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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成20ワ8761意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
平成19ネ790意匠権侵害差止等請求控訴事件 判例 意匠
平成18ワ8794不正競争行為差止等請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作非容易性 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  類似の意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  類似性(類否判断) /  損害額 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 7014号 意匠権侵害差止等請求事件
原告山 忠商事株式会社
訴訟代理人弁護士冨村和光
補佐人弁理 士三原靖雄
被告前 田工繊株式会社
訴訟代理人弁護士関本哲也
補佐人弁理 士白崎真二勝木俊晴
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2006/12/21
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売してはならない。
2被告は,原告に対し,1800万円及びこれに対する平成18年4月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,後記1( )の意匠権を有する原告が,被告が製造販売するブロック1,, マットの意匠は同意匠権に係る登録意匠に類似するとして 同意匠権に基づき被告に対して,同ブロックマットの製造販売の差止めを求めるとともに,同意匠権侵害による不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む )を請求した事案であ 。
る。
1当事者間に争いのない事実( )本件意匠権1原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という )を有している。。
登録番号第1180425号出 願 日平成14年8月12日出願番号意願2002-21680登 録 日平成15年6月6日意匠に係る物品ブロックマット登録意匠別紙意匠目録添付図面のとおり( )被告製品の製造販売2被告は,平成15年2月ころから,別紙物件目録記載の製品(ブロックマット。以下「被告製品」という )を製造販売している。 。
( )原告による後願意匠と,被告の取得した意匠権について3ア原告は,平成14年12月16日,意匠に係る物品をブロックマットとする意匠の登録出願をした(意願2002-34802。この意匠登録出願に係る意匠の正面図は,別紙本件後願意匠図面のとおりである。以下,同出願に係る意匠を「本件後願意匠」という。。)しかし,上記意匠登録出願に対しては,本件登録意匠に類似することを理由に拒絶理由通知が発せられ(発送日平成15年7月25日 ,その後)拒絶査定が確定した。
イ被告製品の意匠(以下「被告意匠」という )は,本件後願意匠に類似 。
する。
2争点( )被告意匠と本件登録意匠の類否1( )原告の損害額2第3争点に関する当事者の主張1争点( )(被告意匠と本件登録意匠の類否)について1以下において,本件登録意匠の態様を表示する際の上下左右の位置は,別紙意匠目録添付の正面図を基準として表示するものとし,これに準じて,被告意匠については別紙物件目録記載の被告製品の正面図において全体が縦長長方形になるようにした状態を基準とし,また,本件後願意匠については別紙本件後願意匠図面の正面図を基準として,それぞれ表示するものとする。
【原告の主張】( )本件登録意匠の要部について1本件登録意匠は,マット面の三辺,すなわち,上端部,下端部そして右端部の各部分に余端部を残して,マットの他部をブロック体で埋めたことによ, (, り生じるマット上面の余端部と ブロック体の部分とを配分した形状 配置バランス)に看者の注意を惹く美観があり,この部分が本件登録意匠の要部である。
マット余端部は,ブロックマットを敷設する際に,隣接する次のブロックマットの余端部に重ねて敷設する重ね継ぎ手となる部分であり,機能的な意味も有する。
( )被告意匠と本件登録意匠の類否について2被告意匠は,本件登録意匠の要部であるマット面の三辺,すなわち,上端部,下端部そして右端部の各部分に余端部を残して,マットの他部をブロック体で埋め,このマット上面の余端部と,ブロック体の部分とを配分した形状を備えており,本件登録意匠とマットの縦・横の比率も全く同一である。
マットの上・下端部の余端部がブロックマットの縦幅に占める比率は多少異なるものの,被告意匠と本件登録意匠は同一に近い類似である。
各ブロック体の形状及びブロック体の上面の形状の差異も微細な相違にすぎない。
また,被告意匠は,本件後願意匠と同一又は類似の意匠である。そして,前記第2,1( )のとおり,本件後願意匠は,本件登録意匠に類似するとの3理由で特許庁から拒絶査定がなされ,同査定は確定したのである。
したがって,被告意匠は,本件登録意匠と類似する。
【被告の主張】( )本件登録意匠の要部について1本件登録意匠のマットの形状は単純な長方形であり,ブロックが配置されていないコの字型の余端部もありふれた形態であって,このような形態に新規性,創作非容易性は認められない。
むしろ,本件登録意匠と被告意匠との類否の判断に当たっては,個々のブロックの形状及びこれらの配列によって生じる意匠的な効果により形態全体に与える影響を考慮すべきである。
( )被告意匠と本件登録意匠の類否について2被告意匠と本件登録意匠を対比すると,@個々のブロックが縦横に格子状に並んでいる点,Aブロックの形状において,中央部が一番低くなり,その周りがやや高くなり外側が一番高くなっている点,Bマットの余端部がコの字型である点で共通するが,これらの点は本件登録意匠の出願前からあるありふれた形態であるので,これらの点が意匠全体に与える影響は極めて小さい。
他方,両意匠は以下の点で相違する。
ア個々のブロックの形状について,本件登録意匠は側面視長方形状で正面視正方形状であるのに対して,被告意匠は側面に上向きの傾斜を有する側面視略台形状で,四方の角をやや大きくアール状に大きく面取りした正面視略八角形状である点イ個々のブロックの中央にある凹部の態様について,本件登録意匠は下方を上下両側に拡開した円筒状とし,その上方に正面視四角形状に拡開した開口部を形成しているのに対し,被告意匠は下方を上側に拡開した円筒状とし,その上方に正面視略八角形状に拡開した開口部を形成している点ウ各ブロックの隣接部分の態様について,本件登録意匠は凹部や溝部を形成せず,正格子状の区割り線を表しているのに対して,被告意匠は,四方の角が向かい合う部分に上側へ拡開した逆円錐台状の凹部を,その他の隣り合う部分すべてに略「V字」形状の溝をそれぞれ形成しており,逆円錐台状の凹部がV字形状の溝により連結されている点エ上下の余端部の幅について,本件登録意匠は一方の余端部が他方のものよりも約2倍の幅広であるのに対し,被告意匠は同幅である点本件登録意匠に係る物品であるブロックマットにおいては,ブロックの形態及びこれらを配列することにより現れる模様等の意匠的効果が美感に大きな影響を与える。よって,上記アないしエの各相違点が意匠全体に与える影響は大きいといえる。
なお,原告は,本件後願意匠に被告意匠が同一又は類似することを,本件登録意匠と類似することの根拠としているが,拒絶査定は登録を拒絶するという行政庁の処分であり,意匠の類似性の判断に対する効力や意匠が類似するとの推定力が認められるものではない。
2争点( )(原告の損害額)について2【原告の主張】被告は,平成15年8月から平成18年3月までの間に,合計4万u分の被告製品を,1u当たり少なくとも4500円で販売している。本件登録意匠の実施許諾料は売上額の10%であるから,下記計算式により,原告は1800万円の損害を被った(意匠法39条3項 。)u×4,500円/u×0.1=1800万円 40,000【被告の主張】争う。
第4当裁判所の判断1争点( )(被告意匠と本件登録意匠の類否)について1( )本件登録意匠の構成態様1別紙意匠目録添付図面によれば,本件登録意匠の構成は,次のとおりであると認められる。
ア基本的構成態様,,, マットの平面の形状は縦長長方形であり このマットの上端部 下端部右端部にコの字状の余端部を残し,他の部分にブロックを配列したブロックマットである。
イ具体的構成態様@(マット全体の形状及び寸法比)マットは縦長長方形であり,全体の縦と横の寸法比が約70対19である。
A(ブロックの配列及び寸法比)ブロックは,マット左端部に沿って,上端からマットの縦全長70に対して約5下がった位置から,下端からは同じく約9上った位置までの間に縦14段,横4列,合計56個列設され,右端部からブロックの最右列の右端部までの寸法比は,横全長19に対して約3である。
, 。 ブロックは正面視やや縦長の長方形であり 格子状に配列されているB(各ブロックの形状)各ブロックは,正面視で角にやや小さなアールがついた略正方形であり,その正面中央に凹部が設けられている。同凹部は上方に拡開した逆円錐部の下方に円筒部を設け,その円錐部の上方に正面視四角形状に拡開した開口部を形成してなるものである。正面視で,この部分は稜線により2つの同心円と,2つの略正方形の形状として現れる。各ブロックは,側面視で横長の長方形である。
C(各ブロックの錘面の形状及びブロックの配列によって生じる形態)各ブロックは,側面視で横長の長方形であるため,隣接するブロックとの間の隙間は略平行であり,正面から見た場合,各ブロックが区割り線で仕切られたような形状になる。
D(余端部の形状)マットの上端部,下端部,右端部の余端部の構成比は,上端の余端部縦辺の寸法がマットの縦全長70に対して約5であり,下端の余端部の縦辺の寸法が同じく約9であり,右端の余端部の横幅の寸法は横全長19に対して約3である。
( )被告意匠の構成態様2被告意匠の構成態様のうち,マットの形状が長方形であり,ブロックが配置されていない余端部の形状がコの字状であることは当事者間に争いがない。
,(, ,), 上記当事者間に争いのない事実に 証拠 甲4 7 乙11 を併せれば被告意匠の構成態様は,次のとおりであると認められる(なお,下線部は,上記( )で認定した本件登録意匠の構成態様との相違点である。
1 。)ア基本的構成態様,,, マットの平面の形状は縦長長方形であり このマットの上端部 下端部右端部にコの字状の余端部を残し,他の部分にブロックを配列したブロックマットである。
イ具体的構成態様@(マット全体の形状及び寸法比)マットは縦長の長方形であり,全体の縦と横の寸法比が68対19である。
A(ブロックの配列及び寸法比)ブロックは,マット左端部に沿って,上端からマットの縦全長68に対して4下がった位置から,下端からは4上った位置までの間に縦15段,横4列,合計60個のブロックが列設され,右端部からブロックの最右列の右端部までの寸法比は,横全長19に対して3である。
ブロックは正面視略八角形であり,ブロックは格子状に配列されている。
B(各ブロックの形状)各ブロックは,正面視で四隅に4分の1円状の切欠部が設けられた略八角形であり,その正面中央に凹部が設けられている。同凹部は上方に拡開した逆円錐形状をしており,その上方に正面視略八角形状に拡開した開口部を形成してなるものである。正面視で,この部分は稜線により2つの同心円と,2つの略八角形の形状として現れる。各ブロックは,側面視で上部に拡開した台形状である。
C(各ブロックの錘面の形状及びブロックの配列によって生じる形態)各ブロックは,側面視で台形状であるため,隣接するブロックとの間の隙間にはすべてV字状の溝が形成されており,正面から見た場合,各ブロックが溝で仕切られたような形状になる。また,各ブロックの4分の1円状の切欠部があるために,配列された際に他のブロックの四隅の4分の1円状の切欠部と接続することで円形の孔を形成する。
D(余端部の形状)マットの上端部,下端部,右端部の余端部の構成比は,上端の余端部の縦辺の寸法がマットの縦全長68に対して4であり,下端の余端部の縦辺の寸法が同じく4であり,右端の余端部の横幅の寸法は横全長19に対して3である。
( )本件登録意匠と被告意匠の対比3ア共通点本件登録意匠と被告意匠とを対比すると,次の4点において共通する。
(ア)マットの形状は縦長長方形であり,このマットの上端部,下端部,右端部にコの字状の余端部を残し,他の部分にブロックを配列したブロックマットであるという基本的構成態様(イ)マットは縦長長方形のシートであり,全体の縦と横の寸法比がほぼ70対18である点(ウ)ブロックは,マット左端部に沿って,縦長の格子状に列設されている点(エ)各ブロックの正面視中央部分に凹部が設けられており,その凹部は逆円錐形状となっており,正面視で,稜線により2つの同心円が現れており,その開口部周縁の上面部がブロックにおいて最も高くなっている点イ相違点本件登録意匠と被告意匠とを対比すると,次の点において相違する。
(ア)ブロックの配列が,本件登録意匠は縦14段,横4列であるのに対し,被告意匠は縦15段,横4列である点(イ)各ブロックの正面視の形状が,本件登録意匠は,四隅にアールがついた略正方形であるのに対し,被告意匠は,四隅にアールのついた切欠部が設けられており,略八角形である点,, (ウ)各ブロックの正面中央の凹部及び開口部の稜線が 本件登録意匠は2つの同心円と,2つの略正方形として現れるのに対し,被告意匠は,2つの同心円と,2つの略八角形として現れる点(エ)各ブロックの側面視の形状が,本件登録意匠は横長長方形状であるのに対し,被告意匠は上部に拡開した台形状である点(オ)各ブロックの錘面の形状及びブロックの配列によって生じる形態が,本件登録意匠は,正面視で各ブロックが区割り線で仕切られたような形状になるのに対し,被告意匠は,隣接するブロックとの間の隙間にはすべてV字状の溝が形成されており,正面視で各ブロックが溝で仕切られたような形状になる。また,各ブロックの四隅の4分の1円状の切欠部は,配列された際に他のブロックの4分の1円状の切欠部と接続することで円形をなす点(カ)マットの上端部と下端部の余端部の縦辺の寸法比が,本件登録意匠は,上端部と下端部とでは約5対9であるのに対し,被告意匠は,同じである点( )本件登録意匠の要部について4意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察した上,取引者,需要者が最も注意を惹く意匠の構成,すなわち要部がどこであるかを意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等をも斟酌して把握し,登録意匠と対象となる意匠とが要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断すべきものである。
そこで,本件登録意匠の要部がいかなる構成にあるかを検討する。
物品の性質,用途,使用態様等証拠(甲2,4,7,10,乙2ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
本件登録意匠に係る物品である「ブロックマット」は,主として河川や調整池,溜池,水路等の護岸工事や法面保護工事に使用される,ポリプロピレン等の不燃布や紙製のマット(フィルターシート)の上に複数のコンクリートブロック(なお,ブロックには上下に貫通する開口部が設けてあ。) 。,, るを固着して一体化したものである 1枚当たりの大きさは 縦7m横2m程度である。
その使用態様は,法面等を整地した後,重機で法勾配に合わせてブロックマットを敷設し,右側余端部に隣接するブロックマットの左端を重ね合。,, わせてゆくというものである ブロックマットは 施工者が杭を打ち込みマット余端部をコンクリートに埋め込む,あるいは縁石ブロックで押さえるなどの方法により固定するものである。このように,マット余端部を土等で覆う必要があるため,敷設されたブロックマットは,コンクリートブ(「」。) 。 ロック部分以下ブロック部分というのみが露出することになるまた,法面工事においては,ブロック部分にも土を盛り,ブロック中央の開口部に種子を施して植生によってブロックマットを斜面に安定させ,斜面を被覆保護する工法(植生工法)もしばしば用いられている。また,ブロックマットを同工法の建設資材として用いる場合には,ブロック中央の開口部の形状は客土や種子の流失防止に関係する。植生工法を採用する場合には,ブロックとブロックの間の溝も土を盛る部分となる。
, , ブロックマットは 型枠にコンクリートを流し込んでブロックを成形し硬化したコンクリートブロックを接着剤でマットに貼付したり,マットの上に型枠を置いてコンクリートを流し込んでブロックをマットと一体成形する方法によって製造される。したがって,ブロックの形状は,この型枠の形状・構造に応じて定まる。
ブロックマットを見る需要者は,護岸,法面工事等の工事業者といった, , 専門的知識を有する者であるところ 上記のようなブロックマットの形状構造,使用態様,さらにブロックマットのカタログ(甲4,7,乙8)には,図面による平面視の形状のほか,法面などの地表面に敷設した状態を地表から,あるいは斜め上方から俯瞰した写真が掲載されている。これらによれば,需要者も,正面視,あるいは斜め下又は斜め上から俯瞰して,ブロックマットの形態を観察するものと認められる。
そして,需要者はカタログを見て商品の選定をするものであるが,さらに具体的に観察するために現物を見た上で購入することもあると推認される。需要者が現物を見る場合には,足下に置いたブロックマットを正面から見て観察することになる。
イ公知意匠本件登録意匠の意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された「ブロックマット」に係る公知意匠には,実公昭51-9135号公報(乙3)記載の意匠,特開平1-111921号公報(乙4)記載の意匠,特開平4-203116号公報(乙5)記載の意匠,特開平8-155933号公報(乙6)記載の意匠,特開平1-105820号公報(乙7)記載の意匠があり,本件登録意匠の基本的構成態様のほか,四隅にアールのついた略正方形状のブロックを縦長長方形の格子状に配列する構成,各ブロックの中心部に凹部を設ける構成及びその凹部は逆円錐形状となっており正面から見た場合に凹部が稜線によって2つの同心円となって現れている構成は,既にこれらの公知意匠に顕れていたことが認められる。
ウ本件登録意匠の要部上記認定事実によれば,次のようにいうことができる。
本件登録意匠に係る物品であるブロックマットは,工事関係者が選定して購入する護岸,法面工事用の建設資材であり,需要者はカタログあるいは現物を見て商品の選定をするものであるところ,カタログには商品の図面として正面視の図面が掲載されている。マットの素材にはいくつかの種類があるが,いずれも形状は縦長長方形で,その上下端部及び右端部にコの字型の余端部が設けられているのが通常であり,この余端部は敷設時には表面には現れない。他方,ブロックは型枠によって種々の形状に成形が可能であり,現に多様な形状のブロックが存在する。ブロックマットが植生工法の資材として用いられる場合には,いずれは植生によってブロック部分も表面に現れなくなるが,植生により覆われるまでの間,ブロック部分は表面に現れることとなるし,護岸工事の場合にはブロック部分はそのまま表面に現れることとなる。また,単に開口部があることは,公知意匠にも見られるありふれた形態であるが,開口部の形状や各ブロック間の形状は,植生工法により施工する場合には客土や種子の流失防止に関係があるため,工事業者においても関心を持って観察するものである。
そうすると,工事関係者は,ブロックマットを観察するに際しては,ブロックマット敷設時に表面に現れることとなるブロックの正面視での配列, 。 時の形態や 各ブロックの正面視での形状に関心を持つものと認められるもっとも,上記イ掲記の各公知意匠によれば,四隅にアールのついた略正方形状のブロックを縦長長方形の格子状に配列する構成や,ブロックの中央凹部が逆円錐形状となっており正面から見た場合に凹部が稜線によって2つの同心円となって現れている構成はありふれたものであったというべきである。そして,需要者である工事業者は,専門的知識を有し,従来存在したブロックマットの形状についても知識を有するものであるから,上記のありふれた構成は,需要者(工事業者)の注意を惹くものということはできない。
これに対し,本件登録意匠の前記1( )イのBの各ブロックの形状のう1ち,正面から見た場合に中央の凹部と開口部の形状が,稜線により2つの同心円と2つの略正方形状として現れる点及び各ブロックが側面視で横長の長方形である点は新規な形態である。また,同Cの各ブロックの錘面の形状及びブロックの配列によって生じる形態のうち,隣接するブロックとの間の隙間が略平行であり,正面から見た場合に,各ブロックが区割り線で仕切られたような形状になる点も,各公知意匠に見られない新規な形態であり,これらの形態によって,中央の凹部こそ円形ではあるが,各ブロックの外縁部及び開口部の稜線によって描かれる略正方形状の形態が強調された整然とした独特の美感がもたらされているということができるから,この部分が本件登録意匠の要部というべきである。
原告は,本件登録意匠の要部は,マット面の三辺,すなわち,上端部,下端部そして右端部の各部分に余端部を残して,マットの他部をブロック体で埋めた点にあると主張するが,そのような構成自体は,上記イ掲記の各公知意匠に顕れていて,ありふれた構成と認められる上,マットの余端部は敷設後は表面に現れることはないのであるから,この部分を看者が着目すると認めることはできず,原告の主張は採用できない。
( )本件登録意匠と被告意匠との類否について5前記( )イの相違点のうち,(ア)のブロックの配列は微差にすぎず,(カ)3のマットの上端部及び下端部の余端部の縦辺の寸法については本件登録意匠の方が下端部の縦辺が上端部の縦辺の約2倍である点で特徴的であるともい, , , い得るが 要部における相違ではなく (エ)の各ブロックの側面視の形状は正面視ないし俯瞰して観察した場合には目につかない部分であって意匠の要部における相違点ではないから,類否判断に影響を及ぼすとまでいうことはできない。
他方,前記( )イの相違点(イ)及び(ウ)(各ブロックの形状)は,本件登3録意匠の要部に関するものである。そして,本件登録意匠においては,中央の凹部を除いては,アールのついた四角形で構成されているため,整然とした美感をもたらしているのに対して,被告意匠においては,各ブロックの四隅に4分の1円状の切欠部が設けられ,これに対応して内部の開口部にも四隅にアールのついた切欠部が設けられた2つの略八角形からなる凹部があるため,正面から観察した場合に,配列されたブロックにおいて縦横の線には直線が用いられながらも,各ブロックの中央部及びその四隅部分には円形が現れるような意匠となっていること,及びブロック上面の平面面積が少なくなっていることにより,一定の統一感を保ちつつも,装飾を凝らしたような印象を与える点が看者の印象に強く残るものとなっており,本件登録意匠とは異なる美感をもたらしている。
さらに,相違点のうち(オ)の各ブロックの錘面の形状及びブロックの配列によって生じる形態が,本件登録意匠では,隣接するブロックとの間の隙間は略平行であり,正面から見た場合,各ブロックが区割り線で仕切られたような形状になり,この点においても本件登録意匠は,整然とした美感をもたらしているのに対し,被告意匠においては,隣接するブロックとの間の隙間にはすべてV字状の溝が形成されていること,4分の1円状の切欠部は,配列された際に他のブロックの4分の1円状の切欠部と接続することで円形をなしていること,ブロックとブロックの間に比較的広い溝があることにより本件登録意匠とは異なる装飾的な美感をもたらしている。
以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠と共通点を有するが,要部について顕著な相違点があり,その他の本件登録意匠と被告意匠の共通点を考慮しても,全体として相違点が共通点を凌駕し,本件登録意匠とは美感を異にするというべきである。
,, 。 したがって 被告意匠は 本件登録意匠とは類似しないというべきであるなお,原告は,本件登録意匠と類似するとの理由により拒絶査定を受けた本件後願意匠に,被告意匠が同一又は類似することを被告意匠が本件登録意匠と類似することの根拠としているが,特許庁がなした拒絶査定の拒絶理由は裁判所に対して何ら拘束力を持つものではなく,意匠の類否の判断は,本件登録意匠と被告意匠とを対比して行えば足りるものである。よって,原告の主張は採用できない。
2以上の次第で,その余の争点について判断するまでもなく,本件意匠権に基づく原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 西理香
裁判官 西森みゆき