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関連審決 不服2004-23894
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  3条1項3号 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10009号 審決取消請求事件
原告 田中金属株式会社
訴訟代理人弁理士 新関和郎
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 岩井芳紀
同藤正明
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/06
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-23894号事件について平成17年11月16日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35204号)し,特許庁が平成16年10月14日拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2004-23894号事件として審理した結果,平成17年11月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。
2 審決の内容別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,別紙審決書写し添付の別紙2記載の意匠登録第1046200号の意匠(以下「引用意匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するので,意匠登録を受けることができないというものである。
審決がその判断の前提として認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び相違点は,次のとおりである。
(共通点)(1) 一定の断面形状で長手方向に連続する中空のルーバー材であって,背面側(引用意匠においては右側面側,以下同様)に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁の大部分を上下に幅広の水平面を設けて先端を丸めた断面視甲丸形に形成し,嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成。
(2) 厚みに対する全幅(突き当て面からの張り出し幅)を略1:2程度としている点。
(相違点)(1) 嵌合部の形態について,本願意匠においては,上下の水平面の先端を直角に曲げて平板状の係止片としているのに対し,引用意匠においては,上下の水平面の先端を断面視円弧状に曲げて先端部に小幅な突き当て面を形成し,さらに先端を内側に小さく折り込んでいる点。
(2) タッピングホールの有無について,本願意匠においては,タッピングホールを中空部内に3箇所設けているのに対し,引用意匠においては,タッピングホールを設けていない点。
当事者の主張
1 原告主張の審決の取消事由審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,相違点を看過した結果,本願意匠が引用意匠と類似するとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
(1) 共通点(1)の認定の誤りア 審決は,共通点(1)において,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁と一対のリップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成する形状と認定し,その空間の形状を輪郭形状を除外して抽象的にとらえ,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえている。しかし,空間の形は,外郭の形状を視認することで認識できるものであるところ,本願意匠の嵌合部の形態は,「リップ状溝形鋼状」の形態であるから,その輪郭形状を明記すべきであり,また,上記空間が,嵌合部により囲い込まれる内部の空間を指し,それにより嵌合部の構成を特定するのであれば,嵌合部の内腔の形状を特定し,そこに形成される空間であることを明記すべきである。
このように意匠の全体の基本構成を視覚により感知し得る具象的な形状から離れた形態のものとしてとらえ,抽象的な形状構成として記載しているのは,全体の基本構成を観念上は理解し得るが,視覚を通じては理解し得ないものとするもので,この点において審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定に誤りがある。
イ 本願意匠の嵌合部は,隔壁,上壁,下壁,上下に一対のリップ状係止片とにより構成される背面側に開口する断面視で縦長の長矩形の角筒状で,内部に四角なチャネル状の空間を形成している形態である。
一方,引用意匠の嵌合部は,隔壁,極く短い上壁の先端側に連続する下向きの円弧状に湾曲して背面側に張り出す上部曲壁,極く短い下壁の先端側に連続する上向きの弧状に湾曲して背面側に張り出す下部曲壁,前記上部曲壁と下部曲壁との対向部位に形成される開口とにより,背面側に開口する断面視で半円筒状で,内部にマッシュルーム状(半截したマッシュルームの形状)の空間を形成している形態である。
このように本願意匠の嵌合部は断面視で上下に長い長矩形の角箱状の形態で,内部に形成される空間が,箱状のチャネル状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は断面視で横向きの半円筒状の形態で,内部に形成される空間がマッシュルーム状であり,両意匠は明らかに相違し,両意匠の全体の基本構成は共通する形態ではないから,共通していない全体の基本構成を共通する形態であるとする審決の共通点(1)の認定は誤りである。
(2) 相違点の看過ア 前記(1)イのとおり,本願意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する長矩形の角箱状の形状で,内部に形成される空間がチャネル状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する横向きの半円筒状で,内部に形成される空間がマッシュルーム状をなす形状であり,両者の形状は著しく相違するのに,審決には,この嵌合部の形態の相違を看過した誤りがある。
被告は,両意匠の嵌合部の形態の相違は,係止片の形状の相違として相違点(1)で認定しているから相違点の看過はない旨主張するが,相違点(1)の記載から,本願意匠における嵌合部の長矩形の角箱状の形態,引用意匠の嵌合部の半円筒状の形態を構成できるものではないから,被告の上記主張は失当である。
また,本願意匠の嵌合部の形態が従来からありふれたものであることは,上記相違点の看過とは別の事柄である。
イ(ア) 本願意匠の嵌合部にあっては,嵌合部の厚み(上下高さ)に対する幅(隔壁から突き当て面まで)の割合(寸法比)が略2分の1であることで,嵌合部を角箱状としているのに対し,引用意匠の嵌合部にあっては,上記割合が略4分の1であることで,嵌合部を前後の幅方向に寸詰まりにし,押し潰された半円筒状としている。この寸法比は,嵌合部の形態を特徴づけ,看者に与える美感に影響するものであるのに,審決は,両意匠の上記寸法比の相違を看過した誤りがある。
(イ) なお,審決認定の共通点(2)は,嵌合部の厚みに対する全幅の割合であって,嵌合部の厚み(上下高さ)に対する幅(隔壁から突き当て面まで)の割合とは異なるものである。
また,本願意匠の嵌合部の形態及び厚みに対する幅の割合が,ありふれたものであることは,上記相違点の看過とは別の事柄である。
ウ ルーバー製品は取付部材に組み付けて使用されることから,その組付けのための組付構造部は,組付けが堅固で確実なことの責任を負うことになる需要者である設計者・建築工事者によって,必然的に重視・注目される部位であり,局所ではあっても,ルーバー製品を特徴づけるもので,その構成の差異が,需要者がルーバー製品を選択・区別するときの識別となる。
この組付構造部を構成するのは,本願意匠では,嵌合部の背面側に,門歯状に上下に一対に対向して垂直面上に整列する垂直な係止片であるのに対し,引用意匠では,上下2段に並列して嵌合部の内奥に向かう内側に小さく折り込まれた一対の水平な突起片である。
このように両意匠においては物品の組付構造部の形状が明らかに相違しているのに,審決は,上記相違を看過した誤りがある。
(3) 類否判断の誤りア 前記(1)アのとおり,審決は,両意匠の全体の基本構成(共通点(1))において,嵌合部の形態を「平板状の隔壁を内奥部に設けて,背面側に開口するチャネル状空間を形成し」と,外周壁による外郭形状を除外して,具象的な形状から離れた内部空間の形状を抽象的にとらえ,この種の物品が,嵌合部について,普遍的に具備している形態とすることで,文言上共通する全体の基本構成としたものであって,文言構成により観念される形態に基づく観念上の形状としてとらえているから誤りである。
この誤った全体の基本構成の対比に基づいてした審決の両意匠の類否判断も,視覚効果から離れた観念上における類否判断であるから誤りである。
イ(ア) 前記(2)アのとおり,本願意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する長矩形の角箱状の形状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する横向きの半円筒状であって,両意匠の嵌合部の形態には,一見して区別し得る差異がある。しかも,本願意匠の嵌合部にあっては,各稜を直角に屈曲させていることで,丸味のない角張った美感を看者に与えるのに対し,引用意匠の嵌合部にあっては,角張ったところのない,丸味のある優美な美感を看者に与えるものであり,両意匠は,看者に与える美感を異にしているから,本願意匠は,引用意匠と類似していない。
(イ) また,前記(2)ウのとおり,物品の組付構造部は,需要者である設計者・建築工事者から必然的に重視・注目される部位であり,その構成の差異は類否判断に大きく影響するものであるから,両意匠における物品の組付構造部の形状の相違は,局所的な微差として片づけられるものではない。
ウ タッピングホールは,物品の長手方向の両端のこぐちに,化粧蓋をビスにより組み付けるときに,そのビスを螺じ込むためのもので,どの場所に設けてもよいものであるが,本願意匠においては,隔壁の上下の端部と外周壁の内面とのコーナー部分に,隔壁を補強するように設け,かつ,隔壁より前面側の中空部内にだけ,その中空部の前端に設けるタッピングホールと対向するように配置しているものであり,この配置態様は,常套的手法に基づく月並みなものではなく,特異な態様である。
一方,引用意匠には,タッピングホールが設けられていない点で差異があり,この差異(相違点(2))は,両意匠を明確に区別し得る差異であるから,これを局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではないとする審決の相違点(2)の判断は誤りである。
エ 以上のとおり,両意匠は,視覚により認識し得る形状を表現する形状表現の記載に基づく全体の基本構成において相違し,嵌合部の内腔に形成される内部空間の形状が,本願意匠ではきれいなチャネル状であるのに対し,引用意匠ではマッシュルーム状であり,嵌合部の形状が本願意匠では縦長の長矩形の角筒状であるのに対し,引用意匠では押し潰された横向きの半円筒状であり,取付構造部が,本願意匠では上下に一対の係止片であるのに対し,引用意匠では内側に折り曲げた上下に一対の突起片であるというように,各部の形状において顕著に相違しており,これら相違点における両意匠のそれぞれの形状は,それぞれ,別異の美感を惹起させる特徴のある形状の意匠を構成している。
したがって,両意匠は,これらの相違点から一見して区別することができるものであり,本願意匠は引用意匠と類似していないから,これが類似するとした審決の判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 共通点(1)の認定の誤りに対しア 審決認定の共通点(1)は,願書記載の意匠の説明及び願書添付の図面に基づいて両意匠を全体的に対比し,観察した結果として,両意匠の主要な構成要素である外観形態に焦点を置き,視覚を通じて形成された形態的印象を事実に即して摘記し,それが意匠全体の基本構成を成しているとしたものである。
一般に,視覚を通じて感知した形象に基づいて,観察者が対象物のイメージ又は形態の観念を形成することは当然のことであり,審決が,共通点(1)において,嵌合部の形態の概要を端的に表現するため,「チャネル状空間」の語を用いて認定したことに誤りはない。
イ また,両意匠においては,嵌合部の内部空間の形態が嵌合部の形態に基づいて従属的かつ一義的に決定されるものであることから,審決は,外観形態を構成する部位である外周壁,リップ状係止片及び隔壁の形態に基づいて,嵌合部の基本的な形態を含む全体の基本構成を共通点(1)で端的に示したものである。原告がマッシュルーム状と呼ぶ引用意匠の嵌合部の内部空間については,その基本的な形態が,凹部が線状に連なる点で本願意匠と共通することから,審決は,その態様を「チャネル状」と表現したものである。
したがって,共通点(1)に示した全体の基本構成が両意匠に共通するとした審決の認定に誤りはない。
(2) 相違点の看過に対しア 原告主張の嵌合部それ自体の形態の相違は,輪郭形状の相違に相当するものであるが,審決は,それを相違点(1)として実質的に認定しているから,上記相違点を看過していない。
なお,審決は,@輪郭形状及び内部に形成される空間の形状物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係るものであることから,両意匠の構成要素としては枝葉に属するものであること,A両意匠の取付部材に対する固着手法若しくは接続構造に関与する主な部位が背面側に設けられた一対のリップ状係止片であって,これらの形状自体ではないこと,Bこれらの形状が外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形状に基づいて,従属的かつ一義的に決定されるものであるため,両意匠の類否判断に際し,外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形態における共通点及び相違点を認定した上で,嵌合部について意匠の構成要素としての軽重を評価すれば十分であることから,原告の主張する輪郭形状及び内部に形成される空間の形状については,両意匠の類否判断に際し敢えて取り上げるべきものはないと判断したものである。また,原告が「長矩形の角箱状」又は「チャネル状」と主張する本願意匠の嵌合部自体の断面形状について,審決は,それが断面視矩形状に屈曲する典型的なリップ溝形鋼の形態に相当するものであることから,「単なるリップ溝形鋼状」と評価したものである。なお,本願意匠の上記形態は,従来からありふれたものである(乙1,2)。
イ 審決は,上記ア@ないしBに挙げたのと同様の理由により,原告の主張する「嵌合部の厚みに対する幅の割合」については,両意匠の類否判断に際して敢えて取り上げるべきものはないと判断したものである。なお,嵌合部の厚みの全幅に対する割合は,両意匠の外観形態の構成要素でもあることから,審決では共通点(2)として示している。また,本願意匠の嵌合部の形態及び厚みに対する幅の割合は,従来からありふれたものである(乙1,2)。
ウ 原告は,係止片について「組付構造部」なる概念を用いて,引用意匠における係止片先端部の内側に小さく折り込んだ部分を「突起片」と呼び,審決が本願意匠の係止片との形状の相違を看過している旨主張するが,上記主張は係止片を単に断片的に細分化しただけのものであり,また,両意匠の係止片の形状の相違については,審決が相違点(1)として示しているから,上記主張は失当である。
(3) 類否判断の誤りに対しア 前述のとおり,審決に共通点(1)の認定の誤り及び相違点の看過はなく,本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の類否判断に誤りもない。
イ 本願意匠に限らず,一般にタッピングホールを設ける場合には,施工時の構造力学を考慮して負荷を分散させるように配置することが常識であり,本願意匠におけるタッピングホールの配置もその点を考慮したありふれたものである(乙3)。
したがって,審決における意匠の構成要素としてのタッピングホールの有無の差異(相違点(2))に関する判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 共通点(1)の認定について(1) 本願意匠(甲2)と引用意匠(甲3)を対比すると,両意匠が,「一定の断面形状で長手方向に連続する中空のルーバー材であって,背面側に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁の大部分を上下に幅広の水平面を設けて先端を丸めた断面視甲丸形に形成し,嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成」を有する点(共通点(1))で共通しているとした審決の認定は,是認することができる。
(2)ア 原告は,審決が,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁と一対のリップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成する形状と認定し,その空間の形状を輪郭形状を除外して抽象的にとらえ,視覚によっては感知することができない観念上の形状としてとらえているのは,全体の基本構成を視覚を通じては理解し得ないものとするものであり,この点において審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定に誤りがある旨主張する。
しかし,審決認定の共通点(1)の記載によれば,両意匠は,「長手方向に連続する中空のルーバー材」であり,「嵌合部を除く外周壁の大部分を上下に幅広の水平面を設けて先端を丸めた断面視甲丸形に形成」し,嵌合部は,「平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口」し,その「開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設け」ているものであるから,@両意匠の嵌合部は,開口部を有し,その開口端の両縁部に一対のリップ状係止片が設けられていること,A嵌合部の開口部の内奥部に平板上の隔壁が設けられていること,B長手方向に連続する中空のルーバー材である以上,嵌合部は外周壁で囲まれていることを理解することができる。
そうすると,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,一対のリップ状係止片,外周壁とで構成された,輪郭のある具体的な形状を有するものであって,視覚を通じて感知することができるものであることは明らかである。そして,共通点(1)にいう「背面側に開口するチャネル状空間」は,上記認定の形状を有する嵌合部の内部に形成される空間を意味するものであるところ,本願意匠の【背面図】,【右側面図】及び【斜視図】(甲2)と引用意匠の「右側面図」,「正面図」及び「A-A線断面図」(甲3)を見れば,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状(溝状ないし水路状)である点で共通することを視覚を通じて感知することができるものであり,この形状は,原告のいうような単なる観念上の形状であるとはいえない。
したがって,審決が,嵌合部の形態について,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえているから,共通点(1)の認定は誤りであるとの原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,本願意匠の嵌合部は断面視で上下に長い長矩形の角箱状の形態で,内部に形成される空間が箱状のチャネル状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は断面視で横向きの半円筒状の形態で,内部に形成される空間がマッシュルーム状であり,両意匠は明らかに相違し,両意匠の全体の基本構成は共通する形態ではないから,共通していない全体の基本構成を共通する形態であるとする審決の共通点(1)の認定は誤りである旨主張する。
(ア) 原告は,本願意匠の嵌合部は断面視で上下に長い長矩形の角箱状の形態であるのに対し,引用意匠の嵌合部は断面視で横向きの半円筒状である点で,両意匠は相違する旨主張する。
たしかに,本願意匠の【右側面図】及び【斜視図】(甲2)と引用意匠の「正面図」及び「A-A線断面図」(甲3)によれば,原告が主張するような嵌合部の断面視における差異があるということができる。
しかるに,上記断面視における差異は,本願意匠の嵌合部を構成する係止片が上下の水平面の先端を直角に曲げた平板状の形状であるのに対し,引用意匠の嵌合部を構成する係止片が上下の水平面の先端を断面視円弧状に曲げて先端部に小幅な突き当て面を形成し,その先端を内側に小さく折り込んでいる形状に起因するものということができる。このような係止片の形態の差異については,審決が相違点(1)において認定しているから,審決は,原告主張の嵌合部の断面視における差異を実質的に認定しているというべきである。
そして,両意匠に原告主張の嵌合部の断面視における差異があるからといって,そのことから当然に審決が共通点(1)で認定した全体の基本構成に誤りを来すものではない。
(イ) 原告は,本願意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,箱状のチャネル状であるのに対し,引用意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,マッシュルーム状である点で,両意匠が相違する旨主張する。
しかし,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状(溝状ないし水路状)である点で共通していることは前記ア認定のとおりであり,引用意匠の嵌合部の内部に形成される空間も,「チャネル状」の範疇に入るものということができる。
また,原告がいう引用意匠の上記空間が「マッシュルーム状」であるとの点は,引用意匠の嵌合部を構成する係止片が,上下の水平面の先端を断面視円弧状に曲げて先端部に小幅な突き当て面を形成し,その先端を内側に小さく折り込んでいる形状であることにより形成される空間の部位に着目して比喩的に「マッシュルーム状」と表現したものであると理解することができる。そして,上記(ア)認定のとおり,審決は,相違点(1)において,このような係止片の形態の差異を認定しており,相違点(1)の評価に際し,上記空間の形状によって醸し出される視覚的効果について実質的に判断される関係にあるということができる。したがって,引用意匠の上記空間を原告がいう「マッシュルーム状」のものととらえ得るとしても,審決は,この点を両意匠の相違点として実質的に認定,判断しているというべきである。
そして,両意匠に原告主張の嵌合部の内部に形成される空間における差異があるからといって,そのことから当然に審決が共通点(1)で認定した全体の基本構成に誤りを来すものではない。
(ウ) 以上によれば,嵌合部の断面視における形状及び嵌合部の内部に形成される空間の形状に差異があることを理由に,審決の共通点(1)の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することができない。
2 相違点の看過について(1) 原告は,本願意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する長矩形の角箱状の形状で,内部に形成される空間がチャネル状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する横向きの半円筒状で,内部に形成される空間がマッシュルーム状をなす形状であり,両者の形状は著しく相違するのに,審決には,この嵌合部の形態の相違を看過した誤りがある旨主張する。
しかし,前記1(2)イ(ア),(イ)で説示したとおり,原告がいう嵌合部の断面視における形状及び嵌合部の内部に形成される空間の形状の差異は,審決が相違点(1)において実質的に相違点として認定しているものであるから,相違点の看過をいう原告の主張は採用することができない。
(2) 原告は,本願意匠の嵌合部にあっては,嵌合部の厚み(上下高さ)に対する幅(隔壁から突き当て面まで)の割合(寸法比)が略2分の1であることで,嵌合部を角箱状としているのに対し,引用意匠の嵌合部にあっては,上記割合が略4分の1であることで,嵌合部を前後の幅方向に寸詰まりにし,押し潰された半円筒状としており,この寸法比は,嵌合部の形態を特徴づけ,看者に与える美感に影響するものであるのに,審決は,両意匠の上記寸法比の相違を看過した誤りがある旨主張する。
しかし,本願意匠(甲2)と引用意匠(甲3)を比較すると,原告がいう嵌合部の厚みに対する幅の寸法比率の差異は,看者が一見して認識するものではなく,その注意を惹くものとはいえないから,この点の差異が両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
したがって,審決が上記差異を認定しなかったからといって,審決に誤りがあるということはできない。
(3) 原告は,意匠に係る物品(ルーバー製品)の組付構造部を構成するのは,本願意匠では,嵌合部の背面側に,門歯状に上下に一対に対向して垂直面上に整列する垂直な係止片であるのに対し,引用意匠では,上下2段に並列して嵌合部の内奥に向かう内側に小さく折り込まれた一対の水平な突起片であり,両意匠は物品の組付構造部の形状が明らかに相違しているのに,審決は,上記相違を看過した誤りがある旨主張する。
しかし,甲3によれば,原告がいう引用意匠における「上下2段に並列して嵌合部の内奥に向かう内側に小さく折り込まれた一対の水平な突起片」は,引用意匠の嵌合部を構成する「係止片」をさすことは明らかであり,結局,原告がいう物品の組付構造部の形状の差異は,係止片の形態の差異をいうものである。
そして,審決は,相違点(1)において,両意匠の嵌合部を構成する係止片の形態の差異を認定しているから,原告の上記主張は採用することができない。
3 類否判断について審決は,@「共通点(1)に示す形態は,両意匠の骨格を成すものであるとともに,両意匠の支配的基調を形成するものであり,これに共通点(2)に示す全体的な寸法比率における共通性が加味されることによって,観察者に共通の美感を起こさせるとともに,両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」とした上で,A「相違点(1)の嵌合部の形態における差異については,本願意匠の嵌合部の形態が単なるリップ溝形鋼状のありふれたものであって,本願意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであることから,全体的に見れば,その差異は局所的微差に止まり,前記共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。」,B「相違点(2)のタッピングホールの有無における差異については(判決注・審決の「差異ついては」は誤記と認められる。),本願意匠のタッピングホールの形状及び配置態様が常套的手法に基づく月並みなものであって,本願意匠を特徴付ける要素とは成し得ないものであることから,その差異は局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではない。」,C「これらの相違点に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,前記共通点から惹起される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできない。」として,本願意匠は引用意匠に類似すると判断している(審決書2頁17行〜35行)。
(1) 原告は,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定は,嵌合部の形態を「平板状の隔壁を内奥部に設けて,背面側に開口するチャネル状空間を形成し」と,外周壁による外郭形状を除外して,具象的な形状から離れた内部空間の形状を抽象的にとらえ,視覚では認識できない観念上の形態として認定しているから誤りであり,この誤った全体の基本構成の対比に基づいてした審決の両意匠の類否判断も,視覚効果から離れた観念上における類否判断であるから誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,審決の共通点(1)の認定に原告主張の誤りはない。
そして,本願意匠と引用意匠を比較すると,審決が上記@で指摘するように,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の骨格を成し,両意匠の支配的基調を形成するものであり,これに共通点(2)に示す全体的な寸法比率における共通性が加味されることによって,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものということができる。
(2) 原告は,本願意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する長矩形の角箱状の形状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,断面視で背面側に開口を有する横向きの半円筒状であって,両意匠の嵌合部の形態には,一見して区別し得る差異があり,しかも,本願意匠の嵌合部にあっては,各稜を直角に屈曲させていることで,丸味のない角張った美感を看者に与えるのに対し,引用意匠の嵌合部にあっては,角張ったところのない,丸味のある優美な美感を看者に与えるものであり,両意匠は,看者に与える美感を異にしているから,本願意匠は引用意匠と類似していない旨主張する。
ア しかし,本願意匠(甲2)と引用意匠(甲3)を比較すると,上下の水平面の先端を直角に曲げて平板状の係止片としているか,上下の水平面の先端を断面視円弧状に曲げて先端部に小幅な突き当て面を形成し,さらに先端を内側に小さく折り込んでいる係止片としているかの差異は,係止片の形状,位置,大きさ等に照らし,全体的にみれば,局所的で微弱なものであって,共通点(1),(2)によって醸し出される両意匠の類似性を凌駕するものであるということはできない。また,乙1,2及び弁論の全趣旨によれば,本願意匠の係止片の形状は,従来からあるありふれた形状であって,本願意匠に独特の美感を生じさせるものではない。
イ また,原告は,物品の組付構造部の差異(前記2(3)のとおり,両意匠の嵌合部を構成する係止片の形態の差異をいうものと理解することができる。)は,需要者である設計者・建築工事者から必然的に重視・注目される部位であり,その構成の差異は類否判断に大きく影響するものであるから,両意匠における物品の組付構造部の形状の相違は,局所的な微差として片づけられるものではない旨主張するが,上記アのとおり,係止片の形態の差異は,全体的にみれば,局所的で微弱なものであって,共通点(1),(2)によって醸し出される両意匠の類似性を凌駕するものであるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は,本願意匠におけるタッピングホールの配置態様は,常套的手法に基づく月並みなものではなく,特異な態様であるのに対し,引用意匠は,タッピングホールを設けていない点で差異があり,この差異(相違点(2))は,両意匠を明確に区別し得る差異であるから,これを局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではないとする審決の相違点(2)に係る判断(審決の上記B)は誤りである旨主張する。
本願意匠(甲2)と引用意匠(甲3)を比較すると,審決が相違点(2)で指摘するように,本願意匠は,タッピングホールを中空部内に3箇所設けているのに対し,引用意匠は,タッピングホールを設けていない点において,両意匠に差異があるが,本願意匠のタッピングホールの形状,配置位置,大きさ等に照らし,全体的にみれば,相違点(2)に係る両意匠の差異は,局所的で微弱なものであって,共通点(1),(2)によって醸し出される両意匠の類似性を凌駕するものであるということはできない。また,乙3に照らすと,本願意匠のタッピングホールの配置態様が特異な態様であるということはできず,本願意匠に独特の美感を生じさせるものでもない。
したがって,相違点(2)に係る差異は,局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 前記(1)のとおり,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の支配的基調を形成し,これに共通点(2)に示す全体的な寸法比率における共通性が加味されることによって,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものであるところ,審決が上記Cで指摘するとおり,相違点(1),(2)に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,上記共通点(1),(2)から醸し出される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできないから,本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはないというべきである。
4結論以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀