関連ワード | 意匠の実施 / 実施権の設定 / 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 類似する意匠 / 類似の意匠 / 意匠の類否 / 間接対比観察 / 全体観察 / 先使用(29条) / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 専用実施権 / 通常実施権 / 抵触 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
昭和
46年
(モ甲)
252号
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裁判所 | 名古屋地方裁判所 |
判決言渡日 | 1972/05/12 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事仮処分 |
主文 |
一、当裁判所が昭和四六年(ヨ)第五三八号仮処分命令申請事件について昭和四六年四月二三日にした仮処分決定を認可する。 二、訴訟費用は債務者の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第一、債権者の申請の趣旨 主文同旨。 第二、債務者の異議申立の趣旨一、主文第一項記載の仮処分決定を取消す。 二、債権者の本件仮処分命令申請を却下する。 三、訴訟費用は債権者の負担とする。 第三、申請の理由(当事者について)一、債権者は、肩書住所地に登記簿上の本店を置き、兵庫県西宮市<以下略>に実質上の本社機構並びに主力工場を有し、その他全国各地に工場、支店、営業所を有する各種電子機器の製造、販売(輸出を含む)を業とする会社であり、特に超音波魚群探知機を主力製品として、この分野では世界的に知られた企業である。 二、債務者は、肩書住所地に本店を有し、魚群探知機の製造、販売を業とする会社である。 (被保全権利について)三、債権者の権利(一) 債権者は、昭和四五年七月一三日、申請外【A】(債権者の代表者)から、その有する左記意匠権(以下「本件意匠権」という)につき、専用実施権の設定を受け、同年九月二七日付をもつて右設定登録を了して専用実施権者となつた。 なお、右専用実施権(以下「本件実施権」という)の範囲には何等制限が無い(意匠権の「全部」である)。 〈本件意匠権の表示〉意匠権者 【A】意匠に係る物品 超音波探知機出願日 昭和四一年五月二三日出願番号 昭和四一年意匠願第一五、八七三号登録日 昭和四五年四月一六日登録番号 意匠登録第三一三、九五三号(二) ところで、本件意匠権の内容は、その意匠公報所載の写真(本件意匠権の場合は図面ではなく実物の写真である)によつてのみ正確に認識し得るのであるが、債務者の製品が本件意匠権(その専用実施権)を侵害するものである理由を述べる前提として必要な限度で、以下言葉による説明を加えることとする。 (1) 本件登録意匠は、超音波探知機(超音波魚群探知機を含む)に関するもので、全体的形状は高さ、横幅、奥行が約一対一・四四対〇・七三の比をなす直方体の筐体から成り正面を除く全面に、主として美的見地から淡いハンマーネツト塗装が施され、平面及び底面と、左右両側面或は正面及び背面が交わる稜にやや丸味がつき、しかもその丸味は、後者の方が前者よりも小さく、そして筐体の正面にダイヤル表示プレート、ダイヤル表示目盛、記録紙窓等の権能的部分が特異な形状及び位置関係で配置されている。 本件登録意匠の特徴の大半がこの部分に集約されているといつてもよい。 (2) そこで、正面に表わされた意匠についてやや詳細に述べる。 (イ) 正面の形状は矩形で、縦と横の比率はほぼ一対一・四四であり、その周縁は丸味を帯びた淡調子のハンマーネツト塗装の枠状のもので囲まれている。 (ロ) 枠の内側は、上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色の目盛表示プレート、下部約三分の一は明色のダイヤル表示プレートからなる。 (ハ) 上部目盛表示プレートは更に左右二つの部分に分かれ、右約一〇分の四の部分には、黒色の目盛表示プレート上に透明の廻転深度目盛盤が設けられ、盤中央に取りつけられた黒色のツマミで廻転させられるようになつている。この盤の裏側には、同盤と同軸で、廻転可能な記録用ペンが取りつけられ、そのペン先は、左方にのびている。 左約一〇分の六の部分は、黒色の目盛表示プレートの中央に明色の大きな記録紙窓があけられている。窓の形状は、横長の長方形であるが、その右辺は、前記廻転深度目盛盤と重なるところが弧状になつている。窓の右部分には、右盤と同心円状の透明な目盛尺プレートが設けられ、窓の中には、白色の記録紙が入れられている。窓の左、上、下側に残つている黒色の目盛表示プレートの各幅は、右順序に狭くなつている。 (ニ) ダイヤル表示プレートは、明色無地の矩形で、その右端から約四分の一のところに小さなボルトメーターが設けられ、その右側には、上下に小さなマーカーボタン及び電源スイツチが、また左側には黒色の大きなダイヤル三個が等間隔に横一線に配せられている。 四、債務者製品の意匠(一) 債務者は、昭和四四年頃から本件登録意匠の意匠に係る物品(意匠法第6条1項4号、意匠を表わす対象物品のこと)と同じ超音波魚群探知機(以下「債務者製品」又は「一〇一型製品」という)の製造を開始し、国内市場に対しては自ら販売元として、また海外市場に対しては申請外日本マリナ株式会社の名で、右製品の輸出販売を行つている。 そして、債務者製品の意匠は、本件登録意匠に極めて類似する。以下その理由を述べる。 (二) 債務者製品の意匠は、超音波魚群探知機に関するものであつて、その要旨は次の通りである。 (1) 全体的形状は、高さ・横幅・奥行が約一対一・五対〇・七三の直方体の筐体で、正面を除く全面は、淡調子のハンマーネツト塗装を施され、平面及び底面と左右両側面或は正面及び背面とが交わる稜は丸味を帯び、その丸味は、前者よりも後者の方が小さい。 (2) 正面の形状は矩形で、縦横の比は約一対一・五で、その周縁は、筐体の壁端が、ハンマーネツト塗装された丸味を帯びた枠状をなして見える。 (3) 枠の内側は上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色を基調としたプレートからなり、下部約三分の一は明色のプレートからなる。 上部プレートは更に左右二つの部分に分かれ、右側約一〇分の四の部分には、透明な円盤型表示板がプレート上に設けられ、盤中央に取りつけられた黒色ツマミで廻転させられるようになつており、右板上には測定対象海域の深度を表わす数字が記入されている。その表示板の背後からは、左方にペンが伸びて、右ペンは前記円盤型表示板と廻転軸を同じくしている。 上部プレートの左側約一〇分の六の部分には、明色の窓があけられており、窓の右辺は右円盤型表示板と重なる所で弧状になつている。窓の右部分には、右表示板と同心円状の目盛尺が設けられており、窓の左・上・下側の黒色プレート部分は右順序に狭くなつている。 下部プレート上には、右端から約四分の一のところに小さなボルトメーターが取りつけられており、その右側には大きなダイヤル一個が、左側には左端から横一線に大きなダイヤル二個、小さな押ボタン一個、小さなツマミダイヤル二個が並んでいる。 五、本件登録意匠と債務者製品の意匠の比較(一) 意匠の類否判断は、全体観察による総合的判断であること言うまでもないが、意匠に係る物品の如何によつて、意匠の構成部分が意匠全体に占める比重に軽重の差があるのは当然のことである。 そして、本件意匠権に於ける意匠に係る物品であり、債務者製品でもある六面体をなす超音波探知機の場合には、正面に表わされた意匠が最も目につき易く、従つて、これを中心として更に側面、上面等に表わされた意匠をも総合的に斟酌のうえ、意匠全体としての類否を判断すべきこととなるのである。 (二) このような態度を観察の基本として、本件登録意匠と債務者製品の意匠とを以下に比較する。 (1) 正面の比較(イ) 債務者製品の意匠は次の各点において、本件登録意匠と全く同一である。 (a) 周縁がハンマーネツト塗装された丸味のある枠で囲まれたように見える。 (b) 右枠の内側は上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色を基調とするプレート、下部約三分の一は明色のプレートからなつている。 (c) 上部プレートは、左右二つの部分に分かれ、右側約一〇分の四には透明な円盤型表示板があり、その中央にはツマミダイヤルが存し、更にはその背後からは、右表示板と廻転軸を同じくし左方に伸びたペンがある。そして、右円盤型表示板は海底深度を表わす目盛板であるから、本件登録意匠の廻転深度目盛盤に該当し、右ペンは、測定された海中反射物(魚群等)を記録する為のものであるから本件登録意匠の記録用ペンに該当する。 上部プレートの左側約一〇分の六の部分には明色の窓があけられており、窓の右辺は、右表示板と重なるところで弧状になつている。また窓の右部分には透明な目盛尺が右表示板と同心円状に設けられており、更に窓の中には白色の記録紙が入れられ前記記録用ペンで、海中反射物が記録されるようになつている。窓の左・上・下側には黒色のプレート部分があつて、しかもその幅は、右順序に狭くなつていることなど債務者製品の意匠は本件登録意匠と全く同一である。 (d) 下部プレートは明色を基調とするプレートで、その右端から約四分の一のところに小さなボルトメーターがあり、その左右にダイヤル及びボタン類が配置されている点も全く同一である。 (ロ) このように、債務者製品の意匠は、本件登録意匠と、正面の意匠については数々の重要な特徴に於いて全く同じであり、僅かに左の二点に於いて微差を認めることができるだけである。 (a) 正面の縦横の長さの比が、本件登録意匠では、約一対一・四四であるのは対し、債務者意匠では約一対一・五となつている。 しかし、この程度の僅少な差は肉眼をもつてしては到底識別不能であり、まして意匠全体の印象を異ならしめるものではない。 (b) 下部プレート上に配置されているダイヤル等の数及び配列に若干の相違がある。 しかし、前述したように、意匠の類否判断に当つては、強調される部分の特徴の大半が似ていれば、細部にわたる差異は、判断の結果を左右する程の重要な意味をもたないのである。 そして、本件登録意匠にあつては、いずれかといえば正面の意匠に中心があると考えられるのであるが、そのうちでも、正面の全体的印象を形成するのに重要な役割を果しているのは、正面の形状が前述の如きものであること、周縁を枠状に囲まれて見えること、その内側は上下二つのプレートに分かれてその比率が、各約三分の二及び三分の一であること、前者は黒色を基調とし後者は明色であること、また上部プレートは更に左右二つの部分に分かれ、各々の部分に含まれるものの形状及び数が前述した如きものであること、下部プレートはダイヤル類を配置したダイヤル表示プレートであること等の基本的な諸点であり、しかも、その限りでは本件登録意匠と債務者製品の意匠は、既に検討したところから明らかなように、全く同一といつてよいのである。 即ち、債務者製品の意匠が、若し本件登録意匠とは異なつて、正面の下部プレートではなく、上部プレートや左、右いずれかの部分にダイヤル類を配しているとすれば、これは他の点で可成りの類似性があつても、なお、本件登録意匠とは或る程度印象を異にする結果となつたであろう。 ところが、実際には、債務者製品の意匠でも、正面の枠状部分の内側は一定比率に二分され、ダイヤル類はその下部約三分の一の部分に、本件登録意匠と同様横に配列されている。ダイヤル類の配列順序等の些細な違いは、あくまでも右のような全体の印象を支配する基本的な構成の枠内での微小な差に過ぎない。 以上の検討結果から明らかなように、債務者製品の意匠は、本件登録意匠と正面に表わされたところでは極めて類似しているといわなければならない。 (2) 側面等の比較 債務者製品の意匠は、正面だけでなく両側面、上面等、意匠全体を構成するその他の諸点に於いても、本件登録意匠に甚だよく似ている。 即ち、先に詳細に検討したとおり、各面はいずれも縦長の矩形状をなし、それぞれの面を構成する辺の長さの比はほぼ同じであり、各稜はいずれも丸味を帯びており、いずれの面も同様にハンマーネツト塗装を施されており、これらの基本的な諸点に於いてはほぼ同一というに近い。ただ、プラグの差込口やネジの取付位置等些細な点について若干の差異は認め得るが、所詮は全体の印象を明らかに別異ならしめる程本質的な差異とは到底考えられない。 かくて、債務者製品の意匠は側面その他の諸点に於いても本件登録意匠に極めて類似しているといわなければならない。 (三) 以上、債務者製品の意匠と本件登録意匠との類否について、各意匠の構成要素毎に詳細に検討し、前者は後者の類似の範囲内にあることを明らかにした。 しかしながら、本来このような分析的な検討より重要なことは、双方の製品の視覚による全体的比較である。 何となれば、先に述べたように、意匠は発明や考案と異なり、専ら視覚を頼りにすべきものであつて、言葉によつて表現するというやり方にはもともとなじまぬものだからである。即ち、債務者製品の意匠と本件登録意匠との類否は、言葉をもつて表現されたところによつて判断するのではなく、端的に両者を比較し、専ら視覚によつて直感的に判断すべきことであり、それで十分なのである。その場合、債務者製品の意匠と比較対照さるべき本件登録意匠とは、本件意匠公報に写真をもつて示された意匠であり、更に具体的には債権者の製品そのものである(本件意匠登録出願は、現実の債権者製品を写真撮影し、その写真をもつて図面に代替したのであるから)。 つまり、本件に於いては、債務者製品と債権者製品とを比較した場合、直観的に同一若しくは類似という感じがするかしないか、ということが問題であり、それがこの場合類否判断の最も適切な方法なのである。 そして、この種の比較は、一般に間接対比観察若しくは離隔的観察によるべきものとされている。これは直接対比観察と区別される観察方法である。 ところで、このような観察方法によつた場合、債務者製品の意匠が本件登録意匠に極めて類似するものであることは既に明らかである。 即ち、両意匠ともに、直方体の筐体からなり、その各稜は少しく丸味を帯び、高さ・横幅、奥行の比がほゞ同一であること、正面を除く各面が一様に淡調子のハンマーネツト塗装されていること、正面に探知機としての機能的部分を集め、且つ既に詳細に検討したような特異な状態に配列していること、他の面は単純な筐体を形成しているに過ぎず、しかも形状、寸法等ほゞ同一であること等全体として極めて近似のものであるとの印象が強く、些細な差異はあつてもなお一見して識別困難な程に類似性があることは疑いの余地がない。 六、債権者の請求権 以上のように、債務者は、本件登録意匠と類似の意匠を業として実施していることが明らかである。 従つて、意匠法第23条、第37条に基づき、債権者が債務者に対し、申請の趣旨各項に記載の各請求権を有することは明らかである。 (仮処分の必要性について)七、債権者は小型の超音波魚群探知機の開発に世界に先馳けて成功し、これを企業化した。その後、営々企業努力の結果、内外に市場を開拓し、現在では債権者製品は、国内に於ける需要もさることながら、海外市場に於いても性能の優秀さと意匠の斬新さをもつて知られ、極めて高い評価を受けている。 因みに、昭和四五年度に例をとれば、債権者製品の販売台数は合計三〇〇〇台余にのぼり、そのうち約七五パーセントが輸出に向けられている。海外市場の主なものはオーストラリア、ニユージーランド、ノルウエー、アメリカ等漁業の盛んな諸国である。 八、ところで、債務者は、その製造にかゝる小型超音波魚群探知機を、国内市場については“SUZUKI ES―101”なるマークを付して自らの名で、また海外市場については“J.MARINA F―101”なるマークを付して申請外日本マリナ株式会社の名で、それぞれ販売している。しかしながら、両製品は全く同一の製品である。 そして、その意匠が本件登録意匠と極めて類似するものであること、は先に詳細に検討したとおりである。 九、債務者が本件登録意匠の侵害品を製造、販売しはじめた為に、内外市場のいたるところで混乱を生じ、債権者は多大の迷惑を蒙つている。オーストラリアをはじめ主要な海外市場に於いて、債務者は債権者の販売代理店に対し、債権者製品と同一の超音波魚群探知機を債権者製品よりも安く売ると称して強引な売込みをはかり、債権者が多くの時間と費用をかけて育成した販売網を侵奪しつゝある。また、 このような方法で輸出された債務者製品は、いたるところで債権者製品と誤認されて買われ、着々と販売実績をのばしている。かくて、債務者が本件意匠権の侵害品の販売により内外市場に於いてこれ迄にあげた利益は、合計約四二〇〇万円にのぼるものと推定される。 一〇、この為、債権者に対しては、海外の販売代理店や現地駐在員から、債務者製品が債権者製品と混同される為に販売上多大の支障がある旨の報告や善処方を要望する業務連絡が頻々と届いている。また、債権者の貿易部長が海外出張の際、現地の販売代理店から、同じ製品に違うマークを付して売るようなことは、市場混乱のもとだからやめて欲しい旨の苦情を申立てられたこともある。或いはまた、同様の機会に、販売代理店から、新型を出したのなら販売代理店である自分にまず知らせてくれなくては商売がやり難くて困るではないかという趣旨の苦情をいわれたこともある。この種の事例は枚挙に暇無く、市場混乱による債権者の被害ははかり知ることが出来ない。 一一、これに対し、債務者がその製品の意匠を変更し、本件意匠権とは類似しないものに切替えることは、いと易いことである。意匠については、内部の機構をいじらなくても外観のデザインだけを変えればそれで済む話である。 従つて、債務者が現在の債務者製品で製造、販売を停止されたとしても、適当にモデル・チエンジして営業を継続することは全然差支えない。 因みに、債務者は、債権者からの権利侵害行為停止要請に対し、デザインを変更する旨の回答を寄せながら、その後一向にこれを実行しない。この間にも相変らず従来の債務者製品の製造、販売や広告等を続けている。 第四、債務者の主張一、本件意匠登録の無効について(一) 本件意匠は、アメリカのレイシヨン社の超音波探知機DE―725型(以下「七二五型」という)の意匠に類似する。すなわち、この種計器類の意匠判断において重要な部分を占めるのが、直方体、立方体、円柱等の全体の形および正面の形状であるが、右両意匠は、全体の形が横長の直方体であること(七二五型の意匠では側面下部がやゝ内側に折れ曲つているが、小規模の目立たないものであるので全体としてみれば直方体といつて妨げない。また、全体の大きさがやゝ異なるが、 意匠判断においては全体の大きさは余程の違いがない限り影響を及ぼさない。)、 正面の形状が全体として横長の長方形であること、正面の配置関係は全体として上部右側に円形のダイヤルプレート、上部左側に右側に弧状の凹みのある短長の記録紙窓、下部にダイヤル配置面を設けそこにありふれた大きさのツマミを配していること等において同一であるから、その他を微細に論ずるまでもなく明らかに類似している。 (二) そして、右七二五型の意匠は、本件意匠の登録出願以前にアメリカにおいて刊行された雑誌に登載されており、かつ昭和三九年四月に右雑誌が国立国会図書館に備え付けられたことにより国内公知となつている。 (三) 従つて、本件意匠は、意匠法第3条に違反して登録されたもので無効であり、債権者の本件申請は理由がない。 二、本件意匠と債務者の意匠の非類似性について(一) 仮に意匠の無効は審判手続においてのみ判断されるものとするならば、出願審査の過程において異議の制度を置いていない意匠法の下では、瑕疵ある意匠権によつて正当な利害関係人の利益が不当に侵害されることのないような解釈、判断がとられるべきである。 (二) 従つて、裁判手続においては、一応七二五型の意匠の存在を前提としてなおかつ本件登録意匠には無効原因がないものとして、すなわち、特許庁では本件登録意匠は七二五型の意匠(公知意匠)に抵触しないと判断したものと推定し、これに基づいて本件登録意匠の権利範囲を考えるべきである。 (三) そうであれば、前項(一)で述べたところからして、本件登録意匠の権利範囲は極めて狭く、ほとんど登録意匠そのものにしか及ばないことになる。そして、七二五型の意匠、本件登録意匠および本件申請における差止の対象たる債務者製造の超音波魚群探知機一〇一型の意匠の三者は、相互に類否判断上の重要な部分たる全体の形と正面の形状を共通にしているから、本件登録意匠が七二五型意匠と抵触しないならば、それと全く同じ理由で、一〇一型意匠は本件登録意匠の権利範囲外にあると考えざるを得ない。 三、先使用に基づく通常実施権について 仮に本件意匠登録の無効が裁判手続において主張できず、かつ本件意匠と一〇一型の意匠が類似であるとしても、債務者は一〇一型意匠につき先使用による通常実施権(以下「先使用権」という)を有する。すなわち、 (一) 債務者は、昭和三六年ころより、小型魚群探知機ES―128型(以下「一二八型」という)の製造販売を開始している。この一二八型は、構造上は、一〇一型の正面上部右側にある回転深度目盛計(フラツシヤー)が付属していないが、意匠については、一〇一型の正面上部右側にある円形ダイアルプレートの位置にやはり円形のネームプレートをつけており、その他正面の形状、全体の形についても一〇一型と同じ形態であるので、全体としてみれば、一〇一型に類似している。 右一二八型は、昭和三六年ころ製造、販売を開始しているので先使用権があり、 一〇一型は、本件登録意匠を知らず、それとは独立に一二八型より開発し、一二八型に類似しているものであるから、その製造開始の時期如何を問わずやはり先使用権がある。意匠法第29条は、意匠権者とは独立して登録意匠に類似する意匠の事業をしているものを保護する規定であるから、登録意匠を知らずに先使用権のある物品(一二八型)の意匠から開発し、かつ右先使用権のある意匠(一二八型の意匠)に類似する範囲内にある意匠についても、意匠法第29条の先使用権があるものというべきである。 (二) 仮に意匠法第29条の先使用権は本件において一二八型のみに限られるとしても、債務者は、昭和三九年に至り、七二五型の発売を知るや直ちに債務者が以前から製造販売していた一二八型と右七二五型をもとに新製品の開発に着手し、同四〇年ころに一〇一型のモデルを決定し直ちに製造販売に着手したから、本件意匠の出願の際既に一〇一型の意匠の実施にかかる事業をしていたものというべく、従つて、一〇一型意匠につき意匠法第29条の先使用権がある。 第五、債務者の主張に対する債権者の反論一、本件意匠登録の無効の主張に対して(一) 意匠登録の無効は、特許庁の審判手続によつてのみ可能であつて、裁判所においては無効とすることができない。 (二) なお、債務者主張の雑誌に示された七二五型の写真は、まず何よりも一面的なものであつて物品の意匠を公にしたものとはいえず(物品の意匠はその全面の意匠を総合的に判断すべきものである)、しかも、僅かに示された一面だけを見ても本件登録意匠とは顕著に相違する。 また、七二五型の実物を見るに、その意匠は、筐体の上部フードが前方へ庇状に張り出しており、全体の大きさのみならず、縦横のバランス(所謂プロポーシヨン)においても、本件登録意匠とは相当に異なるものである。 二、本件意匠と債務者の意匠の非類似性の主張に対して先に指摘したように、本件登録意匠は七二五型の意匠とは一見して明らかに相違するものであるのに対し、一〇一型の意匠は本件登録意匠に酷似するものであるから、この点に関する債務者の主張は理由がない。 三、先使用権の主張に対して(一) 先使用権は、 専ら衡平の見地から他人の工業所有権の出願前からそれとは無関係に実施していた者の事実状態を保護することを本質とするから、決して積極的な実施権ではなく、 極めて消極的な言わば免責特権に過ぎない。そうであるから、その免責の範囲は、 右に述べたように他人の出願前に現に実施していたことの範囲に限られるべきであり、他人の出願前から現に実施していた態様そのものではなく、それに変更を加えた態様のものについては原則として先使用権を認めるべきではない。 ただ、一般的にいえば、他人の出願前から実施していたものと実施態様の要部に於いて完全に一致し、その本質に全く影響の無い部分について些細な修正を加えた程度にとどまるような場合には、かかる実施態様についても先使用権を拡張して認めることが許されるとしても、厳格な要件を付し、先使用権の制度が本来の趣旨を越えて徒らに拡張適用されることがあつてはならない。しかるに、債務者のこの点に関する主張は、この限度を遥かに逸脱する。 ところで、いずれの場合でも、先使用権を主張するについては、他人の出願前から実施していたものが、その他人の権利内容の実施に該当するものであるという前提として無くてはならない。仮に、他人の出願前に実施していた態様と異なる実施態様のものについて先使用権を主張するという場合(かかる主張が認められるべきかどうかにつき問題があることは前述のとおり)でも、右の前提要件が必要なことは無論である。 ところが、債務者が一〇一型につき先使用権があると主張する根拠として挙げている一二八型なるものの意匠は、本件登録意匠とは全然似ても似つかぬものであり、およそ本件登録意匠につき先使用権を主張する根拠とならない。 それ故、本件登録意匠の出願前に於ける一二八型の実施を根拠に、一〇一型についても先使用権が認められるべきであるとする債務者の主張は、その余の要件を検討する迄も無く失当である。 (二) 債務者が本件意匠登録出願前から一〇一型そのものを実施したとの事実は否認する。 第六、疎明(省略) 理 由第一、(被保全権利)一、成立に争いない甲第三号証によると申請の理由三の事実を認めることができ、 他にこれを覆すに足る証拠はない。 二、債務者が別紙物件目録記載の超音波魚群探知機を製造し、国内市場に対しては自ら販売元として、また海外市場に対しては申請外日本マリナ株式会社の名で、右製品の販売輸出を行なつている事実については、債務者は明らかに争わないから、 これを自白したものとみなす。 三、債務者の本件意匠登録無効の主張について 意匠登録の無効を主張するには、意匠法所定の審判手続によるべきである。このことは、意匠法第48条第1項及び第50条第1項の規定に徴して明らかなところである。従つて、債務者の右主張は既にこの点において理由がない。そこで、以下においては、本件意匠登録は有効であることを前提とする。 四、本件登録意匠と債務者製品(一〇一型)意匠との類似判断。 (一) 先ず右両意匠と、併せて、この点に関する債務者の主張の範囲でレイシヨン社の七二五型意匠の各要旨を見るに、成立に争いない甲第四、第五号証、第一六号証および検証の結果を総合すると、次の点を指摘することができる。すなわち、 (1) 全体の形状(イ) 本件登録意匠(a) 高さ二〇センチメートル、横幅二九・五センチメートル、奥行一四・五センチメートルで、その比が約一対一・四四対〇・七三の直方体である。 (b) 平面又は底面と左右両測面或いは正面及び背面が交わる稜にやや丸味を帯び、しかもその丸味は、後者の方が前者よりも小さい。 (c) 正面を除く各面は暗い淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 高さ一九・五センチメートル、横幅二九・五センチメートル、奥行一四・五センチメートルで、その比が約一対一・五対〇・七三の直方体である。 (b) 平面又は底面と左右両側面或いは正面及び背面が交わる稜は丸味を帯び、 しかもその丸味は後者の方が前者よりも小さい。 (c) 正面を除く各面は淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (ハ) 七二五型意匠(a) 高さ一五・九センチメートル、横幅二七・七センチメートル(狭い部分で二六・八センチメートル)、奥行一三・六センチメートル(狭い部分で一一・六センチメートル)で、その比が約一対一・七四対〇・八五の奥行が短かく、断面がおしつぶされたような横長の六角柱形である。 (b) 平面又は底面と左右両側面とが交わる稜は少しく丸味がついているが、平面又は底面と正面が交わる稜は丸味がない。 (c) 正面を除いた各面は明るい淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (d) 底面の奥行より平面の奥行の方が長く、平面は正面側へフード形に張り出しかぶさつている。 (2) 正面(イ) 本件登録意匠(a) 縦と横の比率が約一対一・四四の矩形であり、その周縁は、筐体の壁端がハンマーネツト塗装された丸味を帯びた枠状をなして見える。 (b) 枠の内側は、上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色の目盛表示プレート、下部約三分の一は明色のダイヤル表示プレートからなる。 (c) 黒色矩形の目盛表示プレートについて(T) その右約一〇分の四の部分には大きな透明な円形の窓があり、その透明窓の裏に廻転深度目盛盤が設置されている。 (U) 右円形透明窓の中央に黒色のツマミがある。 (V) 右目盛盤の裏側には目盛盤と回転軸を同じくする記録用ペンが左方に出ている。 (W) その左約一〇分の六の部分には大きな透明な記録紙窓が設けられている。 (X) 右記録紙窓は横長の長方形であるが、その右辺は、前記廻転深度目盛盤と重なるところが弧状となつて内側に喰い込んでいる。 (Y) 右記録紙窓の中の右側部分に廻転深度目盛盤と同心円状の透明な目盛尺プレートが設けられている。 (Z) 右記録紙窓の奥には無色無地の記録紙が入つている。 ([) 右記録紙窓の周りは黒枠となつており、その幅は左縁、上縁、下縁の順序に狭くなつている。 (d) ダイヤル表示プレートについて(T) 縦横の比が約一対五の明色無地の矩形である。 (U) その右から約四分の一のところに小さな角形のボルトメーターが置かれている。 (V) 右ボルトメーターの右側には、小さなマーカーボタン及び小さな電源スイツチが縦にならべて置かれ、左側には、六角形のツマミのついた黒色のダイヤル三個が置かれている。 (W) これらはほぼ等間隔に見えるように単純に横一線に配せられている。 (e) 筐体の左側に接して小さなパツチン錠が見え、筐体の下側には左右に小さなゴム足が見え、両側の上から約四分の一のところに中央に把手とりつけネジがあつて、そこにU字形の明色板状の把手がつけられている。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 縦と横の比率が約一対一・五の矩形であり、その周縁は筐体の壁端がハンマーネツト塗装された丸味を帯びた枠状をなして見える。 (b) 枠の内側は、上下二つの部分に分かれ、上部約三分の二は黒色の目盛表示プレート、下部約三分の一は明色のダイヤル表示プレートからなる。 (c) 黒色矩形の目盛表示プレートについて(T) その右約一〇分の四の部分には大きな透明な円形の窓があり、その透明窓の裏には廻転深度目盛盤が設置されている。 (U) 右円形透明窓の中央に黒色のツマミがある。 (V) 右目盛盤の裏側には目盛盤と回転軸を同じくする記録用ペンが左方に出ている。 (W) その左約一〇分の六の部分には大きな透明な記録紙窓が設けられている。 (X) 右記録紙窓は横長の長方形であるが、その右辺は、前記廻転深度目盛盤と重なるところが弧状となつて内側に喰い込んでいる。 (Y) 右記録紙窓の中の右側部分に廻転深度目盛盤と同心円状の透明な目盛尺プレートが設けられている。 (Z) 右記録紙窓の奥には無色無地の記録紙が入つている。 ([) 右記録紙窓の周りは黒枠となつており、その幅は左縁、上縁、下縁の順序に狭くなつている。 (d) ダイヤル表示プレートについて(T) 縦横の比が約一対六の明色無地の矩形である。 (U) その右から約四分の一のところに小さな角形のボルトメーターが置かれている。 (V) 右ボルトメーターの右側には、大きなダイヤル一個が置かれ、左側には、 小さなツマミダイヤル二個、小さな押ボタン一個及び大きなダイヤル二個が順次置かれている。 (W) これらはほぼ等間隔に見えるように単純に横一線に配せられている。 (e) 筐体の上側中央に接して小さなパツチン錠が見え、筐体の左側下方に二個のコンセントが見え、筐体の下側には左右に小さなゴム足及び蝶番が二個見える。 (3) 背面(イ) 本件登録意匠(a) 正面と同じく縦横の比が約一対一・四四で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) 左下方に大小二個のコンセントがある。 (c) 筐体の下部左右には小さなゴム足が見える。 (d) 筐体の上方には逆U字形板状の把手が見える。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 正面と同じく縦横の比が約一対一・五で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) 筐体の右側下部に二個のコンセントが見える。 (c) 筐体の下部左右に小さなゴム足と蝶番が見える。 (4) 右側面(イ) 本件登録意匠(a) 縦横の比が約一対〇・七三で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) 上から約四分の一のところ中央に把手取付ネジがあり、把手が上方にとりつけられている。 (c) 筐体の左側には正面のツマミが二個見え、右側には背面のコンセントが見え、下には小さなゴム足二個が見える。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 縦横の比が約一対〇・七三で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) 中央に把手取付ネジがある。 (c) 筐体の上部左側にはパツチン錠が見え、左側には正面のツマミ二個と小さな突出部とが見え、下には小さなゴム足二個が見える。 (5) 左側面(イ) 本件登録意匠(a) 形状は右側面(前記(4)(イ)(a))と同様である。 (b) 把手取付ネジ及び把手に関しても右側面(前記(4)(イ)(b))と同様である。 (c) 筐体の中央右側には金属色長方形のパツチン錠がある。 (d) 筐体の右側には正面のツマミが二個見え、下には小さなゴム足二個が見える。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 形状は右側面(前記(4)(ロ)(a))と同様である。 (b) 中央に把手取付ネジがあり、その右下方に大小二個のコンセントがある。 (c) 筐体の上部右端にはパツチン錠が見え、右側には正面のツマミが二個と小さな突出部とが見え、下には小さなゴム足が二個見える。 (6) 平面(イ) 本件登録意匠(a) 横と縦の比が約一・四四対〇・七三で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) その横長方形の中央を把手が走り、下側には正面のダイヤルツマミが四個見える。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 横と縦の比が約一・五対〇・七三で、四隅に少しく丸味をもつた矩形で、 全体に淡調子のハンマーネツト塗装が施されている。 (b) 中央正面端に角形のパツチン錠がある。 (c) 筐体の正面側にダイヤルツマミ五個と小さな突出部とが見え、左側には二個のコンセントが見える。 (7) 底面(イ) 本件登録意匠(a) 形状は平面(前記(6)(イ)(a))と同様である。 (b) 四隅に四個の小さな丸いゴム足がついている。 (c) 筐体正面側にダイヤルツマミ四個が見え、背面側には二個のコンセントが見える。 (ロ) 一〇一型意匠(a) 形状は平面(前記(6)(ロ)(a))と同様である。 (b) 底面の四隅に四個の小さなゴム足、六個の蝶番がある。 (c) 筐体の正面側にはダイヤルツマミ六個と一個の小さな突出部が見え、右側には二個のコンセントが見える。 (二) これにより、本件登録意匠と一〇一型意匠とを比較すると、 (1) 前記(一)(1)(イ)と同(ロ)とを比較して明らかなように、全体の形状が酷似する。 (2) 前記(一)(2)(イ)と同(ロ)の各(a)(b)(c)(T)ないし(c)([)、dT、dU、dVとを比較して明らかなように、正面の形状および模様が酷似する。 もつとも、右の各(d)(V)を比較してわかるように、ダイヤルやボタンの配列、個数に相違点が見られるが、前記のように、正面の形状および模様が基本的には同一であること、ダイヤル類は、正面下部約三分の一の部分に設けられた酷似したプロポーシヨンの明色無地のダイヤル表示プレート部分に集められ、しかも、その右から約四分の一のところに配された角形(他のダイヤル、ボタン、スイツチ等は皆丸形である)であつてよく目立つボルトメーターを中にして、左右にほぼ等間隔に見えるように全体に単純に配列されていること等から見れば、右相違点をして特に看者の注意を惹くものとは認められない。 (3) 前記(一)(3)(イ)と(ロ)、同(4)(イ)と(ロ)、同(5)(イ)と(ロ)、同(6)(イ)と(ロ)、同(7)(イ)と(ロ)とを各比較して明らかなように、背面、右側面、左側面、平面、底面いずれにおいても全体として類似し、顕著な相違点は見られない。 (三) そうすると、両意匠は、この種意匠の類否を判断する上において大きなウエイトをもつ全体の形状及び正面の形状、模様が酷似しており、しかも、正面を除くその余の面も全体として類似し顕著な相違点は見られないのであるから、需要者がその製品を彼此混同するおそれがあるものというべく、従つて、債務者製品一〇一型意匠は本件登録意匠に類似するものといわなければならない。 (四) この点に関し、債務者は、アメリカのレイシヨン社の製品七二五型意匠を介在せしめ、本件登録意匠が七二五型意匠と抵触しないならば、同じ理由で一〇一型意匠は本件登録意匠の権利範囲外にある旨主張する。 しかしながら、本件においては、一〇一型意匠が本件登録意匠に類似するか否かが問われているのであるから、裁判所としては、本件登録意匠の権利範囲を独自に認定し、一〇一型意匠がその権利範囲に含まれるか含かを判断すれば足りるのであり、この場合、本訴において直接問題とされていない七二五型意匠について判断しなければ本件登録意匠と一〇一型意匠との類似・非類似の判断ができないなどというものではない。そうであるから、債務者の右主張は既にこの点において理由がない。 なお念のために、本件登録意匠および一〇一型意匠ならびに七二五型意匠とを比較してみると、前記(一)(1)(イ)、 同(ロ)および同(ハ)とを比較して明らかなように、右両意匠と七二五型意匠とは一見して類似していないことが明らかであるから、債務者の右主張はこの点においても理由がない。 五、債務者の先使用権の主張について(一) 先ず債務者は、一〇一型は、本件登録意匠を知らずそれとは独立に、債務者が本件意匠登録出願前から実施していた一二八型より開発し、一二八型に類似しているものであるから、先使用権がある旨主張する。 しかしながら、債務者会社代表者【B】の尋問の結果によつて成立を認められる乙第二号証(パンフレツト)によつては、僅かに一二八型製品の正面の形状および模様を窺い知ることができるにすぎず、他に同製品のその他の面或いは全体の形状および模様を知ることのできる証拠はないのみならず(もつとも、乙第二号証によると一二八型製品は三〇〇粍×二五〇粍×一七〇粍の大きさであることは認められる)、その正面についても、乙第二号証によると、 (1) 目盛表示プレート部分とダイヤル表示プレート部分とは明確に上下二分されていない。 (2) 上部右側部分には円形のネームプレートがあるのみで、透明窓も、廻転深度目盛盤も、ツマミもない。 (3) ダイヤル表示プレートは下部のさらに矩形に画された部分に設けられており、しかも、そこには角形のボルトメーターは置かれていない。 (4) 右ネームプレート、ダイヤル表示プレートおよび上部左側に設けられた記録紙窓は、明色無地の正面に相互に十分の間隔をもつて、しかも、上下左右各縁とも十分の間隔をもつて独立に配されている。 ことなどを指摘することができるのであるから、一二八型製品の意匠が本件登録意匠に類似しているものと認めることはできない。 それ故、債権者が主張するように、本件登録意匠出願前に於ける一二八型の実施を根拠に一〇一型についても先使用権が認められるべきであるとする債務者の主張は、既にこの点からして失当である。 (二) 次に債務者は、昭和四〇年ころに一〇一型のモデルを決定し直ちに製造販売に着手したから先使用権がある旨主張するけれども、右主張に沿う債務者会社代表者【B】の尋問の結果はたやすく採用できず、同尋問の結果によつて成立を認められる乙第四号証の一ないし九によつて未だ右事実を疎明するに足らず、他にこれを疎明するに足る証拠はない。 六、よつて、債務者は債権者の本件意匠権についての専用実施権を侵害しており、 債権者には債務者に対し意匠法第37条所定の請求権を有するものというべきである。 第二、(仮処分の必要性)一、弁論の全趣旨により成立を認められる甲第六、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一四号証、第一七、第一八号証の各一、二、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一および成立に争いのない甲第一五号証ならびに証人【C】の証言を総合すると債権者の主張七ないし一一の事実を認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。 二、右事実によれば、債権者は、その有する本件意匠権についての専用実施権に対する債務者の侵害行為により著しい損害をうけているということができるから、債権者において、その損害を避けるために本件仮処分の必要があると認められる。 第三、(結論) 以上の次第であるから、債権者の本件仮処分命令申請は理由があり、債務者の本件異議申立は理由がない。そこで、本件仮処分決定を認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 越川純吉 |
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裁判官 | 丸尾武良 |
裁判官 | 三宅俊一郎 |