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関連審決 無効2003-35413
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22ネ10014各意匠権侵害差止等・特許権侵害差止等 判例 意匠
平成14行ケ229審決取消請求事件 判例 意匠
平成11行ケ321審決取消請求事件 判例 意匠
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の利用 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  モチーフ /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  同一物 /  3条1項3号 /  置換 /  意匠の類否 /  同一物品 /  本意匠 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10083号 審決取消(意匠)請求事件

原告 日本圧着端子製造株式会社
訴訟代理人弁護士 岩坪哲
同 山形康郎
訴訟復代理人弁護士 井上義隆
被告 タイコエレクトロニクスアンプ株式会社
訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 弁理士 宍戸嘉一
同 弁護士 吉田和彦
同 弁理士 松下満
同 弁護士 佐竹勝一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35413号事件について平成16年6月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が,被告を意匠権者とする後記登録意匠につき無効審判請求をしたところ,特許庁から審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 被告は,意匠に係る物品を「電気コネクタ」とし,その形態を別紙審決写しの別紙第1記載のとおりとする登録第1182340号意匠(平成14年7月30日意匠登録出願,平成15年6月27日設定登録,甲17。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
原告は,平成15年10月1日,原告を請求人・被告を被請求人として,本件登録意匠につき意匠登録無効審判を請求した。
特許庁は,同請求を無効2003-35413号事件として審理した上,平成16年6月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年6月29日原告に送達された。
(2) 審決の内容 ア 本件審決の内容の詳細は,別紙審決写し記載のとおりである。その理由の要旨は,本件登録意匠は,その出願前に頒布された登録第1018719号意匠公報(甲18)記載の意匠(平成8年11月28日意匠登録出願,平成10年6月12日設定登録,意匠に係る物品「プリント配線板用コネクタ」,意匠権者・原告とし,その形態を別紙審決写しの別紙第2記載のとおりとするもの,甲18。以下「引用意匠」という。)に類似するものではないから意匠法3条1項3号に該当せず,また本件登録意匠は,引用意匠に基づいて容易に創作することができたものとはいえないから同条2項に該当しない,というものであった。
イ なお,本件審決は,本件登録意匠と引用意匠とでは,電気配線用の2極コネクタに係るものであるから意匠に係る物品が共通し,形態については,次のような共通点と差異点があると認定した。
(共通点) A「基本的な構成態様において,全体は,やや奥行きの長い扁平な略角筒状とし,正面側および背面側をそれぞれ開口して(以下,それぞれ「正面開口部」,「背面開口部」という。)ハウジングを形成し,背面開口部の左右両側にそれぞれコンタクトを挿入固定し,縦および横の長さと奥行の比を約3:7:9として構成した態様。」 各部の態様において, B「ハウジングの上下両側および左右両側を構成する壁状部(以下順に,「上面壁」,「底面壁」および「左右両側面壁」という。)をそれぞれ薄い板状に形成している点。」 C「正面開口部は,上面壁の前端寄りまで開口し,左右側面壁を上面壁から斜め下り直線状に形成し,下方の左右側面壁の横幅をわずかに狭めて左右対称状に形成した態様としている点。」 D「左右側面壁は,正面開口部に近接する下隅部分を段差状に形成し(以下「側面壁の段差部」という。),」 E「背面開口部は,左右側面壁から底面壁にかけて開口した部分をそれぞれ小矩形状とし,中央に後端から前方へ隔壁を形成して極間壁としている点。」 F「ハウジングの内側は,極間壁およびコンタクトの他は概ね空間を設けた態様としている点。」 G「2本のコンタクトは,それぞれの後部が背面開口部の前記小矩形状に開口した部分から露出している点。」 (差異点) (1)「ハウジングの上面壁後方の態様について,本件登録意匠は,左右両側の後端に,それぞれ前後の長さを奥行きの約3分の1とするやや大きな矩形状の浅い凹部を左右対称状に形成しているのに対し,引用意匠は,平滑面としている点。」 (2)「ハウジングの底面壁後方の態様について,本件登録意匠は,底面壁全面の半分強であって中央細幅部分を除き左右両端および後端まで縦長矩形状の浅い段差面を形成しているのに対し,引用意匠は,平滑面としている点。」 (3)「正面開口部の左右側面壁の上方の態様について,本件登録意匠は,いずれも上面壁から斜め下り直線状に形成しているのに対し,引用意匠は,上面壁から垂直とする直角状に形成している点。」 (4)「正面開口部側の左右側面の段差部の上辺の態様について,本件登録意匠は,側面視略倒「く」字形状としているのに対し,引用意匠は,側面視略階段状としている点。」 (5)「背面開口部側の左右両側面壁の前記小矩形状に開口した部分の上端について,本件登録意匠は,やや下端寄りであるのに対し,引用意匠は,上端寄りである点。」 (6)「背面開口部の開口端面の態様について,本件登録意匠は,上面壁の左右両側の前記浅い凹部により,中央および左右両端の上端をいずれも凸状として左右対称状に形成し,左右側面壁を下方へ垂直状とし,底面壁の下端中央が小さな凸状であり,極間壁の中央に縦長矩形状の開口部およびその上側の小矩形状の区割りを設けているのに対し,引用意匠は,上面壁の上端および底面壁の下端を水平一直線状とし,極間壁の背面は開口部分がない平滑面状である点。」 (7)「左右のコンタクトの背面開口部の前記小矩形状に開口した部分から露出した屈曲部分の側面視態様について,本件登録意匠は,略倒「L」字形状としているのに対し,引用意匠は,略倒「コ」字形状としている点。」 (3) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決は,以下のとおり,本件登録意匠と引用意匠との類否判断及び本件登録意匠の創作容易性の判断を誤ったものであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件登録意匠と引用意匠の類否判断の誤り) (ア) 差異点(1)及び(2)について @ 原告は,本件審決は,差異点(1)及び(2)について「本件登録意匠の両差異点にかかる態様は,最も広い上面壁および底面壁のやや大きな部位に形成した態様であって本件登録意匠と同様に形成したものは,本件登録意匠の出願前には見受けられず,本件登録意匠の形態に新規の態様であって形態全体を特徴づける要素であるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響はきわめて大きいと言える」(7頁9〜14行)と認定判断した。
しかしながら,コネクタハウジングの物品分野において,ハウジングの一面に前後の長さを奥行きの約2分の1ないし3分の1とする矩形状の浅い凹部を左右対称に形成すること,あるいは,これよりも浅い凹部であるところの段差面を底面壁全面の半分強の部分に左右対称に設けること(中央細幅部分を除き左右両端及び後端まで縦長き形状の浅い段差面を形成すること)は,意匠公報である甲2(意匠登録第501199号)・3(同第776115号)・4(同第759772号)・5(同第822528号)・6(同第838098号)・7(同第850178号の類似1)・8(同第946146号)に示されているように周知の形状であって,上記物品分野において新規な構成ではないから,本件登録意匠の差異点(1)及び(2)に係る構成が本件登録意匠の出願前には見受けられない本件登録意匠に新規な特徴要素であるとした本件審決の上記認定判断は誤りである。
A 次に,甲9の1の意匠公報(意匠登録第730552号)には,全体が扁平状の略直方体状に形成された電気コネクタ用ハウジングにおいて,底面に前後の長さが奥行き方向の約3分の1とするやや大きな矩形状の浅い凹部を左右対称状に形成した意匠が示されているところ,同意匠を本意匠とする類似意匠である意匠登録第730552号の類似1(甲9の2)には上記の浅い凹部が本意匠におけるよりも幅細に形成されているもの,同類似2(甲9の3)には上記の浅い凹部が左右非対称に形成されているもの,同類似3(甲9の4)にはコネクタハウジングの底面には浅い凹部が形成されておらず平滑面であるものが,それぞれ示されている。
このことは,同一物品分野の意匠登録実務において,差異点(1)のようにコネクタの外観上一瞥可能な,壁面に設けられた前後の長さが奥行き方向の約3分の1であるやや大きめの矩形状,左右対称の浅い凹部の存否(平滑であるか否か)は,意匠の類否判断に影響を及ぼさない微細な差異として取り扱われていることを意味するものであるから,本件審決の判断は,登録先例とも相容れない誤ったものである。
また,甲10の1,4の意匠公報(意匠登録第977086号とその類似3)に示されているように基本的な構成態様において共通する光通信モジュールに関する特許庁の意匠登録実務は,具体的構成態様の相違(切り欠き,開口,凹凸状段差)を微細なものとみている。
したがって,基本的な構成態様はほぼ同一であって,上面における左右対称の凹部の有無,底面における段差の有無を形状的な差異点とするにすぎない本件登録意匠と引用意匠については,その美感に差異はなく,互いに類似したものと判断されるべきである。
(イ) 差異点(3)及び(4)について @ 差異点(3)の認定は,本件登録意匠と引用意匠が,「正面開口部は,上面壁の前端寄りまで開口し,左右側面壁を上面壁から斜め下り直線状に形成し」ている点で共通するとの認定(共通点C)と矛盾するもので,誤りである。
A 本件審決は,差異点(3)及び(4)は「左右両方の側面視態様の具体的な差異点であると同時に,・・・正面側から観察した態様にも影響を与える要素である」と判断しているが,正面開口部の側壁の端部形状を本件登録意匠のごとく斜め下り直線状に切り欠くことは,甲11の1,2(意匠登録第908071号の本意匠及び類似1),甲12の1ないし4の意匠公報(意匠登録第557571号の本意匠ないし類似3)に示されているように周知の形状であり,本件登録意匠の特徴要素ではない。
また,本件審決が認定した両意匠の形状要素の共通性,特に,ハウジング全体をスマートな扁平略角筒状とし,かつ,具体的な縦,横,高さの比率を寸分違わないものとした基本構成,正面開口部の上部に切り欠きを設け上向きに開放した空間的拡がりのある形状としたこと,内部に収納されるピンコンタクトがハウジング内部においては幅狭に位置し背面開口部において屈曲拡開し末端の半田付け部へと延伸する両意匠に共通の特徴に対し,正面開口部の上部の切り欠きの具体的な態様が斜め下り直線上であるのか,階段状(上面壁から垂直とする直角状)であるのかは両者の美感に格別の影響を付与するものではなく,差異点(3)は微細な差異であることは明らかである。
これと同様に,正面開口部側の左右側面壁における下隅部分の段差部を側面視略倒「く」字状とする本件登録意匠とこれを側面視略階段状としている引用意匠との差異点(4)についても,微細な差異である。
したがって,差異点(3)及び(4)をもって,両意匠の類否判断に与える影響が大きい相違点であるとした本件審決の認定は誤りである。
(ウ) 差異点(5)ないし(7)について 本件審決は,差異点(5)ないし(7)は,左右両方の側面視態様の具体的な差異点であると同時に,背面側から観察した態様にも影響を与える要素であり,また,差異点(6)は,背面開口部の態様に異なる印象を与えているから,これらの差異は本件登録意匠と引用意匠との類否判断に影響を与えるものである旨判断している。
しかしながら,差異点(6)は,いずれも差異点(1)及び(2)に由来するハウジング上面壁の背面側小口の見え方の差異であるにすぎず,前記のとおり,差異点(1)及び(2)は,周知意匠に基づく改変の域を出ない差異であって,本件登録意匠と引用意匠との美感に差をもたらさない微細な違いである以上,差異点(6)をもって両意匠の美感に影響を生ずるものとする理由とはならない。
また,差異点(5)についても,それ自体が両意匠の意匠要素の共通性を凌駕する相違点とするに足りない。
さらに,差異点(7)は,半田付け端子を本件登録意匠のように略L字型としようが,引用意匠のように逆方向に屈曲した略コの字状にしようが何ら美感の違いをもたらさず,端子の屈曲方向のごとき微細な差異点をもって,両意匠が非類似であることの根拠となりえないことは,過去の登録先例(甲13の1,2)から明らかである。
(エ) 以上のとおり,本件審決が本件登録意匠と引用意匠との差異点として認定した意匠要素,その位置づけ(本件登録意匠に新規な特徴要素であるか否か)に関する判断は明らかに誤りであり,その結果,本件審決が認定した本件登録意匠と引用意匠との共通点により両意匠は類似するとの判断がされるべきであったのに,類否判断を誤ったものである。
イ 取消事由2(創作容易性に関する判断の誤り) (ア) 差異点(1)及び(2)に係る本件登録意匠の構成(上面ないし底面に,奥行き方向3分の1ないし2分の1にわたり左右対称のやや大きな矩形状の浅い凹部ないし浅い段差面を設けること)は,前述した甲2ないし8,甲9の1ないし3の意匠公報に示されているように周知の形状を引用意匠に付加したものにすぎず,引用意匠の利用の域を出ないものであり,当業者が容易に創作できたものである。
また,差異点(6)は,差異点(1)に基づき必然的に生ずる構成にすぎないから,これと同様である。
(イ) 次に,差異点(3)及び(4)に係る本件登録意匠の構成(正面開口部の左右側壁上部3分の1を斜め下り状に切り欠き,あるいは開口部左右側面下隅部の段差状部分上辺を側面視略「く」字形状とすること)は,前述した甲11の1,2等の意匠公報に示されている周知の形状に基づき,引用意匠における,正面開口部の上側左右側壁に巨視的に見て斜め下り状と称しうる上向きの広い開口面積を設定する構成に,一旦垂下した後斜め下り状に屈曲する形状を付加したものにすぎず,引用意匠の利用の域を出ないものであり,当業者が容易に創作できたものである。
(ウ) さらに,差異点(5)及び(7)に係る本件登録意匠の構成(背面開口部の左右両端開口部分の上端の位置,左右コンタクトの略「L」字形状)は,前述した甲13の2,甲16の意匠公報に示されている周知の形状に基づき,引用意匠における左右両端開口部の上端の位置あるいは左右コンタクトの終端位置をわずかに改変したものであり,利用の域を出ないものであり,当業者が容易に創作できたものである。
(エ) 被告は,後記のとおり,前記(ア)ないし(ウ)記載の各意匠公報は,本件審判手続に未提出の「従たる引用意匠」であるから,これを本訴において創作容易性を証するための証拠として援用することは許されない旨主張するが,原告は,上記各意匠公報を意匠創作者(当業者)の常識事項である周知の形状(モチーフ)の立証のために提出したものであり,最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決(民集34巻1号80頁)の射程範囲内における証拠の援用であるから,被告の上記主張は失当である。
(オ) 以上によれば,本件登録意匠は,引用意匠及び周知の形状(モチーフ)に基づいて,当業者が容易に創作できたものに該当することは明らかである。
2 請求の原因に対する認否 請求の原因(1)及び(2)の事実はいずれも認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論 以下に述べるとおり,本件審決には,原告主張のような取消事由はない。
(1) 取消事由1について ア (ア)に対して (ア) 甲2ないし8の意匠公報においては,差異点(1)及び(2)に係る本件登録意匠のハウジング上面壁後方及び底面壁後方の態様と同一と評価できる態様は全く開示されていないから,甲2ないし8をもって,差異点(1)及び(2)が本件登録意匠の形態に新規な態様でないということはできない。
(イ) 甲9の1を本意匠として,甲9の2ないし4が類似意匠として登録されているが,甲9の1の凹部と本件登録意匠の凹部及び段差面の態様とは全く異なるから,甲9の1と甲9の2ないし4の類否判断に与える影響が本件登録意匠と引用意匠との類否判断に与える影響と異なることは当然である。また,甲9の1ないし4の各意匠の要部は,側面のパネル係止用アーム及び突条の態様であって,その要部の類似点が凹部の相違点を凌駕し,全体として類似すると認められたにすぎない。
(ウ) 甲10の1を本意匠として,甲10の2ないし4が類似意匠として登録されているが,甲10の1ないし4は,本件登録意匠物品である電気コネクタとは異なる光通信モジュールを対象物品とする意匠であり,物品が異なれば具体的構成態様が全体の意匠に与える意味合いが異なることは当然であり,凹部などの具体的な態様が,甲10の1と甲10の4との類否判断に与える影響と本件登録意匠と引用意匠との類否判断に与える影響とが異なることは当然である。
イ (イ)に対して (ア) 共通点Cの「斜め下り直線状」とは「下り直線状」の単なる誤記であると思われる。共通点Cが述べるところは,単に左右側面壁において上方から下方に切り欠きが形成されているということであり,差異点(3)は,その切り欠きの具体的態様が異なることを認定したものであり,上記誤記をもって,本件審決の判断に矛盾があるということはできない。
(イ) 本件登録意匠は,正面開口部の「上面壁から斜め下り直線状」であるのに対し,甲11の1,2の意匠は,単に正面開口部の下部が「斜め下り直線状」であるにすぎず,上面壁から「斜め下り直線状」となっているわけではない。
また,甲12の1を本意匠として,甲12の2ないし4が類似意匠として登録されているが,甲12の1ないし4は,本件登録意匠物品である電気コネクタとは異なる漏電ブレーカを対象物品とする意匠であり,また,本件登録意匠と甲12の1ないし4とでは実際に切り欠いている場所が全く異なるから,甲12の1と甲12の2ないし4との類否判断に与える影響と本件登録意匠と引用意匠との類否判断に与える影響とが異なることは当然である。
また,仮に正面開口部の側壁の端部形状を本件登録意匠のごとく斜め直線状とすることが周知(公知)であったとしても,本件登録意匠と引用意匠との美観に顕著な差異をもたらす外観上の相違点であることと矛盾するものではない。
ウ (ウ)に対して (ア) 原告は,差異点(6)は,差異点(1)及び(2)に由来する差異にすぎず,差異点(1)及び(2)は本件登録意匠と引用意匠との美感に差をもたらさない微細な違いである以上,差異点(6)も同様であると主張するが,差異点(1)及び(2)は微細な違いとはいえないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものである。
(イ) 甲13の1を本意匠として,甲13の2が類似意匠として登録されているが,甲13の1,2は,本件登録意匠物品である電気コネクタとは異なるスライドスイッチを対象物品とする意匠であり,本件登録意匠のコンタクトはハウジングの内部に位置し,外部に出ていないのに対し,甲13の1の端子はスライドスイッチの内部のみならず,外部に出て位置している点で異なる。
また,甲13の2が甲13の1の類似意匠として認められたのは,両者が端子以外の態様が同一であることを理由とするものであり,端子の形状の違いが問題となっているのではない。
(2) 取消事由2に対して ア 原告は,本件審判手続において,本件登録意匠の創作容易性の根拠として引用した意匠は登録第1018719号意匠(引用意匠。甲17)のみであったのに,本件審決の適法性を審理の対象とする本訴において,原告の取消事由2記載の各意匠公報を「従たる引用意匠」として新たに援用することは,審決取消訴訟の構造と相容れず,許されない。
イ 仮にそれが容認されるとしても,本件登録意匠と引用意匠の差異点(1)ないし(7)を新たな「従たる引用意匠」の一部と置換して,本件登録意匠に到達することが容易であるなどということはできない。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)及び (2)の事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張に係る本件審決の取消事由について,以下において判断する。
2 取消事由1(本件登録意匠と引用意匠の類否判断の誤り)の有無 (1) 差異点(1)及び(2)について ア 原告は,コネクタハウジングの物品分野において,ハウジングの一面に前後の長さを奥行きの約2分の1ないし3分の1とする矩形状の浅い凹部を左右対称に形成すること(差異点(1)),あるいは,これよりも浅い凹部であるところの段差面を底面壁全面の半分強の部分に左右対称に設けること(差異点(2))は,周知の形状であり,本件審決が,差異点(1)及び(2)に係る構成が本件登録意匠の形態に新規の態様であって形態全体を特徴づける要素であるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響はきわめて大きいと認定判断したことは誤りである旨主張する。
本件審決は,本件登録意匠と引用意匠は,意匠に係る物品が電気配線用の2極コネクタであることで共通すること,両意匠には共通点AないしG及び差異点(1)ないし(7)が存在すること(請求の原因(2)イ)を認定した上で,これら共通点に係る態様を総合した場合に生じる意匠的な効果を考慮したとしても,両意匠の類否判断を左右するほどのものとはなり得ないとし,本件登録意匠の差異点(1)及び(2)に係る態様は,「最も広い上面壁および底面壁のやや大きな部位に形成した態様であって本件登録意匠と同様に形成したものは,本件登録意匠の出願前には見受けられず,本件登録意匠の形態に新規の態様であって形態全体を特徴づける要素であるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響はきわめて大きいと言える」とした。
そこで検討するに,本件登録意匠と引用意匠を全体として観察すると,両意匠は,共通点AないしGのとおり,基本的な構成態様において,全体はやや奥行きの長い扁平な略角筒状で,正面側及び背面側をそれぞれ開口してハウジングを形成している点,背面開口部の左右両側にそれぞれコンタクトを挿入固定している点,縦及び横の長さと奥行の比が共通し,各部の具体的構成態様においても,上面壁,底面壁及び左右両側面壁をそれぞれ薄い板状に形成している点,正面開口部は,上面壁の前端寄りまで開口し,左右側面壁において,上面壁から斜め下り直線状に下方の左右側面壁の横幅をわずかに狭めた左右対称状の切り欠き及び段差部を形成している点,背面開口部は,左右側面壁から底面壁にかけて開口した部分をそれぞれ小矩形状とし,中央に後端から前方へ隔壁を形成して極間壁としている点,ハウジングの内側は極間壁及びコンタクトの他は概ね空間を設けた態様としている点,2本のコンタクトの後部が背面開口部の前記小矩形状に開口した部分から露出している点で共通しているものの,一方で,本件登録意匠は,上面壁の後方において左右対称状に前後の長さを奥行きの約3分の1とするやや大きな矩形状の浅い凹部及び底面壁全面の半分強であって中央細幅部分を除き左右両端及び後端まで縦長矩形状の浅い段差面を形成しているのに対し,引用意匠は,上面壁及び底面壁を平滑面としている点で差異がある。
そして,本件登録意匠の上記凹部及び段差面は,ハウジングの上下左右の壁面のうち,最も広い上面壁及び底面壁のやや大きな部位に形成した態様であって,上記部位は看者にとって注意を惹かれる部分(要部)であり,かつ,上記差異がもたらす意匠的効果は,両意匠の上記共通点が醸し出す類似するとの印象をしのぐものがあり,上記差異は看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものと認められるから,本件審決が本件登録意匠の差異点(1)及び(2)に係る態様が形態全体を特徴づける要素であり,両意匠の類否判断に与える影響はきわめて大きいものと判断したことに誤りはないというべきである。
イ これに対し原告は,甲2ないし8の意匠公報を根拠として,ハウジングの一面に前後の長さを奥行きの約2分の1ないし3分の1とする矩形状の浅い凹部を左右対称に形成すること,これよりも浅い凹部であるところの段差面を底面壁全面の半分強の部分に左右対称に設けることは周知の形状であったから,新規な構成とはいえない旨主張する。
確かに,本件登録意匠の出願前に登録された意匠に係る甲2ないし8に,電気コネクタ用ハウジング等の壁面の一面において矩形状上の凹部が左右対称に形成したものが示されていることからすれば,コネクタハウジングの上面壁又は底面壁に左右対称の矩形状の凹部を形成すること自体が新規な構成とまでは認められないが,他方,甲2ないし8は,本件登録意匠及び引用意匠と基本的な構成態様等を異にし,その外観が異なるものであり,しかも,その凹部の態様も様々で,それが看者に与える美感ないし美的印象も一様でないことにかんがみると,甲2ないし8をもって,本件登録意匠の差異点(1)及び(2)に係る態様の凹部及び段差面が,ありふれた周知の形状であって,本件登録意匠の形態全体を特徴づける要素に当たらないということはできない。
原告の上記主張は採用することができない。
ウ 次に原告は,甲9の1(全体が扁平状の略直方体状に形成された電気コネクタ用ハウジングにおいて,底面に前後の長さが奥行き方向の約3分の1とするやや大きな矩形状の浅い凹部を左右対称状に形成した意匠)を本意匠として,甲9の2ないし4が類似意匠として登録されていること(甲9の4は,コネクタハウジングの底面は浅い凹部が形成されておらず平滑面としていること等)を根拠として,意匠登録実務上,コネクタの壁面に設けられた左右対称の凹部の有無,底面における段差の有無等は,意匠の類否判断に影響を及ぼさない微細な差異として取り扱われており,差異点(1)及び(2)は意匠の類否判断に影響を及ぼさない旨主張する。
しかし,甲9の1の意匠と本件登録意匠とを対比すると,甲9の1においては,凹部はハウジングの底面に位置するのみで,上面にはなく,底面壁の凹部の長さも底面全体の3分の1程度にすぎない点で,本件登録意匠と態様が大きく異なり,その態様の違いは類否判断に影響を及ぼすものといえるから,甲9の1を本意匠とする甲9の2ないし4が類似意匠として登録されているからといって,本件登録意匠の差異点(1)及び(2)に係る態様が,意匠の類否判断に影響を及ぼさない微細な差異であるということはできない。
したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(2) 差異点(3)及び(4)について ア 原告は,差異点(3)の認定は,本件登録意匠と引用意匠が,正面開口部は,上面壁の前端寄りまで開口し,左右側面壁を上面壁から「斜め下り直線状」に形成している点で共通するとの認定(共通点C)と矛盾するもので,誤りである旨主張する。
そこで検討するに,共通点Cは「正面開口部は,上面壁の前端寄りまで開口し,左右側面壁を上面壁から斜め下り直線状に形成し,下方の左右側面壁の横幅をわずかに狭めて左右対称状に形成した態様としている点」,差異点(3)は「正面開口部の左右側面壁の上方の態様について,本件登録意匠は,いずれも上面壁から斜め下り直線状に形成しているのに対し,引用意匠は,上面壁から垂直とする直角状に形成している点」というもので,上記共通点及び差異点は,左右両側面壁における切り欠きの態様に関するものであるところ,確かに,上記切り欠きが「斜め下り直線状」に形成している点で共通すると認定しながら,差異点(3)において本件登録意匠は「斜め下り直線状」に形成しているのに対し,引用意匠は「直角状」に形成している点で差異があると認定するのは一見矛盾するようであるが,共通点C及び差異点(3)を総合すると,共通点Cは,上面壁から「下方へ直線状に」切り欠きを形成していることを認定し,差異点(3)は,その切り欠きの具体的態様を認定したものであることが認められ,この点で,共通点Cの表現は適切さを欠くといえるものの,内容が相反するとまでいう必要はなく,原告の上記主張は採用することができない。
イ また原告は,本件審決が差異点(3)及び(4)は「左右両方の側面視態様の具体的な差異点であると同時に,正面側から観察した態様にも影響を与える要素である」と判断しているが,正面開口部の側壁の端部形状を本件登録意匠のごとく斜め下り直線状に切り欠くことは,甲11の1,2,甲12の1ないし4の意匠公報に示されているように周知の形状であり,本件登録意匠の特徴要素ではなく,また,正面開口部の上部に切り欠きの具体的な態様が斜め下り直線上であるのか,階段状(上面壁から垂直とする直角状)であるのかは両者の美感に格別の影響を付与するものではないから,差異点(3)は微細な差異である,正面開口部側の左右側面壁における下隅部分の段差部を側面視略倒「く」字状とする本件登録意匠とこれを側面視略階段状としている引用意匠との差異点(4)についても微細な差異であるとして,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。
本件審決は,「正面開口部についての共通点Cは,差異点(3)のとおり,左右両側面壁の上方の態様の差異が正面開口部の開口部の態様に差異をもたらしている上,差異点(4)の左右両側面壁の段差部が正面開口部に近接している点が相乗した意匠的な効果により,両意匠の正面開口部全体の態様に異なる印象を与えている」(6頁23〜27行),「差異点(3)および差異点(4)については,左右両方の側面視態様の具体的な差異点であると同時に,前記のとおり,正面側から観察した態様にも影響を与える要素であるから,両意匠の類否判断に与える影響が大きいと言える。」(7頁14〜17行)とした。
そこで検討するに,本件登録意匠と引用意匠を全体として観察すると,本件審決の認定のとおり,差異点(3)及び差異点(4)が,左右両方の側面視態様の具体的な差異であると同時に,正面開口部の態様に差異をもたらしており,上記差異は看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものと認められるから,両意匠の類否判断に与える影響が大きいとした本件審決の認定判断が不合理であるとまで認めることはできない。
また,甲11の1,2の意匠と本件登録意匠は,基本的な構成態様等が異なる上,甲11の1,2の意匠は,正面開口部の下部が「斜め下り直線状」であるにすぎず,上面壁から「斜め下り直線状」となっているわけではない点において本件登録意匠と態様が異なり,その態様の違いは類否判断に影響を及ぼすものといえること,甲12の1ないし4は,本件登録意匠物品である電気コネクタとは異なる漏電ブレーカを対象物品とする意匠であるから,甲12の1と甲12の2ないし4との類否判断に与える影響と本件登録意匠と引用意匠との類否判断に与える影響とが異なることに照らすと,甲11の1,2,甲12の1ないし4をもって,本件登録意匠の差異点(3)及び(4)に係る態様が周知の形状であるということもできない。
したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(3) 差異点(5)ないし(7)について 原告は,本件審決が,差異点(5)ないし(7)は「左右両方の側面視態様の具体的な差異点であると同時に,背面側から観察した態様にも影響を与える要素であ」り,また,差異点(6)は「背面開口部の態様に異なる印象を与えているから,その差異は両意匠の類否判断に」影響を与えるものであると判断しているが,差異点(6)は,いずれも差異点(1)及び(2)に由来するハウジング上面壁の背面側小口の見え方の差異であるにすぎず,前記のとおり,差異点(1)及び(2)は,周知意匠に基づく改変の域を出ない差異であって,本件登録意匠と引用意匠との美感に差をもたらさない微細な違いである以上,差異点(6)をもって両意匠の美感に影響を生ずるものとする理由とはならない,差異点(5)についても,それ自体が両意匠の意匠要素の共通性を凌駕する相違点とするに足りない,差異点(7)は,半田付け端子を本件登録意匠のように略L字型としようが,引用意匠のように逆方向に屈曲した略コの字状にしようが何らの美感の違いをもたらさず,端子の屈曲方向のごとき微細な差異点をもって,両意匠が非類似であることの根拠となりえないことは,過去の意匠登録例(甲13の1,2)から明らかである旨主張する。
しかし,@ 差異点(5)については,原告の主張自体,両意匠の意匠要素の共通性を凌駕する相違点とするに足りないとする具体的な根拠が明確となっていないこと,A 差異点(6)については,前記認定のとおり,差異点(1)及び(2)が本件登録意匠と引用意匠との美感に差をもたらさない微細な違いであるということはできないから,原告の主張は,その前提を欠くものであること,B 差異点(7)については,甲13の1,2が本件登録意匠物品である電気コネクタとは異なるスライドスイッチを対象物品とする意匠であり,基本的な構成態様を異にすることから,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上説示したところによれば,本件登録意匠が引用意匠に類似するとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
3 取消事由2(創作容易性に関する判断の誤り)の有無 (1) 本件審決は,本件登録意匠も引用意匠も「ハウジングの全体をやや奥行きの長い扁平な略角筒状とし,正面側及び背面側をそれぞれ開口して形成し,その縦および横の長さと奥行の構成比についても略同様としたものであるが,引用意匠の出願前から,この種物品分野おいて,ハウジングの形態を両意匠と同様に形成することはコネクタの骨格的な態様として普通」(8頁23〜27行)であり,その構成比率にも様々なものが見受けられるから,本件登録意匠が引用意匠の形態のみに基づいて形成したものとは言い難いところ,本件登録意匠の上面壁後方の左右両側の後端に,それぞれ前後の長さを奥行きの約3分の1とするやや大きな矩形状の浅い凹部を左右対称状に形成し,底面壁後方にその全面の半分強であって中央細幅部分を除き左右両端および後端まで縦長矩形状の浅い段差面を形成した態様(差異点(1)及び差異点(2)に係る態様)は,「引用意匠および引用意匠のほかには見受けられない構成態様であり,これらの態様は,本件登録意匠のみに特徴を形成し,本件登録意匠の他の具体的な態様と相まって,形態全体の基調に大きな影響を与えているから,本件登録意匠が引用意匠に基づいて容易に創作されたものと言うことはできない。」(8頁33〜37行)と判断した。上記判断は,前記2(1)アで説示したところに照らし,首肯できる。
(2) これに対し原告は,本件登録意匠の差異点(1)ないし(7)の態様は周知の形状であるから,引用意匠及び周知の形状に基づいて,容易に本件登録意匠を創作することができたというものであるが,差異点(1)ないし(7)の態様が周知の形状といえないことは,前記2で認定したとおりであるから,原告の上記主張は採用することはできない。
したがって,本件登録意匠は,引用意匠に基づいて容易に創作できたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張も理由がない。
4 結論 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないことに帰するから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 早田尚貴
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