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関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  模様 /  色分け /  意匠に係る物品 /  意匠の類似 /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  特許権 /  実施料相当額 /  類似性(類否判断) /  損害額 / 
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事件 昭和 51年 (ワ) 2723号
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裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 1979/12/17
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一、被告は、別紙物件目録のねじ切り盤を業として製造販売してはならない。
二、被告は、原告に対し、金一九八万五、〇四〇円及びこれに対する昭和五二年一月一四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三、原告のその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五、この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第一、当事者の求めた裁判一、請求の趣旨1 被告は、別紙物件目録のねじ切り盤を業として製造販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金三三〇万八、四〇〇円及びこれに対する昭和五二年一月一四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 仮執行宣言二、請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を、いずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二、当事者の主張一、請求原因1 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有する。
意匠に係る物品 ねじ切り盤出願日 昭和四九年七月二五日登録日 昭和五一年三月一七日登録番号 第四二八一六四号登録意匠の範囲 別添(二)ロ号写真(一)ないし(八)に示すとおりのねじ切り盤形状2 本件登録意匠の具体的構成は次のとおりである。
即ち、本件登録意匠は、底面に大きく油タンクを設けるとともに右底面の四隅付近に短い台脚を配置した機台の上面の手前位置と背方位置とに左右方向に平行する二本の長い大案内棒を機台の上面から間隔をおいて水平に張架し、右両案内棒の左方部間には環状のダイヘツドを右両大案内棒の中間上方に位置するように右側に張り出させたねじ切り機構部のケーシングを架装し、右ケーシングの後方左側面には、その上面が右ケーシングの上面より若干低くなる箱形のモーター部を水平方向に大きく張り出させ、前記両大案内棒の機台を越えた延長右端部間には、前後方向に平行する二本の小案内棒を右両大案内棒より高位置において水平に張架し、右両小案内棒にはV型チヤツクとその谷部に対向する爪付チヤツクとよりなるバイス装置を設け、右両小案内棒相互間にはチヤツク操作用のねじ棒を平行に設け、右ねじ棒の前端部及び前記ねじ切り機構部のケーシングの前面下端部には、それぞれ開脚型のハンドルを取り付け、手前の大案内棒には移動式ストツパーを設け、モーター部の基部前面にはチエンジレバーを立ち上らせて設け、機台の前記各台脚の下端には取り外しのできる脚柱を開脚状に取り付けたものである。
3 被告は、昭和五一年三月一七日以降、別紙目録のねじ切り盤(以下「イ号製品」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)を業として製造販売している。
4(一)イ号意匠の構成は、底面に大きく油タンクを設けるとともに右底面の四隅付近に短い台脚を配置した四角形の機台の上面の手前位置と背方位置とに、左右方向に平行する二本の長い大案内棒を機台の上面から間隔をおいて水平に張架し、右両案内棒の左方部間に、環状のダイヘツドを右両大案内棒の中間上方に位置するように右側に張り出させたねじ切り機構部のケーシングを架装し、右ケーシングの後方左側面にはその上面が右ケーシングの上面より若干低くなる箱形のモーター部を水平方向に大きく張り出させ、前記大案内棒の機台を越えた延長右端部間には、前後方向に平行する二本の小案内棒を右両大案内棒より高位置において水平に張架し、右両案内棒にはV型チヤツクとその谷部に対向する爪型チヤツクとよりなるバイス装置を設け、右両小案内棒の相互間には、チヤツク操作用のねじ棒を平行に設け、右ねじ棒の前端部及び前記ねじ切り機構部のケーシングの前面下端部には、それぞれ開脚型のハンドルを取り付け、手前の大案内棒には、移動式ストツパーを設け、モーター部の中間上縁部付近にはチエンジレバーを手前方向に略水平に設け、
機台の短い台脚の外側面にはこれらに脚柱の上端を嵌合して開脚状に固定するためのボルトを螺挿したものである。
(二)右意匠は、後述5の差異を考慮しても、本件登録意匠と酷似している。
5 ところで、右両意匠の構成には次の如き差異がある。
(一)本件登録意匠では、チエンジレバーがモーターの基部前面に立ち上らせて設けられているのに対し、イ号意匠ではこれがモーター部の中間上縁部付近に手前方向に向け略水平に設けられていること(二)本件登録意匠では機台の短い台脚の下端に取外しのできる脚柱が開脚状に取り付けられているのに対し、イ号意匠では、脚柱を欠如し、各台脚の外側面に、脚柱を開脚状に取り付け固定するためのボルトが螺挿されていること しかし(一)の差異点は、看者に特別の印象を与えることのない部分的な小差にすぎず、(二)の差異点はこの種の物品の意匠において当業者に普通に知られている範囲の単なる改変の一つであつて、これまた部分的な小差にすぎないものである。
よつて、全体として観察した場合において、イ号意匠は本件登録意匠の類似範囲に属するものである。
6 右のように、被告の製造販売するイ号製品は、原告の有する本件意匠権を侵害するものであるにかかわらず、被告は、イ号製品を将来にわたつて製造販売するおそれがある。
7 被告は、昭和五一年三月一七日から同年八月三一日までの間に、原告の本件意匠権を侵害するものであることを知り、または知りえたにかかわらず過失により知らないで、本件登録意匠に類似するイ号意匠を備えたイ号製品五九四台を代金合計金六六一六万八、〇〇〇円で販売し、原告の本件意匠権を侵害した。
8 本件意匠権の通常実施料率は五%であり、原告は、被告の前記侵害行為により、前記販売代金に右一〇〇分の五を乗じた金三三〇万八、四〇〇円の実施料相当の損害を受けた。
よつて、原告は被告に対し、意匠権に基づき、イ号製品の製造販売の停止並びに不法行為による損害賠償請求権に基づき金三三〇万八、四〇〇及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年一月一四日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、被告の主張1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2の事実は否認する。
(一)本件登録意匠の具体的構成は、
原告主張の内容に左の事項を付加したものである。
(1)ケーシングの後方左側面には、モーター取付ブラケツトを突出させ、これにモーターを取り付けている。
(2)ケーシングには、左側面からダイヘツドまでを開放した大径の円形孔が形成されている。
(3)バイス装置はブラケツトにより両大案内棒に嵌着され、二本の小案内棒は、
右ブラケツトに挿通固定してある。
(4)チヤツク操作用のねじ棒は後端が固定されている。
(二)モーター部が水平方向に大きく張り出していること、バイス装置がV型チヤツクとその谷部に対抗する爪付チヤツクよりなることはいずれも、原告の本件意匠権登録出願時には公知のものであり、なんら特長をなすものではない。
3 請求原因3の事実中、被告が昭和五一年三月一七日以降の一定期間イ号製品を製造販売したことは認め、現に製造販売していることは否認する。
4 請求原因4(一)、(二)の事実は否認する。
イ号意匠の具体的構成は、底面に油タンクを設け、右側上面から油受板を右側に突出して設け、かつ下面の四隅に短い四個の据付突座を設けた四角形の機台の上面の手前位置と背方位置に、左右方向に平行する二本の長い大案内棒を、機台の上面から間隔を置いて水平に張架し、右各据付突座には押ねじを螺装し、右両大案内棒には、後部左側にモーター部を突出させて直接に取り付け右側にはダイヘツドを取り付けたねじ切り機構部のケーシングを架装し、右ケーシングの右側にはダイヘツドの前まで突出する切削油給油ノズルを設け、右ノズルの管部をケーシングの右側面後方に取り付けた油ポンプの送油側に取り付け、ケーシングの前部の大案内棒に嵌まる管状突部と、ケーシングの背部の大案内棒よりさらに背方に突出する部分の右側面とに一方は前部の大案内棒の後側に位置され、他方は背部の大案内棒の後側に位置させた右方への突出長さが異なつた油飛散防止板を取り付け、ケーシングには、その左側面からダイヘツドまでに通ずる円形孔を設け、これにバーリングリーマーのハンドル部を螺装してそのハンドル部を突出状に現わし、ケーシングの左側面に沿わせて前後方向に向けたチエンジレバーを右ケーシングに上下揺動可能に取り付け、右両大案内棒の機台を越えた右側部間で、油受板上に該当する部分に、バイス装置のブラケツトを嵌着して、右ブラケツトに、二本の小案内棒を、両大案内棒上で直角に横切る方向に挿通固定し、右両案内棒には、V型チヤツクとその谷部に対向する爪付チヤツクとからなるバイス装置を設け、右両小案内棒間には、チヤツク操作用のねじ棒を設けてその前端を移動不能に支持し、右ねじ棒の前端と、ケーシングの前面下端部とに、開脚型のハンドルをそれぞれ取り付け、手前の大案内棒には、ねじ切上ストツパーを設け、ケーシングの前面スイツチ部分を除いた全外面と油飛散防止板と、バイス装置の両大案内棒に嵌着したブラケツト及びチヤツクの対応内面の一部を除いた全外面と、ねじ切上ストツパー爪軸を除いた全外面とを黄色に彩色し、機台、油受板、モーターのカバー、ダイヘツド、チエンジレバーをそれぞれ黒色に着色し、両大案内棒、両小案内棒、ねじ棒、ハンドル等を自然の金属色のまま残した色分け模様を施したものである。
5 請求原因5の事実中、本件登録意匠とイ号意匠との間に(一)、(二)の差異点の存することは認め(但し、(二)にいうボルトは脚柱ではなくキヤスターを固定するためのものである。)右差異点が部分的小差にすぎず、イ号意匠が本件登録意匠の類似範囲に属するとの点は否認する。
本件登録意匠とイ号意匠との間には、他に次の差異がある。
(一)本件登録意匠では、モーター部はねじ切り機構部から左側に突出させたモーター取付ブラケツトに取り付けられているがイ号意匠では、ねじ切り機構部に直接取り付けられていること(二)イ号意匠では、機台の右側上面から油受板が右側に突出して設けられているが、本件登録意匠ではこれがないこと(三)本件登録意匠では、ケーシングには左側面からダイヘツドまでを開放した大径の円形孔が形成されているが、イ号意匠では、右同様の円形孔にバーリングリーマーのハンドル部をねじ込んで右ハンドル部を突出状に現わしていること(四)イ号意匠では、ケーシングの右側に、ダイヘツドの前まで突出する切削油給油ノズルが設けられ、右ノズルの管部がケーシングの右側面後側に取り付けた油ポンプの送油側に取り付けられているが、本件登録意匠ではこれがないこと(五)イ号意匠では、前部の大案内棒の後側及び背部の大案内棒の後側に、それぞれ、右方への突出長さが異なつた油飛散防止板が取り付けられているが、本件登録意匠ではこれがないこと(六)本件登録意匠では、両小案内棒間にあるチヤツク操作用のねじ棒は後端が固定されているが、イ号意匠ではその前端が固定されていること(七)本件登録意匠では、ケーシングの前面上部にスイツチが設けられているが、
イ号意匠では、スイツチはケーシングの前面中間部に設けられていること(八)本件登録意匠では、ケーシングの側面は四角形を基調としモーター部は機台の背面延長線から僅かにはみ出しているが、イ号意匠では、ケーシングの側面は三角形を基調とし、モーター部は機台の背面延長線上から大きくはみ出していること(九)本件登録意匠では、機台の各台脚は機台左右正背面の端部からやや奥に入つて取り付けられておりまた油タンクは右各台脚に接して取り付けられているが、イ号意匠では、機台の左右正背面と各台脚が一体化された平面をなしておりまた油タンクは前後左右に空間をもつていること(一〇) イ号意匠では、黄色、黒色、金属色よりなる色分け模様が施されているが、本件登録意匠では色彩、模様もしくはこれらの結合につき何ら特徴を有しない。
本件登録意匠、イ号意匠に共通するモーター部の水平張出及びバイス装置の形状はいずれも、本件登録意匠の登録出願時には公知のものであり、本件登録意匠とイ号意匠との類否判断にあたつては、その余の部分の異同こそ重視さるべきものであるところ、本件登録意匠とイ号意匠との間には、請求原因五の(一)(二)及び本項(一)ないし(一〇)の差異点が存するのであるから、イ号意匠は、本件登録意匠の類似範囲内に属さない。
六、請求原因六の事実は否認する。
七、請求原因七の事実中、被告が、昭和五二年三月一七日から同年八月三一日までの間に、イ号意匠を備えたイ号製品五九四台を代金合計金六六一六万八、〇〇〇円で販売したことは認め、その余の事実は否認する。
本件登録意匠を備えた原告製品には、本件意匠権の登録番号の表示がなく、また原告は被告に対し、昭和五一年五月六日ころ、書面によりイ号製品の製造販売の停止を求めるとともに本件登録意匠の意匠登録証写を送付してきたが、右登録証写添付の写真は不鮮明で内容を確知するには不十分なものであつた。従つて被告としては、同年七月二三日本件登録意匠につき、意匠法20条3項所定の事項を記載した意匠公報が発行されるまでは、本件登録意匠の内容を知りえなかつた。
八、請求原因八の事実は否認する。本件登録意匠の通常実施料率は二%を越えるものではない。
第三、証拠(省略) 理 由一、原告が、本件登録意匠の権利者であり、被告がイ号製品を製造販売したものであることは当事者間に争いがない。
二、そこで、本件登録意匠とイ号意匠との類比について判断する(なお、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件登録意匠は色彩を限定しないものであることが認められるから、色彩の差異による審美的効果への影響は無視する)。
1 本件登録意匠を備えた原告製品であることに争いのない検甲第一号証によれば、本件登録意匠の構成は(一)底面に油タンクを設け、右底面の四隅付近に短い台脚を配置した機台の上面の手前位置と背方位置とに、左右方向に平行する二本の長い大案内棒を機台の上面から間隔をおいて水平に張架し、右各台脚には脚柱を開脚状に取り付け(二)右両案内棒には、その左方部間に、環状ダイヘツドを右両大案内棒の中間上方に位置するように右側に張り出させて取り付け、かつ、その上面がケーシングの上面より若干低くなる箱形のモーター取付ブラケツトを後方左側に設けて右ブラケツトにモーター部を水平方向に大きく張り出させて取り付けたねじ切り機構部ケーシングを架装し(三)前記両大案内棒の機台を越えた延長右端部間にバイス装置のブラケツトを嵌着し、右ブラケツトに、二本の小案内棒を右両大案内棒より高位置において前後方向に挿通固定し、右両小案内棒にはV型チヤツクとその谷部に対向する爪付チヤツクとからなるバイス装置を設け、右両小案内棒間にはチヤツク操作用のねじ棒を平行に設け(四)右ねじ棒の前端部及び前記ねじ切り機構部のケーシングの前面下端部には、
それぞれ開脚型ハンドルを取り付け、手前の大案内棒にはストツパーを設け、モーター部の基部前面にはチエンジレバーを立ち上らせて設けたものであることが認められる。
2 一方、イ号意匠を備えた被告製品であることに争いのない検甲第二号証によれば、イ号意匠の構成は(一)底面に油タンクを設け、右底面の四隅に短い台脚を配置し、右側上面から油受板を右側に突出して設けた機台の上面の手前位置と背方位置とに左右方向に平行する二本の長い大案内棒を機台の上面から間隔をおいて水平に張架し、右各台脚には押ねじを螺装し、
(二)右両案内棒には、その左方部間に、環状のダイヘツドを右両案内棒の中間上方に位置するようにその右側に張り出させて取り付け、かつその上面がケーシングの上面より若干低くなるモーターを後方左側に水平方向に大きく張り出させて取り付けたねじ切り機構部のケーシングを架装し、右ケーシングの右側にダイヘツドの前まで突出する切削油給油ノズルを設けて、右ノズルの管部を右ケーシングの右側後方に取り付けた油ポンプの送油側に取り付け(三)前記両大案内棒の機台を越えた延長右端部間に、バイス装置のブラケツトを嵌着し、右ブラケツトに二本の小案内棒を、右両大案内棒より高位置において前後方向に挿通固定し、右両小案内棒にはV型チヤツクとその谷部に対向する爪付チヤツクとからなるバイス装置を設け、右両小案内棒間にはチヤツク装作用のねじ棒を平行に設け(四)前記ケーシングの前部の大案内棒に嵌まる管状突部と、右ケーシングの背部の大案内棒よりさらに背方に突出する部分の右側面とに、一方は前部の大案内棒の後部に位置され、他方は背部の大案内棒の後側に位置させた右方への突出の長さが異つた油飛散防止板を取り付け(五)前記ねじ棒の前端部及び前記ねじ切り機構部のケーシングの前面下端部には、それぞれ開脚型のハンドルを取り付け、手前の大案内棒にはストツパーを設け、モーター部の中間上縁部付近にチエンジレバーを手前方向に向け略水平に設け(六)全体を(1)、ケーシングの前面スイツチ部分を除いた全外面、油飛散防止板、バイス装置のブラケツト及びチヤツクの対応内面の一部を除いた全外面、並びにストツパーのストツパー爪軸を除いた全外面、(2)、機台、油受板、モーターのカバー、ダイヘツド及びチエンジレバー、(3)、両大案内棒、両小案内棒、ねじ棒及びハンドルの三部に分かち、それぞれ彩色を異にする模様を施したものであることが認められる。
3 そこで本件登録意匠とイ号意匠とを対比して両者の類否を検討すると、両者は、いずれもねじ切り盤の意匠であつて、
(一)底面に油タンクを設けた機台の上面の手前位置と背方位置とに、左右方向に平向する二本の長い大案内棒を機台の上面から間隔をおいて水平に張架し、
(二)右両案内棒には、その左方部間に、環状のダイヘツドを右両案内棒の中間上方に位置するように右側に張り出させて取り付けかつその上面がケーシングの上面より若干低くなるモーター部を後方左側に水平方向に大きく張り出させたねじ切り機構部のケーシングを架装し、
(三)前記両案内棒の機台を越えた延長右端部間に、二本の小案内棒を、右両大案内棒より高位置において前後方向に挿通固定し、右両案内棒にはV型チヤツクとその谷部に対向する爪付チヤツクとからなるバイス装置を設け、右両案内棒間には、
チヤツク操作用のねじ棒を平行に設け(四)右ねじ棒の前端部及び前記ねじ切り機構部のケーシングの前面下端部には、
それぞれ開脚型のハンドルを取り付け手前の大案内棒にはストツパーを設けたものである点で基本的に一致している。
もつとも、本件登録意匠とイ号意匠とが、脚柱の有無及びチエンジレバーの取付位置、方向の点において相異することは当事者間に争いがなく、また検甲第一、二号証によれば右両意匠間には、モーター取付ブラケツトの有無、油受板の有無、切削油給油ノズルの有無、油飛散防止板の有無、スイツチの位置、ケーシングの側面の形状、台脚と油タンクの取付位置、模様の点に差異があることが認められる。しかし、右の如き差異があるため両者が看者に異つた審美感ないし印象を与えるものとは認め難いから、いずれも類否判断に影響を及ぼす程の差異とはいい得ない。
したがつて、右の如き差異があるにもかかわらず、イ号意匠は、全体として本件登録意匠に類似しているということができ、被告のイ号製品の製造販売行為は本件意匠権を侵害するものといわなければならない。
なお被告は、本件登録意匠出願当時、モーター部の水平張出、V型チヤツク及び爪付チヤツクよりなるバイス装置の形状は、すでに公知であり、両者の類否判断にあたつては、右相違点こそ重視さるべきである旨主張するが、被告が公知意匠として引用する、いずれも成立に争いのない乙第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし六、第一五号証の一ないし七に掲載されている公知意匠中には水平方向にモーター部が張り出したものも存在するとはいえ、箱形のねじ切り機構部のケーシングにこれより小型で箱形のモーター部を取りつけるという本件登録意匠に類似した様式のものは見出し得ず、また対抗するV型チヤツクよりなるバイス装置はあるものの、V型チヤツク及び爪付チヤツクよりなるバイス装置も存在せず、他に被告の主張を支持するに足る資料もないので、被告の主張は採用しえない。
三、証人【A】の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告のした被告の意匠使用差止仮処分執行後イ号意匠を実施していないことが認められる。しかしながら、今後被告が右の意匠を実施しないことを断定するに足る特段の事情を認め得る証拠がなく、前記認定のように被告に本件意匠権侵害の事実がある以上、被告はこれを侵害するおそれがあると認めるのが相当である。したがつて、原告には、被告の将来の侵害行為を予防することを請求する権利があるというべきである。
四、被告が昭和五一年四月一七日から同年八月三一日までの間にイ号製品を製造販売したことは、当事者間に争いがないところ右製品の製造販売行為は、本件意匠権を侵害するものであり、かつ、被告には、その侵害行為について少なくとも過失があつたものと推定される。
なお、意匠法40条前段の規定は、当該登録意匠の内容が意匠公報によつて公示される以前であつてもその適用があるものと解され、また同条の推定はこれをくつがえすに足る特段の事情がある場合には機能しないものであるが、被告主張の本件登録意匠についての意匠公報未発行、原告が被告に送付した意匠登録証写添付写真の不鮮明、本件登録意匠を備えた原告製品への登録番号不表示の事実をもつてしても右推定をくつがえすに足りない。
したがつて、被告は、不法行為者として原告に対し、右侵害行為によつて被つた原告の損害を賠償すべき義務がある。
五、原告は本件登録意匠の通常実施料相当額損害額として請求するものであるが、これは原告の現実の損害の有無多少にかかわらず、最低限の損害賠償額として意匠法39条2項により認められるものである。
ところで、被告が、昭和五二年三月一七日から同年八月三一日までの間に、イ号製品五九四台を代金合計金六六一六万八〇〇〇円で販売したことは当事者間に争いがない。そして、登録意匠の通常実施料率について、それが二%を下らないことについては当事者間に争いがないものの、他にその算定について採用できる証拠がない。しかし、本件登録意匠と前掲乙第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし六、第一五号証の一ないし七により認められるような従前のねじ切り盤の形状を較量参酌すると本件登録意匠の実施価値が特に低いと認めることはできないこと、成立に争いのない甲第九号証、乙第九号証の一ないし四によると一般に行われている特許実施料率は販売価格の二%以上であり、五%程度のものが多いことが認められ、また国有特許権についての実施料率の公表基準(昭和四七年二月九日特総第八八号特許庁長官通牒)は二%、三%、四%であることなどに照らして判断すると、本件登録意匠のそれは三%を下らないものと解するのが相当である。
従って、右売上代金合計六六一六万八、〇〇〇円に右実施料率三%を乗じた金一九八万五、〇四〇円が原告の損害額というべきである。
六、よつて、原告の本件請求はイ号製品の製造販売の停止並びに金一九八万五、〇四〇円の損害金及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年一月一四日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条を、仮執行の宣言につき同法196条1項を各適用して主文のとおり判決する。
裁判官 山内茂克
裁判官 村上敬一
裁判官 福崎伸一郎