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関連審決 不服2005-7325
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10317審決取消請求事件 判例 意匠
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平成14ワ26828損害賠償請求事件 判例 意匠
平成17行ケ10253審決取消請求事件 判例 意匠
平成17行ケ10227審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  部分意匠 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  創作容易(容易の創作) /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10318号 審決取消請求事件
原告株 式会社カネミツ
訴訟代理人弁理士鈴江正二
同 木村俊之
被告特 許庁長 官中嶋誠
指定代理人鍋田和宣
同 岩井芳紀
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/01/31
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-7325号事件について平成18年5月24日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成16年3月15日,別添審決謄本写しの別掲第1表示の意匠について,意匠に係る物品を「プーリー」とする意匠登録出願(意願2004-7578号,以下「本件出願」といい,その部分意匠を「本願意匠」という。)をしたが,平成17年3月8日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月25日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2005-7325号事件として審理し,平成18年5月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月14日,原告に送達された。
2審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願意匠は,特許庁意匠課が平1成15年7月11日に受け入れた,別添審決謄本写しの別掲第2表示の,株DYMCO HIGH VALUE-ADDED 式会社ディムコ発行のカタログである「」(甲5,6,以下「本件カタログ」という。)のPRUDUCTS CATALOG6頁下段最左側のプーリーの意匠の本願意匠に相当する部分の意匠(以下「引用意匠」という。)と,意匠に係る物品が共通し,また,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通し,その形態においても,共通点は,差異点を凌駕して類否判断を左右するものであるから,両意匠は類似するものであって,本願意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないとした。
( )審決が認定した,本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点は,それぞれ次2のとおりである。
ア共通点(審決謄本2頁第2段落)全体が,横臥する略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである点イ差異点(同第3段落)ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点第3原告主張の審決取消事由審決は,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(以下「本願実線部分」ともいう。)と引用意匠における本願実線部分に相当する部分(以下「本件相当部分」ともいう。)の形態の差異点を看過し(取消事由1),本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通すると誤認し(取消事由2),本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通すると誤認し(取消事由3),本願実線部分と本件相当部分の形態の共通点を誤認し(取消事由4),本願意匠と引用意匠の類否判断を誤った(取消事由5)ものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(差異点の看過)( )審決は,本願実線部分と本件相当部分の差異点として,上記第2の2( )1 2イ記載のとおり,「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点」との差異点(以下,同差異点を「差異点a」という。)のみを認定し,以下の差異点bないしdを看過した。
( )引用意匠は,本件カタログに掲載されたプーリーについて原告が入手した2写真(甲7)に示すとおりのものであり,@プーリー背面側のボス部の内周面にねじ溝が形成され,A上記のねじ溝部とボス部内周面の中間部との境界には段差が存在しており,ねじ溝部の内径はボス部内周面の中間部の内径よりも大きく(ねじ溝部は中間部よりも拡径されている),Bプーリー正面側のボス部の開口縁には,径方向内方に突出する環状鍔部が設けられ,C上記A及びBに示された形態により,引用意匠のボス部の内径が,D1ア本願意匠のボス部は内周面にねじ溝が形成されていないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー背面側の内周面にねじ溝部を有する点(以下「差異点b」という。)。
イ本願意匠のボス部は内周面に環状鍔部を有していないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー正面側の内周面に径方向内方に突出する環状鍔部を有する点(以下「差異点c」という。)。
ウ本願意匠のボス部の内径は開口縁の角丸状部分を除いて同一径,つまり,ボス部の内周面が開口縁の角丸状部分を除いて面一の正円筒面であるのに対し,引用意匠のボス部の内径は,ねじ溝部の内径が最も大きく,次いで中間部の内径が大きく,環状鍔部の内径が最も小さくなっており,ボス部の内周面が大径部・中径部・小径部の三段構成になっている点(以下「差異点d」という。)。
(3)被告は,原告主張の差異点bないしdについて,断定できるほどに視認できるとはいい難く,それらは,比較的目につきにくい部分のものであって,技術的にはともかく,意匠的には,いずれも,評価すべきものではない旨主張する。
被告の上記主張は,差異点の評価をいうものであり,差異点の看過を自ら認めるものである。
また,類否判断を実効的に行うためには,引用意匠の形態の認定は,少なくとも,社会通念上他の形態と区別できる程度に具体的に特定されること(識別性)を要するとともに,本願意匠の形態と対比できる程度に具体的に特定されること(対比性)を要するところ,審決が本件カタログに基づいて行った本件相当部分の形態の認定は,上記の意味における識別性及び対比性のいずれの点においても不十分といわざるを得ず,本願実線部分がボス部の内面にも係ることにかんがみるとなおさら不十分なものである。
特に,差異点bないしdに係る本件相当部分の形態は,本件相当部分の略半分の領域を占めるボス部の内面の全域に及んでいるものであり,それらを摘示せずに,本願実線部分と対比することは,本件相当部分の形態の半分しか考慮せずに類否判断を行うものである。
そして,差異点bないしdに係る本件相当部分の形態を同時に備えた形態は,プーリーとして極めて特異な形態であり,ありふれた形態ではなく,引用意匠のプーリーは,アルミ製で削り出しによって作り出すことができた形態で,用途もステンレススチールベルト駆動用のスプロケットプーリという極めて特殊なものである。このような特殊な用途からくる特異な形態を特定せずに引用意匠を認定することは到底許されない。
さらに,意匠に係る物品であるプーリーの需要者は,専門家である当業者であるところ,プーリーの主要な機能は回転伝達にあり,どのような態様で回転軸(中心軸)に固定されるかは需要者の大きな関心事であるから,どのような態様で回転軸に固定されるかを検分しないで需要者がプーリーを購入することはあり得ないこと,技術的効果をもたらす形態であっても,その意匠的効果に差異が生じることから,上記差異点がボス部の内面にあることを理由として,これらを無視ないし過小評価することは許されない。
(4)被告は,原告が,審判請求時に,差異点bないしdを主張していないことを指摘するが,引用意匠の認定は,そもそも被告の責務であり,自らの責務を棚上げして,それを原告に転嫁することは到底許されない。
2取消事由2(本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとした認定判断の誤り)(1)審決は,「本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)として,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通すると認定判断したが,誤りである。
(2)本願意匠のボス部は,回転軸をボス部の内周面に圧入のみで固定させるという用途及び機能を有しているものであり,ボス部の内径は,ボス部の先端の内縁及びその下端の内縁の角丸状部分を除いて同一径の正円筒面であり,ねじ溝部や環状鍔部などは存在しない。
これに対し,引用意匠のボス部は,前記1(2)記載の@〜Cの形態等によれば,圧入によって回転軸が固定されるものではない。
したがって,本願意匠と引用意匠のボス部は用途及び機能において相違し,また,これによる印象も大きく相違する。
(3)被告は,当該物品の属する分野において,ボス部は,回転体の中心軸を支持するという用途及び機能を有しているものであって,本願意匠及び引用意匠のボス部の用途及び機能も同様であること,原告の上記(2)の主張は,用途及び機能を限定的にとらえている旨主張する。
しかし,差異点bないしdに係るボス部内周において,@ねじ溝部,A環状鍔部,Bボス部の内径の段差を同時に備えた引用意匠のボス部の形態は,プーリーとして極めて特異な形態であり,このような特異な形態を必要とする固定方法は,ありふれた固定方法ではない。そして,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するか否かの判断は,形態の対比と同様,需要者を基準としてされる必要があり,プーリーの需要者である専門家の取引者(当業者)からみれば,上記のような特異な形態を備えた本件相当部分の固定方法は,本願実線部分の圧入による固定方法と共通するとは,到底いえない。
また,被告は,原告の上記主張に対し,専ら構造に起因する技術的効果をいうものにすぎない旨主張するが,部分意匠において,本願実線部分及び本件相当部分の用途及び機能として認定されるべきものは,技術的効果も考慮した上での用途及び機能であるから,被告の主張は失当である。
3取消事由3(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)(1)審決は,「両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)は,意匠に係る物品が共通し,並びに,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)として,本願実線部分と本件相当部分の位置,大きさ,範囲が共通すると認定したが,誤りである。
(2)本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」の間には,以下のような差異点が存在する。
アボス部とリム部の軸線方向の相対的関係について,本願意匠のボス部は,リム部の軸線方向の一端から同方向外方に突出する位置,大きさ,範囲を占めているのに対し,引用意匠のボス部は,そのリム部の軸線方向の一端からはみ出さない位置,大きさ,範囲にとどまっている点(以下,同差異点を「差異点α」という。)。
本願意匠のボス部がリム部の軸線方向の一端から同方向外方に突出する位置,大きさ,範囲を占めていることは,本件出願の願書に添付した左側面図,平面図及びA-A線断面図においてボス部のほぼ全容が視認されることから明らかである(甲3)。
イボス部とディスク部の径方向の相対的関係について,両者の外径の比率を尺度とした場合,本願意匠のボス部はディスク部の約2分の1の範囲を占めているのに対し,引用意匠のボス部はディスク部の約3分の1の範囲にすぎない点(以下,同差異点を「差異点β」という。)。
(3)上記差異点α及びβに起因して,本願意匠においては,軸線方向においても径方向においても存在感のあるボス部が強く印象付けられるのに対し,引用意匠においては,ディスク部の広い平坦面とこの平坦面を囲繞するリム部の環状突端とで画成された空間内にボス部が収まっているため,この空間の広さが強調されて印象付けられる。
したがって,本願意匠と引用意匠とで差異点α及びβに起因する印象は全く異なり,本願実線部分と本件相当部分の位置,大きさ,範囲は異なる。
(4)被告は,当該物品の属する分野において,ボス部の先端を,プーリーの前縁より外側の位置とすることは,いずれも本件出願前に発行された意匠公報所載の,意匠登録第785632号の類似第8号の意匠(乙2),同第915851号の意匠(乙3)及び同第962847号の意匠(乙4,以下,乙2ないし乙4に示された意匠を併せて「乙2意匠等」ともいう。)のように既に知られているものであり,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであって,本願意匠のボス部の先端の位置もそれらに比して格別特異なものとはいえず,差異点αは,当該部分を含んだプーリー全体の意匠同士の類否を判断する場合はともかく,本願意匠と引用意匠の類否判断においては,格別影響を及ぼすものではない旨主張するが,失当である。
被告の上記主張は,差異点の評価をいうものであり,差異点の看過を自ら認めるものである。また,改変によりもたらされる形態等が既に知られているものであるとの主張は,乙2意匠等に示される改変が,引用意匠の細部に係るものであるなど,改変の前後における差異が微差であり,改変を引用意匠に施してもその視覚的印象が変わらない場合に限り許されるものであり,改変の結果,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合においては,改変によりもたらされる形態等が既に知られているものであるとの主張は許されない。なぜなら,改変の結果,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合において,上記の主張を許すことは,意匠の類否判断(意匠法3条1項3号)をするとしながら,実質的に創作容易性(同条2項)を判断するものであるからである。本件において,引用意匠に対して,乙2意匠等に示された改変を施すと,ボス部は,ディスク部の略中央部分に位置し,大きさの点においても,看者の注意をひくので,側面視及び平面視において,ボス部の全容が視認できる否かは,視覚的印象として看者に別異の印象をもたらすもので,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合であるから,被告の上記主張は許されない。
また,乙2意匠等に示されたボス部自体,互いに美感が相違するだけでなく,本願意匠のボス部とも美感が相違するものである。
(5)被告は,原告主張の差異点βは,使用の目的に応じて適宜変更される程度の差異にすぎないものである旨主張する。
しかし,被告の上記主張は,差異点の評価をいうものであり,差異点の看過を自ら認めるものである。また,差異点βに起因する視覚的印象ないし美感の差異は顕著である。すなわち,差異点βを面積比でみると,本願意匠においては,ボス部がディスク部に占める範囲は4分の1であるのに対し,引用意匠においては,その範囲は9分の1であり,両者の差異は歴然である。このように構成比率が大きく異なれば,看者に与える印象は大きく異なるものである。差異点を評価する場合には,単に,適宜変更される程度の差異であるかという基準で判断すべきではなく,そのような改変を引用意匠に施した場合に,その改変が引用意匠の細部に係る等,改変の前後における差異が微差であり,そのような改変を引用意匠に施しても引用意匠の視覚的印象が変わらないものであるかという基準で判断すべきである。
4取消事由4(共通点の認定の誤り)(1)審決は,本願意匠と引用意匠の共通点として,「全体が,横臥する略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである点」(審決謄本2頁第2段落)を認定したが,本願意匠においては,ボス部の根元から外方にディスク部が「垂直状に延伸」していないから,誤りである。
(2)本願意匠のディスク部は,本件出願の願書に添付したA-A線断面図に示すとおり,軸線に垂直な面よりも右側に傾斜しつつボス部の根元から延伸しているのに対し,引用意匠のディスク部は,軸線に垂直に延伸しているのであって,この点において,本願意匠と引用意匠において差異がある(以下,同差異点を「差異点e」という。)。
差異点eは,これ自体,引用意匠にはない美感を醸成している上,差異点aに係る本願意匠のボス部の先すぼまりの印象をさらに補強しているから,類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
したがって,両意匠の形態の共通点を誤認し,差異点eを看過した審決の違法は明らかである。
(3)被告は,差異点eについて,本願実線部分とそれ以外の破線部分全体を,注視してようやく判別できる程度のものであり,本願実線部分において,原告が主張する傾斜は,ほとんど判別できないものである旨主張する。
しかし,差異点eは,それ自体の評価にとどまらず,ボス部の外周側面とディスク部のなす角度が鈍角となることによって本願意匠のボス部の先すぼまりの印象を強化しているから,類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
また,プーリーの需要者は,専門家である取引者(当業者)であるから,取引者(当業者)の観点から,看者の注意をひくか否かを判断しなければならないところ,特開平8-267162号公報(甲9)及び特開平11-123485号公報(甲10)に示すとおり,ボス部の付根部は,回転伝達の際に応力が集中するためプーリーで最も強度が要求される部分であり,取引者(当業者)が特に注目する部分であって,ボス部の付根部(ボス部とディスク部の連結部)がどのような形態を有しているかは,取引者(当業者)にとって大きな関心事であるから,看者の注意をひく部分に係る差異点eは,本願実線部分の形態が特異であることと併せて,類否判断に大きな影響を及ぼすというべきである。
5取消事由5(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)( )審決は,「両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)は,意匠に係る物品が共1通し,並びに,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通し,形態においても,差異点の類否判断に及ぼす影響が微弱の域に止まることを考慮すると,共通点は,両意匠の形態全体に著しい共通感を奏するものであり,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,意匠全体として観察すると,両意匠は類似するものというほかない。」(審決謄本2頁第7段落)として,本願意匠と引用意匠が類似すると判断したが,誤りである。
(2)審決は,類否判断を行うに当たり,差異点aに係る本願意匠のボス部の丸味のある先すぼまり形状について,「極僅かに窄めた程度にすぎないものであって,それ程看者の注意を引くとはいえず,その差異は,形態全体から観れば,部分的で軽微な差異であって,両意匠の形態全体の醸し出す印象を異にする程の格別な特徴を表出するとはいい難いから,類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎないというべきである」(審決謄本2頁第6段落)と判断したが,誤りである。
ア本願意匠のボス部は,リム部の一端から軸線方向外方に突出する「位置,大きさ,範囲」を占めるとともに(差異点α),リム部の径方向においても大きな「位置,大きさ,範囲」を占めていて(差異点β),それ自体極めて目立つ存在である。また,本願意匠のディスク部は,軸線に垂直な面よりも右側に傾斜してボス部の根元から延伸していて(差異点e),ボス部の外周側面とディスク部のなす角度が鈍角となるという形態と相まち,本願意匠のボス部の先すぼまりの視覚的印象が強化されている。さらに,ボス部は回転軸を支持する部位であるから,ボス孔中心軸(回転軸の軸線)は常に看者の意識に上るところ,その直線との対比で,ボス部の外周側面の丸味を持った先すぼまり形状が目立ち,強く印象付けられるし,プーリーにおいて,中央部分に位置するボス部は最も看者の注意をひく部分である。
したがって,ボス部の先すぼまりの印象は強く,このような部位の差異点は大きく評価されるべきである。
イ被告は,当該物品の属する分野において,ボス部を先すぼまり状とすることは,特許庁総合情報館が平成7年4月7日に受け入れた,大韓民国特許庁1995年(平成7年)2月9日発行の同国意匠公報1275巻118頁所載の被覆機用プーリー(第159279番)の意匠(乙5),同情報館が平成9年10月9日に受け入れた,大韓民国特許庁1997年(平成9年)9月6日発行の同国意匠公報1574巻209頁所載のベルトプーリー(第202037番)の意匠(乙6),及び,本件出願前に発行された意匠公報所載の意匠登録第965021号の意匠(乙7,以下,乙5ないし乙7に示された意匠を併せて「乙5意匠等」ともいう。)のように既に知られているものであり,本願意匠がボス部の先端をすぼめているとしても,ごくわずかにすぼめた程度にすぎないものであって,それほど,看者の注意をひくとはいえないものである旨主張する。
しかし,プーリーのような機能的物品は,物品の性質上,重要な機能を営む部分が,看者の注意を惹き付ける重要な部分となる。ボス部は,単にディスク部の中央部に位置している点で看者の目をひくだけでなく,正確な回転伝達,強度及び耐久性に大きく影響する部位であるから,看者の注意を特に惹き付ける重要な部分であり,ディスク部との連結部分(ボス部の付根部)を含めたボス部の形態の相違は大きく評価されるべきである。
また,乙5意匠等には,差異点eに係る「本願意匠のディスク部が軸線に垂直な面よりも右側に傾斜してボス部の根元から延伸している」という形態を示すものはないから,差異点eは,類否判断において大きく評価される。
さらに,被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,その他の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張するが,差異点eは,本願実線部分と本件相当部分の形態自体の相違を示すものであり,その他の部分(本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分)に係る相違ではないから,被告の主張に拠ったとしても,軽視することはできない。
( )審決は,類否判断に行うに当たり,本願意匠がボス部の先端側及び下端側3の内縁をいずれも角丸状に形成している点について,「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠が何れも角丸状に形成し,・・・極僅かに丸くした程度にすぎないものであると共に,極僅かに窄めた程度にすぎないものであって,それ程看者の注意を引くとはいえず,その差異は,形態全体から観れば,部分的で軽微な差異であって,両意匠の形態全体の醸し出す印象を異にする程の格別な特徴を表出するとはいい難いから,類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎない」(審決謄本2頁第6段落)と判断したが,誤りである。
アボス部の先端側及び下端側の内縁をいずれも角丸状に形成している点は,本願意匠のプーリーが,圧入により回転軸と固定されることに照らせば,技術常識に反する意外な印象を需要者に与えるものであり,類否判断に及ぼす影響は大きい。
すなわち,圧入により回転軸と固定されるプーリーにおいて,ボス部の先端側及び下端側の内縁が曲面に形成されると,ボス部に挿通される回転軸の外周面とボス部の内周面との有効当接長さが短くなるため,プーリーの使用状態(回転時)において,ベルトの大きな張力により,プーリーが回転軸に対してぐらつき,正確な動力伝達が妨げられるだけでなく,振動や騒音の原因にもなる。特に,本願意匠のようにボス部の基端側が突出しておらず,ボス部の軸線方向の長さ自体が短いものでは,振動や騒音の原因となる。本願意匠は,そのような技術常識があるにもかかわらず,ボス部の先端側及び下端側の内縁を,いずれも,角丸状に形成しているのであり,この点は,プーリーの需要者である看者に対し,技術常識に反する,極めて突飛で意外な印象を与えているものである。
そして,本願意匠が,圧入により回転軸と固定されるプーリーに係る意匠であること,本願意匠のボス部の軸線方向の長さが短いこと,及び,看者が専門家であることにかんがみれば,本願意匠のボス部の先端側及び下端側の内縁の角丸形状は,単なる角丸形状にとどまらない大きな評価を与えられるべきである。
イ被告は,原告の上記主張は,専ら構造に起因する技術的効果を主張しているにすぎず,意匠的には,本願意匠がボス部の先端側及び下端側の内縁を角丸状としているとしても,ごくわずかに丸くした程度にすぎないものであって,それほど,看者の注意をひくとはいえないものである旨主張する。
しかし,原告は,本願意匠がボス部の先端側及び下端側の内縁を角丸状としていることは,技術常識に反する意外な印象を看者に与えると主張しているのであり,技術的効果を主張しているのではない。技術的効果に反し,看者に意外な印象を与えることは,意匠的効果というべきである。
また,プーリーの需要者が,専門家である取引者(当業者)であることにかんがみれば,技術的効果を奏する形態であるからといって,意匠的に過小評価してよいものではなく,プーリーの主要な機能は回転伝達にあり,どのような態様で回転軸に固定されるかは無視することはできないし,プーリーのような機能的物品の場合は,物品の性質上,重要な機能を営む部分は,看者の注意を惹き付ける重要な部分となっているから,機能的要請に基づく形態であっても,その部分が物品の重要な技術的効果をもたらす部分である場合には,その部分の形態が,意匠的にも,看者に注目されるのである。
(4)以上を総合すれば,本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品が共通するが,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲において相違し,また,形態上の共通点が存在するとしても,これらはプーリー一般に通有の事項であるのに対し,形態上の差異点は,それ単独で,また,その他の差異点と相まって,視覚的に大きな印象の相違をもたらすものであるから,全体として見た場合には,両意匠の共通点を凌駕して全く別異の美感を醸成しているものであり,本願意匠と引用意匠とが,全体として類似するとした審決の類否判断は誤りというほかない。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(差異点の看過)について( )原告は,審決が,本願実線部分と本件相当部分の差異点を看過したとして,1本願実線部分と本件相当部分には,差異点bないしdがある旨主張するが,失当である。
原告の上記差異点は,専ら技術的効果をいうもの,引用意匠の実物のその部分を注視してようやく気がつくもの,あるいは,その部分を子細に測って分かる程度のものにすぎない。
本件カタログに所載の引用意匠において,原告が差異点と主張する,@ねじ溝部,A環状鍔部,Bボス部の内径部の段差は,いずれも断定できる程度に視認できるとはいい難いものであり,それらの部分は,いずれも,当該物品の内部又はその奥部という,比較的,目につきにくい部分のものであって,技術的にはともかく,意匠的には,いずれも格別評価すべきものではない。
したがって,それらは,本願意匠と引用意匠との対比において,具体的態様の差異点として取り上げるまでもないものである。
( )なお,原告が,審判請求時において,上記差異点bないしdの点を主張し2ていないことからも,原告の主張は失当である。
2取消事由2(本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとした認定判断の誤り)について( )原告は,本願意匠と引用意匠のボス部は用途及び機能において相違し,こ1れらによる印象も大きく相違するとして,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとした審決の認定判断を争うが,原告の主張は,用途及び機能を限定的にとらえているものであり,理由がない。
( )当該物品の属する分野において,ボス部は,回転体に設けられ,中心軸を2支持するという用途及び機能を有しているものであって,両意匠のボス部の用途及び機能も同様のものである。すなわち,当該物品の属する分野において,ボス部に中心軸を固定するために,圧入により固定すること,ねじにより固定すること,キーにより固定することは,いずれも,例えば,本件カタログ(甲5)において,引用意匠のほか,引用意匠の一つおいた右側の意匠,引用意匠の上隣の意匠に見られるように,ごく普通にされるありふれた固定手法といえるものであり,専ら構造に起因する技術的効果にすぎない。したがって,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとした審決の認定判断に誤りはない。
3取消事由3(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)について( )原告は,本願実線部分の位置,大きさ,範囲と,本件相当部分の位置,大1きさ,範囲との間には差異点(差異点α及びβ)が存在するとして,審決が,これらを看過して,両者が共通すると誤認した旨主張するが,失当である。
( )本願実線部分と本件相当部分は,プーリーの略中央部分に位置している点2で,共通している。
そして,原告が差異点αとして主張する,ボス部の先端が,プーリーの前縁より外側に位置しているか内側に位置しているかの点の差異は,当該部分を含んだプーリー全体の意匠の類否を判断する場合はともかく,当該物品の属する分野において,ボス部の先端を,プーリーの前縁より外側の位置とすることは,乙2意匠等のように既に知られているものであり,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであって,本願意匠のボス部の先端の位置もそれらに比して格別特異なものとはいえないものであることから,本願意匠と引用意匠の類否判断においては,格別影響を及ぼすものでない。
また,原告が差異点βとして主張する,当該物品全体の径に対するその略中央部分の比の差異は,使用の目的に応じて適宜変更される程度の差異にすぎないものである。
4取消事由4(共通点の認定の誤り)について原告は,本願意匠では,ボス部の根本から外方にディスク部が「垂直状に延伸」していないから,「全体が,横臥する略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである点」を本願意匠と引用意匠の共通点とした審決の認定が誤りである旨主張する。
しかし,原告が主張する,本願意匠では,ボス部の根本から外方にディスク部が垂直状に延伸していないという点は,本願実線部分とそれ以外の破線部分全体を,注視して,ようやく判別できる程度のものであり,本願実線部分において,原告が主張する傾斜は,ほとんど判別できないものであり,審決の認定に誤りはない。
5取消事由5(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について( )原告は,ボス部の丸みのある先すぼまり形状について,類否判断に及ぼす1影響が微弱であるとした審決の判断が誤りである旨主張するが,失当である。
原告は,ボス部について,差異点α及びβがあり,これらは類否判断において大きく評価されるべきである旨主張するが,これらの差異点は,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲に,格別影響を及ぼすものでない。
また,原告は,ボス部の先すぼまり形状は,差異点に係る形態と相まっeて,視覚的印象が強められている旨主張するが,同差異点に係る形態として,原告が主張する傾斜は,ほとんど判別できないものである。
そして,当該物品の属する分野において,ボス部を先すぼまり状とすることは,乙5意匠等のように既に知られているものであり,本願意匠がボス部の先端をすぼめているとしても,ごくわずかにすぼめた程度にすぎないものであって,それほど,看者の注意をひくとはいえないものである。
さらに,部分意匠についての類否判断は,基本的には通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,その他の部分(本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分)については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分のそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである。
したがって,本願意匠における,ボス部の丸味のある先すぼまり形状について,大きく評価すべきであるとの原告の主張は失当である。
( )原告は,本願意匠のボス部の先端側及び下端側の内縁の角丸形状について,2需要者である看者に対し,技術常識に反する,極めて突飛で意外な印象を与えているものであるなどとして,大きな評価を与えるべきである旨主張する。
しかし,原告の主張は,専ら構造に起因する技術的効果を主張しているにすぎないものであり,技術的にはともかく,意匠的には,本願意匠がボス部の先端側及び下端側の内縁を角丸状としているとしても,ごくわずかに丸くした程度にすぎないものであって,それほど看者の注意をひくとはいえず,原告主張は失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(差異点の看過)について( )審決は,前記第2の2( )イのとおり,本願意匠と引用意匠の差異点とし1 2て,「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点」を認定したところ,原告は,この差異点aのほかに,「本願意匠のボス部は内周面にねじ溝が形成されていないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー背面側の内周面にねじ溝部を有する点」(差異点b),「本願意匠のボス部は内周面に環状鍔部を有していないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー正面側の内周面に径方向内方に突出する環状鍔部を有する点」(差異点c),及び,「本願意匠のボス部の内径は開口縁の角丸状部分を除いて同一径,つまり,ボス部の内周面が開口縁の角丸状部分を除いて面一の正円筒面であるのに対し,引用意匠のボス部の内径は,ねじ溝部の内径が最も大きく,次いで中間部の内径が大きく,環状鍔部の内径が最も小さくなっており,ボス部の内周面が大径部・中径部・小径部の三段構成になっている点」(差異点d)において,本願意匠と引用意匠が異なる旨主張する。
(2)しかし,原告主張の上記差異点bないしdに係る形態は,本願意匠を表した本件出願の願書添付の図面及び本件カタログを視認しても,必ずしも明りょうに表されているとはいえないものであるが,仮に,これらの差異点が認められるとしても,後記5( )ウで判断するとおり,いずれの差異も微細な 3ものであり,部分意匠の類否判断の結論に影響を及ぼすものであるとはいえない。このように,差異点の看過が認められるとしても,その看過が審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかな場合には,差異点を看過したことをもって,取消事由とすることはできない。
( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
32取消事由2(本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとした認定判断の誤り)について(1)審決は,「両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)は,意匠に係る物品が共通し,並びに,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)として,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(本願実線部分)と引用意匠の本願意匠に該当する部分(本件相当部分)の用途及び機能が共通すると認定判断したのに対し,原告は,その認定判断の誤りを主張する。
( )物品の部分の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形状2等」ということがある。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものも,「意匠」(意匠法2条1項)であり,部分意匠として,意匠登録を受けることができる。そして,意匠登録を受けることができる物品については,意匠法施行規則7条において,別表第1の物品の区分が定められているものの,物品の部分について,意匠登録を受けることができる部分についての規定はなく,出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分については,願書の「意匠の説明」欄の記載及び添付図面を用いて(同規則3条所定の様式第6の備考11参照),自ら,意匠登録を受けようとする部分を定めることができると解される。
物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。なお,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。
( )本願意匠と引用意匠は,いずれも意匠に係る物品はプーリーで共通し,プ3ーリーは,一般に,「ベルト伝動装置において,ベルトと接して軸に動力や回転を伝えたり,あるいはベルトの方向を変えたり張力を付与したりするベルト車の総称」(平成9年8月20日社団法人日本機械学会発行「機械工学事典」)であって,ベルト伝動において,ベルトと接して中心軸に動力や回転を伝えるという用途及び機能を有するものである。本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(本願実線部分)及び引用意匠の本願意匠に該当する部分(本件相当部分)は,後記4のとおり,ボス部とその根元を外方に垂直状に延伸して略円盤状に形成したディスク部からなるところ,プーリーにおいて,ボス部は,「軸のはまる穴の縁に補強のためにつけた突起した肉厚の部分」(平成12年3月31日日刊工業新聞社発行「図解機械用語辞典第3版」)を指し,回転の中心軸を支持するという用途及び機能を有しており,本願意匠及び引用意匠に係るプーリーのボス部の用途及び機能も,いずれも回転の中心軸を支持するというものである。そうすると,本願意匠に係る物品であるプーリーが有する用途及び機能との関係において,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通すると認められる。
( )原告は,本願意匠のボス部は,回転軸をボス部の内周面に圧入のみで固定4させるという用途及び機能を有しているのに対し,引用意匠のボス部は,圧入によって回転軸が固定されるものではなく,差異点bないしdに係るボス部内周において,@ねじ溝部,A環状鍔部,Bボス部の内径の段差を同時に備えた,プーリーとして極めて特異な形態であるから,本願意匠と引用意匠のボス部は用途及び機能において相違し,また,これによる印象も大きく相違する旨主張する。
しかし,審決は,部分意匠の対比をするに当たり,本願意匠に係る物品であるプーリーの用途及び機能を検討し,この観点から,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が共通するとしたのであり,審決の上記認定判断に誤りはない。原告の上記主張は,単に,本願意匠及び引用意匠に係るプーリーのボス部を直接対比し,両ボス部には,技術的に異なる意義があり,用途及び機能において相違し,また,これによる印象も大きく相違するというものであって,ベルト伝動において,ベルトと接して中心軸に動力や回転を伝えるという,本願意匠に係る物品であるプーリーが有する用途及び機能との関係において,本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能が相違することをいうものではないから,原告が主張する技術的意義等の差異は,部分意匠の対比において検討されるべきものではない。
( )したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
53取消事由3(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)について(1)審決は,「両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)は,意匠に係る物品が共通し,並びに,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)としたのに対し,原告は,本願実線部分の位置,大きさ,範囲と,本件相当部分の位置,大きさ,範囲との間には,差異点α及びβが存在している旨主張する。
( )部分意匠においては,物品全体の形状等に係る意匠と同様,意匠登録出願 2の願書には,原則として,意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付する必要があり(意匠法6条1項柱書),願書に添付すべき図面は,意匠法施行規則の様式第6により作成しなければならない(同規則3条)。
そして,上記様式第6において,物品の部分について意匠登録を受けようとする場合は,一組の図面において,意匠に係る物品のうち,「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き,「その他の部分」を破線で描く等により意匠登録を受けようとする部分を特定し,かつ,その特定する方法を願書の「意匠の説明」の欄に記載するものとし(備考11),実線及び破線の太さ(備考5)などが定められている。
出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分を,上記の方法により,意匠登録を受けようとする部分として定めることができると解されるのであるが,その際,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記( )イ3等のとおり,意匠登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,前記2( )のとおり,意匠登録を受けようとする部分がど2のような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである。
そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。
( )本願実線部分は,プーリーにおいて,略短円筒状に形成したボス部と,そ3の根元を外方に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである。
原告は,ボス部とリム部の軸線方向の相対的関係について,本願意匠のボス部は,リム部の軸線方向の一端から同方向外方に突出する位置,大きさ,範囲を占めているのに対し,引用意匠のボス部は,リム部の軸線方向の一端からはみ出さない位置,大きさ,範囲にとどまっているとして,これを差異点αである旨主張する。
ア本件出願の願書に添付した図面(甲3)においては,ボス部の先端を,プーリーの前縁より外側の位置とする形態のプーリーが示されている。
しかし,プーリーの前縁は破線で示されていて,本件出願は,ボス部とリム部の軸線方向の相対的関係に係る意匠につき,意匠登録を受けようとするものではないことは明らかである。そして,本願実線部分は,プーリーにおいて,略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものであるところ,当該部分は,ボス部の先端とプーリーの前縁との位置関係にかかわらず,一定のまとまりがあり,美感を生じさせる形状等ということができる。
ところで,プーリーにおいて,ボス部の先端を,プーリーの前縁より外側の位置とすることは,乙2意匠等に照らしても,既に知られていて,ありふれた形態といえるものであり,ボス部の先端をプーリーの前縁より外側の位置とするか内側の位置とするかは,使用の目的に応じて選択されるものであり,本願実線部分も,既に知られている形態に比して特異なものではない。そうすると,本件出願の願書に添付した図面において,ボス部の先端と破線で示されているプーリーの前縁との位置関係は,通常のプーリーが有するありふれた形態のうちの一形態を示すものとみることができるものである。
そこで,本件出願の願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮すると,本願実線部分は,プーリーの略中央部分に位置する,略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなる部分であり,その位置について,添付図面においては,ボス部の先端をプーリーの前縁より外側にすることが示されているが,それは,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係について,プーリーにおけるありふれた形態を示したというものにすぎず,本願意匠において,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係については,図面記載のものに限定されず,プーリーにおけるありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するものも予定されているものと認められる。
イ意匠登録を受けようとする部分の形状等と,同部分と位置等が大きく異なる部分についての形状等は,仮に,それらの形状等自体が共通又は類似し,物品を共通にしたとしても,美感上,看者に与える印象が異なる場合があるといえるから,部分意匠の類否の判断に当たっては,意匠登録を受けようとする部分とそれに相当する部分が,物品全体の形態との関係で,どこに位置し,どのような大きさを有し,全体に対しどのような割合を占める大きさであるか(「位置等」)についての,差異の有無を検討する必要がある。
もっとも,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであることに照らせば,部分意匠の類否判断において,意匠登録に係る部分とそれに相当する部分の位置等の差異については,上記部分意匠制度の趣旨を没却することがないようにしなければならない。
破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の変更など,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
ウ本件相当部分は,本件カタログの6頁下段最左側のプーリーの意匠の本願意匠に相当する部分であり,そのボス部の先端は,プーリーの前縁より内側の位置にするものであるから,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係において,本願実線部分と本件相当部分が相違するともいえる。
しかし,前記イのとおり,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,類否判断に影響を及ぼさないものであるところ,前記アのとおり,本願意匠において,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係については,図面記載のものに限定されず,プーリーにおけるありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するものも予定されているものと認められる。そうすると,本件においては,ありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するといえる引用意匠に係るプーリーのボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係についても,予定されていると解釈し得るのであり,本願実線部分と本件相当部分の上記位置の差異は,類否判断に影響を及ぼすものではない。
エ原告は,前記のとおり,本願意匠と引用意匠の位置,大きさ,範囲について,差異点αがあり,本願意匠と引用意匠とで,それに起因する印象は全く異なる旨主張する。
原告の主張は,本件出願の願書に添付した図面において,ボス部とリム部の軸線方向の相対的関係については,通常のプーリーが有するありふれた形態を示す以上に意味を有するものでないにもかかわらず,同図面において意匠登録を受けようとする意匠ではないとしていた,ボス部とリム部の軸線方向の相対的関係について,実質的に,これを本願意匠の内容に取り込んで,本願意匠を,願書添付の図面で示されたボス部とリム部の軸線方向の相対的関係を有するものに限定して,その類否判断をすることになりかねないものであり,そのように本願意匠の意匠登録を受けようとする部分をとらえることを前提とする主張は,すべて失当である。
( )原告は,ボス部とディスク部の径方向の相対的関係について,両者の外径4の比率を尺度とした場合,本願意匠のボス部はディスク部の約2分の1の範囲を占めているのに対し,引用意匠のボス部はディスク部の約3分の1の範囲にすぎないとして,これを差異点βである旨主張する。
ア本件出願の願書に添付した図面においては,ボス部は,ディスク部の約2分の1の範囲を占めている。しかし,本件出願は,略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなる部分意匠を意匠登録を受けようとする意匠とするものであって,ディスク部の外周は,意匠登録を受けようとする意匠ではないとして破線で示されており,ボス部とディスク部の割合に係る意匠につき,意匠登録を受けようとするものでないことは明らかである。
そして,プーリーにおいて,ボス部とディスク部の割合を約2分の1とすることは,ありふれた形態といえるものであり,ボス部とディスク部の範囲の割合を約2分の1とするか約3分の1とするかなどは,使用の目的に応じて選択されるものであり,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分も,既に知られている形態に比して特異なものではない。そうすると,本件出願の願書に添付した図面において,ボス部とディスク部の範囲の割合は,プーリーが有するありふれた形態のうちの一形態を示すものとみることができるものである。
したがって,本件出願の願書及びその添付図面等の記載並びに前記( )3ア記載の意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮すると,本願意匠においては,ボス部とディスク部の範囲の割合については,願書添付の図面は,その割合を約2分の1とするものを示しているが,それは,通常のプーリーにおける割合のものを示したというものであり,ボス部とディスク部の割合を約2分の1の割合とすると限定するものではなく,上記割合について,通常のプーリーが有する割合であるものも予定されていると認められる。
イ引用意匠に係るプーリーは,ボス部とディスク部の範囲の割合を約3分の1とするものであるから,ボス部とディスク部の範囲の割合において,本願意匠に係るプーリーと引用意匠に係るプーリーが相違するともいえる。
しかし,前記( )イのとおり,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照3らし,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼさないところ,前記アのとおり,本件出願の願書添付の図面において示されたボス部とディスク部の範囲の割合は,通常のプーリーにおける割合のものであることを示すもので,願書添付の図面は,その割合を約2分の1とするものを示しているが,前記アのとおり,本願実線部分は,ボス部とディスク部の割合を約2分の1の割合とするものに限定されず,上記割合について,通常のプーリーが有する割合であるものも予定していると認められる。そうすると,通常のプーリーが有するボス部とディスク部の範囲の割合であるといえる引用意匠に係るプーリーのボス部とディスク部の範囲の割合も,予定されていると解釈し得るのであり,その位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
ウ原告は,前記のとおり,本願意匠と引用意匠の位置,大きさ,範囲について,差異点βがあり,本願意匠と引用意匠とで,それに起因する印象は全く異なる旨主張する。
原告の主張は,本件出願の願書に添付した図面において,ボス部とディスク部の範囲の割合については,プーリーが有するありふれた形態を示す以上に意味を有するものでないにもかかわらず,同図面において意匠登録を受けようとする意匠ではないとしていた,ボス部とディスク部の割合に係る意匠について,実質的に,これを本願意匠の内容に取り込んで,本願意匠を,願書添付の図面で示されたボス部とディスク部の範囲の割合を有するものに限定して,その類否判断をすることになりかねないものであり,そのように本願意匠の意匠登録を受けようとする部分をとらえることを前提とする主張は,すべて失当である。
( )したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
54取消事由4(共通点の認定の誤り)について( )審決は,本願意匠と引用意匠の共通点として,「全体が,横臥する略短円1筒状に形成したボス部と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである点」(審決謄本2頁第2段落)を認定したのに対し,原告は,本願意匠においては,ボス部の根元から外方にディスク部が「垂直状に延伸」していないから,同認定が誤りである旨主張する。
( )本件出願の願書に添付した図面によれば,本願意匠のボス部は,略円筒状2で,先端の外周側面がごくわずかにすぼまり,その根元にかけて,円筒状に近付いているのであり,他方,ディスク部は軸線にほぼ垂直に延伸していて,ボス部の根元と外方に延びるディスク部とは,ほぼ垂直か垂直をなすものであると認められる。そして,仮に,ボス部の根元又は軸線と外方に延びるディスク部とが,厳密には垂直をなすとはいえなくともほとんど垂直をなすといえるものであるから,本願意匠では,ボス部の根元から外方にディスク部が垂直状に延伸していると認められる。また,引用意匠においては,ボス部の根元は外方に垂直状に延伸している。
したがって,ボス部の根元から外方にディスク部が垂直状に延伸する点を共通点と認定した審決に原告主張の誤りはない。
( )原告は,差異点eは,それ自体の評価にとどまらず,ボス部の外周側面と3ディスク部のなす角度が鈍角となることによって本願意匠のボス部の先すぼまりの印象を強化しているから,部分意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであること,プーリーの需要者は,専門家である取引者(当業者)であるから,取引者(当業者)の観点から,看者の注意をひくか否かを判断しなければならず,差異点eが看者の注意をひく部分に係るものであることを主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本件出願の願書に添付した図面を詳細に検討しても,ボス部の根元と外方に延びるディスク部とは,ほぼ垂直か垂直をなすものであり,仮に,厳密に垂直でなくとも,垂直との差は極めてわずかであって,ボス部の外周側面とディスク部のなす角度により,ボス部の先すぼまりの印象を強調するものであるとは認められないし,その差の微細さからも,本願意匠に係る物品の取引者が専門家であったとしても大きな注意をひくものとは認められず,原告の主張は失当である。
( )したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
45取消事由5(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について( )審決は,「両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)は,意匠に係る物品が共1通し,並びに,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通し,形態においても,差異点の類否判断に及ぼす影響が微弱の域に止まることを考慮すると,共通点は,両意匠の形態全体に著しい共通感を奏するものであり,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,意匠全体として観察すると,両意匠は類似するものというほかない。」(審決謄本2頁第7段落)としたのに対し,原告は,この類否判断の誤りを主張する。
( )本願意匠と引用意匠は,「全体が,横臥する略短円筒状に形成したボス部2と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものである点」で共通し,「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点」との差異点(差異点a)がある。
また,前記1のとおり,必ずしも明りょうではないが,「本願意匠のボス部は内周面にねじ溝が形成されていないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー背面側の内周面にねじ溝部を有する点」(差異点b),「本願意匠のボス部は内周面に環状鍔部を有していないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー正面側の内周面に径方向内方に突出する環状鍔部を有する点」(差異点c),及び,「本願意匠のボス部の内径は開口縁の角丸状部分を除いて同一径,つまり,ボス部の内周面が開口縁の角丸状部分を除いて面一の正円筒面であるのに対し,引用意匠のボス部の内径は,ねじ溝部の内径が最も大きく,次いで中間部の内径が大きく,環状鍔部の内径が最も小さくなっており,ボス部の内周面が大径部・中径部・小径部の三段構成になっている点」(差異点d)について,差異点を認める余地がある。
( )そこで,本願意匠と引用意匠の差異点について,順次検討する。
3ア「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点」(差異点a)のうち,ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本件出願の願書に添付した図面を詳細に検討すれば,ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁は,角丸状に形成されていることが認められるものの,図面上詳細に検討すれば,角状に形成した場合との差が認められるいう程度であり,丸くなっている部分は,ごくわずかというほかないものであって,意匠に係る物品において,看者において,直ちに角丸状に形成された点を印象付けられる程度のものとは認められない。
原告は,本願意匠は,技術常識に反し,ボス部の先端側及び下端側の内縁を,いずれも,角丸状に形成しているのであり,この点は,プーリーの需要者である看者に対し,技術常識に反する,極めて突飛で意外な印象を与えているものであり,大きな評価が与えられるべきであるとし,また,プーリーの需要者が専門家である取引者(当業者)であることにかんがみれば,技術的効果を奏する形態であるからといって,直ちに意匠的に過小評価してよいものではなく,その部分が物品の重要な技術的効果をもたらす部分である場合には,その部分の形態が意匠的に高く評価されるべきである旨主張する。
しかし,本願意匠において,ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁については,本件出願の願書に添付した図面を子細に検討しても,角状に形成した場合との差が認められるいう程度のものであって,丸くなっている部分は,ごくわずかというほかないものであって,原告主張の事実を考慮しても,その丸くなった部分の絶対的な小ささから,その部分の形態が意匠的に高く評価されるべきものとは認められない。
イ「ボス部の先端の内外縁及びその下端の内縁について,本願意匠は,何れも極僅かに丸くした角丸状に形成し,また,その先端の外周側面を極僅かに窄めているのに対して,引用意匠は,何れも角丸状に形成しているかどうか不明であり,また,その先端を窄めていない点」(差異点a)のうち,ボス部の先端の外周側面について,本件出願の願書に添付した図面によれば,ボス部の先端の外周側面をごくわずかにすぼめていることを認めることができる。しかし,その先すぼまりの程度も決して大きなものではないし,当該物品の属する分野において,ボス部を先すぼまり状とすることは,乙5意匠等のように既に知られているものであるから,そのようにボス部の先端の外周側面をごくわずかにすぼめていることについて,看者が強く印象付けられるものとも認められない。
原告は,本願意匠のボス部は,リム部の軸線方向の一端から同方向外方に突出する「位置,大きさ,範囲」を占め(差異点α),リム部の径方向においても大きな「位置,大きさ,範囲」を占め(差異点β),また,本願意匠のディスク部は,軸線に垂直な面よりも右側に傾斜してボス部の根元から延伸しているため(差異点e),ボス部の外周側面とディスク部のなす角度が鈍角となり,本願意匠のボス部の先すぼまりの印象を強化していることを挙げて,ボス部の先すぼまりの形状が強く印象付けられる旨主張するが,これらの差異点α,β及びeが,本願意匠と引用意匠との対比において,差異点とされるものでないことは,前記3及び4に判示したとおりである。
また,原告は,ボス部は,回転軸を支持する部位であるから,ボス孔中心軸(回転軸の軸線)は常に看者の意識に上り,その直線との対比で,ボス部の外周側面の丸味を持った先すぼまり形状は目立ち,強く印象付けられること,中央部分に位置するボス部は最も看者の注意をひく部分であることを挙げて,同部位における差異点は大きく評価されるべきである旨主張する。しかし,ボス部が看者により注目される部分であったとしても,先すぼまりの程度の小ささや,ボス部を先すぼまり状とすることがプーリーにおいて知られていたことからも,その先すぼまりである点が,意匠的に高く評価されるものとは認められない。
ウ「本願意匠のボス部は内周面にねじ溝が形成されていないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー背面側の内周面にねじ溝部を有する点」(差異点b),「本願意匠のボス部は内周面に環状鍔部を有していないのに対し,引用意匠のボス部はプーリー正面側の内周面に径方向内方に突出する環状鍔部を有する点」(差異点c),及び,「本願意匠のボス部の内径は開口縁の角丸状部分を除いて同一径,つまり,ボス部の内周面が開口縁の角丸状部分を除いて面一の正円筒面であるのに対し,引用意匠のボス部の内径は,ねじ溝部の内径が最も大きく,次いで中間部の内径が大きく,環状鍔部の内径が最も小さくなっており,ボス部の内周面が大径部・中径部・小径部の三段構成になっている点」(差異点d)との差異点について,原告主張のようにこれらの差異点が認められるとしても,「環状鍔部」の「鍔部」は,それほど幅の広い鍔部であるとは認められず,また,「環状鍔部」及び「ねじ溝部」の内径が,「中間部」の内径に比し,多少変わるとしてもその差が大きなものであるとは認められず,いずれも微細な差異といえるものである。
したがって,原告主張の差異点bないしdに係る形態が,引用意匠における重要な構成態様となっているとは認められず,同部分について,意匠的に高く評価されるものということはできない。
原告は,差異点bないしdに係る形態は,引用意匠の略半分の領域を占めるボス部の内面の全域に及んでいるものであること,差異点bないしdに係る本件相当部分の形態を同時に備えた形態は,プーリーとして極めて特異な形態であり,ありふれた形態ではないこと,意匠に係る物品であるプーリーの需要者が専門家である当業者であり,プーリーの主要な機能は回転伝達にあって,どのような態様で回転軸に固定されるかを検分しないで需要者がプーリーを購入することはあり得ないことから,ボス部の内面にあるということで,上記形態を無視ないし過小評価することは許されない旨主張する。
しかし,意匠の対比は,本願意匠と引用意匠が看者に異なる美感ないし美的印象を与えるか否かという観点から行うべきであって,技術的意義の対比ではないことにかんがみると,需要者が差異点bないしdに係る形態に着目するとする原告の主張を前提としても,意匠としての差異の微細さから,意匠的にこれらの形態の差異を大きく評価することはできない。
( )本願実線部分と本件相当部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲につい4て,それらが共通するか,部分意匠の類否判断に影響を及ぼさない差異しかないことは,前記2及び3に判示したとおりである。
そして,本願意匠と引用意匠の共通点は,意匠に係る物品であるプーリーにおいて,全体が,横臥する略短円筒状に形成したボス部と,その根元を外方に垂直状に延伸して,略円盤状に形成したディスク部からなるものであるというものであり,本願意匠及び引用意匠は,その主要な構成態様を全く共通にしているものと認めることができる。
これに対し,上記( )のとおり,差異点aに,原告主張の差異点bないし3dを含めて考慮しても,それらの差異点は,上記主要な構成態様を前提として,それらの一部についての部分的な微細な差異といえるものであって,看者に強く印象付けるものではなく,本願意匠と引用意匠の形態全体の美感ないし美的印象を異にするほどの特徴を表出するものではない。
以上を総合すると,本願意匠と引用意匠について,「差異点の類否判断に及ぼす影響が微弱の域に止まることを考慮すると,共通点は,両意匠の形態全体に著しい共通感を奏するものであり,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,意匠全体として観察すると,両意匠は類似するものというほかない。」(審決謄本2頁第7段落)とした審決の判断に原告主張の誤りはない。
( )したがって,原告主張の取消事由5も理由がない。
56以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明