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関連審決 不服2020-11187
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事件 令和 3年 (行ケ) 10067号 審決取消請求事件

原告 ポータルインストルメンツ,インク
同訴訟代理人弁護士 三木浩太郎 早川尚志 河合哲志 飯田明弘
同訴訟代理人弁理士 水野祐啓 玉井悦
被告特許庁長官
同 指定代理人小林裕和 内藤弘樹 正田毅 山田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/01/12
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2020−11187号事件について令和3年1月6日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
本件は,意匠登録出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,令和元年(2019年)8月2日,下記2の内容の意匠登録出願(以下「本件出願」といい,本件出願に係る意匠を「本願意匠」という。)をし(パリ条約による優先権主張平成31年(2019年)2月4日〔以下「本件優先日」という。,アメリカ合衆国) 〕 ,令和元年10月24日付けの拒絶理由通知書に対し,令和2年3月2日,意見書(以下「本件意見書」という。乙5)を提出したが,同年4月20日付で拒絶査定がされた。
原告は,同年8月12日,審判請求書(以下「本件審判請求書」という。乙7)を提出して拒絶査定不服審判請求をした。特許庁は,同審判請求を不服2020-11187号事件として審理し,令和3年1月6日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。本件審決について,原告に対し,出訴期間として,90日が附加された。
2 本願意匠 原告が,本件出願により意匠登録を受けようとする本願意匠は,別紙第1記載のとおりである(乙1)。
3 本件審決の理由の要点 (1) 意匠に係る物品の対比及び類否判断 本願意匠及び別紙第2記載の意匠(以下「引用意匠」という)に係る物品は,本願意匠が「インジェクターカートリッジ」であり,引用意匠は「注射器用シリンジ」であって表記は異なるが,共に医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するものであるから,共通する。したがって,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2) 両意匠の形態の対比 ア 両意匠の形態は次の点で共通する。
(共通点1)全体形状について 両意匠の全体形状は,略縦長円筒状の本体部の一方の端部に略縦長円錐台形状のノズル部及び略扁平円錐台形状の肩部を,他端部に略円板状体のフランジ部を,それぞれ本体部と同軸に形成してなる点で共通する。
(共通点2)本体部について 両意匠は,本体部を略縦長円筒状とする点で共通する。
(共通点3)ノズル部について 両意匠のノズル部は,僅かな傾斜を有する円筒状に近い略縦長円錐台形状である点で共通する。
(共通点4)肩部について 両意匠の肩部は,ノズル部と本体部との間に配設した,高さの低い略扁平円錐台形状である点で共通する。
(共通点5)フランジ部について 両意匠のフランジ部は,略円板状板体の平面視上下端縁を平行に切り欠いたものである点で共通する。
(共通点6)角部に設けたテーパについて 両意匠は,ノズル先端部に僅かにテーパを設けている点で共通する。
イ 両意匠の形態は次の点で相違する。
(相違点1)全体形状について 正面視における,本体部:ノズル部:肩部:フランジ部の長さの構成比について,本願意匠が,約82:12:3:3であるのに対し,引用意匠は約87:9:2:2である点で相違する。
(相違点2)本体部について 本体部の径と長さの構成比率は,本願意匠が約1:6であるのに対し,引用意匠は約1:5.7である点で相違する。
(相違点3)ノズル部について ノズル部の先端部と後端部の径の比は,本願意匠が11:13であるのに対し,引用意匠は約3:4である点で相違する。
(相違点4)肩部について ノズル部側と本体部側の径の比は,本願意匠が約1:2であるのに対し,引用意匠は約1:3である点で相違する。
(相違点5)フランジ部について 略円板状体の直径について,本願意匠は本体部形の約1.5倍であるのに対し,引用意匠は約1.7倍である点,平面視における縦横比について,本願意匠が約4:5であるのに対し,引用意匠は約5:7である点,及び,底面側において,本願意匠は円筒部内壁に沿ってテーパを設けているのに対し,引用意匠は平坦に形成されている点で相違する。
(相違点6)角部に設けたテーパについて ノズル先端部以外の角部について,本願意匠は全ての角部に僅かにテーパを設けてなるものであるのに対し,引用意匠はそのようなテーパは設けていない点で相違する。
(3) 両意匠の形態の類否判断 ア 両意匠は,(共通点1)〜(共通点6)が組み合わされてなる態様は,両意匠の基調を形成するものであって,とりわけ(共通点5)が需要者に共通の印象を強く与えるものであるから,共通点が両意匠の類否判断に与える影響が大きいのに対し,(相違点1)〜(相違点6)の各点が意匠全体の美感に及ぼす影響はいずれも小さいものといわざるを得ず,これらの相違点を組み合わせたとしても,両意匠について需要者に別異の印象を起こさせる程のものではないことから,両意匠は,意匠全体として共通する美感を起こさせるものといえる。
したがって,両意匠の形態は類似する。
イ なお,請求人(原告)は,本願意匠のフランジ部の形状及び本体に対する構 成比率が,引用意匠と相違する旨主張するが,この種注射器用外筒の物品分野においては,全体形状の一部の構成比率を変化させて,全体的な基調が共通しながらフランジの厚みを種々のものとする改変が普通に行われている中にあって,やや厚めのフランジとする本願意匠の態様は,当該物品分野において当然に想定される改変の範囲内のものであり,さほど目立つものではなく,また,フランジの厚みを本願意匠と同様にやや厚めとしたものが,例えば別紙第3記載の意匠(以下「参考意匠」という。 に見られるとおり, ) 従来から見受けられるものであることを考慮すると,需要者の注意を殊更に引くものとはいえず,意匠全体としての視覚的印象を別異のものとする程のものではない。
原告が主張する審決取消事由
1 取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り) 2 取消事由2(本願意匠の需要者の認定の誤り) 3 取消事由3(本願意匠に係る物品と異なる物品である引用意匠を対比した上で意匠法3条1項3号を理由として拒絶した誤り) 4 取消事由4(本願意匠と同一物品ではない参考意匠を参酌した上で意匠法3条1項3号を理由として拒絶した誤り) 5 取消事由5(相違点の看過) 6 取消事由6(両意匠の形態の類否判断の誤り)
当事者の主張
1 取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り)について(原告の主張) (1) 本件審決は,本願意匠及び引用意匠は共に医療用注射器の外筒であり,物品として同一であると認定したが誤りである。インジェクターカートリッジは, 「注射器」又は「注射デバイス」ではない。
(2) 本願意匠に係る物品は, 「インジェクターカートリッジ」である。本願意匠の属する医療用注射器の分野において,「カートリッジ」は,「自動注射器等の内部に挿入される,交換可能な薬液容器」を指すものと一般的に理解されている。自動注射器等は,例えば,糖尿病患者がインスリンを自己注射する場合など,主として患者自身が使用するものであり,患者は,あらかじめ薬剤が入ったインジェクターカートリッジを自動注射器等のハウジング内に収納した上,注入ボタンを押し下げる,又は開始スイッチをオンにするなどの操作を行うことで,機械的に薬剤を投与する。
自動注射器等には,注射針を用いるものと,注射針を用いることなく薬剤を細い管口から高圧で噴射するものなどがある。
(3) 引用意匠に係る物品は「注射器用シリンジ」である。
「注射器用シリンジ」とは,広義には「外筒と押子からなる注射器全体」を意味し,狭義には「外筒(バレル)」を意味するものである。そして, 「外筒(バレル)」は,主として医療従事者において,手動により薬液等を人体に注入する際に,ノズル部に付けられた針から一時的にのみ薬液を吸入して保持し,押子(プランジャ)を指で押すことによる圧力により薬液を針側に押し出すという用途及び機能を有する。
(4) したがって,本願意匠の物品と,引用意匠の物品は,その用途,機能,需要者,使用態様等が異なる。
(5) 被告は,本件出願の願書(以下「本件願書」という。乙1)に【意匠に係る物品の説明】の欄やその記載がないことなどを指摘するが,物品に関する願書の記載は,願書の【意匠に係る物品】に記載された物品の区分によって確定されるのが原則であり,本件では「インジェクターカートリッジ」との語句から確定すべきである。ところが,被告は, 「カートリッジ」を捨象した上,物品の形態から物品を特定するという主客転倒した誤った手法を用いて,出願人である原告に補正又は新たな出願の機会を与えることなく,恣意的に,本願意匠に係る物品が注射器の外筒であると認定し,新規性の判断を誤った。なお, 「インジェクターカートリッジ」 「注 が射器の外筒」を意味するものであることを裏付ける証拠はなく, 「インジェクターカ ートリッジ」が「注射器外筒」を意味し,それ以外の物品を意味しないとの理解は一般的なものではない。仮に被告が, 「インジェクター」が何を指すのか具体的に認定できなかったのであれば,令和2年4月1日改訂前の意匠審査基準21.1.2の「意匠が具体的なものであること」を理由に拒絶理由通知を発し(意匠法50条3項・特許法50条) 出願人たる原告に補正又は新たな出願の機会を与えるべきで ,あった。
また,被告は,本願意匠の使用される「自動注射器等」の形態等が特定できない旨主張するが,本願意匠の実施形態は甲16(枝番含む。)の自動注射器に用いられるカートリッジに限定されるものではなく,本願意匠が用いられる「インジェクター」の形態を確定する必要はない。
そして,本願意匠に係る物品の特定と,本件願書その他の記載等が意匠法施行規則に沿ったものであるかは別の問題である。
(6) 被告は,本訴における原告の本願意匠の物品に係る主張は禁反言に抵触し許されないと主張し,また,原告の本件意見書及び本件審判請求書における主張が,物品の同一又は類似性を裏付けると主張するが,次のとおり,失当である。
ア 本件のような拒絶査定不服審判は職権のもと審理され(意匠法52条の準用する特許法150条1項,151条,153条1項等),自白の拘束力もない上,本件の審判は査定系審判であって,当事者系の無効審判でもない。本訴の審理対象は,「意匠に係る物品につき,本願意匠においては医療用注射器の外筒と認定し,引用意匠において医療用注射器の外筒を引用して比較した本件審決における被告の判断の是非」にほかならない。
イ 禁反言の法理は,権利の行使又は法的地位の主張が,先行行為と直接矛盾するか,先行行為により惹起させた信頼に反することから,その行使を認めることが信義則に反する場合に適用されるが,本件はこれらの場合に当たらない。被告は,当事者の主張にかかわらず職権で物品の同一性を判断すべき立場にあり,仮に被告が原告の従前の主張を信頼していたとしても,その信頼は保護に値しない。
ウ 原告は,本件意見書や本件審判請求書において,法的評価として,本願意匠と引用意匠の物品が共通するなどと述べていたものの,本願意匠の物品については,一貫して「インジェクターカートリッジ」であると主張している。したがって,原告の本件意見書及び本件審判請求書における主張は,物品の同一又は類似性を裏付けるものではない。
(被告の主張) (1) 意匠登録を受けようとする者は,必要な事項を記載した願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付して特許庁長官に提出しなければならず(令和元年法律第3号による改正前の意匠法〔以下「旧法」という。〕6条),意匠登録の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定めなければならない(意匠法24条)。そこで,本件審決は,@本件願書の【意匠に係る物品】の欄に「インジェクターカートリッジ」と記載されており, 「インジェクターカートリッジ」の「インジェクター」が注射器を意味すること,及びA本件願書の記載及び本件願書に添付した図面(以下,本件願書と本件願書に添付した図面を併せて「本件願書等」という。に記載された本願意匠の意匠に係る物品の形態が, )一般にノズル部とフランジ部を有する医療用注射器の外筒に相当するものであると推認でき,本件願書等にはこの認定を妨げる記載がないことから,本願意匠の意匠に係る物品が医療用注射器の外筒の用途及び機能を有する「インジェクターカートリッジ」であると認定しており,その判断に誤りはない。なお,本件審決は,本願意匠の物品が「注射器の外筒」であるとは認定していないから,本件審決が本願意匠の物品を「医療用注射器の外筒」と認定したことの判断の是非が問題であるという原告の主張は,その前提に誤りがある。
原告は,本訴において, 「インジェクター」が自動注射器等を指すなどと主張するが,自動注射器には様々なものがあり,取付け方法や使用態様も様々であるところ,本件願書等には「インジェクター」の記載がないから,本件願書等から,本願意匠に係る物品が特定の「自動注射器等」の内部に収容される「容器」であると認定す ることはできない。また,外来語「カートリッジ」の元の「cartridge」には「薬筒」や「薬包」などの意味もあり,用語「カートリッジ」が装置に挿入される交換容器であると限定的に解釈されるとは必ずしもいえない。そして,本願意匠の意匠に係る物品は「インジェクターカートリッジ」であって「インジェクター用カートリッジ」ではないから, 「注射器」用の「カートリッジ」,すなわち,他の物品「注射器」に用いられる「カートリッジ」であるとは理解し難く,さらには, 「インジェクターカートリッジ」が一般名称化しているというような事情もないので,原告が主張するような物品の用途及び機能を認定することはできない。
(2) 旧法6条1項3号は,意匠登録出願の際に提出すべき書類に, 「意匠に係る物品」を記載すべき旨規定し,意匠法施行規則別表第一には意匠に係る物品の欄に記載すべき区分が定められており,同表の備考二には, 「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係る物品」の欄に記載しなければならない。 ,同規則様式第2備考39には「別表第一の下欄に掲 」げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。 と, 」 同規則様式第6備考14には「意匠の理解を助けるため必要があるときは,使用の状態を示した図その他の参考図を加える。 と定められている。本件審決は上記(1)のとおり,別表第一所定の物品 」の区分「注射筒」に属するものであると解したものであるが,原告は,本願意匠について,上記別表第一に定められていない区分のものとして出願するのであれば,本件願書に, 「【意匠に係る物品の説明】 の欄を設けて物品の理解を助けることがで 」きるような説明を記載し,本件願書に添付した図面において参考図を提出する必要があった。
(3) 原告は,令和元年10月24日付けの拒絶理由通知書(乙4)に応答して令和2年3月2日に提出した本件意見書において, 「本願意匠の物品は「インジェクタ ーカートリッジ」であるところ,引用意匠の意匠に係る物品が「注射器用シリンジ」であり,物品が共通する。」と述べ,同年8月12日に提出した本件審判請求書においても, 「本願意匠の意匠に係る物品は,注射器などに用いられ,薬液を満たすための「インジェクターカートリッジ」に係るものであり」, 「本願意匠と引用意匠(略)は,意匠に係る物品が共通しており,」と述べ,出願段階から本件審決に至るまで,本願意匠の意匠に係る物品について, 「注射器などに用いられ,薬液を満たす」ものであると述べており,これらの原告の主張は,物品の同一又は類似を裏付けるものである。
ところが,原告は,本訴に至って上記と異なる主張をしており,これは,いわゆる「禁反言」に抵触し,許されない。
仮に本願意匠が登録されたとしても,原告が権利行使をすることは禁反言の法理又は信義則に違反することになり得るので,意匠権は不安定なものということになり,法が審査主義を採用して安定した権利を設定しようとした趣旨にもとる。
2 取消事由2(本願意匠の需要者の認定の誤り)について(原告の主張) 本件審決は,本願意匠及び引用意匠の需要者について,いずれも医療従事者であると認定した。しかし,本願意匠の物品は,自動注射器等に挿入される交換可能な薬液容器であり,自動注射器等は正規の医療訓練を受けていない患者が注射する際に多く用いられているから,本願意匠の需要者は,主として「自動注射器で自己注射をする患者」である。したがって,本願意匠と引用意匠の需要者は異なっており,需要者の同一性を前提とした本件審決は誤りである。
(被告の主張) 本件審決は,本件願書等の記載を総合的に判断して,本願意匠の意匠に係る物品が医療用注射器の外筒の用途及び機能を有すると認定した。
前記1(被告の主張)のとおり,本件審決の認定に誤りはないから, 「自動注射器で自己注射をする患者」が本願意匠の需要者であるとはいえず,原告の主張は当を 得ない。
3 取消事由3(本願意匠に係る物品と異なる物品である引用意匠を対比した上で意匠法3条1項3号を理由として拒絶した誤り)について(原告の主張) 本件審決は,物品の同一性を前提として,引用意匠との類否判断を行っているが,物品が異なる。本願意匠の物品は自動注射器等に用いる「カートリッジ」であるが,これは医療の専門家ではない患者が使用することを想定するものであって,操作の容易性及び医療事故発生の防止の見地から,自動注射器等への@挿入のしやすさ,Aカートリッジの自動注射器等への確実な固定,B挿入する自動注射器等以外との非互換性,及びC(注射針に代えて薬剤を細い管口から高圧で噴射する方法を用いる自動注射器等においては)当該噴射方法に適したノズル外径(ノズルの壁厚)及び形状の選択という点が仕様又は機能として求められている。
そうすると,本願意匠には「カートリッジ」特有の用途,機能,需要者,使用態様等に係る具体的な構成に「カートリッジ」における美感が存在するのであるから,引用意匠として「外筒(バレル)」の意匠を用いることは適切ではない。
したがって,本件審決は,引用意匠に適格性を欠くもので,取り消されるべきである。
(被告の主張) 本件審決は,本件願書等の記載を総合的に判断して,本願意匠の意匠に係る物品が医療用注射器の外筒の用途及び機能を有すると認定した。
前記1(被告の主張)のとおり,本件審決の認定に誤りはなく,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は,共に医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するものであって共通するから,原告の主張は当を得ない。
4 取消事由4(本願意匠と同一物品ではない参考意匠を参酌した上で意匠法3条1項3号を理由として拒絶した誤り)について(原告の主張) 本件審決は,本願意匠と引用意匠の物品の同一性を前提として,狭義の「シリンジ」に当たる「外筒(バレル)」に関する参考意匠を参酌して,引用意匠との類否判断をしている。
しかしながら,意匠の類否判断に当たり,用途と機能において同一又は類似といえない物品に係る意匠を公知意匠として参酌することはできないから,本件審決には参酌すべきでない参考意匠を参酌して意匠の類否判断を行った誤りがあり,取り消されるべきである。
(被告の主張) 本件審決は,本件願書等の記載を総合的に判断して,本願意匠の意匠に係る物品が医療用注射器の外筒の用途及び機能を有すると認定した。
前記1(被告の主張)のとおり,本件審決の認定に誤りはなく,本願意匠と参考意匠の意匠に係る物品は,用途と機能において同一又は類似といえるから,参考意匠を参酌することは適切であり,原告の主張は当を得ない。
5 取消事由5(相違点の看過)について(原告の主張) (1) 本願意匠と引用意匠には,本件審決が認定した(相違点1)〜(相違点6)の外に,次の相違点がある。下記各相違点は需要者において明確な印象の差異を与えるものであって,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。
(相違点7)ノズル部につき,本体部の径とノズル部径の比率が,本願意匠が約2:1.5であるのに対し,引用意匠は約2:1である点 (相違点8)フランジ部について,側面部における略円板状体の高さ(厚み)と底辺(幅)の比率につき,本願意匠が略1:7であるのに対し,引用意匠は略1:11であり,本願意匠において略1.5倍のフランジ部における略円板状体の高さ(厚み)を有する点 (2) ここで, 相違点8) 側面部における略円板状体の高さ ( は, (厚み)と底辺(幅)の比率を問題とするものであるところ,フランジ部の長さ(厚み)と本体部の長さ の比,フランジ部の略円板状体の直径と本体部の径の比をそれぞれ認定しても, (相違点8)の認定とはならないので,被告の主張は理由がない。
(被告の主張) 本件審決は,本願意匠の形態を認定し(本件審決2頁下から5行〜3頁17行),引用意匠の形態を認定した(本件審決3頁22行〜4頁5行)上で,両意匠の形態の共通点と相違点を認定しており(本件審決4頁12行〜5頁17行) その認定に ,誤りはない。
原告は(相違点7)について本件審決で認定していないと主張するが,本件審決は, (共通点4)及び(相違点4)において肩部について認定しており,これはノズル部後端部の径と本体部の径の認定にもなっていて,両意匠のノズル部後端部の径と本体部の径を認定しているといえる。また,本願意匠のノズル部後端部の径と本体部の径の比は約1:2であり,引用意匠のノズル部後端部の径と本体部の径の比は約1:3であるから,原告が主張する(相違点7)には誤りがある。
また,原告は(相違点8)についても本件審決で認定していないと主張するが,本件審決では, (相違点1)においてフランジ部の長さ(厚み)の全体の各部に占める割合を認定し, (相違点5)においてフランジ部の略円板状体の直径を本体部の径と比較して認定することで,本体部の長さと径との比較としてフランジ部の長さ(厚み)と直径を認定しているから, (相違点8)について認定していないという原告の主張は当を得ない。
6 取消事由6(両意匠の形態の類否判断の誤り)について(原告の主張) (1) 本件審決は,本願意匠の物品の認定に誤りがあるから,本願意匠と引用意匠の物品類似性の認定に誤りがあり,需要者の最も注意を引く部位の認定を誤り,相違点に係る構成を,従来見受けられる態様であるなどと誤って認定した。
(2) 前記3(原告の主張)のとおり,本願意匠は, 「カートリッジ」であって,自動注射器等への@挿入のしやすさ,Aカートリッジの自動注射器等への確実な固定, B挿入する自動注射器等以外との非互換性,及びC(注射針に代えて薬剤を細い管口から高圧で噴射する方法を用いる自動注射器等においては)当該噴射方法に適したノズル外径(ノズルの壁厚)及び形状の選択という点が仕様又は機能として求められており,需要者である医療従事者及び患者をして,これら仕様又は機能を実現するための具体的な形状に着目させるものである。
(3) 本願意匠は,注射針に代えて高圧高速の細いジェット流により注射を行う無針の自動注射器のカートリッジとしてデザインされている。
前記5の(相違点7)は,発射圧の負荷に耐えるためにノズル外径(ノズルの壁厚)を厚く,大きくした結果もたらされたものであり,独自の形態的特徴というべきであって,需要者に大きな印象の違いを与える。
また,本願意匠では,フランジ部は注射の際に指をかけて安定的に薬液を注射するための「手がかり部」として設けられたのではなく,自動注射器の発射の際の高圧に耐えることを目的に設けられており,その厚みは,注射器本体に対して相対的に小さいカートリッジを挿入する際に,視覚的に認識しやすく,触覚で感じ取れることから,挿入時に手でとって保持することが容易であり,挿入しやすさに寄与しているもので,前記5の(相違点8)は,引用意匠にはない独自の形態的特徴というべきであって,需要者に明確な印象の差異を与える。
また, (相違点6)の全ての角部に設けたテーパにより,需要者は挿入口で引っかけることなく滑らかに挿入することができる。
さらに, 「ノズルの形状」 (相違点7)「フランジ部の厚み」 , (相違点8)及び「角部に設けたテーパ」(相違点6)といった点は,(相違点1)〜(相違点5)の特徴と相まって,対応する自動注射器等以外との非互換性をもたらすものであり,医療事故防止につながるという点においても需要者たる患者が着目するもので,需要者において明確な美感の差異を与える。
(4) 以上のとおり,本願意匠と引用意匠は全く別個の美感を需要者に与えるものであるから,両意匠は非類似である。
(被告の主張) (1) 前記1(被告の主張)のとおり,本件審決は,本件願書等の記載を総合的に判断して,本願意匠の意匠に係る物品が医療用注射器の外筒の用途及び機能を有すると認定しており,この認定に誤りはない。
(2) 需要者が着目する点に係る原告の主張は,本願意匠に係る物品が自動注射器等に挿入される「カートリッジ」であることを前提とする判断であり,当を得ない。
(3) 原告の(相違点7)及び(相違点8)に係る主張は,前記5(被告の主張)のとおり,当を得ない。
次に, (相違点6)について,本願意匠のように,本体部,ノズル部,フランジ部のそれぞれの角部にテーパを設けた注射筒の意匠は,本願の出願前に広く知られており(乙11参照),本願意匠における角部の僅かなテーパに対して,需要者は殊更注目するとはいい難いので,角部におけるテーパの有無の相違点が本願意匠と引用意匠との類否判断に及ぼす影響は小さいとした本件審決の判断に誤りはない。
そして,参考意匠の正面図における本体部の長さとフランジ部の長さ(厚み)の比は約27:1であり,本願意匠の正面図における本体部の長さとフランジ部の長さ(厚み)の比も約82:3(≒27:1)であることなども踏まえれば,本件審決が, (相違点1)〜(相違点6)の各点が意匠全体の美感に及ぼす影響はいずれも小さく,本願意匠と引用意匠は,意匠全体として共通する美感を起こさせるもので,両意匠の形態は類似すると判断したことに誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件審決は,本願意匠が引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当するから意匠登録を受けることができないと判断した。
そこで検討するに,意匠は物品と一体をなすものであるから,登録出願前に日本国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外国において頒布された刊行物記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として,意匠法3条1項により登録を拒絶するためには,まずその意匠にかか る物品が同一又は類似であることを必要とし,更に,意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない(最高裁判所昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。
そうすると,物品の同一性又は類似性の認定に誤りがある場合には,意匠法3条1項該当性の判断に誤りがあるというべきである。
2(1) 原告は,本件審決が,本願意匠に係る物品について「医療用注射器の外筒」と認定したことが誤りであると主張し,これに対し被告は,@本件審決は,本件願書等の記載から本願意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」と認定したところ,この判断に誤りはなく,A原告が,本件意見書や本件審判請求書で本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共通する」などと主張していたことは上記@の認定を裏付けるものであり,原告が,本訴において,本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることは禁反言により許されないなどと主張している。
(2) そこで検討するに,本件意見書や本件審判請求書において,原告は,本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共通する」などと主張していたことが認められるが(乙5,7),意匠登録出願についての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条),出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くものではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もないことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって,禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。
また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることによ り,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとしても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,およそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護を与えるべきではないなどということはできない。
(3) さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照) 各当事者は, , 審判手続において具体的に争われていない拒絶理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。
(4) そこで,以下,原告が,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が異なると主張していることを前提として,本願意匠に係る物品について検討する。
3(1) 意匠法24条1項は「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。」と規定する。
また,旧法6条1項3号は,意匠登録出願の際に提出すべき書類に, 「意匠に係る物品」を記載すべき旨規定し,意匠法施行規則別表第一には意匠に係る物品の欄に記載すべき区分が定められているが,同表には「インジェクターカートリッジ」との区分の記載はない(乙2,3,15。なお,同表には, 「インジェクター」を含む区分の記載もなく, 「カートリッジ」を含むものとしては「レコードプレーヤー用カートリッジ」の区分の記載があるのみである。。同表の備考二には, ) 「この表の下欄 に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係る物品」の欄に記載しなければならない。」と記載されている。そして,同規則様式第2備考39には「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは, 「【意匠に係る物品の説明】 の欄にその物品の 」使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」と記載されている。
(2) 前記(1)の各規定を踏まえ,本件願書等の記載から,本願意匠の意匠に係る物品が何であるか検討する。本件願書等(乙1)の記載をみると,【意匠に係る物品】として「インジェクターカートリッジ」とあるほか, 【意匠の説明】及び図面はいずれも別紙第1記載のとおりであって,本件願書等には【意匠に係る物品の説明】の欄はなく,その余の欄にも意匠に係る物品の説明は記載されていない。本件願書等における物品を示唆する記載は「インジェクターカートリッジ」との文言及び図面のみである。
(3) そこで, 「インジェクターカートリッジ」との文言について検討すると,これは, 「インジェクター」と「カードリッジ」という2つの単語が組み合わされたものと認められる。
ア 「インジェクター」についてみると,新英和大辞典第六版(乙9)には,外来語である「インジェクター」のもとの英単語である「injector」について, 「注射する人,注入器,注射器」という意味が記載されており,証拠(甲7,15)によると,本件優先日より前に,糖尿病の注射治療に用いる注射薬として「オートインジェクター」と呼ばれる,ボタンを押すだけであらかじめ充填されている1回分の薬液が自動的に注入されるGLP-1受容体作動薬の注入器及び「アポカインインジェクター」との名称の電動式医療品注入器(原告の主張する自動注射器を意味するものと推認される。)が既に存在していたことが認められる。加えて,原告及び被告ともに,インジェクターが「注射器」を意味するものと認識している。そうする と,本件において,「インジェクター」は注射器を意味すると推察される。
イ 「カートリッジ」についてみると,外来語である「カートリッジ」のもとの英単語である「cartridge」について,新英和大辞典第六版(乙9)には, 「弾薬筒,薬筒,薬包,実包」(機械・器具などの一部に取換えのできるように工夫された液 「体・ガスなどの)小容器」,ウィズダム英和辞典(甲8)には「交換[詰め替え]用容器」,New Oxford American Dictionary(甲9)には「巻かれた写真用フィルム,インク,その他の物又は物質を内包する容器であり,装置の中に挿入するべくデザインされたもの」との意味がそれぞれ記載されている。そして,証拠(甲13)によると,本件優先日より前に,専用注入器に装着して使用する「カートリッジ製剤」と呼ばれるインスリン製剤が存在していたことが認められる。また,本件優先日より前に公開されていた特許公報(甲12,28〜32)には,自動注射器,注射器装置,ばね駆動式の注射装置,ペン型注射器及び医療用自動注射装置に用いられる,薬を充填した小容器を意味する「カートリッジ」に関する記載(その中には,薬剤カートリッジ,薬物充填カートリッジなどと記載されている部分もある。 があるこ )とが認められる。そうすると, 「カートリッジ」は交換用の液体・ガスなどを充填した小容器を意味するものと推測される。なお,上記各証拠に照らす限り, 「カートリッジ」が文言上,「外筒」を意味するものと認めることはできない。
ウ 次に,「インジェクターカートリッジ」の語句について検討するに,被告は,本件願書の【意匠に係る物品】の記載は「インジェクターカートリッジ」であり,「インジェクター用カートリッジ」ではないなどとも主張するが,証拠(甲17〜20,22,23)によると,「カートリッジ」の文言は,「トナーカートリッジ」「インクカートリッジ」のようにカートリッジ自体についてその内容物を意味する文言とともに用いられる場合がある一方で,浄水器に用いられるカートリッジについて「浄水器用カートリッジ」とする登録意匠と「浄水器カートリッジ」とする登録意匠とが存在し, 「浄水器カートリッジ」が浄水器用のカートリッジを意味する場合があることが認められ, 「インジェクターカートリッジ」という文言をもって,イ ンジェクター用のカートリッジを意味するものと理解することも不自然ではない。
そして,本願意匠の意匠に係る物品として,出願人である原告が,注射器を意味する「インジェクター」のみにとどめず,あえて「インジェクターカートリッジ」としたものであることを併せ考慮すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用のカートリッジ」を意味すると認めるのが相当である。
エ 前記ア〜ウを総合すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用の交換可能な液体 ガスなどを充填した小容器」 ・ を意味すると認めるのが相当である。
(4) そうすると,本願意匠の意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」とした本件審決の認定には誤りがあるというほかない。もっとも,本件願書等には,「インジェクター」(注射器)が「自動注射器」を意味することまでを示唆する記載はなく,本件優先日当時において,一般に, 「インジェクターカートリッジ」が自動注射器用のカートリッジを意味していたと認めるに足りる証拠もないから,本願意匠の意匠に係る物品は,自動注射器に限ることなく,『注射 「器』用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」であると認めるのが相当である。
(5) 被告は,本件審決は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するインジェクターカートリッジ」であると認定したのであって「医療用注射器の外筒」と認定したものではないから原告の主張は前提を欠くなどと主張するが,物品の同一性及び類似性は,物品の用途及び機能等を比較して実質的に判断すべきところ,本件審決の認定は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」というものであって実質的に上記原告の主張のとおり「医療用注射器の外筒」と認定したものといえる。被告の上記主張は形式にすぎ,本質を看過したもので相当ではない。
また,被告は, 本件願書に【意匠に係る物品の説明】の欄を設けて物品の理解を助ける説明を記載し,参考図を提出する必要があったと主張しているところ,前記3(1)のとおり,意匠法施行規則別表第一には「インジェクターカートリッジ」との区分の記載はなく,また, 「インジェクターカートリッジ」が一般用語とはいえない ことからすれば,被告の主張するように【意匠に係る物品の説明】を記載するのが適当であったとはいえるものの,このことから,本願意匠に係る物品が「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」であると直ちに認定できるものではなく,上記被告の主張は,本願意匠に係る物品についての上記認定に影響しない。
4 他方,本件審決は,別紙第2記載の注射器の意匠のうち,注射器用シリンジ」 「の意匠を引用意匠としているところ,当該部分に係る物品は,注射器用外筒の用途及び機能を有するものと認められる。
そうすると,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通しない。
5 したがって,本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の同一性の認定には誤りがあるから,取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り)には理由がある。
結論
以上の次第であり,その余の点につき判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきであるから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 勝又来未子