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関連審決 審判1979-12997
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  創作の奨励 /  物品 /  形状 /  模様 /  線図 /  意匠に係る物品 /  新規性 /  意匠の属する分野 /  寄せ集め /  ほとんどそのまま /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 59年 (行ケ) 192号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1985/08/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 特許庁が昭和五四年審判第一二九九七号事件について昭和五九年三月二二日にした審決を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者双方の求めた裁判
原告は主文同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五二年八月二四日、意匠に係る物品を「アタツシエ・ケース」(以下「アタツシユ・ケース」ともいう。)とし別紙(一)に示されたとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)につき、一九七七年二月二八日にアメリカ合衆国においてした意匠登録出願に基づく優先権を主張して意匠登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、昭和五四年一〇月二六日、審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和五四年審判第一二九九七号事件として審理し、昭和五九年三月二二日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年四月一一日原告に送達された。
二 審決の理由の要点1 本願意匠の構成態様は別紙(一)のとおりであり、昭和四一年五月一六日特許庁資料館受入れの外国雑誌Esquire一九六六年三月号五六頁に掲載された意匠に係る物品を「アタツシユ・ケース」とする意匠の構成は別紙(二)のとおりである。
2 両意匠の構成上の対比(一) 両意匠は意匠に係る物品について使用目的を同一にしたものであり、同種の物品と認められる。
(二) 両意匠は、箱体の基本的形状を偏平で横長の直方体状とした点、その周側面には上方側のうちの上面中央に周面の基本的形状を細長方形状としその表面側に把手及び錠等を取付けて把持部とした点、開口面周縁に細幅板状の縁枠一対を設けたものとし、その縁枠につき、下面から両側面の上方側寄りの部位までを密接並行状にし、その部位から上面両端までをV字状に、上面において把持部を囲んで並行状となるよう設けたものとした点、把持部の把手につき基本的形状を横長かすがい状とした点でそれぞれ一致しているものと認められ、それらによつて構成した全体の基本的構成態様が一致していると認められる。
(三) 両意匠は、全体の具体的な構成態様についても箱体及び縁枠がほとんど一致していると認められ、把持部においても次の各点につきそれぞれ差異が認められるのみであつて、その余の点につきほとんど一致しているものと認められる。
(四) 即ち、把持部の表面側につき、本願意匠は、@縁枠内の周囲の幅を箱体上面の幅のほぼ二・五分の一とし、A両端を両側面の上方寄りのV字状にした部位の先端まで連続するようV字状に突出し、Bその突出した部分を両角の部位が丸面状となるよう垂下状に形成しており、Cその周面の中央には、中間寄りの部位に保持縁を逆U字状にした把手取付具一対を設け、D両端寄りに輪郭形状を小方形とし表面より低く形成した溝状の錠操作面(以下「錠操作面」という。)一対を設け、E僅かに中間寄りの部位に小方形板体一対を設けたほか、把手取付具間に小突起三個を並列状にあらわしたものとしているのに対し、引用意匠は、@′縁枠内の周面の幅を箱体上面のほぼ四分の一とし、A′B′両端を箱体上面の長さよりも僅かに短く反り弧状にして両側面の上方寄りのV字状にした部位に三角形溝状の錠操作面があらわれるように形成したものとしており、C′その周面の中央には、中間の部位に細長角筒状の把手取付具一個を設け、D′両端寄りに円形で面内に鍵穴を形成した錠一対を設け、E′僅かに中間寄りの部位に小方形板体一対を設けたものとしている点で差異が認められる。また、把手につき、本願意匠は、F 内側方を細幅厚板にし、外側方を薄板によつて形成したものであつて、上方の内外両隅を角丸状にし、両下端の両側面を丸面状に形成し、また、両外側の下端寄りに取付杆一対を突設したものとしているのに対し、引用意匠は、F′上方の把持杆部分を偏平な角丸角棒状にし、両側下端へ向つて漸次細く、その両下端を内側へ向けて水平状に折り曲げたものとしている点で差異が認められる。
3 両意匠の類似性(一) 本願出願前、意匠に係る物品を「アタツシユ・ケース」、「トランク」、
「手提かばん」等(以下「かばん類」という。)とした意匠の属する分野において、意匠を創作する又は実施する等の場合、既存の意匠に基づきその意匠に係る形態を構成している各部の具体的な構成態様のうち、その一部を構成する各部分の形状又は各部分品の現状等につきそれぞれ既存のものとほぼ同一の形状又はほとんど同一のもの等に変形する又は変更する等の改変をしたものとすることはそれぞれ常識化していた。
(二) そして、既存の意匠又は創作した意匠等に基づき、その意匠に係る形態を構成している各部の具体的な構成態様について改変したもののうち、上記の常識化していた範囲内の改変をしたと認められるものであつて、全体の具体的な構成を著しく変更したと認められないものは、改変前の意匠に類似するもの又はその意匠に基づいて容易に創作することができたものと認識されていた。
(三) 以上の具体的な各事実を前提として、両意匠を全体として考察するに、両意匠における前記の各差異点のうち、把持部の表面側の周面形状、把手取付具、錠操作面の各差異点は、いずれも上方側の具体的な構成態様のうち把持部を構成する各部分又は各部分品における差異と認められるのであり、それらの差異は本願意匠を創作するとき上記の常識化したことに基づいて、周面の幅を僅かに広幅となるように変形し、両端部の形状をこの種の意匠において普遍化していた形状のうち単純な形状に変形し、また、取付具、錠操作面の各部分品をこの種の意匠において普遍化していたものとほとんど同一のものに変更した等の改変をした結果生じた差異にすぎないと認められるのであり、その他把手の差異もこの種の意匠又は各種の携帯品の意匠等における把手又は提手として普遍化していたものとほとんど同一のものに変更したことによつて生じた部分的な差異と認められるのであつて、いずれも全体の具体的構成態様を著しく変更したと認めることができないものである。
以上のとおり、本願意匠は引用意匠と意匠に係る形態のうちの各点につきそれぞれ差異が認められるのであるが、前記のように意匠に係る物品及び意匠に係る形態についてそれぞれ一致していると認められるのであり、全体として引用意匠に類似しているものといわざるを得ない。
4 よつて、本願意匠は意匠法3条1項3号に規定した意匠に該当するものであるから、意匠登録をすることができない。
三 審決を取消すべき事由 審決の理由の要点(請求の原因二)の1、2の(一)、(二)は認める。同2の(三)は否認する。同2の(四)、3の(一)は認める。同3の(二)、(三)、
4は否認する。審決は本願意匠と引用意匠が類似しているものと誤認し、本願意匠の新規性の判断を誤つた。
1 両意匠の差異点(一) 箱体について 本願意匠は胴がふくらみ、稜線部の折曲げ曲率がゆるやかで全体的に柔らかな印象を与えるのに対し、引用意匠は胴が平担であり折曲げ部の曲率が小さく直角状に折曲げられ、全体的に硬い印象を与える。このため、両意匠は箱体について一見して明らかな異なつた印象を与える。この差異は被告が主張するような表現手段の相違等によるものではない。
(二) 両縁枠と把手保持板との関係について(1) 本願意匠では両縁枠がその間隔を広くして箱体上面の両側端部近くに配置されており、その中間部分に把手取付具が直接取付けられる保持板及び錠操作面が設けられ、それらの周囲と両縁枠との間には周辺部材が存在する。その周辺部材はその材質が箱体と同質であると否とにかかわらず、一見して箱体の上面の一部を構成しており、箱体を上方から全体的に眺めると、上面中央に保持板及び錠操作面が配置され、その外側に離れて縁枠が配置されているような観を呈する。そのため、
本願意匠では両縁枠は保持板及び錠操作面との一体感がなく、また、互に他の縁枠との間でも一体感がなく、箱体上面の両側端部に沿つて配置された二本の線模様との感を与えている。
これに対し、引用意匠では保持板及びその両端部に同一幅で連続して配置されている一対の解錠用の細長板状のレバーと密着した状態で二本の縁枠が配置されており、本願意匠におけるような周辺部材が存在しない。そのため、縁枠は視覚的に保持板及び解錠用レバーとの一体感が強くなり、これら三者を一体とした箱体上面における広幅の一本の線模様を構成しているとの感を強くしている。
(2) 両意匠における縁枠の幅の差は被告主張のように箱体の上面の幅の広狭の差により生じたものではない。箱体の幅は両意匠ともほぼ同じであり、縁枠の幅の差はデザイン上の差である。そのため、右に述べたように両意匠を上面から見たとき与える印象を大きく異にするのである。
(三) 把持部のその他の部分について(1) 把手取付具は、本願意匠では保持縁を逆U字状にし、かつその外側にほぼ紡錘形を二分割した外形からなる覆部を有し、把手の取付杆が外側から見えないようになつているとともに、全体に丸味感を与える形状のもので、把手の両側に二個設けたものであるが、引用意匠では把手の中央に一個設けてあるにすぎないから、
把手取付具の形状、取付態様に関する限り、両者は根本的に相違している。
(2) 本願意匠の錠操作面は、箱体上面の両側端部からやや内側の位置に平面形状長方形の凹部を設け、この凹部内に箱体の両側端側から中央方向に向けて立方体状のラツチ操作部を突出させた構成となつている。このラツチ操作部は、凹部内に親指を入れ、その腹で水平に外側に押すことにより、ロツクが解錠されて箱体が開蓋するようになつている。
一方、引用意匠には、右のような錠操作面に相当する構成はない。引用意匠のロツク開放操作のための構成として、箱体上面両端部には縁枠のV字形状に沿つたV字状の溝が箱体側方に向けて開放しており、この溝を上方からふさぐように解錠用の縦長板状のレバーが取付けられており、右溝に人差し指を入れ、このレバーの端部を持ち上げることにより右レバーを回動させて、ロツクを解放し箱体を開蓋するようになつている。
かようなアタツシユ・ケースにおける解錠操作機構の差は単に外観上の相違として認識されるだけでなく、使用上の違いとして認識されるのであり、購入時における物品選択の重要な評価要素となるのである。
したがつて、両意匠の錠操作機構の差を単なる部分的な差異ということはできない。
(3) 本願意匠の把手は全長にわたつて内側方を細幅厚板、外側方を薄板二枚重ねにしたほぼ四角形の一様な横断面形を有し、全体をかすがい状に形成したものとなつている。一方、引用意匠にあつては、上方の把持杆部分の中央から両側下端に向け漸次細くした角棒体を全体としてかすがい状に形成している。そして、両意匠とも各下端部に、本願意匠にあつては外方に向けて一対の取付杆を設け、引用意匠にあつては内方に向けて折曲げ部を設けて、前記各把手取付具の構造的な違いに対応させて、回動可能なように取付けている。また、外観上本願意匠にあつては広幅な頑丈で安定感のある印象を与えるのに対し、引用意匠にあつては比較的細身のやや単純な印象を与える。
両意匠の把手のこのような差は単なる部分的な差異にとどまるものではない。
(4) 本願意匠の箱体上面を走る二本の縁枠の間には前記のような周辺部材が存在するが、引用意匠にはかかる部材はない。右周辺部材と縁枠の関係は既に述べたとおりであり、この点における両意匠の差異は顕著である。
(5) 被告が普遍化していると主張する把持部の具体的態様はいずれも本願意匠のそれに対応する部位の態様とは全く異なる。
2(一) 審決は以上のような両意匠の差異点を看過しており、これに審決が認定した両意匠の差異点を総合すると、このような差異は審決がいう常識化していた範囲内の改変ではなく、普遍化していた形態とほとんど同一のものへの変更であるということはできない。
アタツシユ・ケースにおいては@偏平角型状の箱体があり、A箱体上面中央に把手があり、B箱体開放のための操作部が存在する。このうち@の箱体そのものはありふれたもので、通常意匠の創作の対象とならない(但し、胴部の膨みの有無、稜線の折曲げ具合等が意匠全体として硬さ、軟らかさ等の印象に大きな影響を与える。)。しかし、A及びBについてはデザインの対象となり、看者が注目する特徴となるところである。
両意匠を側方から見た場合、縁枠は全体としてY字状にあらわれる点で共通しており、この点が引用意匠を含めて二〇年来市場に出廻つている原告の製品の特徴であると広く認識され、出所表示的機能を果たしているのであるが、右の縁枠の形状の点を強く評価し、他の点特に前記のような上面の形態の差異を軽視して両意匠の類否を判断することはアタツシユ・ケースの分野においては不当である。アタツシユ・ケースにあつては、陳列された販売品に対する購買者の眼、使用携帯時における本人又は他人の眼は上面に最も集中し注意を向けるのであり、また、開閉操作上の差異も心理的に影響することを勘案すれば、両意匠は看者に与える印象を異にし非類似というべきである。
(二) 被告主張のようにアタツシユ・ケース等かばん類の広告において、周側面のうち一方の側面から上面まであらわしたものが多いのは、アタツシユ・ケースの特徴がこの部分によくあらわれるからにほかならない。本願意匠においても既に述べたようにその特徴が側面だけでなく上面にもよくあらわれている。
しかし、被告が援用する乙第一一、第一二号証はいずれも原告自身が掲載したものではなく、第三者がフアツシヨン関係の記事として掲載したものであるから、右乙号証をもつて原告が引用意匠の側面のみを特徴とする意図であるということはできない。また、乙第一三号証のように米国において意匠特許の権利者が権利化を意図していない部分を点線で表示したものはあるが、そのことと本願意匠と引用意匠の類否とは関連がないし、そのことが把手の形状をどのように改変してもそれが常にマイナ・チエンジであるとの根拠になるものでもない。
請求の原因の認否及び被告の反論
一 請求の原因一ないし三は認め、同四は争う。
二 被告の反論1 両意匠の差異点(一) 箱体について 原告主張の差異は本願意匠が図面(実線による線図形)によつて形状をあらわしているのに対し、引用意匠が俯瞰的図版である写真版によつてあらわしているという表現手段の差異によつて生じた微差にすぎないといえる。また、一般に創作した意匠を実施するに当り、物品全体の軽量化、容量の増減、材料・加工技術の変更、
価格の変更等の必要上全体の形状のうち特徴となつている部位はほとんどそのままあらわれるようにし、その余の部分を僅かに改変するいわゆるマイナ・チエンジをすることは常識化しており、本願考案はアタツシユ・ケースの収納部分を増量するため幅のみを僅かに改変した結果生じた部分的な差異にすぎないといえる。いずれにせよ原告の主張の両意匠の差異はほぼ同一性の範囲にあるものといえる。
(二) 両縁枠と把手保持板との関係について 本件意匠は箱体の幅を引用意匠に比し僅かに広幅のものに改変したことから、両意匠間には箱体上方側における全幅に対する縁枠間の幅に差異がみられるにすぎず、その差異も部分的なものにすぎない。しかも、両意匠とも両側の上方寄りの部位まで複線が密接して一体状にあらわれるようにし、その部位から上方側まで両側において単線がV字状(全体としてY字状)に上方側において単線が並行状にあらわれるよう形成している点ではほとんど一致している。
なお、本願意匠において原告主張の周辺部材と箱体の部材が同質であると特定できるような表現はされていないので、これを同質のものとして実施したときは、周辺部材を僅かに広幅とした点に差異があるだけである。
そして、前記(一)の箱体と縁枠はアタツシユ・ケースの全体の具体的な構成態様のうちでも最も特徴ある部分として認識されていた部位であるが、そのいずれもが両意匠においてほとんど一致しているのであるから、両者は類似しているということができる。
(三) 把持部のその他の部分について 本願意匠の把持部の具体的形態とほとんど同一又は共通にしたものは、次に述べるように刊行物に記載されており、本願出願前普遍化していたものということができる。
(1) 上方側の両縁枠間に把持部を設けたものであつて、
A 両縁枠と把持部の保持板との間を各種の幅にしたもの(乙第一、第二、第三号証、一〇号証の一、二、四、五、七)B 上面の両縁枠間の両端側両角の部位を丸面状にしたもの(乙第二、第三、第七号証、第八号証の一、一〇号証の一、二、四、五、七)C 保持縁を逆U字状にした把手取付具を設けたもの(乙第三、第八号証の二、第九号証、第一〇号証の三、五、六)D 錠、操作金具等を設けたもの(乙第一、第二、第四、第五、第七号証、第一〇号証の一、二、五、七)(2) 把手につき基本的形状を横長かすがい状にし、両外側下端寄りに取付杆を突設したものであつて、
E 上方の把持杆部分を細幅厚板状としたもの(乙第一、第五号証、第八号証の二、第一〇号証の六)F 把持杆部分を偏平な角丸角棒状やその他の形状にしたもの(乙第二、第三、第四、第五、第六、第九号証、第一〇号証の三、五)2(一) 箱体、縁枠及び把持部についての両意匠の差異に関する原告の主張は、
その各部又は部分品を意匠に係る物品とする意匠として出願した場合に容認されることもあり得るが、意匠に係る物品をアタツシユ・ケースとする意匠においては、
いずれも各部の具体的な構成態様のうち、その一部を構成する各部分の形状又は各部分品の形状のうちの一部分又は細部分の差異にすぎないものにつき、それぞれ感じたことを主張しているだけのことであつて、それらの一部分又は細部分につき印象が異つても総合的なありさまである全体としての意匠が非類似であるということにはならないのである。
本願意匠と引用意匠の差異は引用意匠における全体の具体的な構成態様のうちの上方側の一部分や細部につき、それぞれ改変したものであり、それらは引用意匠の特徴といえる点がほとんどそのままあらわれるように留意し、その余の各部分又は細部を常識化していた範囲内に改変した、引用意匠についていわゆるマイナ・チエンジをしたにすぎないものである。
(二) 一般的に商品を絵図や写真により広告する場合、その商品の意匠としての形態全体又はその一部に特徴があるもののときは、主としてその部位があらわれるように構成した図版又は写真版で広報し、需要者に知得させておき、広告した商品を市場において即座に選択させようとする傾向がある。
意匠に係る物品をアタツシユ・ケース、トランク、手提かばん等とする意匠の実施品を広告する場合はほとんど周側面のうち一方の側面から上面までの部分があらわされている(乙第五、第七、第八、第一〇号証(枝番を含む))。本願と同一の意匠出願人による引用意匠の実施品を広告した場合も乙第一一、第一二号証が示すように、側面から上面まで、特に側面の上方側寄りをあらわしたものが存在する。
また、米国意匠特許を受けた意匠の図面である乙第一三号証も、側方から上面までを実線による図形とし、把手を点線による図形として表現している。
このように、引用意匠の特徴とする部位は、その意匠に係る形態のうち、側面から上面まで、特に側面の上方寄りから上面までの縁枠にあるものということができる。一方、上面の把手及びその周辺の形状等のうち把手を点線であらわしていることは、権利化を意図しておらず改変することを前提にしているものということができる。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一及び二は当事者間に争いがない。
次に、審決の理由の要点(請求の原因二)1(本願意匠と引用意匠の構成)、2(一)(両意匠に係る物品の共通性)、2(二)(両意匠の基本的構成態様の一致)、2(四)(両意匠の把持部の具体的構成態様の差異)も、当事者間に争いがない。
二 そこで、別紙(一)記載の本願意匠と同(二)記載の引用意匠との具体的構成を対比する。
1 箱体について 本願意匠は胴部(蓋部と底部)が周側面を中心として対称的にふくらみ、各稜線部の折曲げ曲率もゆるやかで丸味を帯び、両部とも曲面状をなしているのに対し、
引用意匠は胴部が平坦で各稜線部の折曲げ曲率が小さく、ほぼ直角状をなしているものと認められる。かようなアタツシユ・ケースの必要的構成部分である箱体の両意匠における形状の差は、これを一見した看者に対し、即座に両意匠についての差異感を生ぜしめるものということができるのであり、その差異は被告が主張するように単なる微差とか部分的差異の域を越えたものと認めるべきである。なお、被告は右の差異は両意匠の表現手段の相違或は意匠実施に当つての改変に由来する旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はないし、そもそも右のような差異を生ずるに至つた由来とその差異が看者に与える印象とは自ら別問題であるから、右の主張は採用することができない。
2 両縁枠と把手保持板との関係 箱体上面における縁枠の周面の幅と箱体上面の幅の関係が本願意匠では約二・五分の一、引用意匠では約四分の一であることは前記のように当事者間に争いがないところ、本願意匠では箱体上面の両縁枠内の周面の中間部に中央部から上面両端部付近に向つて把手を取付ける保持板(長さは上面の長さの約三分の二、幅は縁枠内の周面の幅の約五分の三)を設け、その両端にほぼ接し、かつ上面端部まで若干のゆとりを残した位置に保持板と同じ幅の錠操作面を設けており、右保持板及び錠操作面は両縁枠内にあつて両縁枠との間及び上面両端部との間にそれぞれ等しい空間部分(原告主張の周辺部材)を形成している。このため、本願意匠は両縁枠と保持板及び錠操作面との間に連続感、一体感を欠くことになり、看者はこの両者を明瞭に区別し相互に別個のものとして観察することになるのである。
これに対し、引用意匠では両縁枠に接してその周面内に中央部から上面両端部付近に向つて把手を取付ける保持板(長さは上面の長さの約二分の一)を設け、その両端に接して両側面の縁枠の上方寄りのV字状にした部位に設けた三角形溝状の錠操作面までを蓋開閉用の錠操作板(長さはいずれも上面の長さの約四分の一)としている。このように、箱体上面の縁枠内の周面は両端の三角形溝状の錠操作面を除いて保持板と錠操作板で形成されているため、引用意匠の看者は右両者と両縁枠について連続感、一体感をもつて観察し、それぞれが別異のものであることについてそれ程強い印象を受けることはないものということができる。
そして、右の差異が被告が指摘する箱体側面のV字状をなした縁枠の形状を考慮しても単なる微差又は部分的差異と認められないことは後に述べるとおりであるし、被告が主張するように本願意匠の箱体と周辺部材が同質なものにより形成されているときでも、両意匠における前記のような差異感に格別著しい変化が生ずるものとはいいがたい。また、被告が指摘する両縁枠と保持板との間を各種の幅とした公知例のうち、右両者間に空間(周辺部材)を看取することができるのは成立に争いのない乙第一号証、第一〇号証の一にとどまり、右乙号各証も右の空間はきわめて狭く本願意匠のように、両縁枠と保持板及び錠操作面を別異のものとしてきわ立たせているものではない。
3 把手、その取付具及び取付態様(一) 把手全体は両意匠ともかすがい状をしているところ、その把持部分は本願意匠では全体として四角柱状をなし、引用意匠では側面中央部分がややふくらみを帯びているが全体として偏平な角丸角棒状であるため、その上下面とも本願意匠が引用意匠に比し幅が広く、上面は前者がほぼ平面状であるのに対し、後者はやや上方にふくらむ曲面状をなしている。
また、本願意匠は内側を細幅厚板とし外側を薄板によつて形成しているため、把手全体を側面から見ると厚薄二重の板体により形成されていることが明瞭に看取されるのに対し(後記のようにかかる形状の把手は公知例にない。)、引用意匠は把手全体が一枚の比較的偏平な板で形成されていることが看取されるにすぎない。
(二) 本願意匠では前記保持板に保持縁全体の形状を逆U字形とし、外側(端部側)を紡錘形を二分割した形状部品で覆い、内側を縦長のアーチ状空部とした把手取付具一対を設け(後記のようにかかる形状の取付具は公知例にはない。)、右アーチ状空部から覆部に向け把手の両外側の下端寄りに外部へ向けて突設した取付杆を挿入して取付け、把手全体を回動自在としたのに対し、引用意匠では前記保持板の中間の部位に細長角状の把手取付具一個を設け、右取付具の両端から把手の両下端を内側へ向けて水平状に折り曲げた取付部分を挿入して取付け、把手全体を回動自在としていることが認められる。
(三) 以上のような両意匠における把手、その取付具及び取付態様の差異は看者に対し一見して別異感を与えるものということができる。
三 被告は本願意匠に係る物品であるアタツシユ・ケース等のかばん類の分野において普遍化していた形状又は形態として各種のものを主張するので、以下に検討する(このうち両縁枠と把手保持板との関係については前記二2において検討ずみである。また、この項に掲げる乙号各証はいずれも成立に争いがない。)。
まず、上面の両縁枠間の両端側両角の部位を丸面状にした公知例は乙第二、第三、第七号証、第八号証の一、第一〇号証の一、二、四、五、七により、錠、操作金具等を設けた公知例は乙第一、第二、第四、第五、第七号証、第一〇号証の一、
二、五、七によりいずれもこれを認めることができる。これらの形状は本願意匠にもみられる。
次に、保持縁を逆U字状にした把手取付具を設けた公知例として、被告は乙第三号証、第八号証の二、第九号証、第一〇号証の三、五、六をその根拠とするが、いずれも本願意匠における内側を縦長の中空アーチ状とし外側を紡錘形を二分した形の覆部とする逆U字形保持縁の取付具とはかなり形状を異にしている。
また、上方の把持杆部分を細幅厚板状としたものの公知例として被告は乙第一、
第五号証、第八号証の二、第一〇号証の六をその根拠とするが、いずれも本願意匠における全体の形状をかすがい状とし厚薄二重の板体により形成された把手とはかなりへだたりのある形状である。
このほか、被告は把持杆部分を偏平な角丸角棒とした公知例の主張をするが、右の形状は引用意匠にみられるもので、本願意匠の有する態様には含まれていないから検討の要はない。
四 ところで、前掲乙第一〇号証の五、六によれば、本願意匠及び引用意匠に係る物品であるアタツシユ・ケースは収納部分を比較的偏平な正方形に近い横長の直方体状の箱体とし、その上面に把手を取付けた全体として形状の比較的単純な携帯用かばんの一種であると認められるから、その用途に照らしどのアタツシユ・ケースを取上げても全体の形状、大きさにさしたる相違はなく、
これに意匠的工夫をこらすといつても自ら限度があることは明らかである。したがつて新たに意匠を創作するといつても、いきおい他のアタツシユ・ケースのほか用途、形状等が類似するトランク、スーツケース、手提かばん等他のかばん類にあらわれた意匠を参考にし、これを部分的に寄せ集め、或はこれに若干の改変を加えるにとどまることが多いことが予想されるから、公知の意匠と或る程度の共通性を有することは避けられないところである。そして、意匠の創作の奨励という意匠法の目的に照らして考えると、かかる意匠の新規制を判断するに当つては、公知の引用意匠と部分的、個別的にのみその類否を検討するにとどまることはもとより相当ではなく、両意匠を対比した結果、部分的に特徴とみられる形状に類似点があるとしても、全体的にみて、特に看者の眼につきやすい部分について引用意匠にはみられない相当程度きわ立つた差異感が当該意匠から生ずるならば、これに新規性を認めるのが相当というべきである。
かかる観点から両意匠を対比検討すると、前記のように両意匠は審決の理由の要点2(二)摘示のとおりその基本的構成態様において異なるところなく、特に縁枠につき、下面から両側面の上方寄りの部位までを密接平行状にし、その部位から上面両端までをV字状に、上面において把持部を囲んで並行状に設けた点は両意匠に共通する特徴であるということができる。
しかし、箱体についてみれば、本願意匠は胴部、稜線部とも曲面状をなしているのに対し、引用意匠は胴部が平面状、稜線部が直角状をなしており、それぞれ看者に対し異なる印象を与えることは前記二1に認定したとおりであるが、かようなアタツシユ・ケースの先ず眼にふれる必要的構成部分ともいえる箱体が看者に別異な印象を与えるということは、両意匠の類否判断に当たり、無視することはできないものというべきである。
また、アタツシユ・ケースの箱体上面の中央には把手が設けられ、把手は携帯中常時把持するものであるから、利用者の強い関心を集める部品である。そして、看者が把手に眼を向ければ必然的に箱体上面全体を観察することになるのであるが、
その際、前記二2及び3に認定したような両縁枠周面と保持板及び錠操作部位との連続感、一体感の有無、把手、その取付具及び取付態様の差が不可避的に印象づけられるのであり、しかも、前記のとおり、本願意匠の程度まで両縁枠と保持板及び錠操作部位の間に空間を設けて両者の別異感をきわ立たせている公知例はなく、また、本願意匠のような形状の把手、取付具に著しく類似する公知例もないことをも併わせ考えれば、両意匠が与える箱体上面の別異の印象も両意匠の類否判断にとつて無視できないものというべきである。
以上に検討した両意匠における差異点に審決が摘示した争いのない差異点をも総合勘案すれば、前記のような側面における縁枠のV字形状類似性を考慮しても、
本願意匠は右のような引用意匠と同一の特徴を備えたうえでこれと別異な印象を与えるに至つたもので、被告主張のマイナ・チエンジの域を越えた創作意匠と認めるのが相当であり、両意匠の類似性は否定すべきものである。
被告は、物品をアタツシユ・ケース等とする意匠の特徴的部位は周側面の一方から上面までの部分にあると主張し、乙第五、第七号証、第八号証の一、二、第一〇号証の一ないし七を援用するが、アタツシユ・ケースの箱体全体の形状、把手を取付ける箱体上面の形状もまた看者の注意をひくものであることは既に述べたとおりであり、現にいずれも広告宣伝用文書と認められる右乙号各証には箱体の一方の周側面、上面全体、胴部の一部又は全部があらわされていることからみても、被告の右主張を採用し得ないことは明らかである。成立に争いのない乙第一一、第一二号証は原告の製品であるアタツシユ・ケースの写真であるが、右写真は原告が広告宣伝用に掲載したものでないことは右乙号各証自体から明らかであるから、右乙号各証の写真がアタツシユ・ケースの周側面のみをあらわし、又は上面の一部しかあらわしていないとしても、これをもつて、被告の右主張の根拠とすることはできない。また、成立に争いのない乙第一三号証の米国意匠特許を受けた意匠の図面において把手部分が点線で表示されているとしても、それは右意匠特許の出願人が把手部分を意匠として権利化する意思を有しないことを推認させるにとどまり、そのことから直ちにアタツシユ・ケース等のかばん類において把手が改変を前提とする非特徴的部分であるということはできないことが明らかである。
五 以上述べたところによれば、本願意匠と引用意匠が類似するとの審決の判断は誤りであり、この誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法なものとして取消を免れない。
よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 瀧川叡一
裁判官 松野嘉貞
裁判官 牧野利秋