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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10097損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成22行コ10004異議申立棄却決定取消請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  形状 /  組物の意匠(8条) /  創作容易(容易の創作) /  先使用(29条) /  差止請求(差止) /  通常実施権 /  権利濫用(権利の濫用) / 
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事件 平成 16年 (ネ) 628号 意匠権侵害禁止請求控訴事件
控訴人(原審原告) 株式会社コージン
同訴訟代理人弁護士 渡部敏雄
同 檜垣直人
被控訴人(原審被告) エム・ケー・パビック株式会社
同訴訟代理人弁護士 中村智廣
同 三原研自
同補佐人弁理士 佐々木功
同 川村恭子
同 久保健
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/11
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを製造し、販売し、又は販売の申し出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
(3) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケースを廃棄せよ。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
1 本件は、意匠権を有する控訴人が、被控訴人の行為が当該意匠権を侵害するものであると主張して、原判決別紙物件目録記載の盗難防止用商品収納ケース(以下「被控訴人製品」といい、その意匠を「被控訴人意匠」という。)の製造、販売等の差止め及び廃棄を請求する事案である。
原判決は、被控訴人意匠は控訴人が有する意匠権の意匠に類似するものであるが、被控訴人は、当該意匠権につき、先使用による通常実施権を有する(意匠法29条)とともに、当該意匠は、意匠法3条2項に違反して登録されたものであり、当該意匠権は、無効事由(同法48条1項1号)を有することが明らかであるから、同意匠権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり許されないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて、本件控訴を提起した。
2 争いのない事実等、本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の控訴の理由の要点及び被控訴人の反論の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、3」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、
原判決12頁3行目の「盗難用CD」を「盗難防止用CD」と改める。)。
3 控訴人の控訴の理由の要点 (1) 先使用の抗弁について ア 原判決が、被控訴人に先使用による通常実施権を認める旨の判断根拠とした書証は、乙10〜31であるところ、これらに基づいて立証された事実は、大別すれば、第1に、被控訴人が上海中崎電子との間で設計図面を基に金型製作を進めていたこと、第2に、被控訴人が平成13年5月に高千穂交易株式会社(以下「高千穂交易」という。)から被控訴人製品300個の注文を受けたこと、の2点に要約し得る。 ところが、上海中崎電子は、資本関係、人的関係及び日常の業務関係のいずれにおいても、被控訴人と極めて緊密な関係を有する企業であり(甲9〜11)、本件訴訟について第三者性が希薄であって、同社が被控訴人との間で交換したという文書の信用性は、厳密に検討されなければならない。また、同社と被控訴人間では、被控訴人製品に限らず、金型製作等多数の取引業務関係が反覆継続されているのであるから、平成12年9月から12月にかけての時期に両社間で金型に関する文書が交換されていたとしても、それが直ちに被控訴人製品と関連性を有するわけではない。
一方、高千穂交易も、被控訴人製品の販売者として、また、同社の100パーセント出資子会社であるクボタセキュリティーを介して、被控訴人と密接な関係を有していたし、原審訴訟については、その実質的な当事者として訴訟対応していたことが明らかに窺われる(甲9、12)。したがって、同社が被控訴人に対して被控訴人製品を注文したという事実は、第三者の関与した取引とは評価し得ないし、クボタセキュリティーの関与文書についても、同様である。
上記のような利害関係を考慮に入れて、乙10〜31を吟味すると、乙10〜12や乙17〜23の図面及び乙13、14の書面などは、単にこのような図面及び書類が存在することを証するだけで、その作成時期や作成趣旨についての証明にはならない。また、乙24、26〜28は、被控訴人製品との関連性が明らかでない。同様に、乙29の1〜10も、品名欄に「サンプル」あるいは「DVDサンプル」という記入があるとはいえ、それのみで被控訴人製品との関連性が認められるものではない。さらに、乙30、31も、作成者の利害関係を考慮すれば、
その信用性・客観性は疑わしい。
そうすると、作成時期の証明を含む書証は、乙15の1〜4、乙16、
25程度であるが、前記のような利害関係にある上海中崎電子との間のFAX文書について、その印字日付けの信用性は疑問であるし、乙27、28の印字日付けの混乱を考え合わせれば、一層信用性を欠く。この程度の証拠によって被控訴人の抗弁を認定した原判決は、証拠の評価を誤り、なすべき審理を尽くさなかったものである。
イ また、被控訴人が先に製造・販売していたCD用盗難防止ケースは、透孔部の形状が単純な楕円形である(乙1〜4)にもかかわらず、DVD用の被控訴人製品に限って、本件意匠と酷似した形状の図面が作成されたことには、訝しさを感じざるを得ない。
ウ さらに、控訴審においては、下記の点に関して、被控訴人に客観性を有する立証を促すべきであり、被控訴人においてそれをなし得ない場合には、乙10〜31の信用性は、否定的に判断されるべきである。
@ 被控訴人が作成した製品価格表(甲13、以下「改定価格表」という。)によれば、被控訴人製品が新製品として発売されたことに伴う価格表改訂日は、平成13年8月1日とされている。そうすると、被控訴人製品の発売開始時期は、平成13年8月1日であって、まだ価格も決まっていないのに、同年5月24日に高千穂交易から300個の注文を受けたとか、同年7月以降各社から大量注文が始まったなどという事実は、あり得ないことになる。
A 被控訴人は、他の商品について、パンフレット類で新製品として紹介しているのに(甲14、乙3)、被控訴人製品についてだけは、同様の新製品販売促進資料が証拠提出されていないのは極めて不自然である。
B 被控訴人と高千穂交易との関係を考えれば、乙30の信用性判断は慎重を要する。ところが、単価等は企業秘密であるという証拠説明のもとに、乙30は、重要部分が塗りつぶされた形で証拠とされており、これでは商品の同一性や文書の真正について検証することができない。
(2) 意匠法3条2項違反(創作容易)による無効主張について ア クボタセキュリティーが、平成12年2月17日に乙32の「外形寸法図」を作成し、同年3月の内覧会でそのサンプル品を展示したとの事実認定は、余りに乱暴な認定である(乙32の作成者も取り違えている。)。
すなわち、乙32は、単なる外形寸法の検討図面にすぎず、2月中旬にこの程度の図面しか作られていなかったとしたら、その後に成形量産図面の作成や金型材料の手配、金型の製造加工や成形加工テストを経て金型の修正・完成に至るまで、優に3か月程度の期間を要することは、業界の常識といえ、平成12年3月の内覧会にサンプル品を展示することなど絶対に不可能である。
イ 同様に、平成12年5月9日にクボタ製品800個が控訴人に販売されることも考えられないにもかかわらず、原判決は、乙34〜37と、クボタセキュリティーの取締役が作成した証明書(乙41)に依拠して、クボタ意匠が、本件意匠登録出願日(平成13年4月18日)よりも前に国内で公知だったと認定している。
しかし、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」は、これらの製品が、いずれも2001年(平成13年)の製造であることを示しており、乙34〜37は、逆に、被控訴人の主張が事実に反することを証明するものである(甲15の1、2)。
ウ さらに、以下の点も、審理が不十分である。
@ クボタセキュリティーがDVD用盗難防止ケースを商品化していたことは事実だが、商品パンフレット(乙7)からは、肝腎の透孔部の形状を確認することはできず、同社のCD用ケースの意匠から推定しても、透孔部の形状が最初から左右反転L字型だったと認めるべき根拠はない。
A 同社がDVD用ケースの商品化を完了した時期についても、平成13年4月の内覧会案内(乙38)には、DVD用という記述があるものの、平成12年の招待状(乙33)には何の表示もないから、平成12年3月の内覧会に展示されたとは認定できないはずである。
B したがって、クボタ意匠によるDVD用ケースが、いつの時点で商品化されたかは、乙32の図面以外の資料、具体的には、前記の成形量産図面や製造年月日を記載した金型の完成写真等によって、改めて立証されなければならない。
2 被控訴人の反論の要点 (1) 先使用の抗弁について ア 控訴人は、被控訴人と上海中崎電子とが密接な関係にあるとして、被控訴人提出の関係証拠に信用性がないと反論するが、先使用を立証する以上、当時の下請け、取引関係者等とのやり取りに関する書証等が提出されること自体、むしろ当然である。また、控訴人は、高千穂交易に対しても、第三者とはいえないなどと主張しているが、これも同様である。
イ 被控訴人が、DVD用の被控訴人製品をCD用のように透孔部を楕円状としなかった理由は、CD用より寸法の大きいDVD用盗難防止ケースでは、楕円状の透孔部とすると、デザイン上、間延びした地味な感じとなり好ましくなく、材料節約上も不都合であったためである(乙46)。
ウ また、シリーズ商品全体の価格表作成前に、新商品をサンプル品による営業を経て販売開始することは、ままあることであり、改訂価格表(甲13)の改訂日(平成13年8月1日)が新商品販売開始日であるとの控訴人の主張は、取引界の実情を無視したものである。むしろ、当該価格表が存在するということは、そこに記載されている商品が、それより相当前に設計製造されて、商品化されるまでに至っていた事実を裏づけている。
エ さらに、DVD用の被控訴人製品についてパンフレットが作成されていない理由は、スーパーマルチセルシリーズの先駆けであったCD用製品の場合には、パンフレット等の宣伝に力を入れたが、DVD用の被控訴人製品の場合には、
スーパーマルチセルシリーズの商品追加でもあり、費用のかかるパンフレット作成は行わず、サンプル品による営業等を中心に行ったためである(乙46〜48)。
オ なお、被控訴人は、原審において、販売当初の単価が営業秘密であるため乙30の注文書の単価・金額欄を墨塗りして提出していたが、控訴人が、墨塗りを理由に同書証の信用性も争うことから、墨塗りのないものを提出する(乙44)。
また、平成13年5月24日に、高千穂交易から送信された同注文書のFAX自体も、提出する(乙45)。
(2) 意匠法3条2項違反の無効主張について ア 控訴人は、平成12年3月のクボタセキュリティの内覧会にサンプル品が展示されていたはずがないと主張するが、乙32以外にも当時の図面が存在する(乙49の1、2)。また、被控訴人がクボタセキュリティより入手した平成12年2月当時のプライベートショーに関する社内文書(乙50)によれば、DVD用マルチセーファーの記載もあり、クボタセキュリティ及び株式会社クボタの社内製品仕様書(乙51)でも、平成12年3月7日付けで「MS-DVD」が追加されている。これらの事実からしても、同年3月初めの内覧会に、DVD用マルチセーファーであるクボタ製品が展示されていたことが裏づけられるものである。
イ また、控訴人は、Aなる人物の陳述書(甲15の1、以下「A陳述書」という。)を根拠に、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」が、2001年の製造であると主張し、乙37の信用性を争うが、同陳述書の内容は、明らかに虚偽であり、乙37の「LOT No.」から、2000年の商品であることは明白である(乙52)。
すなわち、クボタ製品のロット番号の6桁の意味は、左から「タイプ」、
「機種」、「レビジョン(改訂)」、「製造年(西暦の下1桁)」、「製造月」、
「製造日」であり、「製造月」について、1〜9月までは、1〜9の数字をそのまま用いるが、10月、11月、12月は、それぞれX、Y、Zで表示する。そして、「製造日」について、1〜9日までは、1〜9の数字を用い、10〜12は、X〜Zを用い、13〜31までは、A〜W(ただし、アルファベットのI、O、Q、
Vは、誤読の恐れがあるので除かれているとのことである。)を用いている。
したがって、乙37に記載される5月8日に出荷されたクボタ製品の「LOT No.」「2D1051」は、「22kHz」タイプの「DVD用」マルチセーファーで、改訂番号が「量産タイプ1」、製造年月日が、「2000年」、「5月」、「1日」を意味しているのである。
この点、A陳述書によれば、上記ロット番号中の「05」とは、5月を示すとされるが、一方で同陳述書では、日付けの方は、10日〜31日までは1文字で示せるようにアルファベットを使用しているとされる。しかし、文字数を可能な限り減らす工夫が通常なされるロット番号表示において、日付けを全て1文字で表示しておきながら、月のみを二桁使用して表示することは、それ自体が極めて不自然、不合理である。
そもそも控訴人は、原審終結間際において、検甲1を提出し、それが控訴人がクボタセキュリィティから購入した乙35、36の「セーファータグ」であるかのような主張をしたが、これが完全な虚偽であることは、乙42、43から明白である。
ウ 以上の事実からしても、平成12年3月の内覧会にクボタ製品のサンプルが展示され、その後同製品が販売され、同年5月には、控訴人自身がこれを購入していた事実は間違いなく、当該クボタ製品からは、本件意匠の創作が極めて容易といえるのである。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決の訂正 (1) 原判決13頁13行目、14頁22行目の「左面」を「右面」と改める。
(2) 同16頁22行目の「乙10ないし31」の次に、「,44ないし48」を加え、同17頁14行目の「金型比」を「金型費」と改める。
(3) 同19頁16行目の「高千穂交易株式会社」の次に、「,株式会社ハゴロモ,シグマ株式会社」を、同頁18行目の「乙29ないし31」の次に、「,44,45,47,48」を、それぞれ加える。
(4) 同20頁16行目の「32ないし41」の次に、「,42,43,49ないし52。乙49は,枝番を含む。」を加え、同18行目の「クボタセキュリティーは」から同20行目の「送付した。」までを、「クボタセキュリティーの製造委託先である日本システムハウス株式会社(以下「日本システムハウス」という。)は、平成12年1月7日、クボタ製品(型式MS-DVD。乙7)のボトムハウジング(黒色の下部部分)図面(乙49の1)及びトップハウジング(透明な上部部分)図面(乙49の2)を作成し、その後若干の変更を加え、同年2月17日に、
同製品の外形寸法図(乙32)を作成した。」と改める。
(5) 同21頁4行目の「(乙41)」を、「(乙41,52)並びにクボタセキュリティーのパンフレット(乙42)及び製品カタログ(乙43)」と改める。
2 当審における控訴人の主張 (1) 先使用の抗弁について ア 控訴人は、原判決が被控訴人に先使用による通常実施権を認める旨の判断の根拠とした乙10〜31について、これらの作成者のうち上海中崎電子は、資本関係、人的関係及び日常の業務関係において、被控訴人と極めて緊密な関係を有する企業であり(甲9〜11)、高千穂交易も、被控訴人製品の販売者として、また、同社の100パーセント出資子会社であるクボタセキュリティーを介して、被控訴人と密接な関係を有しており(甲9、12)、いずれも本件訴訟において第三者性が希薄であるから、これらの書証は信用性を欠くと主張する。
しかしながら、原判決認定(16頁24行目ないし19頁18行目)のとおり、被控訴人と上海中崎電子との間では、頻繁な設計図面と見積書等のやり取りを経て、被控訴人が金型の代金を送金し、上海中崎電子から被控訴人製品の送付を受けたことが明らかであり、また、高千穂交易についても、被控訴人が、他の6社の取引先と同様に、サンプル品として被控訴人製品を送付し、高千穂交易が同製品300個の発注を行ったことは明らかであるから、いずれについても各々の企業間において正常な取引行為が行われたものであって、特定の緊密な相互関係を有するような事情は認められない。以上のような正常な取引関係が存するにもかかわらず、わずかな人的関係等を理由に、上記の乙号証がすべて被控訴人側の内部文書であるとする控訴人会社代表者の陳述書(甲9)は、客観的な根拠の薄い憶測に基づくものであって、措信することができず、他に控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はないから、これを採用することはできない。
イ また、控訴人は、被控訴人が先に製造・販売していたCD用盗難防止ケースの透孔部の形状が単純な楕円形である(乙1〜4)にもかかわらず、DVD用の被控訴人製品に限って、本件意匠と酷似した形状の図面が作成されたことに訝しさがあると主張する。
しかしながら、被控訴人会社の従業員Bの陳述書(乙31、46、以下乙46を「B陳述書(3)」という。)によれば、CD用より寸法の大きいDVD用盗難防止ケースでは、材料代の削減及び重量軽減のために、従前より大きく孔部を確保する必要があり、また、デザイン的にも、透孔部を単なる楕円形状とすると間延びがした感じがすることから、L字型透孔部を採用したものと認められ、この陳述内容に不合理な点は存しないから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
ウ さらに、控訴人は、被控訴人の改訂価格表(甲13)によれば、被控訴人製品が新製品として発売されたことに伴う価格表改訂日は、平成13年8月1日とされるから、被控訴人製品の発売開始時期は、平成13年8月1日であって、同年5月24日の高千穂交易からの300個の受注や、同年7月以降の各社から大量注文という事実はあり得ないと主張する。
しかしながら、被控訴人が高千穂交易を含む取引先7社へ被控訴人製品のサンプル品を送付し、高千穂交易から同製品300個の注文を受けた事実が認定できることは、前示のとおりである上、B陳述書(3)(乙46)によれば、被控訴人では、平成13年5月ころ、スーパーマルチセルシリーズの追加製品として、DVD用盗難防止ケースである被控訴人製品につき個別に価格交渉をして販売を開始し、同年8月以降、顧客全般に対して価格改定表を配布して、上記シリーズ全体の販売を開始したものと認められ、同シリーズの販売製品すべてについての価格表が作成される前に、その中の新製品の一部が個別に顧客にサンプル品として送付・販売されることが不自然とはいえないことを考慮すれば、この陳述内容についても、
不合理な点は認められず、控訴人の上記主張も、採用することができない。
エ 控訴人は、被控訴人の他の商品について、パンフレット類で新製品として紹介されているのに(甲14、乙3)、被控訴人製品についてだけ同様の新製品販売促進資料が証拠提出されていないのは、極めて不自然であると主張する。
しかしながら、B陳述書(3)(乙46)によれば、被控訴人では、スーパーマルチセルシリーズの先駆けであったCD用製品の場合には、パンフレット等を作成してその宣伝活動を行ったが、DVD用の被控訴人製品の場合には、スーパーマルチセルシリーズの追加商品であったことなどから、費用のかかるパンフレット作成は行わず、サンプル品を送付して営業活動を行ったものと認められ、実際に、
被控訴人の取引先であるシグマ株式会社や株式会社ハゴロモがサンプル品の送付を受けていること(乙47、48)を考慮すれば、この点に関する同陳述書(3)の内容も信用性が高いものといえ、控訴人の主張を採用する余地はない。
オ なお、控訴人は、乙30の一部が被控訴人の営業上の必要性から墨塗りされていたことから、その証拠としての信用性が低い旨を主張していたが、新たに墨塗りのなされていない同一の書証(乙44)と、高千穂交易から送信された同注文書のFAX自体(乙45)が提出された以上、原判決認定(19頁15行目ないし18行目)のとおり、被控訴人からサンプル品の送付を受けた高千穂交易が、被控訴人製品300個の発注をしたことは明らかといわなければならない。
(2) 意匠法3条2項違反による無効主張について ア 控訴人は、乙32の「外形寸法図」が、単なる外形寸法の検討図面にすぎないから、平成12年2月中旬にこの程度の図面しか作られていなかったとしたら、その後に3か月程度の期間を要することは、業界の常識といえ、平成12年3月の内覧会にサンプル品を展示することが不可能であると主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、クボタセキュリティーの製造委託先である日本システムハウスは、平成12年2月17日に、クボタ製品(型式MS-DVD。乙7)の外形寸法図(乙32)を作成する以前、同年1月7日には、既に同製品のボトムハウジング(黒色の下部部分)図面(乙49の1)及びトップハウジング(透明な上部部分)図面(乙49の2)を作成しており、その後、上記外形寸法図の完成に至ったものと認められる。また、クボタセキュリティの平成12年2月25日付けの「2000年プライベートショー開催」のための社内文書(乙50)では、東京及び大阪会場でのプライベートショーにおいて、DVD用マルチセーファーが、「展示の目玉商品」「近日発売:4月1日」として記載されており、
さらに、平成12年3月7日付けのクボタセキュリティ及び株式会社クボタの「製品仕様書」(乙51)でも、同日付けで「MS-DVD」が出荷のための製品として追加されている。
以上の事実からも、原判決認定(20頁21行目ないし22行目)のとおり、クボタセキュリティーが、平成12年3月の東京及び大阪での内覧会に、クボタ製品のサンプル品を展示したことは明らかであり、これに反する控訴人の前記主張は、到底、採用することができない。
イ また、控訴人は、平成12年5月にクボタ製品800個が控訴人に販売されていない根拠として、乙37に表示されたクボタ製品の「LOT No.」が、
いずれも2001年(平成13年)の製造であることを示している(甲15の1、
2)と主張する。
しかしながら、クボタセキュリティーの取締役の証明書(乙52)によれば、クボタ製品の6桁のロット番号は、左から「タイプ」、「機種」、「レビジョン(改訂)」、「製造年(西暦の下1桁)」、「製造月」、「製造日」を意味し、
「製造月」について、1〜9月までは、1〜9の数字をそのまま用い、10月、11月、12月は、それぞれX、Y、Zで表示し、「製造日」について、1〜9日までは、1〜9の数字を用い、10〜12は、X〜Zを用い、13〜31までは、A〜W(ただし、アルファベットのI、O、Q、Vは、誤読の恐れがあるので除かれる。)を用いるものと認められる。そうすると、乙37に記載される5月8日に出荷されたクボタ製品「MS-DVD」の「LOT No.」「2D1051」について、「2」はタイプが「22kHz」、「D」は「DVD用」、「1」は改訂番号が「量産タイプ1」、「0」は製造年が「2000年」、「5」は製造月が「5月」、「1」は製造日が「1日」を、それぞれ意味することとなるから、当該ロット番号から、2000年5月1日に製造された、22kHzタイプのDVD用、改訂番号が量産タイプ1のマルチセーファーであるものと認められる。
上記認定に照らして、A陳述書(甲15の1)は、信用することができず、他に控訴人の上記主張を認めるに足る証拠はないから、これを採用することはできない。
したがって、原判決認定(20頁23行目ないし21頁5行目)のとおり、控訴人に対して、クボタセキュリティーの製造委託先である日本システムハウスから、クボタ製品800個が送付されたことは明らかといわなければならない。
ウ さらに、控訴人は、クボタセキュリティーの商品パンフレット(乙7)からは、透孔部の形状を確認することはできず、同社のCD用ケースの意匠から推定しても、透孔部の形状が最初から左右反転L字型だったと認める根拠はないと主張する。
しかしながら、前示のとおり、クボタセキュリティーの製造委託先である日本システムハウスが平成12年1月7日に作成したクボタ製品のトップハウジング(透明な上部部分)図面(乙49の2)及び同年2月17日に作成した外形寸法図(乙32)並びにクボタセキュリティーの代表者の証明書(乙8)などによれば、クボタ製品の透孔部の形状が左右反転L字型であることは明らかであるから、
控訴人の上記主張も、これを採用する余地はない。
3 以上のとおり、原判決が、被控訴人は、本件意匠権につき先使用による通常実施権を有する(意匠法29条)と認め、また、本件意匠が、意匠法3条2項に違反して登録されたものであり、当該意匠権は、無効事由(同法48条1項1号)を有することが明らかであるから、同意匠権に基づく権利行使が権利の濫用に当たり許されないと判断したことは、いずれも正当なことといわなければならない。
結論
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 上田卓哉