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関連審決 不服2002-190
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  取引の実情 /  類似性(類否判断) /  混同を生じるおそれ(混同を生ずるおそれ) / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 203号 審決取消請求事件
原告 株式会社オービックビジネスコンサルタント
訴訟代理人弁理士 斎藤栄一
同 佐藤英昭
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 市村節子
同 藤正明
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/29
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-190号事件について平成15年4月3日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年9月17日,意匠に係る物品を「伝票」とし,その形態を別添審決謄本写し別紙第一記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。
なお,以下においては,同別紙の表面図につき,右に90度回転させた状態を前提に説示する。)につき意匠登録出願(意願平11-24868号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成13年12月7日,拒絶の査定を受けたので,平成14年1月7日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2002-190号事件として審理した結果,平成15年4月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願意匠は,平成3年1月31日ヒサゴ発行「ヒサゴの伝票プリンタ用紙カタログ’91」5頁所載の品番GB162の伝票の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HC03011305号,その形態は同審決謄本写し別紙第二記載のとおり。以下「引用意匠」という。乙1の1,2)に類似し,意匠法3条1項3号に該当するものであるから,意匠登録を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点の認定を誤った(取消事由1)上,両意匠の類否の判断を誤った(取消事由2)結果,本願意匠は意匠法3条1項3号に該当するとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り) (1) 審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(1)として,「横長方形状の紙片の表面において,その下半分の略全体に,略横長方形状に区画した記入欄を表したものであり,記入欄は,上端全幅に,幅細の暗調子の帯状部を設けて,その下方全体に,等間隔に横線を表し,左右の方向について,左寄りを全幅の1/3強を占める幅広の欄とし,中央付近に幅狭の欄を設けて,全体を,広狭の幅差のある6つの列に区画したものであり,更に,記入欄の下端について,右寄りに横長の方形状の枠を1段,下方に突出する態様で表したものである点」(審決謄本1頁最終段落〜2頁第1段落)を,共通点(3)として,「記入欄の具体的な態様につき,上端の帯状部は,上下幅が下方の横線間隔の1/2程度の細いもので,その下方に,横線により5段(突出枠を除く)が設けられ,左右の方向について,全6列の幅比が,左から右に,大略,7対2対1対2.5対3対2,としている点,全体の記入欄の角部が小さく丸み付けられたものである点」(審決謄本2頁第1段落)を認定する。 しかしながら,本願意匠は,紙片の下半部分の略全体を記入欄としているところ,その記入欄の左端寄りの区画と,その右の区画との間は明確に左右に分かれており,それに伴って,記入欄上部の幅細の暗調子の帯状部も途切れている。すなわち,本願意匠の紙片の下半部分の記入欄は,その左右の方向について,全幅の3分の1強を占める左側記入欄と,全幅の3分の2弱を占める右側記入欄に分割されているものであり,単に,該当部分の区画線が2本線で表されているというだけのものではない。したがって,本願意匠の下半部分が一つの大きな記入欄であることを前提にした,審決の上記共通点(1)の認定は誤りである。
同様に,本願意匠の記入欄の具体的態様は,「紙片の下左半部分の全1列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の記入欄と,その下右半部分の全5列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の記入欄とがあり,下右半部分の記入欄の全5列の幅比が,左から右に,大略,7:3:9:10:7としている」というべきであるから,審決の上記共通点(3)の認定も誤りである。
(2) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ロ)として,「記入欄の1列目と2列目を区画する縦線につき,本願のものは,2本線で表されているのに対し,引用のものは,他の縦線と同様の1本線である点」(審決謄本2頁第2段落)を,差異点(ホ)として,「記入欄の周囲の枠取線が,引用のものは本願のものよりやや太めで,また下端の突出枠の右端の区画も,やや太めの線で枠取られている点」(同)を認定する。
しかしながら,上記(1)のとおり,本願意匠の記入欄は,全1列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の左側記入欄と,全5列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の右側記入欄とに分かれており,単に,該当部分の区画線が1本線であるか,2本線であるかという差異ではないから,審決の上記差異点(ロ)の認定は誤りである。
また,本願意匠の記入欄が左側記入欄と右側記入欄とに分かれているのに対し,引用意匠は紙片の下半部分の横長方形の記入欄全体の周囲を太い枠取り線で囲んでおり,明らかに引用意匠の記入欄は一つの横長方形の記入欄であると認識される上,本願意匠の区画線はすべて同じ太さであるのに対して,引用意匠は枠取り線が太線,記入欄内部の区画線は点線という弱い線であるため,一層,枠取り線が強調される。その結果,本願意匠は,紙片の下半部分に,32の小さな記入欄が横長方形に配置されていると認識されるのに対し,引用意匠は,紙片の下半部分に,大きな横長方形の記入欄が一つあり,その内部が更に区画されていると認識されるものであり,その差異は,単なる枠取り線の太細の差異ではないから,審決の上記差異点(ホ)の認定も誤りである。
2 取消事由2(類否判断の誤り) (1) 審決は,本願意匠と引用意匠の類否について,「形態全体の中で検討するに,前記した共通点(1)は,形態全体に及ぶ基本的な構成態様を表すところであって,・・・・また,共通点(3)の,全6列の幅比等も含めた,記入欄の具体的な構成態様の共通性が一体となって,両意匠の全体に,共通する基調が形成されており・・・」(審決謄本2頁最終段落)とする。
しかしながら,上記1(1)のとおり,審決が共通点(1)としている紙片の下半部分の記入欄については,本願意匠の記入欄は,その左右の方向について,全幅の3分の1強を占める左側記入欄と,全幅の3分の2弱を占める右側記入欄に分割されているものであるのに対し,引用意匠の記入欄は一つの横長方形記入欄から成るという大きな差異点があり,この差異点こそが「形態全体に及ぶ基本的な構成態様を表す」ものというべきである。
さらに,審決が共通点(3)とする記入欄の具体的な構成態様においても,本願意匠は,紙片の下左半部分の全1列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の記入欄と,その下右半部分の全5列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の記入欄との二つの記入欄から成るものであるのに対し,引用意匠は,全6列5段(暗調子の帯状部分を除く。)の一つの横長方形記入欄より成るものである上,さらに,本願意匠では実線で表された区画線が,引用意匠では印象の薄い点線であるという大きな差異があり,これらの差異点は,両意匠の類否判断に強い影響を及ぼすものである。
したがって,審決の上記判断は,誤りである。
(2) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(イ)として,「紙片の上半部分について,本願のものは,左の表記欄が大きい方形枠で表されているのに対し,引用のものは,下寄りに2本の平行な横線が引かれて表されたものであり,また引用のものは,上端右隅に1本の短い横線が表されているのに対し,本願のものはこれが表されていない点」(審決謄本2頁第2段落)を認定した上,この点は,「両意匠について,紙片上半部分の略左半分という,面積の上からは大きな部分を占めるところについての差異ではあるが,両意匠のものとも,それぞれ,この種の伝票,納品書等における該部の態様としての類型的なもので,共に両意匠の特徴を表すところとはいえず,類否判断に及ぼす影響を大きく評価できず」(審決謄本3頁第2段落)とする。
しかしながら,上記のとおり,本願意匠は,その下半部分の記入欄が,大きく見ると左側記入欄と右側記入欄とに分かれており,さらに記入欄内部の区画線と周囲の枠取り線が同じ太さの実線で表されている上,上半部分左側に方形枠の表記欄を設けているものであって,全体として見ると,上半部分左側の表記欄,下半部分左側の全1列5段の記入欄,下半部分右側の全5列5段の記入欄という三つの大きな構成と,それに付随する中央部分上部の暗調子の帯状枠,その下方の余白部分,余白部分下端の横線及び二つの記入欄の下の横線から成るものとして認識されるものである。
これに対し,引用意匠は,その下半部分の記入欄全体の周囲を太い枠取り線で囲んだ上,記入欄内部の区画線を点線で表しており,この太線の枠取り線で囲まれた大きな横長方形の記入欄が強く認識されるものである。そのため,上半部分左寄りの横線2本は,点線であることも大きく影響して,重要な構成要素とは認識されず,全体として見ると,中央部分上部の暗調子の帯状枠とその下方の余白部分,余白部分下端の点線で表された横線及び一つの大きな横長方形記入欄の下の点線で表された横線と同様,太線の枠取り線で強調された大きな横長方形記入欄に付随するものとして認識されるものである。
以上のとおり,同じ太さの実線で表された二つの記入欄及び一つの表記欄並びにそれらに付随する部分から成る本願意匠と,太い枠取り線で強調された一つの大きな横長方形記入欄とそれに付随する点線で表された部分から成る引用意匠とは,全体構成及び記入欄の構成に大きな差異点が認められ,その差が類否判断に及ぼす影響は大きいというべきであるから,審決の上記判断は,誤りである。
なお,被告は,本願意匠の表記欄のように,方形枠で表記欄を表すことはごく普通に見られることである旨主張するが,そうであるとしても,上記のとおり,本件意匠の全体構成においては,表記欄が,下半部分の記入欄と同じ太さの実線で表されていることから,記入欄と共に本願意匠の重要な構成要素であると認識されるから,本願意匠と引用意匠との表記欄の構成の差異が類否判断に及ぼす影響は大きいということができる。
(3) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ロ)として,「記入欄の1列目と2列目を区画する縦線につき,本願のものは,2本線で表されているのに対し,引用のものは,他の縦線と同様の1本線である点」(審決謄本2頁第2段落)を認定した上,この点は,「本願のものの2本線の間隔は極く狭いもので,記入欄の中の(3)の共通する構成態様の中での局部的な差異に止まる」(同3頁第2段落)とする。
しかしながら,上記1(2)のとおり,本願意匠の記入欄は,全1列5段の左側記入欄と,全5列5段の右側記入欄とに分かれており,単に,該当部分の区画線が1本線であるか,2本線であるかという差異ではないから,審決の上記差異点(ロ)の認定は誤りである上,この差異は,上記(2)のとおり,記入欄の枠取り線及び内部の区画線に関する差異とあいまって,意匠の全体としての構成を大きく変更するものである。したがって,この差異を局部的なものとする審決の上記判断は,誤りである。
(4) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ハ)として,「記入欄の右端の列が,引用のものは淡い暗調子で表されているのに対し,本願のものは淡い暗調子で表されていない点」(審決謄本2頁第2段落)を認定した上,この点は,「本願のものについての特徴をなすところではなく,引用のものについても,従来態様に照らし格別特徴的なものでなく,全体としては(3)の共通する態様の中での部分的な差異に止まる」(同3頁第2段落)とする。
確かに,被告も主張するとおり,各種の伝票等において,特定の縦列を淡い暗調子で表すことは,ごく普通に行われることである。しかしながら,本願意匠と引用意匠とを構成全体において観察したとき,全体として,左上,左下,右下に方形の表記欄,記入欄を有し,右上に空白部分を有する本願意匠と,下半分に一つの横長方形記入欄を有し,上部に空白部分を有する引用意匠との大きな差異点とあいまって,差異点(ハ)による視覚効果は,看者に大きくその差異を印象付けるものであるといえる。したがって,この差異を部分的な差異にとどまるとする審決の判断は,誤りである。
(5) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ニ)として,「記入欄下端の突出枠について,本願の意匠は,左から4列目と5列目の下端に,記入欄を区画する縦線をそのまま1段分延長する態様で2区画を表し,そのうちの左の区画を淡い暗調子で表したものであるのに対し,引用のものは,左端を2列目の中ほどとし,右端を記載欄の右端までのものとし,更に突出枠の枠内について,記入欄を区画する縦線と稍ずれた位置に,3カ所の細い縦帯を設けて,これを挟んで全体を4つに区画したもので,そのうちの左から3つ目の区画が淡い暗調子で表されたものであり,更に突出枠の上下幅が,記入欄の横線間隔よりも稍幅広である点」(審決謄本2頁第2段落)を認定した上,この点は,「確かに両意匠の差異の中では大きい差異といえ・・・るものであるが,この種の伝票や納品書,記入表等において,例えば最下段に欄を設ける場合,本願のもののように,その上方の縦罫線をそのまま一段分延長する態様で表すことは従来より極普通にみられるところであり,・・・本願のものについて,そこに形態上の格別顕著な特徴を見出すことができず,また,淡い暗調子とした欄の位置が4列目の下位置(本願意匠)か,5列目の下僅かに左寄りの位置(引用意匠)かの差も,突出枠のうちの1区画に淡い暗調子が施されている共通性が,全体としてはむしろ差異感を希釈しており,(ニ)のその他の差異を合わせ考慮しても,形態全体として観察した場合には,記入欄の共通する構成態様の中で,その下端という限られた部分にみられる,局部的な変更の範囲に止まるものとせざるを得ない」(同3頁第2段落)とする。
しかしながら,記入欄下端の突出枠は,金額の合計等を記載する欄であって,取引者,需要者が最も注意を払って見る部分であり,突出枠の欄の数及び淡い暗調子の位置は両意匠を判別するのに大きな要素となるものであり,審決の上記判断は誤りである。
また,仮に,被告の主張するように本願意匠及び引用意匠における記入欄下端の突出枠の構成が格別特徴的なものでないとしても,淡い暗調子で表された部分のある上記突出枠は,その視覚効果から看者に特に注目される部分であるといわなければならない。そして,両意匠を全体として観察すると,本願意匠の記入欄において淡い暗調子で表された部分はただ一つの区画であり,その区画,すなわち,記入欄下端突出枠の左側の区画こそが看者に特に注目される部分であるといえるのに対し,引用意匠においては,看者が特に注目するのは,淡い暗調子で表された記入欄右端の1列及び記入欄下端突出枠の中央の区画,並びに太い枠取り線で囲まれた記入欄下端突出枠の右端の区画であるといえる。したがって,これらの差異について,下端という限られた部分に見られる,局部的な変更の範囲にとどまるとする審決の判断は,誤りである。
(6) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ホ)として,「記入欄の周囲の枠取線が,引用のものは本願のものよりやや太めで,また下端の突出枠の右端の区画も,やや太めの線で枠取られている点」(審決謄本2頁第2段落)を認定した上,この点は,「記入欄の全体構成の共通性に照らせば,突出枠の右端の区画が枠取りで強調されていることを考慮に入れても,類否判断に及ぼす影響は微弱である」(同3頁第2段落)とする。
しかしながら,そもそも枠取り線の太細は看者に与える印象の違いが大きいというべきであるし,上記(2)のとおり,上記差異点(ホ)は,枠取り線の太細のみにとどまらず,その他の差異点とあいまって,本願意匠と引用意匠との全体構成に関する大きな差異につながるものであるから,審決の上記判断は誤りである。
なお,被告は,引用意匠の記入欄下端突出枠の右端の区画がやや太く枠取られた点について,それによって,本願意匠と同様,記入欄右下隅をかぎ形に欠いた印象を醸し出し,差異点を希釈する旨主張するが,記入欄の隅をかぎ形に欠くことは,この種伝票において普通に見られるものであり,そのようなありふれた共通点によって,他の差異点が希釈されることはない。
(7) 一般に二つの意匠が類似であるか,非類似であるかは,一般の需要者が二つの意匠を混同するおそれがあるか否かで判断されるものであるところ,類似とされるべき範囲ないし幅は,当該需要者の認識力が高くなればなるほど狭くなるものである。すなわち,今までに余り親しみのない,新しい物品に係る意匠や,想像もつかないような新しい意匠については,それを初めて見た需要者の認識力は低いのに対し,普段から日常的に目にし,多くの意匠が既に考え尽くされている日用品については,需要者はわずかな差異でも認識できるものである。そうすると,本願意匠及び引用意匠に係る物品は,伝票という日常生活の中で普通に接する物品であり,かつ,その意匠自体も今までの伝票から考えもつかないようなものというわけではないから,両意匠の類否判断において,類似とされるべき範囲ないし幅は,比較的狭いと考えられる。
ところで,本願意匠は,これを全体として観察すると,紙面上部中央の暗調子の帯状枠,記入欄上部の幅細の暗調子の帯状部,記入欄下端突出部の左側の淡い暗調子の区画が暗く認識される結果,全体として,紙面の上下方向に沿って短,長,短の3本の黒い帯部分が走っていると認識されることになるが,紙面の左右方向について明暗の差は特に認識されない。これに対し,引用意匠を全体として観察すると,記入欄右端の淡い暗調子の区画及び太い枠取り線で囲まれた記入欄下端突出枠の右端の区画の影響により,紙面の右半分が暗く認識され,その影響で紙面右側が重い印象を受ける。
以上を前提に考えると,本願意匠に係る物品と同種の伝票は,請求書や納品書などに多用されるものであり,商業を営む者を需要者とするところ,その表記欄や記入欄は主として物品の性質・機能に由来するものであり,当該物品の需要者がその点のみから多数の同種物品の中から一定のものを選択するということは考えにくいから,当該需要者の普通の注意力を基準としてみた場合,需要者は,本願意匠と引用意匠の数々の差異点,特に,上記の明度ないしトーンの差から,異なった美感を看取し,それを考慮要素として物品を選択するものというべきである。そうすると,本願意匠と引用意匠との間で混同を生ずるおそれがあるということはできないから,両意匠が類似するとした審決の判断は,誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)について (1) 原告は,本願意匠の下半部分の記入欄は,その左右の方向について,全幅の3分の1強を占める左側記入欄と,全幅の3分の2弱を占める右側記入欄とに明確に分割されている旨主張する。
確かに,本願意匠の該当部分は,区画線が2本線で表されており,また,記入欄上部の暗調子の帯状部が他の箇所よりもやや広く途切れ,さらに,横線との直交部では,下端の枠取り線をも含め,横線が途切れているものと認められる。
しかしながら,上端部分の帯状部,記入欄内部の横線,下端の枠取り線は,いずれも,縦断する2本線を挟んで,記入欄の全幅にわたって同じ太さで,かつ,同一線上に構成されている上,縦断する2本線自体の太さも,記入欄の外周の3方の枠取り線の太さとは明らかに異なる細いものであり,他の4本の縦線とほぼ同じ太さである。さらに,縦断する2本線の上下両端においては,その角部に丸み付けがされていない直角のままであって,記入欄の他の角部に丸み付けがされているのと大きく異なっている。以上を総合すれば,本願意匠の下半部分の記入欄は,原告主張のように左右二つの記入欄に分割されたものとして認識されるものではなく,記入欄全体が,視覚上,一つのまとまりとして認識されるものである。加えて,各種の記入欄において罫線を2本線で表す場合,これに直交する罫線を2本線の間で途切れさせることは,ごく普通に見られる形態(乙17,18)であって,本願意匠もこれと同様の形態処理を採用したものとみることができる。
以上によれば,審決の共通点(1)及び(3)の認定に,原告主張の誤りはないというべきである。
(2) 原告は,本願意匠の下半部分の記入欄は左右に分割されているとして,審決の差異点(ロ)の認定は誤りであると主張し,また,本願意匠は紙片の下半部分に32の小さな記入欄が横長方形に配置されていると認識されるのに対し,引用意匠は太い枠取り線で囲まれた大きな記入欄が一つあり,その内部を更に区画されていると認識されるものであり,その差異は単なる枠取り線の太細の差異ではないとして,審決の差異点(ホ)の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,審決の差異点(ロ)の認定に誤りがないことは,上記(1)のとおりである。
差異点(ホ)についても,原告は,本願意匠の区画線はすべて同じ太さであるとするが,本願意匠の区画線はすべて同じ太さではなく,枠取り線内の横罫線は枠取り線に比べ明らかに細く,縦罫線も子細に見れば枠取り線よりも細い。また,原告は,引用意匠の区画線を「点線という弱い線」,「印象の薄い点線」であるとするが,引用意匠記載の刊行物を子細に見ても,当該区画線は点線であるとまでは認められないし,仮に点線であるとしても,点が密な直線状に表されたものであって,区画線として明瞭に認識できるものである。審決は,こうした差異を主として枠取り線の太細の差異としてとらえたものであり,審決の差異点(ホ)の認定に誤りはない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告は,審決の共通点(1)及び(3)に対する判断は誤りである旨主張する(上記第3の2(1))が,その主張は,本願意匠の記入欄が左側記入欄と右側記入欄の二つの記入欄から構成されているとの主張(上記第3の1(1))を前提とするものであるところ,上記1(1)のとおり,その前提が失当であるから,類否判断の誤りに関する原告の上記主張も失当である。
(2) 原告は,審決の差異点(イ)に対する判断につき,同じ太さの実線で表された二つの記入欄及び一つの表記欄並びにそれらに付随する部分から成る本願意匠と,太い枠取り線で強調された一つの横長方形記入欄とそれに付随する点線で表された部分から成る引用意匠とは構成を大きく異にするとし,審決の上記判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,本願意匠の記入欄が左右二つの記入欄から構成されたものとの前提に立つものであるところ,上記1(1)のとおり,その前提が失当である。
他方,表記欄については,審決が差異点(イ)として認定するとおりの差異があり,また,本願意匠の表記欄は,記入欄の枠取り線とほぼ同程度の太さの実線で表されているのに対し,引用意匠の表記欄は,記入欄の枠取り線に比べて細い線で表されている。しかしながら,各種の伝票等において表記欄を方形枠で表すことは,ごく普通に見られること(乙3,4,10)であり,同じくごく普通に見られる引用意匠の該当部分を,単に別のごく普通に見られる形状に置き換えたものにすぎない。したがって,両意匠の差は,全体構成を同じくする中で,同じ位置に配置された表記欄の形状及び線の太さの差にとどまるものであり,両意匠の間において全体構成及び記入欄の構成に強い共通性があること(審決認定に係る共通点(1)ないし(3))を考慮すると,そうした表記欄の構成の差は,両意匠の共通性をしのぐものであるとまではいえない。
(3) 原告は,審決の差異点(ロ)に対する判断につき,本願意匠の記入欄は,左側記入欄と右側記入欄の二つの記入欄から構成されているなどとして,これを局部的な差異とする審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,本願意匠の記入欄が左右二つの記入欄から構成されているとの前提が誤っていることは,上記1(1)のとおりである上,本願意匠においても,引用意匠と同様,記入欄の3方の外周はやや太く枠取られており,記入欄全体として一つの大きな横長方形の記入欄であると看取されるものであるから,この点においても原告の上記主張は失当である。
(4) 原告は,審決の差異点(ハ)に対する判断につき,同差異点による視覚効果は,看者に大きくその差異を印象付けるものである旨主張する。
しかしながら,各種の伝票等において,特定の縦列を淡い暗調子で表すことはごく普通に行われること(乙7,8)であり,引用意匠の該当部分の淡い暗調子もとりわけ特徴的なものではない。そして,本願意匠は該当部分を淡い暗調子で表していないが,この点にも特徴はない。そして,その差異を形態全体として観察すれば,審決認定に係る共通点(3)の記入欄の具体的構成に係る共通性は,その余の共通点と一体となって,看者に強い共通感を印象付けており,差異点(ハ)は,記入欄の構成を同じくする中で見られる部分的な差異にとどまるといわざるを得ない。
(5) 原告は,審決の差異点(ニ)に対する判断につき,淡い暗調子で表された部分のある記入欄下端の突出枠は,他の記入欄に比べ,その視覚効果等から看者に特に注目される部分であるとした上,本願意匠においては淡い暗調子で表された部分はただ一つのみで,突出枠の左側の欄が特に注目されるのに対し,引用意匠では,記入欄右端列と突出枠中央の区画と太い枠取り線で囲まれた突出枠右端の区画であるとして,この差異を局部的な範囲の変更にとどまるとする審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,最下段に欄を設ける場合,本願意匠のように,その上方の縦罫線のうちの特定範囲の罫線をそのまま下方に延ばして升目を設けることは普通に見られることであり(乙2の1,乙7),その際,右端1列分を欠いて上方の縦罫線をそのまま1段分延長する態様で2区画を表す例も普通に見られ(乙9,10,11),さらに,突出枠の左側の区画を淡い暗調子で表したものも本件出願前に既に公開されており(乙12,13),こうした構成は,合計欄の構成,あるいは伝票等の記入欄の最下段の構成として,本願意匠が独自に備える態様ではない。
他方,引用意匠のように,突出枠の右端が記入欄の右端とほぼそろっている態様,区画線の位置が記入欄の縦罫線とややずれた位置にある態様も,伝票等の最下段の構成として,格別特徴的なものではない(乙14,15)。
また,原告は,引用意匠の記入欄右端列の淡い暗調子部分との関連効果等についても主張するが,伝票の分野においては,従来より一つの記入欄の構成が創作される場合,そのバリエーションとして,淡い暗調子の位置を,段,列,升目等を変えて適宜配したものについても同時に創作されることが広く行われており(乙8,19,20),また,複葉に重なる伝票等において1枚目と2枚目とで淡い暗調子部分を除去したり,位置を変更したりすることも普通に行われているところである。このような場合,淡い暗調子部分のみに着目して,そのパターンとして対比すれば,パターンの違いを看取することも可能であるが,上記のような伝票における淡い暗調子部分の二次的な性格に照らせば,その点のみを記入欄の構成と切り離して重視することは相当でない。本件においては,引用意匠は,ごく普通に表された2箇所の淡い暗調子部分を単に組み合わせたにすぎず,他方,本願意匠は,突出枠の下端に淡い暗調子部分が表されただけのものであり,しかも,上記のとおり,本願意匠の淡い暗調子部分の構成自体も独自性のないものである(乙12,12の1,乙13,13の1)から,原告主張の淡い暗調子部分の関連効果を考慮しても,その差異は,全体の基調を覆して両意匠の類似性を否定するものとまでは認められないというべきである。
(6) 原告は,審決の差異点(ホ)に対する判断につき,当該差異は,枠取り線の太細にとどまらず,その他の差異点とあいまって,本願意匠と引用意匠との全体構成に関する大きな差異につながっている旨主張する。
しかしながら,原告が本願意匠と引用意匠との全体構成の差異として主張する内容が失当であることは,上記1及び2(2)のとおりである。
確かに,本願意匠においては,引用意匠ほどには枠取り線が太く表されていないものの,引用意匠の枠取り線もこの種伝票として特に太いものではなく,枠取り線の全体(上端の帯状部分を除く。)が同じ太さの線で表され,角部が丸み付けられている点で共通する上,枠取り部分に看者の注意をひくような特徴付けや装飾が施されていない点でも共通する。さらに,引用意匠の突出枠右下隅のかぎ形の枠取りが,本願意匠と同様,記入欄の右下隅を欠いた印象を醸し出して共通感を付与し,差異点(ニ)による記入欄下端の差異感を希釈している。
したがって,差異点(ホ)についての審決の判断に誤りはない。
(7) 原告は,本願意匠と引用意匠はいずれも日常的に使用される伝票という物品に係るものであり,取引者,需要者は,わずかな差異であっても認識できるから,類似の幅は狭く解すべきである旨主張する。しかしながら,一口に伝票といっても,具体的な取引形態等に応じて様々な構造のものがあるのであり,そのような中にあって一律に「類似の幅が狭い」とする原告の主張は失当である。審決は,飽くまで,本願意匠と引用意匠とを個々具体的に対比し,その共通点,差異点を把握した上で,本願意匠が引用意匠と別異であると見るべき形態的特徴を備えているかどうか等を,物品の形態として(物品を離れた抽象形態としてではなく),当該物品の従前態様をも踏まえながら検討したものであり,その判断過程は正当なものである。
また,原告は,暗調子部分の配置の差が,明度ないしトーンの差として,看者に異なった美感を与えるとも主張するが,淡い暗調子部分を,記入欄の罫線の構成その他の構成要素と切り離して抽象的な図柄として対比するものであって失当である。意匠についての類否判断は,物品の形状等についての判断であるから,本件について,伝票という物品の性状や記入欄の構成と離れて,明度ないしトーンの違いのみに着目して判断することは相当でなく,飽くまで,物品の形態として,全体構成との関連の中で判断すべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(共通点及び差異点の誤り)について (1) 原告は,本願意匠の下半部分の記入欄は,その左右の方向について,全幅の3分の1強を占める左側記入欄と,全幅の3分の2弱を占める右側記入欄とに明確に分割されているとし,本願意匠の下半部分が一つの大きな記入欄であることを前提とした審決の共通点(1)の認定は誤りである旨主張する。
そこで検討すると,本願意匠(審決謄本別紙第一,乙16)の下半部分を占める記入欄は,その左端の列とその余の部分との間を区画する縦線のみが,他の縦線と異なって2本線となっており,かつ,当該2本線は,記入欄の横罫線(最下段の枠取り線を含む。)と交差する部分において,各横罫線を切断しており,また,記入欄上端の帯状枠と当該縦線とが交差する部分における帯状枠の切れ目も,他の縦線との交差部分と比較して,やや間隔が広いことを認めることができる。
しかしながら,そもそも,該当部分の縦の2本線はその間隔が極めて狭いものである上,2本線を構成するそれぞれの線は,記入欄の上方を除く3方の外周を囲む枠取り線に比べると明らかに弱い線であると認められるから,当該2本線による間隔の存在自体,看者にそれほど強い印象を与えるものとはいえない。また,本願意匠においては,下半部分の記入欄の外周の枠取り線及び上端の帯状枠は,四隅等の角部においては明確に丸みが付けられているが,当該2本線との交差部においては全く丸みが付けられておらず,直角のままとされており,この点は,看者に対し,記入欄の左端の列とその余の部分との連続性を印象付けるものというほかはないし,さらに,各種の伝票等の記入欄において縦罫線を2本線で表す場合,直交する横罫線を切断する形態を採ることは普通に見られる処理であること(乙17,18)をも考慮すれば,本願意匠の下半部分の記入欄を一つの大きな記入欄として認識することは,むしろ当然のことであって,この点に関する審決の認定に誤りはないというべきである。
(2) また,原告は,本願意匠の下半部分の記入欄は左右に分割されているとして,審決の差異点(ロ)の認定は誤りであると主張し,また,本願意匠は紙片の下半部分に32の小さな記入欄が横長方形に配置されていると認識されるのに対し,引用意匠は太い枠取り線で囲まれた大きな記入欄が一つあり,その内部を更に区画されていると認識されるものであり,その差異は単なる枠取り線の太細の差異ではないとして,審決の差異点(ホ)の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,差異点(ロ)については,本願意匠の記入欄が左右に分割されているとする点において,原告の主張がその前提を欠くことは,上記(1)で説示したとおりである。
また,差異点(ホ)については,本願意匠の記入欄が左右に分割されているとの前提が誤りであることは上記と同様である上,原告は,本願意匠の区画線はすべて同じ太さであるとも主張するが,本願意匠の区画線のうち,記入欄の枠取り線内の横罫線は枠取り線に比べ明らかに細く,縦罫線も子細に見れば枠取り線よりも弱い線であると認められるから,原告の主張はその点でも前提を欠くというほかはない。結局,上記(1)のとおり,本願意匠の下半部分の記入欄は一つの大きな記入欄として認識され,その点において本願意匠と引用意匠とに差異はないというべきであるから,審決の差異点(ホ)の認定に誤りはなく,原告の上記主張は採用の限りではない。
(3) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は,いずれも理由がない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 本願意匠と引用意匠とを全体として観察する(なお,本願意匠の裏面は白紙であって何ら特徴的な部分がないから,以下では,その表面のみを検討の対象とする。)と,両意匠とも,@横長方形状の紙片の下半部分に略横長方形状の記入欄を有するものであって,当該記入欄は,上端において,全幅にわたり幅細の暗調子の帯状部を設け,その下方に縦線と横線とで区画した記入枠を設けた上,最下段右寄りの部分を下に1段突出させる態様で表したものである点,A紙片の上半部分において,左側ほぼ半分を表記欄とし,右側ほぼ半分を余白として下端右寄りに横線を1本表すとともに,上端の中央やや右寄りに,紙片の横幅の4分の1前後の暗調子の帯状枠を設けたものである点,B記入欄の具体的態様につき,記入欄全体の外周は四隅その他の角部において丸みが付けられており,上端の帯状部は,上下幅が下方の横線間隔の2分の1程度の細いものであり,その下方の記入枠(突出部分を除く。)は,横線により上下方向に等間隔の5段に区画され,縦線により左右方向に広狭の幅差のある6列に区画されており,さらに,各列の左右方向の幅の割合は,左端列が記入欄の全幅の約3分の1を占めて最も広いのに対し,全幅のほぼ中央に位置する左から3番目の列が最も狭く,全6列の幅比は,左から右に,大略,7対2対1対2.5〜3対3対2である点,C記入欄の下方,紙片の左下の余白部に,横線を1本表している点,D紙片の左端に円孔の列を,右端にミシン目及び円孔の列を有している点,において共通する。
他方,本願意匠と引用意匠の主要な差異点は,(イ)紙片の上半部分につき,本願意匠は左側の表記欄を大きな方形枠で表しているのに対し,引用意匠では,下寄りに2本の横線を引いて表したものである点,(ロ)記入欄の左端列とその余の列とを区画する縦線につき,本願意匠は2本線で表しているのに対し,引用意匠は他の縦線と同様の1本線である点,(ハ)記入欄の右端列につき,引用意匠は淡い暗調子で表しているのに対し,本願意匠では淡い暗調子で表していない点,(ニ)記入欄下端の突出枠につき,本願意匠は,記入枠の右から2番目の3番目の列を,記入枠を区画する縦線をそのまま下方に1段分延長する形態で2区画を表し,そのうち左の区画を淡い暗調子で表したものであるのに対し,本願意匠の突出枠は,その左端を左から2列目の中ほどとし,右端を記入欄右端までとし,さらに,突出枠内においては,その余の記入欄の縦線とは異なる位置に3本の細い縦枠を設けて,これにより突出枠全体を四つに区画した上,そのうち右から2番目の区画を淡い暗調子で表したものである点,(ホ)記入欄の周囲の枠取り線につき,引用意匠のものは本願意匠のものよりもやや太めの線であり,また,下端の突出枠の右端の区画も同様の線で枠取られている点,であると認められる。
(2) 以上を前提に,本願意匠と引用意匠との類否について検討する。
ア 両意匠は,上記共通点@及びAのとおり,その形態全体に及ぶ基本的構成態様が共通している上,上記共通点Bのとおり,下半部分の大半を占める記入欄の具体的な構成態様においても,記入枠の段や列の構成といった主要な点が共通していると認められることからすれば,これらの共通点は,上記共通点C及びDとあいまって,両意匠の全体の基調を形成し,看者に強い共通感を与えるものと認めるのが相当である。
イ これに対し,両意匠には,上記(イ)ないし(ホ)の差異点も認められるものの,まず,表記欄の形態に関する差異点(イ)については,各種の伝票等において,表記欄を,本願意匠のもののように方形枠で表すこと(乙2の2[GB395と記載された請求書],乙2の3[GB394と記載された請求書,GB795と記載された合計請求書],乙3,4,10)も,引用意匠のように横線のみで表すこと(乙2の1,乙2の2[GB139と記載された請求書],乙2の3[GB348と記載された合計請求書])も,いずれもごく普通に見られることであって,この種の伝票類の表記欄について類型的に見られる形態を単に置き換えたというにすぎないというべきであるから,看者に与える影響はそれほど大きなものではない。
差異点(ロ)及び(ハ)はいずれも記入欄内部の構成要素に関する差異であるところ,差異点(ロ)については,本願意匠の2本線の間隔は極めて狭く,子細に観察しなければ看過される程度のものであると認められる上,縦罫線を2本線で表す処理自体も,各種の伝票等において普通に見られるものであることは上記1(1)のとおりであり,差異点(ハ)については,記入欄の特定の縦列を淡い暗調子で表すことは,各種の伝票等において普通に見られること(乙7,8)であり,逆に,特定の縦列を淡い暗調子で表さない処置もごく普通に見られることであって,現に,引用意匠について「対応従来商品」とされる「GB480」の納品書は,当該縦列を淡い暗調子としていない(乙1の1,2,乙2の1)ことからすれば,上記両差異点は,それ自体としては,上記共通点Bが示すとおり,本願意匠と引用意匠の記入欄のその余の主要な構成態様が共通している中にあっては,いずれも微細かつ局部的な差異にすぎないというべきである。
記入欄下端の突出枠の形態に関する差異点(ニ)については,本願意匠のように,その上方の縦罫線のうち,特定範囲の罫線をそのまま下方に延ばして升目を設けることは普通に見られることであり(乙2の1[GB480-1P等と記載された納品書],乙7),また,その際,右端一列分を欠いた形態で2区画を表す例も普通に見られ(乙9[第3図],乙10[第2図],乙11[図2]),さらに,その際,本願意匠と全く同様に,2区画のうちの左側の区画を淡い暗調子で表したものも本件出願前に公知であったと認められる(乙12,12の1,乙13,13の1)。他方,引用意匠と同様の突出枠の形態も格別珍しいものではないと見られる(乙14,15)上,引用意匠について「対応従来商品」とされる「GB480」の納品書は,その記入欄下端突出枠が,引用意匠の記入欄の右3列について,縦罫線をそのまま下方に延ばして升目を設けた形態であり,引用意匠は当該突出枠部分を変更したものであると認められること(乙1の1,2,乙2の1)をも考え併せれば,差異点(ニ)は,この種の伝票等において,いわば常とう的に用いられる手法の組み合わせにすぎないというべきであるから,それによって,取引者,需要者が,意匠全体から受ける美的印象を強く左右されるとは考え難いところである。そうすると,本願意匠の突出枠と引用意匠の突出枠とに見られる淡い暗調子部分の位置の違いと,記入欄右端列の淡い暗調子部分の有無に関する差異点(ハ)とがあいまって,看者に与え得る一定の視覚的効果を加味して考えても,その差異は,両意匠全体の基調ないし強い共通感(上記ア)をしのぐものではないと認めるのが相当である。
差異点(ホ)については,そもそも,引用意匠でも本願意匠でも,記入欄の周囲の枠取り線が,記入欄内部の罫線よりも太い(あるいは濃い)線であり,かつ,枠取り線の四隅等の角部に丸みが付けられているという点において共通しているものと認められるところ,確かに,引用意匠の枠取り線は,本願意匠のものよりも幾分太い線であると見られるものの,この種の伝票類に見られる枠取り線として,特別に太い線であるとまではいえないし,看者の注意をひくような特徴付けや装飾も施されていないことからすれば,その差異は局部的なものであって,看者に与える影響も微弱なものにとどまるものといえる。
ウ 以上のとおり,両意匠の間に見られる上記各差異点は,いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響は強いものではなく,上記各共通点によって形成された全体の基調ないし強い共通感をしのぐものではないというべきであるから,看者に異なった美感を与えるものということはできず,両意匠は意匠全体として類似するとした審決の判断(審決謄本2頁最終段落〜3頁下から第2段落)に誤りはないというべきである。
(3) これに対し,原告は,大略,@本願意匠の下半部分の記入欄は左側記入欄と右側記入欄とに分かれているから,本願意匠は,同じ太さの実線で表された二つの記入欄及び一つの表記欄とそれらに付随する部分から構成されるのに対し,引用意匠は,太い枠取り線で強調された一つの大きな横長方形の記入欄とそれに付随する点線で表された部分から構成されるから,両者は,その全体構成において大きく異なる,A本願意匠の記入欄において淡い暗調子で表された部分は記入欄下端突出枠の左側の区画のみであり,その欄こそが看者に特に注目されるのに対し,引用意匠においては,看者が注目するのは,淡い暗調子で表された記入欄右端列及び記入欄下端突出枠の中央の区画,並びに太い枠取り線で囲まれた記入欄下端突出枠の右端の区画であり,この差異は,両意匠の類否判断に大きく影響する,B本願意匠と引用意匠との間においては,暗調子部分の配置に大きな差があることから,取引者,需要者は,意匠全体の明度ないしトーンの差として異なった美感を看取する,と主張して,審決の上記判断を論難する。
しかしながら,上記@の主張については,本願意匠の記入欄が左右二つの記入欄から構成されたものとの前提に立つものであるところ,その前提が誤りであることは上記1(1)のとおりであり,両意匠は,その下半部分に略横長方形状の記入欄を有すること等,その基本的構成態様において共通するというべきであるから,原告の主張は採用の限りではない。
また,上記A及びBについては,上記(2)において差異点(ハ)及び(ニ)について説示したとおり,本願意匠及び引用意匠における淡い暗調子部分の配置の差はこの種の伝票等において普通に見られるものにすぎず,暗調子部分の配置自体については両意匠間で特段の差異がないこと等からすれば,当該部分のみを取り出して,意匠の要部であるといえるほどの特徴は認められないから,両意匠の類否判断に際しては,伝票という物品に係る意匠として,両意匠を全体として観察すべきである。そうすると,意匠の全体的構成や表記欄の構成等を離れて,原告主張のように当該視覚的効果のみが看者に強い影響を与えるということはできないし,他方,両意匠は,上記(2)アのとおり,その記入欄,表記欄の配置等の基本的構成態様が一致し,記入欄内部の段や列の構成といった記入欄の具体的構成もかなりの程度一致しているのであるから,仮に,暗調子部分ないし淡い暗調子部分の配置の差によって原告主張のような一定の視覚的効果があるとしても,そうした差異をもって,上記(2)アで説示した両意匠の基調ないし共通感をしのぐものではないことは,上記(2)イで説示したとおりであって,原告の主張は採用することができない。なお,原告は両意匠に係る物品である伝票の取引の実情を考慮すべきである旨主張するが,現に,引用意匠にみられる淡い暗調子部分を除いた意匠を用いた商品が,引用意匠を用いた商品の「対応従来商品」とされていることは上記のとおりであり,このことからもうかがわれる,淡い暗調子部分の有無において差異のある意匠がこの種伝票の分野においては類似する商品として取り扱われているという取引の実情は,上記の判断を支持するものというべきである。
以上のほか,原告が主張するところは,審決を正解しないか,又は独自の見解に基づいて審決を論難するものにすぎず,採用の限りではない。
3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 早田尚貴
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