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事件 平成 12年 (ワ) 2240号 意匠権侵害差止等請求事件
原告A
原告 ダイヤフーズ株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 若原俊二
原告ら補佐人弁理士 佐當 彌太郎
被告 株式会社栗原製作所
訴訟代理人弁護士 木村哲也
同 山上耕司
補佐人弁理士 山下賢二
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/04/05
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録に記載の各鶏卵包装用容器を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。
2 被告は、その占有にかかる前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告ダイヤフーズ株式会社に対し、900万円及びこれに対する平成12年3月14日から支払済みまで年5分の割合のよる金員を支払え。
事案の概要
本件は、鶏卵包装用容器の意匠権者である原告A及び同意匠権について独占的通常実施の設定を受けている原告ダイヤフーズ株式会社が、被告に対し、被告が製造、販売する鶏卵包装用容器が同意匠権を侵害するとして、製造、販売等の差止めと損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠の掲記がないものは、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告ダイヤフーズ株式会社(以下「原告ダイヤフーズ」という。)は、
合成樹脂シート素材を成形加工して鶏卵包装用容器を含む各種食品容器の製造メーカーであり、原告Aはその代表取締役である。
イ 被告は、合成樹脂シート素材を成形加工した鶏卵包装用容器を含む食品容器の製造メーカーである。
(2) 原告Aは、次のア記載の意匠権(以下、この意匠権を「本件意匠権」、この意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠」という。)及び本件登録意匠本意匠とするイ、ウ記載の類似意匠の意匠権(以下、類似1〜7の意匠を「本件類似1意匠」…「本件類似7意匠」という。)を有している。
本意匠 (ア) 出願日 平成9年11月6日 (イ) 出願番号 意願平9-74215号 (ウ) 登録日 平成11年5月21日 (エ) 登録意匠番号 第1046602号 (オ) 意匠に係る物品 包装用容器 (カ) 登録意匠の内容 別添意匠公報のとおり イ 類似1〜3の意匠 (ア) 出願日 平成9年11月6日 (イ) 出願番号 類似1〜3の順に意願平9-74216号〜同74218号 (ウ) 登録日 平成11年5月28日 (エ) 登録意匠番号 第1046602号の類似1〜3 (オ) 意匠に係る物品 包装用容器 (カ) 登録意匠の内容 別添意匠公報のとおり ウ 類似4〜7の意匠 (ア) 出願日 平成9年11月28日 (イ) 出願番号 類似4〜7の順に意願平9-76815号〜同76818号 (ウ) 登録日 平成11年5月28日 (エ) 登録意匠番号 第1046602号の類似4〜7 (オ) 意匠に係る物品 包装用容器 (カ) 登録意匠の内容 別添意匠公報のとおり (3) 原告ダイヤフーズは、原告Aから、本件意匠権について、独占的通常実施権の設定を受けている(甲4)。
(4) 被告は、別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録に記載の各鶏卵包装用容器を製造、販売している(以下、これらの各鶏卵包装用容器を「イ号物件」、「ロ号物件」といい、それぞれの意匠を「イ号意匠」、「ロ号意匠」という。)。
2 争点 (1) 本件登録意匠の構成 (2) イ号、ロ号意匠の構成 (3) 本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の類否 (4) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件登録意匠の構成)について 〔原告らの主張〕 (1) 本件登録意匠の構成は、別紙@「本件登録意匠の構成(原告・被告主張)」(以下「別紙@」という。)記載の1-(1)〜(4)、2-(1)〜(10)、3-(1)〜(9)、4の(1)〜(3)に記載のとおりである(構成の説明中の符号は別紙@添付図面参照)。
(2) 本件類似1〜7意匠は、いずれも本件登録意匠における主要な特徴を備えているものであって、それぞれが次の点で相違している。
ア 本件登録意匠の場合、容体1に形成された鶏卵収容凹部12の数が8個であるのに比し、本件類似2、3、6及び7意匠が10個、本件類似4及び5意匠が6個である点 イ 本件登録意匠の場合、蓋体2に形成された傾斜壁31と略平坦底壁32とが四周の遊端側(ヒンジの反対側)周縁部29a側に形成されているのに比し、本件類似2、5及び7意匠は同じ側であるが、本件類似1、3、4及び6意匠は、いずれもヒンジ部3に連なる周縁部29b側に形成されている点 ウ 本件登録意匠の場合、該蓋体2に形成された傾斜壁31部分の模様が縦リブと傾斜段部とからなっているのに比し、本件類似1意匠を除く、本件類似2〜7意匠はいずれも縦リブだけからなっている点 エ 本件登録意匠の場合、蓋体2に形成された略平坦底壁32が、外列凹部22…の略正方形状底面22aの略半幅部分から外側方向に形成されているのに比し、本件類似2、3意匠は、この略平坦底壁32部分が外列凹部22(本件類似2意匠の場合)又はヒンジ部3側の凹部22(本件類似3意匠の場合)の略正方形状底面22aの全幅部分に形成されている点 オ 本件登録意匠の場合、上記の略平坦底壁32が、左右両端部の凹部22、22のそれぞれ左右外側半部を除いた部分に形成されているのに比し、本件類似2、
3、6及び7意匠では、この略平坦底壁32部分が左右両端分の凹部22、22の1個分を残した内側部分に形成されている点 (3) 本件類似1〜7意匠は、本件登録意匠に類似するものと認定されて設定登録されているから、本件意匠権は、これらの意匠が合体されたものと捉えるべきである。
〔被告の主張〕 本件登録意匠が、原告ら主張の構成を有していることは認めるが、さらに、
別紙@記載の、2-(11)〜(13)、3-(10)〜(12)に記載の構成をも有している。
2 争点(2)(イ号、ロ号意匠の構成)について 〔原告らの主張〕 イ号、ロ号意匠の構成は、別紙A「イ号、ロ号意匠の構成(原告・被告主張)」(以下「別紙A」という。)記載の1-(1)〜(4)、2-(1)〜(9)、3-(1)〜(9)、(10)-イ、4の(1)-イ・ロ、(2)-イ・ロ、(3)に記載のとおりである(構成の説明中の符号は別紙A添付図面参照)。
〔被告の主張〕 イ号、ロ号意匠が、原告ら主張の構成を有していることは認めるが、さらに、別紙A記載の1-(5)、2-(10)、(11)、3-(11)、(12)、4の(4)、(5)〜(7)各イ、(5)-ロに記載の構成をも有している。
3 争点(3)(本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の類否)について 〔原告らの主張〕 (1) 本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の同一点 本件登録意匠とイ号、ロ号意匠とを比較すると、別紙@及びA記載の1-(1)〜(4)、2-(1)〜(9)(ただし、(2)の鶏卵収容凹部12の個数(下線部分)を除く。)、3-(1)〜(9)(ただし、(2)の鶏卵保護凹部22の個数(下線部分)、(4)の隔壁23の個数(下線部分)を除く。)、4の(1)〜(3)(ただし、イ号意匠につきラベル貼付領域がヒンジ側か遊端側かという点(下線部分)を除く。)の各構成において同一である。
(2) 本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との相違点 ア 容体1における鶏卵収容凹部12、蓋体2における鶏卵保護凹部22の数が、本件登録意匠では8個であるのに対し、イ号、ロ号意匠においては10個であり、それに伴って、長方形状の隔壁13、23、四角錐状の柱状部14、24の数が異なる(別紙@及びAの2-(2)、3-(2)、(4)の下線部分)。
イ 蓋体2のラベル貼付領域が、本件登録意匠では遊端側周縁部29aに面する側に形成されている(ロ号意匠も同じ)のに対し、イ号意匠では、ヒンジ部3側周縁部29bに面する側に形成されている(別紙@及びAの4の(1)、(2)の下線部分)。
ウ 本件登録意匠において、容体1の平面図右端に形成されている平坦な傾斜面18(別紙@の2-(10))に相当する部分が、イ号意匠においては蓋体2の平面図における右端に形成されており(平坦な傾斜面28、別紙Aの3-(10)-イ)、ロ号意匠においては該部分を全く欠いている。
(3)ア 上記(2)アの相違点(収用鶏卵の個数が10個か8個かという相違)は、意匠上の大きな相違点ではなく、このことは、鶏卵収用個数の異なる各意匠が、類似意匠として登録されていることからも明らかである。
イ 上記(2)イの相違点(蓋体2のラベル貼付領域がヒンジ側か外側かという相違(イ号意匠))は、単なる位置の対称移動にすぎないのであるから、意匠上の大きな相異点ではなく、このことは、ラベル貼付領域が上記のように異なる位置に配置されている意匠が類似意匠として登録されていることからも明らかである。
ウ 上記(2)ウの相違点(側面の平坦な傾斜面の有無(ロ号意匠)、位置の相違(イ号意匠))は、同部分は、容器全体に占める割合が小さく、しかもその場所は、一般には蓋体2の傾斜壁31を正面にして陳列されるため目立ち難い意匠部分となるから、意匠全体の印象を左右する大きな差異とみることはできない。
(4) 被告は、本件登録意匠と後記乙1〜9公報の意匠とを比較して、類似範囲の判断に当たっては、リブの設置状況等を含めほぼ図示通りの意匠として狭く解釈すべきである旨主張する。
ア しかし、本件登録意匠が有する@収容凹部12、22の上下の底が菱形、A蓋体のラベル貼付領域が蓋体上面から蓋体正面に及ぶ、B6個、8個又は10個入りの鶏卵容器との特徴をすべて備えた鶏卵包装用容器は、従前なかったものである。
イ 後記乙3〜9、11〜18公報の鶏卵包装用容器の意匠は、いずれも原告Aが創作したもので、収容凹部が菱形タイプ(乙8、9、13〜18)、丸形タイプ(乙3〜7、11、12)と2種類に分かれる。丸形タイプは、隔壁にまで丸みをつけるなどの工夫が凝らされて一層の華やかさ・ふくよかさが添えられ、菱形タイプは、収容凹部にまで+字形リブを刻印し、硬さ・荘重性を際立たせているものである。
このように両者は全体に受ける印象がまるで異なるものであって同一に論ずるべきではなく、被告が主張するように、菱形タイプである本件登録意匠の公知意匠として、丸形タイプの意匠例を参酌すべきではない。
ウ そうすると、本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との類否の判断に当たっては上記アの特徴に着目すべきであって、被告が主張するリブの設置状況等のイ号、
ロ号意匠との差異は、微差として無視できるものである。
(5) 原告ダイヤフーズが平成8年1月から平成9年10月までの間に株式会社八千代ポートリーに対し、後記検乙1意匠を備えた10個入り鶏卵包装用容器を販売したとの被告主張の事実は否認する。
原告Aは、意匠権の出願前にこれを利用して製造、販売した場合、権利は登録され得ないし、仮に登録されてもその権利は無効となるものであることは、重々承知しているから、被告が主張するような販売行為を行うことはあり得ない。そのことは、後記検乙1意匠を備えた鶏卵包装用容器の金型図面が、平成9年9月20日付けで作成されていることからも明らかである。
〔被告の主張〕 (1) 原告らが本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の同一点であると主張する部分は、争わない。
(2) 本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との相違点について 原告らが本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との相違点であると主張する部分は争わないが、さらに、次の相違点が存在する。
ア 本件登録意匠では、容体1の右側にバーコードを貼付するための平坦な傾斜面18が形成されている(別紙@の2-(10))のに反して、このような傾斜面18はイ号、ロ号意匠には存在しない。このような傾斜面18は、バーコード貼付用の完全な平坦面として取扱者から明瞭に看取される。
なお、イ号意匠の蓋体2の右端の平坦な傾斜面28(別紙Aの3-(10)-イ)は、その形成位置や機能に徴して、本件登録意匠の平坦な傾斜面18と対応するものではない。
イ(ア) 本件登録意匠では、容体1と蓋体2のいずれにあっても、隔壁13、23が同じ帯幅であり、その上面に山型リブ33a、33bが各々2本宛平行に突設される(別紙@の2-(11)、3-(10))のに対し、イ号、ロ号意匠においては、容体1側の隔壁13が狭幅で、蓋体2側の隔壁23がその約2倍の広幅であり、同隔壁13、23の上面には、山型リブはなく単純な平坦面となっている(別紙Aの2-(11)、3-(12))。
(イ) 本件登録意匠では、容体1と蓋体2のいずれにあっても、隔壁13、23の中央部から2本宛の直線リブ34a、34bが配列設置されている(別紙@の2-(12)、3-(11))のに反して、イ号、ロ号意匠においては、このような直線リブは存在しない。
(ウ) 本件登録意匠では、容体1側と蓋体2側との周縁部19、29に、ほぼ直角二等辺三角形の凹凸35a、35bが点在分布している(別紙@の2-(13)、3-(12))のに反して、イ号、ロ号意匠においては、このような二等辺三角形の凹凸は存在しない。
したがって、その基本構成から表出される全体的な模様が、本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との顕著に相違する結果となっている。
ウ イ号、ロ号意匠においては、容体1側と蓋体2側の周縁部19、29における左右両短辺には、多数の粒子群36a、36bが配列設置され(別紙Aの2-(10)、3-(11))、これらは際立って明瞭に看取することができ、特異な手触り感を与えることになるが、本件登録意匠には、このような粒子群は設けられていない。
エ イ号、ロ号意匠では、ヒンジ部3に平行な2列のミシン目37が施されているが(別紙Aの1-(5))、本件登録意匠にはこのようなミシン目は存在しない。
オ 蓋体2のラベル貼付領域について (ア) イ号、ロ号意匠と本件登録意匠とを対比すると、イ号意匠における、リブの設置状況(別紙Aの4-(6)-イ、(7)-イ)、傾斜壁31が左右の傾斜面28、28bと連続するほぼ平坦な面を形作っていること(別紙Aの4-(5)-イ)、ロ号意匠における、リブの設置状況(別紙Aの4-(5)-ロ)、遊端側に5個並ぶ鶏卵保護凹部22の全体にわたってラベル貼付領域が形成されていること(別紙Aの4-(4))について、本件登録意匠においては、底壁32が完全な平坦面をなしていること、傾斜壁31の模様化の状況、左右の傾斜面に連続していないことが異なる。
(イ) また、イ号意匠と本件類似6意匠、ロ号意匠と本件類似7意匠をそれぞれ比較しても、底壁が完全な平坦面か否か、リブの設置状況等の点で異なる。
さらに、イ号、ロ号意匠と、本件類似6、7意匠とは、共に2列5個宛の鶏卵保護凹部22を備えているが、本件類似6、7意匠においては、ラベル貼付領域が中央の3個分に相当する小さな面積を占めるのに対し、イ号、ロ号意匠においては、5個分全体に及び大きな面積を占めている(別紙Aの4-(4))。これは、
本件類似6、7意匠においては、中央の3個分に相当する面積があれば、ラベル貼付領域として十分であると考えたことによるものであるから、鶏卵包装用容器におけるラベル貼付領域の占有部分の面積が異なることは、単なる鶏卵包装個数の多寡による差異にすぎないとすることはできない。
(3) 原告らが本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の「1 全体構造」、「2 容体1」及び「3 蓋体2」の構成において同一点であると主張する部分は、特開平9-272578号(乙1)及び特開平9-272579号(乙2)の各公開特許公報(以下「乙1公報」、「乙2公報」という。別紙「鶏卵包装用容器の他意匠」参照)に記載されており、本件登録意匠の出願日前からありふれたものであったから、類似範囲の判断に当たっては、ほぼ図示通りの意匠として狭く解釈されるべきである。
なお、「1 全体構造」の(1)〜(4)の構成はもちろんのこと、「2 容体1」及び「3 蓋体2」の構成のうち、周縁部19、29同志が合掌することとなる容体1と蓋体2について、鶏卵の抱持可能な複数ずつの鶏卵収容凹部12と鶏卵保護凹部22を対応的に設け、しかもその鶏卵収容凹部12同志と鶏卵保護凹部22同志の隣り合う相互間を、各々隔壁13、23と柱状部14、24によって仕切り区分することは、易損物の鶏卵を衝突しないように保護する本来の機能上、必要不可欠な基本的・普遍的な定形であり、この種の鶏卵包装用容器に固有の意匠であるにすぎない。
(4) 「4 蓋体2のラベル貼付領域」は、乙1、2公報には開示はなく、本件登録意匠と本件類似1〜7意匠に共通するものである。
しかし、鶏卵包装用容器の蓋体2について、略平坦な傾斜壁31と略平坦な底壁32とが連なる広いスペースの略平坦なラベル貼付領域を造形するモチーフは、
本件登録意匠の出願日前に頒布された意匠登録第949702号意匠公報(乙3)とその類似1〜3意匠公報(乙4〜6)、意匠登録第966775号意匠公報(乙7)、意匠登録第845416号意匠公報(乙8)とその類似1意匠公報(乙9)などに記載のとおり、やはり公知であって、本意匠により初めて採用されたモチーフではない(以下、乙3〜乙9の各公報を「乙3公報」…「乙9公報」という。別紙「鶏卵包装用容器の他意匠」参照)。
したがって、本件登録意匠とイ号、ロ号意匠との類否を判断するためには、ラベル貼付領域の形成位置や、その鶏卵包装用容器の全体に占める大きさ、ラベル貼付領域の表面に施された形状模様又はこれらの結合などを、細かく厳密に解釈する必要がある。
その際、ラベルは需要者の最も見やすい位置に貼付使用される性質上、そのラベル貼付領域は鶏卵包装用容器の最も見やすい位置に形成されているから、最も大きなウエイトをもって類否判断されるべきであり、意匠の要部をなすと考えられる。
(5) 原告Aは、乙3公報の意匠の類似意匠として本件登録意匠、本件類似1〜7意匠の意匠登録願を提出していたが、特許庁の担当審査官から本件登録意匠は乙3公報の意匠とは類似せず、意匠法10条1項の規定に該当しない旨の拒絶理由通知を受けて、本件登録意匠を、当初の類似意匠登録願から独立の意匠登録願に出願変更し、本件類似1〜7意匠を本件登録意匠の類似意匠として補正し、その登録を認められた経緯がある(乙10)。
(6) 意匠登録第966775号(乙7)と、意匠登録第1005799号及びその類似意匠(乙11、12)は、乙3〜6公報の意匠と実質的に同一(6個入りである点が異なる。)であるにもかかわらず、非類似の意匠として別個独立に登録されている。
特に、意匠登録第966775号(乙7)と、意匠登録第1005799号(乙11)とは、いずれも6個入りの鶏卵包装用容器の意匠であるにもかかわらず、別個独立に意匠登録されている。
なお、意匠登録第1047582号及びその類似意匠(乙13ないし18。別紙「鶏卵包装用容器の他意匠」参照)は、すべて10個入りの鶏卵包装用容器であり、その蓋体のラベル貼付領域を除く全体の形状模様又はこれらの結合が実質的に同一であるため、類似意匠として登録されたものである。
このような類似意匠の先例は、類似範囲を狭く解釈すべきであることを示唆している。
(7) 原告ダイヤフーズは、平成8年1月から平成9年10月までの間に、株式会社八千代ポートリーに対し、10個入り鶏卵包装用容器(検乙1及び検甲5と同意匠のもの。以下「検乙1意匠」という。)を10万5000個販売した。
検乙1意匠は、10個入りの鶏卵包装用容器を対象とし、蓋体のラベル貼付領域が、鶏卵保護凹部22の5個分全体に及ぶ大きな占有面積である点でイ号、ロ号意匠と共通している。他方、ラベル貼付領域を除く全体的な基本形状として、容体1の右側にバーコード貼付用の平坦面18を備えているほか、容体1側と蓋体2側との両側に山形リブ33a、33bや直線リブ34a、34b、直角二等辺三角形の凹凸35a、35bも備えている点では、本件登録意匠と共通しており、合わせてラベル貼付領域の造形パターンや形成位置も観察した場合、特に本件類似5、7意匠と酷似した意匠である。
したがって、イ号、ロ号意匠が、本件登録意匠の類似範囲に属すると解釈されるならば、本件登録意匠は、公知意匠である検乙1意匠とも類似することとなり無効事由(意匠法3条1項3号違反)を有することとなってしまうことを考慮すべきである。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について 〔原告らの主張〕 被告は、遅くとも平成11年6月には、イ号、ロ号物件の製造、販売を開始し、これまでの販売数量は少なくとも900万枚を下らない。
被告は、イ号、ロ号物件の1枚当たりの利益は少なくとも1円を下らないから、これまでに少なくとも900万円の利益を得ており、原告ダイヤフーズが、被告のイ号、ロ号物件の上記製造、販売行為により被った損害は金900万円と推定される。
〔被告の主張〕 原告らの主張事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)(本件登録意匠の構成)について 別添の本件登録意匠の意匠公報によれば、本件登録意匠の構成は次のとおりであると認められる(構成の説明中の符号は別紙@添付図面参照)。
【全体構造】 (1) 平面視形状を長方形状とした鶏卵の下半分を収容保護する容体1と、
(2) 該容体1と平面視形状を略同形同大とした長方形状の蓋体2と、 (3) これら両体1、2を長手方向の一側部で折り曲げ可能に連結したヒンジ部3とを備え (4) 全体が透明性を有する薄い合成樹脂シート素材によって一体的に成形されている鶏卵包装用の容器である。 【容体1】 (1) 四周に形成された周縁部19を備えている。 (2) この周縁部19内において、2列4個宛、計8 個の略八角錐形状の鶏卵収容凹部12を備えている。 (3) これらの各鶏卵収容凹部12が、それぞれ頂角を四周の周縁部19方向に向けた略正方形状の底面12aを備えている。 (4) これらの隣り合う各鶏卵収容凹部12、12間において、容器の長手方向と幅方向とに沿うように配列された、長方形状の隔壁13を備えている。 (5) これら4つの鶏卵収容凹部12で囲まれた中間位置において、四角錐状の柱状部14を備えている。 (6) これらの各柱状部14は、頂角を四周の周縁部19方向に向けた略正方形状の頂面14aを備えている。 (7) 各鶏卵収容凹部12の対角方向の各凹入壁12bが、それぞれ3本宛のリブ15を備えている。 (8) 各鶏卵収容凹部12の各底面12aが、それぞれ+字形のリブ16を備えている。 (9) 各四角錐状の柱状部14の各頂面14aが、それぞれ円形窪み17を備えている。 (10) 平面図において右端に平坦な傾斜面18を備えている。
(11) 隔壁13は、蓋体2の隔壁23と同じ帯幅を備えており、しかもその上面には各々2本宛の平行な山形リブ33aが突設されている。
(12) 隔壁13における中央部からは、各々鶏卵収容凹部12の底面12aに向かって、2本宛の直線リブ34aが配列設置されている。
(13) 周縁部19が、鶏卵収容凹部12との境界部をなす四辺には、ほぼ直角二等辺三角形の凹凸35aが点在分布している。
【蓋体2】 (1) 四周に形成された周縁部29を備えている。 (2) この周縁部29内において、2列4個宛、計8 個の略正方形状の底面22aを備えた、略八角錐又は変形八角錐形状の鶏卵保護凹部22を備えている。 (3) これらの各底面22aが、各頂角を四周の周縁部29方向に向けた形状とされている。 (4) これらの隣り合う各鶏卵保護凹部22、22間において、容器の長手方向と幅方向とに沿うように配列された、7個の長方形状の隔壁23を備えている。 (5) これら4つの鶏卵保護凹部22で囲まれた中間位置において、四角錐状の柱状部24を備えている。 (6) これらの各柱状部24は、頂角を四周の周縁部29方向に向けた略正方形状の頂面24aを備えている。 (7) 各鶏卵保護凹部22の対角方向の各凹入壁22bが、それぞれ3本宛のリブ25を備えている。 (8) 各鶏卵保護凹部22の各底面22aが、それぞれ平坦状とされている。 (9) 各四角錐状柱状部24の各頂面24aが、それぞれ円形凸部27を備えている。 (10) 隔壁23は、容体1の隔壁13と同じ帯幅を備えており、しかもその上面には各々2本宛の平行な山形リブ33bが突設されている。
(11) 隔壁23における中央部からは、各々鶏卵保護凹部22の底面22aに向かって、2本宛の直線リブ34bが配列設置されている。
(12) 周縁部29が、鶏卵保護凹部22との境界部をなす四辺には、ほぼ直角二等辺三角形の凹凸35bが点在分布している。
【蓋体2のラベル貼付領域 】 (1) 四周の周縁部29のうち遊端側(ヒンジの反対側)周縁部29aに面する側の傾斜壁31であって、外列の凹部22(平面図における上側 の横一列の凹部)のうち左右両端部の凹部22、22のそれぞれ左右外側半部を除いた部分が、略平坦な面とされている。
(2) これに連なる底壁32(平面図において傾斜壁31の下側に沿う)は、前記外列の凹部22の底面22aをも取り込む形で一体として形成され、これらも略平坦な面に形成されている。 (3) このようにして、これらの傾斜壁31と底壁32とに連なって、略平らに形成されたラベル貼付領域が設けられている。
(4) 8個入り鶏卵包装用容器として、その蓋体2における鶏卵保護凹部22の4個分 全体に及ぶ大きな占有面積のラベル貼付領域を備えている。
(5) 略平坦な傾斜壁31には、凹部22の遊端側(ヒンジの反対側)の傾斜壁42とその間の傾斜壁43とがわずかな高低差を有して交互に設けられ、傾斜壁43にはリブ44が2本宛配設されている。
また、別添の本件類似1〜7意匠の各公報によれば、本件類似1〜7意匠と本件登録意匠とは、第3の1の〔原告らの主張〕(2)記載の点で相違するが、その余は同じであると認められる。
2 争点(2)(イ号、ロ号意匠の構成)について 証拠(検甲1、2)によれば、イ号、ロ号意匠の構成は次のとおりであると認められる(なお、「-イ」「-ロ」の添字のある項目は、それぞれイ号意匠又はロ号意匠のみに係る構成を示し、同添字のない項目は、イ号、ロ号意匠に共通する構成を示す。構成の説明中の符号は別紙A添付図面参照)。
【全体構造】 (1) 平面視形状を長方形状とした鶏卵の下半分を収容保護する容体1と、
(2) 該容体1と平面視形状を略同形同大とした長方形状の蓋体2と、 (3) これら両体1、2を長手方向の一側部で折り曲げ可能に連結したヒンジ部3とを備え (4) 全体が透明性を有する薄い合成樹脂シート素材によって一体的に成形されている鶏卵包装用の容器である。 (5) 容体1と蓋体2とのヒンジ部3には、平行な2列のミシン目が付与されており、これにより挟まれた帯幅分だけを案内文字に従って、需要者が指先により直接引き裂き開封できるようになっている。
【容体1】 (1) 四周に形成された周縁部19を備えている。 (2) この周縁部19内において、2列5個宛、計10 個の略八角錐形状の鶏卵収容凹部12を備えている。 (3) これらの各鶏卵収容凹部12が、それぞれ頂角を四周の周縁部19方向に向けた略正方形状の底面12aを備えている。 (4) これらの隣り合う各鶏卵収容凹部12、12間において、容器の長手方向と幅方向とに沿うように配列された、長方形状の隔壁13を備えている。 (5) これら4つの鶏卵収容凹部12で囲まれた中間位置において、四角錐状の柱状部14を備えている。 (6) これらの各柱状部14が、頂角を四周の周縁部19方向に向けた略正方形状の頂面14aを備えている。 (7) 各鶏卵収容凹部12の対角方向の各凹入壁12bが、それぞれ3本宛のリブ15を備えている。 (8) 各鶏卵収容凹部12の各底面12aが、それぞれ+字形のリブ16を備えている。 (9) 各四角錐状の柱状部14の各頂面14aが、それぞれ円形窪み17を備えている。 (10) 容体1側の周縁部19における左右両短辺には、多数の粒子群36aが集中的に配列設置されている。
(11) 隔壁13は、蓋体2側の隔壁23の約2分の1の狭い帯幅を有し、しかもその上面は完全な平坦面のままに維持されている。
【蓋体2】 (1) 四周に形成された周縁部29を備えている。 (2) この周縁部29内において、2列5個宛、計10 個の略正方形状の底面22aを備えた、略八角錐又は変形八角錐形状の鶏卵保護凹部22を備えている。 (3) これらの各底面22aが、各頂角を四周の周縁部29方向に向けた形状とされている。 (4) これらの隣り合う各鶏卵保護凹部22、22間において、容器の長手方向と幅方向とに沿うように配列された、9個の長方形状の隔壁23を備えている。 (5) これら4つの鶏卵保護凹部22で囲まれた中間位置において、四角錐状の柱状部24を備えている。 (6) これらの各柱状部24は、頂角を四周の周縁部29方向に向けた略正方形状の頂面24aを備えている。 (7) 各鶏卵保護凹部22の対角方向の各凹入壁22bが、それぞれ3本宛のリブ25を備えている。 (8) 各鶏卵保護凹部22の各底面22aが、それぞれ平坦状とされている。 (9) 各四角錐状柱状部24の各頂面24aが、それぞれ円形凸部27を備えている。 (10)-イ 平面図における右端に平坦な傾斜面28を備えている。
(11) 蓋体2側の周縁部29における左右両短辺には、多数の粒子群36bが集中的に配列設置されている。
(12) 隔壁23は、容体1側の隔壁13の約2倍の帯幅を有しており、しかもその上面は完全な平坦面のままに維持されている。
【蓋体2のラベル貼付領域】 (1)-イ 四周の周縁部29のうちヒンジ部3側の周縁部29bに面する側の傾斜壁31であって、ヒンジ側列の凹部22(平面図における下側 の横一列の凹部)のうち左右両端部の凹部22、22のそれぞれ左右外側半部を除いた部分は、略平坦な面とされる。
(1)-ロ 四周の周縁部29のうち遊端側(ヒンジの反対側)周縁部29aに面する側の傾斜壁31であって、外列の凹部22(平面図における上側 の横一列の凹部)のうち左右両端部の凹部22、22のそれぞれ左右外側半部を除いた部分は、略平坦な面とされる。
(2)-イ これに連なるヒンジ側の底壁32(平面図において傾斜壁31の上側 に沿う)は、前記ヒンジ側列の凹部22の底面22aをも取り込む形で一体として形成され、
これらも略平坦な面に形成されている。
(2)-ロ これに連なる外側の底壁32(平面図において傾斜壁31の下側 に沿う)は、前記外列の凹部22の底面22aをも取り込む形で一体として形成され、これらも略平坦な面に形成されている。
(3) このようにして、これらの傾斜壁31と底壁32とに連なって、略平らに形成されたラベル貼付領域が設けられている。
(4) 10個入り鶏卵包装用容器として、その蓋体2における鶏卵保護凹部22の5個分全体に及ぶ大きな占有面積のラベル貼付領域を備えている。
(5)-イ 傾斜壁31は右側の傾斜面28のみならず、左側の傾斜面28bとも連続するほぼ平坦な面を形作っている。
(5)-ロ 傾斜壁31と底壁32には菱形底面の角隅部に向かう長い直線リブ41が平行に配列設置されており、そのリブ41の隣り合う相互間隔には広狭変化も与えられている。 (6)-イ ヒンジ部3に面する傾斜壁31には菱形の底面22aに向かう直線状の細いリブ38が配列設置されているほか、その細いリブ38同志の相互間にはやはり直線状の太いリブ39が、特に傾斜壁から底壁に至るまで長く配列設置されており、その長く太いリブ39と短く細いリブ38とは均等な間隔を保つ平行状態にある。
(7)-イ 右側の傾斜面28と左側の傾斜面28bにも、直線状の太いリブ40が2本ずつ平行に配列設置されている。
3 争点(3)(本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の類否)について (1) 本件登録意匠の構成は前記1、及びイ号、ロ号意匠の構成は前記2記載のとおりであり、それぞれ下線部分において異なり、それ以外の部分は同じ構成である。
(2)ア 本件登録意匠及びイ号、ロ号意匠は、いずれも透明性を有する薄い合成樹脂シート素材からなる鶏卵包装用の容器であり、最終的には鶏卵の消費者が鶏卵と共に購入するものである。
しかし、鶏卵購入時においては、容器内に鶏卵が収納され、容体1の上に蓋体2が覆い被さり、周縁部19、29の一部で接合された状況であり、包装容器は透明性を有することもあって具体的な意匠の内容が目立たないものである上、最終消費者は、包装容器の中に収納された鶏卵に着目して購入するのが通常であると考えられ、包装用容器の意匠が目に入ることはあってもそれは購買決定を左右する重要な要素とはいえない。
むしろ、鶏卵を製造、販売する業者の立場からすれば、鶏卵包装用容器の意匠は、鶏卵収納性、陳列容易性、重ね合わせた際の安定性、鶏卵の破損の防止性、ラベルないしバーコードの貼付位置等を決定するものであり、どの鶏卵包装用容器を選択するかにおいて、その意匠は重要な要素となる。
したがって、本件登録意匠及びイ号、ロ号意匠の類否の判断に当たっては、最終消費者のみならず鶏卵を製造、販売する業者をも、類否の判断の主体に含めるべきである。
イ 以上の観点からすれば、本件登録意匠とイ号、ロ号意匠の類否の判断に当たっては、鶏卵が包装された後の鶏卵包装用容器の形状のみならず、鶏卵が包装される以前の鶏卵包装用容器の容体1と蓋体2とを開いた状況や、容体の側から見た状況をも考慮すべきであり、そうすると、鶏卵収容凹部、鶏卵保護凹部、蓋体、
容体におけるラベルないしバーコード貼付領域及びその具体的形態に着目して検討することが必要となる。
(3) 本件登録意匠の【全体構造】、【容体1】及び【蓋体2】の構成のうち、
周縁部19、29同志が合掌することとなる容体1と蓋体2について、鶏卵の抱持可能な複数ずつの鶏卵収容凹部12と鶏卵保護凹部22を対応的に設け、しかもその鶏卵収容凹部12同志と鶏卵保護凹部22同志の隣り合う相互間を、各々隔壁13、23と柱状部14、24によって仕切り区分することは、割れ易い鶏卵を衝突しないように保護する鶏卵包装用容器の本来の機能上、必要不可欠な基本的な定形であるというべきであり、そのことは、本件登録意匠のみならず、本件類似1〜7意匠、イ号、ロ号意匠、乙1〜乙9公報等の鶏卵包装用容器のすべてが同構成を備えていることからも明らかである。
(4) 本件登録意匠の出願前の公知意匠について検討する(乙1〜9公報は、いずれも本件登録意匠の出願日前に公開ないし公報が発行されたものと認められる。)。
ア 乙1、2公報の意匠は、いずれも鶏卵収容凹部、鶏卵保護凹部の底面が菱形形状を有するもので(以下「菱形タイプ」という。)、本件登録意匠における【全体構造】の(1)〜(4)、【容体1】の(1)〜(9)、(11)〜(13)、【蓋体2】の(1)〜(10)、(13)の各構成を備えているが(ただし、10個入りの鶏卵包装用容器である。)、次の点で異なる(説明中の符号は別紙@添付図面の本件登録意匠のものに対応する。以下同じ)。
(ア) 蓋体の隔壁23における中央部から設置される直線リブ34bが設置されていない。
(イ) 蓋体のラベル貼付領域及び容体の側面のラベルないしバーコード貼付領域を備えていない。
イ 乙8、9公報の意匠は、いずれも菱形タイプのもので、本件登録意匠における【全体構造】の(1)〜(4)、【容体1】の(1)〜(7)、(9)、(10)、(12)(ただし、直線リブ34aは平面図における上下方向のみである。)、【蓋体2】の(1)〜(9)、(10)(ただし、隔壁23の帯幅は、蓋体と容体とで異なる。)の各構成を備えているが(ただし、10個入りの鶏卵包装用容器である。)、次の点で異なる。
(ア) 容体の底面12aは平坦であって+字形のリブ16を備えていない。
(イ) 容体の隔壁13の帯幅は蓋体の隔壁23より幅狭で、山形リブ33aを備えていない。
(ウ) 周縁部19、29のほぼ直角二等辺三角形の凹凸35a、35bを備えていない。
(エ) 蓋体のラベル貼付領域は、2列3個宛の鶏卵保護凹部の間に設けられ、その領域の範囲が異なる(なお、容体の側面のラベルないしバーコード貼付領域を備えていることは本件登録意匠と同一である。)。
ウ 乙3〜7公報の意匠は、鶏卵収容凹部及び鶏卵保護凹部の底面が丸形となったもので(以下「丸形タイプ」という。)、その蓋体の遊端側ないしヒンジ側には底壁に連なるラベル貼付領域を備えているが、容体の側面にラベルないしバーコード貼付用の平坦面を備えていない。
(5) 以上の認定を基に、本件登録意匠の要部について検討する。
ア 上記(3)記載の鶏卵包装用容器の基本的な定形は、個々の鶏卵包装用容器を特徴付けるものではなく、本件登録意匠の要部として捉えるべきではない。
イ そして、上記各公知意匠からすれば、鶏卵包装用容器には菱形タイプと丸形タイプの2種類があり、本件登録意匠のような菱形タイプでも、リブの設置状況、隔壁の状況は様々であることからすれば、菱形タイプであることに加え、そのリブや隔壁の具体的設置状況も意匠の要部として把握すべきである。
また、蓋体のラベル貼付領域は、鶏卵を包装した場合にとりわけ目を惹く部分となるものであり、しかも乙3〜7公報において蓋体にラベル貼付領域を備えた意匠が公知であったことを考慮すれば、その領域の範囲、リブ等の具体的形状も意匠の要部として把握すべきである。
さらに、容体のラベルないしバーコード貼付領域も、鶏卵を包装した後には目を惹かない部分になるとしても、鶏卵を製造、販売する業者にとっては重要な意味のある部分であるから、意匠の要部に含めて考えるべきである。
ウ 以上の観点から、本件登録意匠においては、次の構成が要部であると捉えるのが相当である。
【容体1・蓋体2】における容体の鶏卵収容凹部12、蓋体の鶏卵保護凹部22の形状について (ア) 略八角錐形状をしている。
(イ) 隔壁13、23が同じ帯幅を有し、その上面には2本の平行な山形リブ33a、33bを備えている。
(ウ) 凹入壁12b、22bが、それぞれ3本宛のリブ15、25を備えている。 (エ) 鶏卵収容凹部12の各底面12aが、それぞれ+字形のリブ16を備えている。 (オ) 隔壁13、23における中央部から、各々底面12a、22aに向かって、2本宛の直線リブ34a、34bが配列設置されている。
【容体1】の側面におけるラベルないしバーコード貼付領域 (カ) 平面図において右端に平坦な傾斜面18を備えている。
【蓋体2のラベル貼付領域】について (キ) 四周の周縁部29のうち遊端側ないしヒンジ側の周縁部29aに面する側の傾斜壁31であって、平面図の上側又は下側の横一列の凹部22のほぼ全域が略平坦な面とされる。
(ク) これに連なる底壁32(平面図において傾斜壁31の下側ないし上側に沿う)は、前記外列の凹部22の底面22aをも取り込む形で一体として形成され、これらも略平坦な面に形成されている。 (ケ) このようにして、これらの傾斜壁31と底壁32とに連なって、略平らに形成されたラベル貼付領域が設けられている。
(コ) 略平坦な傾斜壁31には、凹部22の遊端側(ヒンジの反対側)の傾斜壁42とその間の傾斜壁43とがわずかな高低差を有して交互に設けられ、傾斜壁43にはリブ44が2本宛配設されている。
エ なお、原告らは、本件登録意匠及び本件類似1〜7意匠が有する@収容凹部12、22の上下の底が菱形、A蓋体のラベル貼付領域が蓋体上面から蓋体正面に及ぶ、B6個、8個又は10個入りの鶏卵容器との特徴をすべて備えた鶏卵包装用容器は、従前なかったものであり、この点に着目すべきであって、菱形タイプである本件登録意匠の出願前の公知意匠として、丸形タイプの意匠例を参酌すべきではないなどと主張する(第3の3の〔原告らの主張〕(4))。
しかし、原告Aの出願した意匠に丸形タイプと菱形タイプの2種類があるとしても、その両タイプの区別は、鶏卵包装用容器の一般的、普遍的区分であるということはできないから、菱形タイプである本件登録意匠の出願前の公知意匠として、丸形タイプにおける蓋体のラベル貼付領域の設置状況を、菱形タイプと丸形タイプとの差異に伴って異なってくるラベル貼付領域の具体的形状に留意して参酌することは妨げられない。
(7) イ号、ロ号意匠は、本件登録意匠における要部に対応する構成部分は、次のとおりであり、下線部分において異なり、それ以外の部分は同一である。
【容体1・蓋体2】における容体の鶏卵収容凹部12、蓋体の鶏卵保護凹部22の形状について (ア) 略八角錐形状をしている。
(イ) 蓋体の隔壁23は、容体の隔壁13の約2倍の帯幅を有しており、両隔壁13、23の上面は完全な平坦面のままに維持されている。
(ウ) 凹入壁12b、22bが、それぞれ3本宛のリブ15、25を備えている。 (エ) 鶏卵収容凹部12の各底面12aが、それぞれ+字形のリブ16を備えている。 (オ) 隔壁13、23における中央部から、各々底面12a、22aに向かう傾斜面は平坦であって、リブの配列設置はない。
【容体1】の側面におけるラベルないしバーコード貼付領域 (カ) 平坦な傾斜面18を備えていない。
【蓋体2のラベル貼付領域】について (キ) 四周の周縁部29のうち遊端側ないしヒンジ側の周縁部29aに面する側の傾斜壁31であって、平面図の上側又は下側の横一列の凹部22のほぼ全域が略平坦な面とされている。
(ク) これに連なる底壁32(平面図において傾斜壁31の下側ないし上側に沿う)は、前記外列の凹部22の底面22aをも取り込む形で一体として形成され、これらも略平坦な面に形成されている。 (ケ) このようにして、これらの傾斜壁31と底壁32とに連なって、略平らに形成されたラベル貼付領域が設けられている。
〔イ号意匠のみ〕 (コ)-イ 傾斜壁31には菱形の底面22aに向かう直線状の細いリブ38が配列設置されているほか、その細いリブ38同志の相互間にはやはり直線状の太いリブ39が、特に傾斜壁から底壁に至るまで長く配列設置されており、その長く太いリブ39と短く細いリブ38とは均等な間隔を保つ平行状態にある。
(サ)-イ 右側の傾斜面28と左側の傾斜面28bにも、直線状の太いリブ40が2本ずつ平行に配列設置されている。
〔ロ号意匠のみ〕 (コ)-ロ 傾斜壁31と底壁32には菱形底面の角隅部に向かう長い直線リブ41が平行に配列設置されており、そのリブ41の隣り合う相互間隔には広狭変化も与えられている。 (8) そして、上記の本件登録意匠の要部に関し、イ号、ロ号意匠と本件登録意匠が異なる構成を有している部分についてみると、
ア 隔壁の帯幅が容体と蓋体では異なり、隔壁上が完全な平坦面か2本宛のリブが存在するかという差異(上記(イ))、及び隔壁における中央部から、各々底面に向かう傾斜面にリブが設置されているか平坦かという差異(上記(オ))は、隔壁が、鶏卵包装前の状態で比較的目につく場所に位置付けられていることからしても、顕著に異なる美感を与える要素となっているといえる。
イ 【容体】の側面におけるラベルないしバーコード貼付領域(上記(カ))は、本件登録意匠及び本件類似1〜7意匠すべてが備えるもので本件登録意匠の重要な特徴の一つというべきである上、鶏卵製造、販売業者にとっては、同領域の有無は鶏卵包装用容器の選択において重要な要素というべき部分である。
ウ 【蓋体のラベル貼付領域】は、鶏卵を包装した場合にとりわけ目を惹く部分であって、上記のように、リブの設置状況等が異なることに伴い、両者が異なる美感を与える要素となっている(上記(コ)-イ、(コ)-ロ)。
また、イ号意匠においては、蓋体の左右の傾斜面28、28bとも連続する略平坦な面を形作っていることも、看者の目を惹く位置にあり異なる美感を与える要素であり(上記(サ)-イ)、同傾斜面は、本件登録意匠において、容体側に設置される平坦な傾斜面18とは、設置位置が容体側か蓋体側かという大きな違いがあり同一の印象を与えるものではない。
以上を総合すると、本件登録意匠とイ号、ロ号意匠とは、菱形タイプであり、蓋体の遊端側ないしヒンジ側とそれに連なる底壁のほぼ横一列に及ぶ部分が、
ラベル貼付領域となっているという共通点を有するものの、イ号、ロ号意匠は、上記のように本件登録意匠の要部に該当する部分おいて異なる構成を備えていることにより、全体として本件登録意匠とは異なる美感を与えるものであって、両者は類似していないものというべきである。
4 以上によれば、原告らの請求は理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝