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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ220審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  先願 /  先願の意匠 /  完成品 /  部品 /  意匠の類似 /  類似物品 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  専用実施権 /  通常実施権 /  利用関係 /  抵触 /  損害額 /  独占的通常実施権 / 
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事件 昭和 57年 (ネ) 43号
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裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1982/09/16
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決を次の通り変更する。
被控訴人は別紙イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を業として使用してはならない。
被控訴人はその保管中の右イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を廃棄せよ。
被控訴人は右イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を有する鋸を販売してはならない。
被控訴人は控訴人レザーソー工業株式会社に対し、九八万四一一二円及びこれに対する昭和五四年一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
控訴人らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
本判決主文第二ないし第五項は仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
(申立)1 控訴人ら原判決を取消す。
被控訴人は別紙イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を、業として、製造し、使用し(当審において拡張した請求)、販売してはならない。
被控訴人はその保管中の右イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を廃棄せよ。
被控訴人は右イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を有する鋸を販売してはならない。
被控訴人は控訴人レザーソー工業株式会社(以下控訴会社と云う)に対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一二月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
仮執行宣言。
2 被控訴人本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
(主張及び証拠)次の点を付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人らの主張1 原判決は、イ号物件は把持柄に固定されているから「鋸の柄」(ロ号物件)であり、本件意匠にかかる物品たる「鋸用背金」とは、物品に同一性がないのでイ号意匠のみを本件意匠と対比することは理由がない旨判示するが、イ号物件は把持柄とは別体に製造された後把持柄に目釘で固定されるもので、目釘を外せば自由に把持柄から取外すことができるのである。
又イ号物件が被控訴人の製品においても「鋸の柄」ではなく「背金」として使用されていることに変りはない。そしてイ号物件は独立して取引の客体となり得るもので、現に被控訴人はイ号物件を他より購入しているものである。従つて本件意匠とイ号意匠とを対比すべきものであり、而して両意匠にかかる物品は同一である。
2 仮にそうでないとしても、イ号物件はロ号物件において背金としての機能、用途を持つことに変りはないから、ロ号物件は鋸用背金の類似物品である。
3 ハ号物件の背金は、把持柄と別体に製造されるもので、これに固定された後も取外しは容易であり、しかも把持柄も換刃本体も極くありふれた意匠のものである。そして、ハ号物件は本件意匠の一般需要者に最も印象を与える主たる特徴を実施しており、現にハ号物件と本件意匠にかかる物品との間に混同を生じているのである。従つて、ハ号物件が本件意匠を利用するものであることは明らかである。この場合、本件意匠の全部を実施しなければ利用関係にならないとすると、別体形成された場合結合部の意匠(本件では中子部)は必ず隠れるから、利用関係の成立する余地が殆んどなくなるのである。
二 被控訴人の主張控訴人らの右主張は何れも争う。
三 証拠(省略) 理 由一 控訴人Aが鋸用背金に関する本件意匠権(昭和四三年一二月二三日出願、同五〇年一一月二〇日登枚目表三行録)を有すること、右意匠が控訴人ら主張の(一)ないし(三)の構成(原判決二枚目裏一二行目から三目まで)を有することは何れも当事者間に争いがなく、同控訴人が右登録と同時に控訴会社に対し右意匠権について専用実施権を設定し、昭和五三年一月三〇日その登録を経由したことは被控訴人において明らかに争わないので自白したものとみなす。
二 控訴人らは、被控訴人において本件意匠に類似するイ号意匠を使用したイ号物件を製造、販売している旨主張するが、被控訴人がイ号物件を製造、販売している事実を認めるに足る証拠はない。従つて本訴請求中被控訴人に対してイ号物件の製造、販売の差止めを求める部分は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
三 被控訴人がロ号意匠について登録第五三七六三七号の意匠権(昭和五二年一〇月二九日出願、同五五年六月二六日登録)を有すること、ロ号意匠はイ号物件(鋸用背金)を把持柄に挿入固定させた「鋸の柄」(ロ号物件)を意匠の物品とするものであること、被控訴人がロ号物件に鋸の換刃を装着した換刃鋸(ハ号物件)を製造、販売していることは当事者間に争いがなく、右製造、販売が業としてなされていることは、原審における被控訴人本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。
四 控訴人らは、イ号意匠は本件意匠に類似するものであるから、ロ号意匠及びこれを使用するハ号物件の意匠は、本件意匠を利用する関係にある旨主張するので、
以下検討する。
1 イ号意匠が控訴人ら主張の(一)ないし(三)の構成(原判決三枚目表八行目から同一二行目まで)を有することは当事者間に争いがない。従つて本件意匠とイ号意匠とは、ともに先端部が日本刀の切先のように下方に向けて孤状をなし、本体部はその先端より後方に至るに従つて漸次幅広となつており、中子部は長い短形をなしている点でも一致しているものである。尤も、本件意匠の中子部下面に凹陥部があるがイ号意匠の中子部にはそれがなく、逆にイ号意匠の中子部には二個の通し穴があるが本件意匠の中子部にはそれがないことも当事者間に争いがないから、この点において両意匠間に相違があるが、右中子部についての形状は視覚上の印象が弱い上、中子部は把持柄内に挿入されて外部から見えないものであるから、意匠の要部と云うことはできない。これに反して先端部及び本体部についての前記形状は、これによつて薄い鋸の刃がぺらぺらするのを防止し、その安定感を増すことによつて審美的効果を発揮し、視る者に強い印象を与えるものであるから、右両意匠の要部であると云うことができる。従つて要部の形状が一致する両意匠は類似意匠と云うべきである。
被控訴人は、本件意匠の先端部及び本体部の前記形状は登録出願前公知であつたから、本件意匠の要部と云えない旨主張して、乙第一、二号証を提出するが、右乙号証は昭和二年及び三年に出願の「鋸」の実用新案公告であるところ、そこに描かれた鋸の背金は、何れも先端から後方まで同一幅のものであつて、本件意匠とは異なるから、右乙号証によつては未だ右先端部、本体部が本件意匠の要部であることを否定できない。尚、成立に争いのない甲第一七号証の一ないし四、乙第一六号証中の日本刃物工業新聞の記載によると、被控訴人は昭和五二年一〇月一四日イ号意匠について登録出願をしたところ、右意匠は昭和四四年一〇月一〇日付日本刃物工業新聞用に記載された「レザーソー」中の背金の図面に類似するものとして拒絶査定を受けたが、右新聞に記載された「レザーソー」中の背金の図面は中子部が把持柄内に挿入されていて見えないものであり、且つ右「レザーソー」の背金の意匠(但し中子部は見えない)は本件意匠と同一であることが認められるのであつて、
この点からも本件意匠及びイ号意匠の要部が先端部及び本体部であつて、中子部は要部ではなく、且つ右両意匠が類似するものであることが明らかである。
2 被控訴人は、イ号物件は把持柄に固定されて取外しができず、互換性もないから独立物品ではなく、これをロ号物件及びハ号物件に使用しても意匠法26条利用関係は成立しない旨主張するが、原審における控訴人A及び被控訴人各本人尋問の結果と弁論の全趣旨とによると、被控訴人はイ号物件である背金と把持柄とをそれぞれ各別の業者から仕入れ、被控訴人方で組立てているのであるが、右組立の方法は、背金の中子部を把持柄に挿入し、中子部の通し穴を利用して両者を釘で止めるものであることが認められるから、イ号物件は把持柄に固定されていると云うも、釘を外せば取外すことが可能であるし、又右認定によるとイ号物件は独立して取引の対象となり得ないものと云うことはできない。更に成立に争いのない甲第五号証、乙第三号証と弁論の全趣旨とによると、本件意匠の登録出願に対して一旦拒絶査定がなされたが、その後の審決において、本件意匠の対象である「鋸用背金」は鋸の附属品とも云うべきものであるが、意匠法の対象となる独立の物品であると認められて意匠登録がなされたのであり、而してイ号物件は右「鋸用背金」と同一の用途に用いられ、同一の機能を果す(薄い鋸の刃がぺらぺらするのを防止する)ものであることは、原審における控訴人A及び被控訴人各本人尋問の結果によつて認められるのであつて、これらの諸点を考え併せると、イ号物件も意匠法の対象となる物品であると認めるのが相当である。
又被控訴人は、意匠法26条の利用は先願の意匠をそつくりそのまま使用する場合であるところ、仮にイ号意匠が本件意匠に類似するとしても、ロ号物件、ハ号物件においては背金の中子部が見えないのであるから、ロ号意匠、ハ号意匠は本件意匠の一部を実施するに過ぎないのであつて、意匠法26条の利用に該当しない旨主張するが、ロ号物件及びハ号物件はイ号物件全部を背金として使用しているのであるからイ号意匠の全部を実施しているのであつて、たとえ中子部が把持柄に挿入されていて外部から見えないとしても、イ号意匠の一部を実施しているに過ぎないものと云うことはできない。若しかかる場合意匠の一部を実施しているに過ぎないものとすると、或る先願意匠権の対象である部品(例えば自転車のハンドル)を後願意匠権の対象である本件(自転車)に結合して使用する場合、右結合部分は外部から見えないのが通常であるから、先願部品を後願本体に使用する場合は意匠法26条の適用されることが殆んどなくなる結果となり、先願部品の意匠権の保護が全うされないこととなる。
従つて、被控訴人の右主張は何れも採用することができない。そして、被控訴人がその有するロ号意匠を実施しようとする場合、必ず本件意匠の類似意匠であるイ号意匠を実施しなければならないのであるから、ロ号意匠及びこれを利用するハ号物件の意匠は、背金部分において本件意匠を利用する関係にあるものと云わねばならない。
五 以上によると、被控訴人がロ号意匠又はハ号意匠を実施するについては、控訴人Aより本件意匠について通常実施権の許諾を受けるか、それが得られない場合は特許庁長官の裁定を得なければならないところ、被控訴人が右許諾等を得たことについては何等の主張も立証もないから、右許諾等を得ていないものと認めるほかはない。
そうすると、被控訴人に対して、別紙イ号図面表示の意匠にかかる鋸用背金を業として使用すること及び右背金を有する鋸を販売することの各差止めを求め、又右背金の廃棄を求める控訴人らの請求は、何れも正当として認容すべきものである。
六 次に控訴会社の損害賠償請求について検討する。
1 控訴会社が控訴人Aより設定を受けた本件意匠権の専用実施権について昭和五三年一月三〇日登録を経由することによつて同実施権を取得したことは前記の通りである。従つて被控訴人による同日以降のハ号物件の製造、販売は控訴会社の右権利を侵害するものであり、反証のない本件では、右侵害は過失に基づくものと推定されるから、被控訴人は右侵害によつて控訴会社に与えた損害を賠償すべき義務がある。
そこで、損害額について検討するに、成立に争いのない乙第七ないし第一一号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第一三号証、控訴会社の製品であることに争いのない検甲第三号証、被控訴人の製品であることに争いのない検甲第二号証、原審における控訴人A本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は昭和五三年一月三〇日から同年一二月までの間に、ほうらい製作所外四業者に対して別表記載の通り合計六六〇一丁のチエンジソー(ハ号物件の商品名)を、単価七〇〇円ないし八八〇円(型式によつて単価が異る)で販売し、その代金総額は四九二万〇五六〇円であること、控訴会社の製品であるレザーソーの本体の原価は一丁当り四三六円五〇銭であり、荒利益は四割ないし五割であること、両製品の構造は似通つたものであるからチエンジソーの本体の原価及び荒利益もレザーソーと略々同様であると考えられること、以上の通り認められる。尚昭和五四年一月一日以降の被控訴人による右販売についてはこれを認めるべき証拠はない。
ところで、意匠法39条1項に云う利益は純利益を云うものと解されるところ、
原審における被控訴人本人尋問の結果中には、
被控訴人製品の販売による純利益は一丁当り五〇円ないし六〇円である旨の供述があるけれども、これによると被控訴人の前記期間(約一一ケ月)のチエンジソーの販売による純利益は四〇万円に満たないものとなるので、にわかに措借し難い。然し前記荒利益率に右被控訴本人の供述等も参酌すると被控訴人の純利益は前記販売額の少なくとも二割はあるものとみるのが相当であつて、これによると被控訴人の得た利益は九八万四一一二円となる。そうすると、被控訴人はその製品の右期間の販売によつて、控訴会社に対して同額の損害を与えたものと推定されるから、これを賠償すべき義務がある。
2 被控訴人は、本件意匠にかかる物品は鋸用背金のみであるから、完成品である鋸(ハ号物件)の販売によつて得た利益の全部を控訴会社の損害と推定すべきではない旨主張するが、被控訴人が完成品であるハ号物件を販売することによつて、控訴会社の完成品の販売が低下して損害を蒙るのであるから、被侵害意匠にかかる物品が、被控訴人の販売品の一部を構成するに過ぎないと云う事実は控訴会社の損害の算定に影響するものではない。従つて被控訴人の右主張は採用し難い。
3 次に、昭和五三年一月二九日以前の侵害による損害賠償請求について考えるに、控訴会社が右同日以前に有した権利は本件意匠権の通常実施権に過ぎないものと考えられるが、原審における控訴人A本人尋問の結果によると、同控訴人は控訴会社以外の者に本件意匠権の実施を許諾していなかつたことが認められるから、控訴会社は独占的通常実施権を有したものと考えられる。ところで、かかる実施権は意匠権者に対する債権的請求権に過ぎないから、控訴会社の損害賠償請求権の成否は、債権侵害に関する一般原則によつて決するほかはないところ、前記甲第一七号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一九号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第一五号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は昭和五二年一〇月頃弁理士辻寿に相談して意匠公報等を調査して貰つたところ、イ号意匠は先願登録意匠抵触しないと云う説明を受けたので、その頃からハ号物件の製造、販売を始めると共に、同弁理士を代理人として、同月一四日イ号意匠について意匠にかかる物品を「換刃鋸用背金」として、又同月二九日ロ号意匠について意匠にかかる物品を「鋸の柄」として、それぞれ登録出願をし、
右イ号意匠については結局拒絶査定を受けたのであるが、最初に拒絶理由の通知を受けたのは昭和五三年九月二九日であつたことが認められるのであつて(尚ロ号意匠については前記の通り昭和五五年六月二六日に登録がなされた)、これによると、被控訴人において、同人が昭和五二年一〇月から同五三年一月二九日までハ号物件の製造、販売をしたことが控訴会社の前記実施権を侵害する結果となることを認識していたものと認め得ないことは勿論、右認識をしなかつたことに被控訴人に過失があつたものと認めることも困難である。
そうすると、被控訴人の右販売等の行為が控訴会社に対する不法行為を構成すると認めることは困難であるから、その余の点について判断するまでもなく、前記損害賠償の請求は失当であると云わねばならない。
七 以上の次第で、控訴人らの本訴請求は、五項及び六項に説示の範囲で正当として認容すべきであるが、その余は失当であつて棄却を免れない。尚控訴会社は遅延損害金を昭和五二年一二月二三日から求めているけれども、被控訴人による控訴会社の専用実施権の侵害は昭和五三年一月三〇日以降であるから、同日以前に遅延損害金の発生するいわれはない。而して、被控訴人による右侵害は、右同日から同年一二月末までであり、この間日々損害賠償債権が発生し、且その履行期が到来しているが、右毎日の損害額を算することはできないので、遅延損害金は、同年一二月末日現在の損害総額について、昭和五四年一月一日以降の範囲で認容することとする。
よつて、これと一部結論を異にする原判決を主文第二項以下の通り変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条92条93条96条を、仮執行の宣言につき同法196条を適用して、主文の通り判決する。
裁判官 大野千里
裁判官 林義一
裁判官 稲垣喬