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事件 昭和 48年 (ネ) 2082号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1975/04/02
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
右部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決に対する上告期間につき、附加期間として三月を定める。
事実及び理由
当事者の申立
控訴代理人は、主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
被控訴代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり、陳述した。
一 被控訴人は、左記登録意匠(以下、「本件意匠」という。)の意匠権者である。
(一) 出願 昭和三七年五月二日(二) 登録 昭和四〇年二月二七日(三) 登録番号 第二四五七六三号(四) 意匠に係る物品 スプレーガン二 そして、本件意匠は、スプレーガン(噴霧器噴口)の形状として別添意匠公報中の図面に表示されているとおりのものであり、その構成は、次のとおりである。
(一) ほぼ鳩笛状をした本体は、側面から見ると、水平方向に対して一端(噴出口部)を他端(下端部)より、やや上方に向け斜めに配し、両端を結ぶ背面は、ゆるやかな曲線をなしている。
(二) 本体は、その中央部より、やや下端寄りにおいて、両側に楕円形状に膨出している。
(三) 本体の噴出口部端面には、外周に数条の凹凸状に溝を形成した輪を中央部に設けた短円筒状のノズルを突出させ、噴出口としてある。
(四) 本体噴出口部内側下面に、側面から見て噴出口方向に向け、レバーを「ノ」字状に突出させてある。
(五) 本体膨出部下面に、周辺にきざみのあるつばを下端に配置した、膨出部の径とほぼ等しい直径をもつた短円筒状キヤツプを連設し、その中央に細長いパイプ様吸込筒を垂下させてある。
(六)側面から見て、レバーの基部付近の内側から本体側面中央付近につながるピストン軸が現われている。
三 一方、控訴人は、業として、別添写真(1)ないし(7)に表示されているとおりの形状の噴霧器噴出(以下、「本件物件」という。)を製造し、その製品およびこれを装着する噴霧器を販売し、現に本件物件の製品を控訴人の本社及び小野田工場に保管している。
四 ところが、本件物件の意匠の構成は、次のとおりである。
(一) ほぼ鳩笛状をした本体は、側面から見ると、水平方向に対して一端(噴出口部)を他端(下端部)よりやや上方に向け斜に配し、両端を結ぶ背面は、ゆるやかな曲線をなしている。
(二) 本体は、側面からみると、横方向に線条で区切られた段違い部分が形成されており、正面から見ると、線条を境として二段に台形が積み重ねられた形態をしている。
(三) 本体の噴出口部端面には、外周に数条の凹凸状に溝を設けた短円筒状のノズルを突出させ、噴出口としてある。
(四) 本体噴出口部円側下面に、側面から見て噴出口方向に向けレバーを「ノ」字状に突出させてある。
(五) 本体の下端部寄りの下面に、上部は本体底巾より、やや狭く、下部は本体底巾とほぼ等しい径からなり、下部外周に凹凸のきざみを設けた短円筒状キヤツプを連設し、その中央に細長いパイプ様吸込筒を垂下させてある。
(六) 側面から見て、レバーの基部の内側から本体側面先端部付近につながるピストン軸がわずかに現われている。
五 すなわち、本件物件の意匠は、部分的には本件意匠とわずかな差異があるにしても、基本的形態としては、水平方向に対して一端(噴出口部)を他端(下端部)より、やや上方に向け斜めに配し、両端を結ぶ背面がゆるやかな曲線をなしている鳩笛状をした本体を配し、この本体の噴出口部端面に、短円筒状ノズルを突出させて噴出口とし、また、本体噴出口下面に噴出口方向に向けて「ノ」字状レバーを突出させて、全体をピストル状に形成し、さらに、本体の下端部寄りの下面に、短円筒状キヤツプを連設し、その中央に細長いパイプ様吸込筒を垂下させている形状である点において本件意匠と共通し、しかも、このような基本的形態が本件意匠との全体的対比観察上、見る者をして最も強く注意を引かしめるところであるから、本件意匠に類似するものである。
六 したがつて、控訴人が業として本件物件を製造し、その製品およびこれを装置する噴霧器を販売する行為は、本件意匠権を侵害するものである。
よつて、本件意匠の権利に基づき、控訴人に対し右行為の禁止及びその保管中の本件物件の廃棄を求める。
答弁
控訴代理人は、請求の原因につき、次のとおり陳述した。
一 請求原因中、一の事実は認める。
二 同二の事実は、次の点を除いて、争わない。
本件意匠の構成の(一)について1本体全体の形状は、「鳩笛状」ではない。本体の底線は、他端(下端部)より背線に対し鋭角な曲線で蓋部後端と結ばれ、一端(噴出口部)の噴出口部取付下端部より背線と平行した部分とこれに続いた突出円孤状部とで蓋部前端に結んでいる。
本件意匠の構成の(四)についてー突出したレバーは「ノ」字状ではなく、本体に近い箇所に外方に突き出た部分があるから、「メ」字状である。
三 同三の事実中、本件物件が別添写真(1)ないし(7)に表示されているとおりの形状の噴霧器噴口であること、控訴人が過去に製造した本件物件の製品を保管し、販売していることは認め、その余は否認する。
四 同四の事実は、次の点を除いて、争わない。
本件物件の意匠の構成の(一)について1本体全体の形状は、「鳩笛状」ではない。また、本体の底線と噴出口部取付部からの側線とは、ほぼ直角に交わつている。
五 同五の事実は争う。本件意匠は、本体の下端が両端に球面状に膨出している点(被控訴人主張の構成(二))、背線に平行な底線部分を持ち、この部分から「メ」字状レバーが突出している点(同(一)、(四))及び本体とレバーとの間にピストン軸が嵌合されている点(同(六))に特徴があるところ、これに対し、
本件物件の意匠は、その本体が側面から見ると、横方向に線条で区切られた段違い部分が形成され、正面から見ると、線条を境としてニ段に台形が積み重ねられた形態をしており(被控訴人主張の構成(二)の点)、本体の底線と噴出口取付部からの側線とがほぼ直角に交わつており(被控訴人主張の構成(一)についての前記四の点)、その交わる部分から「ノ」字状レバーが突出している(被控訴人主張の構成(四)の点)から、両者は本体の全体的形状が全く異るとともに、側面から見て最も目につき易いレバー取付部の本体底線の形状も全く相違している。また、両者ともピストン軸が外部に現われている(それぞれ、被控訴人主張の構成(六)の点)が、本件物件の意匠の場合、それは極めてわずかな部分であつて、全体としては、ないものと見てもよく、本件意匠の場合と差がある。さらに、総合的に見ると、本件意匠の繊細で華奢な感じがするのに対し、本件物件の意匠は、重厚な感じを与えるため、両者は、全くその審美感を異にしている。したがつて、本件物件の意匠が本件意匠に類似しているとは到底いうことができない。
証拠関係は、控訴代理人において本件物件の製品であるとして検乙第一号証
を提出し、被控訴代理人において右同号証が控訴人主張のようなものであることを認めたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理 由一 被控訴人が本件意匠の権利者であること、本件意匠がスプレーガン(噴霧器噴口)の形状として別添意匠公報中の図面に表示されているとおりのものであること、控訴人が少くとも過去に製造した本件物件を保管し、販売していること及び本件物件がスプレーガン(噴霧器噴口)で別添写真(1)ないし(7)に表示の形状をしていることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件意匠と本件物件の意匠との類否について、考えてみると、本件意匠の対象とする物品と本件物件とは、右に確定したようにいずれもスプレーガン(噴霧器噴口)であり、それぞれについて右に確定した形状を比べれば、横長な本体の噴出口部端面に液体を噴出する短円筒状のノズル(噴出口)を、同部下面に空気弁に連結するレバー(挺子)を各配置し、本件下面に容液壜の蓋にあたる短円筒状のキヤツプ(帽状おさえ)を連設し、その中央から液体を吸込む細長い吸込筒を垂下させて、全体的にピストル状の形態を取つている点において共通し、ともに、
スプレーガン(噴霧銃と訳することもできる。
)の名にふさわしい外観を呈していることが明らかである。
しかしながら、レバーをピストルの引き金よろしく操作し、ノズルから弾丸よろしく液体を噴射して、噴霧器の機能を果すスプレーガンにおいて、空気弁その他の装置を内蔵する本体並びに外部の部品の構成が全体的にピストル状の形態を取ることは、その機能から考えて極めて常識的な構想であり、また、機能上当然必要とされるノズル、レバー、キヤツプ及び吸込筒の各部品が本件意匠の当該部分のような形状を取ること、すなわち、ノズルが短円筒状を、レバーが「ノ」字状ないしこれに近い形状(「メ」字状であつても格別のことはないと思われる。)を、キヤツプが壜の蓋のような短円筒状を、また、吸込筒が細長いパイプ状を取ることは、いずれもそれ自体としては極めてありふれた意匠の域を出ない。すなわち、スプレーガンのうち、ピストル式に操作するものは、その機能を全うするためには、いずれは本件意匠及び本件物件の意匠のようにピストル状の基本的形態を採るものであるから、そのような形状は、ピストル式スプレーガンとしては、ありふれたものと考えるのが相当である。
ところが、これに対し、本件意匠における本体部分と本件物件の意匠の本体部分とを比較してみると、いずれも、水平方向に対して一端(噴出口部)を他端(下端部)より、やや上方に向けて、斜に配し、両端を結ぶ背部がゆるやかな曲線をしているという共通点を有していることは、当事者間に争いがないとはいえ、成立に争いのない甲第二号証(意匠公報)及び本件物件であることに争いのない検乙第一号証によれば、右各本体の形状については、次のような顕著な相違があることが認められる。すなわち、
(一) 本件意匠においては、
1 本体を側面からみると、(イ)その輪廓が(a)前記のような背部の曲線、
(b)噴出口取付部の直線、(c)同部下端(レバー取付口端と一致する。)からキヤツプの一端に達するまで、はじめは背部にほぼ平行な直線に近い線、おわりは外側に膨らむ円孤、(a)キヤツプの上縁に接する底部の直線、(c)これに次で右の(a)の線の下端に達するまで外側に膨らむ円孤によつて形成され、(ロ)その表面に右(イ)、(e)の円孤の起点付近から本体の中心部に向け、背部の方にわずかに膨らむ円孤状の切り込みがあり、(ハ)その表面が右切り込みの下方において、横に切つた卵の上半分のような形で膨らみ、その円形の底面でキヤツプの上縁に接しているほかは、垂直方向に同一の平面をなし、
2 本体を正面からみると、(イ)最上部に円形の噴出口の端面があり、(ロ)その取付部下端の下方に同部とほぼ等しい幅のレバー取付口が開き、その上辺から細長いレバーが垂れ下り、(ハ)その背後の両側に、本体の下部が左右均等に楕円状に(左右を一体として捉えると、右1(ハ)同様、卵の上半分のような形で)膨らみ(楕円状に膨出の点は当事者間に争いがない。)キヤツプの上縁にその外周の径より少し狭い幅で接着し、
3 本体を上部からみると、(イ)噴出口取付部に続いて噴出口の外周の径とほぼ等しい幅の細長い背部があり、(ロ)その後尾の方の両側に、本体下部の膨出部分が、左右を一体として捉えると、キヤツプの外周より少し小さい同心円の形で、キヤツプの上縁に接着し、
4 本体を背後からみると、(イ)中央に右3、(イ)の背部があり、(ロ)その両側に、本体の下部が右2、(ハ)のような形状で、キヤツプの上縁に接着しているが、
これに対し、
(二) 本件物件の意匠においては、
1 本体を側面からみると、(イ)その輪廓が(a)前記のような背部の曲線(ただし、その下端付近の僅かな部分が底部に向けて急に曲つている。)、(b)噴出口取付部の直線、(c)同部下端(レバー取付口端とは一致しない。)から僅かに内側にくびれた後、ほぼ垂直に下向し、レバー取付口端に達する直線、(d)レバー取付口端から内側に折れて右(a)の線の下端に達する、ゆるやかな曲線(その後尾に近い部分において、キヤツプの上縁に接する。)によつて形成され、(ロ)その表面が噴出口取付部及び背部下端の両方から中央部に向けてゆるやかに膨らみ、かつ、上部から下部に向けて僅かに出張り、その下端近くでは丸みを帯びて底部につながり、(ハ)その表面を右(イ)、(a)の線の近くで、上の方が幾分厚い上下の段違い部分に区切る線条があり(各線条の存在については当事者間に争いがない。右線条と右(a)の線との間隔は噴出口取付部近くの方が他より広くなつている。)、
2 本体を正面からみると、(イ)最上部に円形の噴出口の端面があり、(ロ)その取付部の両側に、右1、(ハ)の線条によつて区切られた本体の上段部分が左右均等に、下方ほど幅広く張り出し、その下端で一旦内側にくびれた後、右線条で区切られた本体の下段部分が左右均等に、下方ほど幅広く(下端では、キヤツプの上縁よりも広い幅に)張り出し、(ハ)両側の各段違いのくびれを結び合せて、表面を、上の方が厚い上下の段違いに区切る線条があり、(ニ)右(ロ)、(ハ)の形状のため、本体の全体が大小二個の台形を積重ねたような輪廓を形成し、(ホ)下部が丸みを帯びて底部につながり、底部の一部がキヤツプの上縁に接着し、(ヘ)中央下部から細長いレバーが垂れ下り(その取付口は現われていない。)、
3 本体を上部からみると、(イ)噴出口取付部に続いて噴出口の外周の径より相当に幅の広い背部があり、(ロ)その両側に、右1、(ハ)の線条を備えた同(ロ)の膨らみが左右均等に現われ(なお、キヤツプ及びこれに接着する本体の部分はみえない。)、
4 本体を背後からみると、(イ)右3、(イ)の背部を中央にし、(ロ)その両側に、右3、(ロ)にみられた膨らみが左右均等に、下方ほど幅広く(下端では、
キヤツプの上縁よりも広い幅に)張り出し、下端近くでは丸みを帯びて底部につながつている。
(三) 以上にみたところから、両意匠の本体部分の相違は自ら明らかであるが、
そのうち最も注目すべき点は、側面における表面形状の処理であつて、本件意匠では、両側面の下辺の一部がキヤツプの外周の径に達しない限度で膨らんでいるだけで、その余は背部の両端から垂直に下向する平面であり、これに対し、本件物件の意匠では、両側面の全体が前後両方から中央部に向つて、ゆるやかに膨らみ、かつ、上部から下部に向かつて広がり、その下端はキヤツプの外周の径を超えて張り出し、また、上方には表面を段違いに区切る線条があるという違いがあるが、その差は、正面、平面及び背面の各形状の処理に影響を与え、両意匠の本体部分の特徴をそれぞれ決定付けている。なお、両意匠は、本体におけるレバー取付口の配置が相違し、それぞれの特徴になつていることも見逃がせない。そして、両意匠の本体部分がそれぞれ総体として見る者に与える印象には、右のような形状の特徴のため相当な差異が生じるのを免れず、本件意匠においては、細身の本体が噴出口間近にレバーを配し、下辺の一部をキヤツプの外周内に収まる程度に膨らませて、キヤツプの上に載せられていて、全体の形態が部位ごとに成立つた形状を組合せて構成され、どちらかといえば、顕著な感じがするのに対し、本件物件の意匠においては、
厚みのある本体が噴出口から離れた底部の前方にレバーを配し、前後方の中央及び下方に向けてゆるやかに膨らんだ側面につながる幅の広い底面に、これより小さいキヤツプを取付けていて、全体の形態がはじめから一体としてまとまつた形状に構成され、どちらかといえば、頑丈な感じを与える。
したがつて、以上のことから推して、スプレーガンの意匠としては、その本体部分にこそ、特徴のある形状を示すことができるものと認められると同時に、本件意匠の本体部分と本件物件の意匠の本体部分とは、その特徴点が全く相違していることが明らかであるから、本件意匠と本件物件の意匠とは、スプレーガンのありふれた意匠部分たるピストル状の基本的形態が一応、類似しているとはいえ、全体として総合的に見るならば、相互に類似するものということができない。
そうだとすれば、これが類似することを前提とし、本件物件の製造、販売行為の禁止及び本件物件の廃棄を求める被控訴人の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がないものというべきであるから、原判決中、被控訴人の請求を認容した部分は不当であつて、本件控訴は理由がある。
三 よつて、民事訴訟法第386条第96条第89条第158条2項に従い、主文のとおり判決する。
裁判官 駒田駿太郎
裁判官 中川哲男
裁判官 橋本攻