• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2004-23436
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10253審決取消請求事件 判例 意匠
平成18行ケ10492審決取消請求事件 判例 意匠
平成14ワ26828損害賠償請求事件 判例 意匠
平成10ワ11674意匠権及び実用新案権侵害差止等請求事件 判例 意匠
平成17行ケ10227審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  部分意匠 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  意匠の説明 /  創作容易(容易の創作) /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  全体意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) /  手続違背 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 18年 (行ケ) 10004号 審決取消請求事件
原告 東洋紡績株式会社
訴訟代理人弁理士 深見久郎
同 森田俊雄
同 竹内耕三
同 野田久登
同 吉田昌司
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 市村節子
同 岩井芳紀
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/18
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-23436号事件について平成17年11月24日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年1月9日,別添審決謄本写しの別紙第1表示の意匠について,意匠に係る物品を「上着」(同年9月29日付け手続補正書により「スポーツ用シャツ」に補正)とした上,部分意匠として意匠登録出願をしたが(意願2004-445,以下,これを「本件出願」といい,その意匠を「本願部分意匠」という。),同年10月18日に拒絶査定を受けたので,同年11月16日,拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は,これを不服2004-23436号事件として審理した結果,平成17年11月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月12日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願部分意匠と,特許庁総合情 1報館が平成9年10月9日に受け入れた,別添審決謄本写しの別紙第2表示の,ドイツ特許庁が1997年(平成9年)6月25日に発行した意匠公報の3911頁に掲載された「セーター」の意匠(甲4,乙2,特許庁意匠課公知資料番号第HH10069142号)のうち,本願部分意匠部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に相当する部分(以下「引用意匠」という。)とが,意匠に係る物品において類似しており,その形態においても,両意匠の差異点は共通点が類否判断に及ぼす影響を凌駕するに至っていないから,両意匠は全体として類似するものであって,本願部分意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,同条柱書の規定により意匠登録を受けることができないとした。
( ) 審決が本願部分意匠と引用意匠とを対比して認定した共通点及び差異点は, 2それぞれ次のとおりである。
「共通点として,( )腕付け根部分より先端部分まで先細りの扁平筒形状 1の基本的構成態様とした点,また,その具体的な態様において,( )ほぼ全2体に周知の格子模様を施した点,( )先端に袖口部分を設けた点,がある。 3一方,差異点として,(イ)周知の格子模様の具体的態様につき,本願部分意匠は全体に細めの線模様が施されているのに対し,引用意匠は若干太めの線模様が施されている点,(ロ)周知の格子模様の配置の具体的態様につき,本願部分意匠は腕付け根部分より先端の袖口部分まで同じ模様が施されているのに対し,引用意匠は袖口部分には模様は施されてない点,がある。」(審決謄本2頁第3,第4段落)
原告主張の審決取消事由
審決は,本願部分意匠と引用意匠との差異点を看過し(取消事由1),両意匠の類否判断を誤り(取消事由2),物品類否判断を誤り(取消事由3),意匠法50条3項で準用する特許法50条に規定する手続に違背し(取消事由4),その結果,本願部分意匠が意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(差異点の看過)( ) 審決は,本願部分意匠と引用意匠の差異点として,上記のとおり(イ)及び 1(ロ)の2点のみを認定したが,両意匠の差異点は,(イ)及び(ロ)にとどまらず,次の差異点も存在するものであり,審決は,これらの差異点を看過している。
( ) 伸縮自在領域の看過 2ア 本願部分意匠の形態においては,袖口部分において,腕部を構成する格子模様が施された布地をそのまま用いた「先細領域」と,格子模様が施されていない「伸縮自在領域」とが存在するのに対して,引用意匠には,このような領域が存在しない点(以下「差異点(ハ)」という。)で両意匠に差異が認められるところ,審決は,上記差異点を看過したものである。
本願部分意匠は,袖口部分に伸縮自在領域を設けることにより,着用者が手首から袖口部分を着脱あるいは固定することを可能としている。しかも,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」において,袖口のおしゃれは極めて重要であって,伸縮自在領域は本願部分意匠の要部というべきであり,また,本願部分意匠の袖口部分における,格子模様を有しない伸縮自在領域と格子模様の施された先細領域とのコンビネーションは,スポーツ用シャツとして新規で斬新なデザインであって,創作の一つのポイントとなるものであり,一般需要者である取引者・需要者の注意を強く引くものである。
一般需要者である取引者・需要者は,この種のスポーツシャツを購入する際,袖口の局所的なデザインに引かれるものであり,例えば,ワンポイントマーク等のように局所的であるほうがデザイン的に優れている場合もあり得る。
イ 被告は,審決で差異点(ハ)に言及しなかったことを認めつつ,伸縮自在領域が,全体としては,極めて局所的な差異としかいえないから,審決の結論に影響を与えない旨主張する。
しかし,上記のとおり,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」において,袖口のおしゃれは極めて重要であって,伸縮自在領域は本願部分意匠の要部というべきであり,被告は,本願部分意匠の要部を看過したことが明白である。
したがって,被告の上記主張は失当である。
ウ 被告は,本件訴訟において,実開昭54-132417号(乙3,以下「乙3公報」という。),実開昭59-193812号(乙4の1,2,以下「乙4公報」という。),実用新案登録第3092904号(乙5,以下「乙5公報」という。),実開昭54-4108号(乙6,以下「乙6公報」という。),平成元年8月10日株式会社ダイヤモンド社発行の雑誌「CAR and DRIVER1989 8-10」(通巻12巻15号185頁,乙7,以下「乙7文献」という。)を提出し,伸縮自在領域が伸縮性の高い部分であるとしても,この態様は,本件出願当時に周知の上記意匠態様に照らして格別特徴的なものとはいえない旨主張する。
しかし,意匠の類否判断は,本願部分意匠(甲1)と引用意匠(甲4)との類否判断によってされるものであって,その余の公知意匠(乙3〜6)と本願部分意匠(甲1)との間においてされるものではない。しかも,被告の上記主張は,審決において判断されなかった事項であるのみならず,乙3〜6公報,乙7文献は,審判に現われなかった証拠であるから,最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨に照らし,本訴における被告の上記主張及び証拠の提出は,許されないものである。
仮に,上記証拠が採用されるとしても,乙3公報の意匠は,腕部から袖部にかけて無地であり,乙4公報の意匠は,無地であるほか,袖口部が段付きになっているなどし,乙5公報の意匠は,寝巻き類の袖口であり,腕部の先端に円周の1/2にわたってゴムを挿通しており,乙6公報の意匠は,無地のものであるほか,ゴム紐が挿通されており,乙7公報の意匠は,「ブルゾン」であって,本願部分意匠とは形態あるいは物品において全く相違するものであり,本願部分意匠と引用意匠との類否判断に影響を与えるものではない。
( ) 袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率の違いの看過 3本願部分意匠は,袖部の形状において,腕つけ根まわりと先端の袖口回り(手首まわり)の長さとの比を,約2:1としているのに対して,引用意匠は,約3:1としている点(以下「差異点(ニ)」という。)において差異を有するところ,審決は,この差違点(ニ)も看過したものである。
この種のシャツにおいて,袖の扁平筒形状をいかに決定するかは,デザイン的に極めて重要であり,袖の柄模様と筒形状のバランスには,意匠の創作性が認められるところである。差異点(ニ)は,本願部分意匠にキリリと締まった感じを与え,スポーツ用シャツとして好感が持てるのに対し,引用意匠の形態は,ゆったりとリラックスした感じを与え,セーターとして適した形態であり,両形態より受ける看者の美感は異なるものである。
仮に,差異点(ニ)に係る上記比率が,衣類においてごく普通のものであったとしても,本願部分意匠である腕部及び袖部において,袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率は,引用意匠との類否判断において極めて重要なものであり,本願部分意匠の類否判断に影響を与える部分というべきである。
( ) 上記のとおり,本願部分意匠と引用意匠との間では差異点(イ)及び(ロ)のみ 4ならず,差異点(ハ)及び(ニ)も存在し,差異点(ハ),(ニ)は,本願部分意匠の類否判断に影響を与える部分であるので,これらの差異点を看過した審決は違法である。
2 取消事由2(意匠の類否判断の誤り)審決は,共通点( )ないし( )は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすもの 13であるのに対し,差異点(イ)及び(ロ)については,全体の類否判断に及ぼす影響は軽微なものであるとし,「上記の差異点が相俟った効果を考慮してもなお,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響を凌駕するには至らず,両意匠は全体として類似するものである。」(審決謄本2頁下から第2段落)と判断したが,誤りである。
一般に,類否判断は,看者の注意を引くか否かによって決せられるものと解すべきところ,共通点( )ないし( )は,スポーツ用シャツの形態としてごくあ 13りふれたものであるから,看者の注意を引くものということはできず,両意匠の類否の判断に大きな影響を及ぼすものではない。このようなごくありふれた共通点を,類否判断において大きな影響を与えると判断した審決は,明らかに誤りである。
3 取消事由3(物品類否判断の誤り)審決は,「請求人(注,原告)は,原審の拒絶の理由に対する意見書及び審判請求書において,両意匠に係る物品につき,その用途と機能が異なり,意匠法上,非類似の物品である旨主張されているが,ともに衣類であり,着用時における使用態様や機能等に関して大きく異なるものではなく,本願の『スポーツ用シャツ』と引用意匠の『セーター』は意匠に係る物品が類似するものと認められ」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)ると判断したが,誤りである。
物品類否判断は,使用態様や機能に関してのみされるものではなく,一般需要者を基準とし,両物品間に混同を生じさせるおそれがあるか否かという観点からもこれを決すべきものと解すべきである。
本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」は,スポーツ品売り場で販売されるものであって,引用意匠に係る一般のセーター売り場で販売されるものではなく,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠に係る「セーター」とが一般需要者において混同を生じさせるおそれはない。
また,平成8年3月6日株式会社同文書院発行「新・田中千代服飾事典」(甲8,以下「甲8文献」という。)によると,「セーター」は,「男女ともに用いる編み物の上着の総称である。」,「シャツ」は,「綿や麻などのクレープや,木綿,絹,麻,化繊,毛のメリヤス地でつくられ,上質の毛織にはカシミア・・・などの布地でつくられる。」とそれぞれ定義されているところ,一般需要者が,編み物であるセーターと布地のシャツとを誤認混同することはなく,両者間で混同の生ずるおそれはない。
したがって,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠に係る「セーター」とは,物品において類似しておらず,これを類似するとした審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背)審決は,差異点の「(ロ)の点については,当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前ありふれたもの(例えば,特許庁意匠課が1999年12月24日に受け入れたDELTA PLUS(フランス)が発行した外国カタログ「VETEMENTSTECHNIQUES」45頁に所載の『シャツ』の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HD12017496号)〔注,甲6〕)であり,特に新規な特徴とはいえず,両意匠とも,ほぼ全体に周知の格子模様を施した点では共通しており,全体の類否判断に及ぼす影響は軽微なものと言える。」(審決謄本2頁下から第3段落)と判断した。
しかし,審決の引用した上記「VETEMENTS TECHNIQUES」(以下「甲6文献」という。)の「シャツ」の意匠は,袖口のカフス部分に袖生地と同一の格子模様の生地が全体にわたって使用されており,1種類のデザインと機能の領域しか存在しないことから,本願部分意匠とは形状及びデザインが大きく異なり,かつ,美感が異なるものである。そうすると,甲6文献の意匠は,本願部分意匠に対して「ありふれたもの」であることを裏付けるものとはなっておらず,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」の分野において,袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは,出願前ありふれたものでなく,新規な特徴である。
したがって,甲6文献の意匠は,本願部分意匠との関係では公然知られた意匠(公知意匠)となるものであり,甲6文献の意匠が公知意匠であるならば,本願部分意匠の拒絶理由は,意匠法3条2項でなければならず,審判体は,審判手続の段階において,意匠法50条3項で準用する特許法50条の規定により,新たな拒絶の理由を通知しなければならなかったのである。ところが,審判手続の段階で新たな拒絶理由通知は出されていないから,審決には,意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背があり,違法として取り消されるべきである。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(差異点の看過)について( ) 原告は,本願部分意匠と引用意匠とでは,差異点(イ)及び(ロ)のほか,差異 1点(ハ)及び(ニ)もあるところ,審決がこれを看過した旨主張する。
確かに,本願部分意匠の袖口部分には,内側に当たる部分(正面図,及び背面図の下辺沿い)に,横長矩形の小さい区画が認められ,この区画においては,格子の筋が表れていないところ,審決は,この差異点(ハ)に言及しておらず,また,本願部分意匠と引用意匠とでは袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率に若干の違いがあるところ,審決は,この差異点(ニ)にも言及していない。
しかし,これらの差異点は,いずれも軽微なものであって,意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいえず,これを看過したとの理由で審決が違法になるものではない。
( ) 伸縮自在領域の看過について 2ア 伸縮自在領域の区画は,大きさが,正面図,背面図のそれぞれにおいて,袖回り方向において格子の間隔の1/2ずつ程度の幅のものであり,正面図及び背面図を併せても格子の一枡目と同じ程度か,わずかに大きい程度のものであり,また,この区画は,その余の格子の地部(格子の暗調子の筋を除く生地の部分)と明度を同じくするものであるから,この区画とその余の部分との間に暗明調子の差あるいは色合いの差があるとは認識できず,しかも,布地の伸縮等の素材自体の持つ属性は,意匠の構成要素(形状,模様,色彩)とすることができないものである。さらに,伸縮自在領域の両端の区画線自体も,格子が直線的かつ粗く配されている本願部分意匠に紛れてさほど目立たず,いわば,伸縮自在領域の区画は,袖部全体に配された格子の筋が,当該区画でわずかに途切れているといった程度にしか認識されないものである上,その途切れの本数は,格子の間隔が粗いため,せいぜい縦横各1本あるいは2本程度のものにすぎず,全体としては,極めて局所的な差異としかいえない。
なお,本願部分意匠の実施品である検甲1によると,この伸縮自在領域の区画は,やや粗めのゴム編地で表され,その余の部分が均質な細かい編地で表されているが,本願部分意匠については,袖部本体,袖口部,伸縮自在領域がそれぞれ織地か編地か,織目,編目の細かさはどの程度か,糸の太さはどの程度か,更にはこの「伸縮自在領域」がどのような構造で伸縮するのか,例えば,糸自体が伸縮するのか,編目構造(編組織)に由来する伸縮性か,別の伸縮材が貼付されているのか,等々の点については,本件出願の願書及び添付図面にその記載が一切なく,仮に,検甲1において,素材,網目構造,色合い,あるいは,これらの組合せに由来する視覚効果及び印象が認められるとしても,少なくとも,それを本願部分意匠から認識することはできない。
イ 原告は,本願部分意匠は,袖口部分に伸縮自在領域を設けることにより,着用者が手首から袖口部分を着脱あるいは固定することを可能としていると主張する。
しかし,乙3ないし6公報によれば,袖口の一部分に一定の区画を設けてこれを伸縮性のある素材で表すこと,あるいは,一定の区画を伸縮自在領域とすることは,本件出願当時,広く認められていたことである。また,袖口の一部分に区画を設けることそれ自体は,例えば,乙7文献に認められるように,ごく普通に見られるものである。したがって,仮に,伸縮自在領域の区画が伸縮性の高い部分であるとしても,この態様は,格別に特徴的なものとはいえない。
( ) 袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率の違いの看過につい 3て確かに,本願部分意匠及び引用意匠の袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率に若干の違いはあるが,これらは,いずれも,例えば,甲6文献及び甲8文献のシャツ,乙2文献の各セーター,乙4文献及び乙7文献のブルゾン等に掲載されているとおり,衣類の袖部として,ごく普通に見られる範囲のものであり,格別特徴があるとはいえない寸法比率である。しかも,その比率差も,袖部が長いため,さほど目立つものではない。
したがって,この差異は,類否判断に影響を及ぼすとはいえず,これを看過したとの理由で審決が違法とする原告主張は理由がない。
2 取消事由2(意匠の類否判断の誤り)について原告は,共通点( )ないし( )は,スポーツ用シャツの形態としてごくありふ 13れたものであるから,看者の注意を引くものということはできず,両意匠の類否の判断に大きな影響を及ぼすものではない旨主張する。
しかし,衣服の分野においては,袖の形状,これに施される模様,色彩,更にはこれらの組み合わせに極めて多様な工夫や創作がされており,このような中にあっては,共通点である( )ないし()の態様,特に,両意匠の格子は,縦 13横等間隔に暗調子の筋を配した周知の,いわゆる正格子である点で共通し,この共通するところは,両意匠において圧倒的に大きい面積部分を占めるところの態様であり,両意匠において全体の基調を形成しており,看者の視覚をとらえ,これが類否判断に極めて大きな影響を与えると判断せざるを得ないのである。
3 取消事由3(物品類否判断の誤り)について本願部分意匠は,意匠に係る物品を「スポーツ用シャツ」とするものであるが,その形態は,本件出願の願書及び添付図面に基づく限り,特殊なスポーツ,競技に限定して使用される特殊な衣類とは認められず,例えば,日常着,レジャー着,スポーツ着等として幅広く,汎用的に使用されるものと認められる。
一方,引用意匠も,当該意匠の前後に示された意匠を参照すれば,編地(ニット)による上着で,一般に,セーターあるいはプルオーバー等と称されるものと考えられ,やはり日常着,レジャー着等として幅広く使用されるものと考えられる。したがって,両意匠において特に大きな物品上の違いは見いだせない。
なお,本願部分意匠は,上記第2の1のとおり,本件出願時において,意匠に係る物品を「上着」としていたものである。「上着」とは,一般には,「@重ねた衣服の最も上のものの称。A(身体の上部に着る意)上・下が別になった衣服の,上の部分」(広辞苑第2版)とされるもので,原告がその後(原審拒絶理由の後)にした「スポーツ用シャツ」への補正は,「上着」と「スポーツ用シャツ」とが物品の上で実質的な差異がないとの判断に基づいてされた補正と考えられる。したがって,原告の上記主張は,審査段階での手続経緯に照らしても矛盾するものである。
4 取消事由4(意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背)について審決は,甲6文献を,「当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前にありふれたもの」との一例として示したもので,意匠法3条2項にいう「公然知られた形状」として新たに示したものではないから,審決に意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背があるとする原告の主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(差異点の看過)について( ) 本願部分意匠と引用意匠とを対比すると,差異点(イ)及び(ロ)のほか,原告 1主張の差異点(ハ)及び(ニ)が存在することが認められるところ,審決が上記差異点(ハ)及び(ニ)に言及しなかったことは,審決の記載から明らかであり,被告も自認するところである。
ところで,審決取消訴訟においては,対象となっている行政処分である審決に一般的にみて審決の結論に影響を及ぼすような性質を有する手続上の瑕疵が認められる場合でも,その瑕疵が審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認められる特別の事情があるときは,当該瑕疵は審決の取消原因とはならないものと解すべきである(最高裁昭和51年5月6日第一小法廷判決・判時819号35頁参照)。
差異点(ハ)及び(ニ)の存在は,意匠の類否判断の前提となる事項であるから,一般的にみると審決の結果に影響を及ぼすような性質のものであるが,後記2(取消事由2)のとおり,いずれも軽微な差異点であって意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいえないので,上記各差異点を看過したことをもって,取消事由とすることはできない。
( ) したがって,原告の取消事由1の主張は,採用の限りではない。 22 取消事由2(意匠の類否判断の誤り)について( ) 審決が,「共通点については,( )の基本的な構成態様の共通点は,両意 11匠の形態全体の骨格を構成するところであり,具体的な態様の共通点の( )2と( )が一体となったものも全体に係るものであって,造形上,多様な工夫 3の余地があり得るところ,その共通点は,( )の基本的な構成態様と相俟っ 1て,両意匠の近似感をより高めて,形態全体の基調を決定づけており,これらの共通点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。」(審決謄本2頁第5段落)と判断したのに対し,原告は,一般に,類否判断は,看者の注意を引くか否かによって決せられるものと解すべきところ,共通点( )ないし( )は,スポーツ用シャツの形態としてごくありふれたものである 13から,看者の注意を引くものということはできず,両意匠の類否の判断に大きな影響を及ぼすものではない旨主張する。
( ) ところで,意匠法3条1項3号に係る通常の意匠(全体意匠)の類否判断 2は,物品について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするものであって,公知意匠からの創作容易性の問題ではない(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。すなわち,一般需要者である取引者・需要者が,まず,物品を全体的に観察するのが通常であることを前提に,@公知意匠に係る物品と当該意匠に係る物品が同一又は類似であるか否か,Aそれぞれの意匠の形態が同一又は類似であるか否かを検討し,その際,意匠の形態の類否については,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づき,両意匠が看者に対して異なる美感を与えるか否かによって類否を決するのが相当である。この場合において,公知意匠との対比において部分的な差異があっても,新たな創作的工夫により格別の美感を与える要素を付加するものといえなければ,全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面において異なるところがないから,公知意匠の範囲内にあると解すべきである。そうすると,意匠の類否判断は,一般需要者の立場からみて,物品の美観,すなわち,当該意匠に,新たな創作的工夫により独自の美感を与える要素を付加するものがあるか否かの観点から,当該意匠と公知意匠について混同が生ずるおそれがあるといえるほどに似ているかどうかによって決することになる。
意匠法2条1項は,「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。
第8条を除き,以下同じ。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定しているから,「物品の部分」に係る意匠(部分意匠)についても,通常の意匠(全体意匠)と同様に,「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」を保護の対象とするものであり,その場合,「物品」を離れた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を保護するものでないことはいうまでもないところである。部分意匠がこのようなものであるとすると,部分意匠についての類否判断も,基本的には通常の意匠(全体意匠)の類否判断と異なるところはないものと解するのが相当である。本件において,上記@の点については,後記3において改めて取り上げることとし,まず,上記Aの点について検討する。
( ) 前記第2の1( )のとおり,本願部分意匠は,意匠に係る物品を「スポー 31ツ用シャツ」とし,当該物品の両袖の部分(実線部分)について部分意匠として意匠登録を受けようとしているものであり,一方,引用意匠は,「セーター」に係る意匠のうち,本願部分意匠が意匠登録を受けようとする部分に相当する部分,すなわち,当該物品の両袖の部分の意匠である。
両意匠を対比すると,共通点( )ないし( )が存在することは,当事者間に 13争いがない。そして,共通点( )の「腕付け根部分より先端部分まで先細り 1の扁平筒形状の基本的構成態様とした点」,共通点( )の「ほぼ全体に周知 2の格子模様を施した点」,及び,共通点( )の「先端に袖口部分を設けた 3点」は,本願部分意匠及び引用意匠の全体を大づかみに把握した構成態様であると認められるところ,これらの構成態様は,全体としてまとまった一つの意匠を形成し,看者に視覚を通じてまとまった一つの美感を与えているのみならず,意匠全体のうちのほとんど全部といってよいほどの圧倒的な部分において共通しているものと認められる。
このように,共通点( )ないし( )が,全体としてまとまった一つの意匠を 13形成し,看者に視覚を通じてまとまった一つの美感を与えている場合,取引者・需要者にとって,注意を強く引き付ける部分となることは明らかであり,共通点( )ないし( )がありふれた構成態様であったとしても変わりはないも 13のというべきである。
そうすると,上記共通の形状の範囲内で具体的形状に相違があるとしても,その相違によって看者に相異なった格別な美感を与える要素が付加されない限り,一般需要者の立場からみた美感において異なるところはないものとされ,意匠法3条1項3号の意匠登録の可否の基準としての類似の範囲内にとどまるものといわなければならない。
したがって,共通点( )ないし( )がスポーツ用シャツの形態としてごくあ 13りふれたものであるから,看者の注意を引くものということはできず,両意匠の類否の判断に大きな影響を及ぼすものではないとする原告の主張は,採用することができない。
( ) 伸縮自在領域について 4ア 本願部分意匠における伸縮自在領域は,意匠に係る物品であるスポーツ用シャツの先端の袖口部分の一画を占めるにすぎないところ,その大きさは,本件出願の願書に添付した正面図及び背面図による限り,格子模様の一枡目を横半分にした程度であり,これらの図面に使用状態を示す参考図( ),( )を併せても,格子模様の一枡目と同じ程度か,あるいは,それよ 12りやや大きい程度のものであって,スポーツ用シャツ全体からみると,シャツの末端のごく小さい区画にすぎないものと認められる。
差異点(ロ)のとおり,本願部分意匠は,腕付け根部分より先端の袖口部分まで同じ格子模様が施されているところ,袖口の伸縮自在領域において,格子模様が施されておらずに無地となっており,袖口部全体に配された格子の筋が伸縮自在領域の部分において途切れることになるが,その途切れる格子の筋の本数は1ないし2本程度であり,その他,他の部分と外観上の差は見当たらない。
以上を併せ考えると,本願部分意匠の伸縮自在領域は,看者において,本願部分意匠において圧倒的な部分を占める格子模様の枡目の末端の一つにおいて,格子模様の筋が途切れているといった程度の認識を抱かせる程度のものというべきである。
イ 原告は,本願部分意匠は,袖口部分に伸縮自在領域を設けることにより,着用者が手首から袖口部分を着脱あるいは固定することを可能としているとし,また,袖口のおしゃれは極めて重要であって,伸縮自在領域は本願部分意匠の要部である旨主張する。
しかし,伸縮自在という機能的な特徴は,素材自体の持つ属性であって,物品の部分の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものという部分意匠の構成要素に含まれず,素材が意匠の構成要素に反映されている場合に,はじめて考慮すべきことになるところ,本件出願の願書及び添付図面に記載された,別添審決謄本写しの別紙第1の本願の意匠には,【意匠に係る物品の説明】欄に「伸縮自在領域」との記載があるのみであり,【意匠の説明】欄にも何らの説明はないのであるから,本願部分意匠において,伸縮自在領域の区域における伸縮自在という特徴に格別の意匠的な評価を与えるものとはいえない。
そればかりでなく,仮に,伸縮自在領域が本願部分意匠に何らかの意匠的特徴を付与するとしても,乙3公報には,袖口の一部を伸縮可能なフライス布(ゴム編み)にした考案,乙4公報には,スポーツシャツの袖口の一部をフライス生地にした考案,乙5公報には,ゴムを挿通したパジャマ等の袖口の考案,乙6公報には,袖口の一部を伸縮部とした考案が開示されており,洋服,寝衣等の衣類の袖口の一部に一定の区画を伸縮自在領域とすることは,本件出願当時,周知の事実であったことが認められる。
したがって,伸縮自在領域が本願部分意匠の要部であるとする原告の主張は,採用することができない。
ウ 原告は,最高裁昭和51年3月10日大法廷判決を挙げて,伸縮自在領域が本願部分意匠が周知であるという点は,審判段階で論じられておらず,乙3〜6公報も審判段階において現われなかった証拠であるから,本訴において,上記の点を争点とし,被告に上記証拠の提出を許すべきではない旨主張する。
しかし,意匠登録出願に係る拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟において,審判の手続において審理判断されていた意匠との対比における拒絶理由の当否を判断して審決の適法,違法を判断するに当たり,審判の手続に現れていなかった資料に基づき,出願当時におけるその意匠の属する分野における通常の知識を有する者の常識を認定し,これによって,当該意匠の持つ意義を明らかにした上,拒絶理由の当否の判断をしたとしても,このことから審判の手続において審理判断されていなかつた公知意匠との対比における拒絶理由の当否の判断をして審決の適法,違法を判断したものということはできない(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。
しかも,本件訴訟においては,原告において,伸縮自在領域が本願部分意匠の要部であると主張したのに対し,これに対する反論として,被告において,衣類の袖口の一部に一定の区画を伸縮自在領域とすることが周知であったと主張し,その証明のために,乙3〜6公報を提出しているものである。
したがって,原告の主張は,失当というほかない。
なお,原告は,乙3公報の意匠は,腕部から袖部にかけて無地である,乙4公報の意匠は,無地であるほか,袖口部が段付きになっているなどとし,本願部分意匠とは形態あるいは物品において全く相違するものであり,本願部分意匠と引用意匠との類否判断に影響を与えるものではない旨主張するが,上記のとおり,乙3〜6公報は,衣類の袖口の一部に一定の区画を伸縮自在領域とすることが周知であったとの証明のための証拠であって,本願部分意匠と対比することを目的とするものではない。原告の主張は,周知立証と対比の問題を混同するものであり,失当である。
エ 原告は,本願部分意匠の袖口部分における,格子模様を有しない伸縮自在領域と格子模様の施された先細領域とのコンビネーションは,スポーツ用シャツとして新規で斬新なデザインであって,創作の一つのポイントとなるもので,一般需要者である取引者・需要者の注意を強く引く旨主張する。
しかし,上記イによれば,乙3,4,6公報には,袖口の一部を伸縮可能なものとした意匠が開示されており,上記各公報の公開時期を考慮すると,袖口の一部を他の部分と変えることは,本件出願当時,周知であったということができる。
加えて,袖口において,看者に格別な美感を与える形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合という意匠の構成要素が存在するというのであればともかく,本件においては,上記のとおり,格子模様の枡目の末端の一つにおいて,格子模様の筋が途切れているといった程度のものにすぎないのであり,その意匠的特徴は,差異点(ロ)に係る引用意匠の「袖口部分には模様は施されてない点」を超えることもない。
その他,本件全証拠を検討しても,本願部分意匠の袖口部分における,格子模様を有しない伸縮自在領域と格子模様の施された先細領域とのコンビネーションがスポーツ用シャツとして新規で斬新なデザインであると認めるに足りない。
したがって,本願部分意匠の伸縮自在領域は,看者に相異なった格別な美感を与える要素が付加されるとはいい難く,原告の上記主張は,採用の限りでない。
( ) 袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率の違いの看過につい 5てア 本願部分意匠と引用意匠が,「腕付け根部分より先端部分まで先細りの扁平筒形状の基本的構成態様とした点」(共通点( ))で共通しているこ 1とは,前記のとおりであり,原告が差異点(ニ)として主張しているところによれば,この基本的構成態様の範囲内で,袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率が,本願部分意匠では約2:1としているのに対して,引用意匠では約3:1であるというものである。
ところで,多くの洋服が,腕付け根部分より先端部分まで先細りの扁平筒形状とする基本的構成態様(共通点())であることは,当裁判所に顕 1著である。そして,袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率をどのようにするかは,上記基本的構成態様の範囲内で,洋服のデザイン,着心地,機能性等を考慮して,当業者が格別の創作力を要せずに,物品と意匠の調整のために日常的に行う変形にすぎないものである。例えば,甲8文献のアイビー・シャツの図柄,乙4公報の実施例を示すスポーツシャツの図面は,袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法を実測すると,その比率がいずれも約2:1となっており,本願部分意匠とほぼ同様である。
したがって,本願部分意匠の袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率を約2:1とすることにより,看者に相異なった格別な美感を与える要素が付加されるとはいい難い。
イ 原告は,この種のシャツにおいて,袖の扁平筒形状をいかに決定するかは,デザイン的に極めて重要であり,差異点(ニ)は,本願部分意匠にキリリと締まった感じを与え,スポーツ用シャツとして好感が持てるのに対し,引用意匠の形態は,ゆったりとリラックスした感じを与え,セーターとして適した形態であり,両形態より受ける看者の美感は異なるものである旨主張する。
しかし,上記のとおり,袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率をどのようにするかは,上記基本的構成態様の範囲内で,洋服のデザイン,着心地,機能性等を考慮して,当業者が格別の創作力を要せずに,物品と意匠の調整のために日常的に行う変形にすぎないものであり,その際,選択される寸法比率によって生じる印象は,看者により見方により様々に変わり得る主観的な事項であるといわざるを得ない。原告主張のように,キリリと締まった感じを与える,スポーツ用シャツとして好感が持てる,ゆったりとしてリラックスの感じを与える,セーターとして適しているなどといっても,単に原告の印象を述べているにとどまるものである。
そして,本件全証拠を検討しても,本願部分意匠の袖部の腕つけ根まわりと先端の袖口まわりの寸法比率を約2:1としていることによって,意匠全体に格別な美感を付与するような特別な事情を見いだすこともできない。
( ) 以上のとおり,本願部分意匠と引用意匠は,両意匠の形態を総合的に観察 6すると,一般需要者の立場からみて混同が生ずるおそれがあるといえるほどに似ているものであって,看者に対して異なる美感を与えるものではなく,全体として類似するといわざるを得ないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(物品類否判断の誤り)について( ) 原告は,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠 1に係る「セーター」とは,物品において類似しておらず,これを類似するとした審決の判断は誤りであると主張する。
上記2( )のとおり,部分意匠における意匠とは,「物品の部分」の「形 2状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」であり,また,部分意匠であっても,権利の及ぶ範囲は物品の部分でなく物品の全体であるから,部分意匠物品類否判断において,基準となるのは,物品の部分ではなく物品全体の用途及び機能であると解すべきである。
なお,対比されるべき部分意匠の位置あるいは範囲が共通していない場合には,物品の部分の類否の問題も生ずるが,本件においては,引用意匠が,「セーター」に係る意匠のうち,本願部分意匠が意匠登録を受けようとする部分に相当する部分とされており,部分意匠の位置あるいは範囲を本願部分意匠と一致させているから,物品の部分の類否の問題を論ずる余地はない。
( ) そこで,本願部分意匠と引用意匠の物品の類否をみると,まず,用途の面 2において,本願部分意匠意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」及び引用意匠の「セーター」は,いずれも「衣服」であることで共通している。
また,機能の面をみると,本願部分意匠の「スポーツ用シャツ」は,「スポーツ用」としているものの,本件出願の願書及び添付図面(甲1,3)によれば,スポーツ専門着ではなく,例えば,日用,レジャー,スポーツ等に幅広く,汎用的に使用される上着であると認められ,一方,引用意匠の「セーター」は,普通のセーターであり,日用,レジャー等に幅広く使用される上着であると認められるから,両意匠は,機能において共通するところが多いというべきである。
さらに,出願の経緯をみても,本願部分意匠は,上記第2の1のとおり,本件出願時において,意匠に係る物品を「上着」としていたところ,平成16年9月29日付け手続補正書(甲3)において「スポーツ用シャツ」に補正されたものであり,要旨変更には当たらないものとされたことからすれば,「スポーツ用シャツ」は,「上着」の範囲内の物品であると判断されたはずであるから,本願部分意匠に係る物品は,「上着」の一種としての「スポーツ用シャツ」であるということができる。
そうすると,本願部分意匠及び引用意匠は,意匠に係る物品において類似していると認めるのが相当である。
( ) 原告は,物品類否判断として両物品間に混同を生じさせるおそれがある 3か否かという観点からもこれを決すべきものであるならば,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」は,スポーツ品売り場で販売されるものであって,引用意匠に係る一般のセーター売り場で販売されるものではなく,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠に係る「セーター」とが一般需要者において混同を生じさせるおそれはない旨主張する。
しかしながら,前記2( )のとおり,部分意匠の類否判断においても,全 2体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づき,両意匠が一般需要者に対して異なる美感を与えるか否かによって類否を決するのが相当である。また,意匠は,「物品」の外観に関するものであるから,物品を離れての意匠はあり得ないところであって,「物品」とその「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」とは不可分一体の関係にあるものと解すべきである。そうすると,上記のとおり,本願部分意匠と引用意匠との混同といっても,物品を美感の観点から観察するものであって,本願部分意匠と引用意匠の物品の類否は,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」がスポーツ品売り場で販売され,引用意匠に係る物品が一般のセーター売り場で販売されるなどといった具体的な事情により左右されるものではない。
また,原告は,一般需要者が,編み物であるセーターと布地のシャツとを誤認混同することはなく,両者間で混同の生ずるおそれはない旨主張する。
確かに,甲8文献によれば,一般に,「セーター」は,「男女ともに用いる編み物の上着の総称」とされ,一方,「シャツ」は,「綿や麻などのクレープや,木綿,絹,麻,化繊,毛のメリヤス地」とされており,素材が異なるものと認められるが,意匠の類否判断においては,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合についての美感(視覚を通じての美感)の類否が問題となるのであり,素材が異なることによって,直ちに視覚を通じての美感に影響を与えるとは考えられないし,本件出願の願書及び添付図面(甲1,3)においても,素材が本願部分意匠の上記構成要素に反映されていることをうかがわせる記載はない。
( ) そうすると,本願部分意匠及び引用意匠は,意匠に係る物品において類似 4していると認めるのが相当であるから,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背)について原告は,審決が,差異点(ロ)の点について,当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前ありふれたものであることの例示として挙げた甲6文献について,同文献が「スポーツ用シャツ」の分野において,袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは,出願前ありふれたものとはいえず,そうである以上,公知意匠として審判段階で新たな拒絶の理由を通知しなければならなかったのに,それをしていないから,意匠法50条3項で準用する特許法50条の規定に違反している旨主張する。
しかしながら,甲6文献は,原告が主張するとおり,審決が,差異点(ロ)の点について,当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前ありふれたものであることの例示として挙げたものであって,このように周知事実であることの例示として挙げた証拠が,仮に,周知事実を証明するに足りない場合であっても,そのことによって,直ちに,当該証拠が本願部分意匠と対比すべき公知意匠となるわけではないから,原告の主張は,前提において既に誤りであり,採用の限りでない。
5 以上によれば,本願部分意匠は,引用意匠と対比し,差異点及びその効果を考慮しても全体として類似しており,また,意匠に係る物品においても類似しているから,本願部分意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,同条柱書の規定により意匠登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはないというべきであり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明
  • この表をプリントする