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関連審決 不服2003-16935
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  記載された意匠 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10144号 審決取消(意匠)請求事件

原告 株式会社ブリヂストン
訴訟代理人弁理士 水野 尚
同 永芳太郎
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 藤木和雄
同 藤 正明
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-16935号事件について平成16年12月24日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記意匠登録出願に係る出願人である原告が,特許庁の拒絶査定を不服として審判請求をしたところ,特許庁が審判請求不成立の審決をしたことから,原告がその審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成14年5月15日,意匠に係る物品を「自動車用タイヤ」とし,その形態を別添審決写しの別紙第1記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願(意願2002-12851号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年8月15日,特許庁から拒絶の査定を受けたので,同年9月2日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-16935号事件として審理した結果,平成16年12月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決謄本は,平成17年1月7日原告に送達された。
(2) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要旨は,本願意匠は,平成10年6月23日発行の意匠公報に記載された意匠登録第1013228号の意匠のうち,本願意匠に相当する自動車用タイヤのトレッド部及びショルダ部の意匠(以下「引用意匠」という。その形態は,別添審決写しの別紙第2記載のとおり)と,意匠に係る物品が一致し,形態においても類似するから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないとしたものである。
イ なお,審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,その共通点と差異点を下記のとおり認定した。
記 「(共通点) (1)ショルダエッジ部が角張った自動車用タイヤにおいて,トレッドの略半分を占めるトレッド中央寄りに太幅直線状縦溝を等間隔に4本形成し,その間を周回する3本の等幅リブとし,その外側の左右ショルダ部に前記3本の等幅リブより太幅の等幅リブを各1本形成した,全体の基本的な構成。
(2)中央寄り3本の等幅リブの態様について,それぞれ中央に同形の略S字状サイプを1列状に等間隔に多数形成すると共に,それぞれのリブの左右辺際に細かな切れ込みを多数形成している点。
(3)左右ショルダ部のリブの態様について,表面を平滑状とし,リブの内側辺際に細かな切れ込みを多数形成し,サイド側に浅い縦溝を各1本形成している点。
(差異点) (イ)太幅直線状縦溝の態様について,本願意匠においては,総ての縦溝は直線的に形成され,左右のショルダ部寄り太幅直線状縦溝内にはごく細幅の突条が形成されているのに対し,引用意匠においては,わずかにジグザグ状に溝が形成され,その内部に突条がない点。
(ロ)中央寄り3本の等幅リブの態様について,本願意匠においては,略S字状サイプが引用意匠に比べ小さいのに対し,引用意匠においては,やや大きい点。
(ハ)左右ショルダ部のリブの態様について,本願意匠においては,その横幅がやや広く,その外側辺際及びサイド側は平滑状で,サイド側の浅い縦溝はサイド側寄りに形成されているのに対し,引用意匠においては,リブの外側辺際に細かな切れ込みが多数形成され,サイド側には略多角形状模様が1列形成され,浅い縦溝はショルダ部寄りに形成されている点。」 (3) 審決の取消事由 審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,差異点を看過した(取消事由1)上,両意匠の類否判断を誤った(取消事由2)結果,本願意匠は引用意匠に類似するとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(共通点の認定の誤り,差異点の看過) (ア) 中央寄り3本の等幅リブの態様について 審決は,中央寄り3本の等幅リブの態様について,本願意匠と引用意匠との共通点(2)として,「それぞれ中央に同形の略S字状サイプを・・・多数形成」している点を認定したが,本願意匠におけるサイプは,それぞれが同形ではないし,また,略S字状でもない。
本願意匠は,3本のリブのうち左右のリブには,略倒「ヘ」字状サイプをリブ同士で点対称となる態様で設け,中央のリブにのみ,略逆S字状のサイプを設けたものであって,3本のリブの態様はそれぞれ異なる。これに対し,引用意匠においては,3本のリブのそれぞれに同形のS字状サイプが設けられており,3本のリブの態様は同一である(以下,この点を「サイプの態様に係る差異点」ということがある。)。
すなわち,審決の上記認定は,本来,差異点として認定されるべきものを共通点として認定したものであって,誤りである。
(イ) トレッド部に縦方向に並行して設けられた溝の構成態様について トレッド部に縦方向に並行して設けられた溝(以下「縦溝」という。)の構成態様について,@「本願意匠の4本の縦溝は,中央寄り2本と左右ショルダ部寄り2本という態様が全く異なる2種類の溝を組み合わせた構成であるのに対し,引用意匠の4本の縦溝は,幅も形態も全く同一である点」(以下,この点を「4本の縦溝の全体構成に係る差異点」ということがある。),A「本願意匠においては,縦溝のうち中央寄りの2本は,断面V字形の直線上で溝内に凹凸を有さず,左右のショルダ部寄りの2本は,中央寄りの2本よりも幅が略1.5倍広い断面略倒『コ』字状の溝で,溝底面から溝幅の略3分の2幅の突条を設けたものであるのに対し,引用意匠においては,4本の縦溝は,いずれも,溝上端を平行な直線状として,側壁は,一方を垂直面とし他方を傾斜面とした断面『レ』字状の切れ込みが,上下に短い間隔で交互に反転して連続する態様のもので,溝上端の略2分の1幅の溝底が,溝幅一杯に九十九折り状を成す凹凸の激しい形態である点」(以下,この点を「縦溝の詳細な態様に係る差異点」ということがある。)を,本願意匠と引用意匠との差異点として認定すべきであるのに,審決はこれを看過した。
なお,両意匠の中央寄り3本の等幅リブは,看者によって,側壁と接地面とから成る立体的形態として認識されるものであるところ,縦溝の側壁は上記リブの側壁でもあるから,上記縦溝の側壁の具体的態様に係る差異点は,すなわち,上記リブの側壁に係る差異点であるということになるが,審決はこの点も看過した。
(ウ) 左右ショルダ部のリブの態様について 左右ショルダ部のリブの態様について,「本願意匠においては,リブの外側辺際に細かな切れ込みを形成していないのに対し,引用意匠においては,リブの外側辺際にも細かな切れ込みを多数形成している点」(以下「左右ショルダ部リブの外側辺際の切れ込みに係る差異点」ということがある。)を,本願意匠と引用意匠との差異点として認定すべきであるのに,審決はこれを看過した。
また,左右ショルダ部のリブのサイド側に設けた細い溝(以下「細溝」という。)について,「本願意匠においては,リブのサイド側の側面に角部からやや間隔を開けた部位に,断面U字状の浅い溝を内方に向けて傾斜させたものであるのに対し,引用意匠においては,リブの外側角部がL字型に切り欠かれ,その水平面状部に,断面が倒偏平『コ』字状の溝を深く垂直に設けたものである点」(以下「細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点」ということがある。)を,本願意匠と引用意匠との差異点として認定すべきであるのに,審決はこれを看過した。
イ 取消事由2(類否判断の誤り) (ア) 共通点の評価の誤り a 共通点(1)について 審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(1)について,「両意匠の形態全体を支配する骨格的な態様であり,・・・共通点(2)及び・・・共通点(3)と相まって両意匠の基調が形成され,それにより両意匠に強い類似感をもたらしている」(審決2頁下から第2段落)と評価した。
しかしながら,共通点(1)に係る全体の基本的な構成は,この種自動車用タイヤの分野において,従来,普通に知られた構成であって(甲4〜6,8〜10),看者の注意をひくものではないから,類否判断を左右する要素とはなり得ない。このことは,共通点(1)と同一の特徴を備えた意匠が,それぞれ独立の意匠として登録されていること(甲4〜6,8〜10)からも明らかであるし,意匠の類否判断において,「ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい」ことは,特許庁の意匠審査基準(甲12)においても明言されているとおりである。
また,自動車用タイヤは,需要者が,自動車用品店等の店頭において,手を伸ばせば触れることができる程度の距離から観察し,選択するものであるので,そうした取引状態や,この種物品が通常有する大きさを勘案すれば,審決が認定する共通点(1)に係る全体の基本的な構成よりも,トレッド,溝等の構成各部の具体的な態様こそが看者の注意をひく部分であることは明らかである。
b 共通点(2)について 審決は,上記aのとおり,本願意匠と引用意匠との共通点(2)について,共通点(1)及び(3)とあいまって「両意匠の基調が形成され,それにより両意匠に強い類似感をもたらしている」要素であると評価した。
しかしながら,共通点2に係る中央寄り3本の等幅リブの態様は,この種自動車用タイヤの分野において,従来,普通に知られた態様であって(甲5〜7),看者の注意をひくものではないから,類否判断を左右する要素として高く評価することはできない。
なお,審決の共通点2の認定が誤りを含むものであることは,上記ア(ア)のとおりである。
c 共通点(3)について 審決は,上記aのとおり,本願意匠と引用意匠との共通点(3)について,共通点(1)及び(2)とあいまって「両意匠の基調が形成され,それにより両意匠に強い類似感をもたらしている」要素であると評価した。
しかしながら,この種自動車タイヤの分野において,リブの「表面を平滑状」とすることは,ごく普通に知られた態様であって,類否判断上考慮すべき共通点として採り上げるほどの要素ではないし,左右ショルダ部の「リブの内側辺際に細かな切れ込みを多数形成し,サイド側に浅い縦溝を各1本形成している」態様とあいまっても,この種分野において,従来,普通に知られた態様であって(甲6,甲8〜10),看者の注意をひくものではないから,類否判断を左右する要素とはなり得ない。
d 以上のとおり,審決認定の共通点は,いずれも,従来,普通に知られた構成又は態様であり,本願意匠と引用意匠とが類似すると判断する根拠にはなり得ないものである。
(イ) 差異点の評価の誤り a 差異点(イ)について 審決は,縦溝の構成態様に関する差異点(イ)について,「太幅直線状縦溝の態様についての差異点(イ)は,引用意匠の縦溝のジグザクの態様が全体から見ればわずかなものであり,また,溝内の細幅の突条の有無の差異も,共通点(1)に優る程のものではないから,その類否判断上の影響は微弱なものにとどまる」(審決2頁最終段落〜3頁第1段落)と評価した。
(a) しかしながら,上記ア(イ)@のとおり,本願意匠の4本の縦溝は,中央寄り2本と左右ショルダ部寄り2本という,態様が全く異なる2種類の溝を組み合わせた構成であるのに対し,引用意匠の4本の縦溝は,幅も形態も全く同一であり,両意匠は,縦溝の基本的構成態様において異なっているというべきである。
そして,この差異は,看者に注目される部位における顕著な差異であって,意匠全体の類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素として極めて強く作用している。
(b) また,両意匠の縦溝は,上記ア(イ)Aのとおり,その具体的な態様においても全く相違するものである。
この点について,審決は,本願意匠の左右ショルダ部寄り縦溝内の突条を「ごく細幅の突条」であると認定した上,上記のとおり,「溝内の細幅の突条の有無の差異も,共通点(1)に優る程のものではないから,その類否判断上の影響は微弱なものにとどまる」と評価した。しかしながら,本願意匠の上記突条は,縦溝の幅の略3分の2を占め,かつ,溝底部から溝上端の近傍まで突出して設けられているものであるから,この突条の有無は,左右のショルダ部寄り縦溝を引用意匠の縦溝と顕著に相違する態様のものとすると同時に,本願意匠における中央寄り2本の縦溝とショルダ部寄り2本の縦溝との構成を異ならせるものであり,通常最も視認されやすいトレッド中央部における差異でもあるので,看者の注意をひくところとなって,類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素となっている。
また,審決は,引用意匠の縦溝の形態を「わずかにジグザグ状に溝が形成され」ているとのみ認定した上で,上記のとおり,「引用意匠の縦溝のジグザクの態様が全体から見ればわずかなものであり,・・・その類否判断上の影響は微弱なものにとどまる」と評価した。しかしながら,引用意匠の縦溝は,上記ア(イ)Aのとおり,「溝上端を平行な直線状として,側壁は,一方を垂直面とし他方を傾斜面とした断面『レ』字状の切れ込みが,上下に短い間隔で交互に反転して連続する態様のもので,溝上端の2分の1幅の溝底が,溝幅一杯に九十九折り状を成す凹凸の激しい形態」であって,極めて特徴のあるものである。したがって,両壁面を平坦な傾斜面によって形成した直線状のシンプルな形態である本願意匠の縦溝とは,基本的な構成態様が全く異なっており,看者が注目する部位である縦溝におけるこのような相違は,類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素として高く評価すべきものである。
b 差異点(ロ)について 審決は,トレッド中央寄り3本の等幅リブの態様に関する差異点(ロ)について,「中央寄り3本の等幅リブの態様についての差異点(ロ)は,ごくわずかな改変にすぎないものであるから,その差異は類否判断を左右する程のものではない」(審決3頁第1段落)と評価した。
(a) しかしながら,上記ア(ア)のとおり,本願意匠においては,3本のリブにおけるサイプの態様がそれぞれ異なっており,これが同一の態様である引用意匠とは,基本的な態様において異なっている。また,本願意匠は,3本のリブを通じて斜め状となる位置にサイプを配置しているのに対し,引用意匠においてはサイプを横一列に配置している点においても両意匠は相違しており,審決は,これらの差異点を看過した結果,両意匠の差異を過小に評価したものである。
(b) また,中央寄り3本の等幅リブは,看者によって,側壁と接地面とから成る立体的形態として認識されるものであるところ,上記ア(イ)のとおり,審決は,リブの接地面についてのみ認定し,立体としてのリブの態様についての認定を怠り,その結果,両意匠におけるリブの立体的形状に関する差異点を看過したものである。そして,この差異は,上記a(b)において縦溝の詳細な態様の差異について指摘したとおり顕著なものであるので,両意匠のリブ側壁の視覚的効果の相違が,類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素となっている。
c 差異点(ハ)について 審決は,左右ショルダ部のリブの態様に関する差異点(ハ)について,「左右ショルダ部のリブの態様についての差異点(ハ)は,いずれも視覚的にさほど目立つものとはいえず,上記両意匠の共通性に希釈されてしまうものであるから,その類否判断上の影響は微弱にとどまる」(審決3頁第1段落)と評価した。
(a) まず,リブのサイド側に設けた細溝について,審決は,差異点(ハ)として,「本願意匠においては・・・サイド側の浅い縦溝はサイド側寄りに形成されているのに対し,引用意匠においては・・・浅い縦溝はショルダ部寄りに形成されている点」とのみ認定した上,上記のとおりの判断をした。しかしながら,上記ア(ウ)のとおり,細溝の配設位置及び具体的態様は明確に相違するものであり,この相違は,特に側面視において,本願意匠では,外周縁のやや内側に明確な円周模様が現れるのに対し,引用意匠では細溝を視認することができず,切り欠き部の段差のみが視認されるものであって,視覚的効果が顕著に異なるものである。
(b) また,引用意匠は,側面の円形帯状平坦面に,略多角形状区画の散点模様を円周上に一列設けており,側面に何の散点模様も有さない本願意匠との視覚的効果の相違は顕著である。
(c) 上記(a)及び(b)の差異は,タイヤの側面に関するものであるところ,自動車用タイヤの側面は,自動車に取り付けた通常の使用状態において看者の目につきやすい部位であり,そのため,看者に視認されやすい位置を選んで表示されるブランド名や形式名等を刻印する部位とされているほどであるから,上記の差異による側面視形態の顕著な相違は,看者の注意をひき,類否判断に強い影響を与えて,両意匠を非類似とする要素となっている。
(ウ) 以上のとおり,共通点(1)〜(3)は,いずれも従来普通に知られた態様に係るものであって,看者の注意をひくものではなく,他方,審決が看過した差異点を含む本願意匠と引用意匠との差異点は,いずれも顕著なものであるとともに,各差異点がまとまることによって,それぞれの意匠において特徴ある形態を構成し,視覚的に看者の注意を強くひくところとなって,両意匠の類否判断を左右する支配的要素となっている。すなわち,各差異点があいまった相違感は,何ら特徴の認められない共通点をしのぎ,両意匠を非類似とするに十分なものであるから,両意匠は,意匠全体として明らかに類似しないというべきである。 したがって,両意匠が類似するとした審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)及び(2)は認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論 原告の主張は,個々の構成要素によって緊密に構成されたトレッドパターンの一部を抜き出して過大に評価するか,又は,両意匠の大部分を占め両意匠の特徴と基調を形成している共通点を過小評価するものであって,失当であり,審決の認定判断に誤りはない。
(1) 取消事由1について ア 中央寄り3本の等幅リブの態様 原告は,審決が,サイプの態様に係る差異点を認定しなかった点は誤りである旨主張する。確かに,個々のサイプを取り出して詳細に検討すれば,すべて同形とはいい難いものの,当該サイプは,いずれも屈曲したごく小さいものであり,その態様は,本願意匠のものも引用意匠のものも,3本のリブ中央に等間隔で1列状に配列した点において共通するから,中央寄り3本の等幅リブの態様として,「それぞれ中央に同形の略S字状サイプを1列状に等間隔に多数形成する」とした審決の共通点(2)の認定を誤りということまではできないし,また,全体の美観に差異は生じない。
イ 縦溝の構成態様 原告は,審決は,4本の縦溝の全体構成に係る差異点及び縦溝の詳細な態様に係る差異点を看過した旨主張するが,いずれの点も,差異点(イ)において実質的に認定されているから,審決の認定に誤りはない。
ウ 左右ショルダ部のリブの態様 原告は,審決は,左右ショルダ部リブの外側辺際の切れ込みに係る差異点並びに細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点を看過した旨主張するが,いずれの点も,差異点(ハ)において実質的に認定されているから,審決の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2について ア 共通点の評価の誤りについて (ア) 共通点(1) 仮に周知の形態であっても,それが両意匠の支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意をひくときは,なお類否判断の要部となり得るというべきである。
審決認定の共通点(1)は,本願意匠と引用意匠の形態全体を支配する基本的な構成に係るものであり,その態様は,いずれも,ショルダエッジが角張ったタイヤであって,4本の縦溝をトレッド中央に大きく配し,その間を等幅リブとした,直截的なパターンを基本的な構成とするものである。自動車用タイヤについては,極めて多くの種類のトレッドパターンがあり比較的複雑で特徴的なトレッドパターン(乙1〜3)も存する中,上記基本的構成は,その美観を性格付け,分別する役割を担うものである。そして,これらのタイヤに接した看者は,まず,その全体的,概括的態様に着目し,その後,部分的,具体的態様の観察へと進むのであって,全体的,概括的態様を差し置いて,直ちに,部分的,具体的態様に着目することは考え難い。また,上記基本的構成は,個々の具体的態様がその中に位置付けられ,秩序付けられて,全体として一つのトレッドパターンの美観が成立するものであるから,両意匠の美感を左右するものとして,類否判断上の要部となるものである。
これに対し,原告は,共通点(1)と同一の特徴を備えた意匠が,それぞれ独立の意匠として登録されていることを指摘するが,原告の指摘する登録意匠の例(甲4〜6,8〜10)は,本件出願より相当以前に出願されたものであるから,その基本的構成態様の周知性の程度等は本件とは異なると考えられる。また,審決の挙げる基本的な構成や具体的態様は,飽くまで,本願意匠と引用意匠との類否判断に必要な限度で行ったものにすぎないから,共通点(1)のみをとらえて,本件における類否判断と,上記各登録意匠の登録要件に関する判断とを同列に論ずることは相当ではない。
また,原告は,取引状態等を勘案すれば,共通点(1)に係る全体の基本的構成よりも,各部の具体的態様こそが看者の注意をひく部分であることは明らかである旨主張する。しかしながら,タイヤの観察,選択は,店頭のみならず,商品カタログやインターネット上の写真等でも行われるものであり,そのいずれの場合においても,まず,全体的,概括的態様に着目し,その後に具体的態様の観察に進むものであることは上記のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。
(イ) 共通点(2) 出願前から知られた公知又は周知の態様であるということから,直ちに,看者の注意をひかず,類否判断上の要部となり得ないとすることはできない。
そして,上記(ア)のとおり,共通点(2)に係る具体的構成態様は,共通点(1)に係る基本的構成の中に組み込まれ,全体形態としてのトレッドパターンを構成するものであり,略S字状サイプ列やリブ縁際の細溝など,細部に造作を施しながらも,全体として比較的簡明で整然とした落ち着きのある共通の美感を形成しているものであるから,類否判断上の要部となり得るものである。
(ウ) 共通点(3) 出願前から知られた公知又は周知の態様であるということから,直ちに,看者の注意をひかず,類否判断上の要部となり得ないとすることができないことは,上記のとおりである。そして,共通点(3)に係る具体的構成態様は,全体の直截的な印象を基調とし,それを損なうことのないよう,細部を造形処理したものであって,両意匠に共通する比較的簡明で整然とした落ち着きのある美感を形成しているものであるから,類否判断上の要部となり得るものである。
イ 差異点の評価の誤りについて (ア) 差異点(イ) 原告は,本願意匠における縦溝の詳細な態様が,本願意匠と引用意匠とを非類似とする要素となる旨主張する。しかしながら,突条は,リブ幅と比較するとわずかなものである上,その上面はトレッド面から落ち込んでいるから,縦溝内に納まった縦溝内の内部構造というべきものである。したがって,原告の指摘する突条の具体的態様は,縦溝に正対して詳細に観察した場合であればともかく,斜視図で表されるような,比較的多く観察されると思われる状態においては,さほど目立つものではない。また,突条を設ける目的は,主として,溝内の小石等を排除するという機能的理由に基づくものである上,同様の態様のものは,本件出願前から既に知られていた(乙7の図1〜3,乙8の図11)。そうすると,突条の点は,その存在を無視することはできないにせよ,類否判断に与える影響は,微弱なものにとどまるというべきである。
また,原告は,引用意匠の縦溝は,溝幅一杯に九十九折り状を成す凹凸の激しい極めて特徴のある形態であり,両意匠を非類似とする要素として高く評価すべきものとなっている旨主張する。しかしながら,引用意匠の縦溝は,その開口面は一定の幅で変化がなく,開口面から溝底に向かう斜面及び底面が左右に振れていることから,図面上は九十九折り状を成しているように見えるが,縦溝内面の態様であるから,縦溝の内部構造に属するものであり,縦溝に正対して詳細に観察した場合であればともかく,斜視図で表されるような,比較的多く観察されると思われる状態においては,さほど目立つものではない。また,同様の態様は,本件出願前から既に知られていた(乙9の図3,乙10の図1〜4)から,看者の注意を特にひくとも考えられない。
以上のとおり,縦溝内に設けられた突条の有無や縦溝内の斜面や底面の変化は,本願意匠と引用意匠との差異点ではあっても,縦溝の基本形状を変えることなく縦溝をやや複雑な構造としているにとどまり,トレッドパターンを全体として観察する場合,それらにより全く新たな美感を創出しているとは認められないから,その差異は,類否判断上,微弱なものにとどまるというべきである。
(イ) 差異点(ロ) a 原告は,中央寄りリブに形成されたサイプの形や配置の差異を強調するが,原告主張の点は,タイヤに正対して,その部分を注視した場合にいい得ることにすぎず,その大きさは,リブや縦溝の幅に比してごく小さく,配置の差もごくわずかであり,それによって本願意匠と引用意匠との類否判断に大きな影響を及ぼすものとは認められない。
b 原告は,看者によってリブは立体的形態として認識されるものであるのに,審決はその点の認定を怠り,リブの立体的形状に関する差異点を看過した旨主張する。しかしながら,審決がリブを立体的なものとして認定していることは,「リブ」という表現自体や,「縦溝」,「太幅直線上縦溝内」等の表現自体から明らかである。また,リブの側壁の態様に関する差異は,上記(ア)のとおり,縦溝内の内部構造ともいうべきものであって,視覚的にそれほど目立つものではなく,その態様の差異によって,創出しているとは認められないから,その差異は,類否判断上,微弱なものにとどまるというべきである。
(ウ) 差異点(ハ) a 原告は,細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点を強調し,特に側面視における視覚的効果が顕著に異なる旨主張する。しかしながら,上記細溝は,トレッド面のリブや縦溝に比してごく細いものである上,比較的注目され難いトレッドパターンの周縁部に係る態様であるから,その差異は類否判断を左右するものとはならない。
b また,原告は,タイヤ側面の散点模様の有無をも強調するが,引用意匠における散点模様は,比較的小形の模様をタイヤ周縁に沿って単に一列に並べたものであって,その形状や配列も格別特徴のある態様ではなく(乙11,12参照),かつ,比較的注目され難いトレッドパターンの周縁部に係る態様であるから,その差異は類否判断を左右するものとはならない。
c さらに,原告は,タイヤ側面は,自動車に取り付けた使用状態において,看者の目につきやすい部位である旨主張する。しかし,タイヤ側面の態様のみによってタイヤの購入を決定することは通常考え難いから,タイヤ側面の態様の類否判断上の影響は,トレッド面の態様に比べ従的な地位にとどまるというべきであり,本件のような格別の特徴のないタイヤ側面の態様については,その類否判断上の影響は微弱なものといわざるを得ない。
ウ 以上のとおり,原告の取消事由2の主張はいずれも失当であり,本願意匠と引用意匠とが類似するとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否に関し,原告主張の取消事由ごとに順次判断することとする。
2 取消事由1について 審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,その共通点及び差異点を,前記第3の1(2)イのとおり認定した。
これに対し原告は,審決は,@ 共通点(2)の認定を誤り,サイプの態様に係る差異点を看過したものであり,また,A 4本の縦溝の全体構成に係る差異点,B 縦溝の詳細な態様に係る差異点,C 左右ショルダ部リブの外側辺際の切れ込みに係る差異点,並びに,D 細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点,を看過した旨主張する。
(1) そこで,事案にかんがみ,まず,原告の主張する上記A〜Dの差異点の看過の有無について検討する。
ア 原告は,審決は,4本の縦溝の全体構成に係る差異点,すなわち,「本願意匠の4本の縦溝は,中央寄り2本と左右ショルダ部寄り2本という態様が全く異なる2種類の溝を組み合わせた構成であるのに対し,引用意匠の4本の縦溝は,幅も形態も全く同一である点」を看過した旨主張する。
しかしながら,審決は,前記のとおり,差異点(イ)として,縦溝の態様について,「本願意匠においては・・・左右のショルダ部寄り太幅直線状縦溝内にはごく細幅の突条が形成されている・・・のに対し,引用意匠においては,・・・その内部に突条がない点」を認定しており,これを突条の有無の観点から整理すれば,本願意匠においては,左右のショルダ部寄りの2本の縦溝には突条が形成されているが,中央寄りの2本の縦溝には突条が形成されておらず,その点において,左右のショルダ部寄りの2本と中央寄りの2本の態様が異なっているのに対し,引用意匠においては,4本の縦溝のいずれにも突条が形成されておらず,同一の態様であることを実質的に認定しているものと認められる。したがって,原告の上記主張は採用の限りではない。
イ また原告は,審決は,縦溝の詳細な態様に係る差異点,すなわち,「本願意匠においては,縦溝のうち中央寄りの2本は,断面V字形の直線上で溝内に凹凸を有さず,左右のショルダ部寄りの2本は,中央寄りの2本よりも幅が略1.5倍広い断面略倒『コ』字状の溝で,溝底面から溝幅の略3分の2幅の突条を設けたものであるのに対し,引用意匠においては,4本の縦溝は,いずれも,溝上端を平行な直線状として,側壁は,一方を垂直面とし他方を傾斜面とした断面『レ』字状の切れ込みが,上下に短い間隔で交互に反転して連続する態様のもので,溝上端の略2分の1幅の溝底が,溝幅一杯に九十九折り状を成す凹凸の激しい形態である点」を看過したとも主張する。
しかしながら,審決は,差異点(イ)として,「太幅直線状縦溝の態様について,本願意匠においては,総ての縦溝は直線的に形成され,左右のショルダ部寄り太幅直線状縦溝内にはごく細幅の突条が形成されているのに対し,引用意匠においては,わずかにジグザグ状に溝が形成され,その内部に突条がない点」を認定しており,本願意匠と引用意匠との間において,縦溝の構成態様につき,@縦溝内の突条の有無,A縦溝が直線的かジグザグ状か,という2点の大きな差異があることを正確に認定しているものと認められる。そして,審決認定の上記差異点(イ)と原告主張の縦溝の詳細な態様に係る差異点との違いは,本願意匠における縦溝内の突条の態様,引用意匠の縦溝の「ジグザグ状」の態様等を詳細に表現するか否かの違いにすぎず,審決の認定も,より詳細に表現する必要があれば,原告主張のようにも表現し得ることは明らかであるから,審決に原告主張の差異点の看過はないというべきである。
ウ 原告は,審決は,左右ショルダ部リブの外側辺際の切れ込みに係る差異点を看過したとも主張する。
しかしながら,審決は,差異点(ハ)として,左右ショルダ部のリブの態様について,「本願意匠においては,・・・その外側辺際及びサイド側は平滑状」であるのに対し,「引用意匠においては,リブの外側辺際に細かな切れ込みが多数形成され」ている点を認定しており,本願意匠の左右ショルダ部リブの外側辺際に切れ込みがない点についても差異点として実質的に認定しているものと解されるから,原告の上記主張は失当である。
エ さらに原告は,審決は,細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点,すなわち,「本願意匠においては,リブのサイド側の側面に角部からやや間隔を開けた部位に,断面U字状の浅い溝を内方に向けて傾斜させたものであるのに対し,引用意匠においては,リブの外側角部がL字型に切り欠かれ,その水平面状部に,断面が倒偏平『コ』字状の溝を深く垂直に設けたものである点」を看過した旨主張する。
しかしながら,審決は,差異点(ハ)として,左右ショルダ部のリブの態様について,「本願意匠においては,・・・サイド側の浅い縦溝はサイド側寄りに形成されているのに対し,引用意匠においては,・・・浅い縦溝はショルダ部寄りに形成されている点」を認定しており,原告主張のうち,細溝の配設位置に関する差異については実質的に認定しているものと認められる。
他方,審決は,原告主張に係る上記差異点のうち,細溝の具体的態様に係る差異については認定していないが,当該差異に係る細溝は,左右ショルダ部のリブの更に外側寄りの部分に設けられるものである上,そもそも,意匠全体に占める大きさは極めて小さく,看者の注意を引き難いものであると認められる。また,たとえ看者が細溝に着目したとしても,主として側面視において,その開口部のみがタイヤ側面の外周部に円周状に観察されるにすぎず,細溝の内部構造が断面U字状であるか,偏平「コ」の字状であるかといった細部の具体的態様が観察されることは期待し難いというほかはない。もとより,意匠の類否判断の前提となる共通点,差異点の認定は,類否判断に必要な限度で行えば足りるところ,細溝の具体的態様に係る原告主張の差異は,本願意匠と引用意匠との類否判断に影響しない微細な差異というほかはないから,審決がこの点を差異点として認定しなかったとしても,これを誤りということはできない。
したがって,細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点の看過をいう原告の上記主張は採用の限りでない。
(2) 次に,原告の上記@の主張に係る,トレッド中央寄りの等幅3本リブ上に多数配置されたサイプの態様について見ると,本願意匠のものも引用意匠のものも,「3本の等幅リブの中央に,曲線状模様から成るサイプを,縦一列,等間隔に多数形成している点」については共通するものの,引用意匠においては,3本のリブ上のサイプはいずれも略S字状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて横一列に並ぶように配置されていることが認められる(甲3,特に2頁の「模様部分の参考部分拡大図」)。これに対し,本願意匠においては,3本のリブのうち,中央のリブ上に配置されたサイプは略S字状であるが,左右のリブ上に配置されたものは,「S」字状ではなく,「ヘ」の字を横転させたような形状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて,左上から右下に向けて斜めに並ぶように配置されているものと認められる(甲2,特に図面4頁の「正面部分拡大図」)。
そうすると,審決が,共通点(2)として,中央寄り3本の等幅リブの態様について,「それぞれ中央に同形の略S字状サイプを1列状に等間隔に多数形成する」点を認定したことは,厳密にいえば誤りであり,「引用意匠においては,3本のリブ上のサイプはいずれも略S字状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて横一列に並ぶように配置されているのに対し,本願意匠においては,3本のリブのうち,中央のリブ上に配置されたサイプは略S字状であるが,左右のリブ上に配置されたものは,略S字状ではなく,『ヘ』の字を横転させたような形状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて,左上から右下に向けて斜めに並ぶように配置されている点」(以下「差異点(ニ)」という。)を看過したものといわざるを得ないが,この誤りが,審決の結論に影響するか否かは,共通点(2)中,上記誤りに係る部分を除き,さらに両意匠の差異点として差異点(ニ)を加えた上で,両意匠の類否を検討しなければ明らかにならないというべきであるから,進んで,原告主張の取消事由2について検討する。
3 取消事由2について (1) 上記2で検討したところを踏まえ,本願意匠と引用意匠とを比較すると,下記の共通点及び差異点を認めるのが相当である(甲2,3)。
記 (共通点) (1)ショルダエッジ部が角張った自動車用タイヤにおいて,トレッドの略半分を占めるトレッド中央寄りの部位に,太幅で直線上の縦溝を等間隔に4本形成し,その間を周回する3本の等幅リブとし,その外側の左右ショルダ部に,前記3本の等幅リブより太幅の等幅リブを各1本形成した,全体の基本的な構成。
(2)中央寄り3本の等幅リブの構成態様について,それぞれ中央に曲線状模様から成るサイプを,縦一列,等間隔に多数形成するとともに,それぞれのリブの左右辺際に細かな切れ込みを多数形成している点。
(3)左右ショルダ部のリブの構成態様について,表面を平滑状とし,リブの内側辺際に細かな切れ込みを多数形成し,サイド側に細溝を各1本形成している点。
(差異点) (イ)太幅直線状縦溝の構成態様について,本願意匠においては,すべての縦溝は直線的に形成され,左右のショルダ部寄り縦溝内にはごく細幅の突条が形成されているのに対し,引用意匠においては,わずかにジグザグ状に溝が形成され,その内部に突条がない点。
(ロ)中央寄り3本の等幅リブの態様について,本願意匠においては,サイプが引用意匠に比べ小さいのに対し,引用意匠においては,サイプがやや大きい点。
(ハ)左右ショルダ部のリブの態様について,本願意匠においては,その横幅がやや広く,その外側辺際及びサイド側は平滑状で,サイド側の細溝はサイド側寄りに形成されているのに対し,引用意匠においては,リブの外側辺際に細かな切れ込みが多数形成され,サイド側には略多角形状模様が1列形成され,細溝はショルダ部寄りに形成されている点。
(ニ)中央寄り3本の等幅リブ上に配置された曲線状模様から成るサイプの構成態様について,引用意匠においては,3本のリブ上のサイプはいずれも略S字状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて横一列に並ぶように配置されているのに対し,本願意匠においては,3本のリブのうち,中央のリブ上に配置されたサイプは略S字状であるが,左右のリブ上に配置されたものは,略S字状ではなく,「ヘ」の字を横転させたような形状であり,また,各サイプは,3本のリブを通じて,左上から右下に向けて斜めに並ぶように配置されている点。
(2) 共通点について 上記(1)の認定を前提に,まず共通点について検討すると,共通点(1)は,両意匠の形態全体に及ぶ基本的な構成態様に係るものであって,両意匠の形態全体における基調を形成するものである。また,共通点(2)及び(3)も,正面視において看者の注意を最もひくと考えられるトレッド中央寄り3本の等幅リブ及び左右ショルダ部のリブの態様に係るものであって,これらがあいまってもたらす強い共通感は,全体としての類否判断に大きな影響を及ぼすものというべきである。
ア これに対し,原告は,共通点(1)〜(3)に係る構成態様は,いずれも,この種自動車用タイヤの分野において,従来,普通に知られたものであって,看者の注意をひくものではないから,類否判断に与える影響を左右する要素とはなり得ない旨主張する。
しかしながら,共通点(1)〜(3)に係る構成態様が周知ないし公知のものであるとしても,意匠の類否判断は,意匠に係る物品の外観の全体にわたって,その形態を観察する全体的,視覚的な判断であるから,当該意匠を全体的に観察した場合に,それが意匠全体の支配的部分を占め,意匠としてのまとまりを形成し,看者の注意をひくときは,なお当該部分は意匠上の要部となり得るものというべきである。そして,本件において,上記各共通点に係る構成態様が,本願意匠及び引用意匠を全体的に観察した場合に,看者の注意を強くひく,意匠上の要部となり得ることは上記のとおりであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。
イ また原告は,@ 共通点(1)と同一の特徴を備えた意匠が,それぞれ独立の意匠として登録されていること(甲4〜6,8〜10),及び,A 意匠の類否判断において,「ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい」ことは特許庁の意匠審査基準(甲12)においても明言されていることを指摘する。
しかしながら,上記@の点については,他の意匠の登録要件に関する特許庁の判断が,本願意匠の登録要件に関する審判体の判断を拘束するものでないことはいうまでもない上,原告が援用する登録意匠の例(甲4〜6,8〜10)が,共通点(1)〜(3)のすべてを備え,本願意匠及び引用意匠と同様の共通感を醸し出しているというわけでもないから,原告の主張は,上記判断を左右するものではない。上記Aの点についても,そもそも,意匠審査基準は,「意匠審査における意匠法の統一的な条文解釈及びその運用を図るためのもの」であって,法規としての性質を有しない一種のガイドラインないし指針にすぎない上,「共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」ことは,原告の援用する該当部分の記載自体(第2部,第2章,22.1.3.1(3),甲12)にも明記されているとおりであるから,原告の主張は採用の限りではない。
ウ さらに原告は,自動車用タイヤは,需要者が店頭において手を伸ばせば触れることができる程度の距離から観察し,選択するものであるので,そうした取引状態等を勘案すれば,共通点(1)に係る全体の基本的構成よりも,構成各部の具体的態様こそが看者の注意をひく部分であることは明らかである旨主張する。
しかしながら,需要者による自動車用タイヤの観察,選択は,店頭のみならず,商品カタログやインターネット上の写真等でも行われるものであるから,その余の点につき検討するまでもなく,原告の上記主張は採用の限りでない。
(3) 差異点について 次に,両意匠の差異点(イ)〜(ニ)について検討する。
ア 差異点(イ)について 縦溝の構成態様に関する差異点(イ)のうち,縦溝全体の態様が直線的か,ジグザグ状かという差異については,トレッド中央部という看者の目をひく部位における比較的大きな部分に関する差異ではあるが,その差異の程度は,本願意匠の縦溝は完全に直線的であるのに対し,引用意匠の縦溝の方は,全体としてみれば直線的であるものの,子細に観察すればわずかにジグザグ状になっていると感じられるという程度のものであって,上記共通点(1)〜(3)により認識される,両意匠の縦溝及び中央寄り3本のリブの基本的構成態様がもたらす直線的な印象を覆すに足りるものではない。また,本願意匠の左右ショルダ部寄りの縦溝内に突条が設けられている点も,縦溝の内部という目立たない部位における,比較的小さな部分に関する差異であるから,看者の美感に与える影響は大きなものではないというべきである。
(ア) これに対し原告は,4本の縦溝の全体構成に係る差異点を挙げ,本願意匠と引用意匠との類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素として極めて強く作用している旨主張する。
しかしながら,そもそも,本願意匠の左右ショルダ部寄りの縦溝内に突条が設けられているとの差異自体,上記のとおり,縦溝の内部という目立たない部位における,比較的小さな部分に関する差異であって,それと指摘されて初めて分かるという程度のものにすぎない。そうすると,当該突条の有無等によって,本願意匠の4本の縦溝のうち,中央寄りの2本と左右両端寄りの2本の態様が区別され得るとしても,そのことが,看者の美感に与える影響は微弱であるというほかはないから,原告の上記主張は採用の限りでない。
(イ) また原告は,縦溝の詳細な態様に係る差異点を挙げ,本願意匠と引用意匠との類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素として高く評価すべきものとなっている旨主張する。
確かに,拡大断面図(甲2の図面3頁,甲3の2頁)によれば,本願意匠の縦溝と引用意匠の縦溝との間には,子細に見れば,原告主張の差異が存するものと認める余地はある。しかしながら,意匠の類否判断は,意匠に係る物品の外観の全体にわたって,その形態を観察する全体的,視覚的な判断であるところ,取引者,需要者の視点から,本願意匠と引用意匠とを正面視において観察した場合,その差異は,前者が直線的であるのに対し,後者はジグザグ状であるという限度で認識されるというべきであり,それを超えて,看者が,原告主張に係る縦溝の態様に関する微細な差異までをも認識するとは通常考え難いというべきである。したがって,原告の上記主張は採用の限りでない。
イ 差異点(ロ)及び(ニ)について 中央寄り3本の等幅リブの構成態様に関する差異点(ロ)及び(ニ)については,トレッド中央部のリブ表面という看者の目をひく部位における差異ではあるものの,リブ上のサイプという微小な構成について,その大きさ,形状及び配置をわずかに変えたというにすぎず,看者の美感に与える影響は大きなものではない。
(ア) これに対し原告は,審決は,差異点(ニ)を看過した結果,両意匠の差異を過小に評価した旨主張するが,差異点(ニ)を加味しても,看者の美感に与える影響が大きなものでないことは上記のとおりである。
(イ) また原告は,中央寄り3本の等幅リブは,看者によって,側壁と接地面とから成る立体的形態として認識されるものであるところ,審決は,リブの接地面についてのみ認定し,立体としてのリブの態様についての認定を怠り,その結果,両意匠におけるリブの立体的形状に関する差異点を看過したものであるとした上,縦溝の詳細な態様に係る差異,すなわち,両意匠のリブ側壁の態様の差異は,類否判断に強い影響を与え,両意匠を非類似とする要素となっている旨主張する。
しかしながら,上記ア(イ)のとおり,取引者,需要者の視点から,本願意匠と引用意匠とを正面視において観察した場合,その差異は,前者が直線的であるのに対し,後者はジグザグ状であるという限度で認識されるものであり,それを超えて,原告が主張するような縦溝の側壁の態様に関する微細な差異までをも認識するとは通常考え難いというべきである。そして,このことは,仮に看者が,原告主張のように,リブを立体的形態として認識しようとしたとしても同様というほかはないから,その余の点につき検討するまでもなく,原告の上記主張は採用の限りでない。
ウ 差異点(ハ)について 左右ショルダ部のリブの構成態様に関する差異点(ハ)については,特に,本願意匠のものの方が横幅が広く,その外側辺際が平滑状で細かな切れ込みを有しないという点において,本願意匠の方がより角張った印象を与えるという点で視覚的な効果を有すると認められるものの,その印象は,共通点(1)に係る「ショルダエッジ部が角張った自動車用タイヤ」との共通感に収れんされるといわざるを得ないから,その看者の美感に与える影響は小さいというべきである。また,差異点(ハ)のうち,細溝の設置位置に関する差異は,トレッドパターンの周縁部又はタイヤ側面に関する差異である上,極めて小さい部分に関するものであるから,看者の美感に与える影響は微細というほかはない。さらに,タイヤ側面の散点模様の有無に関する差異は,正面視においては見ることのできないタイヤ側面に関する差異である上,その大きさもそれほど大きなものではないから,看者の美感に与える影響は限定的なものにとどまると見るのが相当である。
(ア) これに対し原告は,細溝の配設位置及び具体的態様に係る差異点を挙げ,これによる視覚的効果の相違は顕著である旨主張する。
しかしながら,原告主張のうち,細溝の具体的態様に係る差異が,本願意匠と引用意匠との類否判断に影響しない微細な差異にすぎないことは,上記2(1)エにおいて検討したとおりである。また,細溝の配設位置に係る差異についても,それが看者の美感に与える影響が微細なものであることは上記のとおりであるから,結局,原告の上記主張は採用の限りでない。
(イ) また原告は,タイヤ側面の散点模様の有無による視覚的効果の相違は顕著であるとも主張する。
確かに,特に側面視において,散点模様の有無が本願意匠と引用意匠とを区別する上での最大の特徴となっているものと認められるが,タイヤの側面は,正面視においては見ることのできない部位であり,正面視では,当該差異は全く認識することができないこと,タイヤ側面における散点模様が公知の構成であること(乙11,12)等を考慮すれば,その程度の差異があることをもって,共通点(1)〜(3)によって醸し出される両意匠の共通感をしのぐものと認めることは困難であるといわざるを得ない。
(ウ) さらに原告は,自動車用タイヤの側面は,自動車に取り付けた通常の使用状態において看者の目につきやすい部位であり,上記の差異による側面視形態の顕著な相違は,看者の注意をひき,類否判断に強い影響を与えて,両意匠を非類似とする要素となっている旨主張する。
しかしながら,自動車用タイヤの取引者,需要者によって,トレッド部に比べ,タイヤ側面の方がより注目されると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,タイヤの機能面に直結するトレッド部の方が注目される可能性は高いとも考えられる。そうであるとすれば,本件における程度の側面視形態の差異をもって,共通点(1)〜(3)のもたらす共通感をしのぐものであるとまでは到底認められないというべきであるから,この点に関する原告の主張も,上記判断を左右するものではない。
(4) 小括 以上のとおり,当裁判所が指摘した差異点(ニ)を加えても,両意匠の間に見られる各差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,いずれも強いものではないから,これらがまとまって相乗的な効果を発揮する可能性を考慮したとしても,共通点(1)〜(3)によって形成された全体の基調ないし強い共通感をしのぐものではなく,両意匠は,看者に異なった美感を与えるものであると認めることはできない。
そうすると,「両意匠は意匠に係る物品が一致し,形態においても,共通点が差異点を凌駕するものであるから,両意匠は類似するものといわざるを得ない」(審決3頁第3段落)とした審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由2の主張は理由がなく,また,そうであるとすれば,取消事由1に係る差異点(ニ)の看過の点は,審決の結論に影響するものではないから,原告の取消事由1の主張も理由がないことに帰する。
4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 早田尚貴