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関連審決 審判1982-8307
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審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和54ネ825 判例 特許
昭和42行ツ28審決取消請求 判例 特許
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成6オ1102商標権侵害禁止等 判例 商標
平成6オ1083特許権侵害差止等 判例 特許
関連ワード 意匠の実施 /  実施権の設定 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  法上の意匠 /  意匠が具体的 /  頒布された刊行物 /  記載された意匠 /  類似する意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  登録意匠 /  意匠の要旨 /  専用実施権 /  通常実施権 /  無効審判 / 
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事件 昭和 59年 (行ケ) 7号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1985/07/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 特許庁が昭和五七年審判第八三〇七号事件について昭和五八年一〇月三一日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決二 被告 主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「蛇口接続金具」とする、別紙(一)の図面に記載のとおりの構成からなる登録第四二八一五二号意匠(昭和四七年四月八日登録出願、
昭和五一年三月一七日設定登録、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者であるが、被告は、昭和五七年四月二六日原告を被請求人として、本件登録意匠につき登録を無効にすることの審判を請求し、昭和五七年審判第八三〇七号事件として審理された結果、昭和五八年一〇月三一日、本件登録意匠の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は同年一二月一七日原告に送達された。
二 審決の理由の要点 本件登録意匠は、意匠に係る物品を蛇口接続金具として、昭和四七年四月八日登録出願し、昭和五一年三月一七日登録になつたもので、その要旨は、雄ネジ筒と円筒部とを連設してなるもので、雄ネジ筒の内面には六角棒ハンドル挿入用の断面正六角形状の孔部を設け、円筒部の内面に雌ネジ部を設け、雄ネジ筒の直径を円筒部の直径より小とし、正面水平方向において両者の長さ比を一対一・四強とした態様と願書添付の図面及び願書の記載によつて認める。
これに対して請求人(被告)の提出した甲第一号証(審判手続における書証番号)は、一九六九年一月ボイトーフエルトリープ社(ベルリン三〇及びケルン)がドイツ国において販売した「ドイツ工業規格DIN三五二三」であつて、同刊行物は、昭和四四年七月二五日工業技術院標準部、日本工業標準調査会に受入れられ、
一般に供覧されたもので、これに記載された蛇口接続金具の意匠(図示されたもの。別紙(二)参照)の要旨は、雄ネジ筒と円筒部とを連設してなるもので、雄ネジ筒の内面には六角棒ハンドル挿入用の正六角形をずらして二個重ねた断面形状の孔部を設け、円筒部の内面に雌ネジ部を設け、雄ネジ筒の直径を円筒部の直径より小とし、正面水平方向において両者の長さ比をほぼ一対三とした態様と認める。
そこで両意匠を対比するに、両者は、雄ネジ筒と円筒部の直径に差を設け、段違い状とし、雄ネジ筒の内面に六角棒ハンドル挿入用の孔部を設け、円筒部の内面を雌ネジ部とし、正面水平方向の長さを、雄ネジ筒に対し円筒部の方を長くした基本形態について共通しており、この点は、全体的なまとまりとしての両意匠の特徴を最もよく表している点といえるから、類否の判断を支配する要部と認める。これに対し、両者は孔部の形状及び正面水平方向の雄ネジ筒と円筒部の長さ比について差異があるので審案するに、前者は、本件登録意匠の類似第一号にみられるように、
雄ネジ筒内面の端面の態様にすぎないから全体に対する影響は小さく、後者も、外観上さほど大きな差異でなく、前記甲第一号証にも字l1一四対l2二〇として本件登録意匠とほぼ同一比率のサイズも表示されていることからみても本件登録意匠の特徴とすることはできないから、結局差異点はいづれも部分的なものである。
以上述べたとおりであるから、要部において共通している両意匠は、部分的な点について差異があつても全体として類似しているものというほかない。
したがつて、本件登録意匠は、その登録出願前国内において頒布された刊行物記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し、同法同条の規定に違反して登録されたものとして、その登録は無効とする。
三 審決を取り消すべき事由 審決は、被告の不争義務違反を看過し、さらに本件登録意匠と引用刊行物記載の意匠との類否の判断を誤つたものであつて、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由(一) 被告は、本件無効審判請求後である昭和五七年七月二七日に、本件登録意匠権について、当時の専用実施権者【A】から、期間を昭和六六年三月一七日までとして通常実施権の設定を受け、昭和五七年一一月二九日その登録を了した。
ところで、被告は、右通常実施権の設定を受けたことによつて、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をすることができ、許諾者からの専用実施権侵害の追及を免れ、かつ競業者に対する優位性を取得しているのであるから、このような利益を享受しうる被告が本件登録意匠の登録の無効を主張することは信義則に反し、
許されないものというべく、右不争義務に違反する被告の本件無効審判請求は却下されるべき筋合いのものである。
しかるに審決は、被告の右不争義務違反について看過したものであつて違法である。
2 取消事由(二) 審決は、視覚によらず観念的に把握した、意匠法上の意匠でないものと本件登録意匠とを対比して、類否の判断をなしたものであつて違法である。
意匠法上の意匠は、物品の形状模様もしくは色彩またはこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから、意匠は、視覚でとらえられるものに限定され、視覚以外の五感や観念を通じてはじめて認識されるものは含まれないことは明らかである。
このことは、意匠法が、意匠登録出願に当たつては意匠を記載した図面または写真、ひな形、見本の提出を要求していること(第6条第一、第二項)からも明らかであり、特許庁における意匠審査基準(甲第一〇号証の一、二)においても、意匠登録の出願に際し、願書または図面中に文字、符号などを用いて形状等を抽象的に説明した場合には、意匠が具体的でないものとして、意匠法第3条本文の規定により登録されないものとしているのである。
右のとおりであつて、意匠法上の意匠は、文字、符号などを用いて表現することは許されず、文字、符号などを用いて表現されたものは、もはや意匠法上の意匠たりえない。
したがつて、本件登録意匠との類否の判断の対象とすべき意匠は、引用刊行物(乙第三号証、審判手続における甲第一号証、別紙(二)参照)に図示されている意匠(以下「引用意匠」という。)と同じ寸法比のものに限定されるべきである。
しかるに審決は、右引用刊行物の付表に記載されている文字と数字に基づいて、
右刊行物記載の蛇口接続金具の雄ねじ筒と円筒部の長さの比は一四対二〇であるとしてその意匠を把握したうえ、本件登録意匠と対比して類否の判断をなしたものであるから、視覚によらず、観念的に把握した、意匠法上の意匠でないものと対比したものというべく、意匠法第2条第1項及び第3条第1項第3号の規定の解釈を誤つたものである。
3 取消事由(三) 審決は、本件登録意匠と引用意匠との差異、すなわち正面水平方向の雄ねじ筒と円筒部の長さ比及び直径の比の対比について認定を誤り、その結果、両意匠の類否の判断を誤つて、本件登録意匠が引用意匠に類似するとした違法がある。
物品の形状とは、物品(物体)が空間を仕切る輪郭であるから、形状意匠の類否の判断においては、美感の共通性に影響を及ぼすべき、物品が空間を仕切る輪郭、すなわち外形形状すべてについて考慮すべきことは当然である。
したがつて、形状の意匠である本件登録意匠と引用意匠との類否の判断をなすに当たつては、その要部をなす、互いに連設した雄ねじ筒と円筒部との正面水平方向における外形、すなわち雄ねじ筒と円筒部のそれぞれの長さのみならず、その直径も対比する必要がある。
けだし、雄ねじ筒と円筒部との長さの比が同じであつても、雄ねじ筒と円筒部との直径の比、雄ねじ筒の長さと直径の比、円筒部の長さと直径の比、雄ねじ筒と円筒部を正面水平方向から見た場合の両者の面積比などの相違によつて、量感を異にし、看者に異なる美感を与えるものだからである。
ところで、本件登録意匠において、雄ねじ筒の長さと直径の比即ちL1/D1(別紙参考図に示す寸法比の記号をいう。以下、引用意匠を含め記号のみをもつて示す。)は〇・七、円筒部の長さと直径の比即ちL2/D2は〇・六七、円筒部と雄ねじ筒との長さの比即ちL2/L1は一・四三、正面水平方向から見た場合の雄ねじ筒の表面積と円筒部の表面積との比即ちS2/S1は二・一一であり、一方引用意匠において、雄ねじ筒の長さと直径の比即ちL3/D3は〇・五、円筒部の長さと直径の比即ちL4/D4は一・一五、円筒部と雄ねじ筒との長さの比即ちL4/L3は二・七七、正面水平方向から見た場合の雄ねじ筒の表面積と円筒部の表面積との比即ちS4/S3は三・三四である。
右のとおり、本件登録意匠の円筒部の長さと直径の比は〇・六七であるのに対し、引用意匠のそれは一・一五であつて、両者の比は約一対一・七と大きく相違しているので、本件登録意匠は看者に太短く剛直な感じを与えるのに対して、引用意匠は看者にそのような感じを与えず、両者は美感を異にしている。
また、前記のとおり、本件登録意匠の雄ねじ筒の長さと直径の比が〇・七であるのに対し、引用意匠のそれは〇・五であつて、その比は約一・四対一と相当異なつており、かつ前記円筒部の長さと直径の比を比較した場合とは逆に本件登録意匠の方の数値が大きくなつているので、両意匠の美観上の相違がより明確となつている。
さらに、前記のとおり、本件登録意匠の円筒部と雄ねじ筒を正面水平方向から見た場合の表面積比が二・一一であるのに対し、引用意匠のそれは三・三四であつて、その比は約一対一・四強と相当の相違があり、かつ雄ねじ筒には外周全面にねじ山を有し、円筒部は外周が平滑であることから、雄ねじ筒と円筒部との片側表面積比の相違は、看者に異なつた量感を与え、両意匠の美感が異なる傾向をさらに助長している。
さらにまた、前記のとおり、本件登録意匠の円筒部と雄ねじ筒との長さの比は一・四三であるのに対し、引用意匠のそれは二・七七であつて、両者の比は約一対一・九強と大きく相違しているので、この点も両意匠の美感を一層異ならしめている。
しかるに審決は、本件登録意匠と引用意匠における各雄ねじ筒と円筒部との直径の比、雄ねじ筒と円筒部の各長さと直径の比などについて全く対比することなく、
本件登録意匠と引用意匠との類否の判断を行つたものであつて違法である。
4 取消事由(四) 引用意匠は雄ねじ筒の外周面にねじ溝を形成していない。即ち、引用意匠につき付表の数値によつてねじ溝を有すると解することは誤りである。仮にねじ溝が形成されているとしても、そのねじ溝は形状、寸法等に種々のものが存するから、引用意匠の雄ねじ筒外周面に形成されているねじ溝がいかなる形状のものであるか特定することができない。
右のように、本件登録意匠との類否の判断に多大の影響を及ぼす引用意匠の右ねじ溝について、それが形成されていないか、形成されているとしても、一定の形状に特定できないにもかかわらず、審決は、右ねじ溝は特定の形状を有するものとして、本件登録意匠と引用意匠との類否の判断をなし、本件登録意匠は引用意匠に類似しているものとしたものであつて違法である。
被告の答弁及び主張
一 請求の原因一、二は認める。
二 同三は争う。
審決の認定、判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。
1 取消事由(一)について 被告が、原告主張日時に、主張の通常実施権の設定を受け、その登録を了したことは認める。
ところで、登録意匠につき実施許諾を受けることによつて、実施権者は、許諾者からの侵害追及を免れ、かつ競業者に対して優位性を取得することができるが、他方、原告が主張する不争義務なるものを負うことになるとするならば、無効となることが明白な登録意匠を実施した場合にも実施料支払いを継続しなければならない不利益を受け、また一般消費者も実施品購入により、価格に含まれた実施料の支払いを強要される不利益を受けることになるのであつて、右不利益は、実施許諾によつて得られる利益よりも大きいものであり、したがつて、通常実施権者の故に不争義務を負うという原告の主張は理由がないものというべきである。
また、訴外【A】と被告間で締結された、本件登録意匠の意匠権についての通常実施権許諾契約においても、原告の主張する不争義務に関する条項、本件無効審判請求を取り下げる旨の条項はなく、被告には不争義務なるものはない。
2 取消事由(二)について およそ、刊行物の記載から意匠を特定するに当たつては、図面のみならず図面の記号、文章ないしは付表の記号、数字に基づいて判断できることは当然である。
引用刊行物(乙第三号証)は、ドイツ工業規格DIN三五二三であり、その規格書が発行され、頒布される意義は、設計図のような正確な図法による形態を規格化しようとするのではなく、全体の概要を把握できる程度に図示された基本的形態に基づき、付表、記事によつて各部寸法等の重要箇所を明確に規格し、広く公衆に周知徹底を図ることにあるのであつて、付表により各部寸法を知得し、物品の現実的な形態を把握することが規格書の目的である。
してみれば、審決が、引用刊行物に記載されている図面に基づいて物品(蛇口接続金具)の基本的形態を把握し、本件登録意匠と対比するとともに、各部寸法については付表の記号、数字を参照し、その数値によつて、引用意匠との相違点を本件登録意匠の特徴ではないと認定した点に何ら誤りはない。
3 取消事由(三)について 原告が、本件登録意匠との寸法比算出の基礎としている意匠は、引用刊行物に直接図示されたものに限定し、付表の記号や数字を無視している点において、すでに類否の判断の対象を誤つている。
類否の判断の対象とすべき意匠を特定するについては、図面以外に記事等も斟酌することができるのであつて、引用刊行物の記載内容から、雄ねじ筒と円筒部の長さ比だけでなく、直径比を考慮しても、本件登録意匠とほぼ同一比率で構成された意匠を容易に把握することができる。
本件登録意匠の雄ねじ筒の直径は約二〇ミリメートル、円筒部の直径は約三〇ミリメートルであるのに対し、引用刊行物の付表には、雄ねじ筒の直径がR3/4、
すなわち約二〇ミリメートルである場合に円筒部の直径は約三二ミリメートルである旨記載されており、両意匠は視覚でとらえた場合、ほぼ同一比率で構成されているのであり、原告が主張するように雄ねじ筒と円筒部の直径を考慮しても、本件登録意匠に特徴部分は存在しない。また、蛇口接続金具は定められた種類の直径を有するパイプに接続されるものであつて、その直径寸法は自ら決定され、意匠的には重要な要素となりえないことからしても、円筒部と雄ねじ筒の直径の対比は特に必要性を有しないものである。
もつとも、審決は、雄ねじ筒と円筒部の直径を無視したわけではなく、意匠的に判断する要素としては、雄ねじ筒と円筒部の長さの比を判断することをもつて足りるとしているにすぎない。
4 取消事由(四)について 引用意匠のねじ溝の部分は、ドイツ工業規格(DIN)に定められたねじの図法に基づいて図示されたものであり、ねじ溝の形状については、引用刊行物の記事中に「DIN二五九によるウイツトワース筒ねじ」と記載されている。右ウイツトワース筒ねじがウイツトねじであることは明白である。
右のとおり、本件意匠におけるねじ溝の形状は特定されているものというべく、
原告の主張は失当である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 取消事由(一)について 被告が、昭和五七年七月二七日に、本件登録意匠権について、当時の専用実施権者【A】から、期間を昭和六六年三月一七日までとして通常実施権の設定を受け、
昭和五七年一一月二九日その登録を了したことは、当事者間に争いがない。
ところで、原告は、通常実施権者たる被告が本件無効審判の請求をなすことは信義則に反し、許されない旨主張する。
しかしながら、専用実施権者から通常実施権の設定を受けた者が、当然に、実施許諾を受けた登録意匠の登録の無効の審判を請求することができないということになると、無効事由を含むと判断される登録意匠の実施をした場合においても実施料の支払いを継続しなければならないという不利益を受けることになり、これをも甘受するものとすべき合理的理由はないから、通常実施権者であつても、右無効審判を請求することは、特段の事情のない限り、信義則に反するものではないものと解するのが相当であり、右特段の事情の存在につき主張、立証のない本件では、原告の右主張は理由がない。
2 取消事由(二)について 成立に争いのない乙第三号証によれば、引用刊行物(ドイツ工業規格DIN三五二三)には、別紙(二)記載のとおり、蛇口接続金具の正面水平方向における形状と右金具の雄ねじ筒の断面形状が図示されていること、同図には数値の表示はなく、付表に数値が記載されていることが認められる。
ところで、原告は、本件登録意匠の類否の判断の対象とすべき意匠は、右引用刊行物に図示されている意匠、即ち引用意匠と同じ寸法比のものに限定されるべきであるのに、審決は、引用刊行物の付表に記載されている数値に基づく、正面水平方向の雄ねじ筒と円筒部の長さの比により、意匠を把握して、両意匠の類否の判断をなしたものであるから、視覚によらず、観念的に把握した、意匠法上の意匠でないものと対比した違法がある旨主張する。
しかしながら、いわゆる引用意匠につき、本件のように刊行物の記載によつてその意匠を把握特定するに当たつては、図面のみならず、文章による表現を参照できるものと解するのを相当とする(意匠法第6条第4項ないし第八項参照)。そして、前掲乙第三号証によれば、本件における刊行物(同号証)はドイツ工業規格書であることが認められるところ、同号証と本件口頭弁論の全趣旨とによれば、このような規格書は、物品の形態について全体の概要を把握できる程度に図示し、この図示された基本的形態に基づいて、付表等文章によつて各部の寸法等を明確に規格したものとして作成、提示されているものと解するのが相当である。右刊行物につき、右のように解すべき妨げとなる特段の理由は見出せない。
してみれば、審決は、前記当事者間に争いのない「審決の理由の要点」の記載から明らかなとおり、本件登録意匠と対比すべき引用意匠を、引用刊行物における図面に基づいて物品蛇口接続金具の基本形態として把握して特定したうえで、その要旨を認定し、引用意匠と本件登録意匠とを対比して、その要部を認定し、両意匠の相違点の一つである正面水平方向の雄ねじ筒と円筒部の長さ比については、外観上さほど大きな差異ではなく、引用刊行物の付表の数値を参照し、この数値によつて本件登録意匠とほぼ同一比率のものが表示されていることからみても、本件登録意匠の特徴とすることはできず、右相違点は部分的なものである旨認定して、要部において共通している両意匠は全体として類似しているものと認定、判断したものであるから、誤りはない。
原告が提出する成立に争いのない甲第一六号証は、本件と事案を異にし、適切でない。
なお、原告は、意匠は文字、符号などで特定することは許されない旨の主張の根拠を、甲第一〇号証の一、二(意匠審査基準)にも求めているが、同号証中2・(4)の記載は、意匠を、願書又は図面中に文字、符号などを用いて形状模様及び色彩に関して説明をすることができることを前提に、その説明が抽象的であつて意匠の特定ができない場合をもつて登録をすることができない一例としていると解すべきものであつて、およそ意匠の特定に当たつて図面以外の文字、符号を用いてはならないことを意味するものではない。
よつて、原告の(二)の主張は採用することができない。
3 取消事由(三)について 前掲乙第三号証、成立に争いのない甲第五号証によれば、本件登録意匠、引用意匠はともに、蛇口接続金具に関するものであつて、本件登録意匠の要旨は、雄ねじ筒と円筒部とを連設してなるもので、雄ねじ筒の内面には六角棒ハンドル挿入用の断面正六角形の孔部を、円筒部の内面に雌ねじ部をそれぞれ設け、雄ねじ筒の直径を円筒部の直径より小とし、正面水平方向において両者の長さ比を一対約一・四三としたものであり、引用意匠の要旨は、雄ねじ筒と円筒部とを連設してなるもので、雄ねじ筒の内面には六角棒ハンドル挿入用の正六角形をずらして二個重ねた断面形状の孔部を、円筒部の内面に雌ねじ部をそれぞれ設け、雄ねじ筒の直径を円筒部の直径より小とし、正面水平方向において両者の長さ比を一対約二・七七としたものと認められる。
そこで、両意匠を対比するに、両者はともに、基本的形態において、その内面に六角棒ハンドル挿入用の孔部を設けた雄ねじ筒とその内面に雌ねじ部を設けた円筒部とを連設し、雄ねじ筒の直径は円筒部の直径より小であつて、段違い状となし、
正面水平方向の長さは雄ねじ筒に対し円筒部の方を長くした構成であつて、両意匠は、この点において共通しているということができ、各共通点は蛇口接続金具の意匠として全体的なまとまりを形成すべきものであることは明らかであるから、右基本的構成態様は、看者の注意を惹くものであつて、両意匠の要部をなすものと認めるのが相当である。
ところで、本件登録意匠と引用意匠は、正面水平方向における雄ねじ筒と円筒部との長さ比に前記認定のとおりの差異があり、また、前掲甲第五号証、乙第三号証によれば、両意匠の雄ねじ筒の長さと直径の比、円筒部の長さと直径の比などについて原告主張のとおりの差異があることが認められるけれども、雄ねじ筒の長さと直径の比に関する両意匠の差異はさしたるものとはいえず、右乙第三号証によれば、引用刊行物の付表には、円筒部の長さ二〇ミリメートル対直径三二ミリメートル、あるいは長さ二五ミリメートル対直径三九ミリメートルなる本件登録意匠におけるそれと僅かの違いがあるにすぎない比率となる寸法も表示されており、雄ねじ筒と円筒部との直径の比についても、本件登録意匠におけるそれと僅かの違いがあるにすぎない比率のもの(雄ねじ筒の直径二〇ミリメートル対円筒部の直径二七ミリメートル)が表示されていることを認めうることなどからすると、本件登録意匠の雄ねじ筒及び円筒部の各長さ及び直径の数値、そしてそれらの各比率は、引用意匠との対比において、本件登録意匠の特徴とすることはできないから、本件登録意匠と引用意匠の前記差異は部分的なものにすぎず、前記のとおり要部において共通している両意匠は、全体として類似しているものというのを相当とする。
したがつて、審決が、本件登録意匠と引用意匠における各雄ねじ筒と円筒部との直径の比、雄ねじ筒と円筒部の各長さと直径の比など原告主張の点が両意匠の差異としてこれらを対比することなく、両意匠の類否の判断を行つたことには、結局何ら違法はなく、原告の(三)の主張は理由がない。
4 取消事由(四)について 原告は、引用意匠は雄ねじ筒の外周面にねじ溝を形成していないと主張し、その理由として、引用意匠につき付表の数値によつてねじ溝を有すると解することは誤りであると述べる。然しながら、引用意匠につき本件のように刊行物の記載によつてその意匠を把握特定するに当たつては、図面のみならず付表等文章による表現を参照できると解するのを相当とすること、及び本件における刊行物(前掲乙第三号証)がドイツ工業規格書であつて、同刊行物に図示された基本的形態に基づいて付表等文章によつて各部の寸法等を明確に規格したものとして作成、提示されていると解すべきものであることは前説示のとおりであり、しかして、同号証の記載と本件口頭弁論の全趣旨とによれば、引用意匠のねじ溝の部分は、右のドイツ工業規格に定められたねじの図法に基づいて図示されたものであることが認められるので、
してみれば、引用意匠は、雄ねじ筒の外周面にねじ溝を形成していると解することができるから、原告の右主張は採ることができない。
そして、前掲乙第三号証によれば、引用刊行物の記事中に、引用意匠のねじについて、「DIN二五九によるウイツトワース筒ねじ」と記載されていることが認められ、この事実によれば、右記載によつてねじ溝の形状は特定されているものと認めることができる。原告が提出する成立に争いのない甲第一二号証は本件と事案を異にし適切でないし、同様甲第一五号証の一、二によつても右認定を左右するに至らない。
したがつて、原告の(四)の主張も理由がない。
なお、ねじ溝の形状は、類否の判断を支配する要部とは認められないから、審決が、ねじ溝の形状について、両意匠の類否の判断の要部としなかつたことに誤りはないものというべきである。
以上のとおりであつて、審決には、原告主張の誤りはない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判断する。
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一