審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 部品 / 形態の同一性 / 独占的排他権 / 損害賠償 / 特許権 / 実用新案権 / 類似性(類否判断) / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
15年
(ネ)
6117号
損害賠償請求控訴事件
|
---|---|
控訴人 株式会社クレント 控訴人 株式会社エルミーダイム 控訴人 株式会社ブレスト 3名訴訟代理人弁護士 渡部照子 同 井上直子 被控訴人 エステー化学株式会社 訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同 宮嶋学 同 弁理士 三好千明 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/05/31 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人株式会社クレント(以下「控訴人クレント」という。)に対し,102万9035円及びこれに対する平成14年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人株式会社エルミーダイム(以下「控訴人エルミーダイム」という。)に対し,102万9035円及びこれに対する平成14年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人は,控訴人株式会社ブレスト(以下「控訴人ブレスト」という。)に対し,1000万円及びこれに対する平成14年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 6 仮執行宣言 |
|
事案の概要
控訴人クレント及び控訴人エルミーダイムは,後記本件意匠権の共有者,控訴人ブレストは,その実施品である原判決別紙原告商品目録記載の換気口用フィルタ(商品名「エリア」,以下「控訴人商品」という。)を製造,販売している者であり,被控訴人は,原判決別紙被告商品目録記載の通気口フィルター(商品名「エアクリーン」,以下「被控訴人商品」という。)を製造,販売している者である。 本件は,控訴人クレント及び控訴人エルミーダイムが,被控訴人に対し,被控訴人商品を製造,販売する行為は,主位的に意匠権侵害に,予備的に民法709条所定の不法行為に該当するとして損害賠償を求め,控訴人ブレストが,被控訴人に対し,被控訴人が被控訴人商品を販売する行為は,主位的に不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に,予備的に民法709条所定の不法行為に該当するとして損害賠償を求めた事案であり,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決に対し,控訴人らがその取消しを求めて控訴した。 本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。 1 控訴人ブレストの主張 (1) 被控訴人商品の欠陥商品性について(争点(2)及び(3)関係) ア 被控訴人商品は,控訴人商品と同様,マンション等の給気口に設置することにより,外気中に浮遊する粉塵,花粉等が室内に流入することを防止することを目的としている。設置が予定されるマンション等の給気口の材質は,プラスチック製,スチール製,アルミ・ステンレス製とあり,その大きさも多様である。 被控訴人は,「丸型通気口専用」,「直径125mm〜212mmまでの通気口に使用できます」とその商品の包装紙表面に記載し(甲4),また,「一般的な家庭のほとんどの通気口に対応しています」とも宣伝している(甲4,5)から,消費者は,これらの記載等から,一般的な家庭の通気口である自己の居宅に設置してある通気口に設置可能であると判断して被控訴人商品を購入する。しかしながら,上記記載等は,いわば虚偽記載と同然であって,控訴人らの調査によれば,良好な状態で被控訴人商品を設置可能な通気口は半分以下である(甲54,55,62,検5〜7)から,被控訴人商品は,上記記載等とは異なり,「一般的な家庭のほとんどの通気口に対応していない」ということができる。 イ 控訴人商品は,それまで世の中になかった新規商品であり,控訴人らの努力の結果,一般的なマンションのほとんどの給気口に対応する商品として完成し,多くの新聞,雑誌等にも紹介され,その売上を順調に伸ばしていた。しかし,大企業である被控訴人が,平成14年1月24日以降,初年度販売目標100万個を掲げ,低価格で,被控訴人商品の販売を開始した結果,控訴人商品の売上が激減した。 そればかりでなく,被控訴人商品が上記アのような欠陥商品であったことから,控訴人らの努力によって築いてきた当該商品カテゴリーについての信頼が大きく傷つき,イメージダウンを招いた。すなわち,被控訴人商品は,まず,東京ハンズ渋谷店での販売を認められ,控訴人商品の横に置かれることとなったが,間もなく,被控訴人商品については,「丸形通気口」で「直径125mm〜212mmまでの通気口」であり「一般的な家庭」であるが,設置不可能であったとの理由で,顧客からの返品が始まり,販売開始後1年ほど経過したころ,同店は被控訴人商品の販売を中止した。このようにして,欠陥商品である被控訴人商品の販売は,当該商品カテゴリーについてのイメージダウンを招き,消費者の購買意欲を著しく損なった結果,控訴人商品の一層の販売低下をもたらしたのであり,その販売数の低迷は今日も続いている。 ウ 被控訴人商品が,上記アのような欠陥商品である理由は,被控訴人が自ら資本,労力を投資することなく,控訴人商品を模倣して安易に作り上げたものであるからにほかならない。被控訴人の主張によれば,平成13年6月ころにアイデアを具体化,同年10月ころに試作し,同年12月には新製品を発表したというのであるが,このような短期間で,45種類にも及ぶ対象給気口をすべて取り寄せ,研究し,どの給気口にも合う完成した商品を作り上げることは不可能であり,むしろ,被控訴人が,専ら控訴人商品の模倣に努めたことは明らかである。 控訴人らは,給気口部材には多種多様なものがあること(甲57)から,長期間にわたって試作を重ねた結果,一般家庭に設置されているどの給気口にも対応するには,少なくとも3種類の大きさが必要と判断し,最終的に,控訴人商品のベースサイズを3種類としたものである(甲54)。ところが,控訴人商品の研究はしたものの,現物の給気口を研究しなかった被控訴人は,テープを3種類とし,ベースは1種類とした。そして,ベースが1種類のみである結果,多くの給気口に合致しないことになった(甲55,62,検5〜7)。 このように,被控訴人が欠陥商品である被控訴人商品を製造,販売したのは,被控訴人商品が,控訴人商品の形態を単に真似したにすぎないからにほかならない。 (2) 不正競争防止法2条1項3号の解釈について(争点(2)関係) ア 原判決は,不正競争防止法2条1項3号(以下,単に「3号」ともいう。)所定の不正競争行為に該当するためには,既に存在する他人の商品の形態を模倣して,これと同一又は実質的に同一といえるほど酷似した形態の商品を意図的に作り出すことが必要であると解釈したが,3号は「他人の商品の形態を模倣した商品」と規定するにすぎず,以下のとおり,原判決の上記解釈は失当である。 イ 不正競争防止法の立法目的は,不正競争の防止により事業者間の営業上の利益の保護を図るとともに,これを通じて公正な競争秩序の維持を図ることである。特に,3号の目的は,先行者が多大な資本,労力,知恵を投じて商品化した成果にただ乗りをすることを許さないという趣旨である。しかし,そのような先行者の利益を図ることについては,公正な競争秩序の維持との兼ね合いから請求権の行使期間を設けることとし,おおむね先行者の投資回収期間として,「最初に販売された日から3年間」との確定期間が定められたものである。したがって,3号に規定する「形態の模倣」の解釈に当たっては,先行者が多大な資本,労力,知恵を投じて商品化した成果にただ乗りをすることを許さないという観点を忘れてはならない。 他方,平成5年の不正競争防止法改正の際,不正競争行為について一般条項の導入が検討されたものの,最終的には見送られた。その理由は,一般条項は抽象的にならざるを得ず,事業活動を行う者から見て予測性を著しく害する,事業活動をい縮させるということであった。もっとも,そこで忘れてはならないのは,あくまで,公平な競争の観点からしての予測性という点である。 以上によれば,3号の解釈に当たっては,先行者の投資回収の確保と,公平な競争により事業活動を行う者の予測可能性という二つの価値を比較考量して,3号にいう「形態の模倣」に該当するかどうかが判断されるべきである。 確かに,模倣とされる範囲が広いと,3年間は同種商品の開発,販売は阻害され,産業の発展や消費者の利益を阻害することになる。しかし,模倣の範囲を狭く解し,形態細部の相違があれば模倣ではないとするのであれば,模倣者のやり得になり,先行者の投資回収の確保は絵に描いた餅となる。その結果,中小零細業者は投資した資金等の回収ができずに倒産等に追い込まれ,ひいては,日本の産業を底辺から支えている人々のやる気をなえさせ,日本全体の産業基盤の低下をもたらすことになろう。 このような観点からすれば,原判決の上記アの解釈は,結果的に,「形態細部の相違があれば模倣でない」との結論への導入の役割を果たし,模倣者のやり得を許すことになっている。しかし,3号にいう「形態の模倣」の有無を判断するに当たっては,各事案の本質を見極め,全体を観察して実質的に判断されるべきである。そうしてこそ初めて,先行者の投資回収の確保と,公平な競争により事業活動を行う者の予測可能性という二つの要請を満たすことになるのである。 ウ 原判決は,「原告らが,原告商品の開発及び販売に長い時間と多大の労力をかけ,多額の費用を費やしたこと」を認定しながらも,控訴人らの投資回収の確保を図らず,被控訴人商品が控訴人商品の模倣に当たるとは判断しなかった。原判決がそのように判断した理由は,被控訴人商品を控訴人商品の模倣品と判断することは,公正な競争の見地から,被控訴人にとって予想範囲外であると考えたためであろう。 しかしながら,本件において,被控訴人自身は,公正な競争の範囲外であるとの認識であり,模倣品であるとの後ろめたい思いがあったはずである。そうであるからこそ,後記aのとおり,控訴人から,被控訴人商品の製造,販売の停止を求める文書での警告を受けた際,虚偽内容の回答をすることになったのである。 また,控訴人らが被控訴人に対し初回の警告をしてから,被控訴人が実質的な回答をするまで,後記a〜cのとおり,約2か月を要している。この間は花粉の季節であって,控訴人商品にとっては,年間を通じて最も売上の良い時期である。このような重要な時期に,被控訴人は,虚偽の回答をしながら時間稼ぎをし,被控訴人商品の販売活動をしたのである。このような被控訴人の行為は,公正な競争行為とはいえないし,そのような不正な競争を意図して製造,販売された被控訴人商品を保護する必要はない。 a 控訴人らは,被控訴人商品の販売を知ると,直ちに,不正競争行為に該当することを理由として,平成14年2月25日付けの文書で,製造,販売の停止を求める警告をした(甲15)。これに対し,被控訴人は,同年3月6日付けの文書で,「当方において貴社対象商品を入手しかねている状況であります」と虚偽の回答をしたのである。 虚偽回答であることは,控訴人らが被控訴人に上記警告書を出した後の同年2月27日,被控訴人のお客様相談口に控訴人商品と被控訴人商品との相違について問い合わせたところ,「◎お得な交換用フィルターは,『エリア』にも,使用できます」との説明を含む回答をしたことから明らかである。 b その後,控訴人らは,同年3月14日付けで,「回答書並びに警告書」を発送し,再度,被控訴人商品の製造,販売の停止を求めた(甲17)。これに対し,被控訴人は,同月22日付け文書で,3号は,「最初に販売した日から起算して3年を経過したものを除く」と規定しているところ,控訴人商品がその要件を満たすか不明であるので,その回答を待って,被控訴人の見解を述べる旨回答した。 しかしながら,被控訴人は,控訴人商品を研究し,「似ないように商品を作った」のであるから,当然のこととして,控訴人商品についての調査をしていたはずである。被控訴人は,平成12年4月には,特許庁から,控訴人商品の実用新案技術評価書を入手しているのである。 c 控訴人らは,平成14年4月12日付け文書で,販売開始日は平成12年4月20日である旨回答するとともに,被控訴人商品の製造,販売の停止を求めた(甲19-1)。これに対し,被控訴人は,平成14年4月19日付け文書で,「他人の商品を模倣したものではない」と回答した(甲20)。 エ 一般に,模倣品は粗悪品である。本件においても,上記(1)のとおり,被控訴人商品は,控訴人商品の安易な模倣品であるがゆえに粗悪品であり,購入者が返品しなければならないような,いわゆる欠陥商品にすぎない。にもかかわらず,原判決は,そのような被控訴人商品を,細部の相違を理由として保護したものであり,失当である。 (3) 形態の模倣の有無について(争点(2)関係) ア 原判決は,控訴人商品と被控訴人商品の形態について,「正面開口部の位置及びその形状並びにスリット状開口部を形成する窪みの形状等において顕著な相違があり,商品の形態として同一又は実質的に同一であるということはできない」と判断した。 しかしながら,上記判示に係る点は細部の相違にすぎず,全体を観察すれば,両商品は同一又は実質的に同一である。両者は給気口フィルターであり,円形であり,開口部から目視することによってフィルターの汚れを認め得るものである。また,外形の寸法も全く同一である(甲56)。なお,意匠公報掲載の図面もほぼ同一であり,被控訴人登録に係る意匠公報における「使用状態を示す参考図」は,本件意匠公報における「使用状態を示す参考斜視図」を108%拡大したものにすぎない(甲48-1,2)。 そうであるからこそ,両商品についてのアンケートの回答者中77.7%の者が「似ている」と回答したのである(甲39)。一般消費者が似ていると思う商品を,原判決は,細部の相違を理由として,模倣ではないと判断したものであり,失当であることは明らかである。 イ また,原判決は,「商品の形態が,当該商品の機能及び効用と必然的に結びつき,当該商品の機能及び効用を発揮させるために不可避的に採らざるを得ない部分において同一又は実質的に同一であるにすぎない場合は,同種の商品が『通常有する形態』として,これに該当しない」とした上,「本体の形状が正円形であって,正面開口部を有することは,商品の機能及び効用を発揮させるために不可避的に採らざるを得ない形態であり,通常有する形態というべきである」と認定判断したが,明らかな誤りである。 控訴人らが控訴人商品を円形としたのは,控訴人らが販売対象として計画した給気口の大半が円形であったことによるものであるが,一戸建てでは,むしろ角形が主流であるし,マンションの給気口についても,その大きさ,形,材質等が多種多様であることは上記のとおりである。 また,円形の給気口を対象商品としても,ベース,両面テープ及びフィルタはともかく,本体カバーは,機能面及び効用面から,円形を不可避的に採らざるを得ないものではない。資金があるのであれば,本体カバーは,室内の装飾品の一つとして,様々な形があってよいのである。控訴人らは資金がないのでシンプルな形とし,かつ,金型も1個とした結果,円形を確定版としたのである。 さらに,空気が室内に流入する開口部についても,控訴人商品も被控訴人商品も1箇所であるが,1箇所である必然性はない。機能面及び効用面からは,2箇所であっても差し支えないのである(甲54参照)。 実際,他社商品では,控訴人商品とは明らかに異なる商品が販売されている(甲60,検甲3)。同商品の構造は,丸形であるが,空気流入のための取入口及びフィルターの汚れを目視する箇所のカバーは網状であり,控訴人商品や被控訴人商品とは全く異なる。その商品名は「換気クリーン」と名付けられており,宣伝文言は「通気性良好!お部屋にきれいな外気を・・・」,「給気口から室内に入る大気中の『排気ガス微粒子』『粉じん』『花粉』『ミクロのホコリ』を帯電フィルターが強力にキャッチ!」というものであり,控訴人商品の商品名や宣伝文言とは明らかに異なる。 原判決の上記認定判断が誤りであることは,上記商品の存在からも明らかである。 (4) 民法709条の解釈について(争点(3)関係) ア 原判決は,民法709条について,「被告の行為は,意匠権侵害に該当せずかつ不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為にも該当しないところ,このような場合において,民法709条所定の不法行為が成立するためには,ことさら相手方に損害を与えることを意図して,法律上保護に値する相手方の営業上の利益を,著しく不公正な方法により侵害したといい得ることが必要である」とした。 しかしながら,上記のように,「ことさら相手方に損害を与えることを意図して」との要件を課すことは,結果的に,不正競争防止法などの特別法に触れない限り,何をやってもよいとのお墨付きを与えるものである。そもそも,民法709条の故意とは,一定の結果を発生させる意思をもって行為した場合だけでなく,一定の結果の発生を認識した上でこれを容認して行為した場合をも含むものである。原判決の上記解釈は,故意の要件を不当に狭めるものであって失当である。 イ 原判決は,上記アの解釈の根拠として,「先行者が費用,労力及び時間をかけて開発した成果にフリーライドし,ことさら先行者に損害を与えることを意図して,法律上保護に値する営業上の利益を著しく不公正な方法により侵害した場合には,自由競争の範囲を逸脱して不法行為を構成するというべきであるが,他方,市場における競争は,本来自由であり,新規商品が開発されて市場に出された後,知的財産権を侵害しない同種の商品を販売することにより先行者との間で競争関係が生じること自体は,自由競争の範囲内の行為ということができ,これを違法であるとすると,知的財産権によることなく同種商品の販売自体を独占する結果となって経済の発展を阻害することになりかねないからである」と判示する。 しかしながら,上記判示は,自由競争の大義名分の下に,先行者の利益の侵害を許すものにほかならない。大企業とは異なり,中小零細業者にとっては,各種の特別法に基づき,特許権,意匠権等の権利を取得し,維持することは容易ではない。本件においても,控訴人らは,出願のための弁理士を見つけることにさえ苦労をした上,なんとか弁理士に依頼したものの,十分な説明をした申請書の作成は困難であった。その結果,控訴人クレント及び控訴人エルミーダイムが意匠登録を,控訴人クレントが実用新案登録をしたものの,控訴人らが開発した商品を十分に保護することができなかったのである。 ウ 仮に,原判決の上記アの解釈のように,侵害者に特段の故意を必要とする場合があるとしても,それは,社会経済上の地位がほぼ対等な場合に妥当するものであって,本件のように,社会経済上の地位が大きく離れている当事者間に適用されるべきではない。したがって,本件においては,被控訴人には,通常の意味における故意があれば足りると解すべきである。 けだし,中小零細業者が工夫に工夫を重ねて,開発,商品化し,ヒット商品にまですることは並大抵のことではなく,正に,人生を賭けた営みであるといっても過言ではない。このような人々こそが,やがて世界に誇り得る企業へと発展していくのであり,日本の産業基盤は,そうした努力と挑戦をする人々によって支えられているのである。国や地方自治体においても,そのような中小企業の重要性を認識し,支援施策を打ち出している。中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法もその一つであり,控訴人商品は,同法に基づく東京都の認定を受けている(甲12)。 (5) 不法行為の成否について(争点(3)関係) ア 原判決は,控訴人商品と被控訴人商品の形態及び商品構成が類似しないと判示するが,上記(3)のとおり,両商品はその主要部分において類似しているから,誤りである。 また,原判決は,被控訴人の意匠登録出願書類における表現上の一致について,「意匠に係る物品自体が同じである以上,表現においてこの程度の一致が見られることをもって,違法ということはできない」と判示するが,正に,意図的に主要部分を模倣したがゆえに,その説明文,更には「使用状態を示す参考図」は,原判決も認めるとおり「酷似」するしかないのである。原判決は,表現の一致を認め,更には酷似しているとまで認定していながら,「ことさら原告らに損害を与えることを意図した」ものということはできないと判断したものであるが,仮に,「ことさら相手方に損害を与えることを意図して」との要件が必要であると解したとしても,上記のような一致,酷似がある以上,本件では同要件を満たしているというべきである。 イ 原判決は,キャッチフレーズ等の宣伝文言について,「原告商品と被告商品の用途ないし機能が共通していることに照らせば,両商品の宣伝文言の一部が一定程度類似することはある程度やむを得ない」とし,また,被控訴人が,交換用フィルタが控訴人商品にも使用できる旨回答した点についても,「ことさら原告らに損害を与えることを意図して,著しく不公正な方法により被告商品を販売しているということはできない」と判示した。 しかしながら,上記(3)イのとおり,控訴人商品の模倣品ではない商品があり,当然のことながら,キャッチフレーズなどの宣伝文言も異なるのである。原判決の上記各判断は,公平な競争,公平な社会の観念を欠き,倫理観の欠如した弱肉強食を推奨するものであって,失当である。 ウ 以上によれば,仮に,民法709条に関する原判決の上記解釈を前提としたとしても,本件における被控訴人の行為は不法行為に該当するというべきである。 2 控訴人クレント及び控訴人エルミーダイムの主張 争点(3)に関し,上記1の(1),(4)及び(5)のとおり。 3 被控訴人の主張 (1) 控訴人らの上記各主張は,すべて争う。 (2) 被控訴人商品の欠陥商品性について(争点(2)及び(3)関係) ア 控訴人らは,被控訴人商品によって,控訴人商品が属する商品カテゴリーのイメージダウンを招いた旨主張する。 しかしながら,原判決認定のとおり,両商品の形態は顕著に異なるのであって,このように顕著に異なる両商品の形態から,消費者が単一のイメージを形成するということはできず,両商品は,それぞれその形態に相応して相互に異なるイメージが形成されるというべきである。したがって,控訴人らの上記主張は失当である。 イ また,控訴人らは,被控訴人商品の開発期間が短いことを理由に,被控訴人商品は控訴人商品を模倣して安易に作り上げたものにほかならない旨主張する。 しかしながら,開発期間の長短と,その結果物と他の商品との類否とは無関係な事項である。被控訴人商品の形態と控訴人商品の形態とが顕著に異なることは原判決認定のとおりであるから,控訴人らの上記主張は失当である。 (3) 形態の模倣の有無について(争点(2)関係) ア 控訴人らは,控訴人商品と被控訴人商品との形態は同一又は実質的に同一であるということはできないとの原判決の判断は誤りである旨主張するが,その理由は,要するに,円形であり,開口部から目視することによってフィルターの汚れを認め得る機能を有する給気口フィルターは,すべて同一又は実質的に同一の商品であるとするものにほかならない。 しかしながら,開口部から目視することによってフィルターの汚れを認め得る機能を有する給気口フィルターの形態は無限に存するところ,そのように無限に存するすべての給気口フィルターの形態を,同一又は実質的に同一であるとすることはできない。控訴人らの上記主張は,商品の機能と形態とを混同するものであって,失当である。 イ また,控訴人らは,原判決の「本体の形状が正円形であって,正面開口部を有することは,商品の機能及び効用を発揮させるために不可避的に採らざるを得ない形態であり,通常有する形態というべきである」との認定判断は誤りであるとするが,その一方で,控訴人らは,本体の形状が円形であることは「シンプルな形」であることを認めている。そして,この「シンプルな形」こそ,不正競争防止法2条1項3号にいう「通常有する形態」にほかならない。 給気口が円形であるのに,控訴人商品が,四角形やイメージキャラクターの形状の本体カバーとしたというのであるなら,それはシンプルな形ではなく,「通常有する形態」とはいえないであろう。しかし,給気口が円形である場合に,それに相応して本体カバーを円形とすることは,控訴人らが自認するとおり,シンプルな形であり,したがって,「通常有する形態」というべきである。 (4) 民法709条の解釈について(争点(3)関係) ア 控訴人クレント及び控訴人エルミーダイム出願に係る意匠及び実用新案はいずれも登録され,控訴人クレント及び控訴人エルミーダイムは意匠権,控訴人クレントは実用新案権による独占的排他権を有している。特に,意匠権については,控訴人商品をそのまま図面にして出願,登録されたものであるから,控訴人商品の意匠は,当該意匠権により十分に保護されている。 イ また,民法709条における「故意」の解釈を,社会経済上の地位に応じて異なるものとする理由はない。 |
|
当裁判所の判断
1 争点(1)(意匠権侵害の成否)について 本争点に関する当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」の「1」のとおりであるから,これを引用する。 2 争点(2)(不正競争防止法2条1項3号該当性)について (1) 控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態との対比 ア 控訴人商品の形態が原判決別紙原告商品目録添付の図面に記載されたとおりであることは当事者間に争いがなく,また,その図面は,本件意匠公報記載の本件意匠の図面と同一であると認められる。また,被控訴人商品の形態が原判決別紙被告商品目録添付の図面に記載されたとおりであることも当事者間に争いがない。 したがって,控訴人商品の形態及び被控訴人商品の形態については,上記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」の「1」の(1)及び(2)のとおりであると認められる(ただし,「本件意匠」を「控訴人商品の形態」と,「被告意匠」を「被控訴人商品の形態」と読み替える。)。 イ 上記認定によれば,控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態は,基本的構成態様においては,正面視及び背面視における外周形状が正円形であり,背面は平らで正面に膨らみを持った円盤状である点,本体には,正面開口部と窪みとが形成されている点,本体,フィルタ及び本体の背面に設置された裏蓋とを主な構成要素としている点において共通している。また,具体的構成態様においては,本体が,正面部とその裏面に突設した周状の側面部とで構成されている点,スリット状開口部が,本体の正面部の上面と,この上面よりも一段低い位置に形成された下面との間に側面を向いて開口する形態で存在する点において共通している。なお,控訴人商品には色彩がアイボリーのものもあるところ,同商品と被控訴人商品とは,色彩が同一である(甲1,検甲1,検乙1)。 他方,両商品の形態は,@控訴人商品における正面開口部の位置は中心部であるのに対し,被控訴人商品における正面開口部の位置は左上部である点,A控訴人商品の正面開口部の形態は正円形であるのに対し,被控訴人商品の正面開口部の形態は3個のハート形状である点,B控訴人商品の窪みは正面視において二つの円弧により形成される扁平の凸レンズ形であるのに対し,被控訴人商品の窪みは正面視において円弧と波形曲線により形成されている点,C控訴人商品のスリット状開口部の上面側及び下面側の縁部は,開口部に最も近い部位が最も本体の中心方向に膨出した円弧からなるのに対し,被控訴人商品のスリット状開口部の上面側及び下面側の縁部は,正面視における下部側が内側に膨出しかつ上部側が外側に膨出した波形曲線からなる点,D控訴人商品の背面は大きく開口しているのに対し,被控訴人商品の背面の開口は小さい点,E控訴人商品における本体の側面部を形成する周面は外周縁より小径で正面部が鍔状に突出しているのに対し,被控訴人商品における本体の側面部を形成する周面は正面部と同径で連続している点等において,相違している。 (2) 両商品の形態の同一性ないし実質的同一性について 不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するためには,いわゆるデッドコピーの禁止をその立法趣旨とすることにかんがみ,既に存在する他人の商品の形態を模倣して,これと同一又は実質的に同一といえる形態の商品を意図的に作り出すことが必要であると解される。控訴人ブレストは,被控訴人商品は欠陥商品であるとも主張するが,仮に,被控訴人商品がその主張に係るような欠陥を有する商品であったとしても,3号において上記の要件が不要となるものではない。そこで,以上を前提に,控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態とが同一又は実質的に同一といえるか否かについて検討する。 ア 両商品の形態には,上記(1)イの@ないしEのとおり,少なからぬ形態上の相違があるから,両商品の形態を同一ということができないことは明らかである。 イ これに対し,控訴人ブレストは,控訴人商品が「全く新規な商品」であることを強調した上,両商品は,(a)いずれも本体に外部から汚れを視認できる適度な大きさの正面開口部を有すること,(b)スリット状開口部について,正面から見た場合,模様として認識されること,正面からは内部に設置されたフィルタが視認できない構造となっていること,垂直断面で比較した場合,ほぼ同一の形状,大きさであること,その個数が1個であること,(c)本体がアイボリー色の円形であり,外形の寸法も全く同一であること等を根拠に,両商品は,実質的に同一である旨主張する。 しかしながら,3号は,上記のとおり,いわゆるデッドコピーの禁止の観点から,「形態」の模倣を禁止するものであって,商品としての機能又は効用をもたらすアイデアそれ自体を保護するものではないから,控訴人商品と被控訴人商品との間において,当該商品の機能ないし効用と不可避的に結び付いた部分において形態の共通性が認められたとしても,そのことをもって,3号にいう形態の実質的同一性を基礎付けることはできないと解すべきである。このことは,たとえ,控訴人商品が,それまで同一の機能や効用を有する商品が存在しない「全く新規な商品」であると認められる場合であっても同様というべきである。なぜならば,当該商品の機能ないし効用と不可避的に結び付いた部分において形態の共通性が認められることを根拠に,3号にいう形態の実質的同一性が認められるとすれば,知的財産権によることなしに,当該機能や効用自体を先行者に独占させ,取引社会における自由かつ公正な競争を阻害するという不当な結果を招くからである。 そうすると,原告の上記主張のうち,(a)の点は,汚れを外部から視認できるようにするという機能をもたらすために,本体正面に「適度な大きさ」の開口部を設けることは当然のことであるから,そのことをもって,両商品の形態の実質的同一性を基礎付けることはできないといわざるを得ない。同様に,(c)の点についても,控訴人商品及び被控訴人商品が,その裏蓋をマンション等の給気口に固定することにより取り付けて使用する換気口用フィルタないし通気口フィルターであり,給気口の中には円形のものも多く,被控訴人商品のサイズに合致する給気口も少なからず存在すること(甲54,55,61)に照らせば,本体の形状が円形であることやその外形寸法の点は,正に,両商品の基本的な機能及び効用と不可避的に結び付いた部分であると認められるから,やはり,両商品の形態の実質的同一性を基礎付けることはできないというべきである。 さらに,(b)の点については,3号が要件とする「形態」としては,スリット状開口部が「模様として認識されること」では足りず,具体的にいかなる「模様」として認識されるかが重要であるところ,その点において顕著な差異が認められることは,上記(1)イのB及びCのとおりである。 他方,両商品の形態は,上記(1)イの@ないしCのとおり,特に,正面開口部の位置及びその形状並びにスリット状開口部を形成する窪みの形状等において顕著な相違があり,その差異は,競争上,無意味なものであるということまではできないから,控訴人が主張する上記その余の諸点を考慮しても,控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態が実質的に同一であるということはできない。 ウ なお,控訴人ブレストは,両商品についてのアンケート回答者中,77.7%の者が「似ている」と回答したことを両商品の実質的同一性を肯定すべき根拠として主張するが,そうしたアンケートの結果が,3号にいう形態の実質的同一性と直ちに結び付くものでないことはもとより,形態が実質的に同一であるというためには,単に「似ている」だけでは足りないことも当然であるから,上記主張はその点でも失当である。さらに,控訴人ブレストは,控訴人商品とは全く異なる商品が販売されている事実を主張するが,たとえ,形態においてより大きな差異のある商品が現に存在するとしても,控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態の実質的同一性を肯定する理由とはなり得ないから,失当というほかはない。 (3) 控訴人ブレストのその余の主張について ア 控訴人ブレストは,被控訴人の行為が3号に該当する理由として,被控訴人商品の包装袋(甲4,検乙2)と控訴人商品のパンフレット(甲1)との間に記載上の類似点があることを主張する。 確かに,証拠(甲1,3,4,6,検乙2)によれば,控訴人商品と被控訴人商品は,いずれもビニール製の包装袋に収納された状態で展示,販売されていることが認められるから,本件においては,商品自体のみならず,その包装袋をも含めた上で,それらを一体として商品の形態ととらえる余地がないとはいえない。しかしながら,上記各証拠によれば,控訴人商品の包装袋の表面は,上部及び下部にオレンジ色の略半月型の模様があり,上部の半月型の模様の中に「エリア」という商品名が大きく記載され,対応する給気口のサイズを示す丸いシールが貼付されている,比較的簡素なデザインであるのに対し,被控訴人商品の包装袋の表面は,右上部に「お部屋の通気口フィルター」との文字が大きく記載され,その上下に「エアクリーン」,「外気の汚れをシャットアウト!」との文字がやや小さめに記載され,さらに,全体の下部には,被控訴人商品を取り付ける女性の絵やフィルタの取り替えサインの図,使用可能な通気口の絵等が記載されるなどしており,控訴人商品の包装袋と被控訴人商品の包装袋は,デザイン上,大きく相違するから,両者の形態を同一又は実質的同一であるとする余地はない。 控訴人ブレストは,上記のとおり,被控訴人商品の包装袋と控訴人商品のパンフレットとの類似を問題とするが,同パンフレットが販売促進用資料であることは控訴人も自認するとおりであり,控訴人商品が展示,販売されている状態において控訴人商品と一体となっていると認めるに足りる証拠はないから,その記載を「商品の形態」として,包装袋を含めた被控訴人商品の形態と比較することは相当でないというべきである(なお,控訴人商品のパンフレットと被控訴人商品の包装袋が,全体として類似するということまではできないことは,後記3において判示するとおりである。)。 したがって,控訴人ブレストの上記主張は,いずれにしても,採用の限りではない。 イ また,控訴人ブレストは,被控訴人の行為が3号に該当する理由として,控訴人商品及び被控訴人商品が,本体,裏蓋及びフィルタを主な構成要素としている点,これらの構成要素である各部品からなるセット商品として販売されている点,販売時において,商品包装袋の表側部分から本体の一部に開口部があり,この開口部からフィルタが視認できることが分かるように収納されている点において共通している旨主張する。 控訴人商品の包装袋の中には,両面テープ付きの裏蓋,本体,フィルタ1枚,フィルタ固定のためのリングがセットとして収納されているのに対し,被控訴人商品の包装袋の中には,裏蓋,本体,フィルタ1枚,両面テープがセットとして収納され,両商品は,いずれもビニール製の包装袋に商品が入れられた状態で展示,販売されており,包装袋の透明部分から商品の一部を視認できるようになっていることは認められるが(甲1,3,6,検乙1,2),被控訴人商品の販売時において,常に,本体の一部に開口部があり,この開口部からフィルタが視認できることが分かる状態で収納されていると認めるに足りる証拠はない。また,仮に,控訴人ブレストが指摘する上記の点を「商品の形態」ということができるとしても,控訴人商品及び被控訴人商品が,その裏蓋側をマンション等の給気口に取り付ける換気口用フィルタないし通気口フィルターであり,フィルタが汚れた場合に交換して使用するものであることに照らせば,両商品が,本体のほか,給気口に取り付けるための裏蓋及び交換可能なフィルタを主な構成要素とし,これらの各部品からなるセット商品として販売されていることは,同種の商品が通常有する形態にすぎないというべきである。 したがって,控訴人ブレストの上記主張は,採用の限りではない。 (4) 以上によれば,その余の点につき検討するまでもなく,被控訴人の行為が3号に規定する不正競争行為に該当するとの控訴人ブレストの主張は,理由がない。 3 争点(3)(不法行為の成否)について 本争点に関する当裁判所の判断は,下記のとおり訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」の「3」のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決の訂正 原判決28頁下から4行目「LINE」の後に「S」を,同30頁13行目「シャットアウト」の後に「!」をそれぞれ加え,同頁末行「と回答した」を「旨回答した」に改める。 (2) 控訴人らの当審における主張に対する判断 ア 民法709条の解釈について 被控訴人の行為は,上記1及び2のとおり,意匠権侵害に該当せず,かつ,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為にも該当しないところ,このような場合において,民法709条所定の不法行為が成立するためには,殊更,相手方に損害を与えることを意図して,法律上保護に値する相手方の営業上の利益を,著しく不公正な方法により侵害したといい得ることが必要であると解される。 これに対し,控訴人らは,@「殊更,相手方に損害を与えることを意図して」との主観的要件を課することは,結果的に,不正競争防止法などの特別法に触れない限り,何をやってもよいとのお墨付きを与えるものである,A大企業とは異なり,中小零細業者にとっては,特許権,意匠権等の権利を維持することは容易ではないから,上記の解釈は,自由競争の大義名分の下に,先行者の利益の侵害を許すものにほかならないなどと主張して,上記の解釈は失当である旨主張する。 しかしながら,市場における競争は,自己の利益を最大化することを主たる目的とするものであるから,その性質上,競争者の利益の減少ないし最小化を招く場合があることは避けられないところであって,単に,自己の販売行為が競争者にその意味での損害を与えること(ないし与えるかもしれないこと)を認識し認容したというだけで,不法行為の成立要件を満たすとすれば,市場における自由競争が成り立たないことは明白であるから,控訴人らの上記@の主張は失当というべきである。また,上記Aの主張についても,上記の解釈に基づく要件を満たさない通常の自由競争の範囲内の行為について,なにゆえに,知的財産権によることなしに,先行者が,事実上,当該商品を独占する利益を享受することができるのか,その根拠は不明であるというほかはないから,採用の限りではない。 なお,控訴人らは,上記の解釈のように,侵害者に特段の故意を必要とする場合があるとしても,社会経済上の地位が大きく離れている当事者間には適用されるべきではないとも主張するが,独自の見解であって採用の余地はない。 イ 被控訴人商品の欠陥商品性について 控訴人らは,被控訴人商品は「一般家庭のほとんどの通気口に対応していない」欠陥商品であり,そのような被控訴人商品が販売されたことは,控訴人商品の属する商品カテゴリーについてのイメージダウンをもたらした,被控訴人がそのような被控訴人商品を製造,販売したのは,被控訴人商品が,控訴人商品の形態を単に真似したにすぎないものであるからにほかならない旨主張する。 そこで検討すると,証拠(甲54,55,61,62,検甲5〜7,検乙1)によれば,給気口には多種多様な形状,材質のものがあること,控訴人商品は対応可能な45種類の給気口の中には,被控訴人商品では対応できないものも相当数あることが認められるが,他方,控訴人らの調査によっても,被控訴人商品が良好な状態で対応する給気口も18種類存在し,一応は取り付け可能なもの(11種類)と合わせれば,45種類中29種類は対応可能であるとの事実も認められる。そうすると,被控訴人商品は,これに対応できない通気口はあるが,「一般家庭のほとんどの通気口に対応していない」とまでは認めるに足りないから,控訴人らの上記主張については,控訴人商品の方が,被控訴人商品よりも対応可能な給気口の種類が多い点において優れているという限りでは首肯すべき部分を含むにせよ,被控訴人商品をいわゆる欠陥商品であるとする点は,これを認めるに足りる証拠はないというべきである。したがって,その余の点につき検討するまでもなく,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 ウ 両商品の形態等の類似性について 控訴人らは,控訴人商品と被控訴人商品の形態及び商品構成は類似する旨主張するが,この主張を採用することができないことは,上記2で判示したとおりである。 控訴人らは,また,被控訴人の意匠登録出願書類における表現上及び図面上の一致がある以上,本件では,「殊更,相手方に損害を与えることを意図して」との要件を満たしている旨主張する。しかしながら,本件において,被控訴人が,被控訴人商品の開発に当たり,控訴人商品を研究し,「似ないように商品を作った」ことは被控訴人も自認するとおりであるが,新商品開発に当たり,控訴人商品を先行技術の一つとして調査研究することは当然のことであるし,それを基にして,知的財産権を侵害することのないように注意義務を尽くしながら独自の商品を製造,販売すること自体を違法ということはできないことは明らかである。そうとすれば,被控訴人の意匠登録出願書類において上記の表現上,図面上の一致があるとしても,そのことのみを根拠に,被控訴人が被控訴人商品を販売した行為が不法行為に当たるとみることができないことも,また明らかというべきであるから,控訴人らの上記主張は採用の限りではない。 なお,付言するに,控訴人らは,当審において,被控訴人が,被控訴人商品の開発に当たり,控訴人商品を研究し,控訴人商品に似ないように作られたものであること,被控訴人商品の販売によって控訴人らに打撃を与えることを被控訴人が事前に認識していたこと等について立証するため,被控訴人の従業員等の証人尋問の申出及び被控訴人商品の開発記録等の文書提出命令の申立てをしているが,仮に,それらの点が立証されたとしても,上記の判断を左右するものではない。 さらに,控訴人らは,キャッチフレーズ等の宣伝文言の類似や,被控訴人が,問い合わせに対し,交換用フィルタが控訴人商品にも使用できる旨回答した点を論難するが,控訴人商品のパンフレットと被控訴人商品の包装袋とは,その記載等に共通する部分があるとしても,全体としては少なからぬ相違が認められるところ,控訴人商品と被控訴人商品の用途ないし機能が共通していることに照らせば,両商品の宣伝文言の一部が一定程度類似することはやむを得ないと考えられることは,上記引用に係る原判決の判示(33頁6行目〜15行目)のとおりである。後者の点についても,被控訴人商品の販売に当たり,被控訴人が積極的にフィルタの互換性を宣伝したというのであれば別論,問い合わせに対し,上記のような回答をしたことをもって自由競争の範囲を逸脱しているとまではいえないから,被控訴人が,殊更,相手方に損害を与えることを意図して,著しく不公正な方法により被控訴人商品を販売したとすることはできず,控訴人らの主張は採用の限りではない。 4 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求はいずれも理由がないから,棄却すべきである。 よって,以上と同旨の原判決は相当であって,本件控訴はいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
---|---|
裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 早田尚貴 |