関連審決 |
不服2003-5705 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10317審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成16ワ6262実用新案権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成17行ケ10253審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成14ワ26828損害賠償請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成11行ケ275審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 物品の形状 / 形状 / 模様 / 部分意匠 / 意匠に係る物品 / 法上の意匠 / 一意匠一出願(7条) / 類似する意匠 / 全体観察 / 関連意匠(10条) / 本意匠 / 具体的な意匠 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10227号
審決取消請求事件
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原告 ポーラ化成工業株式会社 訴訟代理人弁理士 遠山勉 同 松倉秀実 同 五味飛鳥 被告 特許庁長官 小川洋 指定代理人 森則雄 同 藤正明 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/04/13 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2003-5705号事件について平成16年9月7日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年3月22日,意匠に係る物品を「コンパクト」とし,別紙審決書写し添付の別紙第1の意匠(以下「本願意匠」という)につき,同別紙第2の意匠を本意匠(以下「本件本意匠」という。)とする関連意匠として意匠登録出願(2001年意匠登録願第7969号,以下「本件出願」という。)をしたところ,平成15年2月24日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月4日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2003-5705号事件として審理した結果,平成16年9月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月17日,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりであり,要するに,本願意匠(部分意匠)は,本件本意匠(部分意匠)に類似するものではなく,意匠法10条1項に該当しないから,意匠登録を受けることができない,とするものである。 審決が,その判断の前提として,本願意匠と本件本意匠との共通点及び差異点として認定したところは,次のとおりである。 (共通点) 凸部集合部分全体は,透明体とした上蓋において,上蓋上面部の地に対し突出形成した凸部複数が上蓋上面部の表側と裏側それぞれの全面に行き渡るように表した凸部集合態様としたものであり,表側の凸部集合部分は,凸部を低い円盤状のものとして,主に同大の凸部複数を等間隔で近接して縦横に整列配置したものであり,裏側の凸部集合部分は,凸部を低い円盤状のものとして,主に同大の凸部複数を,表側の凸部集合部分に対しずらして,等間隔で近接して縦横に整列配置したものである点 (差異点) (1) 凸部集合部分全体について,本願意匠は,外回り辺が平面視横細長長方形状で地が水平面状の上蓋上面部形状に合わせて表した凸部集合態様としているのに対して,本意匠は,外回り辺が平面視円形状で地が緩やかに膨出する曲面上の上蓋上面部形状に合わせて表した凸部集合態様としている点 (2) 表側の凸部集合部分について,本願意匠は,凸部を頂面が水平面状のものとし,同形の凸部複数を横列では2列,縦列では9列表しているのに対して,本意匠は,凸部を頂面が地に沿ってやや膨出する曲面状のものとし,凸部複数を,そのうち上蓋上面部表側の円形状の外回り辺沿いの凸縁に接する凸部は凸縁に沿って円盤状のものの一部を切り欠いたものとして,横列では5列,縦列では5列表している点 (3) 裏側の凸部集合部分について,本願意匠は,凸部を,表側の凸部と同形の,頂面が水平面状のものとし,同形の凸部複数を,そのうち上蓋上面部裏側の横細長長方形状の外回り辺の左右辺と後辺左右端に接する凸部は各辺に沿って円盤状のものの一部を切り欠いたものとして,横列では2列,縦列では10列表しているに対して,本意匠は,凸部を頂面が地に沿ってやや窪む曲面状のものとし,凸部複数を,そのうち上蓋上面部裏側の円形状の外回り辺に接する凸部は外回り辺に沿って円盤状のものの一部を切り欠いたものとし,また,前側中央と後側中央の凸部についてはそれぞれ4個の凸部が中心で互いに癒着して一体になった変形凸部として,横列では2列,縦列では10列(注・「横列では6列,縦列では6列」の誤記と認める。)表している点 (4) 表側の凸部集合部分に対する裏側の凸部集合部分の配置について,本願意匠は,横方向にのみ凸部の略半径分程ずらしているのに対して,本意匠は,横方向にも縦方向にも凸部の略半径分程ずれるように斜め方向にずらしている点 (5) 表側から透けて見える裏側の凸部集合部分と表側の凸部集合部分とで,真平面視において,本願意匠は,複数の円形状が横方向にのみ略半径分程ずれて重なりながら左右(長手方向)に連なる態様を呈するものであるのに対して,本意匠は,複数の円形状が横方向にも縦方向にも略半径分程ずれるように斜め方向にずれて重なりながら四方に連なる略七宝繋ぎ様の態様を呈するものである点 (以下,これらの差異点を「差異点(1)」などという。) |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本願意匠と本件本意匠の重要な共通点を看過した上,本願意匠と本件本意匠との類否判断を誤ったものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。 1 共通点の看過 本願意匠と本件本意匠とは,審決が認定した共通点のほかに,その具体的な態様において次の点が共通しているにもかかわらず,審決はこれを看過している。 (1) 円盤状凸部の大きさ 個々の円盤状凸部は,その高さと円の直径の比が1対14程で共通している。 (2) 円盤状凸部の単位面積あたりの数 両意匠は,ともに物品「コンパクト」に係る意匠であり,その常識的な大きさは掌に乗る程度である。この点を踏まえれば,両意匠の円盤状凸部が或る単位面積中に含まれる数は同数となる。 (3) 円盤状凸部の表側と裏側のずれ幅 両意匠は,透明体の上蓋の表側と裏側で凸部集合部分をずらして配置しているが,横方向及び斜め方向の差異はあるものの,その「ずれ」の幅は,円盤状凸部の直径のちょうど半分である点で共通している。 以上のように,本願意匠と本件本意匠は,その「高さと直径の比」が一致する円盤状凸部を,「単位面積あたりの数」を同じくして整列配置して成り,かつ,上蓋の表裏における円盤状凸部の「ずれの幅」においても,共通性を持たせているものである。かかる共通点は,両者の類比を判断する上での重要な要素であり,これを看過した審決には重大な瑕疵がある。 2 部分意匠における類否判断の誤り 本願意匠と本件本意匠は,いずれも部分意匠として意匠登録出願したものであるところ,審決は,部分意匠制度の趣旨を正解せず,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」以外の部分の形態について,殊更重要視した類否判断を行っており,このような類否判断は誤りである。 (1) 部分意匠の制度は,全体観察による類比判断の弊害を克服することを目的としているのであるから,部分意匠同士の類否判断においては,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」(以下「実線部分」ともいう。)の形態の異同を中心的に観察し,その共通点及び差異点を総合評価して,類否判断をすべきであり,実線部分以外の部分(以下「破線部分」ともいう。)の形態の異同を殊更に重視すべきではない。 対比する2つの実線部分に存在する差異点には,@破線部分の形態の差異に起因して生じている差異点(以下「破線部分起因差異点」という。)と,A破線部分の形態とは無関係な差異点(以下「実線部分固有差異点」という。)とが存在するが,部分意匠同士の類否判断において,この「破線部分起因差異点」と「実線部分固有差異点」を等価値に扱うことは許されない。すなわち,「破線部分起因差異点」は,実線部分に固有の形態の差異ではなく,実質的に破線部分の形態の差異であるから,部分意匠同士の類否判断において,実線部分に存在する差異点は,「実線部分固有差異点」を中心に,「破線部分起因差異点」の評価ウエイトを低くし,あるいは捨象して,その総合評価を行う必要があるのである。 (2) 本願意匠と本件本意匠について,差異点(1)ないし(5)があることは認めるが,これらのうち特に差異点(1)ないし(3)は,「破線部分起因差異点」を多く含んでいる。すなわち,審決が,「両意匠の凸部集合態様差は,上蓋上面部形状差に起因して顕著に表れ」と説示するように,差異点(1)ないし(3)は,差異点(3)における「変形凸部」に関する差異を除き,コンパクト全体の外形の差異(本願意匠は横長長方形状のコンパクトであり,本件本意匠は緩やかに膨出する円形状(以下「凸レンズ状」ともいう。)のコンパクトである。)に基づく「破線部分起因差異点」である。差異点(1)は,実質的に,単に本件コンパクトの外形が横長長方形か凸レンズ状であるかを述べているに過ぎないし,差異点(2)及び(3)についても(「変形凸部」を除き),同大の円盤状凸部を縦横等間隔に,異なる地の上に整列配置すれば当然に生じる差異に過ぎない。 このように差異点(1)ないし(3)のほとんどは「破線部分起因差異点」であるから,本件の類比判断において重要視されるべきではなく,これらの「破線部分起因差異点」の存在を理由に,本願意匠と本件本意匠が異なるとした審決の判断は,実質的に「破線で表されたコンパクト全体の外形が異なるから,両部分意匠は異なる」としているに等しいものであって,部分意匠制度の趣旨に悖るものである。 (3) 本件において,両意匠の類比を左右する「実線部分固有差異点」は,差異点(3)で指摘されている「前側中央と後側中央の円盤状凸部をそれぞれ4つ癒着して一体の変形凸部にしている」か否かの点と,差異点(4)で指摘されている上蓋表裏の凸部集合を「横方向にのみずらした」か「横方向にも縦方向にもずらした」かの点の,2点のみである(審決の指摘する差異点(4)と(5)は,実質的に同じことを述べているに過ぎない。)。他方,本願意匠と本件本意匠には,審決が認定した共通点のほか,上記1の共通点があり,これらの共通点にこそ,両意匠の独創的特徴が存在しているのであって,上記2つの差異は,その具体的な態様における微差に過ぎないものである。したがって,本願意匠と本件本意匠は,その独創的特徴を共通にするものであり,相互に類似するというべきであり,これと異なる審決の判断は誤りである。 3 関連意匠における類否判断の誤り 本願意匠は,本件本意匠を本意匠とする関連意匠として出願したものであるところ,審決は,関連意匠制度の趣旨を正解せず,両意匠を非類似であるとして関連意匠としての保護を否定したものであり,この判断は誤りである。 関連意匠制度は,「デザイン開発の過程で,一のデザイン・コンセプトから創作されたバリエーションの意匠」を,互いに関連づけて,同等に保護するものであるから,関連意匠制度の下で保護される「類似する意匠」に該当するか否かは,本意匠との間のデザイン・コンセプトの共通性いかんによるというべきである。 審決は,本願意匠と本件本意匠の共通点について,「その創作前提とした概念上の共通点に止まる」としているが,概念上の共通点を認めたのであれば,これをデザイン・コンセプトの共通性として考慮し,両意匠の関連性を肯定すべきであり,しかも前記1の共通性を考慮すれば,本願意匠を関連意匠として保護するのが,関連意匠制度の趣旨に合致するというべきてある。 |
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被告の反論の要点
1 共通点の看過について 審決は,本願意匠と本件本意匠の対比に必要な限りにおいて,共通点を認定しているのであり,それ以上に新たに認定すべき共通点は存在しない。 2 部分意匠における類否判断の誤りについて 部分意匠に関する類否判断のプロセス及び手法は,@意匠に係る物品の異同を認定し,実線部分と破線部分の記載の関係(位置,大きさ,範囲等)について考察し,実線部分を特定し,A実線部分全体を中心とする対比による異同を検討し,B実線部分全体の共通点・差異点を評価し,実線部分全体と破線部分全体との関係を総合し,部分意匠全体を観察して類否を判断する,というように整理することができ,審決もこのプロセスと手法に従って類比判断を行っており,その判断は妥当である。 原告は,差異点(1)ないし(3)は「破線部分起因差異点」を多く含んでおり,審決はコンパクト全体の外形の差異に基づく破線部分を殊更に重要視している旨主張するが,部分意匠は,物品の部分に関するものであるから,凸部集合部分(実線部分)がコンパクト全体の外形(破線部分)に起因する要素を含むことは当然であって,審決は,破線部分の記載との関係(位置,大きさ,範囲等)等を考察しつつ,凸部集合部分(実線部分)の構成態様を具体的に認定したものであり,「破線部分」を殊更重要視したものではない。そして,審決は,部分意匠全体として本願意匠と本件本意匠とを観察し,凸部集合部分(実線部分)の差異点(1)ないし(5)が相俟って発揮する視覚上の効果差が大なること歴然であり,実線部分全体の差異点が優位であるから,破線部分全体との関係に言及するまでもなく,部分意匠全体として本願意匠は本意匠に類似するものではないと判断したものであって,何ら誤りはない。 3 関連意匠における類否判断の誤りについて デザイン・コンセプトが共通するからといって,それから創作された物品の形態である意匠法上の意匠が結果的にすべて互いに類似する関係になるとはいえず,関連意匠制度は,そうした類似しないバリエーションの意匠を保護することまでも想定しているものではない。 |
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当裁判所の判断
1 共通点の看過について (1) 原告は,個々の円盤状凸部の高さと円の直径の比が1対14程で共通している旨主張する。 前記第2の2のとおり,審決は,円盤状凸部の大きさについて,「凸部を低い円盤状のものとして,主に同大の・・・」として共通点の認定をしている。そして,本願意匠及び本件本意匠の出願図面(乙第1,第2号証)の記載からは,両意匠における円盤状凸部の高さと円の直径の比の値が一見して明らかになっているものとはいえず,また,意匠の類比を判断するに当たっては,両意匠の基本的な形状と特徴的な形状における共通点・差異点を認定した上で,その類比を判断すれば足りるというべきであって,本件において,原告が主張するような細部にわたる部分についてまで認定する必要があるとはいえないから,上記審決の程度の認定をもって足りるものというべきである。したがって,審決が原告の主張するような点を共通点として認定しなかったからといって,これをもって共通点の看過があるということはできない。 (2) 原告は,円盤状凸部の単位面積あたりの数が共通している旨主張する。 しかしながら,本願意匠及び本件本意匠の出願図面(乙第1,第2号証)を見ても,両意匠の円盤状凸部の大きさは具体的に明らかにされていないのであるから,単位面積あたりの数が共通しているか否かは必ずしも明確とはいえないのであり,審決にこの点に関する共通点の看過があるとはいえない。なお,審決は,前記第2の2のとおり,共通点として,「・・・主に同大の凸部複数を等間隔で近接して縦横に整列配置したもの」と認定しているのであるから,コンパクトの通常の大きさを勘案しても,これ以上に,必ずしも明確とはいえない原告主張のような点についてまで共通点として認定しなければならないものでもない。 (3) 原告は,円盤状凸部の表側と裏側のずれ幅が,円盤状凸部の直径のちょうど半分である点で共通している旨主張する。 確かに,本願意匠においては,その出願図面(乙第1号証)の参考平面図によれば,表裏両面の円盤状凸部が横方向に直径の半分程度ずれていることが認められる。しかしながら,本件本意匠の出願図面(乙第2号証)の参考平面図によれば,本件本意匠においては,表裏両面の円盤状凸部が横方向に直径の半分程度,縦方向にも同程度ずれていることが認められるのであり,この縦と横のずれている距離をそれぞれ1とすれば,これを合わせた斜め方向へずれている距離はルート2(≒1.414)であることが明らかであり,ずれ幅が直径のちょうど半分である点で共通しているとはいえない。したがって,審決に原告主張の共通点の看過はない。 2 部分意匠における類否判断の誤りについて (1) 原告は,審決が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(実線部分)以外の部分の形態を殊更重要視した類否判断を行っていると主張する。 部分意匠の制度が,全体観察による類比判断の弊害を克服することを目的の一つとしていること,部分意匠における類否判断においては,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」(実線部分)の形態の異同を中心に観察し,その共通点及び差異点を総合評価して,類否判断をすべきであることは,原告主張のとおりである。 しかし,意匠は,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものであるから(意匠法2条1項),物品を離れた単なる模様,色彩などだけでは意匠とはいえない。このことは,部分意匠についても同じであり,部分意匠における意匠は,あくまで「物品の部分」の「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」であることはいうまでもない。 原告は,対比すべき両意匠の間において,実線部分の差異点のうち,破線部分の形態に起因する差異点(原告のいう「破線部分起因差異点」)についてはこれを低く評価するか,あるいは捨象して類比を判断すべきであると主張するが,実線部分の形態はすなわち部分意匠の形態であり,その形態が何に起因しているか否かを問わず,部分意匠自体の形態であることに違いはなく,物品の部分の特徴を示すものであることに変わりはないのであるから,これを評価の対象から捨象したり,特別に低く評価することはできないものといわざるを得ない。 (2) 本願意匠と本件本意匠について,差異点(1)ないし(5)があることは,原告も認めるところであるが,原告は,そのうち差異点(1)ないし(3)は,差異点(3)における「変形凸部」に関する差異を除き,本件の類比判断において重要視されるべきではないと主張する。 ア 差異点(1)について 原告は,差異点(1)は単にコンパクトの外形が横長長方形か凸レンズ状であるかを述べているに過ぎないとし,これは破線部分の形態に起因する差異点である旨主張する。 しかしながら,それぞれの外回り辺が横細長長方形状であるか,円形状であるかの点が,コンパクト全体の形態に由来するものであるとしても,本願意匠と本件本意匠の部分意匠としての形態それ自体の差異点であることはいうまでもなく,その凸部集合態様の相違とともに,物品の部分としての視覚上の違いが明確に示されている部分であって,差異点(1)を原告の主張するように低く評価するとか,捨象することは相当ではない。 イ 差異点(2)及び(3)について 原告は,差異点(2)及び(3)は「変形凸部」の点を除き,いずれも破線部分の形態に起因する差異点であり,同大の円盤状凸部を縦横等間隔に異なる地の上に整列配置すれば当然に生じる差異に過ぎない旨主張する。 しかしながら,両意匠における円盤状凸部の数と並べ方の相違が,コンパクト全体の形態に由来するものであるとしても,本願意匠と本件本意匠の部分意匠としての形態それ自体の差異点であることはいうまでもなく,また,本願意匠における円盤状凸部の頂面が水平面状のものであるのに対して,本件本意匠のそれが地に沿ってやや膨出する曲面上のものであることは,まさに両意匠の実線部分における差異点であり,これらの点は物品の部分としての視覚上の違いを顕著に示すものであって,差異点(2)及び(3)を原告の主張するように低く評価するとか,捨象することは相当ではない。 差異点(1)ないし(3)(「変形凸部」を除く。)は本件の類比判断において重要視されるべきではないとする原告の上記主張は,つまるところ,物品の形状と離れた平面における模様などだけに基づいて,意匠の類比判断をすべきであるというに帰するものであり,採用の限りではない。 (3) 本願意匠と本件本意匠との差異点,特に両意匠の円盤状凸部が水平面状のものか曲面状のものかの点で相違するなど,その凸部集合態様に顕著な差異が見られるほか,変形凸部の有無の点でも異なり,さらに表側から透けて見える裏側の凸部集合部分と表側の凸部集合部分とが重なって現す模様が平面視において略七宝繋ぎ様か否かで大きく違っている(乙第1,第2号証の各参考平面図)ことなど,看者の注意を引きつける重要な部分において,両意匠の視覚的差異は大きいものがあり,それぞれ相異なる美感ないしは美的印象を醸し出しているというべきであって,本願意匠が本件本意匠に類似するということはできない。なお,原告は,上記の変形凸部の有無や略七宝繋ぎ様か否かの差異は具体的な態様における微差に過ぎない旨主張するが,それらは視覚的に大きな差異をもたらすものであり,決して微少な差異といえるものではない。 以上によれば,「具体化した部分意匠全体として観察すると,両意匠の差異点が発揮する視覚上の効果差は,大なること歴然であって,・・・両意匠の差異点は共通点を凌駕しているから,本願意匠は本意匠に類似するものではない。」との審決の判断に誤りはない。 3 関連意匠における類否判断の誤りについて 原告は,関連意匠制度の下で保護される「類似する意匠」に該当するか否かは,本意匠との間のデザイン・コンセプトの共通性いかんによると主張する。 しかし,関連意匠も,具体的な物品(又は物品の部分)の形態(形状・模様・色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの)であって,物品を離れた「デザイン・コンセプト」なる抽象的,観念的なものでないことはいうまでもなく,その要件である「類似する意匠」か否かも,関連意匠として出願された当該意匠の具体的な構成態様に基づいて判断されるべきものである。仮に「デザイン・コンセプト」なるものが共通しているとしても,その具体化された物品の形態である意匠がすべて類似するとはいえないのであり,原告の上記主張は,独自の見解に基づくものであって,採用することができない。 審決は,本願意匠を本件本意匠の関連意匠として,その願書に記載された具体的な意匠の内容を対象にして類否判断したものであり,ここに何らの誤りはない。 4 以上のとおりであるから,本願意匠が意匠法10条1項に該当しないとした審決の判断に誤りはない。 原告が主張する取消事由は理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 設樂驤 |