである(甲第四ないし第一二号証参照)。
本件意匠と被告意匠とは、いずれも引つ掛け具が板片状であつて中容器体の中央部が隠れるように配されているという特徴部分が共通であるから、具体的な細部の形状が多少異なるとはいえ、両者の美感も共通であるというべきである。
なお、被告は引つ掛け具の枢支態様の差異も主張するが、意匠の類否判断は、その機能を対象にするのではないから、引つ掛け具は係止された静止状態で認識されるべきであり、被告の右主張は失当である。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1(原告の意匠権)及び同2(被告の製造、販売行為)については、
当事者間に争いがない。
二 そこで、以下、請求原因3(本件意匠と被告意匠の類似性)について判断する。
1 本件意匠の構成 成立に争いのない甲第三号証(本件公報)によれば、本件意匠の構成は、被告の主張1(本件意匠の構成)の@ないしG記載のように分説することができるというのが相当である。
2 被告意匠の構成 被告意匠を示した図面であることにつき争いのない別紙物件目録添付図面及び被告製品であることにつき争いのない検乙第二号証によれば、被告意匠の構成は、被告の主張2の@′ないしG′記載のように分説するのが相当であると認められる。
3 本件意匠の要部(一) まず、登録意匠の要部について一言すると、登録意匠の要部となるのは、
原則として、物品の形態、用途等からみて、その取引過程ないし使用状態において取引者又は需要者の目につきやすく、公知意匠にない新規で、みる者の注意を強く惹く部分であると考えられる。
そして、もともと、公知意匠と類似しない意匠のみが意匠登録されるのであるから(意匠法3条1項)、登録意匠の要部を認定するにあたつて、当該登録意匠の分野における公知意匠を参酌して、登録意匠のどの部分に創作性のある新規な部分があるのか、その程度はどのようなものなのかを把握して意匠の要部を定めなければならないのは当然といえる。
ただし、右の公知意匠を参酌して要部を定めるということは、原告も主張するとおり、登録意匠の構成を分説して、そのうちで公知意匠に同様の構成部分を含んだものがあれは、ただちにその部分の構成は意匠の要部にならないとすることを意味するものでないことはいうまでもない。原告が、意匠の要部認定は、出願前公知の意匠を参考にして、それはありふれた部分のウエイトを低く認識し、新規な部分のウエイトを大きく認識しながら、全体的な特徴を把握して行われるべきであるというのは正当である。
また、登録意匠に類似意匠が付帯するときは、類似意匠は当該登録意匠(本意匠)の要部を把握し類似範囲を明確にする有力な資料であるから、その要部を認定するにあたつて類似意匠を参酌するのも当然であり、登録意匠(本意匠)と類似意匠とに共通する部分が要部になるというべきである。もちろん、この場合でも、当該登録意匠(本意匠)と類似意匠に共通する部分が公知意匠との関係で創作性の程度が低いものであれば、そのことも考慮に入れた上で類否判断の参考とすべきである。
(二) しかるところ、公知意匠(一)、(二)(乙第一一、第一二号証)が存することについては争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第一ないし第一〇号証によれば、右公知意匠(一)、(二)のほか、本件意匠に係る物品である弁当箱又はこれに類似の物品であると考えられる食品用蓋物に関し、本件意匠の出願前に、
本件意匠の要部を考察する上で参考になると思われる公知意匠として、被告主張の公知意匠(乙第一ないし第一〇号証)があつたことが認められる。原告は、これらの公知意匠(乙第一ないし一〇号証)は、本件意匠と掛け離れたものであるから無視すべきであるというが、右の物品の同一性ないし類似性を考えると、右主張は採用できない。
また、成立につき争いのない甲第八号証によれば、本件意匠には、被告主張の類似意匠が付帯していることも明らかである。
(三) そこで、以上の各公知意匠及び類似意匠を参酌して、本件意匠の要部を検討する。
(1) まず、公知意匠を参酌しながら、本件意匠の新規な点をみてみると次のとおりである。
@ 本件意匠の構成@のうち、弁当箱や食品用蓋物において「全体形状を平面視にて小判形に」することは、被告主張の公知意匠(前掲乙第一ないし第五号証、第七号証、第九号証)にもみられるところであり、格別新規なものではない。また、
「下から上に向けて下容器体、中容器体等複数の容器体と蓋体を順次積層する」点も、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、格別新規なものではない。
A 本件意匠の構成Aの下容器体と蓋体を長手二辺にて引つ掛け具で係止することが本件意匠の出願前に公知であつたことは、公知意匠(一)、(二)から明らかであり、新規なものとはいえない。
B 本件意匠の構成Bのうち、中容器体の上縁を張り出し形成し、該上縁を胴部外周面に対してアール面にて連続させている点は、公知意匠(二)にもみられるところであり、新規なものではない。しかし、同Bのうち中容器体の上縁だけでなく下縁をも張り出し形成し胴部外周面にアール面にて連続させた点は、公知意匠にはみられない新規な構成であるということができる。
C 本件意匠の構成Cのうち、下容器体の胴部外周面をアール面にて底面に連続させた点は、公知意匠(二)にもみられるところであり、新規なものではない。しかし、複数の容器体を積層してその上に蓋体をかぶせた形態の弁当箱において、下容器体の上縁を張り出し形成し、上縁を胴部外周面にアール面にて連続させた点は、
公知意匠にはみられないところであり、新規なものであるということができる。
D 本件意匠の構成Dのうち、中容器体の上縁と中皿の間(中容器体の上縁上部)に細い溝を表した点は、公知意匠(一)、(二)にもみられるところであり、新規なものではない(前掲乙第一ないし第三号証、第五号証、第八ないし第一〇号証によれば、弁当箱の容器体と蓋体の間に細い溝が現れる構成は、本件意匠の出願前からありふれたものであつたと認められる)。
しかし、中容器体の下縁と下容器体の上縁との間に細い溝を表した点は、公知意匠にみられないものであり、新規な構成であるといえる。
E 本件意匠の構成E蓋体の頂面をフラツトな平坦面に表していること等は、公知意匠(一)、(二)にもみられる構成であり、新規なものではない。
F 本件意匠の構成Fは、本件意匠が中容器体と蓋体の間に公知意匠にない中皿を介在させたことに由来するものであり、新規な構成であるといえる。
G 本件意匠の構成Gは、公知意匠にない引つ掛け具の形状に関するものであり新規な構成である。
H 以上にみてきたところによれば、本件意匠の構成@ないしGのうち、(イ)同Bのうちの中容器体の上縁だけでなく下縁をも張り出し形成し胴部外周面にアール面に連続させた点、(ロ)同Cのうち、下容器体の上縁を張り出し形成し、上縁を胴部外周面にアール面にて連続された点、(ハ)同Dのうちの中容器体の下縁と上容器体の上縁との間に細い溝を表した点及び(ニ)同F、Gの点には、それぞれ新規な点があるということができる。
(2) そこで、右の新規な点が全体的意匠構成の中で占めるウエイトを考慮しながら、本件意匠の特徴ないし要部を考える。
@ 本件意匠の構成@の全体形状を小判形にすること、複数の容器体と蓋体を積層することがいずれも格別新規なものではないことは、前示のとおりである。右の構成に本件意匠の要部を求めることは困難であるといわねばならない。原告は、全体形状を小判形にし、かつ、二階重ねの容器体の上に蓋体を有する点は、公知意匠にない本件意匠の新規な構成である旨主張する。確かに、右の組み合わせにおいて本件意匠と全く同一のものは、公知意匠にはみられない。しかし、弁当箱や食品用蓋物において、全体形状を小判形にすることは極くありふれたことであり、右の組み合わせによつて本件意匠を特徴付け、みる者の注意を強く惹く意匠が構成されているとは認め難い。現に、本件意匠には前示のとおりの類似意匠が付帯しているところ、その意匠の構成は、全体形状を平面視角部に丸みのある矩形とした点以外は、
ほぼ本件意匠と共通のものである(別添意匠公報(二)参照)。これによれば、全体形状を平面視小判形にするか否かが意匠の要部、類否を決する重要な要素となつていないことが明らかである。この点からみても、右の構成は本件意匠の要部とはいえないというべきである。
A 本件意匠の構成Aに格別新規な点がないことは前示のとおりであり、右の構成は、本件意匠の要部とはならない。
B 本件意匠の構成B、Cは、本件意匠に係る物品の本体をなす中容器体と下容器体に関するものである。右のBの構成のうち中容器体の上縁だけでなく下縁をも張り出し形成し胴部外周面にアール面にて連続させている点は、中容器体の上縁を張り出し形成して胴部外周面にアール面にて連続させた点と相まつて、また、同Cの構成のうち下容器体の上縁を張り出し形成し、上縁を胴部外周面にアール面にて連続させた点は、下容器体の胴部外周面をアール面にて底面に連続させた点と相まつて、それぞれ、中容器体と下容器体の外周面の形状に凹凸を表しているといえる。
そして、右のアール面はいずれもかなり大きな曲率のアール面であるため、容器体全体に統一的な曲線感覚を生じているものと認められる。
右のような意匠の構成は、公知意匠にはみられない新規な構成である上、弁当箱を正面(背面も同様である。以下、同じ)及び左右側面からみた場合に注意を惹く点であるということができる。
したがつて、本件意匠の構成B及びCは、全体として本件意匠の中でも重要な要部であると認めるのが相当である。
被告は、本件意匠の構成Cのうち、下容器体の上縁を張り出した点は公知意匠(二)にも開示されているところであり、これを胴部外周面にアール面にて連続させることは設計事項として慣用されていることであり、意匠上、重要視されるべきことではない旨主張する。確に、公知意匠(二)には、下容器体に被せた中蓋の周縁部が下容器体の側面よりわずかに張り出している構成がみられるので、外見上は下容器体の上縁を張り出したようにみえるということは首肯できる。また、前掲乙第一ないし第三号証、第五号証、第八ないし第一〇号証によれば、弁当箱又は食品用蓋物において容器体の上縁を張り出し形成してこれを胴部外周面にアール面にて連続させること自体は、本件意匠の出願前、既に広く行われていたことであつたと認められる。したがつて、右の点は、それ自体としては必ずしも創作性が大きいとはいえないが、前示のとおり本件意匠の構成Bと一体として観察すれば、全体として統一的な曲線感覚を生じさせているものであり、その意味で本件意匠の要部の一つであると認めるのが相当である。
C また、本件意匠の構成Dにおいて中容器体上縁と中皿の間(中容器体の上縁上部)だけでなく、中容器体の下縁と下容器体の上縁との間にもそれぞれ細い溝を表したことは、前記構成B、Cと相まつて、弁当箱の正面視及び左右側面視において全体として凹凸による独特のラインを形成するものであり、本件意匠の特徴ないし要部の一つであるといえる。
D 本件意匠の構成Eに格別新規な点がないことは前示のとおりであり、右の構成は、本件意匠の要部とはならない。
E 次に、本件意匠の構成Fおいて、中容器体と蓋体の間に中皿を介在させた点は、公知意匠にない新規な点であり、本件意匠の要部の一つであるといえる。もつとも、弁当箱を閉蓋した状態では、中皿の外周面は蓋体と面一に連続しており、中皿はむしろ蓋体の厚みとして認識されるので、その状態では、右の点は、それほどその存在をみる者に印象づけるものとはいえない。右の構成は、本件意匠の要部の一つではあるが、それほど重視できるものではないというのが相当である。
F 本件意匠の構成Gすなわち引つ掛け具を概ねT形状の板片とした点及び板片の具体的な形状、板片の下容器体に対する具体的な枢支態様の点並びに板片を係止するために長い係止リブと短い係止リブを設けた点は、前示のとおり公知意匠にみられない新規な構成である。そして、この点、ことに引つ掛け具は、需要者が弁当箱を手に取つてみたときに、正面中央部に位置し、大きさからいつても正面からみた弁当箱の相当の部分を占め、また、弁当箱を開いてみようとすれば必ず手に触れることからいつても、みる者の注意を惹きやすい部分である。したがつて、本件意匠の構成Gは、本件意匠の中でも大きなウエイトを占める要部であるというべきである。
(四) そこで、被告意匠と本件意匠との類否を検討するに、被告製品が本件意匠に係る物品と同じ「弁当箱」であることは当事者間に争いがないので、以下、両意匠を対比することにする。
1 本件意匠の構成@と被告意匠の構成@′を対比すると、いずれも全体形状を平面視にて小判形にし、下から上に向けて下容器体、中容器体等複数の容器体と蓋体を順次積層した点は、両者共通である、しかし、右共通点は、本件意匠の要部でない部分に関するものであるから、重視することはできない。
2 本件意匠の構成Aと被告意匠の構成A′とは共通であるが、この点も本件意匠の要部に関するものではない。
3 本件意匠の構成B、Cと被告意匠の構成B′、C′とは基本的な構成においては共通である。
しかし、その具体的構成であるアール面の取り方において、大きく相違している。すなわち、本件意匠の構成B、Cにおけるアール面の曲率半径はかなり大きく、そのため本件意匠に係る物品(弁当箱)の本体をなす中容器体と下容器体の外周面にかなり深い凹凸を表し、容器体全体に統一的な曲線感覚を生じさせるものになつている。これに対し、被告意匠の構成B′、C′におけるアール面の曲率半径は、本件意匠のそれに比べるとかなり小さく、そのため中容器体と下容器体の外周面に凹凸は表れるものの浅く、全体的に曲線感覚を生じさせるものにはなつていない。むしろ、全体的には、直線的な感覚を生じさせるものであるといえる。そして、その相違点は、目につき易い正面視、左右側面視に明瞭に表れており、無視できない相違点になつている。
4 本件意匠の構成Dと被告意匠の構成D′とは共通である。
5 本件意匠の構成Eと被告意匠の構成E′とを対比すると、前者においては、蓋体の頂面をフラツトな平坦面に表しているのに対し、後者においては、蓋体の頂面を上方に膨出せしめ、該頂面の周囲にてアール面を介して段落状に落ち込む周縁部を平面視トラツク状に表すという本件意匠にない構成にしている点で相違している。
6 本件意匠の構成Fと被告意匠の構成F′とは中皿の有無において相違する。
7 本件意匠の構成Gと被告意匠の構成G′とは顕著に相違する。
すなわち、これらの構成は、引つ掛け具の形状、枢支態様等に関するものであるが、本件意匠の引つ掛け具を成す板片は、前記のとおり、概ねT形状であり、基部に対して上部より左右両側に突出する一対の耳部を一体に有し、上部に横長の長方形の窓孔を開設しており、係止状態では、窓孔から弁当箱中央部の中皿及び中容器体の上部がみえるようになつており、板片全体が特徴のある形状をしている(被告は、これを「鳥居」のごとき美感を呈するというが、板片の窓孔の下の基部の部分は板状になつているので、「鳥居」に似た形状というのは必らずしも適切でない。)。そして、板片に対応して、蓋体の長手二辺における下縁近傍に長い係止リブ及び短い二個の係止リブを突設されており、これらの係止リブ自体は、余り大きくないし、引つ掛け具を係止したときには板片に引つ付いて目立たないが、板片は、係止状態において、その上端が蓋体の頂面よりわずかに高くなり、下端は下容器体の上部に至り、幅方向でも弁当箱全体の三分の一程度を占めているから、視覚の上で相当注意を惹く。これに対し、被告意匠の引つ掛け具を成す枠片は、前記のとおり、概]ね形状であり、該枠片の左右両辺を板部により一体に連結し、板部の下部に横一文字状のスリツトを開設し、板片の上縁を左右両端において下方にアール状に屈曲せしめることにより切込部を形成しているものである。この被告意匠の右引つ掛け具の形状も、公知意匠には類似のもののない相当特徴的なものであるとえる。
また、本件意匠の引つ掛け具の枢支態様をみると、板片の下縁の両端寄りに一対の切欠を形成し、該切欠が下容器体の開口縁近傍に突設された一対の軸受片に嵌合されているものであるが、一方、被告意匠の引つ掛け具の枢支態様をみると、蓋体に引つ掛け具の枠片を枢支するための突縁部が設けられ、該突縁部は蓋体の周縁部より該周縁部の肉厚に対応して突出した一対のブラケツト部と両ブラケツト部の下面を連結する薄板部とを蓋体と一体に形成しており、双方で顕著に相違している。
そして、本件意匠及び被告意匠における右枢支態様は、いずれも前示公知意匠にはみられない新規な構成であり、ことに、被告意匠における引つ掛け具の枢支のための蓋体の右のような構成は、引つ掛け具の特徴的な形状と一体的なものとしてみる者の注意を惹く点であると考えられる。
したがつて、本件意匠の引つ掛け具と被告意匠のそれとを比較すると、引つ掛け具全体の外周部の形状が概ねT形状かそれとも概ね]形状か、引つ掛け具を成すのが板片かそれとも枠片及びその左右両辺を連結する板部か、引つ掛け具に開設した窓孔ないしスリツトの位置及び形状、枢支部の構造等において、互いに著しく相違していることが明らかである。
そして、本件意匠と被告意匠との間の右の相違により、弁当箱を正面からみたときの美感が大きく異なり、平面視においても小判形の蓋体の長手方向二辺から張り出した部分の視覚に訴える印象がやや異なつたものになつている。
原告は、本件意匠の引つ掛け具は、公知意匠との対比において、板片状であつて中容器体の中央部が隠されるように配されているところに特徴があると主張する。
なるほど、前掲公知意匠(一)、(二)とその他の公知意匠(乙第八ないし第一〇号証)によれば、二個の各蓋体付きの容器体を上下に積層して上容器体の蓋体と下容器体とを引つ掛け具により係止する形態の食品用蓋物(乙第八ないし第一〇号証)においても、また、下容器体、上容器体及び蓋体を順次積層して蓋体と下容器体とを引つ掛け具により係止する形態の弁当箱である公知意匠(一)、(二)においても、引つ掛け具の形状は、公知意匠(二)のものが略]形状の偏平な枠片であるほかは、全て細い線材を曲げ加工した形状となつており、本件意匠のように引つ掛け具が上側の容器体の中央部を隠すような構成のものは見当たらない。したがつて、本件意匠の引つ掛け具の構成は、全体を板片状とし、上側の容器体の中央部を隠すような構成にしたこと自体に新規性があるといえるし、右のような構成に関しては確かに本件意匠と被告意匠とで共通する面があることを否定できない。しかし、本件意匠と被告意匠の引つ掛け具についての右のような共通点を考慮に入れても、引つ掛け具の具体的な形状の違いによる両意匠の美感の差異は大きいものといわなければならない。
しかも、引つ掛け具は、前記のとおり、弁当箱を正面からみた場合に相当の大きさを占め、また、需要者が弁当箱を購入しようとする際には、手に取つてみるのが普通であろうから、そうすると必ず引つ掛け具に触れることになることからいつても、引つ掛け具の具体的形状の相違に基づく美感の違いは軽視できない。
なお、原告は、弁当箱又は食品用蓋物についての意匠登録出願において、特許庁の審査実務をみても、略T字状を成す引つ掛け具の具体的形状は意匠の要部と認定されていないから、本件意匠の引つ掛け具の具体的形状は意匠の要部ではないと主張するところ、いずれも成立に争いのない甲第四ないし第七号証、第九ないし第一二号証によれば、本件意匠とは別に、弁当箱や食品用蓋物の分野において、略T字状で窓孔を有する板片から成る引つ掛け具を備えた意匠の類似意匠登録出願が、そのような略T字状とは異なる形状の引つ掛け具を備えた先願の意匠に類似するとして拒絶理由通知を受けたり(甲第四ないし第七号証)、あるいは、本件意匠より先願(甲第九、第一〇号証)又は同日の出願(甲第一一、第一二号証)に係る略T字状の引つ掛け具を備えた意匠が、本件意匠とは別に登録になつていることが認められる。しかし、右甲号各証によれば、前記拒絶理由通知の点については、類似意匠登録出願に係る意匠における引つ掛け具は略T字状といつても極端に横長で窓孔も相当長細くなつたものであり、一方、拒絶理由通知に引用された意匠の引つ掛け具も同様の横長で、矩形ではあるが窓孔も細長く、引つ掛け具の形状においてそれほど顕著に美感が相違するともいい難い面があり、引つ掛け具の形状の相違以上に他の部分の類似性により全体とし類似と評価されたものと認められる。また、本件意匠以外に略T字状の引つ掛け具を備えた意匠が登録になつている点についても、それらの登録意匠は、いずれも単体の容器体に係るものである上、その、引つ掛け具は、いずれも略T字状といつても背の低いかなり極端に圧縮されたようなものであつて、全体形状において、本件意匠とは、相当に形状の違いがあることが認められる。したがつて、原告主張の右のような事情が存在するからといつて、本件意匠における引つ掛け具の形状の点を意匠の要部と認定することの妨げになるとは考えられない。
8 以上検討した本件意匠と被告意匠との共通点及び相違点を総合して、全体的に両意匠を観察するに、本件意匠と被告意匠との間には、全体形状を平面視小判形にし、容器体を上下に二段積層してその上に蓋体をかぶせ、下容器体と蓋体を長手二辺にて引つ掛け具により係止するという基本形態では共通であり、その上、被告意匠は、本件意匠の構成B、Cの基本的な構成及びDの構成と共通の構成を備えることにより、正面視及び左右側面視において中容器体及び下容器体の外周面に凹凸によるライン形状を表している点は、本件意匠と共通であり、そうした点においては、本件意匠のそれに類する美感を呈しているといつてよい。
しかし、右の基本形態を共通にする点は、前示のところから明らかなように本件意匠の要部に関しないものである。そして、本件意匠と被告意匠との間には、前記のような各相違点があり、ことに、本件意匠の構成B、Cと被告意匠の構成B′、
C′におけるアール面の取り方の違いにより、本件意匠が容器体全体に統一的な曲線感覚を生じさせるものになつているのに対し、被告意匠は容器体全体に直線的な感覚を生じさせるものになつており、しかも、その相違点が目につき易い正面視及び左右側面視に表れていること、そして、引つ掛け具の具体的形状が右のとおり顕著に相違することから生じる美感の差は、前示のとおり引つ掛け具が弁当箱において占める大きさや位置からいつても、また、機能面からみてもみる者の注意を強く惹く部分であつて、非常に大きいものといわざるを得ないこと、さらには、本件意匠と被告意匠とでは、中皿の有無や蓋体の頂面の形状の違いにより、弁当箱全体の上部が視覚に与える印象も異なつたものになつていること、以上のような点を考慮して、本件意匠と被告意匠の共通点と相違点を彼此総合判断すれば、本件意匠と被告意匠とは全体としてみる者に与える美感を異にし、類似しないものというべきである。
三 よつて、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
物件目録背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。
<12781-001><12781-002><12781-003><12781-004><12781-005><12781-017><12781-006><12781-018><12781-007><12781-008><12781-009><12781-010><12781-011><12781-012><12781-013><12781-014><12781-015><12781-016>
裁判官 上野茂
裁判官 小松一雄
裁判官 青木亮