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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成20ワ8761意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
平成19ワ1972意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠公報に掲載 /  先願 /  一意匠一出願(7条) /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  関連意匠(10条) /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  損害額 /  逸失利益 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 1089号 意匠権侵害差止等請求事件
東京都江戸川区<以下略>
原告株式会社タヤ
同訴訟代理人弁護士尾関孝彰
同 鰺坂和浩
同 岡崎士朗
同訴訟代理人弁理士長谷川芳樹
同 佐藤英二 大阪府寝屋川市<以下略>
被告株 式会社サワフジ
同訴訟代理人弁護士安江邦治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/10/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙被告製品1ないし3目録記載の製品を輸入若しくは製造し,譲渡し,又は譲渡のために展示してはならない。
2被告は,その占有する別紙被告製品1ないし3目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,金292万円及びこれに対する平成20年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告の販売等に係る製品(衣料用ハンガー)が2原告の有する意匠権を侵害しているとして,意匠法37条1項,2項に基づき上記製品の輸入,製造,譲渡,展示の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金292万円及びこれに対する不法行為の後である平成20年1月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実(1)当事者原告は,アパレルディスプレイ用ハンガーの企画,製造,販売を業とする株式会社である。(争いのない事実)被告は,業務用ハンガー,家庭用ハンガー及び各種家庭用品の企画,製造,販売を業とする株式会社である。(争いのない事実)(2)原告の意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」という。)を有しており,その意匠公報に掲載された図面は,別紙意匠図面のとおりである。(争いのない事実,甲1の1・3)意匠登録第1050083号出願番号意願平10-29973号出願日平成10年10月16日登録日平成11年6月18日意匠に係る物品衣料用ハンガーなお,本件意匠には,次の類似意匠(平成10年法律第51号による改正前の昭和34年法律第125号意匠法10条,22条参照)が登録されており,その意匠公報に掲載された図面は,別紙類似意匠図面のとおりである。
(甲1の2・3,弁論の全趣旨)類 似 意 匠 登 録第1号出願番号意願平10-29974号3出願日平成10年10月16日登録日平成11年6月18日意匠に係る物品衣料用ハンガー(3)被告の行為被告は,業として,別紙被告製品1ないし3目録記載の製品(衣料用ハンガー,以下,これらの製品を総称して「被告製品」といい,被告製品に係る意匠を「被告意匠」という。)を輸入又は製造の上,販売し,販売のためにカタログ及びウェブページ上で表示していた。(争いのない事実,弁論の全趣旨)2争点(1)本件意匠と被告意匠との類否ア構成態様イ対比(2)原告の被った損害の額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)〔本件意匠と被告意匠との類否〕について〔原告の主張〕(1)構成態様ア本件意匠(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部,吊下軸部,軸支持部を備える。
(a)吊下軸部は,短い直線状である。
(b)軸支持部は,吊下軸部をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部,肩支持部,先端部を備え,平面側において1本のワイヤーをループ状にした形状である。
4(a)首部は,中央に位置して上部に突出する形状である。
(b)肩支持部は,首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部は,肩支持部の先端に連なって肩支持部を下方に折り曲げたように延在する短い直線状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部は,ループの一部の中心角約45度の扇形部分を欠いた形状である(正面側及び背面側)。
(b)フック部は,その最下端で吊下軸部に連なっている。
(c)吊下軸部は,短い直線状であり,軸支持部を貫通している。
(d)軸支持部は,円筒状であり,下端部がハンガー本体を構成するワイヤーに前後から挟まれてハンガー本体に取り付けられる。
bハンガー本体(a)首部は,台形である(正面側及び背面側)。
(b)肩支持部は,鉛直方向と約70度をなす斜め下方向に延在する直線状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部は,鉛直方向と約20度をなす斜め下方向に延在する短い直線状である(正面側及び背面側)。
(d)正面側の首部の上辺のワイヤーには,半円状の薄板が取り付けられ,その直径が首部上辺と平行であって円弧が下方を向いている。
(e)平面側でハンガー本体は,扁平なループ状である。
(f)ワイヤーの間隔は,首部で軸支持部の断面直径と同じであり,肩支持部で緩やかに広がり,先端部の最先端で丸まっている(平面側)。
イ被告意匠5(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部1,吊下軸部2,軸支持部3を備える。
(a)吊下軸部2は,短い直線状である。
(b)軸支持部3は,吊下軸部2をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部5,肩支持部6,先端部7を備え,平面側において1本のワイヤーをループ状にした形状である。
(a)首部5は,中央に位置して上部に突出する形状である。
(b)肩支持部6は,首部5の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部7は,肩支持部6の先端に連なって肩支持部6を下方に折り曲げたように延在する短い直線状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部1は,ループの一部の中心角約45度の扇形部分を欠いた形状である(正面側及び背面側)。
(b)フック部1は,その最下端で吊下軸部2に連なっている。
(c)吊下軸部2は,短い直線状であり,軸支持部3を貫通している。
(d)軸支持部3は,円筒状であり,下端部がハンガー本体を構成するワイヤーに前後から挟まれてハンガー本体に取り付けられる。
bハンガー本体(a)首部5は,台形である(正面側及び背面側)。
(b)肩支持部6は,鉛直方向と約60度をなす斜め下方向に延在する直線状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部7は,鉛直方向と約30度をなす斜め下方向に延在する短い直線状である(正面側及び背面側)。
6(d)正面側の首部5の上辺のワイヤーには,半円状の薄板が取り付けられていない。
(e)平面側でハンガー本体は,扁平なループ状である。
(f)ワイヤーの間隔は,首部5で軸支持部3の断面直径と同じであり,肩支持部6で緩やかに広がり,先端部7の最先端で丸まっている(平面側)。
(2)対比ア本件意匠と被告意匠とは,?@直線状の肩支持部が鉛直方向となす角度(正面側及び背面側),?A直線状の先端部が鉛直方向となす角度(正面側及び背面側),?B正面側の首部の上辺のワイヤーにおける半円状の薄板の取付けの有無の3点で相違するものの,その他の点では一致する。
イ本件意匠の要部は,ハンガー本体のワイヤーの形状(平面側において,1本のワイヤーがループ状になり,正面側及び背面側において,略直線状の肩支持部の先端に連なり,かつ,肩支持部を下方に折り曲げたように延在する先端部が設けられ,平面側において,ワイヤー間隔が先端に向かって広がっていき,最先端で丸まっている点)にあり,この構成により,正面側では直線的な美感,平面側又は側面側では丸みのある美感を醸し出す点に特徴がある。
そして,本件意匠のさらなる要部は,軸支持部の形状(吊下軸部が円筒状の軸支持部を貫通し,その下端部がハンガー本体を構成するワイヤーに前後から挟まれて取り付けられている点)にあり,吊部とハンガー本体との連結部に重量感と安定感を醸し出している。
被告意匠も,これらの特徴点を備えており,要部において,本件意匠と一致する。
ウこれに対し,被告意匠の直線状の肩支持部や先端部が延在する方向(正面側及び背面側)は,看者が通常認識し得ない程度であって,本件意匠と7わずかに異なるにすぎない。
また,被告製品の首部上辺のワイヤーに半円状の薄板が取り付けられていないことは,要部の意匠効果を打ち消すものではない。
エ被告の主張に対する反論(ア)意匠登録第878683号〔乙第1号証〕の意匠(以下「乙1意匠」という。)との対比について本件意匠は,?@正面側の首部上辺をなすワイヤーに半円状の薄板が取り付けられ,?A円筒状の軸支持部がハンガー本体を構成するワイヤーに前後から挟み込まれて取り付けられ,?Bハンガー本体を構成するワイヤーは,正面側又は背面側からみて各折り返し部分の間が直線状で,直線的な構造を有しているのに対し,乙1意匠は,?@半円状の薄板を有しておらず,?A下軸部が直接ハンガー本体を構成するワイヤーに前後から挟み込まれて取り付けられ,?Bハンガー本体を構成するワイヤーは,正面側又は背面側からみて,全体的に曲線状に形成されており,異なる直線状区間の折り返し部分を有していない点が相違する。
(イ)意匠登録第1003927号〔乙第2号証〕の意匠(以下「乙2意匠」という。)との対比について本件意匠は, 乙2前記(ア)?@ないし?Bの特徴を有しているのに対し,意匠は,?@半円状の薄板の向きが上下反対であり,?A下軸部がハンガー本体を構成するワイヤーに挟み込まれた矩形板を貫通して取り付けられ,?Bハンガー本体を構成するワイヤーは,正面側又は背面側からみて全体に曲線状に形成されており,異なる直線状区間の折り返し部分を有していない点が相違する。
(ウ)意匠登録第809666号〔乙第3号証〕の意匠(以下「乙3意匠」という。)との対比について本件意匠は,前記(ア)?@ないし?Bの特徴及び?Cハンガー本体がルー8プ状の1本のワイヤーを折り畳んで構成されるループ状に形成されているのに対し,乙3意匠は,?@半円状の薄板を有しておらず,?A下軸部が直接ハンガー本体の天板を貫通して取り付けられ,?Bハンガー本体は,正面側又は背面側からみて天板部分が直線状であるが,両側はそれぞれ逆弓形に曲線的に開き,その先の直線的な部分で折り返しており,?Cハンガー本体は,ワイヤーをループ状に形成するのではなく,端のフック部を含めて一体的に形成されている点が相違する。
(エ)意匠登録第1292553号〔乙第4号証〕の意匠(以下「乙4意匠」という。)との対比について本件意匠は,前記(ア)?@ないし?Bの特徴を有しているのに対し,乙4意匠は,?@半円状の薄板を有しておらず,?A円筒状の軸支持部は,本件意匠に比して露出部分が短く,?Aハンガー本体を構成するワイヤーは,正面側又は背面側からみて全体に曲線状に形成されており,異なる直線状区間の折り返し部分を有していない点が相違する。
(オ)本件意匠の要部について被告は,本件意匠の要部について,「首部が台形状であって,首部に半円状の薄板を懸装」する点であると主張する。
しかしながら,乙1ないし3意匠との対比からも(なお,乙4意匠は本件意匠の後願意匠であるから,本件意匠の要部の解釈に影響を及ぼすものではない。),本件意匠の要部は,「首部が台形状」であると狭く限定すべきではなく,本件意匠と乙1ないし3意匠とで共通する相違点である円筒状の軸支持部がハンガー本体を構成するワイヤーに両側から挟み込まれて取り付けられ,ハンガー本体を構成するワイヤーが正面側又は背面側からみて各折り返し部分の間が直線状で,直線的な構造を有している点を含む点にある。
また,「首部に半円状の薄板を懸装」する点は,本件意匠の要部には9当たらない。この半円状の薄板は,ブランド名等を表示する銘板として使用する部分であり,機能的な観点から設けられたものであって,正面側のみに設けられ,全体の形状に比してその面積は小さく,美感に与える影響は少ない。仮に,被告の主張に従えば,ハンガーの意匠権の侵害者は,侵害品のハンガーに異なる形状の薄板(銘板の表示プレート)を付加して非類似意匠にすることにより,その責任を回避できることになって不合理である。
さらに,被告は,本件意匠と被告意匠とは,各部位の寸法比に明らかな相違があり,美感を異にすると主張する。
しかしながら,本件意匠と被告意匠とは,ハンガー本体において,首部中央から左右端までの長さの約7割を占める左右各辺の角度がいずれも鉛直方向からみて約70度(水平方向からの傾きが約20度)である点,台形部の左右各辺と肩支持部先端の折り曲げ部とが平行(本件意匠)又は平行に近い(被告意匠は角度が約10度)点,台形部の左右各辺と仮想的な下辺とのなす角度がそれぞれ約70度(本件意匠)又は約60度(被告意匠)で急峻である点が共通しており,正面側又は背面側から見ると,共通の直線的な美感が醸し出される。他方,それぞれを構成する部分の寸法比の差は,両者を並べて比較しなければ気づかない程度のものであって,全体の美感に影響を与えるものではない。
(カ)なお,被告製品は,アパレル業者向けハンガーであり,一般消費者がありふれた日用品の意匠に特別の関心を払わないのと異なり,アパレル業者は,当然に自社が使用するハンガーの意匠に強い関心がある。原告も,このようなアパレルディスプレイ用ハンガーの製造,販売の専門業者であって,本件意匠の類似範囲を殊更狭く解する理由はない。
(3)したがって,被告意匠は,全体として,本件意匠と同一又は類似の美感を有する。
10〔被告の主張〕(1)構成態様ア本件意匠(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部,吊下軸部,軸支持部を備える。
(a)吊下軸部は,短い直線状である。
(b)軸支持部は,吊下軸部をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部,肩支持部,先端部を備え,平面側において1本のワイヤーをループ状にした形状である。
(a)首部は,中央に位置して上部に突出する形状であり,その正面側に半円状の薄板がワイヤー上辺に懸装される。
(b)肩支持部は,首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部は,肩支持部の先端に連なって肩支持部の先端から下方に折り曲げたように延在する直線状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部は,正面側において左下部(背面側において右下部)が中心角約90度にわたって開放された円弧状部をなす。
(b)フック部は,その最下端で吊下軸部に連なっている。
(c)吊下軸部は,首部の中央部位に設けられた軸支持部に結合されてハンガー本体に取り付けられている。
bハンガー本体(a)首部は,これを形成する台形の上辺と左右各辺の寸法比が1.6:1であり,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度は,11鉛直方向からみて約20度である(正面側及び背面側)。
(b)首部の正面側に懸装された半円状の薄板は,その直径が首部の上辺の長さと同一寸法である。
(c)首部の左右各辺と肩支持部との交点における肩支持部の角度は,鉛直方向からみて約70度であり,肩支持部と先端部との交点における先端部の折り曲げ角度は,鉛直方向からみて約20度である(正面側及び背面側)。
(d)ワイヤーの間隔は,首部で軸支持部の断面直径と同じであり,先端部に向かって緩やかに広がったループ状であり,その首部の間隔と先端部の最も広い間隔との比が1:2.3である(平面側)。
イ被告意匠(ア)基本的構成態様本件意匠と相違する重要な点は,首部5の正面側に半円状の薄板がない点とハンガー本体の各部位の寸法比が異なる点である。
(イ)具体的構成態様ハンガー本体についてa首部5は,これを形成する台形の上辺と左右各辺の寸法比が2:1であり,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度は,鉛直方向からみて約30度である(正面側及び背面側)。
b首部5の左右各辺と肩支持部6との交点における肩支持部6の角度は,鉛直方向からみて約70度であり,肩支持部6と先端部7との交点における先端部7の折り曲げ角度は,鉛直方向からみて約50度である(正面側及び背面側)。
cワイヤーは,その首部5の間隔と先端部7の最も広い間隔との比が1:2.5である(平面側)。
(2)対比12ア本件意匠の範囲(ア)本件意匠とその先願登録意匠である乙1ないし3意匠及びその後願登録意匠である乙4意匠とは,いずれも次の点で同様である。
a吊部とハンガー本体とからなる。
b吊部は,フック部,短い直線状の吊下軸部及び軸支持部を備え,フック部は,正面側において左下部(背面側において右下部)が中心角約45度にわたって開放された円弧状部をなし,その最下端で吊下軸部に連なり,吊下軸部は,首部の中央部位に設けられた軸支持部に結合されてハンガー本体に取り付けられている。
cハンガー本体は,首部,肩支持部,先端部を備え,平面側において1本のワイヤーをループ状にした形状であり,肩支持部は,首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状であって(正面側及び背面側),先端部は,肩支持部の先端に連なって肩支持部の先端から下方に折り曲げたように延在する直線状である(正面側及び背面側)。
(イ)他方,乙1ないし4意匠の相互間及び本件意匠と乙1ないし4意匠との間では,次の点で相違する。
a乙1意匠と乙2意匠との間についてその首部について,いずれも,上方に凸部のある山状をなしているものの,山の形状が乙1意匠では急峻であるのに対し,乙2意匠ではなだらかであり,その肩支持部についても,乙1意匠より乙2意匠の方がなだらかな裾野状となっている(正面側及び背面側)。
乙2意匠では,首部の正面側に半円状の薄板が取り付けられているのに対し,乙1意匠では,首部の薄板がなく,肩支持部の先端部の折り曲げ角度も,乙1意匠の方が乙2意匠よりも大である(正面側及び背面側)。
13b本件意匠と乙2意匠との間についていずれも,その首部の正面側に半円状の薄板が取り付けられているものの,本件意匠の首部が台形状となっているのに対し,乙2意匠の首部は山状となっている(正面側及び背面側)。
c本件意匠と乙3意匠との間についてその首部について,いずれも,台形状をなしているものの(正面側及び背面側),本件意匠の首部には,半円状の薄板が取り付けられているのに対し,乙3意匠の首部には,薄板が存在しない。
d乙1意匠と乙4意匠との間についてその首部について,いずれも,山状をなし,半円状の薄板が存在しない点などでほぼ共通するものの,乙4意匠では,山状の首部の左右各辺間に横桟が架橋されている(正面側及び背面側)。
(ウ)したがって,本件意匠は,先願登録意匠として,乙2意匠(首部が山状をなし,かつ,首部に半円状の薄板が装着された意匠)と乙3意匠(首部が台形状をなし,かつ,首部に薄板が存在しない乙3意匠が存在する意匠)が存在するなかで,「首部が台形状」であり,かつ,「首部に半円状の薄板を懸装」した点がこれらと相違して,登録が認められたものであるから,「首部が台形状であって,かつ,首部に半円状の薄い飾り板を懸装」する点がその要部である。
イ本件意匠と被告意匠との対比被告意匠は,本件意匠の基本的構成態様のうち,乙1ないし4意匠と同様に,次の構成を備えている。
(ア)吊部とハンガー本体とからなる。
(イ)吊部は,フック部,短い直線状の吊下軸部及び軸支持部を備え,フック部は,正面側において左下部(背面側において右下部)が中心角約45度にわたって開放された円弧状部をなし,その最下端で吊下軸部に連14なり,吊下軸部は,首部の中央部位に設けられた軸支持部に結合されてハンガー本体に取り付けられている。
(ウ)ハンガー本体は,首部,肩支持部,先端部を備え,平面側において1本のワイヤーをループ状にした形状であり,肩支持部は,首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状であって(正面側及び背面側),先端部は,肩支持部の先端に連なって肩支持部の先端から下方に折り曲げたように延在する直線状である(正面側及び背面側)。
そして,被告意匠は,乙4意匠と同様に,「台形状に上方に突出した首部」を有している。
しかしながら,被告意匠は,乙4意匠と同様に,「首部の正面側に半円状の薄板」を装着していない点において,本件意匠と相違し,また,肩支持部の左右先端部付近に鈎状の突起を有していない点において,乙4意匠とも相違する。
このように,被告意匠には,本件意匠の要部である「首部が台形状であって,かつ,首部に半円状の薄い飾り板を懸装」する構成を有していない点において,決定的に相違するほか,本件意匠を構成する各部位の間の寸法比も,異なっており,全体的美感において相違する。すなわち,被告意匠は,本件意匠と比較して,首部から肩支持部にかけて,より急勾配の坂道をイメージさせるものであって,本件意匠と美感を異にする。
また,そもそも,衣料用ハンガーは,ありふれた日用品に属するものであり,その類似の幅が極めて狭いものであることは,乙1ないし乙4意匠が現に登録されている事実を考慮すれば,明らかである。つまり,乙1意匠と類似した「山状の首部」に単に「半円状の薄板」を付加しただけの乙2意匠や,「山状の首部」に横桟を架橋しただけの乙4意匠が登録され,「半円状の薄板」を有する乙2意匠と少なくとも正面図において類似した印象を与える「山状の首部」に横桟を架橋した乙4意匠が登録されている15ことから,衣料用ハンガーにおける意匠の権利範囲は,「半円状の薄板」の有無及び「首部の横桟」の有無によってその異同が決せられる程度に狭いものと考えられる。このことは,乙3意匠に「台形状の首部」が採用されているにもかかわらず,「台形状の首部」に「半円状の薄板」を懸装した本件意匠が登録されていることからも明白である。
ウ原告の主張に対する反論原告は,本件意匠の要部をハンガー本体のワイヤーの形状と軸支持部の形状であるとして,被告製品の首部上辺のワイヤーに半円状の薄板が取り付けられていないことは要部の意匠効果を打ち消すものではないなどと主張する。
しかしながら,本件意匠と他の意匠との混同を防止し,差別化するものは,「台形状の首部とこれに懸装された半円状の薄板」であって,「軸支持部」はその大きさにおいて小さく,「円筒状」なるものは吊下軸部自体の有する円柱形状と一体的に印象付けられるのであって,これを要部とすることは間違っている。
そして,半円状の薄板がブランド名等の表示の銘板としての機能を有するとしても,外観にあらわれて本件意匠の一部を構成している以上,その存在を無視することは許されない。
なお,原告の指摘する「直線的な美感」や「丸みのある美感」は,乙1ないし4意匠を含むすべてのワイヤータイプのハンガーが有する特徴であり,本件意匠にのみ備わったものではない。
(3)したがって,被告意匠は,全体として,本件意匠とは美感を異にするものであり,本件意匠の範囲に属さない。
2争点(2)〔原告の被った損害の額〕について〔原告の主張〕(1)原告の逸失利益 272万円16被告は,平成10年10月1日から平成19年12月31日までの間,被告製品を少なくとも1万個は譲渡しており,被告製品と競合する原告の製品(TSW-1467)の販売単価が340円,利益率が80パーセントであることから,被告製品の譲渡によって原告が逸失した販売利益額は,少なくとも272万円である。
340×10000×0.8=2720000(2)弁護士等費用 20万円被告による本件意匠の侵害行為に対処するために要した弁護士と弁理士の費用のうち,少なくとも20万円に相当する部分は,当該侵害行為と相当因果関係がある。
(3)まとめ 292万円被告の不法行為によって原告の被った損害額は,292万円である。
2720000+200000=2920000〔被告の主張〕否認ないし争う。
第4当裁判所の判断1争点(1)〔本件意匠と被告意匠との類否〕について(1)構成態様前記第2の1前提となる事実に,証拠(甲1の1・2,甲2,3,6の2の1・2,乙5の6〜8)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア本件意匠(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部,吊下軸部,軸支持部を備える。
(a)吊下軸部は,短い直線状である。
17(b)軸支持部は,吊下軸部をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部,肩支持部,先端部を備え,平面側及び底面側において1本のワイヤー状の線をループ状にした形状である。
(a)首部は,中央に位置して上部に突出する形状であり,その正面側に半円状の薄板がワイヤー状の線の上辺に懸装される。
(b)肩支持部は,首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部は,肩支持部の先端に連なって肩支持部を下方に折り曲げたように延在する短い直線状の形状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部は,正面側において円周の左下部(背面側において右下部)が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなす。
(b)吊下軸部は,フック部の最下端に連なり,軸支持部を挿通する。
(c)軸支持部は,円筒状であり,その円筒の内部で吊下軸部を支持し,その円筒の外部下端でハンガー本体のワイヤー状の線に前後から挟まれて結合する。
bハンガー本体(a)首部は,台形状であり,これを形成する上辺と左右各辺との寸法比がおおむね1.6:1であって,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度は,鉛直方向からみて約20度である(正面側及び背面側)。
(b)首部の正面側の上辺のワイヤー状の線に懸装された半円状の薄板は,その直径が首部の上辺と同一寸法かつ平行であって,円弧が下方を向いている。
(c)肩支持部は,鉛直方向からみて約70度の角度をなす(正面側及18び背面側)。
(d)先端部は,鉛直方向からみて約20度の角度をなす(正面側及び背面側)。
(e)ハンガー本体は,平面側及び底面側において,扁平なループ状であって,そのワイヤー状の線の間隔は,首部で軸支持部の断面直径と同じであるものの,肩支持部で緩やかに広がって先端部の最先端で丸まっている。
イ被告意匠(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部1,吊下軸部2,軸支持部3を備える。
(a)吊下軸部2は,短い直線状である。
(b)軸支持部3は,吊下軸部2をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部5,肩支持部6,先端部7を備え,平面側及び底面側において1本のワイヤーをループ状にした形状である。
(a)首部5は,中央に位置して上部に突出する形状である(その正面側に,半円状の薄板は取り付けられていない。)。
(b)肩支持部6は,首部5の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部7は,肩支持部6の先端に連なって肩支持部6を下方に折り曲げたように延在する短い直線状の形状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部1は,正面側において円周の左下部(背面側において右下部)が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなす。
19(b)吊下軸部2は,フック部1の最下端に連なり,軸支持部3を挿通する。
(c)軸支持部3は,円筒状であり,その円筒の内部で吊下軸部2を支持し,その円筒の外部下端でハンガー本体のワイヤーに前後から挟まれて結合する。
bハンガー本体(a)首部5は,台形状であり,これを形成する上辺と左右各辺との寸法比がおおむね2:1であって,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度は,鉛直方向からみて約30度である(正面側及び背面側)。
(b)肩支持部6は,鉛直方向からみて約70度の角度をなす(正面側及び背面側)。
(c)先端部7は,鉛直方向からみて約50度の角度をなす(正面側及び背面側)。
(d)ハンガー本体は,平面側及び底面側において,扁平なループ状であって,そのワイヤーの間隔は,首部5で軸支持部3の断面直径と同じであるものの,肩支持部6で緩やかに広がって先端部7の最先端で丸まっている。
(2)対比ア意匠の類似範囲意匠の類否の判断は,当該意匠に係る物品の看者となる取引者,需要者において,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分である要部を対象となる意匠から抽出した上で,登録意匠と被告意匠とを対比して,要部における共通点及び差異点をそれぞれ検討し,全体として,美感を共通にするか否かを基本として行うべきものである。そして,上記の判断に当たっては,当該意匠の出願時点における公知又は周知の意匠等を参酌するなどして,20これを検討するのが相当である。
イ公知意匠等本件意匠の出願時点で公知であった衣料用ハンガーの意匠として,証拠(乙1〜3)によれば,?@意匠登録第878683号の乙1意匠,?A意匠登録第1003927号の乙2意匠,?B意匠登録第809666号の乙3意匠の存在を認めることができる。
このうち,乙1意匠は,吊部について,フック部が正面側において円周の左下部が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなし,フック部の最下端に連なる吊下軸部が直接ハンガー本体を構成するワイヤー状の線に前後から挟み込まれて取り付けられ,ハンガー本体について,平面側及び底面側において,1本のワイヤー状の線がループ状になり,その間隔が先端に向かって広がっていき,最先端で丸まっている形状であり,正面側及び背面側において,首部は,中央部に位置して上部に山状に突出する形状であり,肩支持部は,首部から裾野状になだらかに連なる曲線と直線で形成され,先端部は,肩支持部からなだらかに下方に屈曲して最先端で丸まった形状である(乙1)。
また,乙2意匠は,吊部について,フック部の形状が乙1意匠とほぼ同一であり,フック部の最下端に連なる吊下軸部がハンガー本体を構成するワイヤー状の線に挟み込まれた矩形板を貫通して取り付けられ,ハンガー本体について,平面側及び底面側において,1本のワイヤー状の線がループ状になり,その間隔が先端に向かって広がっていき,最先端で丸まっている形状であって,肩支持部の一部と先端部がチューブ状の外皮に被覆されており,正面側及び背面側において,首部は,中央部に位置して上部に山状に突出する形状であって,その正面側にワイヤー状の線の山形に沿った半月形状の薄板が懸装され,肩支持部は,首部の端から直線で形成され,先端部は,肩支持部の端からわずかに下方を向いて最先端で丸まった形状21である(乙2)。
さらに,乙3意匠は,吊部について,フック部の形状が乙1及び2意匠とほぼ同一であり,フック部の最下端に連なる吊下軸部が直接ハンガー本体の天板を貫通して取り付けられ,ハンガー本体について,平面側及び底面側において,ループ状の形状で肩支持部の先端部に近い位置に縦桟を渡した形状であり,正面側及び背面側において,首部は中央部に位置して上部に台形状に突出した形状であり,肩支持部は,首部から湾曲して連なる直線で形成されて,縦桟から下方に向けて鈎状部が形成され,先端部は,ごく短く斜め下方に折れ曲がって最先端で丸まった形状である(乙3)。
なお,一般に,登録意匠の後願意匠については,特許庁の審査官の判断を介して,その類似範囲の外延を探索する資料でしかないというべきであるものの,証拠(乙4)によれば,本件意匠の後願意匠にあたる衣料用ハンガーの意匠として,意匠登録第1292553号の乙4意匠の存在を認めることができる。
乙4意匠は,ハンガー本体について,平面側及び底面側において,1本のワイヤー状の線がループ状になり,その間隔が先端に向かって広がっていき,最先端で丸まっている形状であって,首部の両端に縦桟が渡されており,正面側及び背面側において,首部は,中央部に位置して上部に山状に突出する形状であって,首部の両端の縦桟を連結する横桟が1本渡され,肩支持部は,首部の端から直線で形成され,先端部は,肩支持部の端からほぼ下方を向いて最先端で丸まった形状であり,また,吊部について,フック部の形状が乙1ないし3意匠とほぼ同一であり,フック部の最下端に連なる吊下軸部が円筒状の軸支持部に支持されて,軸支持部がハンガー本体に結合している(乙4)。
ウ本件意匠の要部本件意匠は,その意匠に係る物品が衣料用ハンガーであり,通常の使用22時において,衣服を吊り下げるときには,必然的にハンガーと向き合ってその正面側ないし背面側を見ることになることからすれば,正面側ないし背面側から見た外観の全体が看者である利用者の注意を惹くものであるというべきである。
原告は,本件意匠の平面側において1本のワイヤーがループ状になり,略直線状の肩支持部の先端に連なり,ワイヤー間隔が先端に向かって広がっていき,最先端で丸まっているとのハンガー本体のワイヤーの形状についても,注意が惹かれるものであると主張する。
しかしながら,ハンガーの利用者が通常の使用時において,ハンガーの平面側の形状に着目するとは認め難いこと,原告の主張する上記平面側におけるハンガー本体のループ状の形状は,いずれも乙1及び2意匠に表れていることから,本件意匠の平面側の形状が利用者の注意を惹くものと認めることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,首部に懸装された半円状の薄板を要部でないと主張し,仮に,これが要部であるとすれば,衣料用ハンガーの製品にこのような薄板を付加して侵害を回避できることになって不当であるなどと主張する。
しかしながら,衣料用ハンガーにおいて,上記のとおり,正面側ないし背面側から見た外観の全体に注意が惹かれるのであり,登録意匠において,首部に薄板の外観を伴っている以上,実際にその薄板がブランド名の表示の機能を果たすとしても,薄板を含む正面側ないし背面側から見た外観全体の美感を問題とすべきであることに変わりはない。そもそも,原告の主張する意匠権の侵害回避のために薄板を付加するような事態というのは,当該登録意匠が,本件意匠と異なり,薄板のない構成態様である場合のことである上,このような場合に対象製品が付加工作により意匠権侵害を免れることになるか否かは,対象製品の薄板の形状を含む外観次第というべきであるから,原告の上記主張は,本件事案の反論として失当である。
23以上によれば,本件意匠の要部については,正面側ないし背面側から見た吊部及びハンガー本体の形状であって,吊部については,フック部が正面側において円周の左下部が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなし,吊下軸部がフック部の最下端に連なり,軸支持部を挿通し,軸支持部が円筒状でその円筒の内部で吊下軸部を支持し,その円筒の外部下端でハンガー本体のワイヤー状の線に前後から挟まれて結合しており,ハンガー本体については,ワイヤー状の線からなる首部が上部に台形状に突出しており,首部に半円状の薄板が懸装され,首部の端から肩支持部に直線状に連なり,肩支持部に連なって先端部が下方に折り曲げたように延在する短い直線状である点であるものと認められる。
エ共通点及び差異点本件意匠と被告意匠とを対比した本件意匠の要部を含む全体の共通点については,次のとおりである。
(ア)基本的構成態様吊部とハンガー本体とからなる。
a吊部は,フック部(1),吊下軸部(2),軸支持部(3)を備えてる。
(a)吊下軸部(2)は,短い直線状である。
(b)軸支持部(3)は,吊下軸部(2)をハンガー本体に連結する。
bハンガー本体は,首部(5),肩支持部(6),先端部(7)を備え,平面側及び底面側において1本のワイヤー状の線をループ状にした形状である。
(a)首部(5)は,中央に位置して上部に突出する形状である。
(b)肩支持部(6)は,首部(5)の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在する形状である(正面側及び背面側)。
(c)先端部(7)は,肩支持部(6)の先端に連なって肩支持部24(6)を下方に折り曲げたように延在する短い直線状である(正面側及び背面側)。
(イ)具体的構成態様a吊部(a)フック部(1)は,正面側において円周の左下部(背面側において右下部)が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなす。
(b)吊下軸部(2)は,フック部の最下端に連なり,軸支持部を挿通する。
(c)軸支持部(3)は,円筒状であり,その円筒の内部で吊下軸部(2)を支持し,その円筒の外部下端でハンガー本体のワイヤー状の線に前後から挟まれて結合する。
bハンガー本体(a)首部(5)は,台形状である(正面側及び背面側)。
(b)肩支持部(6)は,鉛直方向からみて約70度の角度をなす(正面側及び背面側)。
(c)ハンガー本体は,平面側及び底面側において,扁平なループ状であって,そのワイヤー状の線の間隔は,首部(5)で軸支持部(3)の断面直径と同じであるものの,肩支持部(6)で緩やかに広がって先端部(7)の最先端で丸まる。
他方,本件意匠と被告意匠とを対比した本件意匠の要部を含む全体の差異点については,次のとおりである。
(ア)基本的構成態様本件意匠では,ハンガー本体の首部の正面側に半円状の薄板がワイヤー状の線の上辺に懸装されるのに対し,被告意匠では,そのような薄板は取り付けられていない。
(イ)具体的構成態様25a本件意匠では,ハンガー本体の首部の台形を形成する上辺と左右各辺との寸法比がおおむね1.6:1であって,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度が鉛直方向からみて約20度である(正面側及び背面側)のに対し,被告意匠では,ハンガー本体の首部5の台形を形成する上辺と左右各辺との寸法比がおおむね2:1であって,上辺と左右各辺との交点における左右各辺の角度が鉛直方向からみて約30度である(正面側及び背面側)。
b本件意匠では,首部の正面側の上辺のワイヤー状の線に懸装された半円状の薄板について,その直径が首部の上辺と同一寸法かつ平行であって,円弧が下方を向いているのに対し,被告意匠では,そのような薄板は取り付けられていない。
c本件意匠では,先端部が鉛直方向からみて約20度の角度をなす(正面側及び背面側)のに対し,被告意匠では,先端部7が鉛直方向からみて約50度の角度をなす(正面側及び背面側)。
オまとめ上記エの本件意匠と被告意匠との差異点のうち,本件意匠では,首部の正面側の上辺のワイヤー状の線に半円状の薄板が取り付けられているのに対し,被告意匠において,首部5の正面側に本件意匠のような薄板が取り付けられていないという点において,被告意匠は,看者に対して本件意匠と異なる美感を与えるものというべきである。
そして,上記エの本件意匠と被告意匠との共通点のうち,吊部において,フック部及び吊下軸部を備え,ハンガー本体において,首部,肩支持部,先端部を備え,首部が中央に位置して上部に突出し,肩支持部が首部の両側に連なって斜め下方向に直線状に延在し,先端部が肩支持部に連なって肩支持部を下方に折り曲げたように延在する直線状であるとの基本的構成態様は,乙1ないし4意匠にも共通してみられる形状であること,首部が26上部に台形状に突出しているとの形状は,乙3意匠にもみられる形状であること,吊部における円筒状の軸支持部は,ハンガー本体の全体の大きさと対比して,特に際立つ存在ではなく,また,その形状が乙4意匠にもみられるものであることに照らすと,上記の共通点は,上記の首部の薄板が欠如するとの差異点を凌駕するほどの影響を看者に及ぼすものとみることはできない。その余の共通点についても,上記の差異点を凌駕するに足るものということはできない。
以上のとおりであるから,本件意匠と被告意匠とは,相互の共通点の存在にかかわらず,全体として,看者に対して異なる美感を与えるものであると認められる。
2結論したがって,原告の請求は,その余につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
27裁判官瀬田浩久28意匠図面2930類似意匠図面3132被告製品1目録1品番AMT-1362概要金属製ワイヤーで構成されるハンガー3構成以下の別紙図6部(写真6葉,ただし,写真中に「(イ号)」と記載のあるもの)のとおり【図1】正面図【符号の説明】1フック部2吊下軸部3軸支持部4ハンガー本体5首部6肩支持部7先端部【図2】平面図【図3】右側面図【図4】左側面図【図5】底面図【図6】背面図33343536被告製品2目録1品番AMT-1382概要金属製ワイヤーで構成されるハンガー3構成以下の別紙図6部(写真6葉,ただし,写真中に「(ロ号)」と記載のあるもの)のとおり【図1】正面図【符号の説明】1フック部2吊下軸部3軸支持部4ハンガー本体5首部6肩支持部7先端部【図2】平面図【図3】右側面図【図4】左側面図【図5】底面図【図6】背面図37383940被告製品3目録1品番AMT-1422概要金属製ワイヤーで構成されるハンガー3構成以下の別紙図6部(写真6葉,ただし,写真中に「(ハ号)」と記載のあるもの)のとおり【図1】正面図【符号の説明】1フック部2吊下軸部3軸支持部4ハンガー本体5首部6肩支持部7先端部【図2】平面図【図3】右側面図【図4】左側面図【図5】底面図【図6】背面図414243
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人