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関連審決 不服2001-8909
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  類似の意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 172号 審決取消請求事件
原告 株式会社日研工作所
訴訟代理人弁理士 原田信市
同 原田敬志
同 門間正一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 藤木和雄
同 藤正明
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/19
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2001−8909号事件について平成16年3月12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年12月20日に,意匠に係る物品を「エンドミル」として,別紙審決書写しの別紙第一の意匠(以下「本願意匠」という)の意匠登録出願(平成11年意匠登録願第35093号,以下「本件出願」という。)をしたところ,平成13年4月18日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月25日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-8909号として審理し,その結果,平成16年3月12日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月2日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願意匠は,昭和63年8月26日に公開された実開昭63-131313号の公開実用新案公報の第1図に示されたエンドミルの意匠(審決書別紙第二の意匠。以下「引用意匠」という。)に類似するものであり,意匠法3条1項3号の規定により,意匠登録を受けることができないものである,と判断した。
審決が,その前提として,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点として認定したところは,次のとおりである。
【共通点】 「(1) 円柱軸状部(シャンク部)と,これより一回り大径の切削部から成り,切削部外周には螺旋状外周刃を4本形成し,切削部先端には,4個の底刃と4個の切欠部とを形成した全体の基本的な構成。
(2) 外周刃の態様について,緩やかなピッチの波頭状に形成し,その先端に底刃を形成している点。
(3) 底刃の態様について,相対する底刃を互いに点対称形に形成すると共に,その先端部を三角形状に形成し,4個の底刃を略風車翼状に配列している点。
(4) 切欠部の態様について,各底刃間にそれぞれ1個形成すると共に,全体を風車翼状の位置に配列している点。」(以下「共通点(1)」,「共通点(2)」などという。) 【差異点】 「(イ) シャンク部の態様において,本願意匠は,その全長が切削部に比してやや長く,シャンク部端部に浅い切欠部を形成しているのに対し,引用意匠は,切削部とほぼ同程度の長さとし,シャンク部端部の切欠部の有無が不明である点。
(ロ) シャンク部と切削部の連結部の態様について,本願意匠は,切削部基部は水平で当接面が形成されているのに対し,引用意匠は,この点の態様が明確でない点。
(ハ) 底刃の態様において,本願意匠は,底面視の底刃先端形状は略鏃状で,側面視の外周部は隅丸状に形成されているのに対し,引用意匠は,底面視略扁平長方形状に形成され,側面視の外周部は角張って形成されている点。」(以下「差異点(イ)」,「差異点(ハ)」などという。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,共通点(2)ないし(4)の認定あるいは差異点(イ)及び(ハ)の認定を誤ったことにより差異点を看過し(取消事由1,2),また,上記のとおり差異点を看過した上,差異点の判断に当たり,差異点(イ)及び(ハ)を過小に評価する一方で共通点を過大に評価し,その結果,本願意匠と引用意匠とが類似するとの誤った結論に至ったものである(取消事由3)から,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(共通点の認定の誤りによる差異点の看過) (1) 共通点(2)の認定について 本願意匠の螺旋状外周刃1ないし4(以下,本願意匠に付した番号ないし符合については別紙図面のとおりである。)が,捻れ度を略135°と大きくすることにより,その傾斜度合いを緩くするとともに各刃のピッチを比較的狭くし,かつ,底刃1’ないし4’との連繋部分を円弧状にしている形態は,審決がいう引用意匠の上記外周刃の態様と明確に相違する。したがって,これらの態様を含めて,共通するとしていることになると認められる審決の上記共通点(2)の認定は,概括的にすぎ,誤りである。
(2) 共通点(3)及び(4)の認定について 本願意匠の底刃において,対向する一対の底刃1’と3’は各底面形状が扁平T形(略翼形)をなしているとともに,対向する他の一対の底刃2’と4’は各底面形状が変形三角形(略鏃形)をなしているのに対し,引用意匠の底刃において,4個の底刃(各2個の長刃及び短刃)は各底面形状がいずれも細長四角形すなわち短冊形をなしている。したがって,両者の底刃の態様及び底刃の間の空処及び切欠部の態様は格段に相違する。審決が,共通点(3)及び(4)において,本願意匠の上記底刃の態様をもって「4個の底刃を略風車翼状に配列している」とし,また,上記空処の態様をもって「全体を風車翼状の位置に配列している」とすることは,本願意匠を不正確に認定したことによるものであり,誤りである。
2 取消事由2(差異点の認定の誤りによる差異点の看過) 審決は,本願意匠と引用意匠との次の差異点を看過したものである。
(1) 差異点(イ)の認定について 本願意匠と引用意匠とは,a)切削刃体(切削部)がその直径と長さの比を約1:1.5と約1:1.2としていること,b)シャンク(シャンク部)が先細であるのとそうではないこと,c)これら切削刃体(切削部)とシャンク(シャンク部)とが,その直径比を約1:0.7と約1:0.73,長さ比を約1:1.6と約1:0.95としていること,さらに,d)シャンク(シャンク部)の側面に平坦面を形成しているのと形成していないこと,の各点において具体的に相違するものである。審決はこれらの差異点を看過している。
(2) 差異点(ハ)の認定について 本願意匠において,螺旋状外周刃1ないし4は,捻れ度を略135°とするとともに,底刃1’ないし4’との連繋分を円弧状(審決の「隅丸状」)にし,かつ,これらの底刃1’ないし4’は,対向する一対の底刃1’と3’が,各底面形状を扁平T形(略翼形)にするとともに,互いの内端内尖部を円柱状切削刃体aの下面中心点oで連続する長刃をなし,また,対向する他の一対の底刃2’と4’が,各底面形状を変形三角形(略鏃形)にすると共に,互いの内端内尖端を上記中心点oから後退した位置で上記底刃1’と3’の内端外尖部に近接する短刃をなしている。
これに対し,引用意匠において,螺旋状外周刃は,捻れ度を90°強にしているにすぎないとともに,底刃との連繋部分を鋭角形状(審決の「角張って形成されている」)にし,かつ,その各底刃(各2個の長刃及び短刃)は各底面形状をいずれも扁平長方形状すなわち短冊形にしている。
すなわち,本願意匠と引用意匠とは,a)螺旋状外周刃の傾斜度合を,前者は緩くするとともにそのピッチを狭くし,後者は急にするとともにそのピッチを広くしていること,b)螺旋状外周刃と底刃との連繋部分を,前者が円弧状(隅丸状)にしているのに対し,後者が鋭角形状(角張っている形状)にしていること,c)4個の底刃の形状を,前者が,対向する一対を扁平T形(略翼形)にし,対向する他の一対を変形三角形(略鏃形)としているのに対し,後者が,いずれをも扁平長方形状すなわち短冊形にしていること,d)これら底刃の形状の差異に伴って,その各間に形成される空処(切欠部)の形状が相異なるものとなること,の各点において具体的に相違するものであり,審決はこれらの差異点を看過したものである。
3 取消事由3(差異点についての判断の誤り) (1) 全体の基本的構成について 審決は,「全体の基本的な構成についての共通点(1)は,両意匠の形態全体を支配する骨格的な態様に係り,外周刃及び底刃の態様についての共通点(2)及び(3)と相まって両意匠の基調が形成され,これに切欠部の態様についての共通点(4)が加わることにより両意匠に強い類似感をもたらしているものと認められる。」(審決書2頁3段)と判断した。
しかしながら,審決の上記判断は,概念的ないし抽象的にすぎ,本願意匠と引用意匠の基本的態様を具体的に特定し比較していないことに帰する。その上,審決が指摘する共通点(2)ないし(4)は上記のとおり誤った認定に基づくものである。
本願意匠と引用意匠とは,本願意匠が,周面に4本の螺旋状外周刃1ないし4を等間隔に配置し,その各下端を下面に延長して底刃1’ないし4’とし,かつ,その底刃1’ないし4’の各間を空処としてなる切削刃体aの上面にシャンクbを一体に連設してなることと,引用意匠が,「円柱軸状部(シャンク部)とこれより一回り大径の切削部から成り,切削部外周には螺旋状外周刃を4本形成し,切削部先端には,4個の底刃と4個の切欠部とを形成した全体の基本的な構成」(共通点(1))とで,互いの基本的態様を共通にしているにすぎないものであり,この基本的態様の共通性の故に両意匠に類似の美感をもたらすことはない。
(2) 差異点(イ)について 審決は,「シャンク部の態様についての差異点(イ)は,この種物品において,シャンク部と切削部の比率については従来より種々の態様が見られるところであり,また,シャンク部端部に浅い切欠部を設けることもごく普通のことであるから,いずれも両意匠の特徴とは言えず,その類否判断上の影響も微弱である。」(審決書2頁4段)と判断した。
しかし,審決による差異点(イ)の認定そのものが,不十分にしてかつ誤りのあるものであることは,上記のとおりである。取消事由2(1)で指摘した差異点a)ないしd)が相まって醸し出し,看者に与える印象は,格段に異なるものである。
(3) 差異点(ハ)について 審決は,「底刃の態様についての差異点(ハ)は,両意匠全体から見れば局限された部分のわずかな差異にとどまり,共通点(1)及び(3)に基づく両意匠の類似感に優越する程のものとは認められず,類否判断上の影響は微弱である。」(審決書2頁4段)と判断した。
しかし,審決による差異点(ハ)の認定そのものが,不十分にしてかつ誤りであることは上記のとおりである。すなわち,本願意匠と引用意匠とは,a)螺旋状外周刃と底刃との連繋部分を,前者が円弧状(隅丸状)にしているのに対し,後者が鋭角形状(角張っている形状)にしていること,b)4個の底刃の形状を,前者が,対向する一対を扁平T形(略翼形)にし,対向する他の一対を変形三角形(略鏃形)としているのに対し,後者が,いずれをも扁平長方形状すなわち短冊形にしていること,c)これら底刃の形状の差異に伴って,その各間に形成される空処(切欠部)の形状が相異なるものとなること,の各点においても具体的に相違し,これらの差異点が相まって醸し出し,看者に与える印象が全く相違することは,明らかである。
「エンドミル」が属する特殊精密加工分野における製造業者・取引者・需要者(以下「当業者」という。)にとって,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(すなわち切削刃体(切削部)の底部外周部)の態様及び底刃自体の態様が,当該切削加工上きわめて重要なことであり,これらの態様については微細な差異を正確に判別する必要があり,当業者であればその判別力を備えているのが普通であることからすると,上記相違点a),b)が看者にもたらす印象は,当業者である看者にとって,その類否判断上の影響が微弱であるなどとは到底いい得ない。
また,本願意匠に係る「エンドミル」は,上記のように,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分すなわち切削刃体の底部外周部を円弧状(隅丸状)にしていることから明らかなとおり,例えば掘削凹処の底隅部を円弧状に切削するのに使用されるのに対し,引用意匠に係る「エンドミル」は,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分すなわち切削部の底部外周部を角張った状態にしていることから明らかなとおり,例えば掘削凹処の底隅部を直角等の角張った状態に切削するのに使用されるもので,両者は,当該部位の切削形状により使い分けられることになるのであり,その見極めを,切削刃体(切削部)の底部外周部の形状,すなわち円弧状であるか角張った状態であるかにより,簡単にかつ確実に行うことができる。
このことは,両者がその具体的目的,用途ないし効果を異にし,しかも,両意匠の側面視の形状のみからしても,互いを混同することなく明確に区別できる別個の意匠であることの証左でもあり,これと相違する審決の上記判断が誤りであることは明らかである。
被告の反論の要旨
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(共通点の認定の誤りによる差異点の看過)について (1) 共通点(2)の認定について エンドミルの刃形は,切削目的等により刃数,刃形,ねじれ角,ピッチ等に様々な態様が見られるところ(乙1号証の128ないし129頁参照),本願意匠も引用意匠も,シャンク部より大径の4本の外周刃を形成し,その各刃頂部は,正面視において(本願意匠においては正面図,引用意匠においては第3図及び第1図),緩やかな角度(軸中心線に対して浅い角度)で右上端から左下端に達しているから,審決が共通点(1)において「一回り大径の切削部から成り,切削部外周には螺旋状外周刃を4本形成し」と認定し,共通点(2)において,「外周刃の態様について,緩やかなピッチの波頭状に形成し」と認定していることに格別の誤りはない。
(2) 共通点(3)及び(4)の認定について 本願意匠も引用意匠も,対向する底刃は,シャンク部の軸心を中心に互いに点対称形に形成され,軸心寄りのその各先端部は,三角形状に角張っており,その配置は,軸心を中心に放射状に配置しているのではなく,各底刃の先端がわずかにずれて,軸心を中心に回転しているように配置されているから,審決が両意匠の共通点として,「相対する底刃を互いに点対称形に形成すると共に,その先端部を三角形状に形成し,4個の底刃を略風車翼状に配列している」と認定したことに格別の誤りはない。また,各刃間に形成された空処,切欠部も,その形状及び配置については,底刃と同様であるから,「全体を風車翼状の位置に配列している」と認定した点についても格別の誤りはない。
2 取消事由2(差異点の認定の誤りによる差異点の看過)について (1) 差異点(イ)の認定について 意匠の類否を判断するための形態の比較は,必ずしも厳密な数値によって行わなければならないというものではなく,また,意匠を表した図面は設計図面とは自ずからその目的を異にするものである(引用意匠が記載された技術的文献である公開実用新案公報も,その意味から適宜補う等して意匠的に把握することが必要である。)。加うるに,本願意匠は比較的小さいものであるから(直径約10mm位で高さが約35mm位),切削刃体の直径と長さ,シャンク各部の直径と全長等の比率の差は,視覚的にさほど目立つほどのものとは考えられない。したがって,審決がシャンク部と切削部の比率について,「本願意匠は,その全長が切削部に比してやや長く・・・引用意匠は,切削部とほぼ同程度の長さとし」と認定したことに格別の誤りはない。
(2) 差異点(ハ)の認定について (a) 外周刃のねじれ度について 本願意匠の外周刃の傾斜角は水平線に対し130°ないし135°程度であるのに対し,引用意匠は100°ないし120°程度(ねじれ角としては,本願意匠40°ないし45°程度に対し,引用意匠は略10°ないし30°程度である。)であって,全体の螺旋状の態様として見る場合は,その差異はさほど大きいものではない。また,ピッチについても,その差はごくわずかである。両意匠は,その傾斜角やピッチの広狭に差異があるとしても,それは外周刃に正対して熟視する場合に認められる差異であって,通常観察される本願意匠の斜視図や引用意匠の斜視図において全体として観察する場合は,その差異は,全体形状の共通性に希釈されるものであるだけでなく,上記差異点は,ひとえに切れ味や切りくずの態様等その機能的技術的意味合いに基づくものであって,意匠的効果を意図したものでないことは明らかであるから,意匠的効果を検討する両意匠の類否判断の際の要素としては格別評価できない。そして,両意匠の共通点及び差異点は,類否判断に必要な範囲で認定すれば足りるから,原告主張の上記差異点について審決が特に言及しなかったとしても誤りとはいえない。
(b) 外周刃と底刃との連繋部分について 本願意匠の前記のような大きさを考慮すれば,外周刃と底刃との連繋部分に関する差異はごく微細なものにとどまり,また,切削箇所の隅部をいかに形成するかに係わる主として機能的な差異であるから,上記(a)と同様に,両意匠の類否判断上の要素としては格別評価できない。
(c) 底刃の形状について 本願意匠も引用意匠も右ねじれ刃であり,底面図(引用意匠においては第2図)において左回転する場合の前部刃面は,ほぼ直線状で共通する。ただ,その後部は,底刃と底刃間の切欠部(空処)の形状や外周刃との連結態様に伴う差異があるものの,それは切りくずの形状等や,切削箇所の隅部形状のいかんに係わる機能的な要請に基づくものであるから意匠的効果を目的とするものではなく,また,原告の主張する上記差異は,全体からみて局限された端面に係わるものであり,その大きさをも考慮に入れるならば,その視覚的効果は大きいとはいえないから,その差異を意匠上格別評価することはできない。
本願意匠の底面についていうなら,切削効率や切りくずの排出方法,切削箇所の形状等の技術的課題を検討し,その機能的目的に沿って底刃の形状及び底刃間の切欠部の形状等を決定すると共に,その技術的,機能的条件の下で,シャンク部より一回り大径の切削部を形成し,4個の緩やかな螺旋状外周刃を形成し,外周刃の延長端に底刃を設け,相対する底刃を点対称形とし,その先端を三角形とし,各底刃間に切欠部を1個設け,底刃及び切欠部を略風車翼上に配置するなどして,エンドミルの一つのまとまりある形態として完成した点に意匠的,造形的配慮が認められるのである。しかし,その点については,既に引用意匠に共通の態様が見られるのであるから,本願意匠の態様は新規な態様ということができない。
3 取消事由3(差異点についての判断の誤り)について (1) 全体の基本的な構成について 審決は,共通点(1)が,両意匠の共通点のうちの「全体の基本的な構成」に係わるものであり,両意匠の形態の基本的骨組をなすものであるから,より具体的な態様である共通点(2)ないし(4)と区別して「骨格的な態様」と認定したのであり,また,「骨格的な態様」である共通点(1)と具体的な態様である共通点(2)及び(3)が一体不可分なものとして結合し醸し出される共通の形態のまとまり感,意匠上の美感を「両意匠の基調」と認定し,それらに底刃間の切欠部の態様の共通性が加わることにより,両意匠間に形態上の強い類似感をもたらしていると認定,判断したものである。
(2) 差異点(イ)について 差異点(イ)は,審決が述べるように,本願意匠及び引用意匠に特有の態様ではないから目を引くような新規な態様ということができず(乙2号証ないし5号証参照),エンドミルの当業者にとっては,この分野で普通に見られる態様の中から適宜選択した程度のものにすぎなく,目立って印象に残るようなものではないから,両意匠の形態の大きな部分を占め,そのまとまり感,美感に大きく貢献している共通する全体の基本的な構成や外周刃,底刃,底刃間の切欠部における共通の態様を差し置いて,差異点(イ)が両意匠の類否判断を左右する程のものとは認められない。
(3) 差異点(ハ)について (a) 両意匠の底刃についての差異点は,両意匠全体から見れば限られた部分の,主として機能的目的に伴う差異であって,底刃の形状は,その全体の大きさやエンドミルという物品の性質上,純粋に視覚的効果を狙い,意匠上の美感を意図したものでないことは明らかであり,そのような機能的意図が鮮明であるものを意匠的創作として主張しようとすることに本来無理があるのである。意匠上評価すべきは,審決でいう全体の基本的な構成や,各部の形状及び配置等の意匠的な具体的態様であって,両意匠は,それらによってもたらされる造形上のまとまり感,意匠的統一感において共通するから,類似といわざるを得ない。
(b) 原告は,エンドミルが属する分野の当業者は底刃の微細な差異を判別し得ると主張する。しかし,それは機能上の差異として判別しているのであって,意匠上の評価に基づくものではない。したがって,機能上の差異を判別し得るからといって,直ちに両意匠が類似でないということにはならない。
(c) 原告は,本願意匠の外周刃と底刃との連繋部分は,掘削凹処の底隅部を円弧状に切削するのに対し,引用意匠は,角張った状態に切削するものであるから,目的,用途ないし効果を異にし,互いを混同することがないと主張する。
しかしながら,両意匠の外周刃と底刃との連繋部分は,全体からみれば局所的部分であり,両意匠の独自の特徴ある態様でもないから(乙5号証,乙7,8号証参照),その差異は,目立つものとはなり得ない。互いを混同することがないのは,切削する刃の機能を異にするからであって,意匠的評価においては両意匠は共通する。原告の主張は,機能的評価と意匠的評価を混同するものであって失当である。
(d) 本願意匠は,図面上,底刃は底面図でしか表されず,斜視図においても左上方からのシャンク,外周刃しか表されていず,下方からの斜視図は提出されていない。本件出願前の平成11年1月1日から,意匠の特徴を記載した特徴記載書を任意に提出することができることとなった(意匠法施行規則6条)ものの,本願意匠については意匠の特徴の記載がなく(甲2号証の1),審判請求書の請求の理由においても,底刃の態様については特に言及がないこと(乙6号証参照)からすれば,底刃の態様が本願意匠の主要な特徴でないことは,原告も認めていることである。
当裁判所の判断
1 取消事由3(差異点についての判断の誤り)について (1) 差異点(ハ)の認定について 審決は,本願意匠と引用意匠の底刃と切欠部の態様について,前記のとおり,共通点(3)を「底刃の態様について,相対する底刃を互いに点対称形に形成すると共に,その先端部を三角形状に形成し,4個の底刃を略風車翼状に配列している点。」とし,同(4)を「切欠部の態様について,各底刃間にそれぞれ1個形成すると共に,全体を風車翼状の位置に配列している点。」と認定した上で,差異点(ハ)を「底刃の態様において,本願意匠は,底面視の底刃先端形状は略鏃状で,側面視の外周部は隅丸状に形成されているのに対し,引用意匠は,底面視略扁平長方形状に形成され,側面視の外周部は角張って形成されている点。」と認定した。
しかし,本願意匠と引用意匠とを対比すれば,少なくとも差異点(ハ)については「底刃の態様において,本願意匠は,底面視の底刃先端形状は対向する一対を扁平T形(略翼形)にし,対向する他の一対を変形三角形(略鏃形)とし,また,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(外周部)が隅丸状に形成されているのに対し,引用意匠は,底面視略扁平長方形状すなわち短冊形に形成され,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(外周部)は角張って形成されている点,及び,これら底刃の形状の差異に伴って,その各間に形成される空処(切欠部)の形状が相異なる点。」と認定すべきであり,審決の差異点(ハ)の認定は,やや概括的であり具体性に欠ける点で不十分なものとなっている。もっとも,意匠の類否の判断における差異点の認定の誤り(看過)は,差異点の判断において当該差異点を看過して判断したとみられる場合と,当該差異点を微細な差異と判断し,これを差異点として明示的に指摘しなかっただけで,差異点の判断において当該差異点を考慮して判断しているとみられる場合とが考えられ,後者の場合は,差異点の看過があるとみることはできないことは当然である。本件においても,審決の差異点の認定において上記のとおり不十分な点があったとしても,このことから直ちに審決が両意匠の類否の判断において,差異点を看過したとみることは相当ではないから,上記の差異点も斟酌した上で,審決の両意匠の類否についての全体的な判断が誤りかどうかを判断することとする。
(2) 差異点についての判断について 審決は,本願意匠と引用意匠との類否について,「全体の基本的な構成についての共通点(1)は,両意匠の形態全体を支配する骨格的な態様に係り,外周刃及び底刃の態様についての共通点(2)及び(3)と相まって両意匠の基調が形成され,これに切欠部の態様についての共通点(4)が加わることにより両意匠に強い類似感をもたらしているものと認められる。」(審決書2頁3段)とした上で,「底刃の態様についての差異点(ハ)は,両意匠全体から見れば局限された部分のわずかな差異にとどまり,共通点(1)及び(3)に基づく両意匠の類似感に優越する程のものとは認められず,類否判断上の影響は微弱である。」(審決書2頁4段)と判断した。
しかし,差異点(ハ),すなわち,底刃と空処の形状及び螺旋状外周刃と連繋部分の形状において,本願意匠は,底面視の底刃先端形状は対向する一対を扁平T形(略翼形)にし,対向する他の一対を変形三角形(略鏃形)とし,また,各底刃間に底刃の形状に応じた空処が形成され,さらに,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(外周部)が隅丸状に形成されているのに対し,引用意匠は,底面視略扁平長方形状すなわち短冊形に形成され,また,各底刃間に底刃の形状に応じた切欠部が形成され,さらに,螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(外周部)は角張って形成されている点は,本願意匠と引用意匠との類否判断において重要な部分であり,本願意匠について,全体として,引用意匠とは相異なる美感ないし美的印象を醸し出しているものというべきである。
すなわち,「エンドミル」が属する特殊精密加工分野における当業者にとって,底刃と切欠部の形状及び螺旋状外周刃と底刃との連繋部分(外周部)の形状は,エンドミルの種類,タイプ,性能を見る上で切削加工上きわめて重要な部分であることからすれば,これらの形状についてはその差異を正確に判別する必要があり,取引に当たって,これらの形状に注目することは当然である。上記差異点(ハ)がこれらの当業者にもたらす印象は,エンドミルの意匠全体の美感において重要な影響を与えるものというべきである。エンドミルのような機能的物品については,物品の性質上,重要な機能を営む部分は,当業者の注意を引きつける部分となりやすく,特にその部分の意匠が新規あるいは特徴のある意匠である場合には,物品全体の意匠においても,看者の注意を引きつける重要な部分となるのである。本願意匠における各底刃と各底刃間の空処の形状と態様及び螺旋状外周刃と底刃との円弧状の連繋部分の形状が,引用意匠における形状と上記のとおり異なるものである以上,その部分の形状の差異(差異点(ハ))が,意匠全体の類否判断においてもたらす影響は大きく,これを微弱であるとみることはできない。
被告は,両意匠について,底刃と底刃間の切欠部(空処)の形状や外周刃との連結態様に伴う差異があるものの,それは切りくずの形状等や,切削箇所の隅部形状のいかんに係わる機能的な要請に基づくものであるから意匠的効果を目的とするものではなく,また,原告の主張する上記差異は,全体からみて局限された端面に係わるものであり,その大きさをも考慮に入れるならば,その視覚的効果は大きいとはいえないから,その差異を意匠上格別評価することはできない,と主張する。
しかし,両意匠の底刃と底刃間の切欠部(空処)の形状や外周刃との連結態様の差異が,機能的な要請に基づくものであり,機能的差異を生じるとしても,同時に,その意匠的効果に差異が生じることがあることは当然であり,むしろ,その物品において重要な機能的効果をもたらす部分の形状が新規あるいは特徴のある意匠である場合には,その部分が意匠的にも当業者に注目されることがあることは上記のとおりである。単に機能的な要請に基づくものであることを理由として,当該部分の差異を両意匠の類否判断要素として評価できないとすることはできない。
被告は,両意匠の底刃についての差異点は,両意匠全体から見れば限られた部分の,主として機能的目的に伴う差異であって,底刃の形状は,その全体の大きさやエンドミルという物品の性質上,純粋に視覚的効果を狙い,意匠上の美感を意図したものでないことは明らかであり,そのような機能的意図が鮮明であるものを意匠的創作として主張しようとすることに本来無理がある,とも主張する。しかし,両意匠の底刃の形状についての差異点は,両意匠全体から見ても,当業者が注目する部分の意匠について生じている差異であることは上記のとおりであり,また,機能的目的に伴い生じた差異であるとしても,意匠全体に与える美感に影響を与えるものであることも上記のとおりである。
被告は,本件出願前の平成11年1月1日から,意匠の特徴を記載した特徴記載書を任意に提出することができることとなった(意匠法施行規則6条)ものの,本願意匠については意匠の特徴の記載がなく,審判請求書の請求の理由においても,底刃の態様については特に言及がないことからすれば,底刃の態様が本願意匠の主要な特徴でないことは,原告も認めていることである,と主張する。しかし,意匠の特徴記載書は,特許庁における審査・審判の迅速化を図ることを主目的として設けられたものであって,その提出は任意であること,また,登録意匠の範囲を定める場合には,特徴記載書の記載を考慮してはならないこと(意匠法施行規則6条3項)からすれば,特徴記載書の提出がないことから,底刃の態様が本願意匠の主要な特徴でないとする被告の主張が採用し得ないものであることは明らかである。
(3) 以上に検討したところによれば,本願意匠と引用意匠とは,エンドミルが属する分野における当業者に対し全体として異なった美的印象をもたらす非類似の意匠というべきであり,両意匠の共通点が差異点を凌駕するとして両意匠を類似するとした審決の判断は誤りである,といわざるを得ない。
2 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由3には理由があり,原告の本訴請求は理由がある。
よって,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁