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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  新規性 /  客観的創作性 /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  類似する意匠 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  通常実施権 /  特許権 /  実用新案権 /  権利濫用(権利の濫用) /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 4764号 意匠権侵害差止等請求請求控訴事件
控訴人(原告・反訴被告) 株式会社カンダ
訴訟代理人弁護士 藤巻元雄,補佐人弁理士 牛木理一
被控訴人(被告・反訴原告) 旭化成株式会社
被控訴人(被告・反訴原告) サランラツプ販売株式会社
両名訴訟代理人弁護士 山本隆司,井奈波朋子,足立佳丈
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/12
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決中,被控訴人らの反訴請求に係る部分を取り消す。
被控訴人らの反訴請求を棄却する。
その余の本件控訴を棄却する。
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを20分し,その1を被控訴人らの負担とし,その余は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の穴あきセパレート紙を製造し,譲渡し」,貸し渡し,若しくは輸入し,又は製造若しくは引渡しのために展示してはならない。
3 被控訴人らは,前項記載の穴あきセパレート紙を廃棄せよ。
4 被控訴人らの反訴請求を棄却する。
事案の概要
1 本判決においても,原判決の用語と同様に又はこれに準じ,「被控訴人旭化成」,「被控訴人サランラツプ販売」,「本件意匠権」,「本件登録意匠」,「本件意匠公報」,「イ号物件」,「イ号意匠」,「ロ号物件」,「ロ号意匠」,「ハ号物件」,「ハ号意匠」,「ヤマコーら」,「本件警告書」という。
2 本件本訴請求は,本件意匠権を有する控訴人が,被控訴人旭化成が製造し,被控訴人サランラツプ販売が販売しているイ号物件及びロ号物件が控訴人の本件意匠権を侵害していると主張して,被控訴人らに対し,上記各物件の製造,譲渡などの差止め及び廃棄を請求した事案である。
本件反訴請求は,被控訴人らが,控訴人が被控訴人らの取引先であるヤマコーらに対し,平成13年10月3日付け内容証明郵便で,上記イ,ロ号物件が控訴人の有する本件登録意匠の範囲に属する類似品である旨を記載した本件警告書を送付した行為が,虚偽の事実を告知,流布した不正競争行為に当たると主張して,控訴人に対し,不正競争防止法2条1項14号,4条に基づく損害賠償請求をした事案である。
原判決は,イ号物件及びロ号物件は,本件登録意匠に類似しないことを理由として(なお,本件登録意匠は,意匠法3条2項の規定に違反して意匠登録されたもので,無効理由を有することが明らかであることをも理由として),控訴人の本訴請求を棄却し,他方,控訴人の本件警告書の送付行為は,虚偽の事実の告知,流布として,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当し,控訴人に少なくとも過失があったとして,被控訴人らの反訴請求を認容した。
そこで,控訴人が本件控訴の提起に及んだものである。
3 当事者の主張は,次の4及び5のとおり当事者の当審における主張の要点を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点) 別紙「平成14年10月24日付け控訴人の控訴理由書の要点」に記載のとおりである。その骨子は次のとおりである。
(1) 控訴人の主張に関する原判決の事実摘示について (1-1) 争点2に関する控訴人の反論につき,別紙「控訴人理由書の要点」第1の1に記載のとおり,乙1の1〜10の信憑性を争う主張等を付加するなどの補正をすべきである。
(1-2) 争点2のうち,意匠法3条2項の意義に関する控訴人の主張につき,別紙「控訴人理由書の要点」第1の2に記載のように補正すべきである。
(2) 原判決の事実誤認と法律解釈の誤りについて (2-1) 争点1について 本件登録意匠の要部の認定についての事実誤認がある。
類否の判断についての事実誤認がある。イ号意匠及びロ号意匠は,全体として本件登録意匠に類似するものである。
(2-2) 争点2について本件意匠権の登録を無効と判断したことには,その前提としての法律解釈に誤りがある。
(2-3) 争点4について 不正競争行為の該当性の認定について事実誤認がある。
過失の認定について事実誤認がある。
5 当審における被控訴人らの主張の要点 (1) 事実摘示に関する主張に対して 事実摘示については,原判決の摘示するとおりであり,誤りはない。
(2) 事実誤認と法律解釈の誤りに関する主張に対して (2-1) 争点1について 乙1,2の各書証に信憑性があることは,原審で主張したとおりである。本件登録意匠の要部認定のための前提となる原判決の事実認定に誤りはなく,本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠とは類似しない。
(2-2) 争点2について 控訴人の主張には,最判平成12年4月11日の理解に関して誤解がある。同判決は,特許法39条1項違反のほか,29条2項違反についても認定している。すなわち,同判決は,新規性の欠如により特許が無効とされるかあるいは進歩性の欠如により特許が無効とされるかにかかわりないものとして判断しているのである。
原判決の争点2に関する判断は正当である。
(2-3) 争点4について 不正競争行為該当性及び過失の認定に関しても,被控訴人らが原審で主張したとおりである。なお,控訴人の援用する各裁判例も警告を発する者の高度な注意義務を要求している。控訴人の主張は,控訴人が,類似性,無効性について充分な検討を怠り,上記裁判例が要求する高度な注意義務を尽くさず本件警告書を発し,信用毀損行為を行ったことの自白にほかならない。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の本訴請求については,原判決とは理由を異にするものの結論を同じくし,請求を棄却すべきものと判断し,被控訴人らの反訴請求については,原判決の結論とは異なり,請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。
2 イ号意匠,ロ号意匠,本件登録意匠及び乙1の1ないし10に添付のクッキングシートに係る意匠との類否について (1) 本件登録意匠の構成は,原判決17頁下から3行目から18頁13行目までに認定されたとおりであるから,これを引用する。
また,イ号意匠及びロ号意匠の構成は,原判決18頁14行目から19頁7行目までに認定されたとおりであるから,これを引用する。
そして,乙1の1ないし10(10通の証明書)に添付のクッキングシートに係る意匠の構成及び製造,販売の事実関係等は,原判決19頁9行目の「前記」から21頁4行目の「認められる」まで,及び同21頁12行目から同頁下から3行目までに認定されたとおりであるから,これを引用する。なお,被控訴人らは,乙1の1ないし10に添付のクッキングシートを根拠にハ号意匠を主張するが,原判決別紙のハ号物件目録の記載が上記クッキングシートの意匠を正確に反映したものであるかについては争いがあり,確かに厳密な正確性については疑問の余地もあるので,正確性を期して,原判決と同様に,当裁判所も,ハ号物件目録の記載によることなく,乙1の1〜10に添付されたクッキングシートに係る意匠そのもの(以下,この意匠を「乙1意匠」という。)を検討対象とする。なお,乙1の1〜10に添付されたクッキングシートの形状は,相互に透孔の位置に若干のずれがみられるが,意匠の構成としては同一のものであると認められる。
(2) そこで,類否の検討をする。
(2-1) 本件登録意匠,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠の各形態をみるに,いずれも全体を円形状の薄いシート体とし,シート体の内側に円形状の小さい透孔を規則散点状に形成したという基本的構成態様を共通とする。そして,透孔の数は,前認定(原判決引用)のとおり,本件登録意匠が25個,イ号意匠が約28個,ロ号意匠が約21個,乙1意匠が約21個となっており,シートの大きさとの関係にも影響されることを考慮すれば,各意匠における透孔の密度には大差はないものと認められ,さらに,透孔の形状は,各意匠とも円形であり(乙1意匠の透孔のひび割れの点については後に検討する。),透孔の大きさは,各意匠内において同じ大きさであるとの点で共通する。
また,本件登録意匠,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠は,意匠に係る物品がいずれもせいろう用中敷き(穴あきセパレート紙)である点でも一致する。
(2-2) 他方,差異点をみると,(a) 前認定(原判決引用)のとおり,本件登録意匠における透孔は,円形状シートの中心点に1個,その中心点からみて3つの仮想同心円上に,内側から,順次7個,7個,10個とそれぞれほぼ等間隔をもって散点状に分布しているのに対し,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠における透孔は,円形状のシート上の等間隔の仮想平行横線とこれと斜め格子状に交差する等間隔の仮想平行縦線との交点部分に配置され,これらはシート全体にほぼ均等に分布していること,(b) 本件登録意匠においては,シートの周縁上に掛かる透孔がないのに対し,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠においては,シートの周縁上に掛かる透孔が存在している場合もあること,(c) 乙1意匠については,透孔の各開口部の周囲にいわゆるバリが出て不規則なひび割れのように菊花状にめくれた形態となっているのに対し,本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の透孔の各開口部は,そのような形態ではないことが認められる(甲1,3の1・2,4の1・2,17の1〜3,18の1〜3,乙1の1〜10,検甲3,4,弁論の全趣旨。なお,イ号意匠の実物である検甲3及びロ号意匠の実物である検甲4を仔細に見分すると,これらにも透孔開口部の周囲にかすかに不規則なひび割れが存在することが認められる。しかし,類否判断においては,無視して差し支えないほどに目に付きにくく気付きにくい程度のものである。)。
(2-3) 以上を踏まえて検討するに,上記(2-1)に記載のように,本件登録意匠,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠に共通する態様,すなわち,全体を円形状の薄いシート体とし,シート体の内側に円形状の同じ大きさの小さい透孔25個前後を規則散点状に形成した態様は,上記各意匠の形態上の基調をなすもので,各意匠の使用状態の共通点と相まって,各意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものと認められる。差異点のうち,上記(a)の透孔の配置の点は,せいろう用中敷きにおいて,透孔を同心円状に配置したり,格子状に配置したりすることに,格別に意匠としての創作があったものとは認められず,その配置形態自体は従来から普通に見受けられるものであって(乙3,5,6,検乙1の1〜3,弁論の全趣旨),意匠の上記共通する基本的構成態様の中の部分的差異にとどまり,意匠の類否判断に与える影響は微弱であると認められる。また,上記(b)の周縁上に掛かる透孔の存否の点についても,同様に,意匠の上記共通する基本的構成態様の中の部分的差異にとどまり,類否判断への影響は微弱であると認められる。そして,上記(c)の透孔の周囲のバリの点については,乙1意匠の透孔開口部の周囲にみられる不規則なひび割れないし菊花状にめくれた形態は,成形工具の切れ味が必ずしも十分でなかったことによって生じたものであり,クッキングシートの背景に暗色の台紙等を置いて仔細に観察すれば認識することができる程度の微細な差異であって,乙1意匠と上記その他の意匠との類否判断に与える影響は微弱なものにすぎないものと認められる(乙1の1〜10,弁論の全趣旨)。
そうすると,本件登録意匠,イ号意匠,ロ号意匠及び乙1意匠は,それぞれ相互に類似する意匠であると認められる。
控訴人は,乙1意匠と本件登録意匠とは類似しない旨主張し,被控訴人らは,イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠とは類似しない旨主張するが,上記に判示したところからすれば,これらの各主張部分は採用することができない。
3 上記2の認定判断を踏まえて,各争点について判断する。
(1) 争点1(イ号意匠,ロ号意匠と本件登録意匠との類否)について 前判示のとおり,イ号意匠,ロ号意匠と本件登録意匠とは,類似するものと認められるのであり,類似しないものとした原判決の認定判断は相当ではない。控訴人の主張もこれと同旨の限度で理由がある。
(2) 争点2(本件登録意匠における無効理由の存否)について (2-1) 前判示(原判決引用部分も含む)のとおり,乙1意匠と本件登録意匠とは,類似するものと認められる。そこで,乙1意匠が本件意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前に,公然と実施され,公然知られた意匠であったものか否か,すなわち,本件登録意匠は,意匠法3条1項の規定に違反して登録されたものであって,無効理由を有することが明らかであるというべきか否かが問題となる。
(2-2) 控訴人は,乙1意匠と本件登録意匠との類似性について争うほか,本件登録意匠新規性の欠如を主張する被控訴人らの主張に対して,概要,次のように主張する(別紙「控訴理由書の要点」第1の1参照)。
そもそも,乙1の1〜10には信憑性がなく,これを唯一の根拠として新規性の欠如をいうのは誤っている。すなわち,乙1の1〜3は,いずれも沖縄県の会社が使用していたと称する証明書であるが,これを被控訴人サランラツプ販売から仕入れた事実や使用中の事実は証明されていないし,乙1の4〜8は,いずれも1997年又は1998年から2001年1月まで広く業務用に販売していたと称する証明書であるが,これを被控訴人サランラツプ販売から仕入れた事実も,何人に販売していたかの事実も証明されていないし,乙1の9は1997年4月から2000年9月まで訴外株式会社蝶理プロテックに加工委託したと称するだけの証明書であり,乙1の10は,1997年4月から2000年9月まで上記蝶理プロテックが受託製造したと称するだけの証明書である。また,前記乙1の1〜10の証明書を裏付けようとして提出された乙2の1〜7は,前記各証明書に記載されている長期間にわたり当該製品を取り扱っていたことについて裏付けるものではないし,仮に一時期に当該製品を取り扱ったことがあったとしても,また各書類中に単に「穴あき」と記入されていたとしても,穴の態様は様々のものがあり得るから,これと乙1の1〜10の各証明書に添付された製品との関係を特定することはできない。
控訴人は,また,乙1の1ないし10の信憑性等について,次のようにも主張しているので(別紙「控訴理由書の要点」第2の1(1)参照。争点1に関する主張部分ではあるが,検討すべき対象としては共通する。),これをも斟酌する。
その主張の概要は,乙1の1〜10の実施証明書には,具体的な取引を示す正確な日付,種類(型番),数量などが証明されていないこと,売上元帳,仕入元帳を提出して立証すべきであること,各証明書が「たのまれ証明」であること,各証明書が特許庁長官を名宛人として作成されたからといって証明内容に信憑性を認める根拠にはならないこと,特許庁で作成者の証人尋問がされたわけではないこと,各証明書に添付されたクッキングシートの現物は,証明書のフォームを作成して依頼した被控訴人らから提供されたものであること,乙2の1〜7を各証明書の裏付け証拠として認定したのはすざんな認定であることなどをいうものである。
(2-3) そこで,検討するに,乙1の1ないし10は,これらの成立及び内容の信用性を疑わしめるような事情をうかがわせる証拠はなく,これらに加え,乙2の1〜7,甲9の2,19及び弁論の全趣旨によれば,乙1意匠は,本件意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前に,公然と実施され,公然知られた意匠であったものと認めることができる。この点については,次のとおり付加するほか,原判決が適切に判示するところであるので(原判決19頁9行目の「前記」から21頁4行目の「認められる」まで,及び同21頁12行目から同頁下から3行目まで。争点1に関する部分ではあるが,判断対象は共通する。),これを引用する。
乙1の1ないし10の実施証明書は,それぞれに穴あきセパレート紙を添付した上,証明文言として,「当社は,サランラップ販売株式会社から仕入れた穴あきセパレート紙(添付)を○○年から○○年○月まで使用していたことを証明する。」(乙1の1〜3。なお,使用期間は,証明する各社ごとに具体的に記載されている。),「・・(同文)・・広く業務用に販売していたことを証明する。」(乙1の4〜8),「当社は,サランラップ販売株式会社から旭化成ポリフレックス株式会社を経由して委託された穴あきセパレート紙(添付)を1997年4月から2000年9月の間,株式会社蝶理プロテックに加工委託していたことを証明する。」(乙1の9)又は「当社は,サランラップ販売株式会社から旭化成ポリフレックス株式会社,伊藤景加工開発株式会社を経由して委託された穴あきセパレート紙(添付)を1997年4月から2000年9月まで製造していたことを証明する。」(乙1の10)と記載しているものである。
確かに,控訴人の主張するように,上記証明文言には,個別具体的な仕入れ,販売等の日付,数量などが記載されておらず,その内容は,定型的でいささか概括的な内容であるといわざるを得ないし,各証明書の印刷部分の内容,文字,レイアウトなどがほぼ一致しており,いずれも被控訴人側において作成・印刷し,証明対象の穴あきセパレート紙も貼付した上で,各社に提示し,各社において,日付,住所,社名,社長等の氏名を記入し(もっとも,乙1の2には個人名の記載はない。),押印し,さらに,貼付された穴あきセパレート紙と台紙にまたがって押印(契印)したものと推測される。そして,上記各証明書は,被控訴人側の依頼により,各社が証明したであろうことも容易に推認し得るところである。
しかしながら,乙1の1〜10の各証明書の内容,記載状況,体裁,形状等に照らせば,証明した各社ないし担当者において,実施証明書にあらかじめ記載された証明文言を認識し,添付の穴あきセパレート紙も確認した上,これを了承して,自らの社名等を記載し,押印したものと推認されるのであり,この認定に反する証拠はない。そうであるとすると,たとえ証明文言を被控訴人側で作成し,穴あきセパレート紙も被控訴人側で添付し,各社に被控訴人側が依頼して証明してもらったものであるとしても,そのことの故をもって直ちに,各実施証明書の信用性(信憑性)を欠くものということはできない。
そして,上記のことに加え,本件全証拠を検討しても,各社が内容虚偽の証明をしたことなどを疑わせる証拠は見当たらないことをも考慮すれば,乙1の1ないし10の信用性を否定することはできない。
なお,各証明書が特許庁長官を名宛人としている点については,そのことによって当然に信用性を認め得るものではないが,各証明書の作成者は,当該証明書が特許庁における審判などの権利関係を左右する公的手続に使用されるものであることを認識しつつ作成したであろうことが推認されるのであって,原判決もその趣旨で,各証明書が「特許庁長官を名宛人とした」ものであることを摘示したものと解される。したがって,このような点をも一事情として総合的に考慮し,各証明書の信用性を肯定する判断をした原判決に不当な点は認められない。
そこで,上記各証明書の内容を吟味すると,それらは,いささか概括的ではあるが,本件意匠登録出願日である平成11年3月31日より前の時期において(本件結論に影響しないが,出願後の時期をも含め証明されている。),各証明書を作成した会社が,被控訴人サランラツプ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を使用していたこと(乙1の1〜3),被控訴人サランラツプ販売から仕入れた穴あきセパレート紙を広く業務用に販売していたこと(乙1の4〜8)を証明するものであり,これに,加工委託していた会社(乙1の9),製造をしていた会社(乙1の10)の証明のほか,特定の会社(株式会社尚美堂)関係の取引のみについてではあるが,注文,製造,納品等を裏付ける証拠(乙2の1〜7)をも総合すれば,乙1意匠に係る穴あきセパレート紙(クッキングペーパー)が各証明書記載の取引の対象とされていたことを優に認めることができ,これらの事情により,乙1意匠が本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠であったことを推認することができるのである。
乙1の1ないし10の各書証を裏付ける売上元帳,仕入元帳の提出がないことや,作成者の証人尋問を経ていないからといって,上記認定を疑わしめ,あるいはこれを覆すべき理由をうかがわせる証拠はなく,その他,本件全証拠をすべて精査しても,控訴人の上記に関する主張は,採用の限りでないといわざるを得ない。
(2-4) 以上によれば,乙1意匠は,本件意匠登録出願日(平成11年3月31日)より前に,日本国内において公然知られた意匠であって,本件登録意匠は,この乙1意匠に類似するものと認められる。そうすると,本件登録意匠は,意匠法3条1項3号の規定に違反して登録されたものであって,無効理由を有することが明らかである。したがって,本件意匠権に基づく差止めなどの控訴人の本訴請求は権利の濫用に当たり,許されないものというべきである(なお,争点2について,被控訴人らは,新規性の欠如と創作性の欠如を主張し,原判決は,後者である意匠法3条2項の問題として判示し,この点に対して控訴人が当審において論難するところである(別紙「控訴理由書の要点」参照)。しかし,前判示のところからすれば,この点について判断するまでもなく,本件登録意匠には無効理由があり,本訴請求は許されないことになる。)。
(3) 争点3(先使用による通常実施権の有無)について 既に判示した事実関係及び弁論の全趣旨に照らせば,被控訴人らは,本件登録意匠を知らないで,これに類似する乙1意匠を創作し,現に日本国内において,乙1意匠に係る物品を製造,販売して,これを実施する事業をしていた者であること,乙1意匠とイ号意匠及びロ号意匠とは,前記のような些細な相違はあるものの,実質的に同一であり,イ号意匠及びロ号意匠の実施は,実施している乙1意匠及び事業の目的の範囲内にあることが認められる。よって,被控訴人らは,イ号意匠及びロ号意匠について通常実施権を有するものと認められる。この意味においても,控訴人の本訴請求は理由がない。
(4) 争点4(本件警告書送付の不正競争行為該当性等)について 前認定のとおり,本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠とは,類似するものと認められる。そうすると,被控訴人らの反訴請求は,これが類似しないことを前提に,控訴人による本件警告書の内容が虚偽であることを理由として,不正競争行為に該当するものと主張するものである(この主張に基づき,原判決も,控訴人は「イ号意匠,ロ号意匠が本件登録意匠に類似するものと軽信して」「類似品である旨の虚偽の事実を記載した本件警告書を」送付したものであると認定している。)から,その前提を欠くことが明らかである。その他,被控訴人らの主張を精査しても,反訴請求を理由があるものと認めることはできない。
4 以上を要するに,控訴人の本訴請求については,(@) イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠とは類似する,しかし,(A) 本件登録意匠の意匠登録には無効理由が存在することが明らかであり,本件意匠権に基づく差止めなどの本訴請求は権利の濫用に当たること,あるいは,(B) 被控訴人らが先使用による通常実施権を有することから,本訴請求は理由がないというべきである。他方,被控訴人らの反訴請求は,イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠とは類似することから,本件警告書の内容が虚偽であったとの主張を認めることができず,その他,反訴請求を根拠づける理由がないことになる。よって,控訴人の本訴請求及び被控訴人らの反訴請求は,ともに理由がないのであって,棄却されるべきものである。
そうすると,控訴人の本訴請求については,原判決の理由は上記判示のとおり是認し得ないが,請求を棄却すべきものとした原判決の結論は相当である。他方,被控訴人らの反訴請求については,これを認容すべきものとした原判決は相当でない。
5 結論 よって,控訴人の本件控訴中,被控訴人らの反訴請求に関する控訴は理由があるので,原判決の反訴請求を認容した部分を取り消した上,同請求を棄却することとし,本訴請求に関する控訴は理由がないので,上記反訴請求に関するものを除くその余の控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
【別紙】平成14年10月24日付け控訴人の控訴理由書の要点(下記は,上記控訴理由書の本文であり,文書の書式は変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)第1事案の概要についての事実摘示の問題点1.争点2に関する当事者の主張について原告は、本件登録意匠に対し被告が提出した乙1の1〜10の各証明書に添付された現品上の透孔の形状における美醜の違いを指摘し、イ号・ロ号物件に係る意匠は、真円形に近く奇麗に穿孔されているのに対し、乙1各号における意匠は限りなく真円形に遠く汚く穿孔されていることを理由に、イ号・ロ号の意匠は本件登録意匠とは類似しても、乙1各号の意匠は類似しないと反論したのである。したがって、原審判決に記載された事実摘示(13頁)では、誤解をまねくおそれのある不十分な説明といわねばならない。
本事件で、原告が最大の争点としている問題は、被告提出の乙1各号の証明書の信憑性であり、これを唯一の根拠に導いている新規性欠如の判断に対してである。
原告は、「乙第1号証の1乃至3はいずれも沖縄県の会社が使用していたと称する証明書であるが、これを被告サランラップ販売から仕入れた事実や使用中の事実は証明されていないし、乙第1号証の4乃至8はいずれも1997年又は1998年から2001年1月まで広く業務用に販売していたと証する証明書であるが、これを被告サランラップ販売から仕入れた事実も、何人に販売していたかの事実も証明されていないし、乙1号証の9は1997年4月から2000年9月まで訴外樺ア理プロテックに加工委託したと称するだけの証明書であり、乙第1号証の10は1997年4月から2000年9月まで訴外樺ア理プロテックが受託製造したと称するだけの証明書である。
また、前記乙第1号証各号の証明書を裏付けようとして提出された乙第2号証各号は、前記各証明書に記載されている長期間にわたり当該製品を取扱っていたことについて裏付けるものではないし、仮に一時期に当該製品を取扱ったことがあったとしても、また各書類中に単に『穴あき』と記入されていたとしても、穴の態様は様々のものがあり得るから、これと乙第1号証各号の証明書に添付された製品との関係を特定することはできない。」(第3回準備書面4〜5頁)、と主張しているにもかかわらず、これらについての記述が原告の主張としてまとめられていない。
これらの原告の主張を記述していないことは、誤った事実認定を導くことになったというべきである。
2.意匠法3条2項の意義について意匠法3条2項の意義(13頁)について、原告は、「創作性」という用語を使用すると、意匠の類似について考える創作説の立場からすると、新規性を意味する客観的創作性と混同するおそれがあるから、あえて「創作力」又は「創作容易性」という用語を使用している。そして、本件登録意匠は、被告提出の証拠に基いては、容易に創作することができるものではないと反論したのである。この原告の主張は正確に記載されていない。
第2事実誤認と法律解釈の誤り1.争点1に対して(1)本件登録意匠の要部の認定についての事実誤認原審判決は、被告らが、本件登録意匠の出願日前の平成9年4月ごろから平成12年末まで、直径約130oの円形状セパレート紙に多数の小透孔を分布したものを製造・販売したと認定した。しかし、これの製造を裏付ける証拠は乙1の10だけである。
また、販売流通については、穴あきセパレート紙について、乙1の1〜10に示した証明書のとおり「市場において流通したこと」を認定したが、単にこれだけの証拠によって、本件登録意匠の要部を認定したことは失当である。
この各証明書は、いずれも次の理由によって信憑性がない。
@乙1の1は、ムーンビーチ・リゾート(社判のみ)が、被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて使用したことを証明するというが、両社間の具体的な取引事実を示す正確な日付も種類(型番)も数量も販売先なども具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では信憑性がない。
A乙1の2は、JALプライベートリゾートオクマ(社判のみ)が、被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて使用していたことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では信憑性がない。
B乙1の3は、名護国際観光(個人印)が、被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて使用していたことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では信憑性がない。
C乙1の4は、鰹ョ美堂が被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて広く業務用に販売したことを証明するというが、両者間の取引関係を示す日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では信憑性がない。
D乙1の5は、大森食品鰍ェ被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて販売したことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
E乙1の6は、(有)アンカー商事が被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて販売したことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
F乙1の7は、オザックス渇ォ縄営業所(所判のみ)が被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて販売したことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
G乙1の8は、(有)沖縄ウチハラ(社判のみ)が、被告サランラップ販売鰍ゥら仕入れて販売したことを証明するというが、両社間の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
H乙1の9は、伊藤景加工開発鰍ェ被告サランラップ販売鰍ゥら旭化成ポリフレックス鰍経由しての加工委託を、さらに樺ア理プロテックに委託したことを証明するというが、四社間の現実の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
I乙1の10は、樺ア理プロテックがサランラップ販売鰍ゥら旭化成ポリフレックス鰍ニ伊藤景加工開発鰍経由して加工委託された製品を製造したことを証明するというが、四社間の現実の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
J乙1の11は、旭化成パックス鰍ェ被告サランラップ販売鰍ゥら委託された製品を伊藤景加工開発鰍経由して樺ア理プロテックに加工委託したことを証明するというが、四社間の現実の取引関係を示す正確な日付も種類も数量も具体的に証明されていない。このような事実関係が明らかでない証拠では、信憑性がない。
以上のとおり、乙1各号に係る証拠はすべて信憑性がなく、各証明書に添付された製品が、本件登録意匠の出願前に「不特定・多数の者」によって知られていたものと解するには程遠い内容のものである。してみれば、これらの証明書をもって、
本件登録意匠が意匠法3条1項3号に規定する「公然知られた意匠」と類似であったと認定することは不可能である。
これらの証明書はいずれも「たのまれ証明」といわざるを得ないにもかかわらず、被告は証明書の作成者は本件訴訟には何の利害関係もないと反論したが、本件訴訟自体に利害関係がなくても、被告らとの業務上の利害関係がある以上、その関係からの「たのまれ証明」と考える方が自然である。
被告らは、証明事実が虚偽であると原告が信ずるならば、各作成者に問い合わせれば足ると反論していたが、もし受注生産による取引が事実であったとしても、受注生産という閉鎖された枠の中での非公然の特殊な取引関係であってみれば、第三者の問い合わせに対して回答を拒否することは見えている。したがって、乙1各号の証拠によっては、そこに添付の現品が公然知られた意匠であると認定される根拠たり得ないというべきである。
にもかかわらず、原審判決が、「乙1の1〜10の証明書は、いずれも、特許庁長官を名宛人とした『実施証明書』として、会社名、代表者ないし担当者の名称が記名され、代表者ないし担当者の印が押印され、当時の取引の対象とされた穴あきセパレート紙の現物が添付されているものであって、その形式、内容に照らして十分信用することができるというべきである。」と認定したことは、誤りというべきである。
けだし、特許庁長官を名宛人とした証明書であれば、その証明内容を鵜呑みにしても問題ないと考えたことも、当時の取引対象の現物が添付されていれば問題ないと考えたことも、いずれも信憑性を信頼するだけの根拠とならないからである。逆に、前者の行為の裏付け証拠を特許庁長官自身は受領して確認を得ているわけではないこと、特許庁長官は特許庁審判において証人調べはしていないこと、後者の現物は証明書フォームを作成して依頼した被告から提供されたものであることが、十分推認できることがその理由である。
証明書の名宛先を、特許権侵害訴訟や特許無効審判では、特許庁長官とすれば、
すべて真実と認定とされるというのであれば、こんごは、かかる根拠薄弱な証拠によって結着がつく事件が増えることになる。
原審判決は、乙2の1〜7の取引書類を前記証明書の裏付け証拠として、これらを総合してとして認定しているが、これはきわめて杜撰な一方的な認定である。
したがって、乙1の1〜10及び乙2の7のごとき証拠を理由に公知意匠として認定し、これらとの対比から本件登録意匠の特徴を抽出してその創作の要部を認定したことは、誤った判断に導いたことになるから、失当である。
被告らが真実、乙1の各号に貼付されている現品が、本件意匠登録出願前に取引されていたというのであれば、取引の目的物、取引日、単価、売買価格が記入されている売上元帳,仕入元帳を提出して立証すべきである。
(2)類否の判断についての事実誤認原審判決は、「上記認定の本件登録意匠の要部を前提として、本件登録意匠とイ号意匠、ロ号意匠との類否について検討し、本件登録意匠とイ号意匠、ロ号意匠は、いずれも意匠に係る物品がせいろう用中敷き(クッキングシート)という同一製品であり、また、円形状シートにおいて、多数の同形同大の円形状の小さな透孔がほぼ均等に分布している形状である点において共通するものであるが、上記の形状は本件登録意匠の要部ということができないから、この点の共通性をもってイ号意匠、ロ号意匠が本件登録意匠に類似するということはできない。
かえって、イ号意匠、ロ号意匠においては、円形状のセパレート紙の周縁上に掛かって、あるいは周縁に極めて近接して透孔が存在している場合もあると認められるのであり、このような相違点からも、円形状のセパレート紙の周縁上に掛かり、
あるいは周縁に極めて近接した位置の透孔が存在しない本件登録意匠とは、見る者に異なる印象を与えるということができる。
上記によれば、イ号意匠、ロ号意匠は、これを見る者にとって、本件登録意匠とは、美感上異なる印象を与えるものというべきである。したがって、イ号意匠、ロ号意匠は本件登録意匠に類似しないものと認めるのが相当である。」と判断した。
しかしながら、すでに主張したとおり、原審判決は、本件登録意匠の要部認定のための前提となる事実認定が誤っており、公然実施したと断定することができない証拠をもって、公知意匠であると認定した前提事実に基いて本件登録意匠の創作の要部を把握しているから、本件登録意匠とイ号・ロ号各意匠との類否において誤った判断をしている。
仮に、百歩譲って、原審認定の事実を前提するとしても、イ号・ロ号各意匠はその真円形に成る用紙本体に穿設されている通孔の形状は、各証明書上に見られる用紙本体の通孔の形状には遠く、本件登録意匠に見られる通孔の形状に近い美感を発揮しているものであるから、イ号・ロ号各意匠は、全体として、本件登録意匠に類似するものといえるのである。
2.争点2についての法律解釈の誤り原審判決は、争点1について、イ号・ロ号各意匠は本件登録意匠に類似しないという結論を出したのだから、意匠権侵害による差止請求事件においては、その理由だけで、請求棄却の判決をすればよいものを、「念のため」と称して、侵害裁判所が特許庁の専権事項に踏み込んだ意匠登録無効の付加的判断をしている。
しかも、原審判決で判断しているのは意匠法3条2項の創作力についてである。
しかしながら、このような結果を容認することは、特許権あるいは意匠権の本質的内容である差止請求権の行使を否定し、結局、特許庁で行うべき無効審判手続を経ずして特許性を無効なものとして取り扱うことに帰着するが、このような取り扱いは何ら実定法上の根拠はなく、かえって、特許法や意匠法が予定する工業所有権制度の立法趣旨に反するものであるから、到底認められない判断である。(東京地判平成2年11月28日.無体裁集22巻3号760頁)原審判決は、最高平成12年4月11日三小判を引用しているが、キルビー特許事件として有名なこの最高裁判決(判時1710号68頁)は、原告(上告人)の特許発明が、拒絶査定が確定した原発明と実質的に同一のものと認定されたものであるから、特許法39条1項違反によって特許庁において無効とされる蓋然性が高いと判断した事案である。
これに対し、本件における原審判決は、意匠法3条1項3号(類似)ではなく、3条2項(創作力)を無効理由と認定している。
しかしながら、本件登録意匠に対し、特許法29条1項2号(新規性)と対等の意匠法3条1項3号ではなく、29条2項(進歩性)と対等の規定である意匠法3条2項の適用を侵害裁判所がすることは、単なる事実認定ではなく、評価がからむ困難な判断をしなければならないことから、前記キルビー特許判決とは全く違う背景を有する事案である。
また、原審判決の基本的な考え方は、裁判所が特許庁と無関係に行う特許当然無効論に通ずるものであり、このような考え方によって権利濫用の判断をすることは、本質的に違法なものといわれるべきである。
しかも、影響力の大きい無効の判断を、傍論として付加的に行っていること自体、司法裁判所の権限を明らかに超えているのである。
3.争点4についての事実誤認(1)不正競争行為の該当性の認定原審判決は、イ号・ロ号の意匠が本件登録意匠に類似しない上、創作性を欠いて、その意匠登録が無効であることを確信して、原告が警告書を送付したことをもって、虚偽の事実の告知と流布と認定しているが、このような認定は、すでに指摘したように、その前提となる事実関係の誤認に基づくものであるから、取り消しを免れないものである。
仮に、百歩譲って、「意匠の要部」「意匠の類否」に関する原審判決が正しいとしても、原告は被告への警告時に、被告から前記事実関係を示す証拠の提示は全く受けてないから、虚偽の事実の告知と流布について過失はない。
戸車用レール事件(大阪地判昭和53年12月19日.無体裁集10巻2号617頁)は「一般にある物または物を生産する方法が、特定の工業所有権の登録請求の範囲(または技術的範囲)に属するかどうかを判断することは、具体的事実に高度な解釈を必要とする法令が適用するのにも似た点が存し、正確な判断をすることは困難なことが多く、それだけにその判断が他人に対する加害行為を伴う事態に発展するような場合には相応に高度な注意義務を課するのが相当である。しかし、反面、事案によってはそのような判断をするに至った事情を詳細に検討し、事情中汲むべき点は汲む態度を持たなければ、本来保護すべき工業所有権の正当な権利行使を萎縮させ、多くの侵害行為を見逃し放任し、ひいては工業所有権制度自体の存在意義を没却するおそれがある点にも想到する必要がある。」とし、汲みとるべき事情として、例えば、被告らの実用新案権は少なくともその材料の点ではパイオニア的考案と評価されてよかったことを含み、それゆえその権利範囲は相応に広く解されてよい要素があり、被告らが右権利につき相応の自負を有していたことは無理からぬ点がある。
原告側の特許庁に対する自社レールは本件実用新案の技術的範囲に属しないとの判定請求は、成り立たないとの判定が示された経緯があること、被告らの本件実用新案権が無効とされたのは、容易推考性(進歩性)の欠如にあり、この容易推考性存否の判断は新規性のそれと異なり極めて微妙な点が存し、しかく一律な基準によって判断される問題ではないこと等々、かなり複雑で多岐にわたる事情を認定したうえ、「本件の場合、被告らが原告に対して前記のような違法行為に出た際、これを自己の当然の権利行使であると誤信したについては、たとえ被告らの判断に弁護士、弁理士の意見が入っており、その注意能力をこれら専門家と同一のものと解したとしても、なお無理からぬ点が存し、いまこれを、他人の立場を考えない一方的な判断に基づくものとして、被告らの前記のような誤判過程に何等かの過失すなわち注意義務違反を認め、これを非難するにはちゅうちょを覚える。」と判示し、被告に過失を認めることは困難であると認定する。
また、包装豆腐事件(大阪地判昭和61年4月25日.無体裁集18巻1号89頁)は、無効審決の前後で過失の存否についての判断を異にしている。この判決は、包装豆腐につき実用新案権の登録を受けていた被告が、原告が製造販売している豆腐充填用の容袋が右権利を侵害しているものと考え、出願公告後に原告の得意先等に原告の容袋が被告の実用新案権を侵害するとしてその使用を中止するように警告し、原告の主要取引先を相手取り原告の容袋の販売差止等の裁判を提起した。その後進歩性の欠如を理由に被告の実用新案権登録を無効とする審決がなされたにもかかわらず、そのことを秘して、従前同様に、原告の得意先等に原告の容袋が実用新案権を侵害するものであるから、直ちに販売を中止するように弁護士名で警告した事案に関するものである。この場合、被告が出願公告後無効審決の送達を受けるまでの間については、進歩性の欠如については非常に微妙な技術的な価値判断を伴い、客観的に明白で一義的な基準によって判断されるものではないことから、被告が実用新案が新規性・進歩性を備えた有効なものであると信じたのは無理からぬことであり過失はないが、無効審決後は、仮に審決後は、仮に審決取消訴訟の提起によりその判断が未確定であっても、被告は実用新案に無効原因のあることを知り得べき事情の下にあったから、その権利の行使については特に慎重であることが要求されるのであり、右審決が誤りであり、本件実用新案が進歩性を備えた有効なものであると信ずるについて合理的な理由があるなど、特段の事由がない限り、過失があったものというべきであると判示している。
本件は無効審決のなされる前の警告事件であるし、原告の登録意匠はシート状の真円形用紙に多数の穿設した透孔の表裏周面がきれいに裁断したものであり、その材料、透孔形状において、パイオニア的評価を受ける性格を有していたものである。
一方、イ号,ロ号物件は平成13年10月1日発行の「専門料理」(平成13年10月号)に「新登場」と表示されて販売が開始されていたし、被告旭化成から平成13年10月16日に送付された穴あきセパレート紙(甲9の2)について、原告は被告旭化成に対し、「1997年に上市した事実を客観的に裏付ける物的証拠を提出して下さい」(甲10)と要請したが、被告旭化成からは右上市の証拠が提示されなかったばかりか、
「無関係な意匠の権利者に対して何故かかるサービスをせねばならないのか理解しかねている」との挑戦的言辞を露骨に呈しているのである。原告は、かかる被告旭化成の不誠実な態度に接し、意匠権者として、やむなく被告らの取引先に警告を発したのである。
前記料理雑誌に「新登場」と広告宣伝しておきながら、他方で意匠登録出願前から上市していたとの矛盾する主張をなす相手方に対し、さらなる権利主張が原審判決の如く損害賠償の対象となるとすれば、前記戸車用レール事件判決が危惧する正当な権利行使を萎縮させ、多くの侵害行為を見逃がし放任し、ひいては工業所有権制度の存在意義を没却することにつながりかねないのである。
(2)過失の認定その真偽は別として、被告から、原審に提出されたような証拠が、事前に誠意をもって原告側に提示されていたならば、原告は訴外二社に対して警告するのではなく、被告とさらに話し合ったかも知れないのである。
したがって、交渉当時の原告の立場と被告の対応方との均衡を考えない、一方的に被告の立場に立ったような原審判決は、衡平の原則に反するものである。
原告は、イ号・ロ号の意匠は本件登録意匠に類似すること、本件意匠権に無効性の疑念などは全く持つことはなく、しかも善良な管理者の注意義務を持って警告しているのであり、そこには故意又は過失の入り込む余地はない。
原審において被告が初めて提出した乙1の1〜10、乙2の1〜7の各号証は、原告が全く関知しない被告側の内部取引関係を示す証明書や伝票であるが、これらの証拠による公知の事実を部外者である原告が関知しないことに過失があったと被告が主張するのであれば、原告の過失を裏付ける正当な証拠を提出すべきである。
したがって、一方的に原告に対し損害賠償金の支払いを認めた原審判決は失当である。
(以上)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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