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関連審決 不服2007-15948
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10185審決取消請求事件 判例 意匠
平成20行ケ10388審決取消請求事件 判例 意匠
平成20行ケ10402審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  部品 /  意匠の類否 /  全体観察 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10184号 審決取消請求事件
原告ソシエテ アノニム デラ マニュファクチャー ドーロジェリィ オデマルス ピゲット アンド カンパニー
訴訟代理人弁理 士村田幹雄
同 広川浩司
被告特許庁長官
指定代理人樋田敏惠
同 岩井芳紀
同 酒井福造
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/11/26
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−15948号事件について平成20年1月9日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2事案の概要1本件は,原告が,意匠に係る物品を「腕時計側」とする後記意匠登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,別紙第1記載の本願意匠が,内国雑誌「ラピタ」2004年(平成16年)7月1日発行7号79頁所載の腕時計における「腕時計側」の別紙第2記載の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA16010913号,以下「引用意匠」という。)と類似するか(意匠法3条1項3号),である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,2005年(平成17年)10月17日(スイス)の優先権を主張して,平成18年(2006年)4月11日,意匠に係る物品を「腕時計側」とする別紙第1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(意願2006-9370号。甲1)をしたが,平成19年3月16日に拒絶査定(甲3)を受けたので,これに対し不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007-15948号事件として審理した上,平成20年1月9日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平成20年1月21日原告に送達された。
(2) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願意匠は,引用意匠と類似するから,意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができない,というものである。
イなお,審決が認定した,本願意匠と引用意匠との共通点,差異点は,次のとおりである。
(ア)共通点両意匠は,上下端部にベルト連結部を設けた側本体の中央部に,時計本体部を収納する円形状の収納部を設け,その収納部を覆うためのガラスを押さえる略円形リング状部を,収納部の円形状縁部に重ねて設け,その略円形リング状部は,内周縁部の全体を円形に,外周縁部の全体を八角形とし,上面部に8個の固定ネジを設け,側本体右側部に,竜頭と竜頭を挟んだ上下に押しボタン部を設けた,基本的態様が共通し,?@ベルト連結部は,正面視先端部を窄めた略台形状で,上面部は略円形リング状部の外周縁部が接する位置に水平状稜線部を設け,内側を垂直面に,先端部を先下がりの斜面とし,上下先端部に2つずつ取付部を設け,?Aガラス押さえ略円形リング状部は,厚いものであって,外周縁部を面取り形成し,内周縁部に細幅縁部を設け,?B竜頭と押しボタン部は,それぞれのガード部を備え,全体を竜頭を中心に左右対称状の山形状に形成した,具体的態様が共通する。
(イ)差異点両意匠は,具体的態様において,?@ベルト連結部の取付部に,本願意匠は2つのリブ(うね模様)を設けたのに対し,引用意匠は平面状であり,?Aガラス押さえ略円形リング状部について,外周縁部の厚み部に,本願意匠は全面に縦スリット模様を施したのに対し,引用意匠はこのような模様を施しておらず,上面部の8個の固定ネジ部について,本願意匠は,各ネジを,内側に六角形状の凹部を設けた円筒状ネジとし,各々外側に開口したU字状の取付け孔部を施して取り付けたのに対し,引用意匠は,各ネジは中に1本の溝のある6角形のネジとし,リング状部上面に埋め込むように略面一状に取り付けられ,?B竜頭と押しボタン部について,本願意匠は,竜頭は略円筒状とし,周面にスリットを施し,上下の押しボタン部は長方形状とし,それぞれに切り込みを施し,上部押しボタン部の上方と下部押しボタン部の下方にネジを設け,この部分全体の山形を角張った山形状としたのに対して,引用意匠は,竜頭は略六角柱状とし,周面にスリットはなく,上下の押しボタン部は円筒状で切り込みはなく,竜頭及び上下の押しボタン以外に付加的なネジは設けず,この部分全体の山形を富士山型の山形状とした点が,相違する。
(3) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点認定の誤り)(ア)審決は,本願意匠と引用意匠の共通点として,「竜頭と押しボタン部は,それぞれのガード部を備え,全体を竜頭を中心に左右対称状の山形状に形成した,具体的態様が共通する。」(2頁12行〜13行)と認定している。
ここで,ガード部とは側本体の一側部から突出状に形成されている部分であって,竜頭あるいは押しボタン部の側面を取り囲むことでこれらの誤操作を防止するためのものである。本願意匠のガード部と引用意匠のガード部は,全体としては竜頭側が高く,上下端部側が低く形成されている点において共通している。
(イ)しかし,以下の点において本願意匠のガード部と引用意匠のガード部は異なっている。
本願意匠は,側本体の上端から竜頭の上端位置にかけて上側ガード部が設けられ,側本体の下端から竜頭の下端位置にかけて下側ガード部が設けられ,各ガード部が竜頭を中心として対称な形状となるように形成されている。そして,上側ガード部と下側ガード部から突出するように,それぞれ押しボタン部が設けられている。
これに対して引用意匠は,上側ガード部と下側ガード部が各中間位置において切り欠かれた部分を有し,該切欠部分にそれぞれ押しボタン部が配置されている。すなわち,引用意匠において押しボタン部は側本体から突出する態様を有しており,ガード部は竜頭を取り囲むと共に押しボタン部も取り囲むように形成されている。
このように,本願意匠は竜頭についてガード部を備えているとはいえるが,押しボタン部についてはむき出しの状態であるためガード部を備えているとはいえず,一方,引用意匠は竜頭と押しボタン部にそれぞれガード部を備えているといえるから,ガード部について本願意匠と引用意匠には明確な形態差がある。
(ウ)したがって,審決が,上記(ア)の認定において「竜頭と押しボタン部は,それぞれのガード部を備え」とした点は誤りである。
両意匠のガード部に関する具体的態様の共通点は,「側本体の一側部から突出するようにガード部が設けられ,該ガード部は全体が竜頭を中心に左右対称状とされてなる点」とするべきである。
(エ)上記のとおり本願意匠のガード部と引用意匠のガード部には明確な形態差があるから,「本願意匠のガード部は,側本体の上端から竜頭の上端位置にかけて上側ガード部が設けられ,側本体の下端から竜頭の下端位置にかけて下側ガード部が設けられ,各ガード部の外縁から押しボタン部が突出するように配置されるのに対し,引用意匠のガード部は,上側ガード部と下側ガード部の中間位置に切り欠かれた部分を有し,該切欠部分にそれぞれ押しボタン部が配置される点」を差異点とすべきである。また,本願意匠と引用意匠は,「本願意匠のガード部は,押しボタン部が配置される領域が前面側に盛り上がるように形成され,該盛り上がり部分と周囲部との間は傾斜面状とされているのに対し,引用意匠のガード部は前面が平面状とされている点」でも相違するから,この点も差異点とすべきである。
(オ)以上のように,審決には本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点の認定において誤りがある。
イ 取消事由2(類否判断の誤り)(ア)審決は,本願意匠と引用意匠について,「…共通点は意匠全体の各部位にわたり,意匠全体の骨格をなすと共に共通する基調を形成しているもので,…両意匠間に類似性をもたらしている。」(2頁下6行〜下1行),「…差異点はいずれも細部にわたる態様であり,類否判断に及ぼす影響は微弱で,共通点を凌ぐものとはなり得ていない。」(3頁1行〜2行),「…両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,差異点はいずれも微弱なものにとどまり,それらが相まって奏する効果を勘案しても,共通点は…圧倒的で,類否判断を支配しているから,両意匠は全体として美感が共通し,類似するものである。」(3頁17行〜20行)と判断している。
(イ)腕時計側に係る意匠は,時計本体部を収納する収納部と,収納部を覆うためのガラスを押さえるリング状部の部分が,時計としての主要な機能を有する部分であるし,全体に占める割合も比較的大きいので,これらの形態が意匠全体の美感に与える影響が大きいことは確かである。
しかし,腕時計側の意匠においては,収納部及びリング状部の形態のみならず,その側方に配置される竜頭等の操作部分によっても,全体の印象が大きく左右される。特に,本願意匠は意匠全体に占める操作部分の割合が通常の腕時計側よりも大きく,また操作部分の形態も異なっているので,引用意匠をはじめ先行意匠群と比べて意匠全体の印象が大きく相違する。本願意匠は,先行意匠群の腕時計側の意匠(別紙第3の甲5「本願意匠と先行意匠群の対比表」(2)〜(4))に比べて,竜頭,押しボタン部,及びガード部の全体に占める割合が格段に大きく,かつ凹凸を有した立体的な形状に形成されているから,需要者の注意がより操作部分に向くこととなり,当該部分は看者の注意を惹く意匠の要部を構成する。
(ウ)以上を前提にすれば,次のとおり,本願意匠と引用意匠は類似しない。
a審決は,「ベルト連結部の取付部の,2つのリブ(うね模様)の有無の差異については,…局所的差異にとどまるものである。」(3頁3行〜5行)としている。しかし,本願意匠は,上記のように竜頭,押しボタン部,及びガード部を凹凸の多い形状とし,全体として立体感を持たせており,ベルト連結部の取付部も,全体に占める割合は大きくないものの,2つのリブ(うね模様)を施すことによって,意匠全体に立体感を持たせることに寄与しており,全体の美感に対して統一性を持たせる役割を果たしている。
b審決は,「ガラス押さえ略円形リング状部の差異について,本願意匠の外周縁部の厚み部の縦スリット模様は,腕時計は主として正面視される物品であるから,看者の注意を惹かず,…」(3頁6行〜8行)としているが,本願意匠に係る腕時計側が用いられる腕時計は,非常に高額であり,このような高額な腕時計においては細部に渡るまでデザインが施されているのが一般的であるから,需要者は正面視のみならず,あらゆる角度から観察するのであり,ガラス押さえ略円形リング状部の縦スリット模様についても,看者の注意を充分に惹きつけ,意匠全体の美感に影響を与える部分であるといえる。
また,審決は,「…8個の固定ネジ部については,各ネジ自体の形状や取り付け孔の有無に差異があっても,その配置態様の共通性が引き起こす印象が圧倒的である…」(3頁8行〜10行)としているが,各ネジの形状及び取付穴の態様は,後記eのとおり本願意匠からF1(フォーミュラワン)の世界を想起させることに寄与するものである。
c審決は,「竜頭と押しボタン部の差異について,竜頭も各ボタンも小さく,また,この部位は意匠全体の中では従たる部位であって,看者の注意を強く惹きつけるものではないうえ,従来より周囲にスリットを施した竜頭が見られ,ボタン部を長方形状としたものも既に見られ,また,この部位全体の山形形状の差異も,角張ったものも富士山状のものも既に見られる態様であるので,看者の注意を惹かず,類否判断を左右するものではない。」(3頁11行〜16行)としている。しかし,上記(イ)で述べたように竜頭と押しボタン部が全体に占める割合は,先行意匠群に比べて格段に大きく,しかも本願意匠の竜頭は全体的に円筒形状で,その周面にスリットを施してあり,また本願意匠の各押しボタン部は,全体的に長方形状に形成してそれぞれに切り込みを施してあり,このような立体的形状を有しない引用意匠に対し,一見して明らかな形態差を有している。また,竜頭と押しボタン部の態様は,後記eのとおり本願意匠からF1(フォーミュラワン)の世界を想起させることに寄与するものである。
d審決はガード部についての本願意匠と引用意匠の差異点を認定していないが,前記アのとおり,本願意匠のガード部と引用意匠のガード部は差異点を有する。これらの差異点は,本願意匠のガード部が引用意匠に比べて全体に占める割合が大きく,かつ立体的な形状を有するようにされていることにより,引用意匠に対し一見して明らかな形態差を有している。また,ガード部の態様は,後記eのとおり本願意匠からF1(フォーミュラワン)の世界を想起させることに寄与するものである。
e本願意匠における個々の部品は,自動車レースであるF1(フォーミュラワン)の世界を想起させるようなデザインを有して形成されている。
具体的には,ガラス押さえ略円形リング状部の固定ネジ部は,エンジンのネジを模して形成されている。自動車のエンジンに用いられるネジは,先行意匠群のネジのように六角形のネジ頭に一本線状の溝が設けられているものではなく,略円柱状のネジ頭を有し,これを六角レンチにより螺合をなすものが一般的に用いられており,本願意匠の各ネジはそれを模している。
また,ガラス押さえ略円形リング状部の外周縁部は自動車のベンチレーテッドブレーキディスクの形状を,竜頭は自動車のギア(歯車)を,押しボタン部及びガード部の形状は自動車のエアベント(通風口)を,それぞれ模して形成されている。さらには,側本体の背面側には,スポーツカーのタイヤのリムを再現したレリーフが施されている。これらの形態により,本願意匠は全体的にはF1のレーシングカーを連想させるような印象を生じさせる。
fこれまで述べてきたように,本願意匠の竜頭,押しボタン部及びガード部は,先行意匠群に比べて全体に占める割合が大きく,かつ立体的な形状を有していることにより,看者の注意を強く惹きつけるものであり,かつこれらを含む各部品が自動車部品形状を模して形成されていることにより,本願意匠は全体的にはF1のレーシングカーを連想させるような印象を生じさせている。引用意匠にはこのような印象を生じさせる要素は全く存在せず,両者は美感における明確な差異を有しているから,類似するものではない。
2請求原因に対する認否請求原因(1)(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア一般にガード部とは,外部からの衝撃に対して,主要部又は脆弱部を保護するためのものであり,本願意匠と引用意匠のガード部も,外部に露出する可動部であるところの,押しボタンをガードするように配置されており,たとえ本願意匠の押しボタンをガードする部位に引用意匠のような切り欠かれた部分が設けられていないとしても,ガード部として機能するものであることは図面上明らかであって,審決の認定に誤りはない。
イ審決は,本願意匠と引用意匠のガード部の形態は,全体を竜頭を中心に左右対称状の山形状に形成した点で共通するが,その山形状は,本願意匠が角張った山形状なのに対し,引用意匠は富士山型の山形状であるから,差異があると認定している。
このように,ガード部を竜頭と押しボタン部とを含めた操作部位として一体的に認定した理由は,腕時計側の分野にあっては,竜頭と押しボタン部を設けるときには,竜頭と押しボタンのみを設ける場合(「TRAVEL&LEISURE」2000年[平成12年]12月号 American ExpressPublishing Corporation 27頁[乙1]の腕時計),竜頭にのみガード部を設ける場合(「2003 IMPORTED WATCH&CLOCK GENERAL CATALOGUE 輸入時計総合カタログ」社団法人日本時計輸入協会2002年[平成14年]11月30日,229頁[乙2]の腕時計),本願意匠と引用意匠のように押しボタンにもガード部を設ける場合(「DIME」2005年[平成17年]5月5日号綴じ込み別冊「2005新作腕時計最速図鑑」小学館8頁[乙3]の腕時計)があり,押しボタンにもガード部を設ける場合,ガード部を含めた押しボタン部や竜頭は,側本体から突設状に形成された塊状の操作部位として,看者に視認されるからである。そして,本願意匠と引用意匠の当該部位は,甲5(「本願意匠と先行意匠群の対比表」)(3)の腕時計や乙4(「Golf Digest」2002年[平成14年]6月号 GolfDigest/Tennis,Inc 111頁)の腕時計のように,側本体の側方部をそのまま突出変形させて山形状としたものではなく,当該部位を正面視すると明らかなように,側本体の表面部に対して段差を介して設けられており,それ故にこの部位全体が一体となった塊状に視認されるのである。
また,審決は,ガード部における切欠きの有無について言及していないが,その理由は,引用意匠のガード部の切欠きが極めて微細であり,従来より普通に見られる態様であって,視覚的な訴求力が弱く,当該部位が有する山形の印象を妨げないことから,両意匠の類否判断に影響を及ぼす差異ではないと判断したことによるものである。
なお,本願意匠と引用意匠のガード部を仔細に認定すれば,押しボタン部領域には,切欠きの有無以外にも,前面側の盛り上がりの有無といった差異もあるが,本願意匠のような,押しボタン部が切欠きのないガード部から突出状に設置されたものは,上記乙3や乙5(「G-SHOCK」カタログ1995年[平成7年]カシオ計算機株式会社2頁裏)の腕時計に示すように,従来から普通に見られる態様であり,また,押しボタン部が配置される領域が前面側に盛り上がっているものも,ガード部が押しボタンを囲むように形成されているからであり,そのような態様は乙6(「TOOLCONCEPT NEW TRIPLE SENSOR」カタログ2001年[平成13年]カシオ計算機株式会社2頁)の腕時計に示すように従来から普通に見られることから,本願意匠を特徴づける構成態様として特段に評価する理由はない。
(2) 取消事由2に対しア原告の主張は,上記甲5に掲載された(2)〜(4)の腕時計側の意匠のみを先行意匠群としている点で偏ったものであり,前提において誤りがある。
例えば,原告が販売している腕時計に限っても,2004年(平成16年)に発表したとされるモデル(ロイヤルオークオフショアファン・パブロ・モントーヤモデルチタンとピンクゴールドの両タイプあり)が先行意匠群から抜け落ちているが,この腕時計のガード部は,本願意匠のように大きいものである(株式会社アールケイエンタープライズがインターネットに掲載した「Rodeo Drive」の頁[乙7の1]の腕時計,シュッピン株式会社がインターネットに掲載した「GMT時計専門店」の頁[乙7の2]の腕時計)。ゆえに,本願意匠の操作部は,先行意匠に比し,格別に看者の注意を惹くとの原告の主張は根拠が無く,妥当性を欠くものである。
イ本願意匠の竜頭,押しボタン部及びガード部からなる操作部と,ベルト連結部の取付部の位置は,側本体から見た向きが90度違い,離れていることに加え,凹凸の態様も大きく異なっている。本願意匠のリブの凹凸は,ごく小さく,表面的な凹凸模様をなして,装飾的効果に寄与するものである。したがって,意匠全体に立体感を持たせる効果はほとんどないということができる。しかも,ベルト連結部の取付部にリブ(うね模様)を設けた態様は,乙8(「FR HJAHR/SOMMER'96」1996年[平成8年]UQuelle 738頁)の腕時計に示すように,従来より普通に見られることから,格別看者の注意を惹くものではない。
ウ高額な腕時計の需要者が,正面視のみならず,あらゆる角度からデザインを観察するとしても,それをもって直ちに当該需要者が意匠全体の骨格をなす構成態様及び全体の基調を差し置いて,「ガラス押さえ略円形リング状部」の外周縁部の縦スリットの有無の差異を,意匠全体の美感に影響を与える差異として着目するものであるとすることは短絡的である。また,高額商品の需要者であるか否かによって,意匠の類否判断の基準を変えることは,意匠制度の目的に照らして妥当ではない。ちなみに,意匠の類否判断は,各部位に着目すると共に,全体観察した時の美感に基づいてなされるべきものであるところ,面積的に非常に小さな部位の差異が,類否判断に大きな影響を及ぼすケースとしては,面積的に大きな部分が極めてありふれていたり,機能上等の制約から変更が不可能な場合等が想定されるが,外周縁部に縦スリット模様を設けた態様は,乙9(「JCKJEWELERS' CIRCULAR KEYSTONE」1998年[平成10年]6月号 ChiltonCompany 135頁)の腕時計に見られるように,本願の出願前に普通に見られる態様であり,看者の注意をとりわけ喚起するものではないことから,本件はそのようなケースには該当しない。
エ原告は,本願意匠は,竜頭周面にスリットを,各押しボタン部に切り込みを施しており,引用意匠とは明らかな形態差を有していると主張する。
しかし,円筒形状竜頭周面にスリットを施した態様は,例えば上記乙1,乙2に,そして,長方形状押しボタン部に切り込みを施した態様は,例えば上記乙5,乙7の1・2に見られるように,本願の出願前に普通に見られる態様であり,看者の注意をとりわけ喚起するものではない。さらに原告は,本願意匠は,竜頭は自動車のギア(歯車)を,押しボタン部及びガード部の形状は自動車のエアベント(通風口)を,それぞれ模して形成されているから,F1(フォーミュラワン)の世界を想起させるとも主張するが,本願意匠がこれらを採用したからといって,F1の世界を想起させる格別な印象を看者に与えるものでもない。
オ略円柱状のネジ頭を有し,これを六角レンチにより螺合をなすネジ,すなわち,通称「六角穴付ボルト」(JISB1176)は,乙10(「新機械工学便覧」理工学社1973年[昭和48年]5月15日縮刷第4版,4-6頁,4-8頁)のとおり,自動車のエンジン用としてのみならず,産業界において広く知られ,従来より各分野で適宜使用されてきたものである。したがって,このネジの採用をもって,本願意匠をして,引用意匠とは別異のF1の世界を想起させる特異な印象を看者に与える旨の主張は,原告の願望に過ぎないものである。看者は,各ネジの形状及び取付穴の態様に差異を認めてもなお,特徴的な基本的構成態様をなすネジ部の配置態様が引き起こす共通感を,本願意匠と引用意匠から受けるものである。
本願意匠は,特に機能上必要ではない溝様の一本線模様を六角穴底部に設けている。これは本願意匠全体に,引用意匠の構成態様とは違うという別異感を引き起こすというよりも,引用意匠と同様に「ガラス押さえ略円形リング状部」をネジ止めした構造を強調したものと解するのが相当であり,この意匠的効果は,本願意匠と引用意匠に共通の美感を起こさせることに寄与するものといえる。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点認定の誤り)について(1)本願意匠は,意匠に係る物品を「腕時計側」とする別紙第1記載の意匠であり,引用意匠は,別紙第2記載の「腕時計側」の意匠である。
(2)審決は,本願意匠と引用意匠のガード部について,「竜頭と押しボタン部は,それぞれのガード部を備え,全体を竜頭を中心に左右対称状の山形状に形成した,具体的態様が共通する。」(2頁12行〜13行)と認定した上,ガード部の山形状は,本願意匠が角張った山形状なのに対し,引用意匠は富士山型の山形状であるから,差異があると認定している(2頁25行〜31行)。
(3)しかし,本願意匠のガード部と引用意匠のガード部は,次のような点が異なっている。
本願意匠は,側本体の上端から竜頭の上端位置にかけて設けられている上側ガード部と,側本体の下端から竜頭の下端位置にかけて設けられている下側ガード部から突出するように,それぞれ押しボタン部が設けられている。
したがって,本願意匠のガード部は,竜頭をガードしているということができるが,押しボタン部をガードしているということはできない。
これに対して引用意匠は,側本体の上端から竜頭の上端位置にかけて設けられている上側ガード部と,側本体の下端から竜頭の下端位置にかけて設けられている下側ガード部が,各中間位置において切り欠かれた部分を有し,該切欠部分にそれぞれ押しボタン部が配置されている。したがって,引用意匠ガード部は,竜頭とともに押しボタン部をガードしているということができる。
(4)以上のとおり,本願意匠と引用意匠のガード部に関する具体的態様は,本願意匠においては,上側ガード部と下側ガード部から突出するように,それぞれ押しボタン部が設けられているのに対し,引用意匠においては,上側ガード部と下側ガード部が各中間位置において切り欠かれた部分を有し,該切欠部分にそれぞれ押しボタン部が設けられている点が相違し,本願意匠のガード部は,竜頭をガードしているということができるが,押しボタン部をガードしているということはできないのに対し,引用意匠ガード部は,竜頭とともに押しボタン部をガードしているということができる。
また,本願意匠と引用意匠は,「本願意匠のガード部は,押しボタン部が配置される領域が前面側に盛り上がるように形成され,該盛り上がり部分と周囲部との間は傾斜面状とされているのに対し,引用意匠のガード部は前面が平面状とされている点」でも相違する。
(5) 「腕時計側」の側面に設けられたガード部は,正面からよく見える,目立つ部分であるから,上記(4)認定に係るガード部の形態の相違は,差異点として認定すべきである。また,審決が,本願意匠と引用意匠のガード部について,「竜頭と押しボタン部は,それぞれのガード部を備え,」と認定したことは誤りというべきである。
この点に関し,被告は,?@押しボタンにもガード部を設ける場合,ガード部を含めた押しボタン部や竜頭は,側本体から突設状に形成された塊状の操作部位として,看者に視認される,?A本願意匠と引用意匠の当該部位は,側本体の側方部をそのまま突出変形させて山形状としたものではなく,側本体の表面部に対して段差を介して設けられており,それ故にこの部位全体が一体となった塊状に視認されるのである,と主張する。確かに,本願意匠や引用意匠のガード部は,一体となった塊状に視認されるが,そうであるとしても,そのガード部の形態は,上記(4)認定のとおり異なっているのであるから,この点は差異点というべきであり,ガード部が一体となった塊状に視認されることがその認定を左右するものではない。
また,被告は,引用意匠のガード部の切欠きが極めて微細であり,従来より普通に見られる態様であって,視覚的な訴求力が弱く,当該部位が有する山形の印象を妨げないことから,ガード部における切欠きの有無は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない,と主張するが,ガード部における切欠きの有無は,一見して明らかな目立つ部分であり,ガード部の形態全体に与える影響を無視することはできないから,差異点として認定すべきである。
さらに,被告は,本願意匠のような,押しボタン部が切欠きのないガード部から突出状に設置されたものは,従来から普通に見られる態様であり,また,押しボタン部が配置される領域が前面側に盛り上がっているものも,ガード部が押しボタンを囲むように形成されているからであり,そのような態様は,従来から普通に見られる,と主張するが,これらの形態が従来から普通に見られる形態であるとしても,そのことから直ちに本願意匠を特徴付けられる構成態様として評価することはできないということにはならないのであって,上記のとおり差異点と認定すべきである。
(6) よって,取消事由1の主張は理由がある。
3取消事由2(類否判断の誤り)について(1)本願意匠と引用意匠は,審決が認定した次の差異点(2頁16行〜31行)を有するほか,前記2(4)認定の差異点を有する。
?@ベルト連結部の取付部に,本願意匠は2つのリブ(うね模様)を設けたのに対し,引用意匠は平面状である点?Aガラス押さえ略円形リング状部について,外周縁部の厚み部に,本願意匠は全面に縦スリット模様を施したのに対し,引用意匠はこのような模様を施しておらず,上面部の8個の固定ネジ部について,本願意匠は,各ネジを,内側に六角形状の凹部を設けた円筒状ネジとし,各々外側に開口したU字状の取付け孔部を施して取り付けたのに対し,引用意匠は,各ネジは中に1本の溝のある六角形のネジとし,リング状部上面に埋め込むように略面一状に取り付けられている点?B竜頭と押しボタン部について,本願意匠は,竜頭は略円筒状とし,周面にスリットを施し,上下の押しボタン部は長方形状とし,それぞれに切り込みを施し,上部押しボタン部の上方と下部押しボタン部の下方にネジを設け,この部分全体の山形を角張った山形状としたのに対して,引用意匠は,竜頭は略六角柱状とし,周面にスリットはなく,上下の押しボタン部は円筒状で切り込みはなく,竜頭及び上下の押しボタン以外に付加的なネジは設けず,この部分全体の山形を富士山型の山形状とした点(2)本願意匠は,?@ベルト連結部の取付部に2つのリブ(うね模様)が設けられていること,?Aガラス押さえ略円形リング状部の外周縁部の厚み部全面に縦スリット模様が施されている上,上面部の8個の固定ネジ部の各ネジは,内側に六角形状の凹部を設けた円筒状ネジとし,各々外側に開口したU字状の取付け孔部を施して取り付けられていること,?B竜頭は略円筒状とし,周面にスリットが施され,上下の押しボタン部は長方形状とし,それぞれに切り込みが施され,上部押しボタン部の上方と下部押しボタン部の下方にネジが設けられていること,?C上側ガード部と下側ガード部から突出するように,それぞれ押しボタン部が設けられ,ガード部の押しボタン部が配置される領域が前面側に盛り上がるように形成され,該盛り上がり部分と周囲部との間は傾斜面状とされたこと,以上の具体的態様によって,全体として凹凸の多い立体的な印象を看者に抱かせるものということができる。
これに対し,引用意匠は,?@ベルト連結部の取付部が平面状であること,?Aガラス押さえ略円形リング状部の外周縁部の厚み部に模様が施されていない上,上面部の8個の固定ネジ部の各ネジは中に1本の溝のある六角形のネジとし,リング状部上面に埋め込むように略面一状に取り付けられていること,?B竜頭は略六角柱状とし,周面にスリットはなく,上下の押しボタン部は円筒状で切り込みはなく,竜頭及び上下の押しボタン以外に付加的なネジは設けられていないこと,?C上側ガード部と下側ガード部が各中間位置において切り欠かれた部分を有し,該切欠部分にそれぞれ押しボタン部が設けられている上,ガード部は前面が平面状とされていること,以上の具体的態様によって,全体としてすっきりとした平坦な印象を看者に抱かせるものということができる。
「腕時計側」の側面にある竜頭,押しボタン及びガード部は,正面からよく見える,目立つ部分であるから,上面部の固定ネジ部と共に,その違いを軽視することはできないし,ベルト連結部の取付部やガラス押さえ略円形リング状部の外周縁部の厚み部の模様は,それだけであれば,さほど目立たないともいえるが,本願意匠においては,上記のとおり他の部分と相まって一つの印象を抱かせる意匠を形成しているのであるから,これらの違いを軽視することもできない。
(3)そうすると,本願意匠と引用意匠は,上記(1)の差異点が相まって,その全体的な印象は大きく異なるというべきである。そして,その差異は,前記第3,1(2)イ(ア)の共通点(ただし,前記2(5)認定のとおり誤りである点を除く。)を凌ぐものというべきであって,本願意匠と引用意匠が類似すると認めることはできない。
この点について被告は,本願意匠の竜頭,押しボタン部及びガード部からなる操作部と,ベルト連結部の取付部の位置は,側本体から見た向きが90度違い,離れていることに加え,凹凸の態様も大きく異なっている,と主張する。しかし,これらの位置が90度違いで離れているとしても,一つの「腕時計側」を構成する態様として一体として見ることができる。また,凹凸の態様が異なっているとしても,本願意匠について全体として凹凸の多い立体的な印象を看者に抱かせるということができるものである。
また,被告は,?@本願意匠のように大きいガード部を有する腕時計が存する,?Aベルト連結部の取付部にリブ(うね模様)を設けた態様,外周縁部に縦スリット模様を設けた態様,円筒形状竜頭周面にスリットを施した態様,長方形状押しボタン部に切り込みを施した態様は従来より普通に見られる,?B略円柱状のネジ頭を有し,これを六角レンチにより螺合をなすネジ(通称「六角穴付ボルト」)は,産業界において広く知られ,従来より各分野で適宜使用されてきたものである,と主張するが,本願意匠は,上記のとおり各部分の態様が相まって統一的な印象を生じさせているものであって,本願意匠の各部分の態様がそれぞれ別々に知られていることは,本願意匠と引用意匠が類似するとの上記認定を直ちに左右するものではない。
さらに,被告は,本願意匠は,特に機能上必要ではない溝様の一本線模様を六角穴底部に設けていることは,引用意匠と同様に「ガラス押さえ略円形リング状部」をネジ止めした構造を強調したものと解するのが相当である,と主張する。確かに,本願意匠において,溝様の一本線模様を六角穴底部に設けていることは,「ガラス押さえ略円形リング状部」をネジ止めした印象を与えるものであり,引用意匠にも,溝様の一本線模様が存する。しかし,上記(2)認定のとおり,本願意匠においては,上面部の8個の固定ネジ部の各ネジは,内側に六角形状の凹部を設けた円筒状ネジであって,各々外側に開口したU字状の取付け孔部を施して取り付けられているのに対し,引用発明においては,上面部の8個の固定ネジ部の各ネジは,六角形のネジであって,リング状部上面に埋め込むように略面一状に取り付けられているから,溝様の一本線模様の点で共通するからといって,本願意匠と引用意匠が類似しないとの上記認定を左右するものではない。
(4) よって,取消事由2の主張も理由がある。
4結論以上の次第で,原告主張の取消事由1及び2は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海
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