運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 物品 /  形状 /  機能美 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  物品の同一性 /  本意匠 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  権利濫用(権利の濫用) /  損害額 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (ワ) 1099号 意匠権侵害差止等請求事件
原告 タカヤマ金属工業株式会社
訴訟代理人弁護士 谷口達吉
同 向井理佳
同 瀧澤崇
補佐人弁理士 藤本昇
同 岩田徳哉
同 石川克司
被告 フクビ化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 小坂重吉
同 山崎克之
同 金澤優
同 町田正裕
訴訟代理人弁理士 戸川公二
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/01/17
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号製品目録、ロ号製品目録及びハ号製品目録記載の鋼製束を製造し、輸入し、販売し、又はその販売の申出をしてはならない。
2 被告は、前項記載の鋼製束を廃棄せよ。
3 被告は、第1項記載の鋼製束を掲載したちらしを配布してはならない。
4 被告は、前項のちらしを廃棄せよ。
5 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成16年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、後記2(2)の意匠権を有する原告が、被告による鋼製束の製造販売が意匠権を侵害しているとして、意匠権に基づき、鋼製束の製造販売等の差止め、廃棄、鋼製束を掲載したちらしの配布の差止め、廃棄を求めるとともに、意匠権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2 当事者間に争いのない事実 (1) 当事者 原告は、樋受金具、鋼製束等の建築用金物(金具)等の製造販売を業とする株式会社である。
被告は、建築資材、樹脂製産業資材の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件意匠 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。
登録番号 第1004321号 出願年月日 平成8年4月24日 出願番号 意願平8-12118 登録年月日 平成9年11月28日 意匠に係る物品 床束 登録意匠 別添意匠公報(登録番号第1004321号。甲第2号証。以下「本件意匠公報」という。)写しのとおり (3) 類似意匠 原告は、本件意匠を本意匠とする次の類似意匠の意匠権(以下、その登録意匠を「本件類似意匠」という。)を有している。
登録番号 第1004321号の類似1 出願年月日 平成8年4月24日 出願番号 意願平8-12119 登録年月日 平成10年2月27日 意匠に係る物品 床束 登録意匠 別添意匠公報(登録番号第1004321号の類似1。甲第3号証)写しのとおり (4) 被告製品の製造販売 被告は、平成15年7月から、別紙イ号製品目録、ロ号製品目録、ハ号製品目録記載の鋼製束を、輸入又は製造して、販売又は販売の申出をしている(以下、別紙イ号製品目録記載の鋼製束を「イ号製品」、別紙ロ号製品目録記載の鋼製束を「ロ号製品」、別紙ハ号製品目録記載の鋼製束を「ハ号製品」といい、イ号製品、ロ号製品及びハ号製品を包括して「被告製品」という。被告製品の販売開始時期については、原告は、平成15年5月であると主張し、被告は同年7月であると主張するが、原告の主張を認めるに足りる証拠はないから、販売開始時期は、被告主張のとおり同年7月であると認められる。)。
(5) 物品の同一性 被告製品は、本件意匠に係る物品である床束に該当する。
3 争点 (1) 本件意匠の構成 (2) 本件意匠の要部 (3) 被告製品の意匠の構成 (4) 被告製品の意匠と本件意匠の対比 (5) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件意匠の構成) (1) 原告の主張 本件意匠の構成は、次のとおりである。
ア 基本的構成態様 T 上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束であって、
U ターンバックルは、上端にナットを有する上側の円筒状部と、下端にナットを有する下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部に明瞭に3区分されて構成され、
V 中間部は、上下の円筒状部と略同じ長さで、かつ上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面を有する略四角形状に形成されており、
W 上下の円筒状部は、上下端のナット側に向かってその先端部がテーパ部を介して幅狭な先細状の略円筒状部に形成されている。
イ 具体的構成態様 X 略L字状のプレートは、プレート本体が平面視全体がやや縦長長方形状で、かつその中央には円形状のボルトの頭部が裸出している。
Y ベースプレートは、底面視やや縦長長方形状で、かつプレートの各4面略中央にV字状の切欠部が形成されており、しかも対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
Z ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。 (2) 被告の主張 ア 原告主張の構成Tは認める。
ただし、意匠の基本的構成態様とは、意匠に係る物品の用途、機能を充足する上で最低限必要とされる基礎的な骨格をなす構成をいうから、本件意匠の基本的構成態様は、原告主張の構成Tに尽き、その余の構成は、具体的構成態様とすべきである。
イ 原告主張の構成Uは争う。
本件意匠においては、ナット部が上下の各円筒状部に固着されてターンバックルの構成部分として一体化しているから(本件意匠公報A-A断面図)、構成Uの「ナットを有する」という部分は誤りであり、その部分は「固着ナットを有する」とすべきである。
また、本件意匠のターンバックルは、上端の固着ナットが形成するA領域、上側の円筒状部が形成するB領域、四角張った断面正方形の中間部が形成するシャープなC領域と、下側の円筒状部が構成するD領域及び下端の固着ナットが形成するE領域とに明瞭に5区分されているから、構成Uの「・・・上側の円筒状部と・・・下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部に明瞭に3区分されて」という記載も誤りである。
ウ 原告主張の構成Vは争う。
本件意匠のターンバックルの中間部は、四角張った断面正方形のシャープな角筒形状をしており、かつ中間部の対角径は、直上、直下の円筒状部の直径よりも明確に幅狭で、中間部と上下の円筒状部との間に水平な段面部による截然とした段差を明瞭に現しているから、構成Vの、中間部が「略四角形状」であるという部分は誤りである。
構成Vには、「中間部は、上下の円筒状部と略同じ長さで」と記載されているが、ターンバックルのうち固着ナット部を除いた上下円筒状部と中間部の局部的な長さを論ずるのは誤りであり、また、この記載部分は本件類似意匠に当てはまらないから、誤りである。
エ 原告主張の構成Wのうち、「テーパ部を介して幅狭な先細状の略円筒状部に形成されている」という部分は争い、その余は認める。
本件意匠の円筒状部の、テーパ部を介して固着ナット部に連なる箇所は、先細状ではなく、テーパ部を介して細径でストレートなパイプ形状をしている。
オ 原告主張の構成Xのうち、「プレート本体が平面視全体がやや縦長長方形状で」という部分は争い、その余は認める。
本件意匠の略L字状のプレートのプレート本体は、各角部が直角状である横長の長方形状をしている。
カ 原告主張の構成Yのうち、「ベースプレートは、底面視やや縦長長方形状で」という部分は争い、その余は認める。
本件意匠のベースプレートは、四つの各角部が直角状である横長の長方形状をしている。
キ 原告主張の構成Zは認める。
ただし、本件意匠は、物品の部分の意匠ではないから、ターンバックルのうち固着ナット部を除いた上下円筒状部と中間部の長さを論ずるのは誤りである。
ク 仮に本件意匠の構成が原告主張のとおりであるとすれば、本件意匠の登録は意匠法3条1項3号の規定に違反してされたもので、本件意匠には無効理由があることが明らかであることとなり、本件意匠権に基づく差止め、損害賠償の請求は、権利の濫用に当たり許されないこととなる。
2 争点(2)(本件意匠の要部) (1) 原告の主張 ア 要部の意味 意匠の要部とは、意匠の骨格をなす部分であって、意匠創作のポイントでかつ看者の注意を引く部分である。
イ 公知意匠等 (ア) 意匠の要部は、その意匠に係る物品の出願前の公知意匠や、類似意匠がある場合は類似意匠等を参酌して認定されるべきである。
(イ) 本件意匠の意匠登録出願前の公知意匠等は、次のとおりであった。
a ターンバックルの回転とナットの締付けによって大引きと床面との上下のレベルを自在に調整する床束(鋼製束)の形態として、上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルト及びナットを介して上下に高さ調整自在なターンバックルを設ける形態は、公知であった。
b ターンバックルが円筒状に形成され、かつ上下の円筒状部が上下端のナット側に向かってその先端部がテーパ部を介して幅狭な先細状の略円筒状に形成されている形態も、公知であった。
c 床束については、ターンバックルの胴部の形状に各種の創作がされ、胴部の形状の相違によって各種意匠が登録されていることが、公知意匠等から明らかである。
ウ 本件意匠の要部 (ア) 本件意匠の構成U(ターンバックルは、上端にナットを有する上側の円筒状部と、下端にナットを有する下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部に明瞭に3区分されて構成され、)、構成V(中間部は、上下の円筒状部と略同じ長さで、かつ上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面を有する略四角形状に形成されており、)は、公知意匠には全く存在しなかった新規な形態である。また、床束を取り扱う建築業者等は、中間部を把持してターンバックルを容易に回転させることができるから、構成U、Vに示されたターンバックルの形状は、作業性等の観点から、需要者の注意を最も強く引く部分である。したがって、
本件意匠の構成U、Vは、本件意匠の要部である。
(イ) 本件類似意匠は、中間部が本件意匠の中間部より上下方向に長いが、上下の円筒状部と中間部が明確に3区分され、しかも中間部が上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な4つの平坦面を有する略四角形状に形成されている点において本件意匠と共通する。したがって、本件類似意匠を参酌しても、本件意匠の要部が構成U、Vであることは明白である。
(ウ) 本件意匠の意匠登録出願前の昭和63年10月26日に意匠登録された意匠登録第753868号の登録意匠(意匠公報は甲第11号証、乙第3号証の1。以下「乙3-1意匠」という。)のターンバックルは、円筒体の一部を圧縮させたくびれ部を有するものであり、くびれ部は、長方形状を小さく設けたものにすぎず、本件意匠の中間部のように縦長な四つの平坦面を有するものではなく、把持部として機能するものではない。乙3-1意匠においては、上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であるのに対し、本件意匠の上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1であり、意匠全体からみると、乙3-1意匠のくびれ部の存在感は小さいのに対し、本件意匠の中間部の存在は強く印象づけられる。本件意匠公報には、乙3-1意匠の登録番号が記載されており、本件意匠は、乙3-1意匠が存在することを前提として意匠登録された。乙3-1意匠は、本件意匠とは無関係であり、本件意匠の基本的構成態様は乙3-1意匠には見られないから、乙3-1意匠が存在することを根拠として本件意匠の要部を限定的に解するのは不当である。
(エ) 本件意匠のターンバックルのシャープな角筒形状は、具体的構成態様にすぎず、殊更際立つものではなく、本件意匠の要部ではない。本件意匠のターンバックルの中間部と上下の円筒状部の間は、内向きテーパ状の傾斜面であり、水平な段面部や明確な段差は存在しない。本件意匠のターンバックルの各上下筒状部と中間部との長さの比は約1.3対1であり、各上下筒状部と中間部の長さには差がほとんどないから、本件意匠は、全体として、胴長短足の印象を与えるものではない。ベースプレートのV字状の切欠部は小さく、その印象は弱い。
(2) 被告の主張 ア 原告の主張ア(要部の意味)のうち、意匠の要部が意匠の骨格をなす部分であるという主張は争い、その余は認める。
意匠の骨格をなす部分とは、意匠の基本的構成態様のことであり、意匠の基本的構成態様が要部となり得るのは、意匠に係る物品が新種物品である場合に限られる。
イ(ア) 原告の主張イ(公知意匠等)(ア)は認める。
(イ)a 原告の主張イ(イ)aは認める。
本件意匠の基本的構成態様は、本件意匠の意匠登録出願前に公知であった。
b 原告の主張イ(イ)bのうち、「テーパ部を介して幅狭な先細状の略円筒状部に形成されている」という部分は争い、その余は認める。
本件意匠のターンバックルの中間部のテーパ部を介して固着ナット部に連なる箇所は、先細状ではなく、テーパ部を介して細径でストレートなパイプ形状をしている。
c 原告の主張イ(イ)cは認める。
ウ 原告の主張ウ(本件意匠の要部)は争う。
(ア) 本件意匠と本件類似意匠との共通点から、本件意匠の要部は、次のとおりである。
@ ターンバックルは、上下端の固着ナットが、中間部の上下の円筒状部に一体に接合されて全体として一体物を構成しており、かつ上下の円筒状部に挟まれる中間部は四角張った断面正方形のシャープな角筒形状を形成して、この角筒形状の中間部と上下の円筒状部との間には水平な断面部が截然とした明確な段差を形成している点。
A ターンバックルの四角張った断面正方形のシャープな角筒形状をなす中間部の対角径が、その直上、直下の円筒状部の直径より小さいことは一見明確であって、角筒形状の中間部の存在を際立たせている点。
B 固着ナットを含んで5区分の領域に区画されているターンバックルは、上側の円筒状部が下側の円筒状部よりも長く、全体として胴長短足の視覚的印象を醸し出している点。
C ベースプレートにおける各辺の中央部分には、基準線(墨打ち線)に合わせるためのV字状の切欠部が形成されて、使用時に配置方向が認識しやすくしてある点。
(イ) 乙3-1意匠のターンバックルは、中間部に上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面を有する略四角形状部を有する。床束のターンバックルにおいて、上下の円筒状部とそれらの間の中間部の長さを略同じに形成することは、
当業者が必要に応じて任意に行う陳腐な改変にすぎない。
3 争点(3)(被告製品の意匠の構成) (1) 原告の主張 被告製品の意匠は、イ号製品、ロ号製品及びハ号製品のそれぞれについて、ターンバックルの長さが異なるが、形状は共通する。
被告製品の意匠の構成は、次のとおりである。
ア 基本的構成態様 @ 上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている鋼製束であって、
A ターンバックルは、上端にナットを有する上側の円筒状部と、下端にナットを有する下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部に明瞭に3区分されて構成され、
B 中間部は、上下の円筒状部と略同じ長さで、かつ上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面を有する略四角形状に形成されており、
C 上下の円筒状部は、上下端のナット側に向かってその先端部がテーパ部を介して幅狭な先細状の略円筒状部に形成されている。
イ 具体的構成態様 D 略L字状のプレートは、プレート本体が平面視全体がやや縦長長方形状で、立上部と受板部の両端縁はアール状に切り欠かれており、かつプレート本体には2条の凹状リブが立上部の頂上まで連続的に形成され、更にプレート本体の立上部には一対の孔が開設されており、しかも受板部の中央には円形状の突状部がかしめられている。
E ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。
F ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1である。
G ターンバックルの中間部に形成した略四角形状部は、四隅が上下の円筒状部の外径と同外径であり、平坦部のみが円筒状部外径よりやや幅狭で、かつ四隅はアール形状である。
H ターンバックルの上下の円筒状部の上下端には、ナットとの間にスプリングワッシャが介装着されている。
I ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。
J ターンバックルの上下の円筒状部の先端側には、小さい確認用貫通孔が穿設され、かつ4条の縦リブが形成されている。
(2) 被告の主張 ア 原告の主張のうち、被告製品の意匠は、イ号製品、ロ号製品及びハ号製品のそれぞれについて、ターンバックルの長さが異なるが形状は共通するという部分は争う。
被告製品の意匠は、イ号製品、ロ号製品及びハ号製品のそれぞれについて、ターンバックルの長さが異なるだけでなく、ターンバックルにおける各部相互の比率も、意匠全体のプロポーションも全く異なっている。
イ 原告主張の構成@は認める。
ただし、被告製品の意匠の基本的構成態様は、原告主張の構成@に尽き、その余の構成は、具体的構成態様とすべきである。原告主張の構成@は、床束が従来から共通に備えている公知の構成である。
ウ 原告主張の構成Aは争う。
被告製品の意匠は、いずれもターンバックルの上下端にナットを有しておらず、上下の各円筒状部と中間部とに明瞭に3区分されていることもない。被告製品のターンバックルの上下のナットは、ボルトに螺合して上下方向に螺進自在であって、スプリングワッシャを挟んでターンバックルの上下端部に各々締め付け可能なロックナットとして機能する部品である。また、ターンバックルの中間部の略四角形状部の角丸な対角部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや大きいか同じサイズであるから、視覚上、ターンバックルは、上下の各円筒状部と中間部とに明瞭に3区分されて認識されることはない。
エ 原告主張の構成Bは争う。
被告製品のターンバックルの中間部は、角丸に成形されており、かつこの対角部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや大きいか同じサイズであるから、
上下の円筒状部より幅狭というのは誤りである。
オ 原告主張の構成Cは争う。
被告製品のターンバックルの上下の円筒状部には、幅狭な先細状の略円筒状部は存在しない。
カ 原告主張の構成Dのうち、「平面視全体がやや縦長長方形状」という部分は争い、その余は認める。
原告が「略L字状のプレート」と称する部分は、平面視において横長の長方形状をしている。
キ 原告主張の構成Eは認める。
ク 原告主張の構成Fのうち、「ロ号製品では約1.1対1対1.1」という部分は争い、その余は認める。
ロ号製品における上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.2対1対1.2である。
ケ 原告主張の構成Gのうち、「四隅は、上下の円筒状部の外径と同外径」という部分、及び「四隅はアール形状となっている」という部分は争い、その余は認める。
原告主張の構成Gのうち、「四隅は、上下の円筒状部の外径と同外径」という部分は、「角丸な対角部分は、上下の円筒状部の外径と同一か、外径よりやや大きく」とすべきである。
コ 原告主張の構成HないしJは認める。
4 争点(4)(被告製品の意匠と本件意匠の対比) (1) 原告の主張 ア 共通点 被告製品の意匠の基本的構成態様である構成@ないしCは、本件意匠の基本的構成態様である構成TないしWとすべて共通し、そのうちでも、被告製品の意匠の構成A、Bは、本件意匠の要部である構成U、Vと共通している。
また、被告製品の意匠の具体的構成態様のうち、略L字状のプレートが縦長長方形状である点(構成D)、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さがおおよそ等しい点(構成F)は、本件意匠の具体的構成態様(構成X、構成Z)と共通する。
イ 相違点 (ア) ターンバックルの中間部の形状 a 被告製品(構成G)のターンバックルの中間部の横断面形状の四隅はアール形状であるのに対し、本件意匠のターンバックルの中間部の横断面形状の四隅は鋭角である。
b 被告製品(構成G)のターンバックルの中間部の四つの平坦面は、
上下の円筒状部よりやや幅狭であるが、四隅は上下の円筒状部の外径と同外径である。これに対し、本件意匠のターンバックルの中間部の四隅は、上下の円筒状部よりやや幅狭で、上下の円筒状部の外径よりやや内側位置にある。
c 被告製品(構成G)のターンバックルの中間部の略四角形状部を形成する一辺の長さは、本件意匠のターンバックルの中間部の略四角形状部を形成する一辺の長さよりも長く、上下の円筒状部の外径よりもやや大径である。
(イ) 略L字状のプレート 被告製品(構成D)の略L字状のプレートには、凹状のリブが一対形成されているのに対し、本件意匠の略L字状のプレートにはリブが存在しない。
(ウ) ベースプレート 被告製品(構成E)のベースプレートは円板状であるのに対し、本件意匠のベースプレートは底面視やや横長長方形状である。
(エ) ターンバックルの円筒状部と中間部の長さ比 被告製品(構成F)のターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、
下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1であるのに対し、本件意匠では約1.3対1対1である。
(オ) ナット、ワッシャ 被告製品(構成H)は、ターンバックルの上下の円筒状部とナットの間にスプリングワッシャが介装着されているが、本件意匠にはスプリングワッシャは存在しない。本件意匠において、ナットは円筒状部とは別体であり、一体ではない。
(カ) 貫通孔 被告製品(構成I)には、ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設され、上下の円筒状部の先端側に小さい確認用貫通孔が穿設されているのに対し、本件意匠のターンバックルには貫通孔は存在しない。
ウ 類否 (ア) 相違点についての検討 a ターンバックルの中間部の形状の相違(前記イ(ア))について (a) 四隅をアール形状又は鋭角にすることは常套手段であるから、四隅をアール形状にするか鋭角にするかの相違によって、看者に与える印象が格別異なることはない。
(b) 四隅が上下の円筒状部の外径と同外径か、そのやや内側に位置するかの相違によって、看者に与える印象が格別異なることはない。
(c) 略四角形状部を形成する一辺の長さが上下の円筒状部の外径よりもやや大径かどうかは、全体からみれば細部的な事項であり、中間部が平坦面を有する点の方が強い印象を与える。
(d) 被告製品の意匠と本件意匠は、ターンバックルに上下の円筒状部とその間の中間部を形成し、ターンバックルを明瞭に3区分としている点、及び中間部に上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面からなる略四角形状部を形成した点を共通にする。被告製品の意匠と本件意匠は、このような共通点を具備することにより、看者に共通の美感を与えるから、前記イ(ア)aないしcの相違点は、
ターンバックルを全体として観察するときは、細部的な事項にとどまる。
なお、本件意匠公報のA-A断面図においてターンバックルの円筒状部の内周面にねじの刻設が示されていないことは、図面上の記載不備であるが、一般的な床束の態様からして、これが記載不備であることは、需要者にとって明白である。また、仮に内周面にねじが刻設されていなかったとしても、その点は、外観上視認できないから、被告製品の意匠と本件意匠の実質的な差異とはならない。
b 略L字状のプレートの相違(前記イ(イ))について プレートにリブを形成することは、例えば意匠登録第885793号の意匠(意匠公報は甲第14号証、乙第4号証の1)にもみられる公知の形態であり、看者の注意を格別引くことではない。むしろ、平面視においてやや縦長長方形状で正面視略L字状の形態に看者の注意が引かれる。このことは、乙3-1意匠とその類似意匠(意匠登録第753868号の類似の1ないし5。意匠公報は乙第3号証の2ないし6)が、プレートの形状に相違があっても類似するとされていることからも裏付けられる。
c ベースプレートの相違(前記イ(ウ))について 意匠登録第1092207号(意匠公報は甲第19号証、乙第12号証)の意匠のベースプレートは円板状であり、ベースプレートを円板状にすることは、単なる設計事項であって、床束を全体として観察するときは、細部的な事項である。このことは、乙3-1意匠とその類似意匠、意匠登録第885793号(意匠公報は甲第14号証、乙第4号証の1)とその類似意匠(意匠登録第885793号の類似1。意匠公報は乙第4号証の2)が、プレートの形状に相違があっても類似するとされていることからも裏付けられる。
d ターンバックルの円筒状部と中間部の長さ比の相違(前記イ(エ))について ターンバックルの円筒状部と中間部の長さ比は、被告製品の意匠と本件意匠とで異なるが、差異は小さく、この程度の差異は、全体として観察するときは、細部的な事項である。また、被告製品の意匠は上下の各円筒状部の長さが同じであるのに対し、本件意匠においては、上側の円筒状部が下側の円筒状部よりやや長いが、この点の差異も、看者に強い印象を与えるものではない。むしろ、被告製品の意匠と本件意匠に共通して、ターンバックルを上下の円筒状部と中間部とに3区分していることが、看者の注意を強く引く。
e ナット、ワッシャの相違(前記イ(オ))について スプリングワッシャは周知のもので何ら新規なものでないため、その有無は格別な差異ではなく、ワッシャをナットの直下に介装着することは常套手段である。このことは、乙3-1意匠とその類似意匠である意匠登録第753868号の類似の3(意匠公報は乙第3号証の4)が、ワッシャの有無に相違があっても類似するとされていることからも裏付けられる。
f 貫通孔の相違(前記イ(カ))について 意匠登録第687112号(意匠公報は乙第2号証)の意匠のターンバックルの胴部には貫通孔が穿設されており、ターンバックルの胴部に貫通孔を穿設することは公知であって、格別新規なことではない。被告製品の貫通孔は小さく、看者の注意を引く程のものではなく、縦リブの有無も、全体として観察するときは、細部的な事項である。
(イ) 類否 被告製品の意匠と本件意匠は、ターンバックルを上下の円筒状部と中間部に明瞭に3区分して形成し(構成A、構成U)、中間部に四つの平坦面を有する略四角形状部を形成した構成(構成B、構成V)を採る点において共通し、これらの構成は、従来の公知意匠に全く存在しなかったから、看者に強く印象づけられる。前記(ア)のとおり、被告製品の意匠と本件意匠の相違点は、いずれも微差であり、看者に格別に異なった印象を与える程のものではなく、相違点を総合しても、
共通点(前記ア)を超えるものではなく、むしろ共通点が相違点を凌駕している。
なお、ターンバックルは回転自在であるため、その回転位置によって正面視の形状が異なるが、意匠的に重要であるのは、特定の回転位置における正面視の形状ではなく、ターンバックル自体の形状であり、ターンバックルの形状は、
被告製品の意匠と本件意匠の間において類似する。
したがって、被告製品の意匠は本件意匠に類似する。
(2) 被告の主張 ア 原告の主張ア(共通点)のうち、被告製品の意匠の構成@が本件意匠の構成Tと共通するという点は認め、その余は争う。
被告製品の基本的構成態様は、原告主張の構成@に尽き、その余の構成は、具体的構成態様とすべきである。
また、ターンバックルの中間部に上下の円筒状部よりやや幅狭で縦長な四つの平坦面を有する略四角形状部を備える床束の意匠は、乙3-1意匠などにより公知であり、上下の円筒状部の長さとそれらの間の中間部の長さを略同じ長さに形成することも、当業者が必要に応じて任意に行う陳腐な改変にすぎない。
イ(ア)a 原告の主張イ(相違点)(ア)(ターンバックルの中間部の形状)aは認める。
b 原告の主張イ(ア)bは認める。
ただし、「本件意匠の中間部の四隅は、上下の円筒状部よりやや幅狭で上下の円筒状部外径よりやや内側位置にある。」という部分は、より正確には「本件意匠の中間部の四隅は、上下の円筒状部の外径よりも極端に幅狭で、その外径より内側位置にあり、中間部と上下の円筒状部との間には水平な段面部を作出し、截然とした段差を明瞭に現している。」とすべきである。
c 原告の主張イ(ア)cは不知。
(イ) 原告の主張イ(イ)(略L字状のプレート)は認める。
(ウ) 原告の主張イ(ウ)(ベースプレート)は争う。
本件意匠のベースプレートは、各角部が直角状の四角張った横長の長方形状をなし、ベースプレートの各辺の中央部分には、基準線(墨打ち線)に合わせるためのV字状の切欠部が形成され、使用時に配置方向が認識しやすく成形してあり、この点は、本件意匠における顕著な特徴の一つである。
(エ) 原告の主張イ(エ)(ターンバックルの円筒状部と中間部の長さ比)は争う。
(オ) 原告の主張イ(オ)(ナット、ワッシャ)は争う。
(カ) 原告の主張イ(カ)(貫通孔)は争う。
ウ 類否 原告の主張ウ(類否)は争う。
被告製品の意匠と本件意匠の類否は、次のとおりである。
(ア) 共通点についての検討 被告製品の意匠の基本的構成態様である構成@は、本件意匠の基本的構成態様である構成Tと共通する。しかし、このような共通点は、従前から存在する床束が備えていた周知の構成である。
(イ) 相違点についての検討 a ターンバックル全体 (a) ナットの自在性の有無 被告製品における上下のナットは、上下のボルトに螺合して上下方向に螺進自在であり、スプリングワッシャを挟んでターンバックルの上下端に各々締め付け可能なロックナットとして機能する締め付け部品であるのに対し、本件意匠のナットは、上下の各円筒状部に固着されてターンバックルの構成部分として一体化している。
(b) ターンバックルの明瞭な区分の有無 被告製品のターンバックルは、上下端にナットを有しておらず、中間部の角丸な対角部分は、円筒状部の外径よりもやや大きいかそれと同じサイズになっているから、視覚上、上下の円筒状部と中間部とに3区分された状態に認識される。これに対し、本件意匠は、上端の固着ナットが形成する領域、上側の円筒状部が形成する領域、四角張った断面正方形状の中間部が形成するシャープな領域、
下側の円筒状部が形成する領域、及び下端の固着ナットが形成する領域とに、直線によってくっきりと明瞭に5区分されている。本件意匠は、円形と角形とを截然と区別しながらも、それらを結合してそのコントラストを強調するものであるが、被告製品の意匠にはそのような意図や効果はない。
(c) 上下のねじの切り方の差異 被告製品は、ターンバックルを上方から見た状態で時計回りに回すことで全体を高くし、反時計回りに回すことで全体を低くする構造であるのに対し、本件意匠は、ターンバックルを上方から見た状態で反時計回りに回すことで全体を高くし、時計回りに回すことで全体を低くする構造である。
b ターンバックルの中間部 (a) 明確な「幅狭」の有無 被告製品のターンバックルの中間部の対角部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや大きいかそれと同じサイズであり、幅狭とはいえないのに対し、
本件意匠のターンバックルの中間部の対角径は、上下の円筒状部の外径よりも明確に幅狭で、中間部と上下の円筒状部との間には、水平な段部を作出し、截然とした段差を現している。
(b) 中間部の輪郭の差異 被告製品のターンバックルの中間部は、角部分が角丸に成形されているため、明確な稜角線は視認できないのに対し、本件意匠のターンバックルの中間部は、四角張った断面正方形のシャープな角筒形状をなしているため、角部が明確な縦の直線として図示される。
c 略L字状のプレート (a) 隅丸と凹状リブの存在 被告製品の略L字状のプレート本体は、受板部と立上部における突端縁の角部分がいずれも隅丸に形成されているとともに、受板部の長辺をなす両側縁の内側には、前記隅丸部を基点として断面U字状の凹状リブが立上部の頂上まで連続的に形成されているのに対し、本件意匠の略L字状のプレート本体は、各角部が直角状に四角張った横長の長方形状をしている。
(b) ボルトのかしめ止めの形態 被告製品において、上側のボルトは、その上端を円管状の小径ヘッドに削成し、略L字状のプレートの受板部中心に穿設された小さな貫通孔に挿通してかしめ止めされ、ボルト根本部の周囲を全周溶接することにより略L字状のプレートに垂設されている。これに対し、本件意匠において、上側のボルトは、略L字状のプレートの受板部中心にボルトの円形状の頭部が裸出して垂設されている。
d ベースプレート (a) 切欠部の有無と形状の相違 被告製品のベースプレートは円形であるが、本件意匠のベースプレートは、各角部が直角状の四角張った横長の長方形状をなし、各辺の中央部分には、基準線(墨打ち線)に合わせるためのV字状の切欠部が形成され、使用時に配置方向を認識しやすく成形してある。
(b) ボルトのかしめ止めの形態 被告製品において、下側のボルトは、その下端を円管状の小径ボトム形状に削成し、ベースプレートの中心に穿設された小さな貫通孔に挿通してかしめ止めされ、ボルト根本部の周囲を全周溶接することによりベースプレートに立設されている。これに対し、本件意匠において、下側のボルトは、ベースプレートの中心にボルトの円形状の頭部が裸出して立設されている。
e 被告製品の上下の区別 被告製品は、上下の円筒状部が全く同じ長さでバランスのとれた形態であり、上下の区別をするために、ターンバックルの中間の角筒部の上端位置に三角印の方向表示マークを刻印している。これに対し、本件意匠は、上下のプレート取り付け部を区別するために上側の円筒状部が下側の円筒状部よりも長く、胴長短足ともいうべき形態に構成されている。
f その他 (a) 確認穴の存在 被告製品には、上側の細径部の下端位置及び下側の細径部の上端位置に、ボルトの限度位置を確認するための確認穴として直径5mmの孔が貫通形成されているのに対し、本件意匠にはそのような確認穴はない。
(b) 回し軸孔 被告製品は、ターンバックルの中間の角筒部の中央に、ドライバーの軸部を通してターンバックルを回すための回し軸孔が、確認穴と同列に並ぶように貫通形成されている。
(ウ) 類否 a 被告製品の意匠と本件意匠の共通点である基本的構成態様(構成@、構成T)は、床束という物品を成り立たせる基本的形状であるから、所与の形態として認識され、格別の注意を引くことはない。
b 床束の形状のうち、需要者である建築業者等の注意を引くのは、ターンバックルとベースプレートの形状であるから、本件意匠の要部は、ターンバックルとベースプレートの形状である。
本件意匠のターンバックルは、角々しく骨張った形状であるのに対し、被告製品の意匠のターンバックルは、中間部付近に目立った直線が見当たらないため、全体的に丸みを帯びた、手触りの良さそうな風情を醸し出している。
本件意匠のターンバックルは、全体として胴長短足ともいうべき形状を採ることによって安定感を強調しているのに対し、被告製品は、上下のバランスのとれた均整美を示している。
被告製品の回し軸孔、確認穴は、その用法を容易に看取することができるから、非常に使い勝手の良さそうな機能美を感じさせる。
被告製品の円形のベースプレートは、配置に当たって縦横の向きに煩わされることがなく、周縁を転がすだけでボルトの伸縮調整を行うことができるから、使い勝手の良さそうな形態美を感じさせる。
被告製品の略L字状のプレートは2条の凹状のリブを備えるため、
機能美を感じさせる。
c 被告製品の意匠と本件意匠は、需要者に与える印象を大きく異にするから、被告製品の意匠は、本件意匠と類似しない。
5 争点(5)(損害額) (1) 原告の主張 被告製品のこれまでの製造販売数は約2万本を下らない。
原告が、被告製品の製造販売がなければ、自ら販売することができた床束1本当たりの利益の額は、約100円である。
したがって、原告は、被告による被告製品の製造販売によって本件意匠権を侵害され、200万円の損害を被った(意匠法39条1項)。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件意匠の構成)について (1) 本件意匠が、原告主張に係る本件意匠の構成T(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束であって、)、
構成Z(ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
上記当事者間に争いのない事実と本件意匠公報(甲第2号証)によれば、
本件意匠の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様 A(全体の構成要素) 上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様 B(ターンバックルの構成要素) ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
C(ターンバックルの各構成要素の長さの比) ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
D(ターンバックルの中間部の形状) ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
E(ターンバックルの中間部の幅) ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭く、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部) ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状) ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている。
H(ナット) ターンバックルの上下端には、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。
I(略L字状のプレート) 略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部が直角状であり、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部) 略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
K(ベースプレート) ベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(2) 本件意匠公報のA-A断面図には、ターンバックルの上下の円筒状部の内周面にねじが刻設されておらず、ナットの本体とワッシャのような円形の鍔状部の内周面にねじが刻設されていることが示されている。この点に関して、原告は、A-A断面図においてターンバックルの円筒状部の内周面にねじの刻設が示されていないことは、図面上の記載不備であるが、一般的な床束の態様からして、これが記載不備であることは、需要者にとって明白である旨、また、仮に内周面にねじが刻設されていなかったとしても、その点は、外観上視認できなから、被告製品の意匠と本件意匠の実質的な差異とはならない旨主張する(前記第3、4(1)ウ(ア)a(d))。
甲第4号証、第20号証及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、上下のボルトをターンバックルに螺合して組み立てられた状態で取引されていることが認められる。そして、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無は、床束の一部品であるターンバックルの内部の形状にとどまり、組み立てられた状態では外観に現れることはない。したがって、被告製品の意匠と対比する前提として本件意匠の構成を認定するに当たって、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無まで確定する必要があるとは認められない。
2 争点(2)(本件意匠の要部)について (1) 意匠の要部、すなわち看者の注意を引く部分は、意匠を全体的に観察し、意匠に係る物品の性質、用途等も考慮して認定すべきである。
本件意匠において、ターンバックルの中央部付近は、その位置からして、
意匠全体の中で最も目立つ部分であると認められる。また、甲第4号証、第20号証及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、大引きと床面との間に設置され、ターンバックルの中央部を握って回転させることにより高さを調節することが認められるから、床束の用途からしても、ターンバックルの中央部付近は、需要者である建築業者等が注目するところであると認められる。このような認定を前提として、本件意匠の構成を全体として観察すると、ターンバックルの中間部の具体的構成態様、すなわちターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)が、本件意匠の要部であると認められる。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。以上のとおり認定する理由を、以下、補足説明する。
(2) 意匠に公知の態様が含まれる場合、それによって直ちにその部分を要部と認定し得なくなるわけではないが、公知の態様は、ありふれているが故に看者の注意を特に引かないことも多く、逆に新規な部分は看者の注意を引くことが多いから、
要部の認定に当たって公知意匠を参酌することは許されるというべきである。
また、類似意匠が登録されている場合、本意匠の要部は、類似意匠にも共通して存在するはずであるから、要部の認定に当たって、類似意匠を参酌することも許されるというべきである。
そこで、要部の認定に当たり、公知意匠、類似意匠を参酌すると、次のとおりとなる。
(3) 公知意匠の参酌 ア 乙第2号証、第3号証の1ないし5、第4号証の1、2、第5号証、第6号証によれば、本件意匠の基本的構成態様である構成Aと同様の構成を備える床束の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に複数登録されていたこと、そのうちでも、乙3-1意匠が、本件意匠との共通点が最も多いこと認められる。したがって、本件意匠のうち、公知意匠である乙3-1意匠と異なる部分のうちには、公知意匠にない新規な部分が含まれているものと認められる。
イ 本件意匠公報及び乙3-1意匠の意匠公報(甲第11号証、乙第3号証の1)によれば、本件意匠は、乙3-1意匠と対比すると、次の点で異なるものと認められる。
(ア) ターンバックルの各構成要素の長さの比 本件意匠(構成C)においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、
中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されているのに対し、乙3-1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、上側の円筒状部と下側の円筒状部の長さは同じである。
(イ) ターンバックルの中間部の形状 本件意匠(構成D)のターンバックルの中間部は、角部がとがっていて縦線をなし、外周の平坦面は縦長であるのに対し、乙3-1意匠のターンバックルのくびれ部は、外周の平坦面はやや縦長の長方形状である。
(ウ) ターンバックルの中間部の幅 本件意匠(構成E)のターンバックルの中間部は、断面の最も幅の広い部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いのに対し、乙3-1意匠のターンバックルのくびれ部は、平坦面に係る部分の幅は上下の円筒状部の外径よりも狭いが、断面の対角線に当たる最も幅の広い部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いかどうか明らかでなく、上下の円筒状部と同じ幅か、上下の円筒状部よりもやや幅が狭い。
(エ) ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部 本件意匠(構成F)のターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られているのに対し、乙3-1意匠のターンバックルのくびれ部の外周には、やや縦長な長方形状の四つの平坦面が形成されているが、くびれ部と上下の円筒状部の境界部には、くびれ部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等はない。
(オ) ナット 本件意匠(構成H)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、
ワッシャのような円形の鍔状部を有するが、乙3-1意匠のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ワッシャのような円形の鍔状部を有しておらず、ワッシャも介していない。
(カ) ベースプレート 本件意匠(構成K)のベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されているのに対し、
乙3-1意匠のベースプレートは、底面視正方形状で、多数の円孔が穿設されている。
ウ(ア) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された乙3-1意匠の類似意匠(意匠登録第753868号の類似の3、4、意匠公報は乙第3号証の4、5)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ターンバックルとナットの間にワッシャを介して配置されている。そして、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、これらの公知意匠と本件意匠は共通する。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(オ)において乙3-1意匠と異なると認定された部分は、公知意匠にない新規な部分とは認められない。
(イ) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された意匠登録第887697号の意匠(意匠公報は乙第6号証)においては、ターンバックルの中央部の最も太い部分は、その上下の部分とは、横線によって明確に区切られている。しかし、同意匠は、ターンバックルの中央部の最も太い部分が円筒形である上、その上下の各部分は、更に曲線又は直線によってそれぞれ3区分されており、ターンバックル全体が上下の各円筒状部と中間部の3区分により構成されている本件意匠とは、ターンバックルの基本的な構成要素が異なっている。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(エ)認定の部分は、ターンバックルが本件意匠のような基本的構成をとる意匠においては、なお新規な部分であると認められる。
エ 前記アないしウの認定によれば、本件意匠の構成のうち、少なくとも、
ターンバックルの中間部の形状(前記イ(イ))、ターンバックルの中間部の幅(前記イ(ウ))、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部(前記イ(エ))は、公知意匠にない新規な部分であると認められ、前記(1)認定の本件意匠の要部は、これらの新規な部分に係るものと認められる。したがって、前記(1)認定の本件意匠の要部は、公知意匠にない新規の構成であるという点からも、看者の注意を引くものと認められる。
オ 原告は、意匠全体からみて、乙3-1意匠のくびれ部は存在感が小さいのに対し、本件意匠の中間部の存在は強く印象づけられると主張し、乙3-1意匠が存在することを根拠として本件意匠の要部を限定的に解するのは不当である旨主張する。
確かに、乙3-1意匠のくびれ部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合は、本件意匠の中間部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合よりも小さい(後記(4)ウ)。しかし、乙3-1意匠のくびれ部は、四つの平坦面がやや縦長の長方形であることを明確に認識するに足りる大きさのものであり、単にターンバックルの中央がくびれているにとどまるものではない。そして、乙3-1意匠において、くびれ部は、ターンバックルの中央に位置すること、及び上下の各円筒状部と異なって四つの平坦面と角部によって構成されていることから、看者の注意を引くものと認められる。他方、本件類似意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比が、約1.3対3.3対1であって、中間部の長さが下側の円筒状部の長さの3倍を超えており、このような長さの比を備える意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、
ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について多少の増減があることは、その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできないと解される(後記(4)ウ)。そうであるとすれば、本件意匠の要部は、本件意匠と乙3-1意匠の相違点のうち、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比以外の点に存在すると認められ、そのような要部を備えるが故にこそ本件意匠の意匠登録が認められたと考えるべきこととなる。したがって、公知意匠である乙3-1意匠、特にそのくびれ部の存在を参酌して本件意匠の要部を認定することは許されるというべきである。
(4) 類似意匠の参酌 ア 本件意匠公報及び本件類似意匠の意匠公報(甲第3号証)によれば、本件類似意匠の構成を本件意匠と対比すると、共通点及び相違点は次のとおり認められる。
(ア) 本件類似意匠は、本件意匠の構成A、B、DないしKと同じ構成を備える。
(イ) ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。これに対し、本件類似意匠は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長く、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
イ 前記(1)認定の本件意匠の要部は、本件意匠と本件類似意匠にも共通して認められる。
ウ ところで、前記(3)イ(ア)認定のとおり、ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は乙3-1意匠と相違しており、本件意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、上下の各円筒状部と中間部の長さが大体等しいのに対し、乙3-1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、くびれ部に比べて上下の各円筒状部の長さが非常に長い。
しかし他方、本件類似意匠についてみると、前記ア(イ)のとおり、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長い。
このように、中間部の長さが下側の円筒状部の3倍を超えるような意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について、多少の増減があることは、
その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできず、本件意匠に類似するか否かの判断に影響を及ぼさないと解される。したがって、本件意匠において、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比が約1.3対1対1で大体等しいことは、公知意匠である乙3-1意匠と異なる構成であるものの、本件意匠の要部とは認められないというべきである。
(5) 前記(2)ないし(4)に認定したところによれば、公知意匠及び類似意匠に照らしても、本件意匠の要部を前記(1)のとおり認定することは、相当であるというべきである。
3 争点(3)(被告製品の意匠の構成)について (1) 本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A-A断面図において、ターンバックルは、中間部の角部の縦線を正面に向けて表示されているから、
被告製品の意匠を図示する際にも、ターンバックルは、中間部の角部を正面に向けて表示するのが相当である。
また、本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A-A断面図において、ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャのような円形の鍔部を接して配置された状態で表示されているから、被告製品の意匠を図示する際にも、
ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示するのが相当である。
したがって、被告製品を本件意匠と対比する際には、ターンバックルが中間部の角部を正面に向けて表示され、ナットがターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示されているイ号図面1-(1)、ロ号図面1-(1)、ハ号図面1-(1)によって被告製品を特定するのが相当であると認められる。
(2) 被告製品が、原告主張に係る被告製品の意匠の構成@(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている鋼製束であって、)、構成Dのうち「略L字状のプレートは、立上部と受板部の両端縁はアール状に切り欠かれており、かつプレート本体には2条の凹状リブが立上部の頂上まで連続的に形成され、更にプレート本体の立上部には一対の孔が開設されており、しかも受板部の中央には円形状の突状部がかしめられている。」という部分、構成E(ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、
小さい孔が4個穿設されている。)、構成Fのうち「ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ハ号製品では約1対1対1である。」という部分、構成Gのうち「ターンバックルの中間部に形成した略四角形状部は、平坦部のみが円筒状部外径よりやや幅狭で」という部分、構成H(ターンバックルの上下の円筒状部の上下端には、ナットとの間にスプリングワッシャが介装着されている。)、構成I(ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。)、構成J(ターンバックルの上下の円筒状部の先端側には、小さい確認用貫通孔が穿設され、かつ4条の縦リブが形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
上記当事者間に争いのない事実と甲第4号証、検甲第1号証、検乙第1、
第2号証によれば、被告製品の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様 @(全体の構成要素) 上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様 A(ターンバックルの構成要素) ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
B(ターンバックルの各構成要素の長さの比) ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1である。
C(ターンバックルの中間部の形状) ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現れておらず、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
D(ターンバックルの中間部の幅) ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部と同外径であり、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
E(ターンバックルの中間部の貫通孔) ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部) ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現しているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状) ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成され、その細径の円筒状部に4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されている。
H(ナット) ターンバックルの上下端には、スプリングワッシャを介してナットが配置されている。
I(略L字状のプレート) 略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹状のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成され、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部) 略L字状のプレートの受板部の中央には、円形状の突起部がかしめられている。
K(ベースプレート) ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。
4 争点(4)(被告製品の意匠と本件意匠の対比)について (1) 被告製品の意匠と本件意匠の共通点は、次のとおり認められる。
ア 全体の構成要素について、被告製品の意匠(構成@)は、本件意匠(構成A)と共通する。
イ ターンバックルの構成要素について、被告製品の意匠(構成A)は、本件意匠(構成B)と共通する。
ウ ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1であるのに対し、本件意匠では約1.3対1対1であり、上側の円筒状部、中間部、及び下側の円筒状部の長さがいずれも大体等しい(1ないし1.3の比)点において、被告製品の意匠(構成B)は、本件意匠(構成C)と共通する。
エ ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、
外周に縦長な四つの平坦面が形成されている点において、被告製品の意匠(構成C)は、本件意匠(構成D)と共通する。
オ ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、平坦面に係る部分の幅が上下の円筒状部の外径よりも狭い点において、被告製品の意匠(構成D)は、本件意匠(構成E)と共通する。
カ ターンバックルの上下の円筒状部の形状について、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている点において、被告製品の意匠(構成G)は、本件意匠(構成G)と共通する。
キ ナットについて、被告製品の意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、スプリングワッシャを介して配置されているのに対し、本件意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。しかし、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、被告製品の意匠と本件意匠は共通する。
ク 略L字状のプレートについて、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている点において、被告製品の意匠(構成I)は、本件意匠(構成I)と共通する。
(2) 被告製品の意匠と本件意匠の相違点は、次のとおり認められる。
ア ターンバックルの中間部の形状について、被告製品の意匠(構成C)は、角部がアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現れていないのに対し、本件意匠(構成D)は、角部がとがっていて縦線をなしている。
イ ターンバックルの中間部の幅について、被告製品の意匠(構成D)は、
最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であるのに対し、本件意匠(構成E)は、最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭い。
ウ ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部に関して、被告製品の意匠(構成F)は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現しているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。これに対し、本件意匠(構成F)は、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
エ ターンバックルの上下の円筒状部の上下端近くの細径の円筒状部について、被告製品の意匠(構成G)は、4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されているのに対し、本件意匠(構成G)には、そのようなリブ、確認用貫通孔はない。
オ 略L字状のプレートについて、被告製品の意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹条のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成されているのに対し、本件意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部が直角状であり、凹条のリブはない。
カ 略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部について、被告製品の意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の中央に、円形状の突起部がかしめられているのに対し、本件意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
キ ベースプレートにつき、被告製品の意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視円形状で、かつプレートの周囲に大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されているのに対し、本件意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(3) 類否 ア 前記2(1)認定のとおり、本件意匠の要部は、ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)である。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、
上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。
被告製品の意匠は、本件意匠とは前記(1)アないしク認定のとおり共通し、前記(1)エ、オ認定の共通点は、本件意匠の要部であるターンバックルの中間部の形状、中間部の幅に係るものである。しかし、それは、本件意匠の要部の一部分について共通するにとどまり、前記(2)アないしウ認定のとおり、要部についても、
大きな相違点が存在する。そして、被告製品の意匠は、ターンバックルの中間部の角部に明瞭な縦線が現れていないこと(前記(2)ア)、ターンバックルの中間部の最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であり、上下の円筒状部よりも細くないこと(前記(2)イ)、中間部の角部は、アール形状をなし、
上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しないこと(前記(2)ウ)から、中間部について、細く角張った印象はほとんどなく、中間部が上下の円筒状部から際立つことはなく、むしろ、中間部は、四つの平坦面が形成されていても、上下の円筒状部との連続性を維持している印象が強く、被告製品の意匠は、中間部を含め、全体として、丸みを帯びた柔らかな印象を看者に与える。
イ 前記アのとおり、被告製品の意匠は、本件意匠と共通点を有するが、その共通点は本件意匠の要部のすべてを含むものではなく、要部について大きな相違点があるほか、要部以外の点についても、前記(2)エないしキ認定の相違点が存在するから、全体として、相違点が共通点を凌駕し、被告製品の意匠は、本件意匠とは美感を異にするというべきである。
ウ したがって、被告製品の意匠は、本件意匠とは類似していないというべきである。
5 結論 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生