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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 形状 /  一意匠一出願(7条) /  差止請求(差止) /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 14年 (ネ) 150号 意匠権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 タキゲン製造株式会社
訴訟代理人弁護士 浅田千秋
同 水谷高司
補佐人弁理士 増田守
被控訴人 日本ボデー・パーツ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 河内保
同 小林裕明
同 山之内 桂
補佐人弁理士 藤本昇
同 鈴木活人
同 薬丸誠一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/23
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙図面(1)ないし(4)記載の貨物トラックの荷台扉用開閉ハンドル掛金を製造し,又は,販売してはならない。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,金546万円及びこれに対する平成13年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は,「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」についての意匠権(登録番号第957117号)を有している控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人による貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金の製造販売行為は,控訴人の同意匠権を侵害するものであると主張して,同掛金の製造販売行為の中止及び損害の賠償を求めた事案である。
当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要等」及び「第3 争点に関する当事者の主張」の欄に記載されたとおりであるから,これを引用する(なお,当裁判所も,「本件意匠」,「被告製品」,「日本フルハーフ」の語を,原判決の用法に従って用いる。)。
1 控訴人の当審における主張の要点 原判決が論拠として挙げるものは,いずれも,論拠とはなり得ないものである。
(1) 基本的構成態様について (ア) 一般に使用されている「T」の字においては,横棒線は,縦棒線から相当の長さにわたって左右方向に突き出している。しかし,本件意匠におけるハンドル導入部における左右方向への突き出し量は,極めて小さいものである。したがって,本件意匠を,全体として略T字状を基調としたもの,ということはできない。
被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,その正面形状において六辺形となっている。台形は四辺形であり,六辺形のものが台形であることはあり得ない。したがって,被告意匠を,全体として略逆台形状を基調としたもの,ということはできない。
(イ) 日本フルハーフの平成3年特開第43576号公報に記載された扉開閉用ハンドルの掛金装置の意匠(以下「本件公知意匠」という。)は,別紙変遷図の【図1】に示すとおり,本体部の上方に形成されたハンドル導入部の左右両肩部分が斜めに切除されていることによって,上に向かうほど横幅寸法が減少していく先細り台形状に形成されているものである。本件意匠に係る製品においては,基台部と膨出部と掛金部からなる基本的構成態様自体は,公知であるため,意匠としての特徴となり得ない。本件意匠は,このことを前提に,本件公知意匠との区別を明確にし,意匠としての特徴を引き出すために,ハンドルの挿入操作に際して注視されるハンドル導入部を左右方向に拡幅し,各角部に丸みを持たせたものであり,この点に特徴がある。
本件意匠は,このように本件公知意匠に比べ独創的である。
これに対し,被告意匠は,別紙変遷図の【図6】に示したように,本件意匠の外周にある同図のaとc,bとdの各点をそれぞれ斜め方向に結んで,【図7】の形状にしたにすぎないものである。すなわち,被告意匠は,ハンドル導入部が本体部の横幅より幅広の角丸横長方形状であり,下方の本体部より外側に張り出して形成され,本体部が全体として尻窄まりとなった,下向きに凸形の六角形状となっているという,本件意匠の上記独創的な点において,本件意匠と共通性を有している。そうである以上,被告意匠が本件意匠に類似していることは,明らかである。
(2) 具体的構成態様について 原判決が認定した本件意匠と被告意匠との具体的構成態様の違いは,いずれも,被告意匠を本件意匠と非類似のものとすることができるほどの差異ではない。
2 被控訴人の反論の要点 (1) 基本的構成態様について (ア) 本件意匠は,「T」の字の縦部に当たる本体部の両側が平行な直線状部に形成されて成り,「T」の字の横部に当たるハンドル導入部分が幅広に形成されていることによって,縦部四角形の上に横部四角形が接合された印象を与えている。原判決が,本件意匠につき,全体として略T字状の形状となっているといったのは,このことに着目してのことであり,Tの字の縦横比においてもT字に近いといったのではない。
被告意匠においては,本体部の両側が傾斜した平行ではない直線で形成されていることが,明らかである。原判決が,被告意匠につき,全体が略逆台形の形状となっているといったのは,このことをいっているのである。
(イ) 控訴人は,意匠の変遷の主張において,本件意匠のハンドル導入部を左右に拡幅したことを認めている。このことからも,本件意匠が略T字状であることを明らかである。
(2) 具体的構成態様について 原判決において重視されているのは,基本的構成態様における正面視形態であって,具体的構成態様の相違点は,判断を決定付けるほどに重大なものとはされていない。
当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の本訴請求は,理由がないから棄却すべきものである,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第4 争点に対する当裁判所の判断」のとおりであるので,これを引用する。
1 控訴人は,「T」の字における縦棒線と横棒線の長さの比を根拠に,本件意匠は,全体として略T字状を基調としたものではない,と主張する。
しかし,原判決が「略T字状」という語を用いたのは,Tの字が縦棒線の頂部に横棒線が乗った形をしていることに着目してのことであり,Tの字の縦棒線と横棒線の長さの比に着目してのことではないことは,その説示自体で明らかである。したがって,原判決の本件意匠の認定自体に,控訴人主張のような誤りはない。仮に,控訴人の主張が,原判決の表現が不正確であるとして,このことを非難するものであるとしても,失当である。控訴人主張の原判決の表現の不正確さは,原判決の結論に影響するものではないのみならず,略T字状であるとは,比喩的な表現であり,控訴人が主張するように厳密な意味でTの字に似ていなければこのような表現を用いてはならないとすべき理由は,見いだし難いからである。控訴人の主張は採用することができない。
控訴人は,被告意匠は,その正面形状において六辺形となっており,台形という四辺形のものではあり得ないから,全体として略逆台形状を基調としたものということはできない,と主張する。
しかし,原判決が,略逆台形状という表現を用いたのは,控訴人が主張するように厳密な意味で逆台形状であること,すなわち,四辺形のものであることをいおうとしてのことではないことは,その説示自体で明らかである。したがって,原判決の被告意匠の認定自体に,控訴人主張のような誤りはない。仮に,控訴人の主張が,原判決の表現の不正確さを非難するものであるとしても,失当である。控訴人主張の原判決の表現の不正確さは原判決の結論に影響するものではないのみならず,略逆台形状との表現は,略T字状と同様に比喩的な表現であり,控訴人主張のような厳密な意味で台形でなければこのような表現を用いてはならないとすべき理由は,見いだし難いからである。この点についての控訴人の主張も,採用することができない。
2 控訴人は,日本フルハーフの本件公知意匠が,ハンドル導入部が,左右両肩部分が斜めに切除されていることによって,上に向かうほど横幅寸法が減少していく先細り台形状に形成されているものであるのに対し,本件意匠は,ハンドル導入部を左右方向に拡幅し,各角部に丸みを持たせた点に特徴があるとして,その差異を強調し,本件意匠と被告意匠とが控訴人主張の特徴点において共通性を有することを強調する。
しかし,控訴人のこの主張は,本件意匠が本件公知意匠とは異なる美観を有する意匠であることを窺わせるものではあるけれども,それと同時に,そのハンドル導入部が左右方向に拡幅されていること,すなわち本件意匠の基本形状が略T字状を基調とするものであることを,再確認させる主張でもある。そして,仮に,両意匠が控訴人主張のような共通性を有するとしても,被告意匠が略逆台形状を基調とする意匠であり,本件意匠が略T字状を基調とする意匠であることは前記認定のとおりであり,この相違により両者の類似性は否定されるのである。控訴人の主張によっても,この点を覆すことはできない。
3 控訴人は,原判決が認定した具体的構成態様の違いは,いずれも被告意匠を本件意匠と非類似のものと認識できるほどの差異でないことは明らかである,と主張する。しかし,原判決も認定しているとおり,本件意匠の基本的構成態様のうち,看者の注意を引く部分は,全体として略T字状を基調として成る構成であり,被告意匠の基本的構成態様のうち,看者の注意を引く部分は,全体として略逆台形状を基調として成る構成であるから,両者は,その基本的構成態様のうち,看者の注意を引く部分においてその構成を異にするものである。したがって,被告意匠は,その具体的構成態様における差異によってではなく,その基本的構成態様における看者の注意を引く部分における差異によって,本件意匠とは類似しないものと認められるのである。具体的構成態様の類似点について論じる控訴人の主張は,本件意匠と被告意匠とが類似しないとの上記結論に影響するものではない。
4 なお,甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば,原判決の別紙「類似意匠公報」記載の類似意匠は,被告意匠とほぼ同一であることが認められる。しかし,既に述べたところによれば,被告意匠は,本件意匠とは類似しないことが明らかであるから,上記類似意匠は,本件意匠と類似しないことが明らかな類似意匠であり,その類似意匠登録には無効事由があることが明白であるということができる。
結論
以上に検討したところによれば,控訴人の主張はいずれも理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当である。そこで,本件控訴を棄却することとして,訴訟費用の負担について,民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充