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関連審決 無効2004-88013
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項2号 /  3条1項3号 /  頒布された刊行物 /  類似する意匠 /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10134号 審決取消(意匠)請求事件

原告 株式会社東北製作所
訴訟代理人弁護士 高橋郁夫
同 池村聡
被告 日本郵政公社 代表者総裁 生田正治
訴訟代理人弁護士 辻居幸一
同 弁理士 井野砂里
同 弁護士 渡辺光
同 弁理士 渡辺徹
同 弁護士 竹内麻子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-88013号事件について平成16年12月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告を意匠権者とする後記登録意匠につき,被告が意匠登録無効審判請求をしたところ,特許庁が原告の意匠登録を無効とする旨の審決をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,意匠に係る物品を「郵便ポスト」とし,その形態を別紙審決写しの別紙第1記載のとおりとする登録第1010772号意匠(平成9年2月27日意匠登録出願,平成10年3月13日設定登録,甲12。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。なお,設定登録時の意匠権は,原告と社団法人郵政ニューオフィス研究会の2名の共有であったが,その後,同研究会から原告に共有持分が移転され,平成13年1月から原告が単独の意匠権者となった。
被告は,平成16年6月1日付けで,被告を請求人・原告を被請求人として,本件登録意匠につき意匠登録無効審判を請求した(乙9)。特許庁は,同請求を無効2004-88013号事件として審理した上,平成16年12月7日,「登録第1010772号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成16年12月17日原告に送達された。
(2) 審決の内容 ア 本件審決の内容の詳細は,別紙審決写し記載のとおりである。その理由の要旨は,本件登録意匠は,本件出願前に頒布された下記刊行物に表れた意匠(以下「甲号意匠」という。)に類似するから,意匠法3条1項3号等に該当する,とするものである。
記 郵政省が配布した平成8年7月8日付け「郵務局長定例記者会見配布資料」(以下「本件配布資料」という。)のうち,「資料2 新型郵便ポストの設置について」(5頁)所載の「準中型」の意匠(意匠の形態は,別紙審決写しの別紙第2記載のとおり。審判甲5・本訴乙5の1)。
イ なお,本件審決は,本件登録意匠と甲号意匠とでは,意匠に係る物品が「ポスト」であることで共通し,形態につき,次のような共通点・差異点・不明点があると認定した。
(共通点) @「全体が,正面視縦長の略直方体状の本体部と,その下面に設けた細長い柱状の脚部とからなり,正面側上半部に矩形状の投函部を形成し,該投函部の上方に庇部を設けた基本的構成態様のものである点」。
A 各部の具体的態様において, (a)「本体部につき,上面及び下面は,前後方向に湾曲しており,左右の側面は,上下辺を上下面の湾曲に合わせて凸弧状とし,かつ,平面視において弧状に膨出した形状である点」。
(b)「投函部につき,上端部寄りに投函口を形成した点」。
(c)「庇部につき,投函部と同幅で,平面視において前方に凸弧状に膨出したものである点」。
(d)「脚部につき,正面視及び側面視における幅が略同一である点」。
(e)「各部の大きさ比率につき,本体幅を1とすると,本体高さが略1.8,本体奥行きが略1.2,脚部幅が略0.4,脚部高さが略1.2の比率である点」。
(差異点) 「庇部につき,本件登録意匠は,正面視わずかに上方に湾曲状としているのに対して,甲号意匠は,直状としている点」。
(甲号意匠の不明な点) 甲号意匠は,その具体的態様において, @「投函部につき,投函口を含む,面の態様が不明である点」。
A「脚部につき,断面形状が不明である点」。
(3) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決は,以下のとおり認定判断等を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(請求人適格の不存在) (ア) 原告は,昭和42年ころから,郵便ポストのデザイン業務や製造業務を国(郵政省)から請け負ってきたものであるが,新型ポストのデザイン業務に際して発生する開発費用に関しては,国に別個独立に請求するのではなく,国が原告に対し,ポスト製造業務を発注することにより事実上国が開発費用相当額を全額補償するという方法が採られてきた。
その後,原告は,国から新型ポストのデザイン業務の依頼を受け,本件登録意匠を含む郵便ポストのデザインを完成させたが,ポスト製造業務に新規業者の参入という関係当事者が当初想定していなかった事態が発生したため,原告は,原告が負担した多額の開発費用を従来の方法により回収することが困難となり,原告と国との間で,開発費用の支払をめぐり紛争が発生した。
このような状況の下において原告は,国のいわゆる外郭団体である社団法人郵政ニューオフィス研究会(以下「郵政ニューオフィス研究会」という。),財団法人郵政弘済会(以下「郵政弘済会」という。)等から,原告の開発費用の回収を図る手段として,原告が,新型ポストにつき意匠登録をし,当該登録意匠を国に使用許諾し,国から使用許諾料(ロイヤルティ)の支払を受ける方法の提案があり,上記提案を受け入れることとした。そして原告は,郵政ニューオフィス研究会と共同して,本件登録意匠につき,平成9年2月27日に出願し,平成10年3月13日に設定登録を受けた。
上記提案に関しては,国も,原告が新型ポストの開発のために尽力したことに理解を示すとともに,少なくとも原告が開発費用を全額回収するまでは,原告に,意匠権に関するロイヤルティを支払うことにつき同意した。
このことは,当時の郵政省郵務局輸送企画課長A(以下「A課長」という。)が作成した平成12年11月21日付け確認書(甲3)及び同日付け「株式会社東北製作所」と題する文書(甲4)の文面から明らかである。このほか,同年12月5日に行われた郵政ニューオフィス研究会と原告間の打合せに関する出張報告書(甲5)においても,A課長が「事情が事情なので(原告注:意匠権を)使用することはやむを得ない」と発言したことが記載され,また,同年12月26日に国(郵政省)からA課長及びB係長(当時)が出席した関係者会議に関する議事録(甲6)においても,「A課長より,これまでの経過から株式会社東北製作所の貢献を尊重すべき旨の確認があり,社団法人ニューオフィス研究会と株式会社東北製作所の共有に係る下記意匠権について,社団法人ニューオフィス研究会の意向を早急に表明するよう促した。」との記述がある。
さらに,原告は,国の意向を受け,国に対し,具体的な使用許諾条件を提示したところ,国も,「省の考えで予算を組む」等とし,本件登録意匠に関してロイヤルティを支払う旨同意していた。
これらの事実に照らせば,国は,原告が開発費用を回収するため,本件登録意匠を含む関係意匠権の使用許諾を受けて対価を支払うという構成をとらざるを得ないと認識していたというべきであるから,少なくとも原告が開発費用を回収するまでの間は,原告と国は,本件登録意匠につきその有効性を争わない旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたというべきである。
(イ) したがって,日本郵政公社法施行法5条により郵政事業に関し平成15年4月1日から国の義務を承継した被告が,本件登録意匠につき意匠登録無効審判請求をすることは,本件合意に反するものであり,信義則に反し,許されないというべきであるから,被告に請求人適格があることを前提とする本件審決には違法がある。
イ 取消事由2(頒布された刊行物該当性の判断の誤り) (ア) 意匠法3条1項2号の「頒布された刊行物」とは,「頒布により公開されることを目的として複製された文書や図面の情報伝達媒体」をいい,「頒布」とは,例えばインターネットにより閲覧可能であるなど,当該刊行物それ自体の原本又は複製物が公開され,一般公衆において閲覧可能であることを意味する。
しかし,郵務局長定例記者会見なるものは,参加できる者が,郵政省(当時)担当の記者クラブ所属の記者のみに限定されており,一般公衆に開放されているものではなく,また,そこで配布される資料に関しても,参加者のみが入手し閲覧可能なのであって,それ自体が一般公衆に出回ることがそもそも予定されていないのであるから,頒布により公開されることを目的として複製された文書に当たらない。
(イ) すなわち,被告の後記主張を前提としても,郵政省が配布した平成8年7月8日付け「郵務局長定例記者会見配布資料」(本件配布資料)の配布先は,「郵政記者クラブ・飯倉クラブ・郵政省テレコム記者会所属の会社に所属する記者」に「特定」されており,その配布数も原則76部以下で,その内訳は,郵政記者クラブ向けに50部,飯倉クラブ向けに13部,郵政省テレコム記者会向けに13部とされており,郵政記者クラブ所属社のうち常勤加盟社は19社,飯倉クラブ所属社は6社,郵政省テレコム記者会所属社は8社にすぎないことからすれば,本件配布資料はわずか33社を対象としているにすぎない。そして,被告提出の本件配布資料に関する掲載記事(乙6ないし8)は,日本経済新聞,朝日新聞,毎日新聞,産経新聞,東京新聞,日刊工業新聞,読売新聞の7社にすぎないことからすれば,本件配布資料が配布された部数は,極めて少数であったものと考えられ,本件配布資料は,「特定少数」の者を対象とする「公開性」が認められないものであって,刊行物に該当しない。
また,そもそも本件配布資料を入手した各記者は,各々が所属する新聞社の編集方針等により,本件配布資料を使用した記事を掲載するか否かを個別具体的に検討し,これを決定するのであって,情報の取捨選択その他様々な要因により,そもそも記事として取り上げないことや,意匠を伴わない文字のみによる形での記事に留まる場合も十分あり得る(事実,毎日新聞の前記掲載記事は,意匠を伴わない文字のみの記事であった。)。そして,被告提出の乙10(「プレス対応と広報」)の18頁記載の「取材対応の手順」における「C 取材日時等連絡・調整」,「D 広報室に取材日時等を連絡」,「E インタビュー」という各記載からは,一般公衆はそもそも記者会見資料の閲覧の対象者とされていないのであるから,本件配布資料は,一般人から求められて郵政省が本件配布資料を交付していた事実があったものとも考えられない。
以上のとおり,本件配布資料は,意匠法3条1項2号の「頒布された刊行物」に当たらない。
(ウ) なお,被告は,後記のとおり,本件配布資料が「頒布された刊行物」に該当しないとしても,本件登録意匠につき被告が本件審判手続において主張した無効理由のほか新たな無効理由が存するから,本件審決の結論に影響はない旨主張するが,本件審決は本件登録意匠が本件配布資料記載の甲号意匠と類似することを理由に本件登録意匠の登録を無効と判断しているのであり,そもそも被告が本件審決において何ら判断されていない無効理由を本件訴訟の場で主張することは許されず(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),この点に関する被告の主張は失当である。
ウ 取消事由3(本件登録意匠と甲号意匠とは非類似であること) (ア) 本件登録意匠と甲号意匠との間には,本件審決が認定した差異点のほか,次のとおりの差異点が存するのに,本件審決は,これらを看過したため差異点の評価を誤り,ひいては本件登録意匠と甲号意匠との類否判断を誤った。
@「本件登録意匠の左側面(審決別紙第1の左側面図)の中央左部分に存する取っ手部分(以下「取っ手」という。)は,縦:横の比が,およそ7:4であるのに対し,甲号意匠のそれは,およそ6:1である点」(以下「差異点@」という。)。
この差異点@により,本件登録意匠においては,ポスト全体にどっしりとした安定感を醸し出し,質実剛健な印象を与えるのに対し,甲号意匠においては,逆にスマートかつシャープで都会的な印象を与えることから,差異点@は,形態全体を支配する要素に係るものであることは明白である。
A「本件登録意匠の錠前の位置は,左側面(審決別紙第1の左側面図)の左端から錠前までの距離と奥行全体の距離の長さの比が,およそ3:25であるのに対し,甲号意匠のそれは,およそ1:18である点」(以下「差異点A」という。)。
すなわち甲号意匠においては,錠前が本件登録意匠に比して,著しく奥まった位置に設置されており,差異点Aにより,本件登録意匠においては,ポスト全体にどっしりとした安定感を醸し出し,質実剛健な印象を与えるのに対し,甲号意匠においては,逆にスマートかつシャープで都会的な印象を与えることから,差異点Aは,形態全体を支配する要素に係るものであることは明白である。
(イ) 本件審決の認定した前記差異点により,本件登録意匠においては,ポスト全体においては,丸みを帯びた柔らかいソフトな印象を与えるのに対し,甲号意匠においては,逆にスマートかつシャープで都会的な印象を与えることから,その差異点が形態全体を支配する要素に係るものであることは明白であり,その差異点につき微弱な差異であるとして本件登録意匠と甲号意匠の類似性を肯定した本件審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)及び(2)の事実はいずれも認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論 (1) 取消事由1に対し 原告と国が,本件登録意匠につきその有効性を争わない旨の合意(本件合意)をしたことはないから,被告が本件登録意匠につき無効審判請求をすることが信義則違反となるような「特段の事情」は存しない。
原告提出の甲3,4は,被告(当時の郵政省)の担当者が作成したものではなく,原告が作成したものであり,甲3,4には,公印の印影のみならず,私印の印影すらない。また,原告提出の他の書証は,当時,原告が被告に対し,金銭的な補償を要求していたことを示すものにすぎないし,被告がその要求に応じたことは一切ない。
(2) 取消事由2に対し ア(ア) 本件配布資料は,郵政省の郵務局長定例記者会見に参加する多数の記者を対象として,記者に配布されることを目的に作成されたものであり,当時,「局長定例会見資料」が「90部」作成され,「郵政記者クラブ」に「50部」,「飯倉クラブ」に「13部」,「郵政省テレコム記者会」に「13部」配布された。
「郵政記者クラブ」とは,日本の主要な新聞社及びテレビ局がすべて参加する記者クラブであり,具体的には常勤加盟社が「産経新聞」,「共同通信」,「毎日新聞」,「日刊工業新聞(現:フジサンケイビジネスアイ)」,「読売新聞」,「朝日新聞」,「NHK」,「時事通信」,「日本経済新聞」,「東京新聞」,「西日本新聞」,「北海道新聞」,「日本工業新聞」,「テレビ朝日」,「テレビ東京」,「日本テレビ」,「TBS」,「毎日放送」,「フジテレビ」の19社,非常勤加盟社が地方新聞社や海外メディア等47社により構成されている。
「飯倉クラブ」とは,郵政業界におけるいわゆる業界紙向けの記者クラブであり,具体的には「官界通信社」,「通信文化振興会」,「通信新聞社」,「通信世界社」,「逓信文化社」,「逓信新報社」により構成されている。
「郵政省テレコム記者会」とは,通信業界におけるいわゆる業界紙向けの記者クラブであり,具体的には「電波タイムス社」,「電波新聞社」,「通信興業新聞社」,「電気新聞」,「電気タイムス」,「中央通信研究所」,「科学新聞社」,「逓信公論社」により構成されている。
このように本件配布資料は,日本における主要なマスメディア及び業界紙のすべてに頒布されることを目的として作成されたものであるから,「公開性」及び「頒布性」を備えた刊行物(意匠法3条1項2号)である。
(イ) また,当時の郵政省が「記者クラブ所属の記者以外」,すなわち,一般の取材者から「取材等の申込み」を受けた場合,「広報室を窓口として受けるので,直接担当課等に申込みがあったときは,広報室を経由するよう相手側に伝え,広報室からの連絡を待って対応すること」とし,「局長定例会見資料」等の資料の交付を求められた場合には当該資料を交付しており,一般人から求められた場合にも,当該資料を交付していた。このことは,乙10(「プレス対応と広報」)の18頁に,一般公衆を除外する旨の記載がないのみならず,「7 取材等への対応」の項目において「記者クラブ所属の記者以外からの取材等の申込みがあったとき」と記載されていることからすれば,本件配布資料の交付先は「取材」を行う「記者」に限定されるものではなく,広く一般公衆を対象としていることは明白である。仮に本件配布資料が一般公衆の閲覧・謄写を予定していないのであれば,“秘密厳守”,“複写厳禁”等の注意書きがあって然るべきところ,本件配布資料にそのような注意書きの記載はない。かえって被告(当時の郵政省)の依頼により郵政弘済会が「POST21」1996年8月号(乙11)を発行し,国が積極的に本件配布資料の内容を広く閲覧・謄写可能な状態にしたことからすれば,国は本件配布資料の内容を一般公衆に知らせる一つの方法として,郵務局長定例記者会見において本件配布資料を配布したのであり,一般人からの求めに応じて随時本件配布資料を交付していたことは明らかである。
(ウ) 以上のとおり,本件配布資料は,意匠法3条1項2号の「頒布された刊行物」に該当することは明らかである。
イ 仮に,本件配布資料が頒布された刊行物に該当しないとしても,以下のとおり,本件登録意匠に無効理由があることに変わりはないのであるから,本件審決の結論に影響はなく,これを取り消すべき理由はない。
(ア) 本件審決は,被告が本件審判手続において主張した無効理由1ないし5(本件審決の1頁23行〜2頁15行)のうち,無効理由5についてのみ判断し,本件登録意匠の登録を無効とした。
被告は,無効理由5において本件配布資料に基づき複数の新聞社が掲載した平成8年7月9日付け新聞記事(本訴乙8・審判甲8)を引用していたものであり,上記各新聞記事は「頒布された刊行物」に該当し,又は上記各新聞記事に掲載された郵便ポストの意匠は「意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠」(意匠法3条1項1号)となったから,本件登録意匠は,「頒布された刊行物」に記載され意匠又は「公然知られた意匠」に類似する意匠である。
したがって,仮に本件配布資料が頒布された刊行物に該当しないとしても,本件登録意匠につき,被告主張の無効理由5は存在する。
(イ) 被告が本件審判手続に提出した本訴乙1ないし4の各1(審判甲1ないし4)によれば,被告主張の無効理由1ないし4が存在することは明らかである。
また,乙11(郵政弘済会発行の「POST21」1996年8月号)は,全国の郵便局等に備え付けられ一般の閲覧に供されているのみならず,国会図書館にも受け入れられている一般に閲覧可能な「頒布された刊行物」に該当し,乙11の4頁は,本件配布資料とほぼ同一の内容であるから,本件登録意匠は,被告主張の無効理由1ないし5のほかにも,意匠法3条1項3号の無効理由が存する。
(ウ) 本件審判手続において,請求人である被告は,無効理由1ないし5を主張し,証拠も提出済みであるから,原告はすべての無効理由について弁明の機会を与えられていたことは明らかであり,本件においては高度な技術的判断は不要であることからすれば,本件訴訟において無効理由1から4のいずれかで本件登録意匠の登録が無効とされたとしても,原告にとって不意打ちとはならず,前審判断経由の利益を害することにはならない。
したがって,原告主張の最高裁昭和51年3月10日大法廷判決は,本件に適切でない。
(3) 取消事由3に対し ア 本件登録意匠と甲号意匠の取っ手の形態は,いずれも縦長の矩形であり,取っ手に係る原告主張の差異点@は,横寸法及び縦寸法比のわずかな差にすぎない。また,本件登録意匠において,取っ手の横寸法は,郵便ポスト本体の横寸法の16%,縦寸法の21%(郵便ポスト全体の縦寸法の13%)であり,郵便ポスト本体の側面の面積の3%を占める大きさにすぎない。したがって,差異点@は,本件登録意匠とほぼ同一視できる程度のものであり,本件登録意匠と甲号意匠の類否判断に与える影響は全くない。
また,本件登録意匠の取っ手の形態は,平成8年7月8日現在において,当時の郵政省が設置していた周知の郵便ポストの取っ手(乙5の1記載の「現在のポスト」の「準中型ポスト」の側面図に表れた取っ手)に近いものであり,取引者等が注意を引かれる部分ではないから,本件登録意匠と甲号意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
イ 本件登録意匠において,錠前の横寸法は,郵便ポスト本体の横寸法の6%,縦寸法の4%(郵便ポスト全体の縦寸法の2%)であり,郵便ポスト本体の側面の面積の0.2%を占める大きさにすぎず,錠前に係る原告主張の差異点Aは,本件登録意匠とほぼ同一視できる程度のものであり,本件登録意匠と甲号意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
また,錠前の形態は,本件登録意匠と甲号意匠のいずれも全体的に円形であり,錠前の形態が取引者等が注意を引かれる部分とはいえず,かつ,全体に占める大きさが小さいから,その位置が類否判断に影響を与えるものでもない。
意匠の類否判断においては,個々の要素にとらわれることなく,個々の要素を総合して全体として判断するものであり,本件審決認定の差異点のほかに,原告主張の差異点@及びAを加えて総合的に判断しても,本件登録意匠と甲号意匠の類似性を認めた本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯), (2)(審決の内容)の事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張に係る本件審決の取消事由(請求原因(3))について,以下,順次判断する。
2 取消事由1(請求人適格の不存在)について (1) 原告は,原告が負担した新型ポストのデザイン開発費用を回収するまで,原告と国は,国が本件登録意匠につきその有効性を争わない旨の合意(本件合意)をしたから,日本郵政公社法施行法5条により国の義務を承継した被告が,本件登録意匠につき無効審判請求をすることは,本件合意に反するものであって,信義則に反し,許されない旨主張する。
この点について,原告代表者の陳述書(甲22)には,@原告は,昭和42年ころから,継続的に国から郵便ポストに関するデザイン業務や製造業務を請け負ってきたところ,従来は,原告,G株式会社(以下「G」という。)及び株式会社H株式会社(以下「H」という)の3社で郵便ポストの製造を実質的に独占してきたため,その製造の過程で,原告がポストの改良等に要した膨大な開発費用を回収することができた,A国(郵政省)は,平成8年1月下旬,原告,G及びHの3社に対し,新型ポストのデザイン業務を依頼し,原告は,これに応じることとした,Bその後原告は,平成8年6月に,郵政ニューオフィス研究会経由で,新型ポストの設計図面を郵政省に納品し,同年7月には,各新型ポスト(10号,11号,12号,13号,14号,14号S9)について図面及び部品表を完成し,試作を始めた,Cところが,平成8年8月くらいから新型ポストの調達契約は一般競争入札になるという話が広まったため,原告代表者は,同年9月ころ,郵政弘済会のC部長に対し,新型ポストの製造に第三者が参加することで新型ポストのデザインに対する投下資本を回収できなくなるので,何とか開発費用を精算して欲しい旨持ちかけたところ,C部長は,同年10月に,郵政省が原告の貢献を意匠権などの知的財産権を取得させることで保証する,その旨を郵政ニューオフィス研究会のD常務理事に話しておくと述べた,Dそして,実際に,郵政省との間で調整がなされ,原告と郵政ニューオフィス研究会が,新型ポストの意匠権を取得するということで決まり,原告代表者が意匠権の申請に関する書類を平成8年10月末に届け出た記憶があり,翌年(平成9年)2月末に意匠権の申請がされた,E原告は,郵政ニューオフィス研究会と連係をとりつつ,平成8年12月中に,新型ポストの実施設計という段階のデザインを完成させた後,平成9年には,平成8年段階の設計を改良した仕様書を完成させ,平成10年から平成11年にかけて,その改良作業を行った旨の記載部分がある。
そして,甲3の「確認書」と題する書面には,「株式会社東北製作所と社団法人郵政ニューオフィス研究会が取得した,ポストに関する意匠登録等の工業所有権の正当な権利の行使について,当省と株式会社東北製作所とにおいて慎重審議の結果,当省は当該工業所有権の権利行使を阻害するいかなる理由もみあたらないことを確認した。 平成12年11月21日 郵政省郵務局輸送企画課長 A」との記載がある。
また,甲4の書面には,「(1) 共有契約書 【要点】 実施権の行使についての対外的折衝,契約の代表者を株式会社東北製作所とする」,「(2) 郵政省郵務局輸送企画課との議事録(確認書) 株式会社東北製作所と社団法人郵政ニューオフィス研究会が取得した,ポストに関する意匠登録等の工業所有権の正当な権利の行使について,当省は阻害するいかなる理由もないことを確認した。 平成12年11月21日 郵政省郵務局輸送企画課長 A」との記載がある。
(2) そこで検討するに,前記認定のとおり,本件登録意匠は,平成9年2月27日に出願され,平成10年3月13日に,原告及び郵政ニューオフィス研究会の2名を意匠権者(共有)として設定登録されており,この点においては,原告代表者の陳述書(甲22)の前記記載部分に沿うものではあるが,原告代表者の陳述書を前提としても,原告代表者と郵政弘済会のC部長との交渉経緯に関する記載があるにとどまり,原告と国の担当者が本件合意をするに至った交渉経過や合意の内容については一切記載がなく,原告代表者の上記陳述書から直ちに本件合意の成立を認めることはできない。
また,原告は,甲3,4は,当時の郵政省郵務局輸送企画課長のAが平成12年11月21日に作成した文書であると主張するが,一方で,日本郵政公社郵便事業総本部総務・人事部のB(以下「B係長」という。)作成の陳述書(乙12)中には,B係長が輸送企画課企業調整係長として原告代表者との間で本件登録意匠の件について話合いをしていた際に,原告代表者から郵政省に対し,甲3に押印するよう要求があったが,その要求を断った旨,甲4については,以前に見たことはない旨の記載部分があること,原告提出の甲16(平成12年11月21日に郵政省会議室で行った主な打合せ事項を記載したE作成の同年11月22日付け「郵政省打ち合わせ記録」と題する書面)中の「追記」には,「1.上記打ち合わせ終了し,退席時,EがA課長へ工業所有権の使用について確認する。事情が事情なので使用することはやむおえないとのお話し有る。」との記載があるものの,その本文には,「A課長」の発言として,「F先生から3回お話有った。開発コスト面倒見てくれないか。調達で面倒みられないか。開発はオンリスクでやるので面倒みられないと答えた。駄目なら,工業所有権で見てくれないかとのお話があった,これに対し,省調達専用品は控えてもらいたいと答えた。工業所有権を共同で登録した場合は相手の同意を得られなければ権利行使できない。」(23項),「・・・費用分担は3社でお話しして下さい。」(65項),「・・・工業所有権はオフ研とお話しして下さい。」(67項),「裁判でも何でもやって下さい。」(69項)などの記載部分があることに照らすと,甲3,4はA課長の意思に基づいて真正に作成されたものであるとは到底認めることはできず,結局,本件全証拠によっても,これを認めるに足りない(そもそも,甲3の文面及び甲4の(2)の文面からは,原告が新型ポストの開発費用を回収するに至るまでの間,国において本件登録意匠の有効性を争わないことを同意したとの趣旨まで読みとることは困難である。)。
このほか,原告提出の甲号各証その他本件証拠を勘案しても,原告と国との間において本件合意が成立したことを認めることはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(頒布された刊行物該当性の判断の誤り)について (1) 原告は,郵務局長定例記者会見なるものは,参加できる者が,郵政省(当時)担当の記者クラブ所属の記者のみに限定されており,一般公衆に開放されているものではなく,また,そこで配布される資料に関しても,参加者のみが入手し,閲覧可能なのであって,それ自体が一般公衆に出回ることがそもそも予定されていないのであるから,頒布により公開されることを目的として複製された文書に当たらず,本件配布資料は「頒布された刊行物」(意匠法3条1項2号)に該当しない旨主張する。
(2) 証拠(乙5の1・2,6ないし8,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成8年7月8日,郵政省において,郵務局長定例記者会見が開かれ,その資料として,「資料1 新郵便番号のキャラクター・愛称について」,「資料2 新型郵便ポストの設置について」(乙5の1)及び「資料3 非木材紙(ケナフ)を活用した郵便葉書の発行について」が配布された。
局長定例会見は,各局長及び官房総務審議官の持ち回りで(週に1回),「郵政記者クラブ」(全国紙の新聞社・テレビ局等常勤19社,地方新聞社等非常勤47社が加盟),「飯倉クラブ」(郵政業界の業界紙等6社が加盟),「郵政省テレコム記者会」(通信業界の業界紙等8社が加盟)の各記者クラブ所属の記者に対し,各部局の諸課題,施策等について説明し,質疑応答が行われていた。
局長定例会見資料は,あらかじめ90部作成され,郵政記者クラブに50部,飯倉クラブに13部,郵政省テレコム記者会に13部配布され,14部が予備とする取扱いがされていた。
イ 本件配布資料は,題名を「新型郵便ポストの設置について」とし,右上部に「平成8年7月8日 郵政省」との記載のある文書と5種類(大型・準大型・中型・準中型・小型)の「現在のポスト」及びそれぞれに対応する「新型郵便ポスト」のデザイン及び外観寸法を表した外観図とからなる資料(2枚組のもの)であり,文書の本文は「1 趣旨 」,「2 新型郵便ポストの種類」,「3 デザイン・色(外観図は別添のとおり)」,「4 主な改善点」,「5 配備時期」の5項目から構成され,「1 趣旨 」には「郵政省では,・・・22年振りにポストの規格を定め,本年度から配備することとします。」との記載があり,本文の末尾に「連絡先:郵務局輸送企画課 電話:03-3504-4408」との記載がある。また上記外観図のうち,「準中型」の「新型郵便ポスト」のものが甲号意匠である。
ウ 平成8年7月9日付けで,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞,東京新聞,日本経済新聞,日刊工業新聞の各紙に,「22年ぶり 新型ポスト」,「新型ポスト,来年2月から登場」,「郵便ポスト規格22年ぶりに変更」,「ポストのデザイン一新へ」などの見出しの下に本件配布資料に基づく記事(乙6ないし8)が掲載された。
その後同年8月に,郵政弘済会発行の情報誌「POST21」(1996年8月号。乙11)に,「新型郵便ポストの仕様設定」と題して,本件配布資料の本文とほぼ同旨の内容が記載された記事及び本件配布資料の上記外観図と同じ図面が掲載された。上記情報誌は,同年8月9日,国立国会図書館に受け入れられた。
エ なお,郵政大臣官房秘書課広報室作成の「プレス対応と広報」(平成7年3月。乙10)の「7 取材等への対応」(18頁)には「記者クラブ所属の記者以外からの取材等の申込みは広報室を窓口として受けるので,直接担当課等に申込みがあったときは,広報室を経由するよう相手側に伝え,広報室からの連絡を待って対応すること。ただし,取材に応じた後,相手方から担当課に取材内容の再確認等,アフターフォローに類するものについては直接対応すること」,「※ 各種商品の内容・取扱い,郵便貯金の利率,郵便物数,無線局数といった通常の業務に関する電話照会等については,形式的に広報室を経由することなく,一般の電話照会と同様にそれぞれ対応すべきものであるので,念のため。」などの記載がある。
(3) 上記認定事実を総合すると,@本件配布資料は,平成8年7月8日,郵務局長の局長定例会見において,郵政省が平成8年度から新型郵便ポストが全国に配備されること,新型郵便ポストの形状等の外観,現在のポストからの改善点等を報道機関を通じて国民に周知するため,郵政記者クラブ,飯倉クラブ,郵政省テレコム記者会の各記者クラブ所属の各社に配布されたこと,A上記局長定例会見時における本件配布資料の配布先は,郵政記者クラブに50部,飯倉クラブに13部,郵政省テレコム記者会に13部(合計76部)であったこと,B本件配布資料の記載事項は公開することを目的としており,上記各記者クラブ所属の報道機関以外の記者の取材の申込みに応じて,本件配布資料を交付したり,一般人に対しても電話照会等を通じて特に希望があれば,本件配布資料を交付することが可能であったこと,Cそして現に配布翌日の平成8年7月9日の各新聞に,新型ポストの写真入りでその概要が報道され,また平成8年8月に郵政省広報誌「POST21」(1996年8月号)(郵政弘済会発行)に本件配布資料の外観図と全く同じ外観図が掲載されていることが認められる。
そうすると,本件配布資料は,不特定又は多数の者に対し頒布により公開することを目的として複製された文書であって,現実に社会に頒布されているのであるから,意匠法3条1項2号の「頒布された刊行物」に該当するものと認めるのが相当である。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本件登録意匠と甲号意匠とは非類似であること)について (1) 本件審決は,本件登録意匠と甲号意匠とでは,意匠に係る物品が「ポスト」であることで共通し,前記のとおりの本件登録意匠と甲号意匠の共通点(共通点@,A(a)ないし(e))及び差異点,甲号意匠の不明な点を認定した上,「まず,両意匠において共通しているとした基本的構成態様は,両意匠の形態についての骨格的な態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるから両意匠の類否判断に影響を与えるものと認められ,かつ形態全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通感を与えるところであり,各部の共通する(a)ないし(e)の態様と相まって,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる。」,「次に,差異点・・・の庇部の正面視形状の差異は,庇部がポスト全体に対して占める比率が小さいこと,及び本件登録意匠の上方への湾曲の度合いが小さいものであることから,この点のみを注視すればわかる程度の差異に止まり,全体の基本的構成態様,及び本体部に対する庇部の配置,平面視形状の共通感がこれを圧しているものであるから,全体として観察した場合,部分的で微弱な差異といわざるを得ない。・・・(中略)・・・そうすると,差異点・・・は,形態全体としてみた場合,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであり,また,甲号意匠の態様が不明な・・・点も,本件登録意匠とほぼ同一視できる程度のものと推認できることから,これらの差異点等が,前記共通点を凌駕して,類否判断を左右するほどのものとは認められない。」,「したがって,本件登録意匠と甲号意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても前述のとおり差異等があっても,類否判断を左右する要素において共通するから,全体として類似するというほかない。」(4頁23行〜5頁20行)と判断したものであり,上記判断に特段不合理な点は認められない。
(2)ア これに対し原告は,本件審決は,「本件登録意匠の左側面(審決別紙第1の左側面図)の中央左部分に存する取っ手部分(取っ手)は,縦:横の比が,およそ7:4であるのに対し,甲号意匠のそれは,およそ6:1である点」(差異点@)及び「本件登録意匠の錠前の位置は,左側面(甲1の別紙第1の左側面図)の左端から錠前までの距離と奥行全体の距離の長さの比が,およそ3:25であるのに対し,甲号意匠のそれは,およそ1:18である点」(差異点A)を看過したため,差異点の評価を誤り,ひいては本件意匠と甲号意匠との類否判断を誤った旨主張する。
しかしながら,甲1,12,乙5の1によれば,原告が主張するような取っ手の縦と横の比(差異点@)及び錠前の位置(差異点A)に差異があることは認められるものの,他方で,本件登録意匠と甲号意匠を全体として観察すると,@取っ手及び錠前は,いずれも郵便ポスト本体の左側面の奥に位置していること,A取っ手の形態は,縦長の矩形であることで共通し,郵便ポスト本体の側面の面積に占める割合は小さく,差異点@は横寸法及び縦寸法比のわずかな差にすぎないこと,B錠前の形態は,全体的に円形であることで共通し,全体に占める大きさが小さいことが認められ,差異点@に係る取っ手の形状(縦と横の比)及び差異点Aに係る錠前の位置の差異は,いずれも部分的かつ微細な差異であって,看者の注意を引く部分とは認められず,上記差異がもたらす意匠的効果は,両意匠の共通点が醸し出す類似するとの印象を凌駕して,看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものとは認められない。
イ また原告は,本件審決認定の差異点(「庇部につき,本件登録意匠は,正面視,上方に湾曲状であるのに対し,甲号意匠は,直状である点」)により,本件登録意匠においては,ポスト全体に丸みを帯びた柔らかいソフトな印象を与えるのに対し,甲号意匠においては,逆にスマートかつシャープで都会的な印象を与え,本件差異点が形態全体を支配する要素に係るものであるから,本件登録意匠と甲号意匠が類似するとした本件審決の前記判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,本件登録意匠と甲号意匠を全体として観察すると,本件差異点は,本件審決が認定するとおり,「この点のみを注視すればわかる程度の差異」に止まる部分的で微弱な差異であって,看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものとは認められないから,原告の上記主張は採用することができない。
したがって,原告主張の取消事由3も理由がない。
5 結論 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二