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関連審決 審判1978-14007
審判1981-24972
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  意匠の属する分野 /  部品 /  意匠の類否 /  工業上利用 /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 60年 (行ケ) 158号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1988/04/20
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
一 原告1 特許庁が、昭和五六年審判第二四九七二号事件について、昭和六〇年七月二三日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告主文同旨
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五三年三月一六日、意匠に係る物品を「電気かみそり用カツター」とする図面代用見本(検甲第一号証)に示される意匠(以下「本願意匠」という。
右見本に基づき本願意匠を作図した図面を別紙(一)とする。)につき意匠登録出願をした(同年意匠登録願第一〇〇七三号)が、昭和五六年八月三一日に拒絶査定を受けたので、同年一二月一四日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同年審判第二四九七二号事件として審理した上、昭和六〇年七月二三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、
同年八月二四日、原告に送達された。
二 審決の理由の要点1 本願意匠は、昭和五三年三月一六日に出願されたものであつて、意匠に係る物品を「電気かみそり用カツター」とし、その全体としての構成態様を本願願書に添付された図面代用見本のとおりとしたものである。
2 これに対し、昭和五三年二月二四日発行の意匠公報(以下「引用例」という。)所載の登録第四六八九八七号意匠(以下「引用意匠」という。)は、意匠に係る物品を「電気かみそり用カツター」とし、その全体としての構成態様を別紙(二)(引用例の図面)記載のとおりとしたものと認められる。
3 両意匠を比較検討すると、両意匠は、まず、意匠に係る物品について、使用目的を同一にした同種の物品に係るものと認められる。
次に、意匠に係る形態について、基板部を平板状に形成した点、腕部を先端寄りが二股に分岐したY字形板状に形成した点、その各先端が切刃になるように形成した点、基板部の周縁から腕部複数枚を等間隔、放射状に形成した点等、各部の基本的形状及びそれらを総合した全体の基本的な構成態様が一致しているものと認められる。
さらに、全体の具体的な構成態様においても、次の相違点を除き、その余の点すなわち腕部を六枚とし切刃の数を一二個とした点、各腕部間及び各腕部の分岐した部位から切刃までの形状につき腕部間及び分岐した各部位をそれぞれ半円弧状又は三分の一円弧状とした点、その両端縁から切刃までそれぞれ漸次細幅状で流曲線状に形成した点等で一致又は共通しているものと認められる。
両意匠の相違点は、次のとおりである。
(一) 基板部の中央周辺の具体的な態様のうち、基板部中央の透孔につき、本願意匠は略正方形状としているのに対し、引用意匠は略六角形状としている点(相違点(1))(二) 回転台及び支持体につき、本願意匠は、円板状とした回転台の内側を凹曲面状とし、その受孔側へ中央に盲孔を形成した小角柱状の支持体を突設したものであり、その支持体を基板部中央の透孔に嵌合したものであるのに対し、引用意匠は、回転台等を嵌合しないものであつて、基板部底面に二重円図形を表わし、透孔直下に細状片をさしわたし状に形成したものである点(相違点(2))4 以上の一致点、共通点、相違点を総合して両意匠を全体として考察すると、両意匠における各相違点は、いずれも基板部の透孔及びその周辺の具体的な態様のうちの一部分又は細部分の差異と認められる。
相違点(1)の透孔の差異は、本願出願前、意匠に係る物品を「電気かみそり用カツター」とした意匠の属する分野において、該透孔を円形、二重円形、長方形、
正方形等各種の幾何的形状のものに形成することは一般化していたことであり、本願意匠のものは、一般化していた態様のものに近似する略正方形状のものに改変をした結果生じた軽微な差異にすぎないと認められる。
相違点(2)の回転台及び支持体の有無の差異は、カツターを構成する附属品における細部の差異であり、いずれも全体の具体的な構成態様を著しく変更したと認められる程の差異ということはできない。
5 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠と意匠に係る形態のうち相違点(1)(2)につき差異が認められるにすぎないものであり、意匠に係る物品が一致し、
意匠に係る形態についても上記の各点を除き、前記のとおり一致又は共通していると認められるものであり、全体として引用意匠に類似するものといわざるをえない。
6 よつて、本願意匠は、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するものであるから、意匠登録をすることができない。
三 審決を取り消すべき事由 審決の理由の要点1、2は認める。同3のうち、本願意匠と引用意匠とが、その意匠に係る物品を同じくし、共に腕部を六枚とし切刃数を一二個としていること及び相違点(1)(2)の差異があることは認めるが、その余は否認する。同4のうち、相違点(1)(2)がいずれも基板部の透孔及びその周辺の具体的態様のうちの一部分又は細部分の差異であること、本願出願前、「電気かみそり用カツター」の意匠の分野において、透孔を円形、二重円形、長方形、正方形等各種の幾何的形状のものに形成することが一般化していたことは認め、その余は否認する。同5、
6は争う。
審決は、特定不能であることが明瞭な引用意匠の存在を理由に本願意匠の登録を拒絶し(取消事由(1))、仮に引用意匠を類否判断の基準とすることが可能であるにしても、両意匠の類否の判断を誤つて、誤つた結論に至つたものであり(取消事由(2))、違法として取り消されなければならない。
1 引用意匠の特定不能(取消事由(1)) 引用意匠の意匠登録は、昭和五三年審判第一四〇〇七号事件の昭和五六年六月二二日付審決により、「意匠の重要な部分について特定性を欠く意匠は、結局、工業上利用することができる意匠に該当しない。」として無効とされ、この審決は、東京高等裁判所昭和五六年(行ケ)第二七九号事件の昭和六二年五月二八日付判決によつて支持されている。
右審決及び判決の理由に述べられているとおり、引用意匠を示すその願書添付の図面及びこれと同一である引用例の図面(別紙(二))は、「背面図は正面図と、
左側面図は右側面図と対称にあらわれる」との意匠の説明と一致せず、正面図、右側面図、平面図、底面図には顕著に一致しない点があり、その違いの程度は右添付図面の参考斜視図を参酌しても特定できないものである。したがつて、特定した形態を想定できない引用意匠をもつて本願意匠との類否を判断すること自体不可能なことであり、この点を看過して本願意匠の登録を拒絶した審決は違法である。
被告は、引用意匠が特定できないことを理由にその意匠登録を無効とした審決及びこれを支持した判決の理由を認めながら、他方で引用意匠の特定は可能であると主張するが、これは明らかに矛盾した主張である。引用意匠の大まかな特定が仮に可能であるとしても、引用例の図面(別紙(二))からは多くの形態の意匠が想定できるから、そのうちのどの意匠と本願意匠とを比較したかの前提が欠如している審決の判断は無意味であり、それが合理的である理由は見出すことができない。
2 類否判断の誤り(取消事由(2))(一) 引用意匠は、右に述べたとおり特定できないものであるが、本願意匠と対比させるため、引用例の図面(別紙(二))を参照して、あえて引用意匠の構成を特定することを試みるとすれば、次のとおりである。
(1) 別紙(二)の平面図に示されるカツターの形状は、仮想的に円板を設定した場合に、その仮想円板の中心と同じくして、この円板直径よりも約半分の直径を有する仮想円板の基部周囲から半径方向に延出させた六つのY字形腕により基本的に構成され、前記六つのY字形腕のそれぞれの分岐肢は時計方向への傾きをもつてなびいている。すなわち、引用意匠の平面形状は、あたかも車輪に焔が立ち上がつた火焔車が反時計方向に回転しているような外観を呈する。
基部の中心には、二つの五角形をそれぞれの一辺において連接した形状の透孔が穿設され、この透孔には直径方向に橋絡する一本の長形部材がたすき掛け状に配設されている。この長形部材は、参考斜視図によれば、透孔を介して肉厚の側部が観察されるので、三次元への拡がりを持つ立体かとも思われるが、意匠の内容を表示する正面図及び右側面図にはこの長形部材は現われていないので、二次元的な平面模様とも考えられる。
時計方向になびくY字状腕の各分岐肢の先端より若干中心方向に後退した位置に、
時計方向に指向する三角形状の突起が明確に視認される。
六つのY字形腕は、全く等間隔を保持して隣接し合つている訳ではなく、同一のY字形腕の各分岐肢の先端間の間隔寸法及び隣接し合うY字形腕相互の分岐肢間の間隔寸法は均一でなく、極めて不揃いである。
(2) 別紙(二)の底面図に図示されるカツターの外形輪郭は、基本的に平面図に示す外形輪郭と線対称に現れる。そして、六つのY字形腕が反時計方向に放射状に延出する基部には、大径で所定幅の環状模様が付せられ、この環状模様の幅内には、仮想配置した正三角形の頂点位置に小さな円模様が施されている。そして、この底面図に示される前記環状部分について、正面図、右側面図及び参考傾視図にはこの環状部の厚み部分が全く現れていないので、この環状部分は平面模様と解される。また、この環状部分の内側円周間には直径方向に長形部材が橋絡してあるが、
この長形部材は先に平面図に関連して述べたように正面図及び右側面図に厚みが現わされていないために、これに単なる平面模様と解するほかはない。
Y字形腕の各分岐肢先端には、カツター刃が矩形状の平面としてカツター中心から所定距離離間して放射状に現われる。そして、平面図に関連して述べたと同じように、Y字形腕は等間隔で隣接配置されている訳ではなく、同一のY字形腕の各分岐肢先端間の間隔寸法及び隣接し合うY字形腕相互の分岐肢間隔寸法は極めて不揃いである。
底面図全体を見ると、所定幅の環状模様とこれを橋絡する長形の模様からなる基部を中心として、この基部から反時計方向になびく六つのY字形腕が延在しているため、あたかも車輪から火焔が燃え立つている火焔車が時計方向に回転しているかのような印象を与えるものである。
(3) 別紙(二)の正面図に図示される形状のカツターは、Y字形腕の各分岐肢を水平な基部に対して直角方向に折曲し、それぞれの分岐肢に若干の捻りを与えたものである。この場合、各分岐肢はカツター中心に対して所定の位相角を有して放射状に配列されているものであるから、正面より観察するとき水平基部に対し直角方向に折曲された分岐肢は、前記の捻りを与えられた結果として千鳥足状に不整列となつている。なお、この正面図から判明するように、このカツターは平板を打抜き折曲加工しただけのものであつて、他の別部材は全く付されていないものと解される。
(4) 別紙(二)の右側面図に図示される形状のカツターは、正面図に示す形状のカツターについて視点を九〇度右側に旋回させて観察したものである。なお、正面図に関連して指摘したとおり、このカツターには立体的な別部材は付されていない。
(5) 先に述べた正面図、底面図、正面図及び右側面図に示されたカツターの形状を総合して立体的に観察した一例が、別紙(二)の参考斜視図に示される。この斜視図から明らかなように、中心基部及びこの基部から放射状に延出して時計方向になびく六つのY字形腕は、全体として単調な平板で構成され、これらのY字形腕に対し直角に折曲されて延在する各分岐肢は所定の捻りを与えられている。この参考斜視図によれば基部中心に穿設された透孔を介して所定の肉厚の橋絡部材が観察されるが、すでに指摘したとおりこの橋絡部材は正面図及び右側面図の何れにも現われていないので、図面上一致しないものである。
(6) 引用例には「説明」として、「背面図は正面図と、左側面図は右側面図と対称にあらわれる」と記載されているが、平面図の記載からも明らかなように引用意匠のカツターは方向性を有しているので、背面図及び左側面図は正面図及び右側面図と対称にあらわれるはずはない。すなわち、背面図は背面図として、また左側面図は左側面図として、本来別途に図示されなければならなかつた。
(二) 本願意匠は、本願願書に添付された図面代用見本(検甲第一号証)及びこれを作図した別紙(一)に示すとおり、次の外観形状を有する。
(1) 平面において、本願意匠は、二重の同心円からなる座部(円形カツプリング)を有し、この円形座部の周縁から半径方向に六つのV形腕を延出させ、このV形腕のそれぞれの分岐肢は若干時計方向に傾かせてある。この円形座部は、いわば蛸の吸盤にたとえられるものであつて、二重の同心円で画成される部分を環状端縁とし、この環状端縁内にスピーカーコーン形状の凹曲面を形成し、この凹曲面の底部には矩形状の盲孔が穿設されている。円形座部は、内刃を回転軸に取り付けるに際し円滑にして安定した嵌着を達成するための案内部材(カツプリング)として作用させるために設けられたものであつて、この円形座部の存在により内刃は、回転軸に容易に装着され、しかも回転軸の回転に際し極めて安定した回転運動を行うことは引用意匠に係る内刃と比較対比するとき一見明らかである。この平面図から観察される同一のV形腕の各分岐肢の端部間の間隔寸法及び隣接し合うV形腕相互の分岐肢間隔寸法はいずれも均一であつて不揃いとなることはない。
右に述べた形状特定事項を総合すると、本願意匠の平面図に表される外観は、あたかも大径の吸盤を背負つた蛸足のような風合を有する。
(2) 底面において、本願意匠の外形輪郭は基本的に平面に示す外形輪郭と線対称に現れる。そして、本願意匠の中央基部には、各辺に二つの波形窪みを有する正方形状の平坦面が大きく位置を占める。V形腕の各分岐肢先端には、矩形状のカツター刃部が装着され、カツター中心に対して所定距離を保持して散点状に配設されていることが判る。
また、V形腕が隣接する次のV形腕に移行する部分である湾入部には、平面において明瞭に確認される円形座部の裏側周縁部が部分的に頭を出している。
なお、平面に関連して既に述べたと同様に、同一のV形腕の分岐肢先端間の間隔寸法及び隣接し合うV形腕の分岐肢先端間の間隔寸法は実測の結果いずれも均一である。
(3) 正面において、本願意匠は、中央基部から半径方向に延出するV形腕を、
中央基部に対して所定のテーパを施して下方へ反り返らせ、相対的に中央基部を上方に膨出させている。各V形腕の分岐肢は、V形腕に対して直角方向に折曲させて下方に延在すると共に、分岐肢の先端近傍においてこれに若干の捻りを与えてある。しかも、中央基部上面には前記円形座部が密着配置されているため、この円形座部は横方向に長い逆台形状として観察される。さらに、この中央基部を挾んで前記円形座部とは反対側に突出部分が存在し、この突出部分はV形腕に対し直角に折曲した分岐肢の延在部分よりも寸法的に小さいため、あたかも多数の分岐肢群により中空に懸吊されている印象を与える。結局、引用意匠の正面図が先に述べたように極めて平坦で立体的な起伏に乏しいものであるに対し、本願意匠の正面における形状は、立体的な起伏に富む極めて複雑な外観を呈している。
(4) このように本願意匠についての平面図、底面図及び正面図から観察される外観形状を総合すると本願意匠は、蛸の吸盤状の円形座部を背負つた蛸足のような外観を呈するものであつて、特にこの特異な形状の円形座部が視覚上極めて大きな特徴を有する。
(三) 引用意匠と本願意匠とは、「電気カミソリ用カツター」を対象とするものである点では共通するが、引用例の各図に示される形状をそれぞれ基準として比較すると、一見してその外観が著しく相違することが看取される。
(1) 平面図に現れる形状を比較すると、引用意匠は、平板状の中央基部周囲から半径方向に延出させた六つのY字形腕により基本的に構成されているため、あたかも車輪に焔が立ち上がつた状態で反時計方向に回転している火焔車のような外観を呈する。
これに対し、本願意匠は、二重の環状端縁を有する大径の円形座部を有し、この円形座部周縁からいわばV形の腕を放射状に六本延出させてなるものであつて、あたかも大径の吸盤を背負つた蛸足のような風合を有し、その基本形状は根本的に全く相違する。
しかも、各分岐肢におけるそれぞれの刃先端と刃先端との間隔寸法及び隣接し合う分岐肢間の刃先端の間隔寸法は引用意匠においては極めて不揃いであるが本願意匠では正確に等間隔である。さらに、引用意匠の中央基部の中心位置には、二つの五角形をそれぞれその一辺において連接した形状の透孔が穿設されているだけであるに対し、本願意匠の中央基部には大きく吸盤形状の円形座部が配設されていると共に座部中央の底部には矩形状の盲孔が設けられているという点でも、両意匠の平面形状の相違を倍加させている。
(2) 底面図に現われる形状を比較すると、引用意匠は、六つのY字形腕が反時計方向に放射状に延出してあたかも火焔車が回転しているかのような外観を呈し、
しかもその中央基部には大径で所定幅の環状模様が配せられると共にこの環状模様の内側円周間には直径方向に橋絡する長径模様が付されているため、視覚上極めて特異な外観形状として看者の眼に映ずるものである。加えて、中央の基部中心には二つの五角形をそれぞれその一辺において連接した形状の透孔が穿設されているため、底面形状の特異性はさらに倍加する。
これに対して、本願意匠は、六本のV形腕を放射上に延出させ、中央基部には各辺に二つの波形窪みを有する正方形状の平坦面が大きく観察され、両意匠はその基本的形状において全く相違している。しかも、本願意匠では同一のV形腕の分岐肢先端間の間隔寸法及び隣接し合うV形腕の各分岐肢先端間の間隔寸法はいずれも実測の結果均一であるが、引用意匠では同一のY字形腕の各分岐肢先端間の間隔寸法及び隣接し合うY字形腕相互の分岐肢間隔寸法は先に述べたように極めて不揃いである。
(3) 正面図に現われる形状を比較すると、引用意匠は、Y字形腕の各分岐肢を水平な基部に対して直角方向に折曲し、それぞれの分岐肢に若干の捻りを与えただけのものであつて、極めて構成的にシンプルであり、これ以外に他の独立した別部材は付帯されていない。
これに対し、本願意匠は、V形腕の分岐肢を直角方向に折曲延在させると共に分岐肢先端近傍においてこれに若干の捻りを与えてあるが、この際に中央基部から半径方向に延出するV形腕は中央基部に対して所定のテーパを施して下方へ反り返らせて相対的に中央基部を上方に膨出させている。しかも、この中央基部上面には円形座部が横方向に長い逆台形として観察されるとともに、中央基部下面には突出部分が延在しているため、立体的な起伏に富むものである。したがつて、引用意匠と本願意匠とはその正面形状においても著しく相違する。
(4) このように両意匠は平面図、底面図及び正面図に現れる形状において根本的に相違するが、さらに、これらの各形状から総合的に得られる斜視状態について立体的に観察するとき、引用意匠は中心基部及びこの基部から放射状に延出して時計方向になびく六つのY字形腕は全体として単調な平板の打ち抜きで構成されているにすぎない。これに対し、本願意匠はあたかも蛸の吸盤状の円形座部を背負つた蛸足のような極めて複雑でかつ奇異な外観を呈するものであるから、このような特異な外観を備えない単調な構成のみからなる引用意匠とは、斜視状態において立体的に観察するとき看者に与える意匠の印象において著しく相違し、従つて両意匠は類似しない。
(四) 以上のとおり、引用意匠と本願意匠とは、いずれも電気かみそり用カツターであり、多数の刃を円周方向に支持するための腕部と、この腕部を保持する円形盤とから基本的に構成される点において両者は共通するが、具体的形状及び構造はいずれも右に述べたとおり著しく相違し、類似するところは到底見られない。そして、周知の電気かみそり用カツターはいずれも複数の刃を円周方向に支持する腕部とこの腕部を保持する円形盤とから基本的に構成されており(甲第五号証参照)、
この基本構成は周知の意匠である。この周知の電気かみそり用カツターのうち、一九五九年から一九六四年当時のカツターの形態は正面図として描けば引用例の正面図に類似する。引用例の平面図及び底面図がその正面図に対応するとするならば、
引用意匠は全体としてその登録出願前公知の意匠に類似しているということになる。それ故、公知意匠の適切なる認識を前提とした引用意匠の新規な特徴部分の正確な特定並びにその特定を前提とする本願意匠との相違を追及しなければ真に本件意匠の登録性を理解することはできないのであつて、これらの手続を欠いた審決に審理不尽の違法があることは明らかであり、結局、本願意匠と引用意匠とが類似するとする審決の判断は誤りである。
請求の原因に対する認否、反論
一 請求の原因一、二の事実は認める。同三の主張は争う。
二 審決の認定判断は正当であり、
原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由(1)について 引用意匠の意匠登録が原告主張の審決により意匠の重要な部分について特定性を欠くという理由で無効とされ、この審決が原告主張の判決により支持されたこと、
引用意匠を示すその願書添付の図面(別紙(二))がその意匠の説明と一致せず、
原告主張のとおり図面相互間に一致しない点があることは認める。
しかしながら、引用意匠の意匠登録が図面の記載不備の理由で無効であるとしても、それは、意匠法施行規則2条(図面の様式)に従つた図面を添付して意匠を特定しない限り登録を受けることができない、といういわば手続上の不備により無効となつたものである。そして、このように権利を設定するのに必要な図面の特定性と、ある物品の意匠を引用例として用いる場合のおおよその形態を認識するに足りるだけの特定性とは異なるものである。正投象図法の六面図すべてが正しく整合していなければ形態を特定できず、引用例として用いることができないという理由は全くない。
本件においても、引用例の図面(別紙(二))の平面図、底面図及び参考斜視図は相互にほぼ整合しており、これらの三面図から審決がその理由の要点3で認定した基本的形状、基本的構成態様、具体的構成態様を導き出して特定し、本願意匠との類否を判断することは十分に可能である。
したがつて、原告の取消事由(1)の主張は理由がない。
2 取消事由(2)について 引用例の図面(別紙(二))の平面図、底面図、参考斜視図から認められる引用意匠と本願意匠を示すものとして本願願書に添付された図面代用見本及びこれを作図した別紙(一)により認められる本願意匠とを対比すれば、両意匠が類似するものであることは明らかである。
(一) まず、その平面形状において、両意匠とも、ほぼ平板状の基板部周縁から、先端附近がやや右方向へかしいで二股に分岐したY字形腕六本を放射状に延出し、基板部中央には透孔一箇が穿たれているという点で一致する。
原告は、腕部について、引用意匠がY字形、本願意匠がV形である旨主張するが、それは単にどの部分から腕部を見るかによるもので、両側を凹弧状としたつけ根の部分から見れば両者ともY字形、分岐部分のみを見れば両者ともV字形である。また、本願意匠も引用意匠と同様、腕部及び分岐した各部位はそれぞれ半円弧状又は三分の一円弧状になつており、さらに、腕部の形状も、漸次細幅状で、分岐した左側の腕の外周は流線型に形成されている。原告が主張する各腕部間、各分岐肢間の刃先端間の間隔が引用意匠においては不揃いであるのに対し本願意匠では等間隔であるとの点は、微視的な差異にすぎず、両意匠に別異感を与える程のものではない。
ただ、本願意匠は透孔に円形座部を嵌入している点が透孔に直径方向に橋絡する一本の長形部材をたすき掛け状に配設した引用意匠と相違するが、この円形座部は基板部に固着されたものではなく着脱自在であり、使用時にカツター本体が回転によつて細かなブレを生じることを押えるために設けられたものである。電気かみそり用カツターにおいてはその主要目的がひげを剃ることにあることからしても、ひげを剃るための部位すなわちカツター本体以外の部分は意匠上あくまでも附加的、
附属的な一部品にすぎず、この附加的な部品の有無が両意匠を別異のものとし、類否判断に影響を及ぼすほどのものとは到底認められない。
(二) 両意匠の底面形状における形状は、平面形状と同じように、互いに類似するものである。
中央基部において本願意匠が正方形状の平坦面を設けたのに対し、引用意匠が環状模様及び長径模様を設けた点に差異があるとしても、それは、底面という一部位に附加的につけ加えられたものであり、カツター本体を構成する一部位における微差にすぎず、類否判断の要素としては微弱である。
(三) 正面形状において、本願意匠の中央基部が上方に若干膨出しているとしても、それは一見したところ水平に感じられる程度のごくわずかなものであり、両意匠ともY字形腕の基部をほぼ水平に各分岐肢を直角に折曲し、各分岐肢先端附近に若干の捻りを与え、先端に切刃を形成したという基本的構成態様において類似する。
円形座部の有無が附加的な部分の差異にすぎないことは前述のとおりである。
(四) 斜視状態で立体的に観察すると、両意匠は、ほぼ平板状の打ち抜きで構成した基板部周縁から、Y字形腕(V形腕でも可)を放射状に延出して時計回り方向になびかせた点で一致するものであり、本願意匠の透孔に附加的に嵌入された円形座部という一部品の有無のみでは、両意匠を別異のものとするには足りず、したがつて、両意匠は互いに類似関係にあると認められる。
(五) 原告は、両意匠の主要部を形成しているカツター本体の形状がありふれたもののように主張しているが、引用意匠と本願意匠と同一又は類似するカツター本体の形状は周知ではない。引用意匠の示すカツター本体の形状は、引用意匠をもつて嚆矢とするものであり、このカツター本体において類似する本願意匠が引用意匠に類似することは明らかである。
証拠(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実及び審決がその理由の要点1、2で認定した事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 取消事由(1)について 引用意匠の意匠登録が原告主張の審決により意匠の重要な部分について特定性を欠くとの理由で無効とされ、この審決が原告主張の判決により支持されたこと、引用意匠を示すその願書添付の図面がその意匠の説明と一致せず、原告主張のとおり図面相互間に一致しない点があることは、当事者間に争いがない。
しかしながら、引用例の図面であること当事者間に争いのない別紙(二)によれば、引用例に示される電気かみそり用カツターの形態は、基板部を平板状に形成し、この基板部周縁に両側を凹弧状としたつけ根を有し先端寄りが二股に分岐したY字形の腕部六枚をほぼ等間隔、放射状に設け、その一二枚の各分岐肢を基板部に対して直角方向に折曲して垂下し、各分岐肢先端を切刃となるように漸次細幅状に形成したものであり、基板部の中央には、二つの五角形をそれぞれその一辺において連接した形状の透孔が穿設され、この透孔には直径方向に橋絡する一本の長形部材がたすき掛け状に配設されており、底面から見たとき、基盤部には一定幅の環状模様があり、その内側円周間に直径方向に長径部材が橋絡している平面模様が付されているものであると認められる。
そして、引用例の図面(別紙(二))と成立に争いのない甲第六、第七号証によれば、引用例の図面(別紙(二))の平面図、底面図及び参考斜視図は正確にいえば整合しない点があるが、前示認定の形態を特定するに足りる程度においてはほぼ整合しているといつてさしつかえないと認められ、また、その正面図と右側面図、
正面図と平面図とは整合せず、この不整合は、一二枚の分岐肢が基板部に対して直角方向に折曲して垂下した部分の曲がり具合、捻り具合を正確に特定するために妨げとなるものではあるが、前示認定の形態、特に各分岐肢につき、それらが基板部に対して直角方向に折曲して垂下し、各分岐肢先端を切刃となるように漸次細幅状に形成されていることを認定する程度においては、その妨げとなるものではないと認められる。そうすると、右引用例の図面(別紙(二))における図面の不備は、
前示認定のとおりに引用意匠の示す形態を特定し、これを本願意匠と対比してその類否を判断する妨げとなる程度のものと認めることはできないといわなければならない。そして、前示当事者間に争いのない審決の理由の要点3によれば、審決が本願意匠との一致点、共通点、相違点を認定するために特定した引用意匠の形態は、
右に認定した引用意匠の形態以上のものでないことが認められるから、審決が引用例の図面(別紙(二))からその認定に係る引用意匠の形態を特定したことにつき、原告主張の誤りはないといわなければならない。
したがつて、原告の取消事由(1)の主張は採用できない。
2 取消事由(2)について 本願意匠の願書に図面代用見本として添付されたものと同一の形状の電気かみそり用カツターであることが当事者間に争いのない検甲第一号証と右見本を作図した図面であることが当事者間に争いのない別紙(一)とによれば、本願意匠は、基板部を平板状に形成し、この基板部周縁に両側を凹弧状としたつけ根を有し先端寄りが二股に分岐したY字形の腕部六枚を等間隔、放射状に設け、その一二枚の各分岐肢を基盤部に対して直角方向に屈曲してその屈曲部を曲面状にしつつ垂下し、各分岐肢先端を切刃となるように漸次細幅状に形成したものであり、基板部の中央には略正方形状の透孔が穿設されていて、この透孔には、上部約三分の一を厚めの円板状とし下部三分の二を四角柱状とし、上部円板状体に平面から見て二重の同心円で表わされる環状端縁を設け、この環状端縁内にスピーカーコーン形状の凹曲面を形成すると共に、その底部に矩形状の盲孔を穿設した円形座部(審決のいう回転台及び支持体に相当する。)が着脱自在に嵌合されているものであることが認められる。
原告は、本願意匠における腕部はV字形である旨主張し、前示検甲第一号証及び別紙(一)によれば、右円形座部を透孔に嵌合した状態で本願意匠の平面を見れば、円形座部の上部円板状体によつて腕部のつけ根部分がほとんど隠されるため、
腕部がV字形に見られうることは認められるが、カツター自体には腕部がつけ根を有するY字形に形成されていることは、前掲検甲第一号証及び別紙(一)の底面図に徴しても明らかであるから、右の点は、腕部がY字形に設けられているとした前示認定の妨げとなるものではない。
そこで、先に認定した引用意匠と右認定の本願意匠とを対比すると、両意匠は、
基板部を平板状に形成し、この基板部周縁に両側を凹弧状としたつけ根を有し先端寄りが二股に分岐したY字形の腕部六枚をほぼ等間隔、放射状に設け、その一二枚の各分岐肢を基盤部に対して直角方向に屈曲して垂下し、各分岐肢先端を切刃となるように漸次細幅状に形成し、基盤部中央に透孔を穿設した点において、一致するものと認められる。
一方、両意匠は、腕部の各分岐肢が基盤部に対して直角方向に屈曲するその屈曲面の形状において、本願意匠がその屈曲部を曲面状としているのに対し、引用意匠はほぼ直角に近い形状に折曲させている点において相違し、また、審決が相違点(1)(2)として指摘している基盤部中央の透孔の形状の差異と透孔に直径方向に橋絡する一本の長形部材の有無、円形座部(審決のいう回転台及び支持体に相当する。)の有無、基盤部底面の平面模様の有無において差異があるものと認められる。
ところで、本願意匠と引用意匠の各対象とする電気かみそり用カツターにおいては、その主要目的がひげを剃ることにあることにかんがみ、ひげを剃るための部位すなわちカツター本体の形状がこれを見る人の目をもつとも引く部分であるというべきところ、両意匠の一致点として前叙した基盤部周縁に両側を凹弧状としたつけ根を有し先端寄りが二股に分岐したY字形の腕部六枚をほぼ等間隔、放射状に設け、その一二枚の各分岐肢を基盤部に対して直角方向に屈曲して垂下し、各分岐肢先端を切刃となるように漸次細幅状に形成した点は、カツター本体の主要部を占めるものであるから、その基本的形態を特徴づけ、両意匠の全体としての美感を決定づける要部であると認められる。
原告は、周知の電気かみそり用カツターはいずれも複数の刃を円周方向に支持する腕部とこの腕部を保持する円形盤とから基本的に構成されており、この基本構成は周知の意匠である旨主張する。そして、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証によれば、右の基本構成が周知の意匠であることは認められるが、これらはいずれもY字形の腕部を有するものでないことが明らかであり、引用意匠に見られるY字形の腕部を持つ電気かみそり用カツターの形状が本願意匠の出願前周知の意匠であつたことは本件全証拠によつてもこれを認めることができない。かえつて、成立に争いのない甲第二号証と右甲第五号証によれば、引用意匠の出願人と同一会社もしくは同一系列会社と推認されるフイリツプ社が一九三九年から一九七〇年までに発表した電気かみそり用カツターにおいて、引用意匠のように複数枚のY字形腕部を持つ形状のものはないことが認められ、この事実に照らせば、引用意匠における六枚のY字形腕部は少くともフイリツプ社の電気かみそり用カツターにおける新規な形態であり、引用意匠の美感を決定づけている特徴をなす部分であると認められる。
右の事実によれば、本願意匠は、引用意匠の要部であり、その美感を決定づけている特徴部分である六枚のY字形腕部を含むカツター本体の形状において引用意匠と一致するものであるから、両意匠はその全体の美感を共通にするものといわなければならない。
これに対して、前示相違点として挙げた各分岐肢の屈曲面の形状の差異は、各分岐肢が基盤部に対して直角方向に屈曲して垂下するという一致点のうちにおける微少な差異であり、これによつて前示両意匠の要部から生じる全体としての美感を左右する程度のものとは認められない。
次に、基盤部中央の透孔の形状の差異と透孔に直径方向に橋絡する一本の長形部材の有無の点は、一括して透孔の個数、形状の差異としてとらえることができると認められるところ、電気かみそり用カツターの意匠の分野において、透孔を円形、
二重円形、長方形、正方形等各種の幾何的形状のものに形成することが一般化していたことは原告の自認する事実であり、この事実によれば、引用意匠における二個の変形五角形の透孔を、本願意匠においては一般化していた正方形状に近い略正方形状に改変したものにすぎないと認められ、軽微な差異というほかはない。また、
基盤部底面の平面模様の有無の点は、電気かみそり用カツターを裏返しにして見たときに初めて目につく差異であつて、意匠全体において軽微な差異といわなければならない。
両意匠の差異として前示した円形座部の有無の点につき、原告は、円形座部を有する本願意匠はあたかも大径の吸盤を背負つた蛸足のような極めて複雑でかつ奇異な外観を呈するのに対し、引用意匠は単調な構成である旨主張する。しかし、この円形座部は、前叙のとおり着脱自在に透孔に嵌合されていることからも明らかなように、カツター本体の附属部品にすぎないから、その有無は前叙のとおりカツター本体の形状において一致する本願意匠と引用意匠の全体としての美感を左右するものではないと認めるのを相当とする。その他、原告が両意匠の差異として主張する各Y字形腕部、各分岐肢間の刃先端間の間隔が本願意匠においては等間隔であるのに対し引用意匠においては不揃いであるとの点、本願意匠の基盤部中央が上方に若干膨出しているのに対し引用意匠のそれは平面状であるとの点は、前掲検甲第一号証、別紙(一)(二)によれば、いずれも一見したところ相違するとは認められない程度の差異であることが明らかであり、このような差異があるからといつて両意匠の一致する要部から生じる共通の美感を左右するものと認めることはできない。
右のとおり、本願意匠と引用意匠とは、その一致する要部から生じる全体の美感を共通にし、その相違点は右全体の美感を左右する程度のものではなく、右の一致点、相違点を含めた全体として見て類似の範囲を出るものと認めることはできず、
これを覆えすに足りる資料は本件全証拠によつても認めることができない。
したがつて、両意匠を類似するものと認めた審決の判断に誤りはないといわなければならない。原告の取消事由(2)の主張は採用できない。
3 以上のとおり、原告主張の各取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 瀧川叡一
裁判官 牧野利秋
裁判官 木下順太郎