関連審決 |
不服2000-4108 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10253審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10492審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成14ワ26828損害賠償請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成10ワ11674意匠権及び実用新案権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成17行ケ10227審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 意匠の創作 / 物品 / 形状 / 模様 / 部分意匠 / 意匠に係る物品 / 一意匠一出願(7条) / 3条1項3号 / 記載された意匠 / 類似する意匠 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
555号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 谷義一 同 阿部和夫 同 安澤眞美子 訴訟復代理人弁理士 佐藤久容 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 藤正明 同 遠藤京子 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/29 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-4108号事件について平成13年8月28日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文1,2項と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成8年12月12日,意匠に係る物品を「装身用玉」とし,その形態を別紙審決書の写しの別紙第一(以下「別紙第一」という。)表示のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠登録出願(平成8年意匠登録願第37565号)をしたが,拒絶査定を受けたので,平成12年3月23日に,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを不服2000-4108号事件として審理し,その結果,平成13年8月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月7日,原告にその謄本を送達した。 なお,出訴期間として90日が付加された。 2 審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,その出願前である平成7年4月7日に日本国特許庁総合情報館(現独立行政法人工業所有権総合情報館)が受け入れて所蔵するに至ったベネルクス意匠公報(平成6年12月21日発行。以下「引用文献」という。)の12巻2209頁に記載された装身用玉の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH07030094号)(その形態は別紙審決書の写しの別紙第二(以下「別紙第二」という。)表示のとおりである。以下「引用意匠」という。)に類似する意匠であるから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。 |
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原告主張の審決取消理由の要点
審決の理由のうち,「1.本願意匠」,「2.引用意匠」は認める。「3.両意匠の対比」のうち,共通点の認定の一部(「略逆四角錐状の四隅から下方の頂点に向け放射状のカット模様を表し」ている点を共通点とする認定)と差異点(イ)の認定(審決書2頁13行〜17行)は争い,その余は認める。「4.類否判断」のうち,審決書2頁32行の「また」から37行までは認め,その余は争う。「5.まとめ」は争う。 審決は,引用意匠の認定を誤ったことにより,本願意匠と引用意匠の差異点としなければならないものを共通点と認定し(取消事由1),両意匠の共通点を過大に評価し,差異点を過小に評価した結果,両意匠の類否の判断を誤ったものであって(取消事由2),これらの誤りが,それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用意匠の認定の誤りによる共通点・差異点の認定の誤り) (1) 審決は,本願意匠と引用意匠の共通点の一つとして,「略逆四角錐状の四隅から下方の頂点に向け放射状のカット模様を表し」(審決書2頁4行〜6行)ている点を認定した上,これを前提に,両意匠の差異点の一つ(差異点(イ))として,「本願意匠は,略逆四角錐状の周側面につき,各々扁平な略変形三角錐状に隆起させ,その頂点側(下方側)の両側面に,放射状のカット模様を表しているのに対し,引用意匠は,略逆四角錐状の周側面を全て平坦面とし,その頂点側(下方側)に,正面視「V」の字状のカット模様を3本表している点」(審決書2頁13行〜17行)を認定した。 しかしながら,本願意匠においては,略逆四角錐状の周側面が各々扁平な略変形三角錐状に隆起していること,底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有することから,その周側面上の模様は,立体形状のカットであることが明らかであるのに対し,引用意匠においては,略逆四角錐状の周側面が本願意匠のように隆起しておらず平坦面であること,底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有しないことから,その周側面上の模様は,線状に描かれた模様であると認められるべきものである。 審決が引用意匠の周側面上の模様をカット模様であると認定したのは,誤りであり,審決は,この点において,本願意匠と引用意匠との差異点とすべきところを共通点とする誤りを犯すものである。 両意匠に係る物品である装身用玉は,その上面部の形状と,その底面部の形状とがあいまって,光を屈折させて,玉の美感をなすものであり,その周側面にカットが施されている場合と,線状に描かれた模様が施されている場合とでは,光の屈折の仕方が全く異なり,この差異点が両意匠の美感に与える影響は大きいから,上記共通点・差異点の認定の誤りが,両意匠の類否の判断に影響を及ぼすことは明らかである。 (2) 審決は,「請求人(判決注・原告)は,「引用意匠の装身用玉には線状の模様がほどこされているのに対し,本願意匠の装身用玉には,立体的形状のカットがほどこされている。」と主張する。しかしながら,この種の物品においては,それが線状の模様として表されていたとしても,カット面を形成していることが一般的であり,そのことによって両意匠を別異のものとすることはできず,請求人の主張を採用できない。」(審決書3頁21行〜26行)と認定判断した。 しかしながら,我が国においては,立体的形状のカット面が形成されている場合には,本願意匠に見られるような周側面の略変形三角錐状の隆起が図面上で省略されることはあっても,本願意匠の底面視に見られるような「四つ足星形様」の放射線模様の中央の十字線は図面上で省略されないのが一般的であるから,審決の上記認定判断は誤りである。 2 取消事由2(類否の判断の誤り) 審決は,本願意匠と引用意匠との共通点を過大に評価し,差異点を過小に評価した結果,両意匠の類否の判断を誤ったものである。 (1) 共通点についての評価の誤り 審決は,本願意匠と引用意匠との共通点について「全体を,略逆四角錐状とし,その上面部を,緩やかな円弧面上に膨出させて,正面視略弓形状の「太鼓橋様」の膨出面を形成し,また,略逆四角錐状の四隅から下方の頂点に向け放射状のカット模様を表し,それが下方の頂点付近で合流し,底面視において,その放射状のカット模様全体が,いわゆる略「四つ足星形様」に表われている点は,両意匠の形態に関する骨格を形成し,全体の基調をなす特徴といえ,類否判断を左右する支配的要素というべきである。」(審決書2頁26行〜32行)と判断した。 しかし,一般に,両意匠に係る物品である装身用玉は,その上面部(膨出面)の形状と,その底面部の形状とがあいまって光を屈折させて,玉の美感をなすものである。全く同じ形状でも,カットが異なれば,全く異なる美感を呈するものである。審決は,このことを考慮せず,上記共通点が,両意匠の類否判断を左右する支配的要素であると過大に評価している。 (2) 差異点についての評価の誤り イ 差異点(イ)について 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(前記1(1)記載の差異点(イ))について,「本願意匠が,略逆四角錐状の周側面につき,各々扁平な略変形三角錐状に隆起させ,その頂点側の両側面に,放射状のカット模様を表している点の差異であるが,その略変形三角錐状の隆起は,A-A断面図,B-B断面図から明らかなように,極く僅かなものでさほど目立たず,また,両意匠に共通する,特に,「正面視略弓形状の『太鼓橋様』の膨出面を形成し,また,底面視において,その放射状のカット模様全体が,いわゆる略『四つ足星形様』に表われた態様」に包摂される程度の僅かな差異といえ,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なものといわざるを得ない。」(審決書2頁38行〜3頁7行)と判断した。 しかしながら,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉においては,カットは,光を複雑に反射させるため,周側面側のごくわずかなカットの違いであっても,意匠全体の美感に与える影響が大きく,全く異なる印象を与えるものである。審決は,このことを全く評価していない ロ 差異点(ロ)について 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ロ))である,「本願意匠は,正面図及び右側面図において,放射状のカット模様の合流部に垂線が表れ,それが底面視において,「四つ足星形様」のカット模様の中央に十字線として表れているのに対し,引用意匠には,そのような十字線は表れていない点」(審決書2頁17行〜20行)について,「本願意匠は,底面図視において,「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線が表れている点の差異であるが,これは,・・・差異点(イ)と同様に,意匠全体としては,「四つ足星形様」の放射状のカット模様が目立ち,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なものというほかない。」(審決書3頁7行〜12行)と判断した。 しかし,本願意匠は,底面視において,「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有することから,明らかにカット模様であるのに対し,このような十字線が表われていない引用意匠は,線状に描かれた模様を表しているものと考えられる。装身用玉においては,その周側面にカットが施されているのか,それとも線状に描かれた模様が施されているのかによって,光の屈折の仕方が異なることから,両意匠の上記差異点が両意匠の美感に与える影響は大きい。 審決が,上記差異点について,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるとしたのは,誤りである。 ハ 差異点(ハ)について 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ハ))である「膨出面について,本願意匠は,平面視縦方向に8分割した縦線模様が表われているのに対し,引用意匠は,この点が不明である点」(審決書2頁20行〜22行)について「本願意匠は,平面視縦方向に8分割した線模様が表れている点であるが,この線模様自体,日本国特許庁総合情報館が受入所蔵する平1995年4月10日発行のドイツ意匠公報,7巻第1570頁に所載された装身用玉の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH08022111号)に見られるとおり,公然知られているものであり,また,引用意匠は,この点について不明であるが,その図面全体を総合すると,本願意匠とほぼ同様の模様が表わされていると推察され,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なものといわざるを得ない。」(審決書3頁13行〜20行)と判断した。 しかしながら,審決は,装身用玉の美感を左右する上面部(膨出面)の形状につき,引用意匠のそれが不明なため,本願意匠のそれとの比較ができないにもかかわらず,引用意匠の上面部の表面形状を単なる推察により本願意匠とほぼ同様の模様が表されているものとして,上記差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものとの判断を加えている点において,誤っている。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張のような違法はない。 1 取消事由1(引用意匠の認定の誤りによる共通点・差異点の認定の誤り)について (1) 引用意匠の正面視「V」の字状の線は,図面上は,線状の模様とみることも可能であるものの,宝石のデザイン画において,線で描かれた図形はカット模様を意味するのが普通であること,線により構成される面が隣接して存在する場合,隣接する二つの面が同一平面をなすようにみえるとしても,宝石のデザインにおいては,それを製作した場合,カット面を構成することが一般的であることを考慮すると,引用意匠に表された正面視「V」の字状の線は,カット模様と解釈すべきである。 宝石のカットは,肉眼で明らかに立体的(三次元)と分かるものから,光の反射を受けて初めて認識できる二次元に極めて近いものまで幅広くあり,宝石のデザインを描く図法としては,後者の場合,平面上の線模様として表されるのが通例である(甲第2号証の1〜3参照)。 引用意匠がカット模様でないとする確たる証拠はない。 (2) 原告は,我が国においては,立体的形状のカット面が形成されている場合には,本願意匠にみられるような周側面の略変形三角錐状の隆起が省略されることはあっても,本願意匠の底面視に見られるような「四つ足星形様」の放射線模様の中央の十字線は省略されないのが一般的である,と主張する。 しかしながら,次のとおり,この主張は失当である。例えば,登録第726714号意匠(甲第2号証の2参照)においては,正面図並びに正面図と同一の背面図及び左右側面図によれば,底面部は正四角錐状であり,その各4つの逆二等辺三角形状面は,全くの平坦面であり,その平坦面上に3本の「V」の字状の線及びその「V」の字状を下方で結ぶ縦線が表されている。これらの線について,一般的な製図法からみれば,平坦面上に表された線は,模様と解釈される。しかし,本件の意匠に係る物品である「指輪用玉」においては,これらの線は,カット線と解釈するのが相当である。ところが,同意匠の底面図には,正四角錐状の4つの稜線は表されていない。これは,指輪用玉(装身用玉)のエッジ保護のため,稜線部が鋭くカットされたものでなく,ごくわずかに丸み(面取り)が施されているためであり,そのため外形を示す形状線が表されていないものと推察される。このように,装身用玉(宝石)類の図面の解釈においては,一般的な製図法則により固定的に判断することは,必ずしも当を得たものとならない。 (3) 本願意匠と引用意匠との類否判断は,本願に添付した図面に記載された意匠の形態と引用文献に記載された意匠の形態とを対比してなされるものである。本願に添付した図面には,原告のいう「光を屈折させる効果」等は開示されていない。本願意匠に係る装身用玉が有する「光を屈折させる効果」については,考慮に入れることが許されるとしても,許されるのは,通常想定できる範囲のものにとどめるべきであり,本願意匠に格別の「光を屈折させる効果」があると認定することはできない。両意匠は,装身用玉自体の形状において近似しており,その光の屈折効果により,両意匠を非類似とするほどの著しい美感の差異が生じるものと認めることはできない。 2 取消事由2(類否の判断の誤り)について (1) 共通点の評価について 原告は,底面部の形状の差異が上面部に及ぼす光の屈折による美感の差異を主張する。 しかしながら,両意匠を特定するのは,装身用玉の形状自体であって,それぞれの光の屈折による効果ではない。光の屈折による効果の相違が意匠の美感の相違に影響するところがあり,かつ,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉において,その上面部の形状と,その底面部の形状とがあいまって光を屈折させるとしても,光の屈折効果を,両意匠の間に著しい美感の差異をもたらすものとすることはできない。光の屈折による効果は,自然の光,人工の光,それを見る場所などによって種々変化するものであって特定しないため,意匠の類否における判断要素としてさほど評価することができないものであるからである。 (2) 差異点の評価について イ 差異点(イ)について 本願意匠の略変形三角錐状の隆起は,A-A断面図,B-B断面図,正面図及び右側面図から明らかなように,ごくわずかなものでさほど目立つものではなく,意匠全体としては,「略四つ足星形様」の放射状のカット模様に包摂される程度のものにすぎない。この点が類否判断に及ぼす影響は,微弱なものである。 ロ 差異点(ロ)について この点については,差異点(イ)と同様に,意匠全体としては,「四つ足星形様の放射状のカット模様が目立ち,類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。 ハ 差異点(ハ)について 審決が両意匠の差異点の一つ(差異点(ハ))として,本願意匠は平面視縦方向に8分割した線模様が表われているのに対し,引用意匠は,この点が不明である点を挙げたのは,引用意匠がいわゆる部分意匠に係る出願であり,装身用玉の上面(平面)については請求(クレーム)がなされておらず,引用文献(ベネルクス意匠公報。乙第1号証)には,本願意匠の平面図に相当する図面の記載がないためである。 しかしながら,引用意匠は,その開示された意匠の創作全体が,引用文献の記載全体から十分に把握され得るものである。審決は,上記差異点に対する判断において,請求範囲外の点線(2点鎖線)で表された部分を含めて,一つのまとまった創作として,その意匠全体を認定したものである。 引用意匠の上面(平面)の形態について,引用文献の図面全体を総合して判断すると,同文献の右側上方の図面(本願意匠の正面図に相当)には,上面図の態様について,@円弧面状であること,Aその縁部に,弓形円弧状の帯状の面取り部があること,Bその面取り部に7本,縦に区切り線が表わされていること,同文献の右側上から二番目(本願意匠の右側面図に相当)には,上面部の態様について,C平行線が表されていること,が分かる。@ないしCを総合すると,引用意匠の上面部の態様は,本願意匠とほぼ同様の平面視縦方向に8分割した縦線模様が表れていることを推認することができる。 本願意匠の上面部の態様である,正面視略弓形状の「太鼓橋様」の膨出面の態様は,我が国において普通に知られているものである(乙第2ないし第4号証参照)。 以上の点を総合的に判断すると,審決が,差異点(ハ)の膨出面について,引用意匠は,この点について不明であるが,その図面全体を総合すると,本願意匠とほぼ同様の模様が表されていると推察され,その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない,と判断したことに誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用意匠の認定の誤りによる共通点・差異点の認定の誤り)について (1) 原告は,引用意匠について,@略逆四角錐状の周側面が本願意匠のように隆起しておらず平坦面であること,A底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有しないことから,引用意匠の周側面上の模様は,カット模様ではなく線状に描かれた模様であると認められるべきものである,として,これを前提に,審決が引用意匠の周側面上の模様をカット模様と認定したことは誤りであり,審決は,本願意匠と引用意匠との周側面上の模様に関し,差異点(本願意匠ではカット模様であるのに対し,引用意匠では線状に描かれた模様である。)であるものを共通点(両意匠のいずれにおいてもカット模様である。)であると誤認した,と主張する。 本願意匠及び引用意匠は,いずれも,底面視において,逆四角錐状の四隅から下方の頂点に向け放射状の模様を表し,それが下方の頂点付近で合流し,その放射状の模様全体がいわゆる略「四つ足星形様」に表れている点において共通することは当事者間に争いがない。両意匠の上記放射状の模様が,いずれも線で描かれていることは,別紙第一記載の底面図及び別紙第二記載の左上の図(底面図であると認められる。)から明らかである。 甲第2号証の1ないし6及び弁論の全趣旨によれば,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては,これを図示する場合に,カット模様を線で描くことがあることが認められる。 別紙第一の底面図において,本願意匠の線で描かれた放射状の模様がカット模様であることは当事者間に争いがない。 引用意匠の放射状の模様は,線状に描かれている点において,本願意匠と同じであることは上記のとおりであるから,その限りでは,本願意匠の放射状の模様と区別することができない。したがって,引用意匠の放射状の模様は,そのように解することを妨げる特段の事情が認められない限り,少なくともカット模様である場合を含む,と解するのが相当である。 原告は,引用意匠の放射状の模様がカット模様ではなく,線状に描かれた模様であると解すべき特段の事情として,@略逆四角錐状の周側面が本願意匠のように隆起しておらず平坦面であること,A底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有しないこと,を挙げる。しかしながら,甲第2号証の1ないし6によれば,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては,底面視において周側面が平坦面のように図示されている場合であっても,そのことは,必ずしも,その面が平坦面であることを意味しないことが認められる。例えば,登録第726704号意匠公報(甲第2号証の1)においては,別紙図面1記載のとおり,底面図記載の四つ足星形の四つ足の先端から中心にかけては,線が引かれておらず,同部分は,平坦面のように図示されている。しかし,同図面記載の正面図によれば,上記底面図において平坦面のように図示された部分は,中央(別紙図面2の底面図の点線部分)が隆起していることが明らかである。そうすると,引用意匠の略逆四角錐状の周側面が平坦面のように図示されていることから,直ちに,実際にも平坦面であって,カット面が形成される余地がなく,そこに記載された模様はカット模様ではあり得ない,との結論を導くことはできないというべきである。 原告は,引用意匠は,底面視において「四つ足星型様」の放射線模様の中央に十字線を有しないことから,そこにおける放射線模様はカット模様ではありえない,と主張する。しかしながら,原告の主張が成り立つためには,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては,四つ足星形様の放射線模様をカット模様として図示する場合には必ず,放射線模様の中央に十字線が描かれており,図面上で省略されることはない,ということが認められなければならない。原告が提出した登録第726704号,第726714号,第726714号の類似1,第1011711号,第1011712号,1110529号の各意匠公報(甲第2号証の1ないし6)には,いずれも四つ足星形様の放射線模様の中央に十字線が描かれていることが認められるものの,これら6件の意匠公報の記載だけでは,上記の点を認めるには足りないというべきであり,他にこれを認めるに足りる主張,立証はない。 原告の主張は,採用することができない。 (2) 以上述べたところによれば,引用意匠には少なくとも周側面上の放射線模様がカット模様のものが含まれると解することができる。この意味において,審決が引用意匠の周側面上の模様をカット模様であると認定したことに誤りはない。 原告の主張は,採用することができない。 2 取消事由2(類否の判断の誤り)について (1) 原告は,本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉においては,カットは光を複雑に反射させるため,周側面側のごくわずかなカットの違いであっても,意匠全体の美感に与える影響が大きく,全く異なる印象を与えるものであるのに,審決は,この点についての差異点を過小に評価し,共通点を過大に評価した結果,両意匠の類否の判断を誤った,と主張する。 しかしながら,装身用玉において,周側面側のカットの違いによって,光の屈折や反射が異なるとしても,光の屈折等による効果は,光が自然光であるか人工光であるか,どのような角度から見るかなどによって異なり得るものであることは自明のことである。本件全資料を検討しても,カットの違いによる光の屈折等の効果の違いをどのような条件のもとで把握し,比較するかについての基準があることを示す証拠は見当たらない。このような事情の下では,カットの違いによる効果の違いを類否判断に当たって,重視することはできないというべきである。原告の主張が,比較の対象となる両意匠の間にわずかでもカットの違いがあれば,原則として類似性を否定すべきであるとの主張であるとするならば,採用することができない。 上に述べたところによれば,両意匠のカットの違いが類否判断にどのような影響を及ぼすかは,意匠登録出願の願書に添付した図面ないし意匠公報に記載された図面に記載されたところを基準に判断するほかないというべきである。 このような観点からみるならば,審決が,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(イ))として挙げた「本願意匠は,略逆四角錐状の周側面につき,各々扁平な略変形三角錐状に隆起させ,その頂点側(下方側)の両側面に,放射状のカット模様を表しているのに対し,引用意匠は,略逆四角錐状の周側面を全て平坦面とし,その頂点側(下方側)に,正面視「V」の字状のカット模様を3本表している点」(審決書2頁13行〜17行)につき,「両意匠に共通する,特に,「正面視略弓形状の『太鼓橋様』の膨出面を形成し,また,底面視において,その放射状のカット模様全体が,いわゆる略『四つ足星形様』に表われた態様」に包摂される程度の僅かな差異といえ,その類否判断に及ぼす影響は,微弱なものといわざるを得ない。」(審決書3頁3行〜7行)と判断したことに誤りはない,というべきである。 (2) 原告は,審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ロ))である,「本願意匠は,正面図及び右側面図において,放射状のカット模様の合流部に垂線が表れ,それが底面視において,「四つ足星形様」のカット模様の中央に十字線として表れているのに対し,引用意匠には,そのような十字線は表れていない点」(審決書2頁17行〜20行)について,本願意匠は,上記十字線を有することから,明らかにカット模様であるのに対し,このような十字線が表われていない引用意匠は,線状に描かれた模様を表しているものであるから,この差異点を微弱なものとすることはできない,と主張する。 しかしながら,十字線の有無にかかわらず,引用意匠における放射状の模様をカット模様と解することができることは,前記1で説示したとおりである。 原告の主張を採用することはできない。 (3) 審決は,本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ハ))である「膨出面について,本願意匠は,平面視縦方向に8分割した縦線模様が表われているのに対し,引用意匠は,この点が不明である点」(審決書2頁20行〜22行)について,装身用玉の美感を左右する上面部(膨出面)の形状につき,引用意匠のそれが不明なため,本願意匠のそれとの比較ができないにもかかわらず,引用意匠の上面部の表面形状を単なる推察により本願意匠とほぼ同様の模様が表されているものとした上で,両意匠の類否判断をした,と主張する。 しかしながら,審決は,引用意匠には,膨出面の模様が明示されていないものの,本願意匠におけるような膨出面の線模様は,本願意匠登録出願前に公知のものである上,引用意匠の図面全体を総合すると,本願意匠とほぼ同様の模様が表されていると推認した上で,本願意匠との類否判断を行ったものであって,引用意匠の膨出面の模様が全く不明なまま根拠のない単なる推測に基づいて判断したものでないことは明らかである。そして,審決の行った上記推認が引用意匠の認定として正当なものであることは,乙第1ないし第4号証により明らかである。原告の主張は,審決の正しい理解に基づかずになされたものであるというべきであるから,採用することができない。 (4) 上述のとおりであるから,両意匠が類似するとした審決の判断に誤りがあるとは認められない。 3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。 よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 高瀬順久 |