• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2006-16366
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  頒布された刊行物 /  記載された意匠 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  物品の機能 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  本意匠 /  登録意匠 /  類似範囲 /  類似性(類否判断) /  混同を生じるおそれ(混同を生ずるおそれ) / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10119号 審決取消請求事件
原告カ ール事務器株式会社
訴訟代理人弁理 士朝日直子
被告特 許庁長 官肥塚雅博
指定代理人樋田敏惠
同 岩井芳紀
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/10
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-16366号事件について平成19年3月5日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成17年12月20日,意匠に係る物品を「工芸用パンチ」とし,本判決末尾添付の審決書(写し)中の別紙第1の意匠(以下「本願意匠」という。)の意匠登録出願(意願2005-37466号,以下「本件出願」という。)をしたところ,平成18年6月28日,拒絶査定を受けたので,同年7月28日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2006-16366号事件として審理し,平成19年3月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
2審決の理由本判決末尾添付の審決書(写し)記載のとおりである(ただし,審決書2頁20行目の「大きな曲率」とあるのは,「小さな曲率」又は「大きな曲率半径」の明白な誤記であると認められる。)。要するに,本願意匠は,本件出願前に日本国内において頒布された刊行物(平成3年4月3日発行の意匠公報)に記載された意匠である同審決書(写し)中の別紙第2の意匠登録第736935号意匠(以下「引用意匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するので,意匠登録を受けることができない,とするものである。
審決は,本願意匠と引用意匠とを比較し,意匠に係る物品については,共に紙などのシート材に各種図形状の孔をあけるためのパンチであるから一致し,その形態については,以下の共通点及び差異点が認められるとした。
(1)共通点両意匠は,以下の具体的態様が共通する。
(A)略直方体状の筺体と,正面から背面側に向けたスリットと,上部の操作ボタンから成り,筺体を,上部ハウジングと下部基台とをスリット上辺部位置で接合して形成し,穿孔刃を上部ハウジング内に格納して設け,穿孔刃が挿入される孔を基台に設けて,スリットにシート材を差込んだ状態で,操作ボタンを押し下げて穿孔刃を下降させることによって,孔の角部と穿孔刃の刃先とが協同し,シート材に穿孔刃の断面形状と同一の孔が形成されるもので,操作ボタンは,上面やや正面寄りに,短円柱状のものを設け,スリットは,正面下方位置に水平状に形成した基本的態様(B)筺体の各稜線部を,角のない曲面状に形成した点(C)スリット部について,スリット上面側の穿孔刃周囲に下方への突出面を形成し,スリット下面側の孔部周囲に上方への突出面を形成して,スリット奥側をさらに狭いスリットとした点(2)差異点両意匠は,以下の点で相違する((以下「差異点a-1」などという。)。
(a)筺体(a-1)略直方体の形状を,本願意匠は,上部ハウジングの正背側面を僅かに下広がりの傾斜面状に,基台部の同面を僅かに下窄まりの傾斜面状とし,全体を正背面と平底面の横幅を狭くしたやや縦長な直方体状としたのに対し,引用意匠は,上部ハウジングと基台の同面ともほとんど傾斜のない略垂直状で,全体を正背側面の丈を低くしたやや平たい直方体状としている点(a-2)各稜線部の曲率半径を,本願意匠は,正面視左右の稜線部と側面視で背面側上方の稜線部を,他の稜線部より大きな曲率半径としたのに対し,引用意匠は,各稜線部とも同じ曲率半径としている点(a-3)基台の構造を,本願意匠は孔を設ける台座部を外側ハウジングで覆って基台としたのに対し,引用意匠は外側ハウジングのない一体型基台としている点(a-4)スリットの形成位置を,本願意匠は筺体の下端から約1/4の位置としたのに対して,引用意匠は同下端から約1/5の位置としている点(a-5)スリットを挟んだ正面中央に,本願意匠は小突起を形成したのに対して,引用意匠はこれを形成していない点(a-6)底面部について,本願意匠はハウジングに丸孔を形成して内部に台座部を表し,台座部に正方形の孔を形成したのに対し,引用意匠は基台にR字外郭形状の孔を形成している点(b)短円柱状操作ボタンについて,直径対高さ比率を,本願意匠は約2:1としたのに対し,引用意匠は約5:1とし,操作ボタン対筺体全体の高さ比率を,本願意匠は約1:3としたのに対し,引用意匠は約1:6としている点(c)全体の明暗調子と模様について,本願意匠は,明暗調子もこれを施した模様も表していないのに対し,引用意匠は,操作ボタン部とスリット上面側部分と基台部を,他の部分に比して明調子としたトーンを施し,操作ボタン頂部にやや暗調子のR字外郭形状模様を表している点第3取消事由に係る原告の主張本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点に関する審決の認定に誤りがないことについては,認める。
1取消事由1(本願意匠と引用意匠との類否)(1)類否判断の基礎とすべき需要者の認定の誤り本願意匠及び引用意匠に係る物品は「工芸用パンチ」であり,その需要者は,「事務用パンチ」とは異なり,工芸を業務又は趣味とする者である。事務用パンチは,百貨店やスーパーマーケットの事務用品コーナーで販売されるのに対し,工芸用パンチは,画材店や手芸用品店などの専門店で販売される。
工芸用パンチの需要者の多くは,美的創作活動に従事する者であり,物品の美的外観に対する注意力が高く,物の形状に対するこだわりが強いので,扁平縦長の直方体と立方体とを,「直方体」という上位概念で捉えることはなく,扁平な直方体形状の引用意匠と,立方体形状の本願意匠とが同一範囲の形状であると認識することはない。
美的創作活動に従事する者は,稜線部の曲率に差異を持たせた筐体と,稜線部を同一の曲率にアール処理したにすぎない筐体とが,創作的価値において同一であると認識することもありえないので,本願意匠と引用意匠と間で混同が生ずることはない。
したがって,審決が「差異点(a‐2)」について「各稜線部の曲率の差異については,特にその部位を注視すればともかく,通常の視認状態では共に各稜線部を曲状に形成したことの視覚効果の方が大きく,局所的差異に止まり,類否判断を左右するものではない。」と判断した点には誤りがある。
(2)引用意匠の要部認定の誤り意匠法3条1項3号に該当するか否かについては,引用意匠(公知意匠)の類似範囲に本願意匠が属するか否かを判断対象とする。そして,引用意匠の類似範囲を確定するに当たっては,引用意匠の出願前に存在した公知意匠等を基準として引用意匠の要部を認定すべきである。
ところで,本件のように,引用意匠に係る物品が新規なものである場合(甲9),引用意匠における要部の確定は,漫然と「引用意匠の基本的態様や各部の具体的形状そのものが意匠の要部である」と認定すべきではなく,各部の具体的形状のうち,その部材の機能において通常に採択されるような形状は,要部から除外して認定すべきである。このように解釈しない限り,新規な公知意匠が存在する場合,奇抜な意匠しか登録されないことになり,繊細な感受性の持ち主に訴えかけるような,平凡な中にもセンスが輝く意匠は,登録されないことになるという不都合が生ずる。
本件において,パンチ基台を覆うハウジングの直方体形状は,筺体として通常採択される形状であり,また,ハウジングの稜線部を同一曲率でアール状にすることは通常のアール処理にすぎないから,このような形状は要部から除外すべきである。
したがって,審決が,このような形状における共通点であることを理由として,本願意匠と引用意匠を類似であると判断した点には誤りがある。
(3)曲率の差異に関する認定の誤り本願意匠では,ハウジング正面と左右側面との成す稜線部と,ハウジング上面と背面との成す稜線部の曲率が,他の稜線部の曲率に比べて著しく大きくなっており,その曲率半径の差異は,約3.5:1の比率である。この約3.5倍の差異は,通常の観察力によって認識することができ,需要者の趣味感に訴えることができる差異であるといえる。審決では,類否を判断する際には,引用意匠の類似の範囲を基準によって示すべきであるにもかかわらず,何ら基準を示していない。
したがって,審決が「差異点(a-2)」について,数値化された曲率に関し,非類似性を肯定し得る値を示すことなく,「局所的差異に止まる」という主観的評価のみで類似性を肯定した点には誤りがある。
(4)曲率の差異に関する論理付けの欠如審決において,本願意匠の「立方体の各稜線部における曲率に差異を設けたこと」と,引用意匠の「扁平な直方体の各稜線部における一様のアール処理がされていること」が同一又は類似であることを理論付けるためには,ハウジングの立方体形状に,「稜線部の曲率を異ならせる」態様を採用することが容易である具体的事例(例えば「立方体のハウジングの各稜線部に一様のアール処理を施したもの」及び「扁平な直方体のハウジングの各稜線部の曲率を異ならせたもの」)を示すことが必要であるにもかかわらず,審決では何ら論理的な説示がされていない。
したがって,審決が,何らの論理的根拠を示すことなく,筐体の形状と各稜線部の特徴とを結びつけることの困難性を否定した点には誤りがある。
(5)基台構造,底面部の差異に関する判断の誤り需要者は,パンチが所望の穿孔形状を有するものであるか否かを確認したり,使用時に,穿孔しようとしている箇所に穿孔刃が位置しているか否かを確認したりするために,工芸用のパンチの底面部を観察することが多い。審決は,このような事実を無視して,「差異点(a-3),差異点(a-6)」について,「基台構造の差異については,本願意匠がハウジング構造であることは,特別に裏返して底面部を見た場合以外,外観から確認できず,また,このように底面部を見ることはまれであるから,類否判断に影響を及ぼすものではない。」と判断した。
したがって,審決が,本願意匠がハウジング構造であることが外観から確認できないので基台構造及び底面部の差異が類否判断に影響を及ぼすものではないと判断した点には誤りがある。
(6)ハウジング及び基台の色調の差異に関する判断の誤り本件における引用意匠の場合には,形状と色彩の異なる部材の組み合わせにより,パンチの外観が構成されており,このように,部材ごとに異なる色彩が付されている場合において,その色調の差異によって部材間の不連続感や異質感が強調されているのであるから,色調は,物品の外観の特徴と理解されるべきである。それにもかかわらず,審決は「全体の明暗調子と模様の差異については,この分野においては,各種の明暗調子が行なわれており」と認定判断している。
したがって,審決が,全体の明暗調子と模様の差異は類否判断に影響を及ぼすものではないと判断した点には誤りがある。
2取消事由2(その他の取消事由)(1)審判書の記載不備等の違法(ア)原告は,本件出願につき,拒絶理由通知書において本願意匠が引用意匠と類似するとの拒絶理由の通知を受けたので,特徴記載書において,本願意匠の特徴が「ハウジングを,上面から背面にかけて連続する湾曲面と,正面から両側面にかけて連続する湾曲面の2つの面で構成した」点にあることを示すとともに,意見書において,本願意匠と引用意匠とは需要者をして混同を生じせしめるものではない旨を主張した。しかし,拒絶査定において,本願意匠と引用意匠とは稜線部の曲率において相違する点はあるが,それは全体を略直方体状とした共通する態様の中での改変にすぎず,細部の相違にすぎないとされ,意匠全体として観察する場合においては類似の範囲を出ないと判断された。原告は,拒絶査定を不服として本件審判を請求し,手続補正書において,本願意匠の創作の経緯を説明するとともに,概要,@本願意匠と引用意匠の基本態様における相違点,Aハウジング,スリット等の具体的態様における相違点,Bハウジング稜線部の曲率における相違点,C類否判断の前提及び要部,D本願意匠の商業的成功,E出所混同による需要者の不利益の防止等の観点からの見解を述べ,本願意匠と引用意匠とは類似しない旨を主張した。さらに,原告は,本件審判においても,同様の主張をした。
(イ)ところで,審決書には,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること,及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にする趣旨から,その理由が示されるべきである(最高裁昭和54年(行ツ)第134号同59年3月13日第三小法廷判決参照)。
審決書には,原告の主張に対する応答が記載されていない。したがって,本件審判の手続は,意匠法52条において準用する特許法157条2項4号の規定に違反する。
(2)特徴記載書制度の趣旨に反する違法(ア)意匠法施行規則6条(制度導入時は,5条の2)所定の特徴記載書制度は,特許庁における審査・審判の迅速化を図ることを目的とするものであり,第三者に登録意匠の創作に関する出願人の主観的意図を知らせるために,内容が公報に掲載されることとされている。
特徴記載書制度は,「意匠の創作は,創作者の主観的意図に基づいた行為である。」との前提に立った制度であり,知的創作物の保護を目的とした制度であるから,意匠出願における創作者の主観的意図は,尊重されてしかるべきである。なお,「登録意匠の範囲を定める場合においては,特徴記載書の記載を考慮してはならない」旨規定されている(同規則6条3項)が,特徴記載書に示された創作者の主観的意図を否定又は無視して類否判断を行なうことを意味するものではない。
(イ)原告は,審査の過程で,特徴記載書を提出し,本願意匠の特徴が「ハウジングを,上面から背面にかけて連続する湾曲面と,正面から両側面にかけて連続する湾曲面の2つの面で構成した」点であることを示し,かかる主観的意図をもって本願意匠を創作したことを明らかにした。
原告の主観的意図を知ったにもかかわらず,審決は,格別の理由を示すことなく,引用意匠と本願意匠が類似すると判断した。
したがって,審決は,特徴記載書に示された創作者の主観的意図を尊重することなく判断した点に,特徴記載書制度の趣旨に反する違法事由がある。
(3)意匠制度の趣旨に反する違法(ア)本願意匠は商業的成功をおさめたものであるが,それは,創作者らが,パンチの形状を手中に収まりやすい立方体形状にし,ハウジングの稜線部の曲率を微妙に異ならせた意匠を提案し,その意匠を市場に投入した結果,その外観に共感した者が購買行動を起こしたからである。従来の需要者とは異なる者(工芸を業務又は趣味としない者)が,その外観にひきつけられて本願意匠に係る物品を購入したことによって,新たな需要者層が形成されたといえる。さらに,これらの者が,「自分の目印となる図柄のパンチを所持し,自分の持ち物等に,スタンプ代わりに穿孔模様を形成する。」という新たな使用法を考案し,その使用法に共感した者が,新たな需要者となった。このように,本願意匠は,需要増大機能を有するものであった。
(イ)それにもかかわらず,審決は,本願意匠の登録性を否定したのであり,審決は,意匠の需要増大機能による工業の発達を目的とする意匠法の趣旨に反する違法事由がある。
(4)意匠法5条2号の趣旨に対する違反(ア)意匠法は,意匠登録を受けることができない意匠として,「他人の業務に係る物品混同を生ずるおそれがある意匠」 を規定する(意匠法5条2号)。これは,意匠の指標力により出所混同が生ずることを前提とした規定であり,このような意匠を登録しないことによって,出所混同による需要者の不利益を未然に防止しようとするものである。
本願意匠は,既に存続期間の満了した同一出願人(原告)に係る公知意匠と類似するという理由で登録されなかったものであるが,このような場合に登録を拒否することは,本願意匠と同一又は類似の意匠に関する第三者の実施を容認する結果を招くことになる。
(イ)審決は,このような事態が発生する可能性を認識しながら,何ら対策を採ることができないことを容認するものであり,出所の混同を未然に防止しようとする意匠法5条2号の趣旨に反する点で,違法事由がある。
第4被告の反論1取消事由1(本願意匠と引用意匠との類否)(1)類否判断の基礎とすべき需要者の認定の誤りに対し原告は,本願意匠及び引用意匠に係る物品は,「工芸用パンチ」であるから,工芸を業務又は趣味とする需要者を基準として類否の判断をすべきであるが,これに対して,審決は,「工業用パンチ」の需要者を基準として,「差異点(a-2)」について両意匠を類似すると判断した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,審決は,意匠の説明の欄の記載に基づいて,引用意匠に係る物品の機能及び用途が本願意匠に係る物品と実質的に同一であり,それが工芸等に使用できるものであることを把握した上で,両意匠が類似すると判断した。なお,原告は,当該物品の需要者の趣味,価値観,注意力等を考慮して本願意匠と引用意匠の類否を判断すべきであると主張するが,審決では,このような点をも考慮し,当該物品の需要者の認識を基準として,両意匠は,類似すると認定判断したものである。原告の主張は失当である。
(2)引用意匠の要部認定の誤りに対し原告は,引用意匠に先行する公知意匠が存在しない場合,引用意匠の類似範囲の前提となる要部の認定に当たっては,各部の具体的形状のうち,その部材の機能において通常に採択されるような形状は除外して解釈すべきであること,引用意匠における「ハウジングの直方体形状」や,「ハウジングの稜線部を同一曲率でアール状にすること」は,通常に採択されるものであるから要部とすべきでないが,これに対して,審決は,上記の共通点をもって本願意匠と引用意匠を類似と判断した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,引用意匠に係る物品が新規なものであったとしても,その基本的態様はその意匠の意匠的特徴となるのであり,通常採択される基本的態様を要部から除外すべき理由はない。また,本件において,引用意匠における「その部材の機能において通常に採択されるような形状」については,この種のパンチの意匠において,各種の形態を採用する可能性がある(乙5ないし8)中にあって,ハウジングを直方体形状とし,稜線を曲線状にしたのであるから,その部分形状を含めた意匠全体のまとまりは,要部を構成するというべきである。原告の主張は失当である。
(3)曲率の差異に関する認定の誤りに対し原告は,審決では,本願意匠の曲率のように数値化された差異について,類似の範囲を数値を提示すべきであるにもかかわらず,数値を示すことなく,主観的評価のみで類似であると判断した点に誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,曲率又は曲率半径の数値は,設計段階において必要不可欠であったとしても,需要者が当該意匠を把握して美的印象を形成するためには,必要的要素となるとはいえない。審決において,非類似性を肯定し得る数値を示していなくとも,類否の理由は合理性を備えているから,審決に違法はない。原告の主張は失当である。
(4)曲率の差異に関する論理付けの欠如に対し原告は,立方体形状を前提とした各稜線部の曲率の差異について,審決が,具体例として,「立方体のハウジングの各稜線部に一様のアール処理を施したもの」,及び,「扁平な直方体のハウジングの各稜線部の曲率を異ならせたもの」等を挙げることなく,筐体の形状と各稜線部の特徴とを結びつけることの困難性を否定した点に誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,審決は,引用意匠及び本願意匠の両者とも,稜線部が略直方体状を呈する筺体の稜線部である以上,曲率が相違しても,類否判断上は大きな影響を及ぼさないと判断したが,このような結論を得るについて,具体例として「立方体のハウジングの各稜線部に一様のアール処理を施したもの」,「扁平な直方体のハウジングの各稜線部の曲率を異ならせたもの」を挙げなければならない理由はない(なお,「扁平な直方体のハウジングの各稜線部の曲率を異ならせたもの」が,本願の出願前に公然知られていたものであることは乙9号証に示すとおりである。)。原告の主張は失当である。
(5)基台構造,底面部の差異に関する判断の誤りに対し原告は,審決が,「差異点(a-3)」について,基台構造の差異が類否判断に影響を及ぼすものではないとした判断,及び「差異点(a-6)」について,底面部の差異は類否判断に影響を及ぼすものではない判断は,その前提において誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
需要者は,購入又は使用に当たり,主として上面側から意匠を観察するのであって,底面部は補完的に観察されるといえる。装飾的な図形を打ち抜く「工芸用パンチ」にあって,需要者の関心は「穿孔形状」に向けられる。需要者は,穿孔形状を間違えることがないよう,その表面に当該穿孔形状を表示することが一般的に行われ,底面部に表れる穿孔形状を確認するのは,補完的であると考えられる。穿孔位置の確認についても,被穿孔用紙表面側から行われ,該用紙裏面側からは補完的にされると考えられる。以上のとおり,底面部が需要者に観察される機会があったとしても,パンチの基台構造の確認がされるとは考えにくい。原告の主張は失当である。
(6)ハウジング及び基台の色調の差異に関する判断の誤りに対し原告は,引用意匠における明暗調子等の差異は,形状が本願意匠とは異なっていることと相まって,その影響は大きいにもかかわらず,審決が,(c)について,全体の明暗調子と模様の差異は類否判断に影響を及ぼすものではないと判断した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,引用意匠に付された色暗などは,単純でありふれたものであって,類否判断の決定的な要素とすることはできない。引用意匠を本意匠として類似意匠の意匠登録を受けた登録第736935号類似1号(乙2),同類似2号(乙3),同類似3号(乙4)とを総合すると,上記のように考えられる。以上のとおり,原告の主張は失当である。
2取消事由2(その他の違法事由)について(1)審判書の記載不備等の違法に対し原告は,審決書には,拒絶査定不服審判請求の際に原告がした主張(平成18年8月22日提出の手続補正書)に対する応答に関する記載がないから,審決は,意匠法52条において準用する特許法157条2項4号の規定に違反すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
本件審判請求は,本願意匠が意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当することを理由とした拒絶査定に対する査定不服審判請求であるが,審決書において理由として記載すべき事項は,引用意匠と本願意匠とが類似するとの判断に至る論理過程であって,審判請求書に記載された原告の主張に対する応答のすべてではない。本件において,審決書には,本願意匠と引用意匠の主たる共通点及び差異点をもれなく認定した上で判断を記載しており,原告の挙げる最高裁昭和54年(行ツ)第134号同59年3月13日第三小法廷判決の判示に反する点はない。原告の主張は失当である。
(2)特徴記載書制度の趣旨に反する違法に対し原告は,特徴記載書を提出しているので,「創作者の主観的意図が登録に値するものでないと判断されたのであれば,審決書において,その判断の根拠となった事実が示されてしかるべき」であるにもかかわらず,審決は,その点の判断を欠いているので,意匠法施行規則として規定された特徴記載書制度の趣旨に反した違法があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
特徴記載書については,意匠法施行規則6条(制度導入時は,5条の2)と同規則6条3項で規定されており,後者では,「登録意匠の範囲を定める場合においては,特徴記載書の記載を考慮してはならない」旨規定されている。このような規定が設けられている以上,審決書において,特徴記載書の記載について判断を示すことが求められていると解することはできない。原告の主張は主張自体失当である。
(3)意匠制度の趣旨に反する違反に対し原告は,本願意匠については,新たな需要者層が形成されたことによって商業的成功をおさめ,新たな需要者層は,「従来の需要者とは異なる者(工芸を業務又は趣味としない者)」であって,本願意匠の外観にひきつけられて新たな需要者層となり,本願意匠が需要増大機能を発揮し得たものであると主張し,それにもかかわらず,審決が,引用意匠に類似すると判断したのは,意匠制度の趣旨に違反すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本願意匠の「意匠の説明」欄の記載と,引用意匠とその類似意匠(乙1ないし乙4)の「意匠の説明」欄の記載とを対比すると,本願意匠では「本物品は,紙等に所定の形状の孔をあけるための型抜きパンチである」とし,基本的な使用法について記載されているのみであるのに対し,引用意匠等の当該欄には,さらに具体的な使用法が記載され,工芸用パンチとしての使用が想定されていることに照らすならば,本願意匠によって,新たな使用の目的が開発されたものではない。したがって,本願意匠の需要者は従来の需要者とは異なるとの原告の主張は,そもそも根拠がない。
また,意匠制度は,新規に創作され,かつ,一定の要件を満たした意匠について,一定期間の独占を認めるものであって,権利期間満了後は,当該意匠の実施を一般に開放することを予定したものである。したがって,いずれの理由からも,原告の主張は失当である。
(4)意匠法5条2号の趣旨に反する違法に対し原告は,審決は,既に存続期間の満了した同一出願人に係わる公知意匠に類似するという理由で本願意匠の登録性を否定したが,これは,出所の混同を未然に防止しようとする意匠法5条2号の趣旨に反することはもとより,知的財産の保護を目的とする知的財産権制度の趣旨に反するものである旨主張する。
しかし,審決は,意匠法3条1項3号の規定の要件適合性を判断したものであり,その判断内容にも誤りはないから,原告の主張は,主張自体失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本願意匠と引用意匠の類否)について(1)当裁判所の両意匠の類否についての判断本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点に関する審決の認定に誤りがないことについては,当事者間で争いがない。すなわち,本願意匠と引用意匠は,「第2争いない事実」,「審決の理由」記載のとおり,「共通点」及び「差異点」を有している。
そうすると,両意匠は,略直方体状の筺体において,上面やや正面寄りに短円柱状の操作ボタンを設け,正面下方位置に水平状にスリットを形成した点,及び筺体各稜線部を角のない曲面状に形成した点など基本的な形状において共通する。これに対し,両意匠の差異点は,いずれも細部にわたる形状におけるものであり,両意匠は,それらの差異点が存在することを考慮に入れてもなお,これを見る者に対し,全体として,それぞれの基本的形状を共通にするとの印象を強く与えるものであるから,互いに類似する意匠であるというべきである。したがって,これと同趣旨の審決の認定判断に誤りはない。
(2)原告は,本願意匠及び引用意匠に係る物品は,いずれも「工芸用パンチ」であるから,その需要者は,事務用パンチの需要者とは異なり,工芸を業務又は趣味とし,美的活動に従事する者であると考えられ,美的外観に対する注意力が高いはずであるから,扁平な直方体形状の引用意匠と,立方体形状の本願意匠とが類似すると判断することはないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,仮に,原告の主張するとおり「工芸用パンチ」の需要者が美的活動に従事する者であり,物の形状に対するこだわりが強いという前提を採ったとしても,上記のとおり本願意匠と引用意匠との間の共通点及び差異点の内容に照らせば,両意匠は類似するというべきであり,審決の判断に誤りがあるということはできない。
(3)原告は,意匠法3条1項3号における公知意匠と出願に係る意匠との類否判断に当たり,公知意匠(引用意匠)につき,更に以前から存在した公知意匠との比較の上でその要部認定を行い,その上で出願に係る意匠との類否判断を行うべきと主張する。しかし,意匠法3条1項3号該当性における公知意匠と出願に係る意匠との類否を判断するに当たっては,公知意匠について,更に以前から存在した公知意匠との比較した上で要部を認定することは合理性がなく,単に,両者の共通点,差異点を総合して類否判断すべきであるといえる。原告の主張は,その前提において採用できない。
また,原告は,出願に係る意匠との類否を判断するに当たり,公知意匠につき,部材の機能において通常に採択されるような形状(パンチ基台を覆うハウジングの直方体形状,ハウジングの稜線部におけるアール形状)は,要部から除外して認定すべきであると主張する。確かに,出願に係る意匠及び公知意匠の属する物品の分野において,当該物品の機能を確保するために不可欠な形状は,類否判断において考慮すべき対象から除外すべきものというべきである(例えば,型抜き孔形成用のパンチにおいて,穿孔刃及びこれを挿入する孔を設け,シート材を差し込むスリットを設ける構成などは,機能を確保するために不可欠な形状に当たる。)。しかし,型抜き孔形成用のパンチとしては,様々な形状のものが存在することが知られているものであって(乙5ないし8),本体を略直方体の筺体とすることや,その稜線部を角のない曲面状に形成することが,パンチ機器の機能を確保するために不可欠な形状ということはできないから,本願意匠と引用意匠とがこれらの点を含めた形状において類似することを理由に両者を類似するとした審決の判断に誤りがあるということはできない。
(4)原告は,本願意匠と引用意匠と,稜線部の曲率の差異及び基台構造における「差異点(a-2)」,「差異点(a-3)」,「差異点(a-6)」について,審決の判断に誤りがあると主張する。
しかし,両意匠の稜線部とも略直方体状を呈する筺体の稜線部であり,筺体全体との関係から見ると両意匠における稜線部の曲率の違いは大きなものではなく,意匠全体から受ける印象において異なる印象をひき起こすものとはいえない。また,基台構造についても,本願意匠及び引用意匠のような据置式の型抜き孔形成用パンチにおいては,需要者が購入及び使用に際して穿孔形状に関心があることは容易に想像できるところであるが,それは専ら当該物品の機能についての関心であって,需要者において事前にそのような機能を知っている場合には物品の底面部を見ることはないから,物品において形状からもたらされる美感の点において,底面部が需要者の目をひく部分ということはできない。したがって,稜線部の曲率や基台構造の差異を考慮に入れても,両意匠を類似するものというべきであり,審決の判断に誤りはない。この点の原告の主張は採用できない。
また,原告は,全体の明暗調子と模様における「差異点(c)」に関する審決の判断にも誤りがあると主張する。しかし,本願意匠は,色調も模様も表しておらず,他方,引用意匠における色調は特徴的なものとはいえず,これを見る者の注意をひくものではないから,この点の違いが全体としての両意匠の類否に影響するものではなく,審決に判断に誤りはない。この点の原告の主張も採用できない。
2取消事由2(その他の取消事由)について原告は,審決には原告の主張についての記載が尽くされていないとして,審判手続には意匠法52条において準用する特許法157条2項4号の規定に違反する違法があると主張する。しかし,審決書には審決の結論を導き出すのに必要な限度で判断の理由を記載すれば足りるものであり,当事者の主張のすべてについての逐一判断を示さなければならないものではない。本件においては,審決書には,本願意匠が意匠法3条1項3号に該当する理由が記載され,その記載内容は,原告の引用する判例(最高裁昭和54年(行ツ)第134号同59年3月13日第三小法廷判決)に照らして,不十分であるということはできない。この点の原告の主張は採用できない。
また,原告は,本願意匠は需要増大機能を発揮し,商業的成功を収めたとして,それにもかかわらず本願意匠を引用意匠に類似するとして登録を認めなかった審決の判断は,意匠制度の趣旨に反し違法であると主張する。しかし,意匠登録出願に係る意匠につき意匠法3条1項3号該当性を判断するに当たり,当該意匠を実施した物品が商業的成功を収めたことが,直ちに公知意匠との類否判断に影響を及ぼすものとはいえない。この点の原告の主張は失当である。
さらに,原告は,審決の判断は,意匠法施行規則に規定された特徴記載書制度の趣旨,及び意匠法5条2号の趣旨のいずれにも反すると主張する。しかし,意匠法施行規則6条1項所定の特徴記載書は,特許庁における審査・審判の迅速化を図るために,出願人がその創作した意匠の特徴に関する情報を提出することを認めたものであって,審判手続において,特徴記載書の記載事項について,これに対する判断の結果を審決書に記載することを義務づけるものではないから,この点の原告の主張は失当である。また,本件においては,意匠法3条1項3号該当性の有無が争点であって,同法5条2号該当性の有無は争点ではないのであるから,同号の趣旨に反するか否かが審決の適法性に影響を与えることはない。この点の原告の主張も理由がない。
3結論その他,原告は,縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸
  • この表をプリントする