運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 実施権の設定 /  権利能力 /  一意匠一出願(7条) /  差止請求(差止) /  通常実施権 /  商標権 /  契約の解除 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ネ) 4809号 意匠権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 有限会社小沢工業 代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 田中平八
被控訴人 株式会社和孝 代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁護士 吉田裕敏
被控訴人 有限会社フロンティア 代表者取締役 【C】
被控訴人 株式会社アネックス 代表者代表取締役 【D】
両名訴訟代理人弁護士 加藤貞晴
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、原判決別紙目録一及び二記載の組立屋根を製造、販売又は販売のために展示してはならない。
(3) 被控訴人らは、原判決別紙目録三記載の標章を組立屋根及びその包装に付し、又はこれを付した組立屋根を販売し若しくは販売のために展示してはならない。
(4) 被控訴人らは、原判決別紙目録一及び二記載の組立屋根並びに同目録三記載の標章を使用して製造した組立屋根の製品、半製品及び仕掛品を廃棄せよ。
(5) 被控訴人和孝は、控訴人に対し、原判決別紙登記事項目録記載の通常実施権の抹消登録手続をせよ。
(6) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら 主文と同旨
事案の概要
本件は、組立屋根の製造販売を目的とする株式会社ダイモンが倒産した後、
その有していた意匠権及び商標権を譲り受けたと主張する控訴人が、意匠権等に基づいて、被控訴人らに対し、侵害行為の差止めを求めるとともに、意匠権の通常実施権の設定を受けていた被控訴人株式会社和孝に対し、その抹消登録手続を求める事案である。
本件の争いのない事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決7頁末行の「その設定登録」を「別紙登録事項目録記載のとおりの設定登録」に、8頁4行目から5行目の「本件通常実施設定契約を」を「本件通常実施権設定契約に定める実施許諾商品の製造、販売、在庫の各数量及び代金回収情報についての報告義務を怠ったとして、催告の上、同契約を」に、16頁6行目から7行目の「信託法50条」を「信託法50条1項」にそれぞれ改める。
2 控訴人の当審における主張 原判決は、控訴人はダイモンから平成9年6月9日付けの契約によって本件意匠権等を譲り受けたことを認定しつつ、この譲受けは、ダイモン被害者の会の目的に従って財産の管理行為等を行うために、同会又は同会の会員全員の受託者の地位においてされたものであって、控訴人は、信託的に本件意匠権等を取得したものであるとするが、控訴人が独自の立場で本件意匠権等の譲渡を受けたことは、以下の事実からも明らかである。
(1) 信託法に基づく信託とは、財産権を有する者(委託者)が信託契約等によって受託者に信託財産の名義や管理処分権を帰属させ、信託目的に従って委託者本人又は第三者(受益者)のためにその財産権の管理又は処分をさせる法律関係である。したがって、原判決の認定するような信託契約が成立するためには、信託契約の成立以前に本件意匠権等がダイモン被害者の会の所有か又はその会員の共有でなければならない。ところが、本件においてはそのような事実はなく、「財産権を有する者(委託者)が自分以外の他人(受託者)に財産権の名義を移転する」との信託関係が成立する必須の要件を欠いている。
本件製品の安定供給という目的は、信託目的ではなく、控訴人がダイモンから本件意匠権等を譲り受けた際の単なる特約にすぎない。
(2) ダイモンから本件意匠権等をだれが譲り受けるかについて、【E】弁護士がダイモン側と交渉したこともあるが結論は出ず、控訴人ほかがダイモンの【F】社長と直接交渉して、控訴人に対してならば本件意匠権等を譲渡してもよいとの回答を得て、譲渡契約の文案をまとめたとの経緯がある。結局、【E】弁護士は、同契約の調印前に控訴人に示された同契約の文案をそのまま了解したにすぎず、ダイモン被害者の会の代理人として同契約の締結を主導したものではなく、契約書にも【E】弁護士の代理人としての記載はない。
【E】弁護士が同契約書の譲受人としての控訴人の肩書に「ダイモン被害者の会代表幹事」等の記入を求めなかった理由は、ダイモン被害者の会は、権利能力なき社団の実体もない債権者の集団にすぎず、同会の名において本件意匠権等を取得できない上、下記(3)のとおりこれを譲り受ける資金余力もなく、また、同会の会員全員の共有とすることも非現実的であったこと、他方、控訴人が本件意匠権等を譲り受けてダイモン被害者の会の会員に本件製品を安定供給することを約束している限り、控訴人による譲受けに反対する理由もなかったからである。ダイモン被害者の会の会員もまた【E】弁護士と同意見であったから、控訴人が本件意匠権等を譲り受けることに反対はなかった。
(3) ダイモン被害者の会は、@ダイモンの【F】社長その他の役員に対する民事、刑事の両面にわたる個人責任の追及、Aダイモンに支払った契約代金の返還請求とクレジットによる借入金で契約金を支払った会員のクレジット会社に対する支払の停止及び減額交渉、B会員に対する本件製品の安定供給という三点を目的とし、会員125名から3万円ずつ計375万円を徴収して活動資金としたものであるが、【E】弁護士に対してこれらの目的の遂行に係る事務を委任した報酬総額300万円を支出しなければならず、事務局員【G】に対する手当、控訴人の事務所を借りた家賃、通信費その他の費用を賄うこともできない状況であり、本件意匠権等の取得のために会員に対して追加の支出を求めることも期待できなかった。
(4) さらに、平成9年6月9日付けの本件意匠権等の譲渡契約書(甲4)の第4条には、「乙(注、控訴人)は権利に瑕疵があっても、契約の解除や代金減額の請求をしない」と規定されており、同日付けで控訴人がダイモンに差し入れた確認書(甲13)にも、「本件について、国税滞納処分による差押え及び一般債権者による仮差押がなされていることは承知しています。これらについては当社において解決し、貴社に御迷惑をおかけしません。」、「本件について、当社が譲り受ける以前に、貴社において【H】、株式会社ユニテック及び有限会社共同企画に対し、
通常実施権を許諾済であることを確認します。・・・これらの法人等と貴社との間にトラブルが発生した時には当社が責任をもって解決し、貴社に御迷惑をおかけしません。」、「本件譲渡について、第三者より当社が訴訟等を起こされても当社の責任において解決し、貴社に御迷惑をおかけしません。」と、譲受人に一方的に不利な内容が確認されている。ダイモンの役員に対する個人責任の追及等を重要な目的とするダイモン被害者の会がこのような屈辱的な条件を了解するはずがなく、本件意匠権等の譲受人が実質的にも控訴人であったことは経験則に照らして明らかである。
(5) 本件意匠権等を譲り受けたのが控訴人であったからこそ、譲渡代金153万4200円及び移転登録費用36万9200円は控訴人が支払った。仮に、これが立替払いであるならば、立替金の弁済について契約がされなければならないが、
そのような事実もない。なお、信託財産の管理、処分に要した費用であれば、信託契約終了時に清算することもあろうが、信託財産の取得費そのものを受託者が立替払いし、これを信託契約終了時に清算することはあり得ない。
(6) 本件意匠権等の譲渡が原判決の認定するような信託的なものであったとすれば、上記取得代金等の支払のための追加支出を会員に求め、信託関係について会員に連絡して承認を得るなどの措置が必要なところ、そのような措置はとられていない。さらに、ダイモン被害者の会の規約(丙46。ただし、その成立手続には瑕疵があるというべきである。)にも本件意匠権等をその財産として運用する旨の規定はなく、また、平成11年11月23日に開催されたダイモン被害者の会の2回目の会員総会の案内状(甲20)に記載された議題にも、本件意匠権等についての信託契約締結や譲渡費用等に関する件は一切触れられていない。かえって、平成9年12月26日付けでダイモン被害者の会の事務局から会員に送付された「『被害者の会』設立1年経過に伴い、その後と現況報告の件」と題する連絡文書(甲12の2)には、「商品『あっ晴れさん』については、既に御案内の通り、(株)和孝に製造及び販売を委任し、(株)和孝は『会』とは関係なく、各取扱い販売店とその取扱いの覚書に添って注文、出荷及び取付工事を開始している」と記載されているところ、仮に、本件意匠権等が信託的に譲渡されたものだとすると、被控訴人和孝がダイモン被害者の会と関係なく本件製品に関する営業をしているなどと記載するはずがない。
(7) ダイモン被害者の会は既に実質上消滅している。すなわち、ダイモン被害者の会の目的は上記(3)@〜Bのとおりであるところ、@のダイモン役員の個人責任の追及やAの契約金の返還請求等の件は、本来会員個人の問題であって同会固有の問題とはいえないから、会員に対して【E】弁護士を紹介したことをもって会としての役割は終えたというべきであるし、Bの本件製品の安定供給については、控訴人は平成11年11月6日、ダイモン被害者の会の会員らに対し、控訴人が株式会社日本衛生センターを通じて本件製品を安定供給する旨を連絡しており(甲21)、その目的も達成されている。したがって、ダイモン被害者の会は、実質的には消滅したというべきであり、現に、同年11月23日に開催された同会の総会には会員がだれも出席していない。
(8) なお、同年2月19日に控訴人がダイモン被害者の会の代表幹事を辞任し、【I】が新たな代表幹事となった際に控訴人が作成した確認書(丙1)は、
「控訴人が本件意匠権等をダイモン被害者の会の現執行部である【I】に対して条件によっては譲渡する意思がある」ことを確認する意味を示すものにすぎない。
3 被控訴人和孝の主張 (1) 控訴人は、信託契約成立以前に本件意匠権等がダイモン被害者の会の所有か会員の共有でなければならない旨主張するが、委託者が、将来自分が取得する財産権を、受託者に受託者の地位において取得させることも可能であり、控訴人の主張は根拠がない。
(2) ダイモンと控訴人間の本件意匠権等の譲渡契約を主導したのは【E】弁護士であり、同契約書に【E】弁護士の氏名の記載がないのはこの事実と矛盾するものではない。
(3) 控訴人は、本件意匠権等の譲渡契約及び確認書に屈辱的な条件が付されている旨主張するが、控訴人は、被害者の会の受託者として、本件意匠権等の取得を最優先と考える【E】弁護士の助言も踏まえ、自ら委託者のために必要と判断して、控訴人主張に係る条件で本件意匠権等を譲り受けたものである。仮に、これが不相当だとしても、控訴人の受託者としての任務違背が問題となるにすぎない。
(4) 控訴人は、控訴人が負担した本件意匠権等の譲渡代金について立替金の弁済についての契約はされなかった旨主張するが、それは控訴人が立替金の返還を急がなかったからにすぎない。なお、控訴人は、平成11年2月19日の被害者の会の幹事会で代表幹事を辞任する際、上記立替金の返還を求めている。
(5) 控訴人は、ダイモン被害者の会又はその会員から、信託契約等について承認を得る措置がとられていない旨主張するが、同会又はその会員から控訴人に対して明示的及び一部は黙示的に委託がされている。また、同会会員に対して追加支出を求めなかったのは、控訴人が費用を立替払いしたからにすぎない。なお、控訴人の指摘する「『被害者の会』設立1年経過に伴い、その後と現況報告の件」と題する連絡文書の「『会』とは関係なく」との文言は、受注から納品までの事務手続をダイモン被害者の会を経由しないで直接行っているとの趣旨にすぎない。また、そもそもこのような文書をダイモン被害者の会の事務局から通知したこと自体、信託的な譲渡を裏付けるものといえる。
(6) 本件意匠権等の運用については、控訴人主張のように、ダイモン被害者の会の規約において定める必要はない。
4 被控訴人アネックス及び同フロンティアの主張 (1) 控訴人は、本件意匠権等を譲り受けたのは控訴人であって、ダイモン被害者の会又はその会員ではないから、信託の要件を欠く旨主張するが、原判決は、本件意匠権等の譲受人が控訴人であることを前提としつつ、この譲受けがダイモン被害者の会又はその会員とは別個独自の立場でされたものとはいえず、控訴人はダイモン被害者の会の目的に従って財産の管理行為等を行うために、同会又はその会員の受託者の地位において信託的に本件意匠権等を取得したと判断しているのであって、正当な判断である。
(2) 控訴人は、本件意匠権等の譲受けが信託的なものであるとすれば、信託契約についてダイモン被害者の会の会員に連絡して承認を得るなどの措置が必要である旨主張するが、控訴人がダイモン被害者の会の代表幹事という立場において本件製品を安定的に供給するという目的のために同会又はその会員に代わって本件意匠権等を譲り受けるという基本的な枠組みはダイモン被害者の会の会員も承知していた。なお、控訴人の指摘する「『被害者の会』設立1年経過に伴い、その後と現況報告の件」と題する連絡文書の「『会』とは関係なく」との文言は、被控訴人和孝がダイモン被害者の会の個別具体的な了解を求めることなく製造販売等を開始しているという意味にすぎず、上記の信託類似の関係に何ら影響を及ぼすものではない。
(3) 控訴人は、ダイモン被害者の会の規約に本件意匠権等についての記載がない旨主張するが、それは、同会の運営資金についてだけ規定して本件意匠権等の取得費用について規定しなかったからにすぎない。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第四 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決23頁2行目の「右登録する」を「右登録をする」に、24頁9行目の「代表とみなすことができる」を「利害を最もよく代弁することのできる団体であると考えられる」にそれぞれ改める。
2 控訴人の当審における主張に対する判断 (1) 控訴人は、本件意匠権等の譲渡がダイモン被害者の会又はその会員の受託者として信託的に行われたというためには、信託契約の成立以前に本件意匠権等がダイモン被害者の会の所有か、又はその会員の共有でなければならず、本件においては信託関係が成立する必須の要件を欠いている旨主張する。
しかし、争点2についての被控訴人らの主張(原判決15頁末行〜16頁9行目)は、控訴人がダイモンから本件意匠権等を譲り受けたことを前提としつつ、控訴人とダイモン被害者の会又はその会員との関係に着目するとき、控訴人による本件意匠権等の譲受行為は、専らダイモン被害者の会又はその会員等に対する本件製品の安定供給を維持するという目的の下に、その意向を受けて行われたものであって、控訴人の取得する本件意匠権等に基づく権利行使も当該目的による制約を受けるとの趣旨の主張と解され、原判決の前示認定判断もこの趣旨をいうものにほかならない。そして、このような法律関係が成立するために、ダイモン被害者の会又はその会員が、本件意匠権等を所有又は共有していることが前提となるわけではないことは明らかである。
控訴人の上記主張は、「信託」との文言にとらわれ、被控訴人らの主張及びこれを認めた前示認定判断を正解しないものであって、採用することができない。
また、控訴人は、ダイモン被害者の会又はその会員のために本件製品の安定供給を維持するという目的は「信託目的」ではなく、控訴人がダイモンから本件意匠権等を譲り受けた際の特約にすぎないとも主張するが、この目的は当該譲渡契約の当事者である控訴人とダイモン間の問題ではなく、控訴人とダイモン被害者の会又はその会員の間の問題であるから、上記主張も採用の限りではない。
(2) 次に、控訴人は、本件意匠権等の譲渡交渉において【E】弁護士は主導的役割を果たしていなかった旨主張するが、控訴人も譲渡契約書等の文面を事前に【E】弁護士に提示して了承を得ていたことは、控訴人代表者の陳述書(甲27)にもあるとおりであり、また、証拠(甲33、42〜45、乙4、丙21、22、
29、41)によれば、本件意匠権等の取得に係る事務は、ダイモン被害者の会事務局と【E】弁護士が密接に連携をとりつつ進めていたことは明らかである。仮に、控訴人が、ダイモン被害者の会又はその会員と別個の独自の立場で、ダイモンから本件意匠権等を譲り受けたとすれば、ダイモン被害者の会から依頼を受けて同会会員のための本件製品の安定供給を実現すべく事務処理に当たっていた【E】弁護士の了解を得るなどの行動は不自然、不合理であるといわざるを得ず、上記の事実は、むしろ本件意匠権等の譲受けが前示のような信託的なものであったことを基礎付けるものというべきである。
(3) また、控訴人は、ダイモン被害者の会は本件意匠権等の代金を負担する能力がなかった旨主張するが、そもそも本件意匠権等の適正な代金相当額は使用料・実施料等によって長期的に回収が可能なはずであるし、同会の会員に追加的な支出を求めることが不可能であることを認めるに足りる証拠もない。そうすると、控訴人の立て替えた譲渡代金等を直ちに清算することが予定されていたのであれば格別、そのような事実を認めるに足りる証拠もないから、ダイモン被害者の会の当面の資金状態が控訴人の主張するとおりであったとしても、前示認定判断を左右するものとはいえない。
(4) 控訴人は、平成9年6月9日付けの本件意匠権等の譲渡契約書(甲4)の特約や同日付けでダイモンに差し入れた確認書(甲13)は譲受人に一方的に不利な内容であって、ダイモンの役員に対する個人責任の追及等を目的とするダイモン被害者の会が了解するはずのない内容である旨主張する。しかし、ダイモン被害者の会が本件製品の安定供給の確保をもその目的としていたことは前示認定(原判決「事実及び理由」欄の第四の一1(一)、(二))のとおりであって、その実現のために、ダイモンから本件意匠権等を取得することを最優先の課題とし、ダイモンの代表者【F】との交渉において、本件意匠権等の譲渡契約の早期実現のために、部分的には不利な特約条項等であっても、これを甘受することは十分にあり得ることであって、控訴人の上記主張は理由がない。
(5) 控訴人は、控訴人の支払った本件意匠権等の譲渡代金等が立替金であるとすると、その弁済について契約がされなければならない旨主張するが、この点について特段の合意がなかったとすれば、委託の趣旨に従った清算が黙示的に予定されていたと解することができ、明示的な合意がなかったことをもって前示認定が左右されるものではない。
(6) 控訴人は、本件意匠権等の譲渡が信託的に行われたものでないことの根拠として、信託関係についてダイモン被害者の会の会員に連絡して承認を得るなどの措置がとられていないこと、同会の規約や会員総会の議題にも信託の件については一切触れられていないこと等を挙げる。しかし、ダイモン被害者の会において、本件製品の安定供給のためにだれかが本件意匠権等をダイモンから譲り受ける必要があると認識され、その具体的な事務を【E】弁護士に委任したことは前示認定(原判決「事実及び理由」欄の第四の一1(一)ないし(三))のとおりであって、事後的にも、平成9年12月26日付けのダイモン被害者の会事務局から同会会員に対する「『被害者の会』設立1年経過に伴い、その後と現状報告の件」と題する書面(甲12の2)において、「我々の代理人である【E】弁護士のもと、【A】代表幹事(小沢工業)をはじめ役員方々の協力によってここまで参りました。他方、商品『あっ晴れさん』の製造・販売・取付工事についても、(株)和孝に全面委任し、当初の予定よりスタートの遅れはありましたが、現状では無事に完成し、その販売、出荷及び取付工事も進められております。」、「意匠及び商標権の確保と登録については、【E】先生の判断のもとでその手続きは終了し、当方にて確保済みです。」と報告しているところであり、このような事前、事後の手続は、本件意匠権等の譲渡がダイモン被害者の会又はその会員のために信託的に行われたことと何ら矛盾するものではなく、むしろこれを基礎付けるものということができる。
なお、ダイモン被害者の会の規約に本件意匠権等についての記載がないとしても、後記(8)の「確認書」がこれに代わるものということができるから、前示認定判断を左右するものではない。
また、上記「『被害者の会』設立1年経過に伴い、その後と現状報告の件」と題する書面中には、控訴人の主張するとおり、「(株)和孝は『会』とは関係なく・・・注文、出荷および取付工事を開始している」との記載もあるが、上記の記載と併せて読めば、被控訴人和孝がダイモン被害者の会からの本件製品の安定供給の要請に基づいてその業務を行っているとの趣旨が読み取れるから、「『会』とは関係なく」とは、注文等をダイモン被害者の会を経由することなく行っているなどの意味に解することができる。この点の控訴人の主張も採用することができない。
(7) 控訴人は、ダイモン被害者の会が既に事実上消滅している旨主張するが、
同会が現に活動していることは、原判決掲記(「事実及び理由」欄の第四の一3(二))の証拠から十分認められるところであって、控訴人の主張する事実は、この認定を左右するものではない。
(8) 控訴人は、平成11年2月19日に控訴人がダイモン被害者の会の代表幹事を辞任し、【I】が新たな代表幹事となった際に控訴人が作成した確認書(丙1)は「控訴人が本件意匠権等をダイモン被害者の会の現執行部である【I】に対して条件によっては譲渡する意思がある」ことを確認する意味を示すにすぎない旨主張するが、同確認書には「『あっ晴さん』意匠登録第0840906号及び商標登録第2388388号は有限会社小沢工業代表取締役【A】の所有でなく、株式会社ダイモン被害者の会の所有であることを確認する」と明記しており、その意味内容も一義的に明確であるから、控訴人の主張するような、同確認書の記載文言と懸け離れた解釈は到底採用することができない。
3 結論 以上のとおり、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利